痛みしらずのブラックスワン~やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。より~ 作:伊勢村誠三
裏切るか裏切らないか、そういう岐路に立たされたとき、私はきっと──ついていくことができない。」
第五部外伝 恥知らずのパープルヘイズより
1
小町、結衣と接触した翌日。
ナランチャ・ギルガことフーゴは普通に学校に来ていた。
別に隠れる理由も何もないからであり、
尚且つ由比ヶ浜結衣のスタンドが気がかりだったからだ。
(ユイガハマはかつてのナランチャの様に『ポルポの試験』を受ける前からスタンドをぼんやりだが視認で来た。
前にスピードワゴン財団に教えてもらった突発的隔世遺伝による生まれつきのスタンド使いの成り損ないだと思っていたが…)
彼女を守った影のスタンドは明確に自我があった。
その姿は正しく砂嵐などのノイズの走る影で、
本体の反応から推測するに無自覚に発現していたのだろう。
(多分タイプは一体化型。
物や髪の毛みたいな体の一部は聞いたことあったが、
影みたいなものにも憑けるとは…)
そう考えながら歩いているとふいに呼び止められた。
「ギルガ!ちょっといいか?」
「ヒラツカ先生。どうしました?」
「昨日比企谷と会って話してどうだった?」
そう言って平塚は真っ直ぐにフーゴの目を見た。
今まであったことのないタイプの教師なだけに、
フーゴは少し彼女を不思議に思っていた。
(なんでこいつは態々奉仕部に依頼するように言ったんだ?
いや、彼はそこの部員だったから当然放課後に話をしようと思ったらあそこに行っただろうが、
担任のこいつが取り次いでくれた方が早かったのに…。)
何か下心があろうが別にどうでもよかったし、
早く話を終わらせたかったのでフーゴは正直に答えた。
「個人的に好きになれませんね。
前評判程下衆な人間ではないですが、
物事に対する姿勢が気に食わない。
ちょっとばっかし昔の自分に似てる気がするせいだと思います。」
「ほう?意外だな。その心は?」
「詳しくは言いませんけど、
あいつはごちゃごちゃ考えて行動する末に『正しいバカ』になってるんです。
僕は考えて行動した結果逆でしたけど。」
「その時、そこで、『正しいバカ』にならなかったのか?」
「ええ。だから僕は、今、ここにいます。」
それがひどく気に入らない。
『正しいバカ』になることは茨の道を往くことを意味する。
傷つかないなんてありえない。
それはフーゴも分かっているが、
彼はその傷が自分にしか出来ないと本気で思ってるのが質が悪い。
「僕はヒキガヤハチマンが嫌いです。
奴は他人の痛みを知ろうとしない、正しいバカです。
日和見で上辺だけ取り繕って問題起きたら誰かに丸投げにするような奴よりかはマシでしょうけど、あいつは周りを見ようとしない。宙ぶらりんな奴です。」
その評価を平塚は黙って聞いていた。
そして、そうか。と一言言って平塚は後ろを指さす。
ふり返ると、いつの間にか比企谷八幡がいた。
彼は今にも唸りそうな顔で、フーゴを睨んでいた。
「なんだよ。言いたい事があるなら言ったらどうだ?」
「……別に。」
そう言ってそっぽを向いてそそくさと去って行った八幡にフーゴは舌打ちをした。
「タマなしが…」
そしてそう毒づくと教室に向かう。
「まて、ギルガ。これは次いでなんだが、
今日由比ヶ浜が欠席するらしい。何か聞いてないか?」
「いえ、何も。」
フーゴは平然と嘘を吐いた。
2
カンノーロ・ムーロロは不機嫌だった。
放課後、学校が終わってからすぐ来るはずだったフーゴが遅刻したことも、比企谷小町を連れてきたことも。
勿論彼女にもスタンドがあると分かった以上ほっとけないし、
学校で待ち伏せされたら出会ってしまうのも仕方ないのも分かるのだが、それでも彼は不機嫌になった。
「ふん。まあいい。俺の度量に感謝しろよ。ついで。」
「ついでって…」
「あくまで俺らが本来与えられた任務は
『ヒキガヤハチマンの調査と、その結果に応じた対応。』
お前のような色気なんて全くないチンチクリンのガキなど本来どうでもいいはずだったんだよ。
それをわざわざこんな回り道させるんだ。
ついで意外になんて言ったらいい?」
小町はむっとしたが、ここで言い争いをしても仕方ないと判断し、
「とにかく、これは何なんですか?
ずっと私にだけ見える幽霊みたいなものだと思ってましたけど、
違うんですよね?」
ドリーム・バイ・エンジェルを出しながらそう問う小町。
ムーロロはめんどくさそうに鼻を鳴らすと顎でフーゴに説明を促した。
「これは
守護霊と言うより分身に近い。
主の精神性を反映した姿や能力をもつ。
僕のは昨日見せたが、ムーロロのは驚くぞ?」
「なんでこんなガキに…」
「まあまあ。ウォッチタワーの『凄味』を見せれば生意気な態度もきっと変わりますよ?」
フーゴがそう言うと何やら借りがどうとかぶつぶつ言った後ムーロロはポケットからむき出しのトランプデッキを取り出し、一流マジシャンも顔負けの手さばきでシャッフルすると、手早くトランプタワーを造った。
「だーんだんだらだんだらだんだらだんだら…だん!」
ぱちぱちと、フーゴが拍手すると、ニョキニョキととカードの一枚一枚から手足が生えて動き出す。
『『『ボ・ボ・僕らは『劇団見張り塔』ォオオオーーーーー!』』』
「こ、これもスタンド!?トランプが、動いてる…劇してる…。」
てっぺんからパラパラと降り立ってくるトランプたちは見御棚ダンスと連帯で座長のジョーカーからそれぞれのマークを紹介し、いよいよ本編が始まる。
『この度お教えしますは今話題の総武高校奉仕部!
メンバーは三人!これがどうにも面倒ぞろいのアホンダラ!』
『ユキノシタ♪』
『ヒキガヤ♪』
『ユイガハマ♪』
『おーい俺が余る!』
四枚のスート4が踊りながらおどける。
そして変わってスート5が前に出る。
『どいつもこいつも自分で自分の首絞める!』
『だーからスタンドも三人そろって一癖二癖キリがねえ!』
「なんだと!?」
「それ本当ですか!?」
「ああ。この俺の『ウォッチタワー』が告げるのは”真実”だ。」
ムーロロが黙って続きを見るように促す。
『これが如何にもミイラ取りがミイラ取りで…』
『おい♠の5!そこは医者の不養生だったろ!』
『黙ってろ♣の6!不吉な数字の癖に意見するな!』
『なんだと格下の分際で!』
『まーまー落ち着けよお客が待ってるぞ!』
『『黙ってろ!』』
……喧嘩が始まった。
殴り合いや自分についた数字の投げ合いの末に一枚、また一枚と倒れていく。
「なにこれ…」
「大丈夫。真実だけは告げてくれるから。」
最期に残った♠のAがふらふらと立ち上がり
『ユイガハマの「ディアー・ドッペルゲンガー」…あれは、本体を殺しうる…』
そう言って倒れ伏した。
「ッ!!!結衣さん!」
「な!おい待て!相手はユイガハマのスタンドだぞ!
お前の爆発する羽と僕の能力!どちらも破壊特化型!
言ったところで彼女を傷付ける以外何もできない!
彼女のスタンドの手助けをするようなもんだぞ!」
そう呼び止めるが小町はもう出てしまっていた。
ムーロロの方を振り返ると、彼はフーゴを見返すだけだ。
どうやら手は貸してくれないらしい。
フーゴはため息を吐いて彼女を追いかけた。
3
『もうさ、いいじゃん。いなくなっちゃえば。』
耳をふさいでも水の中に頭をいれても、それの声は否応なしに結衣の耳に響いた。
古いテレビの様に砂嵐の走る自分自身影が、物置のドアに背を預け頭を抱え体育座りしているはずの結衣の首に手を回し、延々喋り続ける。
『だって今日誰もお見舞いに来ないし、
誰からも電話なんて来ないじゃない。
だから、さ。死んじゃおうよ!さくっ!とさ!
包丁!縄!浴槽!どこでもいいから死んじゃおうよ!』
自分と全く同じその声は極めて明るく残忍に、
まるで虫をちぎって喜ぶ幼児の様に言った。
結衣はひたすら涙を流して耐えた。耐え続けた。
STAND MASTER 比企谷小町
破壊力 E
スピード A
射程距離 D
持続力 B
精密動作性 C
成長性 C
STAND NAME ドリーム・バイ・エンジェル