「継木家当主 継木 櫻です。この度はこのような場を禪院家で用意していただきありがとうございます。」
その目の前の継木家当主継木櫻と名乗る冷えた氷のない水のような声をしている、家が決めた婚約者予定の者は浮世から離れているように見えた。
表面上は笑顔と見えるが、底に何があるのか見えない……もしかしたら何も無いのかもしれないとも思えるほどに。
その浮世離れした目の前の私とほぼ同じ年の男が、結納の契約には似つかわしくない。綺羅びやかとはとても言い難いが、素人目から見ても分かるほどに繊細な白の刺繍がされている黒の装束を身に纏っている………
だけれどもそれが失礼だ無礼だ等決して言えないほどに、男自身が醸し出す空気には、まるで彼専用に特注で拵えた一点物の様にあっていた。
まるで彼岸からのお迎えのようだ。
「禪院 真依です、この度はお越し下さりありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
私は、その言葉を言う。めでたい結納の話ではあるが、結局は政略………家の為の事を私という体が使われるだけ。
禪院家にとって女とは、炊事や洗濯掃除などの家事や身支度をやらせる雑用のみの小間使いと子供を産ませる腹………他の家と関係を結ばせる為の道具でしかない。
そうして強力な術式を持つ血を取り込んで無駄に大きくなっていった家でもある、コレがここの女のアタリマエ……
「…………一度会いましたか?」
ただ結末は変わらないのだから早く相手の機嫌でも取って終わらせよう。そう考えていた時に相手が私の顔を見てその一言を口にした。
口説き文句のような言葉だがその意味合いを 一切含んでない と感じることは出来る。只の疑問を口にしただけのような、含みを一切持たない言葉。
「いえ一度もお会いした覚えはありませんね。」
それに私は否定を返した、もしそれが含みを持たせていたなら相手の機嫌を取る為にわざと曖昧にしただろう。それが、優位になるから。
だけれども何処が最初から、そんな事通じないような気がしてくる今まで合ってきた大人含めた人と尺度が…………思考の方向性が違うと。
一度会いましたか?の一言で察した。
優しくしてくれると思った、襲われた。気に食わないからと、殴られた。どうでもいいから、何もしない。そのどれも当てはまらない。
「そうですか、何かこういう事になってしまいましたが本当に………
僕でよろしいのですか?貴方も。」
「いえ、そんな事はありません。この縁談を受けてくれたことを心から感謝致します。
私も貴方で幸せと思います。
これからもよろしくお願いしますね。」
そう、決まりきった答えを返した。それ以外の事をここで言ったら………唯一の私が私で決めた安らげる居場所すら、奪われていや家の人達に壊されてしまう事は分かりきっている。
まだ上手くすれば、何とかなるかもしれないそんな根本的な問題の後回しばっかりするしかない。どうにも出来ないしする力もないから。
隠れて本当に言いたいことを、何を言いたいのかすら分からずに喉で殺す。生まれる前の赤子を殺す為に柔らかい据わっていない首に手をかけて締めていく様に何かが毎回毎回すり減っていく。
いつもの事なのに。
「まだ言える段階ですらないですもんね。お互いにお互いを知らなすぎる。どこが嫌とか、どこが良いとか、まだ分からないも、前提すら無いようなものですし。
なので傲慢ですが、僕はこれから貴方に手紙を送ろうと思います。開けるのも、読むのも、返事を送り返すのも、好きな時にしてください。
僕が勝手にすることなので。読むのが面倒だったら捨ててください。
纏めて燃やしてもいいです。」
そこから言葉は相手の喜びでは無かったが、私にとっては予想外としか言えないモノ
「えっ?」
手紙を送るそれだけ。
それをすると言われた、表情や声音はからかいやジョークではない一つの手段として話しているようだった。私が知らない事を知ってもらう為の。
目の前にいる 継木 櫻 も、コレが家同士の政略による婚姻である事は知ってるだろう、知らないのなら…………
こういう事になってしまった
何て言うはずが無いのだ、私は思わず意図しない声がコップに入った水が、揺れで溢れて漏れるかのように零れ落ちた。
きっとその時の私の顔は、鳩が豆鉄砲を食らったという言葉がよく似合ってるだろう。
「交換ノートでもいいですよ?そこら変にこだわりは無いので、毎日話すことは難しいので妥協というかなんというかそういう感じです。」
コイツは、いつの時代の人間なのか?
いや政略結婚の時点で時代錯誤の産物な行為でそれをやっている家同士で言えた義理ではないが。一体どこの少女漫画から知識を取ってきた?
それとも只愚直に素なのか?
何もかも、わからない中で唯一分かるのが、私を尊重した上で事を成そうとしてる。
違う懸命に真剣にしようとしている。
その一つだけが、言っている内容ではなく声で伝わってくる。
「でもノートだと真依さんが、好きな時に返答できないじゃないですか………したくない時に。だから手紙を勝手にコッチが送ります。
僕を知った上で考えてください。
本当に大丈夫かどうかを、真依さん自身が幸せになれるかどうかを駄目なら駄目なところを直せるようにします。
どうしても無理なら、他の方にできないか家の者含めて相談します。僕個人としてはそういうつもりです。」
「…………ぁっそうですか。」
真正面から真っ直ぐ向けられた目に、思わず口を閉じるのを忘れる。次の言葉を紡ぐ思考を一瞬奪われる。
ろくな返事が返答が出来なかった、初めの時から面白い冗談ですねと茶化せば良かったのに。
「どうかしました?少し聞き取りづらかったなら、もう一度分かりにくかったときから言いますけど……」
私のちょっとした不審な様子を見て怪訝そうに、まるでそれが当たり前かのように返してくる。禪院家がふつうからしたら何もかも狂ってる事は私は分かる。
だけども、貴方をふつうと全く言い切れないのはこちらの目が濁ってるのかコレがそうだと認めたくないのか
それとも、コイツはコイツで狂ってるのか。
「はい確かに、お互い全く知りませんからねいいですよ。返答は遅くなってしまうかもしれません。
手紙でもノートでも………」
…………相手が勝手に送ると言ってるのだから、返答も何もかも関係ないそう心の奥底で思いながら何とか返す言葉を頭の中で組み合わせる。
正直に言えば、ここまでで不快や嫌悪は感じなかった。悪い人ではないだけれども………何故か深く深く見ようとすると、不気味さや不穏さが口の中に入った砂の感触のように残る。
底が見えないのか、底抜けなのか。
純粋な良い人で、済ませてはいけない。
という事が頭の中でチカチカと、危険信号のような音と光を幻視する。私は他人に気を使うほどのお人好しじゃないはずなのに………
「じゃあ遠慮なく送りますね、僕は貴方のことを知りたいと思ってますけど。
貴方がどうかはわかりません、それを知る術は僕にはありませんから。そうなのかどうかは、貴方だけにしか無いんです。
僕が勝手に決められません。」
勝手な言葉を吐き連ねて、継木 櫻は席を立つ。いつの間にか、約束の時を一時間も過ぎていた。
早く終わらせようと思っていたのが嘘のようだ、まだこの喉に突っかかる出来てしまった違和感を飲み込めるの程の理解は到底できていない。
「今日は、お互いの顔合わせだけ………みたいですし。お別れですかね。」
顔合わせだけで、どっと疲れたような気がする。禪院家の奴らに似ていたなら相手するにはまだマシだった、でも全く違う思想が相手だったのだ。
呪術家なら、禪院家が極度に先端化してるだけで………似たような部分は多い所がある。
男尊女卑も術式の強さや、呪力の強いを見るのも………けれども継木 櫻はアレは継木家にどういう風に育てられたの?
それとも、元来からあぁなの?
「名残惜しいですが、ちょっとお仕事があってコレで失礼させてもらいます。」
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「まっ……まさか本当に、ほぼ毎日。
内容もしっかりと作文用紙3枚分ぐらいある手紙送ってくるなんて思わないじゃない!しかも割と読むと内容がしっかりあるし。」
私は、ゴミ箱に捨てられていた高そうなお菓子の空き缶を今日届いた手紙を入れるために開ける。
もうそろそろ早くも満タンになりそうで次のお菓子の缶とか入れられるものを探さないと、と思ってしまう。燃やしてしまってもいいが………この得体のしれないあいつに対する違和感をどうにかしたい。
手紙の内容を読んでも、今日したことやきれいな風景とかその他色々書いているだけで私に関するような物は冒頭に書いてあるお日柄もよろしくぐらいの挨拶程度の物。…………色々書いたり写真送ったりするわりには何故か食事に関するものが一切入ってないのは少し気になるが。
少しは、一回ぐらい忘れるものじゃないの?こんなもの。サボるものじゃないの?こんなもの。
「どんだけ真面目なのよ、その真面目さこんなところに使ってないで別の所に使いなさいよ!何なのよアイツ。本当訳分からないわっ!
これで僕の事を知ってください?ですって手紙の内容自体は普通だけど行動が全くわからないのよ!」
連続的に見ずに細切れで見た行動とその内容自体は、私でも普通と見られる部分はある。それなりの内容の、例えばこれだったら手紙を一ヶ月に2.3回とか…………多くても一週間に一回と思う。だけれども書いたであろう日付を見ると実際に手紙を送りますと言われてから。
1日も欠る事なく毎日書き続けてるのだ。
だけれども、もし一通でも内容が雑だったり等の手抜きさえあればまだ何とか理解できた………けれどそれすら無かった。すべて原稿用紙3枚程度の文章量で、書いた日付が本当ですと示すかのようなビデオカメラで取ったであろう写真何もかもきっちり揃っていた。
まぁなんでか、飴玉とかラムネとか小さいお菓子も中に入ってるのだが…………見ずに捨てる事をあんまりしないで欲しいからなのかどうかもわからない。
でも確実に嫌がらせや冷やかしでは無いと言うことがはっきりと分かってしまうのが、余計に性質が悪い真剣に誠実にまともにやったしやろうとした結果がコレなのだ。
もしかしたら何も見ずに燃やすかもしれないと、下手すると燃やしていると言っても毎日送ってくるだろう。
「何だー真依そんな声荒らげて、そこまで大きい声だとあんまり家の奴ら来ねぇ場所でも聞こえっぞーってコレ何だ………‥。
うわっココにあるの全部お前宛の手紙じゃねーか!ナニコレ何十日分あるんだ?結構大きな菓子の缶だろこれぇ。
蓋が変形してるし、しまんなくなりそうって相当だぞ!?」
私の思わず大きく出た声が聞こえていたのか、遠くから走って真希お姉ちゃんがよって来る。そして何だ何だ?と何処がワクワクした好奇心に身を任せるように、私が手に持っていたお菓子の缶の中身を除くと顔を着色料を使ったのかと思うほどに真っ青にさせた。
手も衝撃でなのかワナワナと、何を掴むでもなく動いている。
「あぁおっ………お姉ちゃん、ちょっと前に縁談でお見合いさせられたんだけど。その相手から…………配達距離とかもあってバラバラだけど日数的にほぼ毎日送ってるみたい。
それですぐに埋まっちゃって………」
とりあえずこの様子だと、説明しないと不味いだろうとだんまりだとどうなるのか分からないと思って。
私は、大量に手紙が入った缶を横目に見ながら………そう言うと………
「うわぁ変に気に入られたか?無理やり妹を襲って来るような奴なら〇〇〇〇蹴り飛ばして××××して★★★★してぶっ殺してやる。」
声は冷えているが、内容が明らかにひどくてやりそうな感じだ。あぁこのままの内容相手にやったらお姉ちゃんの身体能力も相まって死ぬ。
「それはやり過ぎ………死んじゃうでもありがとうお姉ちゃん。内容自体は大丈夫本当に、自分のことしか書いてない。えっと少し見る気になるだろうし?」
「んっどれどれ私の妹に出してるやつは………継木なるほ……え”ッアイツかっ!?継木 櫻かっ!
何考えてんだアイツ。コッワ………ぁーでもアイツならコレやりかねぇー
悪いやつでは無い寧ろ呪術師とかそういうの抜きにしても善良。それは私からも言えるが、ちょっと今度あったら絶対に締める。」
別にくる事自体は私は問題ないのだ、頻度と中身の量の釣り合いが圧倒的に取れてないだけで………もし毎日来てても短い文章ならばそうなのだろうと受け取れただろう。
あぁそうなんだろうなと読み取れただろう。
そういう部分を含めたことを言って、お姉ちゃんに手紙の一つを見せるために渡せば送り主縁談相手の名前に真っ先に反応した。
そうして………何度かあったような口振りをする、もしかして一度あったとことがありませんか?の確認って………お姉ちゃんの事?
「えっお姉ちゃん知り合い………だったの?」
「あぁそうだよ、家の奴らに絡まれて少し大したことねぇ怪我した時に追いかけ回された。
スピードや地の利はこっちにあるはずなのに、みょーにうまくついてきてな………理由は心配してとのことだ。」
継木が手紙を送るといった理由
家の格式から電子的なのを避けたのもあるけど、
メールと違って
物資を隠して贈れるから(違和感のない大きさと重さは検証中主に趣向品を渡すのに)
純粋に真依ちゃんが嫌な時に見なくていいから
単純な物、いつまでも残そうと思えば残るから
の主に三点だったり
(筆跡の関係で改竄もしにくいし、中身は破られてたら直ぐに誰かに見られたこと分かるしね。………勝手に見たら縁談に亀裂はいるよ?という威嚇ぐらいはしてるだろうけど)
…………コイツ重いな、軽くやってるけど
どの組み合わせがみたいですか?(展開影響アリ)
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継木&虎杖
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継木&釘崎
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継木&伏黒
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一年ズ+継木
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継木単体