メリークリスマス更新です。
今日からぼちぼちと週一位のペースで更新出来たらいいなという感じで更新します。色々あったみんなの緩いその後の話なので気軽に見ていってください。
魔術師は従者と探したい
「……と言うわけで、飛行術式を人間の形で安定させるには実は重要なのは出力じゃなくて制御と安定の話であり、如何にして術式を乱れなく長期的出力させることと、外部からの干渉に常に対応出来る即時性であってだね」
「さすがスーイは賢いなぁ。ところで俺これ聞いても意味ある?」
「そもそも単身飛行ならまだしも、飛行物体を飛ばすとなると必要なのは魔術だけじゃないだろう? 設備も人員もまだまだ足りない。残念ながら人間の資源は無限じゃないんだ。つまりは多くの人間が協力する必要がある。ならば、知識は可能な限り共有しておく方がいいだろう。この世界に無関係なことなんてないんだから」
「なるほどなぁ。ところでその話今する必要ある?」
「無いよ」
「そっかぁ」
翼を広げて空を飛ぶスーイに羽交い締めにされる形で空を飛んでいる俺は、とりあえず地面が遠いなぁと思いながら下を見下ろして現実逃避することにした。
「ところで俺、なんでこうして拉致られてるの?」
「拉致じゃないよ。ちゃんとリスカには許可を取った」
「俺の意思が挟まってないんだよね」
「いいじゃないか。どうせ付いてきてくれるんだろ?」
そりゃあそうだが、それはそれとして一言くらい何か言うべきだろう。
朝起きたらいきなり行くよって言われてとりあえずおう、って答えたらそのままノータイムで今に至るんだもん。さすがに今回は俺にも文句を言う権利があるはずなのだが……。
「わかってるだろ。私には『コレ』がある」
そう言って自慢げにスーイが俺に見せつけてきたのは、『何でもする券』とリスカの字で書かれた紙切れだった。
遡ること1年ほど前。
この券はリスカによって作られ、ホシ、スーイ、ギロンにそれぞれ一枚ずつ渡されている。
ちなみにこの券は発行したのはリスカだが、言うことを聞かされることになるのは俺なのである。よく考えたら何かおかしい気がしなくもないが、現実とはいつだってこんなものだ。
「そんで、わざわざそんなモノ使ってまで俺に何を頼みたいんだ?」
「これから一ヶ月、私との旅に付き合ってくれ」
「……別にいいけど」
正直、何言われるかビクビクしていた。
腕一本位までなら仕方ない、くらいには思っていたのに、スーイの口から出てきた頼みを聞いて思わず。
「そんなことでいいのか?」
そう言ってしまう。
だって、そんなの頼まれなくたって全然行ってやっていい。わざわざ命令してまで行うにしては、なんと言うか、こう、軽いような気がする。
スーイは人間ではない。
細かいことは知らないが、とにかく人間では無いらしい。
人間よりも強く、人間よりも賢く、人間よりも長生き。人間の作る理に縛られることない、原初の生命の一つ。
つまり彼女が今こうして俺と並んで会話したり、以前のように一緒に旅をしてくれていたりしたのは全て彼女がそう望んでいるからに他ならない。
現に一度、彼女は『そうしたい』で俺を拉致監禁しようとして来たことがある。
しかも魔王軍との戦いの最中に。あの時は本気でもうダメかと思ったくらいに怖かったものだ。
「つまり、君は私がこんな券なんかに頼らず力づくで君を攫えばいいと、そう言いたいのかな?」
「あ、いやっそうじゃなくてね? 別に、一ヶ月と言わず旅なんて、命令されなくても付き合ってやるし」
「そういうこと言っちゃうかぁ……。うーん……君ほんとさぁ、ほんと……はぁ……」
スーイは最近は外していたフードを被り直して、そっぽを向いて何やらブツブツと呟くだけで何も言ってこない。と言うか今どうやってフード被ったんだ? 俺を羽交い締めにしたままどうやって?
「………………」
「………………スーイさん? 師匠? 何か、言いたいことが?」
「……はぁ」
「……いやほんとごめんなさい! カッコつけました! ホントはさすがに一ヶ月急にとか厳しいです! すいません!」
「よし。君ほんとそのカッコつけるくせやめた方がいいよ。もう大人なんだからさ」
せめてパーティメンバーであるみんなの前でくらいカッコつけていたかった。
そうやって昔はむちゃくちゃやってたが、今考えると本当に馬鹿だったと思う。
それで救えたものが確かにあった以上後悔こそしていないが、今同じような蛮勇ができるかと言えば首を横に振るしかない。
昔はコイツの為なら死んでもいい、みたいなことを簡単に思えた。
今はそう思えないのは、成長なのか退化なのか。
「いや私は昔の君のことも好きだけどね? そういう発言、勘違いとか起こしかねないし。ね?」
「わかってるから! ほんとすいません! もうカッコつけたりしないから」
「それはそれで寂しいけどねぇ」
「もうやだ……たまに自分の発言思い出して泣きたくなるんだよ。特にノティスには謝りたい……マジで寝言吐いてすいませんでした」
「……君、めちゃくちゃダサくなったよね」
「せめて大人になったって言ってくれ……」
「うん……そうだね。大人になったねぇ」
スーイは俺を抱えたまま器用に手を動かして体の各部位をさすってくる。
背が少しだけ伸びた。
髪は少しだけ短くした。
体重は増えると思ったけれど、思ったより変わらない。
顔の彫りは深くなったような気がする。
そんな風に変わった俺。
相変わらず変わらないスーイ。
彼女が何を考えて、
「旅って言ったじゃん! 旅って言った! スーイの嘘つき!」
「何を言ってるんだい、嘘ついてないよね私?」
「そうですね。今から始まるのは楽しい空の旅ですから!」
じゃあなんで俺は今こうして席に縛りつけられているんだよ。
ここから始まるのは旅とかじゃなくて拷問とかの類だろ。なんでヘルメット被せられて手足を拘束されてるんだ俺は。説明をしてくれよ。
「ていうかそっちの子誰? スーイの知り合い? ドラゴン? エルフ?」
「私に人間の知り合いがいるって選択肢ないの?」
「いるの?」
「リスカとかギロン」
それしか居ないのはいないのと変わらないだろ。
「私も入れてくださいよスーイさん! この、天才飛行魔術師リーン・コメーティアを☆」
俺とスーイの間に割り込んできて、やかましいほどにスーイに抱きついて頬を擦り寄せている女の子はまだ成人しているように見えないほど幼く。生糸のような柔らかな髪の毛を雑に二つに纏め、ネジやら何やらをヘアピンのように刺しているその子の顔には、何となく見覚えがあった。
「リーン……リーンって、あの時の女の子か!」
「忘れてたんですかお兄さん!? リーンちゃん的には、お兄さんが初恋だったんですけど!?」
以前、まだ世界が魔王軍との戦いで荒れていた頃。
とある街で俺達は魔族との戦闘になった。幸いにも魔王軍の幹部が街に到達する前に、リスカが幹部を討伐。その他にも皆のおかげで被害は最小限に留めることが出来たが、街にはそれなりの被害が出てしまった。
リーンちゃんとはその時に出会った。
魔王軍幹部の攻撃によるゴタゴタで両親とはぐれ、俺とスーイは彼女の親を探すことに手を貸した。
最終的にはスーイが一人で見つけてしまい俺は何も出来なかったのだが。まぁその時にあった女の子だ。
「いやぁ随分と大きくなったな。元気だったか?」
「見ての通り元気も元気。今では学院の方で特待生やらせてもらってます」
そう言いながらリーンちゃんは胸をドン、と叩く……が。言葉通りに元気に随分と育った胸の肉に吸収され、不格好な音が小さく弾むだけとなり、胸を叩いた本人が胸を抑えて蹲ることになった。
「……それで、スーイ。何をやらせようとしているんだ?」
「リーンは学院では既に飛行魔術の分野の権威と言ってもいい。私は昔の縁で彼女の研究を手伝ってるんだ」
「そういう事です!!! スーイさんは私に空を教えてくれた方です! そして貴方は、私に光を与えてくれた恩人! 私の見る空を、一番最初に見せたかったんです!」
「俺そんなことしたっけ?」
本当に記憶に覚えがないからそう言ったのだが、リーンちゃんは何言っているんだと言わんばかりの顔で俺を見てくる。
だって、俺がリーンちゃんと過ごした時間ってホント一瞬だったし。そもそもリーンちゃんの親を見つけたのはスーイだから俺なんもやってないからな。そんな風に思われるの理由もないのでちょっと気まずい。
「この人はホント……いえ、普通はそんなもんですよね。はい。私の方がおかしゅうございました」
「ねぇスーイ、なんでこの子こんな不機嫌なの?」
「もしも君がリスカと再会した時、向こうが君のこと覚えてなかったらどう思った?」
それはもう信じられないくらい悲しいだろう。
俺にとってリスカと過ごした時間は比喩抜きに一番大切な時間だったし、リスカに追いつくことが以前の俺の一つの目標だったのだから。
「つまりそういうこと」
「…………?」
「え、本気でわかんないの?」
マジで何言ってるかわかんないんだけど。
そもそも俺とこの子、俺とリスカみたいな仲じゃないし。さすがに小さい頃に少しだけあったことのある人、それも今ではおじさんになった俺なんかにまだ若くてピチピチなリーンちゃんがどうこう思ってるとか、まず無いだろうし。
「もういいですよスーイさん。ほんとに鈍感なんですねこの人。私、お兄さんのこと好きなんですよ」
「そっかぁ」
「その親戚の子供を見る目をやめろー! 私! 学院最高峰の魔術師! 収入も地位もありますし、胸も大きい! そして可愛い! 理解してます!?」
そうは言ってもリーンちゃんと俺の年齢差って相当なものだし……。
「ちなみに今の俺も好き?」
「気持ちが変わってないから告白したんですが!?」
「そっかぁ。こんなおじさんも捨てたもんじゃないなぁ」
「スーイさん! リーンちゃんもう泣きそうなんですけど!?」
「彼は自分に好意を持ってる確信がある相手には途端に強気になるからね。ギロンとかへの対応がそう」
「女の敵ー! なんでこんな人好きになっちゃったんだ私ー!」
スーイの空気抵抗のない胸に飛び込んでわんわん大泣きしているリーンちゃん。そしてサラッとスーイが酷いことを言った気がするが、それは大きな勘違いだ。
確かにまだまだ若い子にモテたりするんだってちょっと嬉しくはなったし、心のどこかで自分に自信がもてたがそれはそれとして。
「俺これからどうなるの?」
「それは心配しないでください。リーンちゃんの完璧計算では死ぬ確率はせいぜい20%です」
「全然安心できる数字じゃないんだけど」
俺の質問なんてお構い無しに、リーンちゃんは時々スーイに何か聞きながら壁際の機構を弄ったり、いくつかの魔術陣を刻んだりを繰り返す。
そういえばそもそも、ここはどこなんだろう。途中で目隠しされて再び目を開けたらここだったので定かでは無いが、薄暗くて狭いし、何かが動いている音がずっと聞こえる。
「そんなに心配しなくてもいい。これから始まるのは、リーンなりの君への『お礼』との事だよ」
俺へのお礼って、あの日リーンちゃんを助けてあげたらしいスーイならともかく、俺が彼女にしてあげたことなんて何も無いと思うんだけどなぁ。
「……よし、準備出来ました。それじゃあ期待して待っていてくださいね」
「とりあえず、期待できる内容なら安心だよ。これから殺されるんじゃないかって思ってたから」
「…………」
「え、なんで黙るの?」
俺の質問をリーンちゃんは無視し、部屋の前方の魔術陣上に立って声高らかに詠唱、宣言を始める。
「さぁ大地よ我らを見上げろ! 空よ恐れ慄け! 伸ばされた手は遂に星を掴む日が来た!」
「第一から第十二浮遊安定術式……出力規定値クリア。推進術式及び装甲、気圧、風圧、共にクリア! ──────空を拓け、『
轟音、振動。
部屋が壊れるんじゃないかというそんな衝撃の中、部屋の正面の壁紙ゆっくりと競り上がり光が差し込む。
「貴方が私に光を見せてくれた。先生が私に光を見せてくれた。なら私も、お二人に光を見せてあげたい。これが私の──────私の空です!」
目に映った外の景色は、ミニチュアの世界のように全てが小さかった。
ちいさな箱庭を上から見つめているような錯覚、いや違う。錯覚なんかじゃなくて、俺たちは本当に
「……飛んでるのか、この部屋?」
「部屋じゃありません。これは『船』です。この部屋以外にもいくつかの部屋が有り、転移陣のように特定の位置にしか設置できなかったり、陸路のように極端に道に左右されない、空を飛んで人や物を遠方に運ぶ夢の技術!」
差し込む光を背に、少女は夢を語る、夢を見せる。
胸を張って自信ありげに、それなのに少しだけ恥ずかしそうに。何故かお礼も一緒に。
「これが私の、『飛行船』です!」
少女の夢は、空を駆けた。
・従者くん
あれから3年経ち、すっかりアラサーになってしまった。現在はホシの診療所で働いていたが、スーイに拉致られた。
・スーイ
あれから3年経ち、すっかり無職が染み付いてしまった。リーンに少しだけ魔術の手解きはしたが、「教師であって師匠じゃない」という言い訳をしている。
・リーン
『デート、あと追放』で登場。アクティブ系巨乳研究者に進化した一目惚れ系幼女。
あの後真面目に魔術の勉強をして元々才覚があったのか飛び級で学院に入学。魔王を倒した後ぶらぶらしていたスーイを見つけ、魔術を師事。スーイからは弟子とは認めてもらってないが教え子とは認めてもらっている。
好きな異性のタイプは年上で笑った時に目元が優しそうな人。
概要にも追記しましたがカクヨムにもちまちま上げ始めたした。
現在ちょうどスーイのお話をやっていたり、ぼちぼち加筆したり性格悪くしたりしているので良かったらそっちもよろしくお願いします。
好き
-
リスカ
-
ホシ
-
スーイ
-
ギロン