勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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布一枚、無限

 

 

 

 

 

 

 

「なんでみんな荷物がなんか増えてるんだ?」

 

 

 基本的に俺達は一つのところに長期間滞在するなんてことは怪我でもして治療している間くらいで、常に移動している状態だ。なので荷物はあまり持ち歩かずに最低限の装備と身一つ、これに加えて俺以外みんな魔術を使えるので旅の途中で困ったりするようなことはあまりない。

 

 なのに、なんかリスカ以外のみんなの荷物がやたら多い気がする。

 

 特にスーイなんか自分の体より巨大な荷物を背負っている気がする。いつも身一つでどこかに行き、身一つで帰ってくる彼女とは思えない。

 

「女の子には色々秘密があるんですよ☆」

 

 ホシはそう言ってるが、そう言われると男の俺としてはなんか、こう、詮索しにくいというか。なんでそんな大荷物なのかめちゃくちゃ気になるけど、これ以上深く聞くのはやめておこう。

 

「とりあえずさっさと転移用の魔法陣が設置されている場所に行きましょう。この街からならそう遠くない場所にありますから、さっさと行きましょう」

 

「…………え、転移用魔法陣?」

 

 街を去る前に相棒とかにお礼をしておきたかったが、見つからなかったんだよなぁ。まぁ、お互い生きていればまた会うこともあるだろう。

 

 なんて考えてたら、何故か急にスーイの顔が青ざめていた。その青色の髪の毛と同じくらい顔が青くなっている。

 

「そうですわよ? 転移用魔法陣。まさか、魔術師であるスーイさんが知らない訳ありませんわよね? そもそも、普通に歩いてったら大陸南端のニハオイ国まで行くなんてクッソ時間かかりましてよ?」

 

「え、あー……そっか、あの距離って人間的に遠いのかぁ……。飛んだら一瞬なんだけどな、やべ、どうしよ」

 

「……あらあら? あらあらあらあら? 何か問題があるんですかスーイ? 転移用魔法陣だとなにか不都合でも?」

 

 転移用魔法陣……あんまり思い出したくないけど、勇者の選抜の時に王都に行く為に一度使ったことがあったな。

 予め設定されている対になる魔法陣のあるところまで一瞬で移動できるけど、対になる魔法陣側からの了承や、一度に人数は4人までで時間を置かないと再使用不能とか、軍事的なあれこれで転移できるのは()()()()()()だけだったりとか、結構審査もめんどくさかった記憶がある。でもそういう制約がないと魔族に使われたら大変だし、仕方ないのだろう。

 

「まぁ? 人間以外の生き物が転移用魔法陣を使うことなんてないですし、あったら困ることの方が多いから大した問題になりませんよね、スーイ?」

 

 さっきから何故かホシがめちゃくちゃ良い笑顔でスーイに転移用魔法陣の仕様について説明しているのはなんなんだろう。魔術師であるスーイがこの仕様を知らないわけがないと思うのだが。

 

「……ごめん。用事思い出した。ちょっと片付けてからすぐ追いつくから」

 

「え、何かあったなら俺も手伝うぞ。力になれるか分からないけど」

 

「大丈夫。私一人の方がすぐに終わるから。先行ってて」

 

「いいから。先に行け。マジで……クソ死体女、嵌めやがったな

 

「へへーん、私を流星アタックでクレーターにした方が悪いんですよ」

 

 何か小さな声でスーイとホシが会話をした気がしたが、小さ過ぎてよく聞こえなかった。でも、スーイはいつもふらっと居なくなってふらっと姿を現してるし、今回も大丈夫だろうと信じて待つのが良いだろう。

 ……変に詮索したらまた裸を見たとか冤罪にかけられても嫌だし。一応年頃の男子としては、女子相手にああいうことされるのマジで傷つくんだよなぁ……。

 

「まぁスーイが唐突なのはいつもの事。善は急げとも言いますし、早く出発致しましょう」

 

「そうですねー。いやぁ、私もニハオイ国は初めてですからどんなお酒があるのか楽しみですよ」

 

 神官として100%間違っている楽しみを見出しているホシと、なんだかんだで故郷に皆を招待するというイベントにはしゃいでいるように見えるギロン。そんな可愛らしい2人の笑顔に目を取られて、俺は見えていなかった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 このパーティのリーダーであるリスカが、ここまで一言も喋らずにひたすら鋭い目付きで無言の抗議を続けていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニハオイ国と言ったら、青い空と光り輝く太陽だろう。

 大陸の南端に位置するこの国は、1年を通して非常に暖かな気候であり、そのせいか何から何まで色々とデカい。

 

 ギロンと初めて出会った時も、真っ先に思ったことは『デカい』だった。いや、初めて会った時ギロンはフルアーマーだったからね? 普通に身長もデカいし、ムキムキ過ぎて自分が情けなくなるくらいにギロンはデカい。

 そんなことを思い出しながら、俺は照りつける太陽によって熱された砂にしりが焼かれないように一枚布を敷き、そこにパラソルを刺して固定してから座り込む。女性陣の皆さんは俺より着替えに当然ながら時間がかかるのでこうして待ちぼうけすることになった。

 

 魔王の居座る『魔王城』から最も遠い位置にある国とはいえ、ここまで雰囲気が違うものかと驚いてもいた。

 

 俺が旅してきたり、リスカ達と共に訪れた場所はどこもかしこも常に戦いといった感じで、こんな穏やかな時が流れている場所はなかった。こんな場所に俺がいていいのかとも思わなくもないが、たまにはこうして息抜きをすることも必要……なのか? 

 

 それはそれとして、ただこうして綺麗な海を眺めているだけでも心が癒される。

 リスカも来ればよかったのに、と思ったが無理に連れてきてもリスカの休息にはならないだろう。

 

『私部屋で寝てるから、ホシとギロンに伝えといて。なんかあの2人さっさと海の方行っちゃったから……私も来ないかって? 行かないわよ。海とか、好きじゃないし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ホシさん、その水着はどうなんですの? 少し、泳ぎづらくなくて?」

 

「何言ってるんですか。そっちこそ布地が大胸筋で悲鳴をあげてますよ。包帯でも巻いた方がまだ固定できますよ?」

 

 選び抜いた勝負服(水着)を身に纏い、ギロンとホシは完全に戦闘態勢になっていたが、だと言うのに2人は遠くで海を見つめている『彼』に近づけないでいた。

 

 至極単純、水着に着替えて鏡で確認して見たらちょっと恥ずかしくなってきたのだ。

 本当にこれで大丈夫か、変な姿だと思われないか、ちゃんと人間に擬態できてるか、一応2人とも女の子なので気になっているのだ。

 

 ここは先に出て、一番手として大きな印象を植え付けることこそが勝利への近道であることを頭では理解しながらも、怪物な自尊心と乙女な羞恥心が鬩ぎ合い足が動かなくなる。普段ならば一息で詰められる距離に、無限を感じてしまう。

 

「……ほら、早く行ったらどうです? その隠すつもりがあるのかないのか分からない脂肪と筋肉の盛り合わせの肉体を遠慮なく、見せつけに行っては?」

 

「妾は常に最善、最高のタイミングを狙っておりまして。目の前の獲物に夢中で噛み付く駄犬と同じにしないでくださる?」

 

 両者完全に沈黙。

 だが、先に動いたのはホシだった。彼女には既に一度裸を見られたというアドバンテージと、永き時を生きてきたメンタルがあった。その小さな差が、この勝負の勝敗を分けた……かに思えた。

 

 

 

 ……()()()()

 

 

 

 足が地面に縫い付けられたかのように、動かない。辛うじて動くのは口だけであり、それが何を意味するのかホットシート・イェローマムはすぐに気がついた。

 

 

「……ギロン、貴方『祝福』をこんなくだらない事に!?」

 

「くだらなくて結構。他者の足を引っ張るのは流儀ではありませんが、それで妾の敗北が無くなるならば喜んで地の果てまで引っ張って差し上げてよ!」

 

 

 ギロンの祝福は拘束に特化した祝福。

 幾らその実態が屍肉とすら呼べない『ナニカ』に成り果てているホシであろうとも、肩を完全に()()()()()()()()はもう動くことが出来ない。

 だが、ギロンの方も覚悟が全く決まらず動くことは出来ず、両者は完全な膠着状態に陥り、『彼』はいつまで経っても待ち人が来ないまま既に1時間ほど海を眺め続けていた。

 

 

 そんな『彼』を遠目に見つめていた2人は、そこであることに気がついた。

 

 

 

 

「あれ、リスカさんは……?」

 

「は? リスカなら彼と一緒に居るんですから……あ!?」

 

 

 

 

 居ない。

 建前とはいえ、そもそも今回の主目的はリスカの精神安定だ。リスカにとって『彼』がどれほど重要なのかなんて、語るまでもない。だからこそ、リスカが落ち着ける時間を用意するために今回ここまで来たのだ。

 

 そのリスカが居ない。

 ギロンはすぐさまホシの拘束を解除し、ホシは肉体の一部を鳥に変化させて空へと飛ばす。自分達が取っている宿のリスカの部屋に……彼女の姿はない! 

 

 すぐさま最強の機動力を持つスーイに通信を行おうとしたが、何故か彼女の反応が完全に途絶している。まずい、ホシの既に汗腺というものが存在しない肉体でも、生きていたら冷や汗をかいていたであろうくらいまずい。

 

「ギロン、リスカが行きそうなところは?」

 

「皆目見当もつきませんわ。そもそもあの方、人間的な趣味の類が残っていると思えませんし」

 

 全くもってその通りではあるが、言い方は考えてもらいたいとちょっと舌打ち。

 リスカは基本的に起きている時は戦っているか、幻覚に魘されているか、イラついているか、ぼーっとしているかなので彼女がふらっと消えた時にどこに行くかなんてホシですら想像がつかない。

 

「魔力探知は?」

 

「あの子、『切断』で無意識にそういう魔術による干渉をぶった斬るので無理です。足で探す他ありません」

 

「仕方ありませんわね。ここは一時休戦ですわ!」

 

 そうしてホシとギロンは水着のままでリスカを探すために駆け出した。

 

 

 こうして、『彼』は照りつける太陽の中で更に数時間放置されることが決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し、時間を遡り上空。

 スーイ・コメーテストは寝過ごした為に最高速度で飛行していた。

 

 彼女の速度ならばすぐ着くことは出来たが、さすがにすぐに追いついたら変だと思い一眠りしてから行こうと思ったらだいぶ寝過ごしていたのだ。

 

 このままではホシやギロンに先手を取られると思い、全速力で翼に力を込めてニハオイ国へと向かっていた。

 

 

 

「──────狙撃ッ!? 私を!?」

 

 

 

 遠くから放たれた魔術による狙撃が彼女の翼を掠める。

 雲の上を超高速で飛ぶスーイを魔術で狙撃するなぞ、普通の相手ならばまず出来ることでは無い。

 

 そう、普通の相手ならば。

 

 最低でも魔王軍の実力者。あまり考えたくはないが、幹部クラスからの攻撃と考えるのが妥当だろう。

 

 ならば、とスーイは翼に力を込めて飛行を再開。狙われないくらいの速度で、狙えないくらいの曲芸飛行で空を舞う。

 何も速度だけが自らの持ち味ではない。最高速度を維持したまま急旋回、停止が可能な精密性も空の王者たる精霊特権、『骸天苅地(エスパシオ・ネゴ)』の特徴だ。

 

 さっさと狙撃ポイントを特定して、面倒くさいので最高速度で突撃して瞬殺。それが最善策。わざわざ自分の魔術を使ってやるまでもない。

 

 

 

 

 その考えが甘かったことに、彼女は()()()()()()()で翼が貫かれてようやく気がついた。

 

 

 

 

 一撃目で大体の位置はわかっていた。だから、場所を確定させる為にわざと見せた隙。

 

 そんなことを考えてしまうような心の隙を、不可視の狙撃手は遠慮なく貫いてきたのだ。

 もちろん、スーイの翼は狙撃の一発で破壊されるような代物ではない。だが、直撃すれば流石に軌道がぶれる、一瞬であるが制御がぶれる。

 

「っ、やば──────」

 

 全て別の方向から、スーイの喉と胸、両手足と翼の付け根が狙撃される。

 相手は複数人? いや、この精度の狙撃を行える相手が複数人居るとは考えたくない。だが、事実として多方向からの狙撃によりスーイは撃墜された。

 

 

「あー……クソやばい。幹部が出張ってきたかぁ……」

 

 

 自分が狙われたということは、恐らくこちらの動向が何らかの手段で筒抜けになっている。

 そのことをホシに伝えたかったが、残念ながらそんなに余裕はなかった。

 

 

 

 今度もまた、スーイの意識の完全に外からの狙撃が彼女の頭を貫き、力の抜けた体はそのまま地面へと落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、私。空飛ぶ精霊(エルフ)は潰した。……うん、わかった。じゃあ私は魔王様の身辺警護に戻る。……確認? 私の腕を疑うの? それじゃせいぜいアンタが元カノにミンチにされない事を祈ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギロン・アプスブリ・イニャスに人生初の敗北を与えたのは、『魔王』と名乗る魔族であった。

 

 

『どうする? まだやるってなら、ワタシはキミに一生消えない傷を刻んで、力の差をわかってもらうけど?』

 

 

 立つことすらできない。

 こんなに強い相手がこの世界にいるなんて。

 

 

 ……こんなに強い相手をこの手でぶち殺して喰い殺したら、どれだけ楽しいんだろうか。

 

 

『……少し、痛い目を見た方が良さそうだね。ギロンは』

 

 

 魔王の手が振り下ろされる。

 小さな少女の手が振り下ろされると同時に、その視線の先にあった地面に巨大なクレーターが出来た。

 

 

『……はぁ、グレイリア。今ワタシはギロンに説教してるのが分からない?』

 

『何言ってんだよ魔王様! こんないい女があんたみたいな貧相な体に説教されても響くわけねぇだろ?』

 

『ぶっ殺すよ?』

 

 気がつけば、先程まで地面に転がっていた自分の体が知らない男型の魔族の手の中にあった。

 何らかの『異能』による位置の入れ替え、瞬間移動の類、或いは引き寄せか。既に朦朧とした意識の中で辛うじてギロンの思考が弾き出した答えはそれだけだった。

 

『自己紹介がまだだったな。俺はアンタの同僚、魔王軍幹部の『回刃』グレイリア様だ。よろしくな、ギロン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感動の再会、サプライズに仲間の首は喜んでくれるかな、ギロン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 









水着・オアズケ




・ホシ
非生物。リスカのママ。

・ギロン
人間。リスカのお母さん

・スーイ
非生物でも人間でもない。リスカの母親。撃墜済み。

・リスカ
人間。どこに行ったか分からない赤ちゃん。帰ってきた時基本的に一文無しになってる。



・従者くん
多分人間。みんなの水着にちょっとドキドキして期待しているが、誰も来なくておかしいなぁと思い始めてる。




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  • リスカ
  • ホシ
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