継木家
「ねぇ、おじさん。いつものお話ししてよ!おじさんのお化け退治のお話
寝たふりしてるでしょ!僕いつも楽しみにして眠いのに起きてるんだよ!お話ししないならこのまま夜更かしするよおじさん!」
今日もいつものように綺麗な月が浮かぶ夜に、座敷を駆け回り逃げながら奥に向かう。そうして冷たい部屋の襖を開けて布団にいつも潜っているおじさんに話しかける。
いつも真正面からおじさんに会おうとすると、家の人たちが邪魔してくる。
おじさんが忙しいやら、現人神だから、当主だから、とか家の人たちは口うるさく言って離そうとしてくるが僕には関係がない。
おじさんはこの家のなかで偉い人だろうが、すごい人だろうが僕にとってはおじさんだ。
優しい優しい楽しいお話を聞かせてくれるおじさん。
両親?がいなくなってた僕を拾ってくれた存在だ。
「ふわぁ・・・・・・またこの糞餓鬼が。眠いなら、眠りゃー良いだろ、身長伸びなくなんぞ。やーい、ちーびちーびと言われたいのかー。後まだ29才だおじさんじゃなくてお兄さんと呼べ」
僕が枕元で騒いだのに気がついて、おじさんは布団をモゾモゾさせて起き上がった。そうして僕の頭をガシッとつかんで髪をグシャグシャにさせられる。
激しく怒るわけではないが、毎回ちょっと呆れたようにやるのはどうなのだろうか?と思っている。僕は頭が悪い割にそれなりに考えてやってるのだ、きっとこのようにしなければおじさんとお話なんて出来ないだろうことは分かりきっていたのだから。
後29才でおじさんじゃないって言うけど、後1日で30才な事は知っていた。だって家の人たちがやたらと普段より騒がしかったからだ。前の年の同じ時ぐらいよりも何故か忙しなかったのが可笑しかったけれども。
「えー僕はまだ成長期なの、これぐらいの夜更かしじゃちびになんないよ!牛乳飲んでたくさん動いてるしさー、ドッジボールじゃ皆に頼りにされてるんだよ、毎回ボールに当たらないから陣地に最後まで残ってるんだよ!
おじさん29才といっても、後1日で30才じゃん!僕にとってはお兄さんじゃなくておじさんだよ」
そういえば、グシャグシャされ続けた頭が痛くなる。
おじさんの痛いところをついてしまったと僕はとても反省した、それほどまでにとても痛い。
孫悟空の輪のように、頭を暫くおじさんに片手で締め付けられた後離された。
「いだぃ」
僕が頭を擦るように抱えた様子を見て、一つ溜め息をついた音が聞こえた。
「あのな、30才は世間から見ればまだとても若い方だぞ。それに俺はな、生涯ピッチピチのお兄さんだからな。
………あぁそういえばもう30か……」
「うん年取るのそんなに辛かった?僕は大人になるんだーって前の日とか近くになったらワクワクするのに。大きいケーキとかご馳走とかもあって」
「あー本当に口の減らない餓鬼だな、お前も元気な餓鬼じゃなくて俺のようにちゃーんとした大人になったら恐れるようになんだよ。ってこんなこと話しにきたなら本当にさっさと寝ろ。
俺はねみーって言ってるだろ」
あっそうだ、僕はおじさんのお化け退治のお話しを聞きにきたんだった。そういうものに関わるお家みたいだけどよく分からない、5才でそういうものが分かるようになるって教えられたような気がするけど……そういう事を感じたことが今まで無かった。
だからおじさんが話すお化け退治のお話しは、どこか非現実的で漫画やゲームのような素敵な物語のように思っている。
「そうだよ!それを聞きにきたんだよ僕。おじさんが話そらすからだよー」
「逸らしたのはお前だ餓鬼、まぁいい話すからそれが終わったらすぐに寝ろ」
おじさんはそういうと、昔使ったであろうボロく赤みのある黒いインクで汚れた手帳を取り出した。
そうしてあれも言ったこれも話したと、頭をかきながら内容を選び始めている。
「はーい!そういえばおじさん、30才の誕生日だよね、僕からプレゼントあげようと思うんだ何がいい?」
パラパラとめくられる手帳を眺めながらなんとなく口に出した、子供の僕には特に高いプレゼントとかそういうものは出せるわけではないが………せっかくのおじさんの誕生日なのだから僕なりに祝いたかった。
だって大人?になってからそういうものを祝うのは無くなってくることは知っていたから。
「じゃあ、ホットケーキ。
夜に焼いて持ってくるぐらいは出来るだろ?餓鬼のお前でも。つかお前にはそれぐらいで丁度いい身分相応の贈り物だろ。
おっとこの話は丁度いい、聞いて眠れねぇとか言うなよ」
おじさんは、僕にたいして求めるプレゼントを言いながら手帳をパラパラとめくって間に指を挟んで読むところを決めた。
そのからかうような表情にどこかイラッとした。
その僕のイラつきも分かってるのか、今度はなだめるように頭をおさえてくる。
「まー俺にとってはホットケーキは珍しいからな、甘味というと皆勝手に高いケーキやら皇室御用達の和菓子とか持ってくんだよ。たまーにはそういうもんを食いたい時もあんのにポテトチップスとか言ってもピザポテトや堅あげポテトとかそういうの持ってこねーし。
さて心の準備は出来てるか?」
「はーい………」
なんだか丸め込まれたような気しかしないが、ここでまだ話しているとお話を聞けずに終わる予感しかなかったのでほっぺたを膨らませて黙ることしか出来なかった。
「じゃあ、車での交通事故がやたらと多かった場所のお話をしようか。
あるところに、3人の呪術師がおりました。その術師達はこの脱線事故が多かった場所を化物のせいと気付き化物を探すために調べておりました。
そうするとある1人の女性がその3人に声をかけます。
『ここは危ないですよ、こちらへ』と
声をかけられた3人は、その女性におどろおどろしい気配を感じ祓おうとします。そもそもここには人がいるわけがないのです。
本性を見破られた女性の形をした化物は3人に襲い掛かります。その化物は、落ちていく恐怖を知っていました。だから落ちていく力を使います。
3人の術師は、それに対してそれぞれの持った術そして力を合わせて化物を引き剥がし弱らせて祓いました。
そうしてここでは交通事故があまり起きないようになりました。」
「ありがとうおじさん!」
僕は話が終わったおじさんにお礼をする。
毎回聞いてるけど、本当の話とは思えなくてこれが僕の知らないところで起きてるんだと思うと子供なりにロマン?を感じる。
そうするとおじさんは布団に潜って手だけだしてふった。
「本当にこんなんで喜ぶんだから餓鬼だよなぁお前は、ストーリー性も糞もないぞこんなの。さぁ寝た寝た俺は寝る、起こしても起きん。」
「ありがとうー、まだお話ある?」
「………………」
あっおじさん寝てる……体を揺すってもびくともしない、これ寝たふりじゃなくて本当に寝てる。
「ふわぁ……僕ここで寝ちゃおうかな、部屋に戻るの面倒くさくなっちゃった。おやすみ」
****************
「うんっ?」
僕が目覚めたのは、自分に与えられた部屋だった。側には家の人がいてぶつくさ言ってくる。
「またあのお部屋に入ったのですか!何度も何度も言っておりますよね。当主様はお忙しいと……当主様は気を許しておられるようですが、後すっかり寝坊されておられますし…………」
特に部屋がボロいわけではないけど、やっぱりおじさんの部屋と比べると少し見劣りしてしまう感は否めない。
「聞いておられますか!」
「うん聞いてる……でも今日は休みなんだからいいじゃん。しかもおじさんの誕生日なんでしょ皆騒がしかったから僕知ってるよ。」
休みだから、おじさんの部屋に忍び込んだんだしね。
一応学校では遅刻したりとかしたくないし、そこら辺はちゃんとしたいい子のつもりである。
今日の夜にまたおじさんの部屋に行って、ホットケーキを持っていくつもりだ。焼きたてじゃなくていいだろうおじさんのことだし。
………出て行っちゃったかまぁどうでもいいけど
と家の人が僕の部屋から出ていく様子を眺めて、学校から出された課題に手をつけながら勉強机の横に置かれていた二枚の4枚切りの食パンとバター、ジャムとベーコンエッグとトマトのスープに適当に手をつける。
多分今日もまたおじさんはつまらないことをするんだろう、家の人は大切なことを邪魔してはならないことと言うがそれよりも僕ともっと遊んでほしいし話してほしい。
言うなら、まだ僕は子供なんだからもっとかまってほしい。拾われた僕にとっておじさんは唯一の血の繋がってないとしても家族のようなものだから、両親もろくに覚えてない僕にとっての。
家の人は僕がおじさんに会おうとすることを邪魔するから、面倒くさい……気を遣ってくれるし代わりに遊んでくれることもあるけれどこれ以上に何で邪魔をするのかと言う感情がどうしても勝ってしまう。
「………………ホットケーキ焼こ」
今なら炊事場には誰もいないだろう、さっさと済ませるため元気よく駆け出した。
****************
「継木様 継木櫻様」
俺の部屋の前に、いつものように着物の女性が現れる。明日休みだとだから平気だと昨夜部屋に入ってきた餓鬼のせいで寝不足ぎみではある。
もう朝の支度は出来ているのだが、体の節々が痛いしだるい。まぁ何時ものことだし今日で解放されると思うと少し気だけは楽になる。
「あぁ当主としての任を全うするとしよう。今日が最期なのはわかってるから。
それを望んでいるんだろ?」
そう返せば、黙り沈黙した。
当たり前だから何も言うことはない、それだけのこと。
呪いの受け皿 呪いの放棄先 呪いの身代り
言うなればそう言うこと、いつか人が赦されるその日まで呪いを背負い続ける。まるでどこかの磔にされた救世主サマのようだなと境遇を見返す度に毎回思っている。
「まぁ機嫌が悪いわけではない、硬い顔をするな。今日で俺の番はしまいな事は皆分かっているだろう?
これで30、今までうっかり死ななかったことを誉めてほしいぐらいだ。」
そうやって、顔に隠すための布をつける。そういう縛り……いや風習だ。人が祭りで着物を着るような慣習となったもの。
外に出るときに囲まれては持たないからとは思うが……家以外の場所を知らない俺には無意味に近い行為だ。
足袋をはき、座敷に上がる。そこには呪いを呪力を抱えた人々がいる。低級呪霊がついているものも幾人か確認できた。皆俺の姿をみると平伏する。
何時ものような光景だ、俺自体が特別だとしてもどう思われてようがすることは同じだ。
「(術式 災回)」
定位置に正座し、集まった人達の呪力を残穢すら残さないほど周囲から回収していく。
呪霊は、呪術師や呪詛師ではない人間の漏れた呪力から生まれる。その漏れ出た呪力を呪霊を生まないようあらかじめ奪うのが継木家の役割であり呪いとの戦い方。
「(だけれども、それだけではどうしようもないこともある。もう無色の呪力ではなく、呪霊として形となったものはこの呪術の範囲外で回収しきれない。)」
そして、幾人かの呪霊が取りついているのに目配せをすると恐縮したり歓喜に震えるような様子を見せた。
根本的に言えば呪力は、負の感情のエネルギーとも言い換えてもいい。それを惹き付けやすいのは同じ者なのだろう、それが悪とは言い切れない。
そのようになって生まれただけ、またはその様に歪められただけなのだから。
「そちらの方々、少し来てください。今日は貴方とお話をしましょう。」
そういえば、目配せをした者たちはいそいそと近くにきた。今日は3人、やっぱりどこか疲れているような精神が不安定な様子だ。
呪霊は強力なものでも、弱いものでも人の心の隙に入り込む。元々弱っているところに更に入られたらそれはそうなるのも当たり前のことだろう。
ずっと見てきてなれたものだ。
「継木さま、最近何故か職場の皆に無視されるんです!仕事任せようと思ったら………」
「ずっと信じていた親友に、彼氏取られたんですー。彼氏もお前ブスだからいい財布だったよって。」
「バスケしてたんすけど、足怪我してもうできねぇって医者に言われて。」
そう三人とも勝手に喋りだした、それらは俺にはどうこうできない。個人の問題だからでも呪力の仕業であればそれはこっちの領分だ。
「そうですか、そうですか。」
相づちをうち相手に合わせ、周囲の呪力を取られたことで弱った呪霊を祓い一つ一つ呪力そのものに戻していく。低級だからアレは出さなくてもいいが……二級~一級のものとなると、隔離してやる必要があるので今日は面倒がなくていい。
後は、30分程度会話を続け終わりにしよう。
「少しは楽になりましたか?またいつでも来てください、私はいつでもここにいますので。」
そうやって話をお仕舞いにして、血を染み込ませた布切れが入ったお守りをそれぞれに渡す。継木家特有の血の呪いによる簡易的な呪具、これで暫くは場所を知ることができる。
もし呪霊にまた取りつかれたときにすぐに気がつけるだろう。
…………もう俺の代は今日で終わりだが、次のやつも同じ血の呪いの持ち主だ。変わりはしない。
ちなみにイメージソングは
空船
ラストダンス
になっております。
どの組み合わせがみたいですか?(展開影響アリ)
-
継木&虎杖
-
継木&釘崎
-
継木&伏黒
-
一年ズ+継木
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継木単体