偽りの英雄~彼女に振られて異世界転生~《改訂版》   作:オクたんじろう

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灰色の天使

 

 ダンジョンの試練はクリアすると加護を貰え、魔法が使える。しかし第一の試練をクリアするにも冒険者ランクにしてDランクほどの力が必要であるため、ほとんどの人は魔法すら使うことが出来ない。

 

 

「準備は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

 

 ロストダンジョンの入り口で、衛兵に声をかけられる。どうやらここの衛兵や教官は奴隷のことも気遣ってくれるようだ。鉱山のやつらとは大違いだ。

 

 俺は食料や水、ロープ、予備の武器などといった荷物を入れたバッグを背負いダンジョンに入っていく。

 

 ダンジョンの中は高さ3m、幅は10mくらいの通路で、予想よりも広く、囲まれたら大変そうだ。ちなみにダンジョンは地下にあるのだが、何故かそこまで暗くない。そして、入り口5つにわかれている。これは難易度によって分かれていて、右から順に難易度が上がっていくらしい。

 

 ちなみにここはゴブリンやオーク、オーガなどのモンスターがでるダンジョンで、火のロストダンジョンと言われている。

 

 俺は一番右に行き、奥に歩いていく。

 

 しばらく歩くと、そこには二体のモンスターがいた。

 緑の肌に老婆のようにしわだらけで醜い顔、頭に小さな角が生えていて、身長は120㎝の人型、手には棍棒を持っている。ゴブリンだ。このダンジョンの第一階層に出てくるモンスターである。

 ちなみに強さは武器を持った成人男性なら余裕で倒せるくらいのG級モンスターといったところだ。

 

 モンスターは冒険者ギルドによって、脅威ごとにランク付けされており、下からG→F→E→D→C→B→A→S→EXとなっている。これに対応する冒険者ギルドも下からG→F→E→D→C→B→A→S→EXとランク付けされている。

 

 ちなみに冒険者ランクD級=国の兵士レベルで、だいたい冒険者はD級以下がほとんどらしい。さらにS級以上の強さを持つものは、一国の中でも数えるほどしかいないといわれている。

 

 ちなみに俺は教官にDかC級くらいの強さだろうと言われている。

 だがゴブリンは最下位のG級モンスターであるから、俺の敵ではないだろう。

 ゴブリンが俺の方に駆け出してくる。

 

「楽勝だな」

 

 俺はそう呟き、魔力を全身に巡らせ、手に持つ槍に魔力を浸透させ、ゴブリンの頭に槍を突きだす。

 ゴブリンの頭は一撃で消し飛んだ。もう一匹のゴブリンはそのまま槍を振るうことで、頭を切断する。

 

「こんなものか……」

 

 異世界での初めてのモンスター戦闘があっけなく終わった。

 人型のモンスターを倒したはずが、俺は抵抗感も何もなく、何も思わなかった。それは転生した影響なのか、元からの俺の人格だったのかわからない。

 

 ズボンにぶら下げている短剣を手に取り、ゴブリンの心臓辺りを切り取る。そこには、1㎝ほどの魔石があった。

 俺たち奴隷がダンジョンに行かされる目的は主に二つある、一つ目はこの魔石を取るため、二つ目は迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)を起こさないためである。

 俺はもう一体のゴブリンからも魔石を取りだし、魔石をバッグに入れると、奥に向かって歩き出した。

 

 

――――

 

 

 扉のようなものが見えてきた。

 

 ゴブリンは等間隔でいて、だいたい1~3匹の集団がいるようだったが、槍術上級の俺の敵ではなかった。

 ここまでで合計で20匹ちかくの敵を倒したが、通路は一本道だったので、迷わずにここまでこれたようだ。

 そして、ようやく中ボスの部屋だ。

 ダンジョンは一本の通路に中ボス部屋、ボス部屋があり、それぞれに今まで以上のモンスターが登場するらしい。

 中ボス部屋とボス部屋に一度入ると、そのボスを倒すまで逃げることが出来ない。

 

 槍を握りしめ扉を開けて、中に入る。

 

 すると後ろの扉が閉まり、魔力が濃くなり、地面が光った。

 

 そしてそこから4体のゴブリンが出てきた。

 ゴブリンはそれぞれ剣を装備していて、後ろのゴブリン一体は170㎝ほどで、明らかに大きい、F級のホブゴブリンだろう。

 

 

 俺はゴブリンの集団に走りだし、槍で一気に薙ぎ払った。

 

 剣で武装していようと所詮はゴブリンだ。前にいた3体のゴブリンは、身体強化によって向上した俺の腕力で、そのまま吹き飛ばされる。

 そのままの勢いで槍を突きだした。捩じられた槍はホブゴブリンの頭を穿ち、大穴を開ける。

 そして吹き飛ばされたゴブリンたちを処理して、俺の中ボス戦はあっけなく終わった。

 

 ホブゴブリンから魔石を取る。そして、中ボスの部屋の奥にある通路まで行く。

 

 ここからは未知の領域だ。といっても、一番簡単な右の通路のためそこまで強い敵は出ないだろう。

 

 俺は奥の通路を進んでいくと、今度はホブゴブリンが三体出てきた。だが所詮F級三体だし苦労せずに突破できた。

 

――――

 

 それからだいぶ進んで、ホブゴブリンを何体も倒していった。どうやら中ボス以降の通路に出るのはホブゴブリンのみなのだろう。

 

 合計で6時間ほどかけて通路を進んでいくと、大きな扉が見えた。ここがボス部屋だ。

 

 魔力の残量は充分だ。俺は槍を構え、気合を入れると中に入った。

 

 扉が閉まった。何か嫌な感じがする。すると何故か、俺の魔力が活性化して一気に魔力が減る。膨大な魔力を持つ俺の魔力がほとんど持っていかれた。

 

 部屋の魔力が濃くなった。予想よりもやばそうだ……だけど、一番右の通路のボスはE級のゴブリンロードに取り巻きF級ホブゴブリン5体のはず。

 

 しかもダンジョンのボス戦の敵は魔法を使ってくるが、ここはロストダンジョンであるため通常のモンスターと同じで魔法を使えないはずだ。知能もないただのE級モンスターのゴブリンロードが出てくるはずだ。

 

 ボス部屋はこんなもんだろう。今の俺の実力はC級くらいだし、大丈夫……と自分に言い聞かせて、冷静になる。

 

 魔力が地面に収束し、眩しいほどに光る。

 

 そこから出てきたのは、灰色の羽が生えて、髪も灰色の天使のようなモンスターだった。身長は2mほどで、その目には理性らしきものが残っている。取り巻きもいない、明らかにおかしいことだろう……

 

 俺が混乱していると天使が言葉を出した。

 

「試練に挑みしものよ、その力を示せ、さすれば恩寵は与えられん」

 

「……え」

 

 明らかにこいつは知能があるようだった。知能があるモンスターはロストダンジョンにはいないはずだ。しかも、神の試練と言っている。それもロストダンジョンではありえないことだろう。

 

 明かに不測の事態だろう。しかも魔力量は充分であったはずなのに、さきほど何故か魔力が持っていかれたため、長時間戦闘するのは不可能だ。

 

 一体何が起こっているんだ?

 俺は混乱し、動けないでいる。

 

「――加速(クイック)

 

 天使が何か呟き、突然目の前に現れる。

 

 俺は呆然としていても、目を離していないはずだと……と考える、しかし天使は俺に向かって拳を突き出してきたため、一時思考を停止して、攻撃を槍の柄の部分で防御をしようとする。

 

「――加速(クイック)

 

 しかし、天使の拳が俺の胸に突き刺さる。

 

 俺はダンジョンの壁まで吹き飛ばされた。

 

「ッッツ」

 

 俺は声を出せないほどの衝撃で吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に倒れこむ。

 

(何が起きたんだ? 攻撃に防御は間に合ったはずだ、でも急に天使の攻撃が速くなって俺は吹き飛ばされた……)

と考えていると急に痛みが襲ってきた。

 

 胸が痛い通り越して熱い。

 

 身体を確認してみると、骨が何本も折れているようだし、胸の肉が抉り取れて、臓器が丸出しだ。身体強化で耐久も上がっているはずだったが無意味だった。

 

「……ッぐっは」

 

 口から血が溢れてきて、息がしにくい。

 

 意識の外から殴られたため、変に力を入れてなかったのが幸いし、足と腕はまだ動くようだ。

 

 灰色の天使が近づいてくる。

 

 俺は震えることしかできない。

 

 (逃げなきゃ殺される…………早く逃げなきゃ。もう敵はすぐそこだ。でも足が震えて動かない。逃げなきゃ死ぬ。死ぬのは嫌だ……『逃げるな、強くなるんだろ?』)

 

 俺の頭に逃げなきゃという思考で一杯だったが、何故かその言葉を聞いた瞬間、目の前の敵を倒して強くならなきゃいけないという気持ちが襲ってきた。

 

 (何故、強くなる?…………そうだ俺は強くならなきゃいけない。誰にも邪魔させない……やるしかない、ここで倒さなきゃ、俺に未来はない)

 

 思考が濁る感じがした。

 だが俺はそう決意し、心を奮い立たせる。

 

 しかし、決意があっても、恐怖がよぎり身体が言うことを聞かずに足が震えてなかなか立てない。

 

 天使はもう目の前だ。

 

 (……死にたくない、死ぬのは嫌だ、だけどそれよりもこいつを倒さなきゃ強くなれない……まだ異世界でやることがあるんだ……流されるな! 恐怖に流されてたら、死ぬだけだぞ! )

 

 俺は震えた足に力を入れ、足と槍に限界まで残り少ない魔力を集中させる。どうせ身体的にも次の一撃が限界だろう、だからこの一撃で天使を倒せなきゃ俺が死ぬ。

 

 多すぎて操作できなかった魔力が体から留めきれずに皮膚を破りだし、血があふれる。

 

 魔力の許容限界を超えた鉄の槍にひびが入っていく。

 

 すべての魔力を使い切る勢いで、出し惜しみせず魔力消費の大きい魔力探知も発動させ、天使の魔石の位置を探る。

 

(この一撃に全てをかける……)

 

「――加速(クイック)

 

 天使が呟き。

 

 天使が加速し、姿が霞む。

 

 (上に来る!)

 

 魔力が抜けていく。俺は力が抜けそうになり、意識が飛びそうになる。

 

 しかし気力を振り絞って踏ん張り、体に力を入れて身を縮む。

 

 すると俺の顔があったはずの場所に天使の拳が通り抜け、ダンジョンの壁に当たる。

 

 瞬間、俺は足を蹴りだした。

 

 縮んでた力も一気に使い加速し、空中に飛び出す。

 

 蹴りだした足は勢いに耐え切れずに折れた。

 

 痛みに顔をしかめる。

 

 しかし今、痛みがどうとか言ってられない。

 

 今度は槍に集中する。

 

 身体の勢いを伝えて、膨大な魔力を纏った槍に捻りを加え、さらに力を伝える。

 

 旋回した槍の穂先が空気を引き裂く。

 

 スパンっとその威力の籠った一撃は天使の胸にある魔石一直線にその勢いのまま飛び出していった。 

 

 ザッシュッと槍はそのまま胸をとらえた。

 

 その衝撃で腕は折れた。

 

 しかし、槍の勢いは止まらない。槍は旋回しながら天使の胸の肉をもろともせずにその奥にある魔石を穿った。

 

 鉄の槍は天使の体を突き抜け背中まで貫通した瞬間に耐え切れなくなり、鉄の槍は砕け散った。

 

 

 あまりの速さに姿が霞み、純白の髪と黒光りする矛先だけが煌めく、すべてを賭けたその一撃は、純白と漆黒が交じり合う雷が如く一閃だった。

 

 

「見事なり……加護を与えよう」

 

 天使はそう呟くと、後ろに倒れていった。

 力が入らない俺は天使を下敷きに倒れこむ。やりきった……全身が痛い、しかし謎の達成感があった。

 (生き残ったぞ……あ、でも血が止まらない……意識が途切れていく……)

 

 血を失いすぎた俺はそのまま気を失った。

 

 

 

――――

 

 

 そこには、数千、いや数万の武装した人間たちが争いあっていた。

 

 怒号が鳴り響き、幾千もの武器と武器がぶつかり合い、剣戟が鳴り響く

 

 人が剣や槍で引き裂かれ、血が地面を汚し、元の色がわからぬほど赤く染まる。

 

 その地獄に空より一人の人間が現れ、戦いは止まる。

 

 皆がその圧倒的な雰囲気に息を呑む

 

 背中に炎の赤き翼を生やしたその姿は天使のようでもあり悪魔のようでもあった。

 

 「――――――」

 

 炎を身に纏う男が何か呟く

 

 すると、太陽の如き巨大な炎がその地獄を包んでいく

 

 

――――

 

 

「……眩しい、暖かい」

 

 自分の寝言で目覚める。

 

(……ここはどこだ?……何か変な夢を見ていた気がする……そういえば天使はどうなった?)

 

 俺は体を起こすと、近くを見渡す。下には天使の死体があり、手元の槍は壊れている。

 

「……俺は勝ったのか」

 

 感慨深くそう呟く。

 しかし同時に違和感もある、魔力切れで確かに体はだるいが、痛みがないからだ。血を流しすぎて意識をなくしたはずだが違和感がある。

 

 (痛みがない? 何故だ? 体中ボロボロだったはずなのに……)

 

 体を確認すると折れたはずの腕や足、胸などにも傷一つない。

 

 (試練攻略の特典なのか?……)

 

 まあ、わからないことを考えても仕方がなので、俺は立ち上がり、天使の魔石を取ろうとする、しかし最後の一撃で魔石を砕いていたのかわからないが、魔石のあるはずの胸には何もなかった。

 

 (やっちゃたな、まあいいか、怪我が治ってただけで儲けもんだ)

 

 俺は気を取り直して、ボスの部屋から出ようとする、ボス部屋は行き止まりなので、入り口の扉の方に引き返す。

 

 (あーあ、槍も折れちゃったし、予備の槍を使って帰るとするか……)

 

 教官に貰ったばかりの槍が折れたことを考え、気を落としす。

 

 すると、またボス部屋の地面が光りだした。俺は警戒をする。

 だが光が収まると地面の中心には、一本の純白の槍があったのだ。

 

「なんだこの槍? 試練のクリア報酬か? でもそんなこと聞いたことないもんな……ん? 試練?そういえば、試練をクリアすると、加護がもらえるんだっけ? じゃあ俺は魔法を使えるのか?」

 

 俺は加護のことを思い出し、魔法を使おうとするが全然ダメだった。

 むしろ俺の適性はないんだし魔法などあるのだろうか?

 そう自分で考えて落胆する。

 

 (まあ、いいか!武器壊れちゃったし、この槍使うか)

 

 槍を手に取る。重さと長さはちょうどよく、妙に手に馴染むようだった。

 

 (帰りはこの槍使って帰ろう……)

 

 俺は純白の槍を担ぎ、ボス部屋を後にした。

 

 

 




主人公の基礎能力
魔力量:A
身体能力:D
魔力操作:C
精神力:D
魔法:?の普通級加護
槍術:D+

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