勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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魔術師さん走る

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ待って!? これ今どういう状況!?」

 

「魔王軍幹部に狙撃されてるところかな。うん。ちょっとやばいねこれ」

 

「それはさっきも聞いた。俺が聞いてるのは、なんで()()()()()()()()ってことだよ!」

 

「君は狙われてないから安心していいよ!」

 

「わかってるけど! 傷つくから言わないで! わかってるけど!!!」

 

 されど彼の疑問は最もだと、結界を構築する手を止めずにスーイは思考を重ねていく。

 相手は間違いなく、以前にも自分を狙撃してきた魔王軍幹部だろう。一撃目の狙撃魔術のクセでそれは見抜いたがそうなれば恐ろしいのはリスカ達の方。

 

 戦力を結集させるなら向こうにだろう。リスカ達を抜いても今向こうには人類の精鋭達が揃っているのだ。残りの魔王軍幹部は恐らく3体。この状況は魔王がそのうちの1体をたった1人相手に割く余裕がある、と判断したことに他ならない。

 すぐに戻って状況を確認したいところだが、今のところ『彼』がいる。翼を使えばこんな距離一瞬であるけれど、それは彼に全てを見られることと同義である。

 

 そもそも、自分が翼を広げて逃亡すればほぼ間違いなくこの狙撃手は彼を射殺する。それを避ける為に理想は相手の狙撃地点を把握し、こちらも狙撃で相手を倒すことなのだが……。

 

 

「いやぁ、凄い腕前の狙撃魔術だねコレ。魔族にも魔術の体系的な書物があったりするのかな? それとも口伝? 少なくともこれは一代で為せるモノじゃない。異能との合わせ技かな? 一発ごとに射撃位置と思われる場所が大きく変わっていて追うのも予想するのも困難、しかもこれ物質依存系じゃなくてエネルギー系の射撃かぁ。エネルギー系は短距離向けなのに狙撃でコレを使ってるのはもしかして私と同じく繋がりを追う類の術を警戒してるのかな? それとも証拠を可能な限り残さないためか。あとこれ防御系の魔術と生体に対してのみに威力を絞ってるから……」

 

「スーイ、スーイさん! 戻ってきて! 今マジでやばうわぁっ!? 結界破られたぞ!」

 

「ありゃ仕方ない。姿隠しはさっきやって意味なかったから走るよ!」

 

 

 そう簡単にやらせてくれるほど向こうも甘くはない。どうしたものかと脳みそを捻ってみる。果てさて、本当にどうしたものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何アイツら……狙われてる獲物の自覚がまるでない」

 

 羽根のように背中から伸びる長い腕を持つその魔族は、望遠鏡(スコープ)越しに逃げる獲物を眺めながら苛立ちを隠さずに吐き捨てる。そもそも白一色のその部屋に彼女以外の生物はおらず、独り言にしてはあまりに大きく尊大だ。

 

「やっぱ私なんかじゃ力不足ってことかな。きっとそうだ。私がクソエイム晒してるから油断しているんだ。もうダメだおしまいだ。確実にアイツらに逃げられる。私は前もそうだった。あの空飛ぶ精霊(エルフ)は絶対殺したと思ったのに殺せてなかったし魔王様の顔に泥を塗るのが得意技の泥パック職人か? 死ねよ」

 

 尊大かと思えば、今度は勝手に卑屈になる。射撃に特化した形に変化した背腕の内の一本、狙撃銃のような形態のそれをこめかみに押し当てて魔力を込めようとする。

 

「ごめんなさい魔王様。私はこれ以上貴方の覇道を阻む泥沼になってしまう前に潔くこの生に終止符を打ちま──────」

 

 魔力を射出する瞬間、彼女の目に止まったのは紙に視覚情報を写し出す魔術によって作られた、魔王の肖像画だった。白一色のその部屋でそれだけが色を纏って何よりも目立つように配置されていれば、どんな時でも自然と目に入るのは当然のことだろう。

 

「そうだ。私は任されたんだ。魔王様に任された。アグネでもラクスでもなく、私に任されたんだ。この私、魔王軍幹部、『迷宮』のヒルカに任してくれたんだ」

 

 初めて異名()を貰った時のことを思い出す。

 自信満々で名付けてくれた割にはちょっとダサいなとか思ったりもしてしまったけれど。それでもこの『迷宮』の異名は世界で只ひとつ、自分だけが魔王様より賜った大切な大切な繋がり。

 

「何も考えるなヒルカ。お前は決めたんだろう。魔王様の敵になるものを全て穿つ為に、それ以外の全てを捨てると──────決めたんだ」

 

 白い部屋の中心に座り込み、目標の位置を確認する。木々が生い茂る森に逃げ込まれ視界は最悪。観測は困難、ついでに向こうは機動力がかなり高く狙撃されることに慣れている。おまけに一度、こちらの狙撃はあの精霊(エルフ)に対して失敗している。

 

「はぁ……。ちょっとこれはあまりにも……」

 

 狙撃手として完成されたその魔族の体は狙撃に必要な要素を全て計算し、1つの結論を弾き出す。

 

 

 

「イージーモード。一昨日来やがれですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スーイの、と言うより精霊(エルフ)には痛覚が薄い。より正確に言えば『危機感』が薄いのだ。腹に風穴を空けられようとも別に放っておけば治るのだから痛みを感じる理由もない。

 

「……痛い、えぇ!?」

 

 右足に風穴を作られて発生したその痛みに、スーイは本当に心の底から驚いた。

 

「スーイ、足!」

 

「気にしないで。これくらいなら、まだ走れる」

 

 走れることには走れるが、それでも痛みと脱力感で全速力とはいかない。

 そもそも、スーイは常に全身に魔力による防御を纏っている。これを初見でぶち抜くのなんて祝福や異能の力を考えなければ相当な腕の魔術師以外には不可能だし、潜り抜けたとして見た目以外はこの世界のあらゆる生き物と構造の違う精霊(エルフ)の足が動かなくなるように的確に狙撃を行い、しかもそれを当てるとなればそんな魔術師はこの世界に自らの師匠以外存在しないと思っていた。

 正直ちょっと興奮の方が強くなってきていたが、これはどうにかしなければ自分以外、特に今も後ろをついてきている彼も殺されるかもしれない。

 

「ねぇ、狙撃手の姿確認できた?」

 

「こんなこと言いたくないけど、スーイに見えないものが俺に見えるわけがない!」

 

「だよねー……知ってた」

 

 まず最初に狙撃系の異能を持つ相手で、魔術による移動を使っていることを考えた。

 だが、瞬間移動は短距離でもかなり複雑な術式だし、使えば当然痕跡が残る。その痕跡を辿って見つけてやればあとは転移直前に術式に介入して地面にでも埋めてやれば終わるのだが世の中上手くはいかない。

 

 予想される狙撃地点を遠視で確認しても痕跡ひとつないのだ。こうなればスーイの自動防御をぶち抜いてくる狙撃は本人の腕であり、移動の方に異能を使っていると考えるしかない。

 

「その、結構足から血が出てるけど大丈夫なのか……?」

 

「うん。気にしないで。とにかく今は足を止めない方が重要だ」

 

 スーイの視点から、今のところ不可解な点は2つ。

 まず相手がどのようにこちらを視認しているかだ。現在スーイ達は元いた道を離れ、深い森の中に逃げ込んでいる。幾ら高台に陣取って俯瞰してもこれを見つけるのは無理があるだろう。魔術を使わずに本気で隠密したスーイを魔術的に見つけることは不可能に近い。

 そして2つ目は先程から考えている狙撃方法だ。1発1発撃つ事に狙撃地点がありえないほど変わっている。その上痕跡は無い。

 

 この2つのどちらかが異能、または両方異能による力だろう。これだから、とスーイは異能のことを考えて大きくため息を吐いた。

 基本的に祝福や異能は『なんでもあり』。物質強度を無視した切断や運動量の強制奪取、条件を満たした物質の自由操作。論理的な考えは無駄、積み重ねた美しさが無いからあまり好きではない。

 

「でもまぁ、面白くはあるよね」

 

「スーイさんってば、本当にそんなこと言ってる余裕ある!?」

 

「ないよ」

 

 あらゆる物質を切断する能力を転じて自身の肉体に降りかかる切断を伴う現象を全て否定したりする者もいる。与えられた力に驕らず研磨を続けるその姿勢は非常に好ましい。今戦っている相手もその類だろう。そうでもなければ自分がここまで追い詰められることもあるわけが無い。

 

「ないって……じゃあ尚更どうにかする方法を考えなきゃ」

 

「ないんだよ、どうにかする方法が」

 

「……諦めるってことか?」

 

「違う違う。この状況を作った時点で相手の『勝ち』ってこと」

 

 もしもここにいたのが自分とリスカ、ホシ、ギロンの誰かだったら。もしも自分達がこの道を通っていなかったら。もしも、もしも、もしも。様々な可能性が考えられる中で敵はその最善を引き寄せて見せた。

 

「私とて魔術である以上は狙撃に心得はある。けれど、相手は私が魔術に全てを賭けてきたように、()()()()()()()()()()()。そうである以上、この状況の時点で向こうの勝ちだ。……認めたくないけれどね」

 

 だからって負けだ負けだと諦めて脳みそぶちまけるのを大人しく待てるスーイでも無いし、勝てるかもしれない策がだいたい10個くらい思いつく。でもそれはどれも今この場で『骸天苅地(エスパシオ・ネゴ)』を使う必要が出てくる。

 

 それは、なんか嫌だ。

 だって彼に見られるし。正直カッコイイ翼だとは思うけどどっちかって言うと可愛くてクールな自分にはあんまり似合わないと思っているし。男の子はああいう無骨(ゴテゴテ)な兵器はギロンみたいな女が持ってる方が好きそうだし。

 

 あと使ったら前に師匠として一度会ってることも多分バレる。それも嫌だ。ずっとこうしてついてきてたのがバレたら情けないし恥ずかしいし、もしかしたら彼本人が自分の努力をどこかで『彼女(スーイ)のおかげ』と否定してしまうことに繋がるかもしれない。

 

 だから、翼は使いたくない。

 それはスーイにとって、スーイが人生を楽しむことにおいて最も重要なこと。簡単に譲れるような理由では無いのだ。

 

 

「うーん……ほんとどうしようかねぇ」

 

「なんか軽いけど、これもしかしなくても絶体絶命だよな?」

 

「うん。まぁ君はしばらく大丈夫だろうけど私が死んだ後敵としても生かしておく理由ないだろうからね」

 

「頼むからもう少し真面目にやってくれよ……俺はついさっき、スーイのおかげでここで死ねない理由を見つけたばかりなんだから」

 

「失礼な。私はいつだって大真面目だよ。特に魔術が絡んでる時にこの世界で私より真面目なやつなんていないと言っていいくらいにね」

 

 実際スーイは口調こそ軽いが意識の殆どを思考と検証に費やし、どうにかして敵を倒す方法を練っていたがやはり前提条件が悪過ぎる。

 一方的に、相手の得意な戦場で、相手からの不意打ちで始まった戦闘。むしろここまでちゃんと生きてるのが奇跡だろう。

 

「……俺に協力できること、なんかある?」

 

「あるけれど……やったら死ぬ確率がだいたい半分だよ?」

 

「なんもやらなきゃ100%死ぬなら十分すぎるな」

 

 この人間に聞くだけ無駄だったと、にやけそうになる口元を必死に抑えて作戦の内容を話す。彼はいつだって諦めない。どんな時でも君は全力で生きて、全力で壁を乗り越えようとする。短い一生をさらに燃やし尽くして、彗星のように美しく空を駆ける。

 

 

 

 

 気が付けば、口元にあった熱はすっかり冷めてしまっていた。その理由を私は自覚できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘ぉ…………なに、え、頭おかしいんですかぁ?」

 

 白い部屋の中で、敵の姿を捉えていた魔王軍幹部、ヒルカは目の前の光景が信じられずに一応頬を抓って、目を擦って、幻覚が十八番の仲間であったノティスが死んだことを思い出して。とにかくあらゆる方法でこれが夢ではないことを確認した上で改めて突きつけられた現実にため息を漏らした。

 

 

 魔王様には確かに『精霊(エルフ)の魔術師』と『これといって特徴のない人間』の2人組の両方を殺せと言われていたけれど、優先するのは精霊(エルフ)の方と言われていたし、事実精霊(エルフ)の方が明らかに優先するべき敵、むしろ精霊(エルフ)の方は人間の方を庇っているようにすら見えたから人間はまず殺さないようにしとこうさえ思ってたのに。

 

 

 人間の方が

 これといった装備もなしに

 無防備に飛び出してきた。

 

 

 これはもしかして丸腰の人間一人を射殺できない雑魚だと侮られたのだろうか? そうだ、そうに違いないと勝手に思い込みもう一度自殺しかけたところでなんとかヒルカは正気を取り戻す。

 

 張り巡らせた『目』を使っても魔術師の方は捉えられない。比べて人間の方はどの『扉』を使っても射抜けるってくらい格好の位置に飛び出してきた。両手を挙げて、降伏でもしているかの様子。これを撃たなくていつ撃つんだというような絶好の獲物。

 

 

 

 どっからどう見ても()()()()()

 

 

 

 そんなことはわかっているけれど、じゃあどうするかが問題だ。こうしている間に姿の見えない魔術師がなにか企んでいるかもしれない。魔術を使えばすぐにこっちでその反応から座標を読み取って狙撃ができるが、その準備が祝福や異能の準備だったなら時間を作らせるのは危険だ。

 

 まさかこの人間を捨てることにしたのか? 

 でもその割には直前までの行動があまりにこの人間を庇っていた。

 急に思考を変えた? 

 この状況ならそれもありえなくはない。

 

 でも、だけど。

 コイツらはあの『切断』の勇者の仲間だ。そんな甘えた考えを持ったヤツらがエウレアを、ベルティオさんを、グレイリアを、ノティスを倒せるわけが無いし、魔王様が直々に殺すように言ってくるわけがない。

 

 だからコイツらは諦めていない。最後の最後まで、コチラの首元に食らいつく闘志を失わない。ヒルカの遺伝子に刻まれた人間という獲物の恐ろしさがはっきりと、両手を挙げて照準のど真ん中に映るその人間の瞳の炎に警鐘を鳴らしている。

 

 

「こちらとしても逃げ回られるよりはよっぽどいい。一撃で楽にしてやりますよ」

 

 

 敵の作戦として考えられるのは一つ。

 的を出して、ある一点の局所防御でコチラの弾丸を受け止める。恐らく魔王様が名指しで殺害するように言うほどだ。実態のないエネルギー弾だろうがなんだろうが一瞬でも受け止められれば捕まえられるだろう。

 だが、その対策は済ませている。現存する防御系の魔術ならばヒルカの狙撃は全て貫ける。それが魔術によるものの時点でそれは問題ない。だが、本当の本当に狙いを一点に絞って、超局所に術式を集中させて効果を高められれば分からないかもしれない。

 

 

 ではどこを狙えばいいか。

 普通に考えれば頭か心臓だ。当たれば死ぬし安牌だろうけど、多分向こうもここに防御を集中させてくる可能性が高い。半分の確率で殺せるなら悪い賭けではないし……と、安易に撃とうとしたところでヒルカの中の妄想(イマジナリー)魔王様が声をかけてきた。

 

『ヒルカ。無駄弾はよくないよ。相手は確実にその『無駄』からアナタの喉を食いちぎりに来る』

 

「さすが魔王様……的確なアドバイスだぁ……尊敬してしまう」

 

 急いては事を仕損じるとは人間の言葉だったか。それでも今はそれが正しいのだろう。ならば狙うは足、それも大腿が良いだろう。あの魔術師がこの人間を庇っているなら尚更だ。コイツを歩けなくすれば向こうを仕留めるのも楽になるし、大腿ならば出血多量で殺せるかもしれない。治癒なんて悠長な隙を見せれば射殺されることは向こうもわかっているはずだ。よし、大腿だ。利き足を狙いたいところだがそれも読まれていそうだから左脚を……。

 

 

『本当に、それでいいと思うの?』

 

「魔王様ッ!? いやお前は魔王様じゃない! いや魔王様!?」

 

『落ち着いてヒルカ。とりあえず、ここで仕留めにいかないというアナタの考えはとても正しい。けれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「た、たしかに……すごい説得力だ……」

 

 

 妄想(イマジナリー)魔王の発言は全てヒルカが考えたものであり、本物の魔王は全く関係の無い、れっきとしたヒルカの思考なのだが彼女はこうでもしないと自分の考えに自信が持てない。

 ヒルカという魔族は自分が好きではなかった。『迷宮』の異能は狩りに役に立ったし、一族で受け継いできた狙撃の魔術があればきっと生きることには何も困らない。()()()()()()。この世界にいてもいなくても誰も困らない、何も影響しない、誰とも関われない、関わる勇気もない、迷宮に閉じこもった自分に関わってくれる者もいるわけが無い。

 

 

 

『うひゃー、すごい迷宮だった。あ、キミがここの主かな? ワタシは魔王。いきなりだけど、私の──にならない?』

 

 

 

 そんなことを言いながら、このカビ臭くて薄暗い趣味の悪い迷宮を歩いて突破してきてくれたあの方の期待だけは、絶対に裏切りたくない。

 どれだけ自信がなくても、どれだけ自分を矮小な存在だと思っていても。それを理由に卑下することは期待してくれたあの方への裏切りだ。

 

『ヒルカはやれば出来るんだから。いつも余計なことを考えすぎなの。もっと肩の力を抜いて、ね?』

 

「──────了解」

 

 考えすぎと言われたならば考えるのをやめよう。

 ヒルカはその瞬間、本当に何も考えなかった。ただ敵を見て、ただ術式を起動して、弾を放ち、鮮血が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『限界は三箇所だね。君の体の三箇所に座標固定で防御術式を貼っとく。ただこれをしている間は私は魔力の漏れを誤魔化すのと術式の維持とかその他諸々で他は何も出来ない』

 

『つまり賭けってことだろ。三箇所も貼れるなら十分勝ち目はあると思う』

 

『それで? 場所はどうする?』

 

『両足の大腿と心臓で頼む』

 

『…………頭は?』

 

『狙わない。向こうが狙わないに賭ける』

 

 

 心のどこかで今回も大丈夫だろうと思っていた。

 だって、彼はすごい人間だったから。私は彼のことがすごくすごく大好きで、キラキラ輝くお星様のような人だから、きっと今回も大丈夫だと、根拠もなく思ってしまった。

 

「──────あ」

 

 敵の狙撃が貫いたのは、彼の肩だった。

 腕がちぎれなかったのが奇跡のような重傷。失血、痛みと衝撃で意識のない体。赤色。

 

「なんで……」

 

 当然、覚悟していたはずだ。

 師匠みたいなすごい人でも、死には逆らえなかった。普通の人間である彼ならば尚更であろう。いつかその日が来てもグズってグズって、ずーっと泣き続けて我慢してやろうと、寂しく思いながら覚悟していたのに。

 

 いざ失うかもと、再び目にした時に思った。

 これはダメだ。耐えられない。自己の歪みとかそういうレベルのものでは無い。

 

 倒れた彼を庇うように立って、続け様の狙撃を胸に受ける。一個核が壊されたけどまだ大丈夫。背後で彼は意識を取り戻して、肩の痛みに耐えながら立ち上がろうとしている。

 この状況でも諦めないなんてやっぱり面白い、楽しい、とても綺麗。でももしかしたらそれがここで死んでしまうかもしれない。

 

 

 死ぬ。

 死、死、死。明確にイメージすればするほど今まで感じたことの無い何かが込み上げてくる。

 師匠が死んだ時、エウレアに彼が殺されかけた時、その時も込み上げてきたけど無視していた何か。でももう耐えられない。

 

 

 ずーっと我慢していたけれど、リスカと話している時の少し幼い表情に戻った君もホシと喋っている時の楽しそうな君もギロンと喋っている時のいつもより大人っぽい君も魔族と戦ってる時の真剣な君も地面に花を見つけて何となく踏まないようにしていた君も石ころに特に意識を向けていない君も。

 

 

 

 全部、妬ましかった。

 君の全てを、私だけのモノにしたかった。

 

 

 

 愛が花咲く。

 大切な人に教えて貰った在り方が、本能に侵食されていく。

 

 

 

 

 それは日記を紡ぐ少女のような愛。

 日記の中に綴られていた、夢見がちで恐ろしいその愛の在り方は外に溢れれば宝物を閉じ込める暴龍の如き、あまりに強欲な恋だった。

 

 

 

 

 

 

 

「──────拓け、『骸天苅地(エスパシオ・ネゴ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 







・従者くん
この作品で上から数えた方が早い強めのメンタルを持つ。

・スーイ
この作品で下から数えた方が早い弱めのメンタルを持つ。肉体や魂の位が違うので本当の意味でこの生き物の『人生観』を変えることはできない。どれだけ焦がれようと人とは根本的に違う生き物。

・ヒルカ
リスカの次にメンタルが弱い。カスみたいな自信をイマジナリー魔王様で補完することにより生命活動を可能としている。


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