勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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回想/少女と変態と変態

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、リスカ・カットバーンはすごく変なものを見た。

 

 

 

「お酒! えーっと、寄越せ、買わせろ……体で払いますわよ? どれがいいと思いますか? あ、下着! これ結構高値で売れますよね? ……いらない!? これ、すごく価値あるって教えてもらったですよ!?」

 

 

 

 12歳くらいの女の子がよく分からないことを口走りながら酒を求めているシーン。こんなところに遭遇するだなんて。知っていた事だが自分は運が無いと落胆する。

 なりたくもない勇者なんてものになって、毎日毎日魔族との殺し合いばかり。そんな疲れを癒そうと比較的安全そうな街に立ち寄ってみればこれだ。この街の結界は当然ながら魔族にしか効かないようで、変人は弾いてくれない様子。

 

「ノー! 私、こう見えてもお酒買える! 16……? それ以上! 見えない? 若く見られてる……それ褒め言葉?」

 

 何かを必死に訴える女の子。

 たしかによく見てみると、低い背丈とくりくりとした大きな藍色の瞳で幼く見えるが、体付きは出るところは出ていて引っ込むところは引っ込むといった、決して豊満という訳では無いが大人の体付きであり、全体で見れば子供かどうか悩むところ。

 

 ……だが、問題は服装。

 一見、神官と言った服装なのだが大きく改造が施されている。何故か手足の露出が非常に多くなっており、あれでは神官服と言うより派手なワンピース。神に仕えるというより()に御奉仕するといった感じである。

 脚部もスリットで限界まで露出していて、下着を履いていないようにすら見えるギリギリっぷり。真っ当な神官が見たらビンタするというか、真っ当な大人ならこんな格好で出歩けるはずが無い。お星様すら見える綺麗な瞳と無垢な顔立ち。それなのにここまで神を冒涜出来るだなんて大したものだ。

 

「お酒……飲みたい……。肉体、問題なしだが気分が疲れたです。お酒、お酒! いいから寄越せ!」

 

 落ち着け、リスカ・カットバーン。

 こういう時、勇者ならばどうするか。ここにはいもしない彼ならば、こういう時どうするのかを考える。

 

 

「……面倒くさい」

 

 

 もしも彼ならば、『勇者』ならばそうするだろうと。引き返したい足を止めて変な神官の所へと向かう。ほんと、こういうのは自分の柄ではないとわかっているけれど、勇者は困っている人を見捨てないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かった! おかげでお酒を買うこと、出来ました。でも、貴方が私の姉は無理め。私の方が、確実に年上」

 

「別に。目の前で押し売りの身売り現場なんて見せられたら、アンタより店の人が可哀想だもん。それより、あんまり派手に呑まないでよ……。周りの目、気にならないの?」

 

「? みんな私を心配してくれている。問題ありますのですか?」

 

 まぁ、確かに心配をしているだろうがそれは頭の中身に対してであり、感情で言うと憐憫だとかそう言った類のものでありあまり受けて気持ちの良い感情ではないだろう。隣にいるだけで、リスカとしてもいたたまれなくなる。

 

 さらに服装もちょっとセクシー過ぎて、言い換えると露出が多すぎて目のやり場に困る。遠目から見る男の中には完全にそういう目で見ている者もいる。まぁ、本気でリスカが睨みつけるとそういう輩は皆散っていくのだが。目つきの悪さだけは本当にいらないのに見事に成長していく。

 

「……アンタ、その格好なんなの?」

 

「可愛いでしょ?」

 

 可愛いか可愛くないかでいえば、自分には似合わないだろうけれど可愛らしい服装ではある。だが、やっぱり露出過多だ。本物の神官さんが見たら絶対キレる。

 

「私、男の視線釘付け! モテモテ! これで気になる彼もイチコロ!」

 

 そう自信満々に胸を張る似非神官。コイツ意外と胸デカイな。流石に体格の関係で自分の方が大きいが、体格比で言うと向こうの方が大きいボリューム。なんとなく、これに負けたと考えると凄まじい敗北感がある。

 

「でも……誰かにモテたいならあんまりそういう格好はやめた方がいいと思うよ」

 

「ワッツ? なぜですカー? 彼も男なら私にクギ付け、違うのかな?」

 

 そうかもしれないけれど、もしも好きな人がすごく異性の目を引くような格好をしていたら、自分ならばあまりいい気はしないかもしれない。

 なんというか、モヤモヤする。だって、好きなものは自分だけのものにしたいと思うのはおかしい事だろうか? 大切なものがどこかに行ってしまうという恐怖というものは、とてもじゃないが形容できるものでは無い。

 

 出来ることなら、あんな思い二度としたくない。

 だから、その為にはこんな気持ちは捨てないと。こんな考えは『勇者』らしくない。こんな弱々しい気持ち忘れなきゃ、忘れなきゃ、忘れなきゃ……。

 

 

「ふーむ、百理ありますね。例えば、貴方の好きな相手はどんな雰囲気?」

 

「ばっ、なんでアンタにそんな話しなきゃいけないのよ!?」

 

「別に。だって貴方、優しそうな人。優しい彼に、とっても似通う。困っている人は放っておかない。違いますかね?」

 

 そう言われるとリスカも弱い。

 だって、リスカの知る『勇者』は間違いなく困っている人を放っておかない。リスカにとっての『勇者』はきっと、こういう子を何も考えずに助けようとする。

 

「だからって私の好きな人は関係ないでしょ。……でも、一般的な男は常にそんな格好して、変な喋り方してる女よりももっと普通の女の子の方が好きなんじゃないの?」

 

「ふーむ。では、普通ってどんなもん?」

 

 

 そりゃあ普通っていうのは。

 

 口にしようとして、言葉に詰まった。

 普通ってどんなのだっけ。この前までの『普通の女の子』だった自分が思い出せない。いや、思い出そうとすると酷い吐き気に襲われる。ゴミ捨て場に捨てた汚物を拾い上げるかのような拒絶感。

 

 とても大切で、私にとって一番楽な姿だったのに自分から捨てた『それ』を見ることはあまりに耐え難い。

 

 

「どしたん? なんか汗、凄いけど大丈夫ですのね?」

 

「気に、しないで。ちょっと気分が悪いだけ。……とりあえず、服装も普通の神官っぽくして、普通に敬語で話せばいいんじゃない。それで悪印象を受ける人は、少ないと思う」

 

「……ちょっと待ってね」

 

 

 少女は大きな藍色の瞳を閉じて、何かを考え込むように意識を集中させている。

 それは瞑想のようでもあるが、どちらかと言うと自己暗示などのそういった類のものであるようにリスカには見えた。数分ほどそうしていて、目を開けた少女の表情を見て思わずリスカは()()で声を漏らしかけた。

 

 

 

 

「……ふぅ。こんな感じですかね。ふふ、どうですか? 私、貴方のこと嫌いじゃないので、貴方みたいな優しい人をイメージしてみました」

 

 

 

 

 服装こそ変わっていないが、目の前の少女は先程までの変な喋り方の少女とは、根本的に違う。

 瞳の動き、唇の滑らかさ、頬の赤らみ。全てが『万物に優しき聖女』のような雰囲気を醸し出している。これで神官服がしっかりとしたもので、片手に酒瓶を持っていなければきっと誰もが女神の降臨かと思い崇めてしまうほど、吸い込まれんばかりの慈愛を持つ聖女がそこにはいた。

 

「うん。やっぱりこういうのの方が『私』としては性に合いますね。油断させるのはともかく、異性として魅力的って言うのはいまいち掴みかねていたので助かりました。ありがとうございます」

 

「え、あ、うん」

 

 あまりに丁寧に喋るものだが、先程までのぎこちないしゃべり方も『言葉に不自由があるか、覚えたばかり』と言った感じで演技だとは思えなかった。一体、この少女はなんなのだろうという胸の内から湧いてくる疑念も、輝くような笑顔を見ただけで薄らいでしまう、麻薬のような女の子。

 

 この子と向かい合ってはいけない。

 この生き物の『在り方』は人間と相容れない。ヒトとして最も重要な部分を溶かし、蝕む共存不可能の寄生生命。警鐘を鳴らす生来の優れた直感を、後天的に獲得した理性と知性が抑え込む。こんなに愛らしく、可愛らしい生き物のどこが危険なのかと問いかける。

 

「ん、やっぱり私はこっちの方が合ってますね。慣れないことはするものじゃないです」

 

「アンタ……何者なの?」

 

「見ての通り、通りすがりの美人神官です☆」

 

 ──────冗談じゃない。

 この世界で神よりも信じたくなってしまう、そんな魅力を持つ神に仕える者(神官)がいてたまるか。

 

「あー……その、そんなに敵意を向けないで貰えますかね? 私としては、貴方に感謝こそすれ、敵対する理由が皆無なんですよね」

 

「ごめんごめん。私、アンタみたいに人を騙すことに特化した生き物と殺し合うのが生業なの」

 

「……貴方が? それこそ冗談でしょう? だって貴方──────ッ」

 

 神官はリスカの目を見つめ、何かを悟ったのか目を見開いてから柔らかな表情をほんの少しだけ顰める。

 

「ったく、これだから『祝福』なんて呼び方は嫌いなんです。ヒトを勝手に異なるモノに仕立て上げてしまう呪いでしかないんですよ」

 

 憐憫、そして目の前の相手ではない何かへの怒り。

 

 

「……ん、どうしました? さっきから警戒したり惚けたり、忙しい人ですね」

 

「いや、アンタにだけは言われたくないけど……」

 

 

 その表情を見て、リスカは目の前の神官に警戒するのをやめた。

 この少女は今、どのような理由かは分からないけれど本気で自分のことを哀れんだ。他人から哀れまれるのは好きではないが、それでもそれは騙すことだけを考える生き物にはありえない仕草。

 

 もしも今のが演技であったのならば、大人しく食われるしかないだろう。

 

「まぁ、私には関係ないですがね。それはそれとして助かりました。私はある人を追っていたんですが、この辺りで見失っちゃったんですよね。なのでさっさと捜索に戻りたいと思います」

 

「あっそ。じゃあもう二度と会わないことを祈ってるわ」

 

「私は貴方のこと好きですけどねぇ。貴方は私好みの匂いがしますし」

 

 すんすんと、犬のように匂いを嗅いでくる神官に対してリスカは反射的に距離をとる。一応、年頃の娘である以上匂いには気を使っているが、何日も体を洗えない日だって時としてある以上正直あまり嗅がれて気持ちが良いものでは無い。

 

「うん。やっぱり貴方は良い匂いです。優しい匂いがします」

 

「優しい匂い……それってどういう……」

 

 神官は何も言わず、リスカに抱きついた。

 身長差と体格差の関係上そうとしか言えない。誰がどう見ても、神官がリスカへと抱き着いている。そのはずなのに、リスカだけは違っていた。

 

 母親の腕に抱かれる以上の安心感。

 揺籃の中で微睡みに沈んでいくような、そういう気持ち。小さな少女から発せられるその癒しに、久方ぶりにリスカはほんの少しだけ肩の力を抜いていた。

 

 

「貴方みたいな強くて優しい人は、何でもかんでも勝手に背負いすぎるんです。もっと肩の力を抜いて、長いにせよ短いにせよ人生は自分のために使った方がいいですよ。せっかく生まれたんですから、人生が終わった時にいい人生だったって思える方が、素晴らしいことだと思いませんか?」

 

 

 それだけ。

 ここまででようやく神官らしいことを呟いて、その少女は酒瓶片手にその場から離れていく。

 リスカ・カットバーンは誰よりも強い人間だった。誰よりも強いからこそ、誰よりも『勇者』でなければいけないと、そうしなければ『リスカ・カットバーン』ではないと思い込むしか無かった。

 

 決めた生き方はもう変えられない。

 こうやっていなければリスカ・カットバーンは存在できない。それでも、そう言ってくれる『誰か』が居た事実だけは消えなかった。

 

 

「……忠告ありがと。私はリスカ。リスカ・カットバーン。またどこかで会いましょう」

 

「はい! 私はホットシート・イェローマム。どうぞホシという名前で覚えてください。それでは、またいつか」

 

 

 もう二度と会わないだろうけれど、もう二度と会いたくない変なやつだったけれど。

 リスカはほんの少しだけ、先程よりも肩の力を抜いて歩き出す。なんとなく、そっちの方がいいような気がしただけで別に神官の、ホシの言うことを真に受けた訳では無い。

 

 

 もしも、素直に自分として話していたのならば彼はどんな風に答えてくれたのだろうか。

 

 

 そんな有り得ない『もしも』を思いながら前を向いて

 

 

 

 

 

 

「あ、すいませんそこの方。ズボンでもスカートでも鎧でもなんでもいいので履くもの持ってませんか? あと、一目惚れしたんで付き合ってください」

 

 

 

 

 

 

 何故か下半身を包帯でギリギリ隠しているだけの絶世の美女に愛の告白を受けて、とりあえず自分は運がある人間では無いのだと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりの酒を全身に染み渡らせながら、ホットシート・イェローマムは人探しを再開する。

 実際問題、死体である彼女にアルコールは毒にも薬にもならなければ、酔うこともありえない。ただ気分として、これを摂取するとなんとなくいい気分になれるのだ。

 

「それにしても……この辺りに来ていることは間違いないんですけどねぇ?」

 

 彼女にとって人間を見分けることは至難の業。

 人間が虫の相を覚えきれないように魔族には人間を見分ける機能は存在しない。相手が自分を殺す力を持ってでもいない限り、わざわざ識別する理由もない。

 

 反面、彼女は『異能』により魂というカタチの無いものを知覚することが得意になっていた。

 だから、ほんの数刻話しただけの『彼』の魂の匂い、形、色を決して忘れずにずっと歩いて探していた。そしてだいぶ近づいてきたとこの街の近くまで来たあたりで彼の魂の匂いが()()()()

 まるで地面ごとえぐって取り替えてしまったかのように、忽然と彼の気配が消えてしまっていたのだ。もしも死んでしまったのならば、逆に死体を司る自分が見失う理由が無くなる。なので生きてはいるのだろうが見つからないというのも落ち着ける要素ではない。

 

「とりあえず、この街にはいませんね。さっさと先行きましょう」

 

 まぁ悩んでも仕方ないと、ホシは切りかえて捜索を開始する。

 この街に潜む魂をざっと調べて、なにやら魔王軍幹部クラスのすっごい魂があった気はしたがそれはそれ。さすがに顔も知らない相手しかいない街を守る義理も義務もホシには無い。

 

 

 

「……あー、顔見知りできちゃいましたね」

 

 

 

 とても寂しそうな顔をしていた赤髪の少女を思い出す。

 数分思考した後、ホットシート・イェローマムは大きな大きなため息をついて、来た道を引き返し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






・リスカ・カットバーン
運以外の全てを持ち合わせて生まれた祝福されし子。誰よりも強かったゆえに『彼』以外に優しくされることに慣れていない。変な神官の子は変な相手ではあったが、優しくていい子であんな友達が1人くらい欲しかったかもと思ってた。

・変態1
ドスケベ神官服。人を油断させるならまだしも好かれるのは完全に専門外だったので迷走していた。とにかく目線を集める方向に特化していたらこの有様。赤髪の女の子は結構好ましいタイプの人間だと思ってた。

・変態2
リスカは何故か変態と女にモテる。そういうの引き寄せるフェロモンが出てる。






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  • リスカ
  • ホシ
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