勇者は従者を追放したい   作:ちぇんそー娘

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勇者は従者と一緒にいたい

 

 

 

 

 

 

「今年もまた、この日が来ちまったな……」

 

 憂鬱な気分を隠すことも出来ず、沈みきった声を漏らしながら誰も入っていない墓に花を添えて祈る。死体はスーイが徹底的に燃やした後にホシが分解し、一応ギロンに食わせたのだから残っているはずもない。なんでギロンに食わせたんだっけ。

 

 まぁとにかく、だからこの墓は形だけであり殺した本人である俺が祈るのも何もかも間違っている。

 そもそも、俺なんかに祈られても魔王は毛ほども嬉しくないだろうが。別に魔王にどうこう思われたくてやってる訳でもない。

 

 祈りたいから祈る。

 最初はそれに思うところがあって毎月のように悩みながらも花を添え祈っていたが、もう三年も経てばさすがに気持ちも整理出来てくるというもの。

 

「アンタも飽きないねぇ。三年近く毎月、決まった日にその墓に祈って。結局誰の墓なんだい?」

 

「大っぴらに言えるやつでは無いですよ。でも、アンタも知ってるやつですよ、()()()()

 

「こんな偏屈な老人と知り合いのやつなんかろくな奴じゃないだろうさ。祈られたって嬉しくないだろうからやめちまいな」

 

「かもですね。でも、俺がやりたいからやってんですよ」

 

 シアさんは皺が深く刻まれた顔を少しだけ緩ませて微笑み、俺に四通の手紙を手渡してきた。

 

「これは……?」

 

「アンタ宛にって届いたんだよ。世捨て人の私が言うのもなんだが、アンタ友達いたんだね」

 

「ちょくちょく外出してるじゃないですか! ……て言うか四通か。四通かぁ……」

 

「なんだいそんな頭を抱えて。まさか全員女かい?」

 

「多分そうですね」

 

「…………くたばりな、女の敵。ちょっと近づかないでくれる?」

 

 シアさんは露骨に俺から距離を取り身を守るように己の体を隠す。さすがに俺にだって選ぶ権利はあると思うんだ。

 

 ……まぁ、手紙の相手も理由も何となく分かる。

 だからこそ読むのが怖いわけだけど、内心ちょっと嬉しくもある。

 

 なんてったって三年ぶりだ。

 今でも鮮明に思い出すことの出来る旅路を共にした仲間達との時間が、封を切ると共に溢れ出て…………。

 

 

『座標把握完了。簡易転移陣の強制生成を始めます。領域外に出ると人体が切断される可能性があるため動かないでください』

 

 

 封を切ると同時に、俺の肉体は結界でおおわれ徐々に光り輝き始める。

 うん、なんか嵌められたなこれ。視線をずらすと憐れなものを見る目でこっちを見てくるシアさんと目が合った。

 

「…………まぁ、なんだ。いってらっしゃい」

 

「はい……いってきます」

 

 転移陣が完全に起動し、同時に俺の視界がホワイトアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三年前、人類の生存圏を脅かしていた恐怖の象徴である『魔王』が討たれたという知らせが世界中に轟きました。

 

 人類は参戦可能な最大戦力である『勇者』の大量投入を以て魔王軍との最終決戦に赴き、この知らせが来たものだから皆初めは喜びましたが、すぐにその表情には不信や不安が張りついてしまいました。

 

 

「魔王は私が殺しました。死体は……このバカが食べちゃったのでありません」

 

「いやー申し訳ありませんわね。美味しそうだったのでつい」

 

 

 何せ帰ってきたのはそんなことを嘯くたった四人。

 それも素行不良で有名な『切断』の勇者のみだったのですから。

 

 それから時間が経ち情報が入ってくる度に、人々はますます不安になっていきました。

 決戦の地は激しすぎる戦闘から文字通りの更地になり、魔王どころか他の戦死者の死体すら見つからない始末。

 加えて唯一の生き残りである四人の証言も曖昧。

 

 切断の勇者は「魔王を殺した」以外ほぼ何も語らず。

 魔術師は「私はただ彼らの戦いを一歩引いた場所から見ていただけ」としか言わず。

 唯一まともな戦況を語ってくれた……匿名希望のとあるデカ女はペラペラと自分が魔王軍幹部としてその行動に協力したこととかを明かしたせいで追われる身になってどっかに行っちゃいました。

 

 私もちゃんと答えて報告書を出したんですが、読んだ人が溜息をつきながら首を傾げてばかり。

 読解力が低かったんですねきっと。ええ、そうでしょう。何故か私の言葉がリスカやスーイより信頼がなかった気がしますけど気の所為です。

 

 そういうわけで、各地の魔王軍残党が討伐されるか自然解散していき、あれこれの処理が終わったのは一年後。ようやく正式に魔王が討ち取られたことを確認こそ出来ないが認めざるを得ない状況になり、人類は実感のない曖昧な勝利を手に入れたのです。

 

 曖昧で、不確かで、実感もなく。

 勝利を掲げた英雄ではなく、確かに現実として少しづつ建て直されていく営みを見て、人類は勝利したという現実を知る。なんともまぁ、英雄譚にするには味気のない勝利でしたけれど。

 

 

 さて、それから私達がどうなったという話でもしましょうか。

 

 

 ギロンはまぁ、先も語った通り正直に全部話して追われる身になってしまい連絡もつきません。

 どこかで元気に魔王軍の残党見つけて戦ったり、サバイバルしながら生きてるとは思います。何せ、あれでも王女なので死んだら死んだでそれなりに大事になるはずですし。

 

 スーイは魔王の生死を確かめるためのゴタゴタの中で、いつの間にか姿を消してしまっていました。

 と言っても、無責任と言うよりはこれ以上の混乱を避けるためでしょう。何せ、龍骸精霊(ドラコ・エルフ)の生き残りなんて御伽噺の存在は実在したって混乱の元にしかなりません。

 だからって「あとはよろしく」って書き置きだけ残して痕跡一つ残さずに消えたのは絶対許しませんけど。

 

 リスカは……相変わらずです。

 ギロンとスーイはさっさとどこかに消えちゃったので、やっぱり私はリスカとずっと一緒に居ることになりましたけれど、魔王は私が殺したって言い続けてそれ以上否定も肯定もせず、不器用に意地張って、時間が経つのを待ち続けています。

 

 ちなみに可愛いホシちゃんは神官を続けようと思いましたが、禁酒って言われたのでやめてサクッと医師免許獲得して今は医師名乗っています。

 これで怪我した時は以前のように、以前よりも完璧に治してあげるので期待していてくださいね。

 

 

 ……近況報告が長くなりましたが、それだけ伝えたいことが貴方には沢山あります。

 今更隠すつもりもないですが、私は自分から口に出せるほど素直でも自分が好きでもありません。だから、事実だけを淡々と書きます。

 

 私は貴方のことが大好きです。

 何もかもに絶望して、終わりを求めていた私のその絶望すら覆してくれた貴方。

 貴方と、貴方達との旅で私はこの生がとても美しいものだと思えるようになりました。だから、まだ私はこの生を終わりにしたくありません。

 

 もっともっと愛してください。

 私が、いつか本気で命の終わりを後悔できるように。

 死にたくないと、心の底から思えるような楔をもっと深く、私の心に打ち込んでください。

 

 

 貴方にいつか助けて貰った、ボロボロの魔族より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ホシに頼んだこの手紙が君に届いているかは可能性としては割と五分五分だと思う。ホシってばガサツなところあるし。

 でも、彼女のお人好しさに賭けて、届いている前提で話をしよう。

 

 端的に言って、私は人の営みの中に入ることは出来ない。

 もとより人は自分とは違うものを排除しようとするし、構造も法則も何もかも違う私なんて最たる例だ。私が、人の営みの中で安らぎを得ることはできっこない。

 

 元々そんな風にして、できるだけ人間の文明とは関わらずに生きてきたんだ。師匠を失った時の悲しみが大きすぎて、関係を持つことに臆病になっていたのもあるだろう。

 

 

 単体で完結して、完璧だった私は理解できない君達の心を知った。

 そして、君がその彗星のように己の身を燃やし輝かしく生きて、尾を引いて空に軌跡を残すようなその在り方に、恋をさせてくれた。

 

 

 君達は龍を地に落としたんだ。

 だから、ちゃんと責任を取って欲しい。

 

 君なら知っているかもしれないが、君を愛している女達はみんなとびっきり性格が悪く、世界を覆せるような厄介な悪女達だ。

 

 だが、断言しよう。

 

 私達なんかよりも君の方がよっぽどタチが悪い。

 リスカみたいなめんどくさい女にずっと優しくし続けたら拗れるに決まっているだろう。執着するのもいいが、前にも言った通りどう思ってるのかは伝えあえ。

 今回の一件でお互いに言いたいことは言わないと伝わらないと痛いほど学んだだろう。

 せっかく不完全なんだ。せっかく、追いついたんだ。肩を並べて、支え合った方が人間らしくて美しい。

 

 ホシみたいなめんどくさい女は絶対に一歩引いた場所に行きがちになるから、ちゃんと手を掴んであげた方がいい。

 器用だが、自分を騙し続けられるほどではない子だ。思わせぶりな態度、なんていつか絶対あの子はボロが出る。なんで出ないかってそんなの好きだからに決まってるだろう。勘違いとかじゃないからちゃんと攻めてあげた方がいい。君、君自身が思ってるより数百倍モテるからね? 

 ホシは愛することには慣れているが、愛されるとなると感覚が鈍くなる。私達の中である意味最も無知で純粋なんだ。私の一番弟子として、しっかり教えてあげるといい。

 

 ギロンは言うまでもないだろう。

 貪欲でどうしようも無い獣だ。彼女の進む道は絶対に破滅しかない。クジラが陸に上がれば自重で潰れるように、彼女は絶対にいつか自滅する。私たちの中で最も狂っているのが彼女なのだ。あの魔王ですら、彼女を救うことは諦めた程に。

 だが、君は彼女に餌を与えた。愛することの強さと、弱み。その中で得られるモノ。彼女という獣が今日まで生きてこれたのも、こんなにおかしな生き物になってしまったのも君のせいだ。しっかり最後まで餌は与え続けたまえ。

 いつか来る破滅すらも、もしかしたら彼女は君となら乗り越えてしまうかもしれない。

 

 

 そして、私は自分で言うのもおかしいが最も人間離れしている。

 しかし一つ言えるのは君のことが大好きだ。私は人を愛することを師匠に教えて貰って、人を愛せることを君に教えて貰った。だから間違いない。私は君のことを愛している。

 だいたい私みたいな強欲で傲慢な龍の前で、そんなに宝石のように煌めくなんて。龍は宝物を溜め込む生き物なんだからね? もう私は絶対に君を失いたくないし、片時も離れたくない。

 

 ……でも、私は師匠だからね。

 かっこよくて美しくて、でも弟子に支えてもらわないと時々ダメになっちゃうような、私の憧れた師匠に似ている、そんな君の師匠なんだ。

 

 だからどうか、もう少しだけ見守らせて欲しい。

 君と、君達と一緒に生きてみたいんだ。

 

 

 君の師匠より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この手紙が届いている頃、きっと妾は……まぁ元気でしょう。妾最強ですし。

 お久しぶりです。色々言いたいことはありますが、そこら辺はホシ辺りが几帳面に書いてくれるでしょう。あの子死ぬほど字が汚いので正確に伝わるかは分かりませんが。

 

 というわけで妾は色々あって現在追われています。

 ぶっちゃけ証拠は残していないんでまぁはぐらかし方はあったんでしょうけど、ちゃんと妾の強さとか認めてもらいたかったから、反省はしてるけど後悔はしていません。

 

 そう言えば、貴方と会った時の妾は魔王軍幹部でしたわよね。

 あの頃と比べて、世界を救った妾はあなたの好みの女性になったでしょうか? 

 

 いえ、こういうのが正しいでしょうね。

 

 貴方の好みは妾のような女性になったでしょうか? 

 

 なったならばそれは結構。貴方はますます妾の好みの男性になりましたし、今すぐにでも籍を入れましょう。

 なっていないならばそれも結構。妾はまだまだ美しくて強い女になるつもりです。覚悟して、楽しみに待っていてください。

 

 さて、元から美しい妾ですがさらにそれに磨きがかかった理由ですが、もちろん知りたいですわよね。

 それは、あの旅がとても楽しいものだったからです。誰かと時間を共有し、思い出を共有し、背中を預け戦う。

 そんなもの手段のひとつでしかないと思っていましたけれど、なんだかんだ楽しくて色々な経験がありました。

 

 くっだらなくて、綺麗じゃなくて、笑ってしまうようなそんな時間。

 生憎、妾はそう簡単に満足する人間ではありません。もっともっと、このくだらない旅を続けたいと思ってしまっています。

 

 だって楽しかったんですもの。

 偏屈で意地っ張りなあの勇者様と、腹黒くて献身的な不器用な神官と、自分勝手なくせに他者中心的なめんどくさい魔術師と。

 それと、覚悟が決まっているくせに調子に乗りやすくて、そのくせ臆病なところもある、顔も背中もかっこいい貴方。

 

 

 ……と、ここまで書きましたが妾文通とか苦手なんですわよね。

 コミュニケーションで大事なのは面ですわよ。特に貴方みたいに顔が良い人間はせっかくなんですから使うべきですから。

 

 

 魔王様は妾が決して満足することがなく、妾のことを他人が理解出来ることは無いと言っていました。多分それは正しかったと思います。

 妾はあの方の言う通り、卑しい獣で今でも愛や恋やを理解していません。大切だという気持ちも、表面上だけで本心では欠けていて空虚なものだと思います。

 でもまぁ、妾が本当にそういうものが手に入らないのか判断するにはまだ早いと思うことにします。魔王様ですら、貴方だってずっと迷って生きてるんですから。

 これから先、ずっと先の未来でいつか自論の答えを二人で話せる時が来たらいいなって思っています。

 

 長くなりましたが言いたいことは一つ。

 

 妾の気持ちは変わっていませんので、後悔する準備でもしておいて下さいませ? 

 

 

 

 ギロン・アプスブリ・イニャスより、想いを込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして貴方に手紙を書くのは、初めてだと思います。

 

 気持ちの話はもう散々したので、まずこうして会うのが遅くなったことの理由について語りたいと思います。

 

 貴方を追放した時言った通り、魔王が倒れたあとは様々な面倒事が待っているでしょう。

 勇者という勝利の証を掲げ、復興の象徴にしたりとか。もしかしたら魔族を根絶やしにするべくまた戦いが始まるかもしれません。魔王軍との戦いでの各国の優秀な兵士や私と同じ『勇者』の死者を考えれば、どこも勇者という戦力は欲しいに違いないでしょう。

 

 私は、そういったモノに貴方を巻き込みたくありませんでした。

 

 私はずっと後悔しています。

 貴方は弱くて、私達と共に戦うべきではない人でした。優しくて、非情になりきれなくて、そんな貴方に魔王を殺させてしまったことを、ずっと後悔していました。

 貴方が私に戦って欲しくなくて戦っていたのも、貴方が私を愛してくれていたのもわかっています。

 

 でも、私だって同じように、それ以上に貴方のことを愛しています。

 ホシもスーイもギロンも同じです。もしかしたらふざけた手紙を送っているかもしれません、とくにギロンが。

 でも、それぞれやるべき事をやって、本当の意味で戦いをしっかり終わらせて、それからもう一度会いたい。みんなその一心で頑張っています。

 

 ホシは医師として各地を飛び回り、傷ついた人々を治療し続けています。

 

 スーイは実は商売を始めて、経済を回しながら各地の復興の支援をしてくれています。

 

 ギロンは……分からないけれど、魔王軍の残党が貴方の所にいかないようにわざと居場所を撒き散らしながら逃げ回っているんだと思います。多分。

 

 私達はパーティですから。

 それぞれ役割を分担して支え合うものでしょう。貴方は弱くて役に立たない雑魚なんですから、どうか私達の帰る場所としてまたいつか笑顔で迎え入れる準備をしていてください。

 

 貴方は確かに世界よりも私達を選んでくれました。

 繰り返しますが、私達だって世界なんかよりもずっと貴方が大切なんです。

 アンタにも分かりやすく言うなら、散々今までカッコつけてきたんだから少しくらい私達にもカッコつけさせてってこと。

 

 

 最後に、言いたいことがあります。

 

 私だってそりゃあ追放してね? こんな本音の文章書いて、あれこれしてたら三年も経っちゃって、大好きだけど気まずいのは分かるけどね? 

 

 全身全霊で隠遁するって何? 確かに私達がアンタは戦後の面倒事に巻き込まれたら大変だからどっかで隠居してろって言ったけどスーイがそこら中駆け回ってホシが聞き込みしまくってようやく居場所が見つかるって、アンタどんな隠れ方してるのよ? 

 アンタの知り合い、誰一人としてアンタの居場所口にしなかったんだけどどんな人望してるの? 馬鹿なの? 勇者なのに人望ない私への当て擦りなの? 

 

 

 ……とにかく、言いたいことは山ほどあります。

 だからもう一度会いましょう。本当はもっとかかると思っていたけれど、準備が整いましたしそろそろ我慢の限界です。

 

 

 というわけで、覚悟しろばーか。

 

 

 

 リスカ・カットバーンより。

 PS.パパとママもアンタのこと心配してるからあとで一緒に挨拶にいくわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ぉぉぉぉぉおお!?」

 

 変な声を上げながら、俺は咄嗟に受身をとって勢いよく地面を転がっていく。

 転移したと思ったら猛スピードで中空に放り出されたのだ。勢いを殺しきれずに強打した腰を擦りながら顔を上げる。

 

「あ、転移されてきましたよ! 座標ズレてるじゃないですか!」

 

「座標がズレてるんじゃない。私達がズレたんだ。私がそんな初歩的なミスするわけないだろ」

 

 聞き慣れた懐かしい声がする。

 いつもの神官服ではなく少しサイズの大きな白衣を身に纏っているホシと、フードを外し青空のような長い髪の毛とその中から突き出した長い耳をそのままにしているスーイが何かを言い争っている姿があった。

 

「二人とも。……久しぶ」

 

「そういうのいいですから! とにかくこっち来て! ギローン! こっちです!」

 

 三年ぶりの再会の感慨に浸る間もなく、ホシが俺の手を引いて走り出す。

 そして叫ぶと同時に空から竜車が落下してきて、俺たちの目の前に着地する。

 

「ちょっと、さすがに今のは無理があったでしょ……あー! ほらホシが持ち込んだ酒瓶が割れて私の服が!」

 

「文句があるならリスカがやれば良かっでしょう。貴方なら竜車ぶん投げて飛び乗って移動とか余裕でしょうし」

 

「そもそも今追われてるのアンタが原因なんだからね!? 反省しなさい!」

 

 中からはなんとも間に入りたくない喧嘩の声が聞こえてきて、ちょっと乗るのを躊躇ったがスーイに背中を思いっきり押され、投げ込まれるようにして中へと入れられる。

 

「ギロンも、久しぶりだな……はははっ……」

 

「ええ、お久しぶりですわね。あら、前にも増してイケメンになりました?」

 

 ギロンは整えられていた髪を乱雑に纏めあげポニーテールにし、なんだか随分とワイルドになった気がするがこっちの方が彼女らしくもあり、以前と変わらず不思議と高貴さが滲み出している気がしなくもない。

 

 そして、もう一人竜車の中には先客がいた。

 

 いつものように不機嫌そうに口を尖らせ、眉を曲げて苛立ちを隠そうともせず指先でトントントンと、決まったリズムで自分の二の腕を叩いている。

 以前よりも少しだけ伸ばされた夕焼けのような真っ赤な髪の毛と、紅がさされた唇。戦闘のことを考えられた動きやすさ重視の服ではなく、赤によって際立つ白肌を惜しげも無く晒した、少し大人びた姿。

 

 

「久しぶりね。相変わらずどん臭そうで安心したわ」

 

「リスカ、その、今どんな状況?」

 

「端的に纏めるとみんなで集合したのにギロンが追手引っ掛けてきたせいで揃ってお尋ね者になってます」

 

「なんで!? なんでギロン追われてるの!?」

 

「なんでって、そりゃあ……」

 

 ホシが何かに気づいたような顔をして、少しだけ顔を青くしたように見えた。

 

「貴方、私達の手紙読みました?」

 

「読もうと思ったら急にここに……そういえば手紙、どっか行っちゃったな」

 

「……読み終わったら転移するように仕込めって、言いましたよね私?」

 

 ホシがスーイの襟首を掴み引き寄せ、笑顔のまま問い詰めるがスーイは表情一つ変えず、面倒くさそうに一言。

 

「……だって、いざ書いたら恥ずかしくなって」

 

「だってもクソもないでしょう! おかげで何が起きてるかよくわかってないアホ面が召喚されちゃったじゃないですか!?」

 

「ねぇ、俺ってそんなアホ面?」

 

「時と場合によりますけど今は大分アホ面ですわね」

 

「そっかぁ……」

 

 ホシはいつも通りため息と怒声を繰り返していて、スーイは何を考えているのか分からない微笑を浮かべ、ギロンは何か機構のような物をいじりながら干し肉を摘んでいる。

 背後から怒声が聞こえて、なんとなく主にギロンが追われているのはわかったが、この速度ならほぼ間違いなく逃げ切れるだろう。

 

 

「ねぇ、ちょっと待って」

 

「ん? どうしたリスカ」

 

「なんでアンタ達みんなそんな普通にしてるの? 三年よ? 三年も時間が空いたのよ!?」

 

 他のみんなと顔を見合せて、そういえばそうだということを思い出した。三年って結構長かったな。

 

「確かに、会ってない時は寂しかったですけど。会ってみたらなんて言うんでしょうね……」

 

「しっくりきすぎて、まぁ色々いっかってなっちゃった」

 

「やっぱこの5人ですわよね〜。あ、リスカは馴染めない感じなら抜いてもいいですわよ?」

 

「アンタ達とは違うのよ! 私は……色々考えて、なんて言ったらいいかとか、いっぱい、いっぱい考えたのに!」

 

 顔を真っ赤にしてリスカは腕を振り回している。

 動作だけ見れば可愛らしいが、相変わらず『切断』は健在なので巻き込まれたホシが切り刻まれているのでやめてあげて欲しい。幾ら本人が大丈夫そうでもかなり心が痛むから。

 

 俺も確かに、この三年間は色々ずっと考えていたし、また会った時にどうしようかとかずっと考えていた。

 でも、実際会ってしまったらそんなことを考えている余裕もない。ハチャメチャで、俺なんかとは全然違う価値観や思考を持っている凄いヤツら。

 

 何か言葉で例えようにも何も思いつきやしない。

 結局俺はみんなが大好きで、この時間と空間が心地よい。世界を滅ぼしてでも、これだけは守りたかったのだから。

 

「積もる話もあるでしょうが、今は逃げることを考えましょう」

 

「行先どうする? 私、北の方に行きたいんだ。あとそれからここも見たいし、ここも行きたいし、あとはあとは……」

 

「旅行気分ですねぇ。実際そのつもりで妾も来たわけですけど」

 

 地図を広げてスーイが目を輝かせているのを見るに、やっぱりこのまままた旅に出る感じみたいだ。

 俺、なんも準備とかしてないんだけど。とは言えこの四人がいるなら俺が何か事前準備するよりも100倍マシで、100倍ハプニング塗れの旅になるだろうから何を準備しても意味なんてないだろうが。

 

「……アンタ、随分肝が据わったわね。昔はあんなに弱かったのに」

 

「リスカこそ、丸くなったじゃないか」

 

「言いたいこと、色々あるけれど。……これから私達は旅に出るわ。世界をもっと見に行くの」

 

 全員が前を見て、見たことの無い世界に目を向ける。

 風が竜車の中に入り込み、髪の毛が揺らめき熱を持った頬がほんの少しだけ冷やされた。

 

「あんたが良ければ、またパーティに入れてやってもいいわよ?」

 

「……え? 何俺が言わされる側なの?」

 

 なんとなくリスカが何を言わんとしているかを察して他のみんなに助けを求めるように視線を送るが、全員笑ってそっぽを向くだけ。

 

 だが仕方ないだろう。

 リスカ・カットバーンは勇者なんかじゃないのだから。

 

 どこにでもいる、なんでも器用にこなすくせに正直になれなくて、面倒で自虐的で、どう触れていいのか分からない剣のような───。

 

 

 

 ───俺が恋した女の子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、追放してやりたかった。

 

 戦って欲しくないと思ったし、そばにいて欲しいと思った。

 傷ついて欲しくないと思ったし、それでもその勇姿に恋焦がれた。

 

 だから、この追放を巡る物語はようやくここで終わりを迎える。

 

 

「もう一度、俺をパーティに入れてくれ」

 

「せいぜい足引っ張らないように、頑張りなさいよね」

 

 

 今までもこれからも色々なことがあって、 きっとその度に悩んで苦しんで、貴方が居なければと思って、突き放したくもなってしまうかもしれない。

 私達はあまりに歪で歪んでいて、きっとまた間違えて誰かが傷つけたり、自分を信じられなくなるかもしれない。

 

 でも、これからは逃げずに向き合おう。

 突き放すのではなく、ちゃんと傍に立って逃げずに貴方が背負うものを見て、私が背負うものを見てもらって。

 

 

 そういう風に、貴方と共に生きていきたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 












これにてこの作品は完結です。
ここまで応援ありがとうございました。
勇者と従者のお話はこれでおしまいですが、彼らの物語はまだきっと続くと思うのでまたいつかどこかで。



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