勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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魔王軍幹部、あと水着

 

 

 

 

 

『うん。ワタシはキミ達が自由に生きられる世界がいいと思う。だから、ワタシの夢の為にキミ達の力を貸して欲しい』

 

 

 それはただ燃やすだけの火に、仲間を護り敵を討つ理由を与えた。

 それは愛すら融かす魔眼に、ただ真っ直ぐと見返すことで応えた。

 それは渇ききった愛を知らぬ手に、慈愛を以て潤いとした。

 それは誰もが望む幻影に対して、自らの作り出す現実を示した。

 それは誰も辿り着けぬ迷宮を、ただひたすらに歩いて破り箱入り娘を引きずり出した。

 それは回り続ける掴みどころのない影を、ただその手で掴んだ。

 それは暖かさを知らぬ火に、灯火としての在り方を教えた。

 

 

 それは、それは、それは。騙し傷付けることしか知らなかった悪魔達の手に、護り、鍛え、共に戦う方法を教えた。

 本来は肩を並べることの有り得なかった7体の凶悪な魔族。それらを束ねた1体の魔族がいた。

 

 ──────その名は『魔王』。

 その時代最強の魔族に授けられる異名()

 

 

 

 

 

 

 

 

『ワタシはキミのその貪欲さを肯定する。ワタシが世界を支配した暁には……そうだね。世界の半分をキミに上げるよ。どうだい?』

 

「あ、なるなる。なります魔王軍幹部」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルティオ達との戦いから早1ヶ月。

 俺の体もだいぶ調子が戻り、リスカも調子が戻りなんやかんやでホシの機嫌が戻ってくれて俺の追放も有耶無耶になって来ていた頃合。

 

 

「皆様、妾の故郷に1度行きませんか?」

 

 

 ギロンが突然、そんな事を口にした。

 彼女の故郷、人間領の最南部に位置する独自の文化を形成するニハオイ国。さすがに俺でも行ったことは無いが知っている程度には有名な国だ。行きたいか行きたくないかで言えば、正直行きたい。

 

「はぁ? 何言ってんの。ベルティオが倒された今、魔王軍も焦って攻めに躍起になるでしょ。ここは前線に戻って防衛戦に力を入れるべきでしょ」

 

 苛立ちを隠さずに鞘を指で一定のリズムで叩きながらリスカがそう唱える。残念ながら今回は100%正論だ。ベルティオは魔王軍の幹部の中でもトップクラスに危険な存在。それが倒されたとなれば、魔王軍とて今までの余裕な態度に陰りが見え始める。何をしてくるか分からない以上は前線に戻りいつでも対処可能なように準備しておくべきだろう。

 

「確かに常に戦いに身を置き気を引き締めるのも良い事ですが、人間の集中力はそうそう常に続くものじゃありませんわ」

 

「いや、続くでしょ」

 

「今は人間の話をしてるので黙っててくださるリスカさん?」

 

 かなり酷い罵倒を聞いた気がしたが、その意味にリスカが特に気がついていないようで胸を撫で下ろす。こういう時、リスカの察しの悪さに助かったと思わなくもない。

 

「確かに。ここ最近ベルティオのとこの残党がいないかで気を張っていましたし、少しくらい休暇を取ってもいいと神も言っていますね」

 

「私も、ここらで一発どデカい休憩が欲しい。賛成」

 

「発案者である妾が賛成でないはずはないので、これでリスカと彼が反対しても3対2で可決ですわね」

 

「えー……いや、別にいいけど、アンタ達本当にそれでいいと思ってんの?」

 

「何もただ遊びに行くだけではありませんわよ。これからの戦いに備えて、我が国の宝物庫から良さそうな武器を物色……元い、借りに行くのですわ。特に、リスカさんはすぐに剣をダメにしますので」

 

「別に私は剣とかなくても戦えるし……まぁ、タダでもらえるなら行かない理由はないけど」

 

 ……なんだか唐突な気もしなくもないが、ギロンの言っていることにも一理ある。それに、戦力的に足でまといの俺がここで口にするようなこともないだろう。特にホシは最近少し疲労が溜まっていたようにも見えたし、息抜きは必要かもしれない。

 

 

「ちなみに我が国の魅力と言ったらやはり海だと思うので、水着を用意しておいて下さいね皆様」

 

「やっぱ私行かない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギロン・アプスブリ・イニャスは生まれついて特別な子どもであった。

 ニハオイ国の第二王女として生まれた彼女は、それはそれは周囲の人間から可愛がられて育った。既に7歳年上の第一王女が『祝福』を授かって生まれ、その幼さで優れた才覚の片鱗を見せ始めていたが、王位の継承への安心感からか逆に皆ギロンを珠のように大切に、可愛がって育てた。

 

 それだけならば、彼女は恵まれている子どもで終わりだった。

 だが、彼女は『特別』だった。生まれた時から、全てを与えられていた。

 

 

 

 彼女は『祝福』を宿していた。

 通常、『祝福』は血筋による遺伝はしないとされて、それを示すように姉と彼女の祝福は全く似ていない効果であったが、まさか姉妹揃って祝福を授かって生まれるなんて自体、人類の歴史から見ても初めての事例かもしれないような奇跡であった。

 

 故に、ギロン・アプスブリ・イニャスは愛された。

 彼女は全てを持っていた。富も、名誉も、力も。それでいて彼女は謙虚だった。どんな時でも研鑽を怠らず、学問、武術、帝王学、全てに勤勉に取り組んだ。自分の事よりも常に他人の事を考えて動き、誰に対しても慈愛を持って接した。

 

 天は彼女に全てを与え、天から与えられた恩恵を彼女は世の為人の為に使う。

 まさに理想、まさに聖人。彼女の事を知る人物で彼女の事を悪くいう人物はいない。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そういう人は現実がよく見えてないと思いますわね。

 

 

 

 

 

 妾が他人の為に動く? 

 はぁ、そうだったんですか。()()()()()()()()。だって、自分から他人の為に動いた記憶が1片もありませんからね。

 

 慈愛? 謙虚? 

 何を馬鹿な。ギロン・アプスブリ・イニャスは自分よりも他人を愛さず、貪欲な生き物を知らない。

 

 誰かに優しくするのは自分を高めるため。そうすることで、社会的な自分の評価が上がる。

 王族としての身分をひけらかさないのは、そんな身分に最初から当てはめられては本当の自分の価値が王族なんて言うくすんだ金色の称号で隠れてしまうから。

 

 天が全てを自分に与えた? 

 

 

 

 ……()()()()()! 

 

 

 

 そんなつまらないこと、認めてたまるものか。

 本当に全てを与えたというのならば、この渇きは一体なんなんだ。

 

 自分ができなかったことができるようになる度に、知らなかったことを知る度に、自らを尊敬する者が増える度に、満たされていくこの気持ちをなんと言う。妾が完璧でないからこそ、与えられる最高の満足。

 与えられるものじゃない、自らの力で勝ち取ったもののみがギロンの心を満たしてくれる。

 

 この感覚こそギロン・アプスブリ・イニャスの全て。成長し、暴食し、相手を征服した時の快感こそ生きている証。

 でもこの国では限界がある。この国は、ギロンの貪欲を収めるには狭すぎる。はしたなく、皿の隅から隅まで舐めとってもまだまだ足りない。こんなものじゃ、ギロンは満足出来ない。こんな自分の力で全てが手に入ってしまう世界なんて、つまらない。

 

 もっと理解のできないモノを。

 もっと強い相手を。

 もっと不可能を。

 

 そして、それを征服したときの快感を。

 

 

 

 

 

『うーん……ワタシはその貪欲に共感は出来ないけど理解は出来るよ。確かに自分の力で何かを手に入れるのは素晴らしい達成感をくれるよね』

 

 だからだろうか。

 国を抜け出して野山で盗賊や魔族を拳一つで殴り殺していた時に話しかけてきた『魔王』とやらの話に耳を傾けたのは、そこに未知が待っているような気がしたのだ。

 

『ワタシは世界を支配しようと思う。世界、そう世界征服。もしもそれが叶ったら世界の半分をキミにあげよう。この広い世界、まだまだキミの知らないことは沢山あると思う。だから、協力してくれないかい?』

 

 ……世界の半分、()()? 

 

『もちろん、ことが全て終わったらもう半分を賭けてワタシに挑めばいい。言っておくけど、ワタシは強いよ?』

 

 思考を読んできたかのような言葉に、自分の心が目の前の少女の姿をした魔族に踊らされていることがすぐにわかった。

 

 その上で、ギロンはその提案に乗ったのだ。

 

 

『うん……よろしくギロン。ワタシは『魔王』。キミのその貪欲が世界の全てを呑み込む時まで、キミを肯定し続けるモノだ』

 

 

 こうして、ギロン・アプスブリ・イニャスは魔王軍幹部になった。

 

 

 

 

 

 

 

 それからの毎日は、そこそこ楽しかった。

 ギロンは人類の裏切り者。大手振って軍を率いて街を潰すなんてことは出来ないため、魔王がリストアップした強い人間を一人一人潰していくのが彼女の仕事になった。

 ちゃんと魔王軍を名乗って、自分が人間だとバレないように全身を鎧で包み、幹部として人類の戦力を削っていった。

 

 強者を潰していくのは楽しかった。

 見た事のない剣技、見た事のない魔術、見た事のない祝福。その全てをギロンは自らの力で真正面から磨り潰し、最後は決まって相手に馬乗りになって命乞いを聞きながらその頭を殴り潰した。

 

 強者を食み、更に強く。

 命乞いは祝祭の音色のように彼女の中に解けていく。拳に残る肉の感触が乾いた心を満たしてくれる。

 

 

「──────いただきます♡」

 

 

 いつしかギロンは、屍肉を食らうようになっていた。

 魔王の言葉、あれはいけない。あれは麻薬だ。心に入り込み、箍を外して心を自由にする。人食というギロンが培ってきた理性の全てが否定する行為を、檻から出された本能の全てが歓喜していた。

 

 強者を自分の一部にする。

 持っていなかったものを手に入れる。満たされなかった喉の乾き、腹の乾きが満たされる。これこそが自分の求めていたものだと心の底から思えてしまう。

 

 こんな最悪最低な自分を周囲の人間は素晴らしい人間として崇めたてる。姉すらもきっと自分を自慢の妹だと思っているのだろう。全くその通りだ。表面上はそうなるように演じてきた。だって誰かに認められるのは気持ちが良いし。

 そうして積み上げてきた信頼すら、既に背徳のコクを深めるスパイスにしかならなかった。

 

 既に聖女は血に堕ちた。

 そこに居たのは全てを与えられた娘などではなく、全てを捨てて底の抜けた欲望の腹を満たそうとする貪欲の獣。

 

 

 

 

 …………そのはずだったん、ですけどね。

 魔王様の言う通り、世の中には、広い世界にはまだまだ妾の知らないことがあったのでした。

 

 

 

 

 

 その日殴り殺した人間の戦士はとても強かったのを覚えていた。

 頭に一撃、脳が飛び散るような一撃を受けてもまだ立っていました。妻だの子だの叫びながら振るってくる剣の気迫は凄まじく、今となってはもう分からないことだが恐らく祝福を持っていたのか、ギロンの本気の防御すら断ち切ってかなりの手傷を負わせてきた。

 

 最後はいつも通り、手足をもいでから馬乗りになって殴り殺したが、その時も命乞い何てものはせずただ誰かの名前を呟いていた。

 

「……妻、子、家族」

 

 ギロンには姉が1人、母は既になくなっていて父が1人いる。

 だが、あの戦士が口にしていた家族とは些か違う。姉も父も、産まれる前から存在していたギロンが手にしたものでは無い。だから、きっとそれは違う。

 

 そういえば、自分は誰かを好きになったことがないことに気がついた。

 

 沢山告白されてきたが、自分より弱い相手なんて興味はないし、父も姉も大好きであるが、きっとそれはあの戦士が持っていた気持ちと違う。

 

 

 愛するモノ。

 それが自分に無くて、あの戦士にあったもの。

 

 

 また自分は一つ強くなれると確信し笑いながら、ギロンはその場に倒れた。

 体が重い。出血自体は自らの『祝福』で止めることが出来たが、ギロンの祝福は傷を治す類のものではない。純粋に傷が深い。なんとか人目がつかない場所まで歩いてきたが、それも限界。果たして次目を覚ますことができるかどうか分からないが、もしも目を覚ますことが出来たならば、番を探してみよう。

 

 

 そう思いながら、ギロン・アプスブリ・イニャスは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は、最初にギロンの故郷に行く事を提案したのはギロン本人ではなく、ホシであった。

 

 

「最近、リスカの精神状態がかなり危ういです」

 

「逆にリスカの精神が落ち着いてる時っていつ?」

 

「常に半錯乱状態だと思いますわね」

 

「常に半錯乱状態ですが、このままじゃ錯乱するんですよいいから話聞け」

 

 

 ホシ、スーイ、ギロンは3人とも自分達の強さを理解している。

 その上で、リスカ・カットバーンは決して失ってはならない戦力であることも理解している。彼女の危うい精神状態には、人類の存亡がかかっているのだ。

 

「リスカの精神管理担当として、私は何か彼女の精神を安定させるイベントが必要だと考えました。……その名も、『水辺でイチャコラ大作戦』です」

 

 あとついでにホシ以外の2人はホシのネーミングセンスが割と最悪な部類であることも理解している。なので作戦名について何か口にしたりはしなかったが、スーイは耐えきれずにちょっと吹き出した。

 

「ギロンの故郷、ニハオイ国と言ったら綺麗な海が有名です。なので、その自然パワーでリスカの精神をいい感じにセラピーするというのが今回の作戦です。異議はありますか?」

 

「はーい、具体性が無さすぎだと思う」

 

「そうですわね。せめて具体的な作戦内容が欲しいですわ」

 

「そもそも私、貴方達2人と違って文字すら最近覚えたばかりなんですよ。良い師匠持ち(こうがくれき)王族(こうがくれき)二千年埋葬(ていがくれき)を虐めるのやめてもらえませんか?」

 

 そうは言ってもスーイもギロンもリスカの脆くてか弱い精神の機微に気がつけるほど人の心がある訳では無いので、残念ながらこの役割はホシが担当するしかないのである。

 

「ま、冗談はさておき悪くないと思うよ。リスカの面倒を見るのも私達の仕事だしね」

 

「困った人ですが、彼女が最大戦力なのも事実。ここは一肌脱ぎましょう」

 

「はい。皆さん頼みますよ。……あの子に、少しくらい楽しい思い出を作ってあげてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((海かぁ……どんな水着着ていこう)))

 

 

 

 

 

 

 3人とも、リスカのことはそれなりに大切に思ってるし、彼女の精神状態にはとてつもなく気をつかっている。

 それはそれとして、だ。3人とも自分の容姿の良さと三者三様な魅力的な肉体についてはかなり自覚的である。

 

 そして今更隠せているつもりがある者はいないが、この3人は全員『彼』を理由にこのパーティに在籍している。ともなれば、意中の異性への最高のアピールチャンスである『水着』チャンスをみすみす見逃すわけが無い。

 

 

 ──────既に戦いは始まっている。

 如何にしてライバルを蹴落とし、相手を楽しませ、自らの魅力を示すか。

 

 

(やはり私の体型ならば可愛らしさを……いや、あえて大人っぽさを出すことでギャップを……この際多少胸を盛るか? いや。それはプライドが許せない)

 

 

(肉付きでは私は誰にも勝てない。飛行に特化した合理的な流線美で別方向からアプローチをするべきか?)

 

 

(まぁ妾が一番可愛いし美しいので何も心配はありませんわね。背も一番高いですし)

 

 

 

 

 渚の勝負は、開幕のゴング無しに問答無用で始まっているのだ。

 

 

 







・ホシ
リスカの精神状態管理係。というか自分以外そういうことが出来ないと仕方なくやっている。
一見幼そうに見えるが、メリハリのある体つきにそれなりに自信がある。サイズ可変であるが、普段の体にプライドがある。

・スーイ
一般的に男性がふくよかな女性に惹かれることを承知の上で、自分の無駄を極限まで削ぎ落とした肉体の美しさに自信がある。

・ギロン
実は王女様にして魔王軍幹部。
鍛え上げた自分の肉体が一番美しいと思っている。欲しいものは全て自分の力で掴み取る貪欲ガール。与えられたモノはそこまで好きじゃない。



・リスカ
観光地に行ったら景色とかよりもずっとだらけてたいタイプ。自分が嫌い。

・従者くん
普通に人並みに性欲があるのでパーティの仲間が全員女性である故に結構悩んでることがある。



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