勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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虚の獣、愛の咆哮

 

 

 

 

 

 

 お互いに決定打のない戦いというものは当然ながら長引く。

 

 例えば、あらゆる物質を切断する『切断』のリスカ・カットバーンとあらゆる物質を分解する『白手渇裁(イノセンスバグ)』のベルティオの戦いであれば、互いの一撃が致命傷になり得る上に、互いの攻撃の基本が接近戦であるが故に、その戦いは一瞬で決着がついた。

 

 

「おいおい! そんなに俺の攻撃(アプローチ)は嫌か? 一つくらいまともに受けてくれてもいいんだぜ?」

 

「贈り物は相手の事を考えて送るものでしてよ? 自分を誇示したいのならば、壁にでもぶつけた方がまだ生産的ですわ」

 

 

 遠距離からの投擲と魔術をメインにして、『異能』による瞬間移動と併せて戦うグレイリアと、投擲物も魔術も肌に触れた瞬間に停止させてしまうが、自由に飛び回る相手を捕まえられないギロンではあまりにもお互いに相性が悪い。

 

 だが、長く戦えばさすがに相手の『祝福』/『異能』の正体が見えてくる。基本的に、そのような戦闘では先に相手の能力の本質を見抜くことが勝利へと繋がる。

 どのような場面でも、『理解』することは必ず次の段階へと繋がるのだ。たとえそれが知ってはいけない、知らない方が幸せなことであったとしても。

 

「貴方の能力、どうやら視界内のある程度同じ大きさの二つの物質を入れ替えることが発動条件かしら? しかも、『視界内』の部分が最重要で、()()()()()()()()()()()()()()

 

 グレイリアの八目の内一つが閉じられ、同時にギロンの視界がぶれる。先程まで自身が立っていた場所にはギロンの背丈よりも巨大な木が置かれていた。

 

「『視界内』で『ある程度同じ大きさ』なら手元の小石と山すら入れ替えられる。魔王軍幹部らしい、強引な能力ですわ」

 

「そういうお前こそある程度わかってきたぞ。火だろうが刃だろうがお前に触れた瞬間静止する。炎は消えずに、お前の肌を焼くことなくその場に残り続ける。……触れた物質を強制的に『静止』させるのがお前の能力ってところか?」

 

 互いに互いの慧眼を褒め称えるが、それを口に出したりはしない。

 互いに互いが魔王と呼ばれる最強の魔族に選ばれた最強の戦士であることは知っている。

 

 だから油断出来ない。まだ何か隠している可能性を、ブラフを仕込んでいる可能性を。

 

 

 

 ギロンは最初から可能な限り相手の視界内に入らないようにしていた。

 最初から、相手の能力にある程度予想をつけて動いていたからだ。グレイリアも同じく、ギロンの能力にある程度予想をつけて動いていた。

 

 お互いに相手の能力に対して確信を得た瞬間に、攻勢に出るための準備をしていた。

 

 そして、先に動いたのは──────。

 

 

 

 

「前に、触れることが条件の『祝福』を持ってたやつと戦ったことがあってな。そいつは、腹ん中にまで『触れる』って認識がなかったのか内側からぶっ壊したら簡単に死んじまったんだよな」

 

 

 そう呟いて、グレイリアは何かをギロンへと投げつけた。

 何度か投げつけられていたそれが、遠隔操作で爆発を引き起こす小型の魔術道具。手先が器用で小手先の技が好きなグレイリアらしい、撹乱用の道具であるが、何が仕込まれているかは分からない。確実に避けるためにギロンはしっかりとそれを『見た』。

 

 

 見てしまった。

 

 

 両の眼を大きく見開いて、投げられたその魔術道具とその先にいるグレイリアを()()()()()()

 

 

「──────相変わらず、嫌になるくらい綺麗な瞳だぜ。さぁ切り替えていけ、空空縛縛(イミ・テンション)

 

 

 左眼に激痛。

 視界が若干狭くなると共に、眼窩に何か異物が入り込んだ。ちょうど、眼球と同じくらいの大きさのその異物が、体内によく響く音でカチリ、と鳴った。

 

 

 熱と光と爆音が、体内で発生する生まれて初めての感覚。

 取るに足らない、小さな炸裂が岩山の如きギロンの肉体を呆気なく地に伏せさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギロン様? どうかいたしましたか? まだ、本調子ではないのですか?」

 

 魔族の言葉が耳に入ってこない。

 

 手に入らない、愛が、恋が、もう手に入るものでは無い。それがなんなのか理解する為に大切な何かを、自分が捨ててしまっていたことに気がついた時、全身からするりと力が抜けてしまった。

 

 この世の全てを手に入れたいのに、それがもうどうやっても叶わないなんて、じゃあどうすればいいのだろうか。

 意義が失われ、理由を見失い、価値を喪失する。ギロン・アプスブリ・イニャスの何かが死ぬ。

 

「──────」

 

 誰かの声が聞こえるけど聞こえない。

 脳が内側から崩れていくように、景色が、音が、何もかもが崩れていく。美味しそうな死体が…………視界にはなかった。

 

 

「……ガッ!?」

 

「がら空きなんだよ。油断しすぎだろ」

 

 

 目の前にいた魔族が、死んだ。

 背後から剣で貫かれて腸を零しながら倒れ、その首に剣を突き立てられて確実に、念入りに殺された。

 

「くっそいてぇ……大丈夫かアンタ……そういや名前聞いてなかったな」

 

「え、え、え?」

 

 さっき確実に死んだみたいな音を鳴らして地面に叩きつけられた青年が、頭から血を流してはいるが何事も無かったかのように立ち上がっていたのだ。

 

「ああ、俺実は魔術使えるんだよ。ちょっと不細工だけど綺麗な蝶を出す魔術と、予め決めた音を体内から発生させる魔術。師匠はこれ使って死んだフリして、魔術師が油断したところを殺せってさ。魔術師ってのは近接になるとどうしても脆くなるからと」

 

 そう言いながらダメ押しにと魔族が確実に息絶えるように頭部に剣をねじ込む青年。彼と死体となった魔族が真正面から戦えば勝っていたのは間違いなく魔族の方であったろうに、卑怯ではあるが鮮やかな手口に、もしも今のような状況でなければ拍手を送っていたことだろう。

 

 

「それで、アンタ何者だ? 魔族となんだか仲良さげに話してたけど」

 

 

 ああ、それを聞かれてしまうか。

 あんまりぱっと思い浮かぶ嘘もなかったので、ギロンは本当に正直に答えた。

 

 

「妾は魔王軍幹部、最近話題の全身鎧の謎の魔族ですわ。あ、魔族を名乗ってるだけで生物としては人間ですわよ?」

 

「……なんで、魔王軍に協力してるんだ?」

 

「魔王様に魅力的な提案をされましてね。世界の半分をくれてやるから協力しないかと」

 

 

 青年は、その答えを聞いてただ呆然としていた。

 あまりに隙だらけ。一息で首をもぎ取ることなんて容易い。先程まで夫にしたいなどと考えていた相手に、自分がこんな簡単に殺す方法を考えてしまっている自分を知り、改めて自分が獣なのだと実感する。

 

 獣に愛は分からない。

 獣に恋は分からない。

 

 どうやっても手に入らないものならば、せめて食べてしまおうか。

 愛や恋やは分からずとも、彼だけは自分のものに出来る。欲しいと思ったものを全て手に入れるのが、自分という獣の在り方だ。

 

 

「──────いただきます♡」

 

 

 獲物に目掛けて突進する。

 そこらの男よりも屈強な体躯での突進は、岩山の崩落のような破壊力を産む。当然ながら、ただの青年にこれを防ぐ術はなく殴り飛ばされた腕からは剣が落ち、簡単に押し倒されてギロンはその上に馬乗りになってから、肩の肉に食らいついた。

 

「──────」

 

 青年は声すら出さない。いや、出せないのだ。ギロンの『祝福』はそういうものだ。触れた相手の全てを自分のものにする虚空の檻。なんとも自分らしいと笑ってしまうような力。

 

 咀嚼する肉は、いつか聞いたファーストキスの味のよう。

 ひと噛みする事に最後の鎖を噛み砕くかのようで、ほろ苦くて背徳的で、とても美味しい。

 肩の肉でこれなのだ、他の部位はきっともっと美味しいに違いない。

 

「……」

 

 戯れに彼の上から退いて祝福を解除する。

 肩の肉を食いちぎられた痛みに悶える青年を見ながら、一つだけ質問してみる。

 

「妾、貴方のことを夫にしたいと思いましたわ」

 

「……っぅ、こんな時に、何言って……?」

 

「ですが、妾に愛は分かりません。妾に恋は分かりません。夫にしたいと思った貴方を、美味しそうな肉としか思えません」

 

 だから、貴方に聞くことにしましたと無理難題を押し付ける。

 

「これに答えられれば、貴方を見逃してあげますわ。──────愛とは、恋とはどんなものだと思います?」

 

 

「……いや、分からんけど。そもそも俺、まだ20にもなってないんだよ。そんなの自分の両親にでも聞いてくれ」

 

 

 即答だった。

 自分の状況がわかってないのかと思った。せめて、嘘でもでまかせでももう少し文章を考えるべきなのではないかとも。

 その愚直さは好ましくもあり、それで死ぬのだと考えると哀れにも思えた。

 

「答えになってないかもしれないけど答えたんだ。こっちの話を聞いてくれないか?」

 

「聞くだけなら聞いてあげますわ。まぁ、そのあと食べますけど」

 

「構わないよ。単刀直入に言うけど、魔王軍を裏切ってくれないか?」

 

 

 

 …………なんて? 

 

 

「魔王軍、裏切って、こっちにこない?」

 

 

 …………なんで? 

 

 

 

「そうすれば愛や恋やがわかるかもしれないぞ。保証は出来ないけど、少なくともアンタはそっちにいる限りは絶対にそれを理解できない」

 

「どうしてそう断言出来るのかしら? 貴方も、愛や恋やなんて分からないでしょう?」

 

 痛みを堪えた荒い呼吸の中で、青年は不敵で素敵な笑みを浮かべた。隠し持っていた切り札を見せびらかすように、ただ一言こう言ってみせた。

 

 

 

 

「だって、俺は魔王軍幹部の子を好きにはならないからな」

 

 

 

 

 ははっ、と。

 乾いた笑いが零れてしまう。

 昔昔の誰かが『惚れた弱み』なんて言葉を残したのを思い出した。なるほど、それがようやく理解できた。

 

 確かにそう言われてしまえば、自分に出来ることはただ一つだけになる。

 

 愛も恋も理解出来ないけれど、確かに胸の内にあるこの鼓動が、『ソレ』の存在を語っている。

 

 

「卑怯なことを言っている自覚はある。でも、俺はここじゃ死ねない。まだやりたいことが山ほどある。やらなくちゃいけないことが死ぬほどある。どんな手を使っても、俺は死ぬわけにはいかない」

 

 

 なんとも欲深い人間だ。だからこそ、自分がこんなに惹かれてしまったのだろうと納得出来てしまうくらいに。

 

 

「……ずるい人ですわね。貴方みたいな男は、いつか女に刺されて死にますわよ?」

 

「少なくとも、惚れた男を刺すような相手とは最初から関わらないようにしているつもりだよ」

 

「……貴方、本当に初心(童貞)? 女誑しの気質を感じましてよ?」

 

「モテないよ。女の子に告白されたのは今日が初めてだ」

 

 

 なんとも信用出来ない言葉である。

 多分、この男は相手が好意を伝えないだけで結構な数の女を堕としていると、ギロンの直感が告げている。この男、想像以上にろくでもないやつだ。

 

「……それで、どう? 見逃してくれるか?」

 

「ダメ、と言ったら?」

 

「やれるだけ足掻く」

 

 立ち上がり、剣を拾い直して構える青年の姿を見てギロンの返答は決まっていた。

 

 

 

 

 

「裏切る裏切る。魔王軍、裏切りますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おいおい。マジかよ」

 

 ギロンは立ち上がった。

 当然のように、土埃を払いながら、立ち上がった。

 

「……義眼って結構高価なんですのよ? ケチると顔の形が歪みますし、乙女を傷物にした責任、取ってくださる?」

 

 眼窩の中で爆発は確かに起きた。

 ただ、その爆発がギロン・アプスブリ・イニャスの肉を焼き脳を揺らす直前でそれは()()()()()()

 消えることも、広がることも許されずに止まっている。その場から動くことが出来ないように、眼窩中で爆発が『停止』している。

 

「心配すんな。お前はちゃんと俺が貰ってやるよ」

 

「あら、この期に及んで口説き文句? もう少しお人形ちゃんと練習してからするべきでしたわね」

 

 そう言いながら、ギロンはグレイリアの肩に手を置いた。

 

 

「………………!?」

 

 

 肩に、手を置かれた。

 気がついた時にはグレイリアは完全にその場から動くことが出来なくなっていた。

 

「勝負は決しました。ネタバラシをして差し上げますと、妾の『祝福』は触れた物質から『移動』を奪い取ります。端的に言ってしまうと、妾に触れられたものはなんであれその場から動かなくなる。触れるのをやめたら物品ならその場に落ちますし、炎とかなら大抵消えますわね」

 

 そこまでならある程度予想の内ではあった。まさか眼窩で爆発が起きても耐えられるような代物だとは思わなかったが、では今度は新しい疑問が出てくる。

 

「どうやって一瞬で貴方の肩に触れたかですわよね? 答えはもう言ってますわよ? 妾の能力は『移動』を『奪い取る』。……奪ったものは、有効活用するべきでしょう?」

 

 この世の理、移ろい動くことを自らの手に収める神の権能の如き『祝福』。

 奪うだけの獣に与えられたその力は、形あるならば神すらも在るだけのモノに貶める貪欲の化身。

 

 

 ──────愛求虚空(ソリーテル・キャビテ)

 

 

 虚空の胃袋は誰も逃がさぬ愛の檻。

 

 

「スーイやホシならば別でしょうし、貴方は本来なら国を1人で滅ぼせる実力があるのはわかっています。……だからこそ解せない。貴方ならわかっていたはずです。妾と貴方は、相性最悪だと」

 

 

 グレイリアは何も答えない。

 移動を封じられた彼の喉は決して動かず、声を出すことすら許されない。わかっていて声をかけたのは、何故だったのだろうか。

 

 

「さようなら」

 

 

 空いた片手で全力で首を殴りつける。

 他者から奪い続けた『移動』による加速が乗せられたその拳は、概念的な攻撃でもない限り殆どのものをかすり傷程度に抑えてきたグレイリアの頭部をいとも簡単に挽肉に変化させて見せた。

 

 肉片が飛び散り、八つあった眼球の一つが最期までギロンを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一目惚れだったんだ。

 

 騙し、欺き、裏切ることが魔族としての俺の生存戦略だった。

 他人ってのは利用して、捨てるためだけのもの。魔王様もそれを承知で俺を仲間にした。ただ、あの方のことだけは信頼していた。なんでって言われりゃそりゃぁまぁ、気が合ったてだけのくだらない理由だ。

 

 俺みたいな魔族は、『気が合う』ってだけでも本当は有り得ないんだよ。何しろ、生まれた時から生存の為に他者を信用しないように出来ている、そういう生き物だから。

 

 

 

 だから驚いたんだ。

 ギロンを見た時、俺はコイツの事を『欲しい』って思った。自分の命以外、全てが道具であるはずの俺が、それだけは手元に置いてずっと見ていたいと思ったんだ。

 

 だからアイツが魔王軍を裏切ったって聞いた時はめちゃくちゃにショックだった。いつ告白してやろうか、ウキウキしながら考えていたのにどっか行っちまうなんて全くひでぇ女だよ。

 

 

 

『わかってる? キミとカノジョは相性が悪いよ。多分、1人で行けばキミは死ぬ』

 

 

 それが生存本能に逆らうものだとしても、いや、だからこそ俺は胸を張ってこう言えるんだ。

 

 

『魔王様、人の恋路に何か言うのは野暮ってもんですよ』

 

『……そう。うん、じゃあ止めないよ。行ってらっしゃいグレイリア。存分に、キミの自由に生きてくれ』

 

『ああ! 短い間だったけど、アンタの下にいる間は生まれて初めて楽しかったぜ』

 

 

 

 これは紛れもなく、俺だけの恋だったってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……愛してるぜ、ギロン」

 

「丁寧に、お断りさせていただきますわ」

 

「──────そう言う、ところも、す」

 

 命が消える瞬間、『異能』の力が瞬く。ギロン・アプスブリ・イニャスの右眼に激痛が走り、全てが暗闇に変化する。

 何をされたのかはわかる。グレイリアの異能は、ギロンが触れている間は完全に無効化される。移動を封じるのだから当然だろう。

 

 だが、飛び散った肉片にまでギロンは触れていなかった。その瞬間に、多分、自らの眼球を入れ替えに使用したのだろう。眼窩には、少し大きさの合わない瞳が収まっている奇妙な感覚がある。

 

「申し訳ありませんわね、貴方の告白は、私には響きませんでしたわ」

 

 さすがに、両方の眼を千切られればギロンでも痛みやら何やらでそれなりに堪える。

 倒れ伏して空を見上げるが、既にその視界は何も映さない。ホシは眼球も治せるのだろうかとぼんやり考えていると、空を引き裂くような轟音が聞こえてきた。多分、スーイが自分を見つけたのだろう。

 

「うっわぁ……顔面えぐい事になってる。生きてる?」

 

「何とか、ですわね。眼窩覗かれて脳を見られてたらやばかったですわ。そちらは遅かったけど何かありまして?」

 

「腕のいい狙撃手に頭ぶち抜かれた。でも良かった。私は人間と違って頭ぶち抜かれたくらいじゃ死なないからね。でも再生に手間取ったし、翼の損傷は治りにくい」

 

「そちらも大変でしたのね……すみません。今何も見えないので運んでくださって?」

 

「ギロン重いから嫌なんだけどな……。まぁいいよ。魔王軍幹部をタイマンで倒すなんて、やっぱ彼以外の人間も面白いね」

 

 

 彼……彼は今の自分を見たらどう思うのだろう。さすがにホシに義眼くらいは作ってもらうつもりだが、両眼が無くなると顔の形が崩れると聞いたので心配だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王軍を裏切ると伝えて、すぐにギロンは改めて伝えた。

 

 

「妾の夫に、なってくれます?」

 

「いや……タイプじゃない」

 

「話が違いますわよ!?」

 

「いや、そんな秒で好きになれるわけないじゃん。そもそも俺、その……言いにくいんだけど、アンタのことあんまり好みじゃないというか」

 

 

 それは生まれて初めての経験だった。

 

 極めてシンプルに、ギロンは振られた。

 告白して、断られた。全てを求め、全てを手に入れ、常に高みを目指して自分を磨いてきた。人に告白されることはあっても、誰かを欲しいだなんて思わなかったから告白はしたことないし、受け入れたこともなかった。

 

「認めません……認めませんわよ! 妾より魅力的な女性がこの世にいるだなんて! 認めませんわ!」

 

「いや、大変魅力的だと思いますが……俺の好みには合わなかったということでここはどうか」

 

「それが認められないと言っているんですの!!!」

 

 信じられない。自分に惚れない異性が存在することが信じられなかった。魔王軍さえやめれば彼が自分のことを好きになってくれると本気で信じていたのに、これでは馬鹿みたいではないか。

 

 認めない。

 認められない。欲しいものは絶対に手に入れるのだ。それがギロン・アプスブリ・イニャスだ。それがなんなのか分からなくても、それが理解出来ないものでも、美しいと思えるから、ただ目指して手を伸ばせる。

 

 

「……絶対に後悔させてあげますわよ。この世界で一番魅力的な女になって、貴方の方から夫にしてくれと言わせてやりますわ」

 

 

 妾に愛は分かりません。

 妾に恋は分かりません。

 

 

 今も妾は、貴方のことを美味しそうと思っています。それ以上に、貴方のことを欲しいと思っています。

 

 だから妾はこの世界で一番魅力的な女になってみせます。貴方が目を離せなくなるような素敵な女性になってみせます。

 貴方が好きと言ってくれるような女の子になりたいのです。とっても綺麗なお姫様になりたいのです。でも、これはきっと恋じゃありません。これを恋とは呼んではいけません。

 

 

 

 

 きっとこれは、妾のような卑しい獣が抱くことも許されない、美しいモノ。

 

 

 

 

 

 世界で一番美しい、貪欲なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








・ギロン・アプスブリ・イニャス
世界一貪欲な獣。惚れた一番の理由は、顔。思考は自分が一番なので欲しいものを手に入れるためならどんな手段も使う。自他ともに認める強欲の獣。
実態は人間としての感性や倫理観が抜け落ちて、食欲と蒐集欲で生きている獣。楽しいも嬉しいも悲しいも腹立たしいも既にわからなくなって表面上で演じているが、憧れの星に手を伸ばす無垢さだけを失わなかった。この世の全てが手に入らなくても、欲しいものに手を伸ばせる今が好き。

・祝福『愛求虚空(ソリーテル・キャビテ)
物質の移動を吸収する先天性の祝福。移動とは『移ろい』『動く』こと。彼女が触れた現象、物質は移動が出来なくなりその場に静止する。この場合の移動は、他者に影響を及ぼす何らか干渉を含め、彼女が触れた時点で剣であろうが炎であろうが魔術であろうがただそこに在るだけのモノになる。

後天的に覚醒したもう一つの力は吸収した『移動』を自身または他者に与えること。彼女の優れた身体能力と相手を触れた時点で封殺する本来の効果と併せて非常に強力なものとなっている。



・スーイ
目の色が赤くなったり緑になったりする。
邪悪なドラゴン。研鑽や努力といったものが好きなので、そういうものを軽んじたり、常に全力ではなく油断とかした相手をぶち殺す方法を従者くんに仕込んだ。人間では無いので胸部と翼部にある核を2つとも潰されない限りは死なない。

・従者くん
女誑し。
世界一欲深く、世界一無欲な普通の青年。基本的にリスカの周りに現れる魔族魔獣は最上位のモノなので本人も勘違いしているが、普通に鍛えた人間としては相当な強さはある。邪悪なドラゴン系師匠のおかげで、魔術を使う的ならば格上であろうと普通に斬り殺す。現在待ちぼうけ。

・迷子
リスカ。


・グレイリア
ギロンのことが好き。そういう魔族。好きな女の子にちょっかいかけるタイプ。

・異能『空空縛縛(イミ・テンション)
視界内の同程度の大きさの物体の位置を入れ替える異能。単純かつ、この『同程度』は本人の認識による為に様々な応用が可能な強力な能力。グレイリアは八つの目のどれかを閉じることにより常に自分を視界内に収めていたりする。





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