勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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英雄転生後世成り上がり読んでたんで1回くらい転生しても怒らないでください。







裏切りもの

 

 

 

「どれくらい寝てました妾達?」

 

「3分も経ってないよ。ホシは?」

 

「まだ寝てますわね。おーいホシー。もう朝ですわよー」

 

「うに……あと10秒だけ……ほんと疲れてるんですよ私」

 

 スーイはほぼ全快、ギロンは7割、ホシは5割。これくらいならば最低限戦闘は行えるだろうというくらいには回復したが、これからを考えるとこれではまだホシは不安だった。

 

「これから魔王と戦うんですよ? 魔族の王、いくら準備はしてもし足りないでしょう」

 

「いや倒しましたわよ?」

 

「……まだ寝ぼけてるんですかギロン」

 

「ホシに言われたくありませんわね。殺しましたわよ、魔王」

 

「は?」

 

 一応頭がイカれてないか、以前治してあげた瞳伝いに脳を確認していつも通りイカれていることを確認し、やっぱもう一度壊れてないか確認してからとりあえずホシはギロンの頬を一発はたいてみた。

 

「……嘘ではないみたいですね」

 

「なんで妾の頬叩きました?」

 

「スーイ、フリーフォールをギロンにやってあげてください。かなり悲しい妄想をしちゃってるみたいなので」

 

「はーいっと。じゃあギロンちょっとお星様に近づこうね〜」

 

「もしかしてアンタら妾になら何やってもいいと思ってます?」

 

「何しても常に我が道を行ってるアンタが悪いと思うんですよ」

 

「でもそういうところがギロンの良いところだと私は思うから誇っていいよ。これからもどんどん我が道を進みな」

 

「さすがスーイは話が分かりますわね」

 

「はいはいダメ教師とバカ弟子でダメバカゾーン作らないでくださいね」

 

 そんな冗談はさておき、ギロンは確証のないことを断言……したりは、たまにするがそれはそれとして彼女は卑しくも誇り高いケダモノだ。魔王を『殺した』と言ったならば、それは確実に殺している。何かを乗り越え、上回り、奪うことで生を実感する彼女だからこそ、その辺の直感は誰よりも正しい。

 

「じゃあリスカはどこ行ったんですか……。説明もせず勝手に走って行っちゃったんですよアイツ」

 

「ホシの探知に引っ掛からないんですの?」

 

「そこまで広範囲は私も無理です。スーイが飛び回って索敵かけた方が早いんじゃないですか?」

 

「そだね。ま、大方残党狩りだと思うよ。魔王が死んだとなれば、やけっぱちでとりあえず1人でも多く人間を殺そうとする魔族とかもいるかもみたいな感じで」

 

「リスカはそんな柄じゃないですわよ。残党狩りとかそういうことやれるような子じゃないですし」

 

「とりあえず、残党とリスカの索敵を続けましょう。まだ敵戦力がどれくらい残ってるかいまいち判断がつかないので、慎重に…………ん?」

 

 

 最初にそれに気がついたのはホシだった。

 純粋な視力と言うより、探知に関しては敏感な故に直感的に気がついたという方が正しい。

 

「あれ、リスカですわよね?」

 

「リスカだねぇ。なんでドレス着てるの?」

 

 さすがに見間違えるはずがない。と言うか見間違えられるような『圧』じゃない女が3人の視界に映った。

 普段の動きやすさしか考えてない軽鎧を脱ぎ、髪色と同じ色の真っ赤なドレスに身を包んだその女性は、間違いなくリスカ・カットバーンである。

 

 ある、はずなのだが。

 最初にギロンが一歩後ろに下がり、続いてスーイが信じられないものを見るような目で見て、最後にホシがあまりの衝撃に言葉を漏らしてしまった。

 

 

 

「めっちゃ笑顔じゃん……」

 

「気持ち悪いくらい笑顔ですわね……」

 

「え、なにリスカの表情筋ってあんな表情作れるの?」

 

 

 

 

 リスカ・カットバーンという少女はとにかく笑わない。まず笑いのツボがズレているし、次に死ぬほどマイナス思考な人間である。そして極めつけはそもそも彼女は戦うのが大嫌いな臆病な人間であるために基本的に勇者なんてものをやらなければならない時は常に不機嫌。故に、常に一緒にいるホシですらリスカの笑顔というものは、それこそ本当に一度くらい、海で心底はしゃいでた時くらいしか見たことがない地味なレア物。

 

「ん……貴方達さっきの……」

 

「何やってたんですかリスカ。と言うか、そのドレスと笑顔なんです? ドレスはほんといいとして笑顔。何?」

 

「リスカ……あぁ、私の知り合いなんだ」

 

「はぁ? 知り合いも何もこちとらアンタの命の恩人で……いや、ちょっと待ってください」

 

 さすがに、ここまで積み重なった違和感にホシは気がついた。

 合流してから様子が少しおかしいと思っていたがここまで来れば決定的だ。

 

「もしかして、記憶失くなってますか?」

 

「うん……ごめんね。知り合いなのかもしれないけど、全然覚えてないんだ。そっちのおっきい人と、耳の長い人も知り合いなのかな?」

 

 申し訳なさを誤魔化すように、困った笑顔を浮かべるその表情を見て一瞬で嘘だとわかった。少なくともリスカ・カットバーンと言う人間なら演技でもホシ達にこんな表情を向けられない。というか向けてきたら気持ち悪いので向けてきて欲しくない。

 

「はぁ〜〜〜。もう、何やらかしたんですかこの馬鹿は。スーイ、なんか分かります?」

 

「さすがにまだなんとも。とりあえず検査するから一旦裸になってくれる、ギロン?」

 

「この流れで妾が脱がされるのはマジで意味が分からねぇんですわよね。ひょっとしてギャグか何かでして?」

 

「よくわかったね。ほら、リスカが記憶飛んで可愛い感じになっちゃってるから雰囲気を和ませようとね」

 

「じゃあ本当に脱がせようとするのやめてくれます? スーイは冗談か本気か分かりにくいんですわよあ、ちょ、そこ触られるのは恥ずかしいんでやめて!」

 

「えぇ〜? 体に恥ずかしい場所なんてないんでしょ〜? 良いでは無いか良いでは無いか。前々からその鍛え上げられた体、じ〜っくりと触ってみたかったんだよね」

 

「初めては好きな人に触ってもらいたいんですわようぎ〜っ! 触れるなぁ〜ッ!」

 

「アンタら人を笑わせる才能ないのでそのまま空気にでも死ぬほど面白くない絡み合い見せててくださいね。ほら、リスカの表情見てくださいよ。これ憐れみですよどう見ても」

 

「いや、その、ごめんなさい。いつもこんなのならちょっと可哀想だなって。頭が」

 

 微妙に居た堪れない空気になり、取っ組み合いになってるスーイとギロンを不安そうに眺めているリスカと、ゴミを見るような目で眺めていたホシの目が合う。

 目を逸らすのも失礼だと思ったのか、そのままじーっとリスカはホシの顔を見つめ、先に恥ずかしくなったのかホシの方が目を背けると同時に、リスカがくすりと笑った。

 

「……なんですか。私だってアンタくらい顔の良い人間にずっと見つめられたら少しはこそばゆいんですよ。それとも、本当は記憶があってからかってるのを楽しんでるんですか?」

 

「あ、違うんです。みんな、私のこと心配してくれてるんだなって何となく伝わってきて、本当に私なんかに仲間がいたんだなって思うとなんだか嬉しくて……それに、皆さんとってもいい人そうで安心しました」

 

 屈託のない、心の底からの柔らかな笑顔を見せるリスカ。

 こんなに楽しそうに、何も気にせず笑っている普通の女の子の顔だなんて、ホシもスーイもギロンも久しく見てはいなかった。

 

 

「「「気持ち悪……!」」」

 

「やっぱ貴方達が私の知り合いって嘘じゃない? 全員吐瀉物みたいな性格の悪さが滲み出てきてる気がしてきた」

 

 

 それでも、記憶が無くなるって割と重大な異変のはずなのに、心配しつつも慌てずに、こんな最悪な態度を取ってくる相手なのに、なぜだか不思議と悪い気はしなかった。

 

 正確に言うと腹立つし一発くらい殴りたいと思ったが、それを突き詰めるとなんだか今の綺麗なまま終われそうな雰囲気が壊れそうなのでリスカ、と呼ばれた少女はそれは言わないでおいた。

 

「とりあえずさっさと帰ってリスカ治しません? このままだと本当になんか、胸の奥がムズムズしますし」

 

「ん、いやまだ終わってないでしょ? まだ倒さなきゃいけない相手が残ってる。殺さなくちゃいけない相手が残ってる」

 

 だから心の底から安心した。

 自分にはあの人だけがいればいいと思っていたけれど。念には念を、仲間は多ければ多いほどよい。

 

「あ、そう言えば魔王とか見ました? 一応、ギロンに確認しましたけどリスカにも聞いておこうと」

 

「うん見たよ。それがどうかした」

 

「……………………はぁ? どうかしたも何も──────」

 

 

 

 

 

 少女が言葉を紡ぐ。

 空白の中には、よく聞いた、忘れるわけのない名前が刻まれていた。

 

 

 

「それより早く『‌ ‌ ‌』を殺しにいこう。全部、終わらせないと」

 

 

 

 

 

 

 

 顎。

 獣の顎のように思えたそれは、ギロンの手だった。相手を掴んで離さないと、筋肉の出力の限界を込められた一撃がなんの迷いもなく繰り出された。

 貫手でもなく、拳でもなく、掴むようなその手。

 

 手加減、優しさ、躊躇。そんなものが感じられるかもしれないその挙動。

 

 

「……なんだ、やっぱり嘘だったんだね。そうだよね、私なんか、あの人以外に好きになってくれるわけが無いもんね。こんな私」

 

「何ごちゃごちゃ言ってますの? 嫌われるのは人の逆鱗を逆撫でしたからだって理解も出来ねぇコミュニケーション1年生が分かった口聞いてるんじゃねぇですわよ」

 

 

 逆だ。

 ギロンにとって『掴む』という行為は相手から確実に全てを奪い取り、何もさせずに殺す最大の殺意の表れ。慈悲は一切なく、殺すことだけを考えた行動。それを避けて当然とばかりに躱し距離を取ったリスカを、ホシはスーイに抱えられて距離を離された状態で見ていた。

 

「え、なに、どういうことです……? は?」

 

「ホシ。悪いですけれど、さすがに今は貴方の判断の遅さに呆れますわ。わかるでしょう? あの子は、絶対に口にしてはいけない事を口にした。それで十分」

 

「でも、何かの間違いや、それこそ洗脳……」

 

「間違いでも、リスカがそんなこと口にする?」

 

 それこそありえない。

 天地がひっくり返って、何もかもが狂ってしまったとしても。リスカ・カットバーンのあの想いだけは決して変わるものでは無いと、一番近くで見続けた3人だからこそ。

 

 ホシは困惑するしか無かった。

 スーイは目の前の敵の背後を睨み付けた。

 ギロンは不機嫌そうに拳を握り締めた。

 

 

「……あんまり戦うのは好きじゃないけど、仕方ないか」

 

 

 剣を構え直し紅のドレスを翻す。

 間違いなく最強の敵。道を切り拓く勇者の剣がそのまま襲い来る牙に転ずる。

 

 

 

()()()()()、『切断』のリスカ。魔王様(あのひと)の命令の邪魔をするなら、誰であろうと私が切る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、着替えましたけれど……なんでドレスなんですか?」

 

「それは昔ワタシの部下が私用に異能を使って編んでくれた特殊な衣服だよ。ワタシよりも、キミの方が上手く使えるはずだ」

 

「そういう事じゃなくて……こんな格好、私に似合わないと、変じゃないかなって」

 

「いや、その服、()()()によく似合ってると思うよ」

 

 そうやって、いつも私が何考えてるかなんて知らないで、貴方は私まで笑顔になってしまうかのような笑顔を浮かべてくれる。貴方の想いの確認作業のようなこの行為に、どうしても幸福を感じてしまう愚かな自分がいる。

 

 リスカ、という名前が自分のモノなのかすらわからないけれど。

 貴方にそう呼ばれるだけで鼓動に篭もる力が増していく。だからきっと、私は『リスカ』なのだろう。

 

 魔王軍幹部。『切断』の名を賜った、1人の戦士。

 戦うのは好きじゃない。どこか怖いと思う自分がいるけれど、貴方の為ならばきっと私は頑張れる。

 

 

「リスカ。キミが二度と戦わなくてもいいように、絶対に殺さなくちゃならない相手がいるんだ」

 

「それは、貴方が殺したい相手ですか?」

 

「……そうだね。ワタシは、きっとカレを殺したいんだよ」

 

 ならば私も頑張らなくちゃ。

 魔王様が喜んでくれるなら、魔王様の隣に居られるなら私はどんなことだって出来る。運命も使命も、何もかも捨ててでもそうやって行動出来る。

 

「殺さなければならない相手は、リスカ自身が覚えているはずだ。きっとキミならどこにいるかもわかる。キミだからこそ、絶対にその相手を間違えることは無い」

 

 そう言われて、ほとんど欠けてしまった記憶を探る。

 思い出も何も無いけれど、胸にあるのは魔王様への絶大な信頼と……直視できないほどに渦巻いていた殺意だった。

 

 こんなドロドロとしたものを抱えて呼吸していたことが信じられない。生存の理由の全てを捧げていたんじゃないかという程のその殺意に、一瞬だけ魔王様への気持ちすら全て忘れそうになる。なんだこれなんだこれなんだこれ。

 

 存在を許せない。

 実在を認められない。

 

 その、自分と同じくらいの歳に見える人間の青年。

 それを殺す為に私は生まれてきたのだと確信できる程の殺意に駆られ、私は魔王様の元を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたらなんか縛られてた。

 この縛り方はすごく身に覚えがある。とりあえず犯人はほぼスーイで間違いないだろう。縄自体は簡単に解くことが出来たが、周囲に結界が張られている。

 

「破るのは、無理そうだな」

 

 幾らなんでも、スーイが本気で張ったであろう結界なんて破れる人間の方が少ない。悔しいが、出し抜かれてしまった自分が悪いだろう。大人しくスーイが結界を解いてくれるのを待つしかない。

 

 待つしか、ないのだが……。

 

 

「リスカにホシ、スーイ。大丈夫かなぁ」

 

 

 待つしかないとわかっていても心配なものは心配だ。ギロンは心配しなくても大丈夫だろうが。

 そうやって考えれば考えるほど、やっぱり待っているだけというのは性にあわないと理解していく。無駄だとわかっていてもやるのが俺の利点であり欠点であるのは、師匠のお墨付きだ。剣の方が折れるかもしれないが、それでもやってみるしかないだろう。

 

「せーのっ」

 

 ダメ元で叩きつけるように剣を振ってみる。

 結界に剣が触れると同時に、結界どころか空間そのものが『切断』される。そんな音が響いた。

 

 結界が切れたとかそんな次元じゃない。空気も地面も何もかも、その剣筋の延長線にあるあらゆる物質が最初からそうであったように分断され、繋がりの全てが解かれていた。

 

「やば……これが『神断祈泡(セレネ・ヘスペリス)』かぁ……。改めて思うけど、敵に回したくないなぁ」

 

 雪のように結界が溶けていく景色の向こうで、そんな声が耳に届いた。

 赤色の髪、夜明け色の瞳。何故だか思い出したのは、黄昏に佇む幼馴染の姿。

 

 

「キミがリスカの従者で間違いなさそうだね。ワタシの事は好きなだけ恨んでくれても構わない。だから、ごめんね」

 

 

 そうして近づいてきたその影を見て、俺は思わず声を漏らしてしまった。

 

 

「…………エオス?」

 

「…………他人の空似だと思ってたけど、本当にキミかぁ」

 

 

 以前、まだ俺が1人で魔族と戦っていた頃に出会った赤髪の凄腕剣士。エオス・ダクリの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






・従者くん
久々の登場。旅の途中で出会った人の顔はだいたい覚えている脅威の記憶力を持つ。ただし女の子の顔は中途半端に忘れる。


・魔王
エオス・ダクリは名前を付けられなかったので色々あって異能の名前をそのまま名前にした。



・リスカ
魔王軍幹部。魔王様のお下がりのドレスはとても大切。ついでになんか色々機能がついてるらしくお気に入り。なんでかはよく覚えてないけど、魔王様のことが好き。誰かを死ぬほど憎んでいるが、なんでその相手を憎んでいるのかもよく覚えていない。




またまたにぼしみそ様にを描いて頂きました。
ホシこと美少女神官ホットシート・イェローマムです。瞳のホシが可愛いくて細部にこだわって描かれてるのでぜひ拡大して見てみよう。

【挿絵表示】





好き

  • リスカ
  • ホシ
  • スーイ
  • ギロン

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