どうか
「継木 櫻様お疲れさまでした、お大事になさってくださいこちらはいつでもお待ちしております。」
朝から病院から出ると、院長も揃って多くの従業員からのお見送りを受けた。なんだか大げさ過ぎるような気もしなくもないが………継木家からの支援が多いのだろうか?
こちらを迎えに来た家の人も病院の方と何か話しているのが見えたがだいたい十分ぐらいで終わり
「こちらです」
と戻って車への案内をされた。
まだ具合は悪いが、なんとか病院を退院し(継木家とかなり縁がある病院だから本来よりだいぶ前に退院させてくれた)
車の外の景色を眺めながら、家に戻り。
おじさんの屋敷で行われる葬式に出た、次の継木家当主として。
「きつくはありませんか?櫻様、唐突でしたからまだ合せが出来ておらず申し訳ありません………」
「仕方ないよ、昨日今日の話なんだから。気にしなくていいよ僕も当主になるって昨日初めて知ったしびっくりしている。」
「そうでございますか………櫻様」
正装なのか、いつも儀式でおじさんが着ていた服を何人かで着させられた。見た目よりは大分動きやすい服装であるが、体格の差なのかブカブカしている部分が多くて不愉快な気分にさせられた。
葬式もどこか、儀式めいていた。
表では表してはいないが、そこにおじさんへの悲しみ等は含まれていないように仮面をつけたような顔をみんなしていた。
ただの一つの区切り後始末といえばいいのだろうか?
僕はまだ幼いと言う事で、進行など全ては他の人が行っていてただそれをあの時の夢のように眺めてるだけだった。いやもしかしたらこっちのほうが夢なのかもしれないと思うほどに。
微睡み、落ちそうになる度にふっと意識を戻すことを繰り返しながら時間を過ごす。聞いた話だと、継木家は火葬はしない土葬で樹の下に初代から全ての当主が埋められている。
僕もいずれはその樹の下に逝くのだろうと、ぼんやりでもおじさんと一緒のところなら良いと感じていた。
その後は、櫻の樹の下に埋められるおじさんを見た。顔には布を被せられ何故か心臓あたりが赤く花を添えたように滲んで染まっているのが見えた。
深く深く一人分の穴の奥に、おじさんの亡骸は置かれパサリパサリと土がかけられ見えなくなっていく。
「待って……」
「………櫻様お静かに、お願いいたします。」
思わず駆け寄ろうとしてしまうが、周囲の人間に抑えられた。当主としての行動ではないと………
思わず後でおじさんに会うため掘り返してやろうか?と思っただけどその眠りは僕にも妨げてはいけないものだとは分かっている。
「(でも、病み上がりに肉大量に食わせるのはいかがなものか?)」
葬儀が一段落し、その後食事を取ることになったが何故か自分の皿にだけ肉を細切れにして焼いたようなものが乗せられていた。
食ってはみたが、食べたことは無いが内臓っぽくて硬くてとても美味しいとは言えたものではない。だけれどもおじさんが言ってたとおり残さない様にゆっくりだが頑張った。全て自分の身になるとずっと言われていた。
なんとか食事が終わったあと、当主として各地の挨拶回りがあるらしい………僕に言われたのは櫻様は、まだ若いお話等はこちらで行いますので心配なさらずとのことだった。
正直今のところは継木家のお飾りなんだろうと子供ながらにも感じた。
呪術御三家?と呼ばれる家に最初に回り、その後細々とした関連がある呪術家、呪術以外の関連がある組織の順でかなり数があり特に御三家は最も気を使いますので備えてお眠りください
と夜にもなっていない時間に言われた。
というか呪術御三家から話してほしい、僕全く知らないけど様子から色々と偉いことはわかるけど……何話しかけられても黙ってるのがいいかな。
まだ具合悪いしずっと。きっと治ることは無いんだろうな治ってたらきっと前々からおじさんの時から治してるだろうし。
そう思いながら忙しかった一日を〆るように布団へと潜って暗闇に沈んだ。
****************
「おじ………イッ」
僕は倒れた、おじさんは横にいる。苦しい、体中が全てナニカに無理やり変えさせられているような、僕が僕じゃ無くなってしまう。
視界はもう真っ黒でなんにも見えない、目を開けても真っ黒で感覚もどこかふわふわしていた。その中で
おじさんの声細く叫ぶように
「己の名前を忘れるな」
と言う声にもにつかない音を感じる。
おじさんもそうなのだろうか、一人は寂しいから手を伸ばしたいがどこに伸ばせばいいか今僕に手がついているのかすら分からない。
救急車の音が聞こえない。
………………………………………
そのまま意識を無くす、そうなると思っていた。だけれども目が開けた
「(何で?)」
そこには一本の櫻の大樹、あの庭で見た木と全く同じに見え僕は顔が半分もうずぷずぷと底なしの沼に沈むように土に沈んでいた。
不快感はなく、むしろ母の母胎に戻るような心地よさがあったが……
「(このまま、よくわからないけどやられるんじゃだめだ!)」
急いで足掻いて藻掻く、だけども水を掴むように手応えがなく次々とすり抜けてもう鼻だけしか出ていないようになったとき。
沢山の誰かに背中を押された、その手はきっと僕と同じようにここで足掻いた者たちの手なんだろうと察した。ゆっくりと沼から自身が押され浮かんでいく、完全に浮かんだ………
「今なら僕でも引っ張り出せるから!」
そうやってすぐに体勢を立て直して地面に手を入れようとすると先程までの沈むような底なし沼でなく硬く拒むようになっていた………
きっと木の下に、あの人達はいるのだろう。
「引っ張り上げられなくてごめんなさいでもありがとう、ここは本当にどこなんだろう……」
そうやって何か出口でも何でもないかと辺りをうろつく、現実とは思えないほど広く広く広がっている空間。
心地よくけれども自分を持たないとまた落ちていってしまいそうな感覚もある。
ここに来るまでを思い返してみると、かなり欠落している記憶があった。自分の名前や年齢、家族のこと、楽しかった旅行。それらがあったと言う事は思い出せるが内容がまるで黒塗りされた新聞のようにカランと欠けていた。
「まず真っ先に思い出さなきゃいけないのは僕の名前だよね……おじさんも最期にそう言ってたからきっと大切なこと。」
それに混乱せずに、いられたのはおじさんからの言葉があったからだった。
でもそれ以上にここで何をすれば良くなるのかが分からなかった。さっきみたいにならないようする為に、自分をしっかり認識し続ければいいのはわかったけれども。
「櫻折ってやろうかな。僕じゃ枝ぐらいしかいけないだろうけど。」
何も行わないよりも、やって悪化しても好転してもやることがあったほうが正気を保てる。そう思い僕はなんとか木によじ登り、手に届きそうで折りやすそうな枝をポキっと手折った。
すると紅い血液のような樹液がドロドロと折った枝と木の断面から溢れ出しびっくりして木から落ちた。
落ちても夢で落ちるように痛みは感じず衝撃もなかった。同時に夢なら悪夢だから早く覚めろとも思ったが。
「………で本当にどうしよう。」
不気味にタラタラ血のようにドロドロとして紅い樹液を流し続ける樹の枝を持ってると、どこか懐かしい他人の記憶が自分の中に流れてきた。
今でも生きているような僕とは全く関係のない他人のことなのに鮮明で懐かしいと思ってしまうような記憶。
あの櫻の中に閉じ込められていたのだろうか?
「もしかしたらこれになにかあるかもしれない。」
そう思いやることを見つけ、自我を失わないように確かに自分は僕はここにいるとずっと思いながら多くの他人の懐かしい記憶を辿るように中に入り込む。
そこには呪いとの戦いや、何気ない幸せな日々、悲しい裏切り、幸せの絶頂、緩やかな終わり。
多くの人のすべてを見られた訳ではない一部だけれども、それは全て幸せな記憶でもなかったが辛くて残酷な記憶だけでもなかった。
そして僕にとって大切な記憶もあった。継木の意味、今僕の置かれている状況がやっと理解できるぐらいの情報も。
「これが僕の継木の呪いか……もうここに来た時点で手遅れかもしれないけど、おじさんの事もあるし最後まで抵抗させてもらう簡単に呑まれたりはしない。」
呑まれないため、自分を守るカラを作る。やり方は今ので見た一回でできなくても何度でもやる。
ここにこうしていられたのは僕が初めてみたいだから、領域はただの区切り、決別の印。
名はそれを示す、証。形を保つためのモノ。
たとえ櫻と違い花をつけることも実ることが許されないとしても、名前を奪われたとしても。
「領域展開 夢幻書房(ムゲンショボウ)」
そこに小さく塗りつぶされ現れた世界は、たくさん本がある書庫の形をしていた。中央には一つの座るための椅子と机、僕は一つ本を手に取ったするとあの櫻の枝と同じように記憶が流れてきた……
アレと同じということは本当に今感じている自我はハリボテみたいなもので手遅れなのかもしれない、けれども足掻く時間も手段もできた
ならば
僕は中央の椅子に座り次から次へと本を手に取り読み込んでいく、その度に他の人の記憶を脳に駆け巡らせながら必死に次へと進む。
その存在を取り返すまで、己を失うわけにはいかない。それこそがおじさんからの願いで僕の小さな小さな抵抗。どうか己が尽きる最後の最期までさせてください。
****************
今回は夢を見なかったが、何故か朝から騒がしい。
「継木家の櫻の枝が折れている。」
「誰だっ誰がやったんだ!?」
「今までこんなこと無かったぞ、これは今代は厄があるかもしれん!」
「そんなこと言わないでください。」
庭のあの土葬の櫻の枝が折れたという騒ぎらしい。今日は御三家に朝から準備して向かわないといけないのに不運というかなんというか………
「ひとまずは、櫻の手入れを今後とも十二分に行いましょう過ぎてしまったものは仕方がありません。」
と取りまとめ役の人が一言言ってひとまずは収まったようだ、僕は今日もあの堅苦しい正装をしていくようになると思うと気が重くなる。
流石に御三家にいつもの服装では行けないと何回も言われたので従うし自身でもそれはだめなのはわかる。
ご飯は用意してくれるそうだが
「朝ご飯は食べない、緊張で吐きそうになるなら内容物ないほうがいい。」
と言って断った、腹が鳴らないように水は飲んだが………せっかく作ってくれたのに残してしまうのもあれなので家に帰ってから貰うとも言ったが。
「当主様にそんな冷めたものを食べさせられません!帰られた際にはちゃんとしたものを作り直します。」
と焦ったような、少し怒るような、感じで言われおじさんが僕のホットケーキぐらいの雑な料理がたまに食べたくなるといった気持ちがわかる気がした。
「あそうか……なら適当に食べるでも捨てるでも処分してくれ。」
無理に引き止めることもするのもアレでどう返答すれば良いのかわからずとりあえず会話を切るために言葉を紡ぎ。
「今日から3日間御三家をそれぞれ回るとだけしか聞いてないけど、まずはどこからいくのかな?知らないけど………」
と正装に着替えさせられながら、予定を聞いた。御三家についてそれぞれ詳しく知っているかなんてほとんど聞かれないだろうし、ただの入れ替わりの挨拶に偉い人が根掘り葉掘りするわけでもないだろう。
「今日は加茂家に向かうことになっています。
当主本人との主なお話はこちらで行いますので………
継木 櫻様は次期当主の加茂憲紀様とお話される事はあるかもしれません……年齢はだいたい3年ほど上の方でございます。」
「そうなんだ、失礼がないように気をつけるけど………もしなにかしたらフォローお願いしてもいい?」
歴史が深いところは良くも悪くも、特色的な規則がある。それを無意識に気が付かず破ってしまうかもしれない。
笑って許してくれる程度のものであればいいが、牛や豚を食べてはならない規則のものに気が付かず牛や豚を食べさせるようなことがあれば絶縁などもあり得ることは分かる。
「もちろんでございます、そのために我々は居るのですから。継木 櫻様は居るだけで尊い存在なのです、その役目を穢さない為それだけでございます。」
「そこまで固くならなくてもいいよ?」
本当におじさんもずっとこんな感じだったのだろうか、いずれ慣れるとは思うけど……いつ慣れるのか、落ち着けるのはまだ随分時間が掛かりそうだと思いながら。
複数人での正装の着付けが終わり、簡単な身支度を済ませ車に乗り込む。
御三家の家で遠い順から向かうという話を車の中で聞き、加茂家が継木家から一番遠いのかーと思いつつ、ゲームなども持ってこれないので窓の外の動く景色をボーッと見ながら時間がすぎるまで目を閉ざした。
挨拶回りin御三家
どの組み合わせがみたいですか?(展開影響アリ)
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