「……皆どこいったんだろう」
海を眺め続けてどれくらい経ったんだろうか。
リスカはどっか行って、ホシもギロンもいつまで待っても来なくて、スーイも来ない。ずっと海パン一丁で海を眺め続けるのもなんだか虚しくなってきた。
…………海は綺麗だなぁ。
旅をしている間も南部にはあんまり寄らなかったし、海の方まで見にも行かなかったので実は海を見るのはほとんど初めてだったりする。
なんというか、語彙力が欠けていて表現出来る気がしないがすごくでかい。もうすごく広い。それでいて、すごい。
いやぁ、海はすごいなぁ。大きいなぁ。
「……本当に皆どこ行ったんだ?」
探しに行って入れ違えになっても困るしなぁといまいち踏ん切りがつかないまま、時間だけは過ぎていき陽がどんどんと西の方へと落ちていく。
まさか、ここでみんなで口裏合わせて俺を置いていくことで追放しようとか考えてるんじゃと思ったが、冷静に考えてみるとリスカ以外みんなはしゃいでた気もするしそれは多分ないと信じたい。無いよね?
「お待たせー、先にホシ拾ってきたよ」
「ありがとうございます……本当にホシ拾ってきたんですの? なんか、明らかに人体が地面に転がされる音じゃない音しましたわよ?」
現在、ギロンは両目を失っていて何も見えないので正確なことは分からないが、スーイが地面に転がした物体はべちょっ、と潰れてそのままなんだかうごうごと蠢いている気持ちの悪い音を鳴らしていた。
「本当にホシ? なんかエグい音してませんこと?」
「多分ホシ。ばっちいからあんま触りたくないけど」
「お前ら可愛い神官のホシちゃんに好き勝手言い過ぎだろ」
スーイの運んできた物体Xはみるみるうちに形を変えていき、最終的に金髪と大きな藍色の瞳が特徴的な全裸の女の子へと姿を変える。皆からはホシと呼ばれる少女の姿にだ。
「……なんで全裸なの?」
「え、ホシさん全裸なんですの? はしたなですわ〜」
「こちとら岩山の下敷きにされたんですよ。可愛いホシちゃんの水着も残念ながら布切れです。あとギロン、アンタも今ほぼ全裸ですからね? 水着破れてますよ?」
「いや、妾の体にはしたない部分とかないし……」
「なんだコイツの自己肯定感無敵か?」
「おほ〜良きね。そういう努力に裏付けされた自信は良き〜、もっと持ってけ〜」
なんか勝手に絶頂しているスーイは放っておいて、ホシはギロンの傷の具合を見る。彼女の『祝福』の影響で体にほとんど傷はないが、単純に両眼が失われている。無意識か意識的にか出血部位から流れている血液の『移動』を奪って出血は止まっているが、放っておけるような怪我でもない。
「えーっと、ホシさんは義眼とか作れます?」
「義眼どころかもう一度まともに目を見えるようにできますよ。これが神の奇跡です」
ホシの指先が定まった形を失いギロンの眼窩へと侵入していく。
異能『
「……あ、そう言えば魔王軍幹部また倒したんですよね。おめでとうございます。死体はどこにありますか?」
「死体?」
死体、とひとくちに言っても実は全ての死体を平等に操れる訳では無い。
虫や野獣と言った魔力をあまり含まない死体は、変形の自由度も硬度等も大して高くないどころかホットシート・イェローマムの全体の質を下げかねない。
逆に、魔族や人間など多く魔力を含む生き物の死体は非常に使い勝手が良い。だからと言って絶対数の関係からホシの肉体は半分は魔獣、あとの半分がだいたい人間か魔族の死体で構成されている。
ここの詳しい人間の割合を答えると、下手すればホシは
「そうです。魔王軍幹部様の死体ともなれば是非とも手に入れておきたいのですが、どこにあるんですか?」
何も言わず、ギロンは目を逸らした。
逸らす目はないが明らかに目を逸らす素振りをしていた。そして、なんて言おうかしばらく考えた後に無言で自らの腹を指さした。
「……いや、まぁはい。なんとなくわかってましたよ。でも、流石に全部は入りませんよね? 普通。せめて一欠片でもいいんで、ね?」
「まぁ、はい。……ごちそうさまでした♡」
「──────ッ、! ……っ、……はぁ……なんで
「なんで私がこの流れでなんか言われなきゃならないの?」
魔族のサイズ差はまちまちであるが、だいたい人間に擬態をする種族なので人間らしい見た目をしていることが多い。ホシ自身がそうであったからだ。
それを丸々、一欠片も残さず全部食べてしまうだなんて一体どんな消化器官をしているのだろうか。半ば人間から外れた、リスカにも言えることであるがこの2人は完全に『人間』という枠組みから逸脱している。
思い込む力、膂力、身体の再生機能、咬合力、消化器官の性能。なんでもいいがとにかく『枷』というものが外れている。
代償に、枷をかけてまで抑えていたものを解き放てば当然他の部分にガタが来る。リスカならば精神異常、ギロンならば過剰食欲だろう。
ホシが今までにギロンを治療した回数は、32回。そのうちの大半がギロン本人による自傷……『自食』だ。
ギロン・アプスブリ・イニャスは『欲しい』と『食べたい』の境が日に日に曖昧になっていっている。彼女のナルシストな気質と相まって、無意識に彼女は自分を
それでも、この世界で彼女が最も欲しいモノに絶対に噛みつかない辺りはギリギリ正常なのかそれとも単純にメンタルの強さもイカれているのか、人間ではないホシには判断はつかない。
「まぁとりあえず治しますよ〜。眼なんで脳から繋げ直しますから、多分不快感がエグいでしょうが耐えてくださいね☆」
「了解ですわ。なにか咀嚼できるものとかあります? 噛んでいると落ち着くので」
「食った魔王軍幹部の骨とか噛んでれば」
「骨まで残さずいただきました♡」
「舌でも噛んでろ」
リスカならば拒絶反応で赤子のように泣き叫んでいたであろう眼球の治療ですら、ギロンは何事もないように黙って受ける。こういう強さは治療する方としてはありがたいのだが、普段
「……はい、終わりました」
「うー……めちゃくちゃ気持ちわりぃですわねこれ。っと、あら、本当にまた見えるようになるとは。相変わらずすごい『異能』ですわね」
「私からすればアンタの『祝福』の方が恐ろしいですよ。アンタにそんな祝福渡した神様ってもんが何考えてるかわからなくて怖いこと怖いこと。はい、これ何本に見えますか?」
ホシは細くしなやかな人差し指を一本立てる。
ギロンは頭を動かしてそれを食いちぎる。
「一本、ですわね? よく見えてますわよ」
「はい、今ゼロになりましたけどね」
恐ろしいことに、ホシへの感謝と今の行為が彼女の中では矛盾を一切起こしていないのだ。彼がいなければ常にこれなのに、彼の前だけではちょっと頭のネジが外れた女程度に抑え込めている精神力は自分なんかよりよっぽどバケモノじみている。
「って、もう日が暮れそうじゃないですの。早く戻らないと! スーイ、フルで飛ばせばここからどれくらいです?」
「ギロンだけ運ぶなら秒、ホシを含めると分かかるかな」
「この筋肉ダルマより私が重い扱いなの納得いかないんですけど」
「ホシは霊的になんか重いし、あと付き合ったら重そう」
「重そうなのはお前もだろ頭災害ドラゴン」
軽い言葉の殴り合いはこの辺にして、時間がないのも事実。急いで海で待ちぼうけをくらっている彼のところに戻らねばと思ったところで、ホシが気が付いた。
「水着、替えとかありますか?」
ホシは現在全裸、ギロンは全裸の方がマシ、スーイは裸に布が引っ付いていると言うのが正しい状態だった。
これで彼の前に出たら3人揃って変態か異常なファッションセンスの烙印を押されるどころか、普通にドン引きされる。
「スーイ、貴方の荷物は……」
「狙撃されて全部燃えたけど?」
「…………」
まさに万事休す、地獄のような選択しか残されていなかったが、彼女達は仮にも最強の勇者、リスカ・カットバーンと共に旅するパーティの一員。その一人であるギロンがホシを見て閃いた。
「……ホシさん、貴方ってだいたいどんな形でもなれますのよね?」
「そうですね。形状を模す、と言うだけならば大抵のものには……え、マジで? マジでやるんですか!?」
「太陽、沈んじゃうなぁ……」
マジでみんな何時になっても戻ってきてくれない。もしかして、俺本当に追放されちゃったのだろうか? 海パン1枚で海に放り出して追放はちょっと、極めて人の心が欠けているんじゃないだろうか? そんなこと、なんだかんだで心優しいみんながするはずがないと信じたいが、さすがに不安になってくる。
「あの、本当に2人はそれでいいんですか?」
「なんか問題ある? 完璧じゃん見た目は」
「そうですわよ。それとも、自らの体に自信が無いので?」
「そういう問題じゃなくてですね? だってこれ、実質全裸ですよ?」
聞き覚えのある声がしたのでそちらの方を向くと、見覚えのある3人の姿が見えて思わず泣きそうになってしまった。ホシ、スーイ、ギロンの3人が何やら遠くで口論をしているのを発見したのだ。話の内容は聞き取れないが、向こうもこちらに気が付いて走ってくる。
「すいません、遅くなりましたわ。スーイがクッソ長い間トイレに籠っていて連れてくるのが遅れまして」
「……ッチ。うん。水着着るの初めてだったから、勝手がよくわからなくて。このバカお嬢様の言うことは全部嘘だから気にしないで」
一応言っておくと、俺は男の子だ。だからこれは仕方の無いことだと思う。
こちらへと走ってくるギロンの胸が、すっげぇ揺れてるのに目が奪われてしまった。こればっかりは本当に仕方が無いと思うのだが、ギロンの水着はめちゃくちゃ目のやり場に困る。金色の布地は上も下もぎりぎり大切なところを隠しているだけで防御力という面に関してはゼロに近い。
だが、その分彼女の鍛えられた肉体美が映えるというもの。各所に付いている傷跡すらもその肉体という芸術を彩る要素になる、彼女にとって最高の水着と言えるだろう。
一方スーイの水着はギロンとは対照的に露出度は抑えられている。だが、それなのに逆に目のやり場に困ってしまう。
胴体部分を肩を除いてほとんど全て覆い、肉体に張り付くように着られた水着は彼女のスリムな体型をよりはっきりと映し、泳ぐ為の機能性を重視されたかのようなその立ち姿にはギロンとはまた違った美しさがあった。
「本当に、本当に2人はそれで恥ずかしくないんですか?」
「いつまで妾の後ろに隠れているんですか。敵前逃亡は許しませんよ?」
そして、ギロンの後ろに隠れていたが彼女によって前に立たされてしまったホシ。
他2人よりもかなり小柄、だがメリハリという面では少女とは呼べない妖艶さを纏ったその体を改めて目にすると、心臓が止まるかのような衝撃を受ける。少しフリルの多いワンピース型の水着が大人っぽさと少女の可愛らしさを両立させていて、なんだか、とても。
「…………ロリコン」
「待て、ホシはロリじゃない。酒も飲める立派な大人の女性だ。だから俺はロリコンじゃない」
「ロリどころか私、ギロンより歳上なんですけど?」
「それはそれとしてロリコンですわ」
断じてロリコンじゃない。
ちょっとホシに見蕩れただけでロリコン扱いは、俺よりもホシに失礼だと思うんだ。だから俺はロリコンじゃない。確かにホシから目を離せないが、違うんだ。なんというか、ホシをこうやって改めて見るとどこかで見た覚えがある気が……。
「…………そんなに食いつくように見て、本当にロリコンなんですか?」
「違う」
そんなやり取りをしばらく続けていると、スーイが周囲を見渡してぽつりと一言。
「そう言えばリスカは?」
「リスカなら、海とか好きじゃないから部屋で寝てるって言ってたぞ」
何故かギロンとホシが信じられないものを見る目で俺を見てくる。何か変なことを言っただろうか?
「それ、マジですか?」
「え、まぁリスカはそう言ってたな」
「リスカ、部屋にいませんでしたよ」
……まぁ、リスカだしな。割と適当な嘘をつく癖があるし。
「じゃあ迎えに行くか?」
「え、どこに行ったか分かるんですか?」
「仮にも幼なじみだしな。リスカの考えていることはさすがに全部は分からないけれど、半分くらいなら理解出来てるつもりだ」
水着を着た自分が鏡に映る。
時間をかけて選んだだけあって、かなり自分に似合っているという自覚はある。水着の用意をしていなかったのは本当だけど、海が嫌いって言うのは嘘。正直、アイツと海に来れるなんて昔一度見た夢が叶ったとかそんな気分だ。
「……汚いなぁ」
でも、鏡を見て諦める。
似合ってはいても、私の体はとても汚い。手足はホシが治してくれてるけれど、胴体の傷はどうしても隠せない。胸、腹は特に何度か内蔵が零れそうな怪我をしただけあって酷いものだ。とてもじゃないが他人に見せられるような体ではない。アイツに見せられる体じゃない。
『汚いなぁ』
勝手な思い込み。アイツはそんなこと言わない。
『勇者の体とは思えない』
「そんなこと、言わないでしょ」
『──────
「い、言わない……言わないもん……」
蹲って、何も見えないように瞳を閉じる。
こうしていると嫌いなものを何も見なくて済むから少しだけ落ち着く。鏡ほど私がこの世界で嫌いなものは無い。
本当のことを言えないこの口も、血の色みたいに真っ赤なこの髪の毛も、なんでも切って殺すことしか出来ないこの手足も、傷だらけの体も、こんなに弱い心も全部嫌いだ。嫌いだから隠す、誰にも見えないように、知られないように、私の全力を以て隠してみせる。
必要なのは私じゃなくて『勇者』なんだって。
求められているのは『勇者』なんだって。
諦めて、水着から普段の私に着替えようとして。
「リスカー。いるか?」
聞こえるはずがない声が、聞こえた。
「本当にこのお店にリスカがいるんですか?」
「多分。何となく、この店の雰囲気リスカが選びそうだし」
「何となくって、居なかったらどうするの?」
「見つかるまで探せば見つかるだろ」
「そんな都合よく見つかりますの? 結構この辺り広いですわよ?」
聞き間違えだと思ったけれど、皆の声が聞こえてくる。さすがにいつもの幻聴じゃない。本当の本当に、みんなが来てる。
足音が近づいてくる。なんの迷いもなく、私の方に向かってくる。そして、布一枚隔てたところでそれが止まる。
「リスカ、ここにいるよな?」
「…………何よ、他人だったらどうするつもりだったの?」
「とりあえずごめんなさい人違いでしたってしてたかな。まぁそれは置いておいて出てこいよ。みんな待ってるぞ」
そりゃ私だってさっさとみんなの前に出てみたい。
でもどうしても、足が前に出ないのだ。手が動いてはくれないのだ。幻聴とわかっていても、声が私を苛むのだ。
「大丈夫ですよ。ギロンの方がよっぽど面白い水着してるので、多少ダサくても誰も笑いませんよ」
「はぁ? ホシさんの方が可愛らしくて赤ちゃんみたいでとても面白いと思いましてよ?」
「ほら、この馬鹿共なら別に何も気にしないから早く出てきなよ」
ギロンとホシが割と馬鹿なのは知っているからどうでもいいとして、問題はそこじゃない。
こんな体、勇者らしくない傷だらけの体を見られたくない、見て欲しくない、みんなに……アイツに失望されたくない。
「……仕方ねぇですね。強硬手段です。スーイ、カーテンの留め具壊してください」
「ハイハイ。了解」
そんな小さな話し声が聞こえた瞬間、私とアイツの間にあったカーテンがいきなり落ちた。
なんの心の準備もせずにアイツと目が合う。アイツが、私の水着姿を見る、見てしまう。
「……あ」
どうすればいいか分からない。頭が真っ白になって、何も出来ない。どうしよう、こういう時、リスカ・カットバーンはどうすればいいんだっけ?
八つ当たり? 怒ればいいの? それとも、泣くのだろうか? 分からない、リスカ・カットバーンは、
「えっと、なんか覗いたみたいで悪いけど、……事故だよなこれ? とりあえず水着、気に入ったの見つかったなら良かったよ。行こうぜ」
私が何を考えているかなんて知りもしないで、アイツは私の手を引いてくる。
「……待って」
「ん、どうかしたか?」
「私、変じゃない?」
「いや、その水着、
そうやって、いつも私が何考えてるかなんて知らないで、貴方は私まで笑顔になってしまうかのような笑顔を浮かべてくれる。
なら、今日だけは私は勇者じゃなくていいのでしょうか?
今日だけは
「──────当たり前でしょ? 私のファッションセンス、舐めてるの?」
日が暮れるまでの短い時間。
誰そ彼と人が呟く曖昧なこの時間だけ、私は貴方の隣で、誰でもない私になれるのです。
・リスカ・カットバーン
シンプルなビキニ。今日だけは勇者ではなくただの女の子に。
・ホシ
ワンピースタイプ。ギロン、スーイと共に水着を紛失したため自身の異能で再現していたので実質全裸。顔から火が出そうなほど恥ずかしいし、他の2人が気にしてないのが信じられない。この後色々あって従者くんに再び全裸を晒した。
・ギロン
マイクロビキニ。ナルシストなので自分も好き。体に恥ずかしいところがないので全裸でも歩ける。この後色々あってホシの異能の制御がぶれて全裸を晒した。
・スーイ
競泳水着。そもそも裸を見られることがなぜ恥ずかしいのかよくわかんない。この後色々あってホシの異能の制御がぶれて全裸を晒し、恥ずかしいという感情を理解した。
・従者くん
リスカが隠している思いまでは見抜けないけど、基本的に幼なじみなのでリスカの考えてる事は半分くらいわかる。
この後色々あってホシ達の裸を見てこの世から追放されかけた。
好き
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リスカ
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ホシ
-
スーイ
-
ギロン