勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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超高度追放肉体戦

 

 

 

 

 

 

「私、アンタを追放しようと思うのよね」

 

 何かを諦めたように吐き出されたその言葉で、再び俺の首がギロチン台に固定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王軍幹部は全部で8体いるらしい。それはホシが何処から引っ張ってきたかも分からない話として、スーイが旅人達の噂話として、ギロンが当事者として、そしてリスカが勇者として与えられた公式な情報として聞いていた。

 そしてギロンという裏切り者が出たことでその数は7に。それもエウレア、ベルティオ、グレイリア、ノティスと既に半分を失っていた。

 

 かつて人類は魔王軍、とりわけその幹部達に大敗した。だが、現状は逆転に成功したと言ってもいい。

 魔王の居城を守っていた霧の結界も消滅し、主立って人間側に被害を与えていた幹部は『灼熱大公』を除けば全滅した。確実に良い風が吹き始めている。

 

 なのに、いよいよこれからだと言う時に、リスカは唐突にそんなことを口にした。

 

「一応、理由を聞いても?」

 

「わかってるでしょ。アンタ、役に立たないから」

 

 いや、まぁその通りなんだけど。

 トントントントン、リスカが剣の鞘を指で叩く苛立ちの合図だけが響き渡り、しばらく言葉が出てこなかった。

 確かにここ最近の事だけを考えても、俺はあんまり役に立っていなかった気がする。結局大抵の事は気が付いたらホシがやってたり、スーイが片付けちゃうし、戦闘もギロンかリスカがいれば事足りる。

 

 ……うん。俺いらない子じゃない? 

 だがここで退くわけにもいかない。如何にリスカの言うことが正しくて否定のしようがなくても、俺にはここで退くことが出来ない理由があるのだ。

 

「リスカ……そういえばお前ってすご」

 

「今度は煽てても無駄だからね? だいたいそんな手段に引っかかると思ってるの?」

 

「……俺の考えがお前に通じるわけが無いか。さすがの洞察力だ」

 

「そ、そう……?」

 

「うん、やっぱりリスカは凄いよ」

 

「そうかな…………って、その手には乗らないって言ってるでしょ?」

 

 割とあと少しでいけそうだった気がしなくもないが、残念ながら同じ手は二度は通じないご様子だ。

 

「今のでアンタが私を徹底的に舐め腐ってることはわかったわ。もう追放。さっさと荷物纏めて帰りなさい」

 

「そんな横暴な。だいたい、役に立たないってもっとなんか、具体的な理由を」

 

「え、アンタ前も読んだアンタの役に立たないポイントの列記を読み返して欲しいの? なんで?」

 

 本気で理解できないものを見る目でリスカに見つめられるけどそういうことじゃない。

 

「前はほら、まぁなあなあだったかもしれないけどどうにかなったし、一応俺だって雑用やるぐらいはできる」

 

「だからね。雑用がいらなくなったからアンタはお払い箱なの。分かる?」

 

 リスカは懐から何かの書状のようなものを取り出して、それを俺に見せつけてきた。

 

「それは?」

 

「見て分からない?」

 

「うん。暗号化されていて読めないんだけど」

 

「…………うん。これは普通に私が悪かったわね。ごめん。読む」

 

 ざっくりと内容を纏めれば、それは決戦の合図だった。

 各地で破壊行為を繰り広げていた魔王軍幹部の動きが見られなくなり、4体の討伐も確認された現在、守りに徹するのではなく攻める時が来たのだと。『勇者』を筆頭とする戦力を全て結集させ、魔王城への攻撃を開始するらしい。

 

「魔王軍幹部に半数以上の空席が出来て、霧の壁が無くなった今、戦力を補充されるより早く相手を叩くことが重要って判断されたわけ。もうすぐこの辺りに各地から『勇者』が集まるわ。魔王を確実に殺すためにね」

 

「なら尚更……」

 

 ここを離れる理由にならないと、出かかった言葉はリスカに遮られる。

 

「だからこそでしょ。そりゃ私より強いやつなんて居ないだろうけど、一緒に訓練したやつも居るから分かるけど『勇者』に選ばれた奴はみんな強い。多分、残り3体のやつがベルティオ並に強くて、魔王がいることを考えても人類が勝つと思う。ただ……」

 

 ほんの少し、リスカは言葉を出すのを躊躇った。

 彼女はいつもそうだ。好きなものは先に食べるし、良い知らせと悪い知らせは必ず良い知らせから話したり聞いたりする。だから、これから彼女が話すことは良い知らせではないということだけはわかった。

 

 

 

「それはそれとしてじゃあこれからご飯は誰が作るんですか?」

 

 

 

 いつの間にか、本当に瞬き一回の一瞬の視覚の遮断の間にリスカの隣にこぢんまりとした神官服の女の子、ホシの姿が現れた。一体どのようにしてここに現れたのか想像がつかないほど、幻影なんじゃないかと思うくらいに唐突に現れた。

 

「もうメシの心配する必要も無いわよ。人類の結界魔術と比べて魔族のそれは拙いから、こちらが攻めの姿勢を見せれば相手もこちらを攻めて叩き潰しにくる。どちらにせよ短期決戦で終わる」

 

「そういう話をしてるんじゃないんですよ。彼がいなくなった次の日のご飯は? その次の日は?」

 

「……ちょっとくらい我慢しなさいよ」

 

「えー! ヤダヤダ! 私最近お酒も我慢してるんですよ!? そこに美味しいご飯の楽しみまで奪われたらそんなの死んだも同然じゃないですか!」

 

「いや、ちょっとくらい我慢しなさいよ……ほんとさ」

 

 こういう言い方も変だが、割とホシは外見の幼さに見合わずまとめ役のようなポジションでもある。基本的に物事の交渉担当はホシだし、喧嘩を収めるのもホシだし、このパーティに最もなくてはならない存在だ。

 だからホシがこんな子供みたいに駄々をこねるなんてリスカも想定外なのか、珍しく彼女の顔色に動揺の色が見える。

 

「ご飯は私の数少ない楽しみなんです。それを奪われたらもう死ぬしかないじゃないですか」

 

「じゃあ死んでろ」

 

「そんなこと私に言っていいんですか? ……私は貴方の命を握ってること、忘れてませんよね?」

 

「…………何が言いたいのよ」

 

「アンタが趣味で集めてる綺麗な形の石全部捨てます」

 

「やめて! それ普通にすごく辛いからやめて!」

 

 リスカとホシは取っ組み合いを始めてお互いの髪の毛を引っ張り合い始めた。不思議なことに2人ともお互いの髪の毛を抜けないようだけど、それを良い事に思いっきり引っ張りあってるから、俺の立場からするとすごく頭皮が心配だ。父親が若くして髪の毛が後退していた思い出したくもない現実を思い出してしまった。

 

「だいたい集めるだけ集めて見せるだけ見せて、いつも私に持たせて! あれ本当に必要なんですか!? 眺めてるところ見た事ないんですけど!?」

 

「必要に決まってるでしょ! 綺麗な形の石集めるのが唯一の私の趣味なのよ? それを捨てたら残るのはただ超強い私だけだからね?」

 

「超強いアンタ残ってればいいじゃないですか! どうせ誰もアンタに強さ以外の部分期待してませんよこのへっぽこ勇者!」

 

「アンタこそ……えっと、えーっと……バカ!」

 

「なんですかその可愛い語彙力は。もっと魔族を三枚に下ろしてる時の語彙を見せてくださいよ」

 

 ……それはそれとしてだ。

 なんだかまた俺の追放云々が有耶無耶になりそうだがそれはそれとしてだ。リスカに綺麗な形の石を集める趣味があったことは知らなかった。思えばいい感じの木の枝を拾ったりと、リスカはなんでもいいから形が整ってるモノが好きだったが、その趣味は知らなかった。

 

 俺は知らなかったのにホシは知っていたのか。なんだかそれはちょっと悔しい。リスカのことは俺が一番知ってるって勝手に思い込んでいた。

 

「さっきから煩い。リスカとホシはまたくだらないことで喧嘩してるの?」

 

「喧嘩するほど仲がいいと言いますけど、女の姦しさなんて同じ女からしたら神経が苛立つだけですわよ〜」

 

 そんなことを考えていたらリスカとホシの喧嘩に呼ばれるようにしてスーイとギロンも姿を現して、俺達のパーティの全員が集合することに相成った。

 

「はいはいなんか大事な話らしいからね。一旦落ち着こうねホシもリスカも……あ、ちょ、噛まないでよ。ギロン、この2人止めて」

 

 さすがの2人でもギロンの祝福を使われたら文字通り手も足も出ない。距離を離されて座らせられた2人は睨み合いを尚も続けているが、間にギロンが立つことでそれは睨み合いに留まっている。

 本来なら雪崩すら塞き止める奇跡であるギロンの異能をこんなことに使っていいのかとも思うが、本気のリスカは雪崩なんかよりも数百倍恐ろしい災害みたいなものだしまぁいいだろう。

 

「なるほどなるほど。かくかくしかじかで彼を追放したいと」

 

「しかもリスカったら一方的にそういうこと言っちゃうんですよね。もう少し話し合いとか出来ないんですかね?」

 

「本人が嫌だって言ってるのに勝手に決めるのは確かにちょっといただけませんわね。……スーイ?」

 

「いや、うん。ありじゃないかな? 追放って言い方が悪いけれど、彼はここが引き際だよ」

 

 スーイが言ったその言葉に、ほんの一瞬だけホシとギロンの目付きが鋭くなった気がしたが、改めて2人の顔を見てみるとホシは少し不機嫌そうながらも何も変わらないし、ギロンは特に気にしているようにさえ見えなかった。

 

「正直に言うけど、さすがにここから先はもう私達も余裕持って戦うなんて出来ないだろう。魔王は魔族で一番強いから魔王なんだから、魔王軍幹部全員よりも強いと仮定して戦わないといけない相手だ」

 

「……だからなんですか。油断しているように聞こえるかもしれませんが、人間の強みは数です。むしろ、そんなに強い相手ならどれだけ弱くても戦力として確保しておくべきなんじゃないんですか?」

 

「それが生き物同士の戦いならね。……祝福や異能を持つ生物は何度も言うけれど『災害』なんだよ。最低限の力量がなければ、それとは戦闘という行為すら発生しない。うん、やっぱり私は彼の仲間として、ここで退いてもらうのがいいと思うけど」

 

「スーイは何言ってますの? 本人の命は本人の自由ですわよ? 彼がここから先死ぬとわかっていても向かうならば妾達に止める権利はありませんわ」

 

「本人の意思とか知ったことじゃないの。そんな戦場にコイツみたいな雑魚がうろちょろされたらこっちが迷惑だって言ってんのよ」

 

 

 いや、これは間違いない。

 俺の扱いを巡って険悪な空気が生まれている。

 

 

「……スーイ。アンタよくそんなこと言えますね。アンタが何度彼を死地に送り込んできたかもしかして忘れているんですか? そんなことも忘れるようなら、貴方の方こそここで退いて隠居をおすすめしますよ?」

 

「私は生還可能な死地にしか送らないよ。実力不相応な事を求める程鬼畜じゃない」

 

「だから……アイツのことはどうでもいいんだってば。邪魔なの邪魔? 分かる?」

 

「と言うかこれ妾達が話し合うことじゃないですわよね? 当人はどう思っていますの?」

 

「いや俺は……」

 

 当然何度も言ってる通りここで一人だけ安全なところに逃げるなんてことはしたくない。でも、リスカの言う通り俺は足でまといになるかもしれない。スーイの言う通りただ死にに行くことなんて俺をここまで活かしてくれた沢山の人達への裏切りだろう。

 

「……わかったわよ。そういう迷いとか、全部纏めて私が斬ってあげる」

 

 遂に苛立ちが頂点に達したのか、リスカは指で叩いていた剣をそこらに放り捨て、俺の腕を掴んで外に出ようとする。

 

「ちょ、どうしたんだよ急に!?」

 

「アンタに現実ってもんを教えてあげるって言ってんのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自慢じゃないが俺はリスカに勝ったことは一度もない。

 何をやっても、リスカには勝てなかった。いつも俺よりも前に彼女は進んでいて、どんな苦難も当然のように乗り越えてしまう。

 彼女の前には無理なんて言葉は存在がしないかのようで、天才というものがこういうものなのだと幼心に理解していた。

 

 それでもリスカはリスカだ。怖がりだし、苦手な食べ物も多いし、それでも頑張れるすごい人がリスカだ。

 

 

 ……もしも彼女が非人間的なまでに完璧だったのなら、諦めがついていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、昔よくやったでしょう。アンタがその木の枝で私に一撃でも入れられたら認めてあげるから」

 

 そう言って、リスカは構えすらせずにぼーっと虚空を見つめている。これを勝負とすら思っていない。抑えきれなくなったのか、それとも俺を煽っているつもりなのか大きな欠伸すらしている始末だ。

 

 完全に油断している。なのに、勝てるビジョンが一つも浮かばない。木の枝で肌を掠めることさえ出来ればいいはずなのにそれさえできる気がしない。

 

「ビビっていても終わらないわよ。さっさと来なさい」

 

「……俺だって、お前に追いつく為にずっと修行してきたんだ。あんまり舐めてると痛い目みるぞ」

 

「そう言うのいいから。……早く終わりにしましょう」

 

 相手が構えてないなら好都合。リスカ相手に策を弄しても無駄。油断している今のうちに不意を付いて一撃を食らわせるくらいしか勝ち目はないだろう。仕掛けるタイミングが全て。相手の呼吸を見て、ほんの少しの隙を見逃さずに……

 

 

 

「……追いつく追いつくって、そんなに止まったままで追いつけると思ってるの?」

 

「え」

 

 視界がくるりと回って、リスカだけを見ていた視界は彼女を見ずに空を眺めている。

 ああ、くそ。またこれだ。本当に何をされたのかすら分からない。何も分からないまま転がされてしまっている。

 

「ッ、まだ!」

 

「そう、諦め悪いものねアンタ」

 

 即座に起き上がってリスカの居場所を捉える。今まさに俺を転がしたはずなのに距離が相当離れている。今の動きを見て確信したが、こちらから仕掛けても避けられる。なら、相手が近づいてくるところにまぐれでもいいからカウンターを決めるしかない。

 

「……アンタの反撃とか喰らうわけないんだけど」

 

 今に見てろと吠える心が、腹部に叩きつけられた衝撃で消し飛ばされる。痛みはほとんど無いが内臓が圧迫されて空気が全部押し出され、視界から色が消える。

 消えてしまいそうだった意識は近くの木に背中から叩きつけられた痛みで何とか保つ。大丈夫、まだ戦える。

 

「でもアンタ、何も分かってないでしょ」

 

 分かっていることは幾つかある。

 俺は投げられて、蹴飛ばされて、殴られて。手加減されているのかそれ自体は全く痛くないのだが高速で吹き飛ばされる体は受身を上手く取れずにじわじわと動きが鈍くなっていく。

 その間、動きは何一つとして捉えられない。何かされたのは理解出来るけれどそれがどんな手順でされてるのか目で捉えられない。

 

「わかんないの?」

 

 分からない。

 

「いい加減、わかってよ」

 

 分からない。

 

「分かれって、言ってんでしょ!」

 

 もう何度転がったかも分からない。リスカに好き放題殴られたにしては全然体は痛くないが、こんなボールみたいに何度も転がされては立ち上がる気力が湧いてこない。

 

「なんで、お前がキレてんだよ」

 

「ここまでやって何もわかんないバカが目の前にいるからでしょ!」

 

「……いい加減にしろこのバカ! お前は、お前は何か一つでも俺に分かってもらうように言ったことがあるのかよ!」

 

 

 戦いが始まって、初めてリスカの動きが明確に止まった。泣きそうになりながら顔を歪めている彼女の姿がそこにはあった。

 

「は、はぁ?」

 

「お前はいつもそうだろ。言いたいこと言わないで、隠してるくせに分かれって、無茶ぶりばっかしてよ! お前が、お前みたいな天才が隠してるものが今お前にコロコロとボールみたいに転がされてる俺なんかが分かるわけねぇだろ!」

 

「……じゃあはっきりいってやるわよ! アンタは役に立たないし、足手まといだからどっか行けって言ってんのよ!」

 

「……そうかよ」

 

 さすがにここまで打ちのめされてこうもはっきり言われれば納得するしかない。

 俺は足でまといなのだろう。出来る限り頑張ってきたんだろうけど、まだ努力が足りなかったのだろうか。

 

「……才能ないのよアンタ」

 

「んだよ、嫌味か?」

 

「現実よ。どんなに頑張ったって、アンタじゃ私に追いつけない。……アンタなんか──────」

 

 

 

 

「はい、そこまで。思ってもないことを口に出す前に終わりにしておこう」

 

 

 

 

 最後にリスカが口にした言葉、スーイが魔術を使ったのか俺の耳に届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって追放決定な感じなんですの? つまらないですわね」

 

「何よ、文句あんなら付き合うわよ」

 

「ありませんとも。本人の意思があろうと命を捨てるのは勿体ないことですもの。それはそれとして、妾彼の事が好きなので離れたくないと思うのは当然では?」

 

「あんなやつのどこが──────」

 

「忠告しておきますわ。そろそろ殻を被って生きるのはやめなさい。言われたでしょう、貴方、全部自分の内に秘めておくからそうやって手遅れになってくんですわよ」

 

「うっさい。アンタに何がわかんのよ」

 

「……わかんないって言われたでしょう。貴方、本当に何も言わないんですもの」

 

 

 自分が何も言わないのなんてわかっている。

 いつもいつも本当の事を口にせず、どうしても素直になれずに言葉を漏らす。でも仕方ないじゃないか。そうでもしないと、自分を保っていられない。

 もしもその本音を口にしてしまえば自分はもう勇者ではいられないのだと。私だって全部喋って投げ出してしまえたらどれだけ楽かなんて頭が割れるくらい考えてきた。

 

 それでも私は勇者だからと、我慢してきたんだ。あとちょっと我慢すれば、魔王さえ倒せば全部終わりなのだからと後ろ髪を引かれるような思いを断ち切る。

 

 

「アイツ、あんな風に怒れるんだ」

 

 

 自分に向かって怒っているところなんて初めて見たかもしれない。そんなことが嬉しくて、嬉しいと思う自分が情けなくて嫌になる。

 うん、そうだ。全部終わったらちゃんと話そう。全部、全部話してしまおう。あとちょっと頑張ればもう私は勇者じゃなくて良くなるんだから。そうすればきっと、前みたいにただの女の子として、幼馴染として全部話せる。きっと前みたいに。

 

 

 

 

『それで、勇者じゃなくなった私って誰なんだろうね』

 

 

 

 

「……そんなこと、知らないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、リスカの祝福の穴は彼ですね。あんだけぶん殴られまくってリスカ自体から受けた傷はゼロですからね」

 

「斬れないと思ってるモノは斬ることが出来ない。それだとしても彼女のは特別だね」

 

 そうは言ってもそれは彼女による攻撃だけで好き放題転がされた結果として擦り傷打撲その他諸々は酷いのでさっさと処置をして寝かせたあと、ホシとスーイは何となくそのまま話し込んでいた。

 

「それにしても、貴方が彼を連れていくの反対って意外ですね」

 

「私も、ホシが彼が死ぬかもしれないのに連れていきたいって言ったのも意外だよ」

 

「ええ。自分でも意外ですよ。私、彼に死んで欲しくないですから。そう、死んで欲しくないんです」

 

 ホシにとっての彼は『光』だった。

 土に塗れた全てを遍く照らしてくれた、愚かな彼の優しい言葉。それを嘘にしたくないことだけがホシの願い。そうだったはずなのに。

 

「こうしていると、それ以上を望んじゃうんですよ。リスカにボコボコにされてる彼を見て、私が食べちゃって一つになればずーっと一緒とか、自分でもびっくりするような事考えるようになったり」

 

「私もあるよそれ。もっと頑張って欲しいとも、一緒にいたいとも思うのに何処かでそんなことしなくていいから平穏に暮らしたいとか、あと小さな大して繁盛してない喫茶店でも経営しながら穏やかな時間を過ごしたいとか」

 

 スーイにとっての彼は『彗星』だった。己の身を燃やし、空に尾を残しながら駆けるその姿が好きだったはずなのに。今では美しさからではなく、心配から彼から目を離せない。

 ほんの少し、ほんの少しでも目を離したら塵芥となって暗い空に消えてしまうんじゃないかと。そう思うだけで胸が張り裂けそうになってしまう。

 

「色々置いておいて、シチュエーションがやけに具体的なのが気持ち悪いですね」

 

「でもそういうものなんだろうなぁ。師匠も言ってたけど、心って難しいよホント」

 

「……そうですね。他人でも自分でも、何考えているか分からないって、こんなに怖いことだったんですね」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 誰も聞いていないのを確認してから、リスカの悪口を呟こうとして、それがどれだけ愚かな行為なのか思い直して口を閉じる。

 少しくらい追いつけているつもりだった。もしかしたら、背中くらい見えるんじゃないかって驕っていた。みんなに助けて貰って、幸運が重なって魔王軍幹部を倒せたのだからと、心のどこかで過信していた。

 

「……遠いな。アイツ」

 

 リスカ・カットバーンという女の子の背中に憧れたのはいつの頃からだろうか。初めてあった時からかもしれない。とにかくその時から、あの見えもしなかった背中が幻となって網膜に焼き付いて離れない。

 ただただ追いつきたくて、付いて行きたくて、他の全部を捨ててでもアイツの隣に立ちたくて。

 

 そうして頑張った果てがこの無様な結果なのだから笑ってしまう。完全に手加減されて遊ばれて、その上で完敗だ。

 仲間だとすら思われていない。アイツから見た俺は庇護の対象であり、足でまといだった。

 

 

「あんなやつ、勇者じゃなくなっちまえばいいのに」

 

 

 不意に口から漏れたその言葉を、嘘だと否定することは今の俺には出来なかった。

 どんなに認めようとしなくても、俺は結局アイツにずっと嫉妬しているんだと、目を逸らしていた醜さが波のように押し寄せて全部塗りつぶしてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








・リスカ
Sに偽装した真正の被虐体質。何事も受け身で自己というものを表に出すのが苦手。

・ホシ
Mに偽装したドS。穏やかに見えて一番苛烈。管理願望があり、相手の全てを知悉したいと思っている。

・スーイ
Sよりに見えて本人はM。スパルタに見えて一番甘い。感情表現に関してはリスカよりも下手くそなオーバー2000。

・ギロン
クソマゾ。被虐体質というかあらゆるものを自分から摂取しに来る。一番優しくて一番ドライ。


・従者くん
多分リスカのことは好きだけど嫌い。





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