痛みしらずのブラックスワン~やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。より~   作:伊勢村誠三

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「『南の海で飛び魚がはねた』からオレたちは今ここにいる」

                  第八部 ジョジョリオンより


ブラックスワン

1

八幡は、結衣のいない雪乃と二人っきりの奉仕部の部室で一人、何も手を付けずに考えていた。

 

『前評判程下衆な人間ではないですが、

物事に対する姿勢が気に食わない。

ちょっとばっかし昔の自分に似てる気がするせいだと思います。』

 

(何が、似てるだよ…あんなおっかないスタンドを使いこなせるお前が!

強いお前のどこが俺に似てるってんだ!)

 

あの顔を思い出すだけでこの前やられて傷がうずく。

自分は正しいはずだ。あの時の選択だって、まちがってない。

あれが誰も傷つかない選択で間違いない。

自分のベストなんだ。

 

(それは正し!それが『正しいバカ』って言うんなら!

俺はそれで構わない…なのに、なのにっ!)

 

なんなんだこの言いようのない敗北感は。

まるで負け惜しみを言い続けているような感覚は何なんだ?

 

「……『ブラックスワン』」

 

八幡は、昨日ぶりに自分のスタンドを出した。

不気味なこいつが嫌いだった。

顔も見たくない。だからこいつはペストマスクをかぶってるのだろうか?

 

「虚空を見つめてどうしたの?

見えるはずの無い物でも……見えてるんだったわね。

あなたと、由比ヶ浜さんにギルガ君は…。」

 

八幡は応えずに『ブラックスワン』の顔に手をやった。

しかしその手は『ブラックスワン』をすり抜ける。

マスクを取ることは出来なかった。

 

「何してるの?」

 

「……俺の『ブラックスワン』は、ペストマスク被ってんだ。

だから顔が見えなくてな。もしかしたら、こいつの目も腐ってんのかな、って。」

 

そう言った時、連絡先などほとんど入ってない八幡の携帯電話が鳴る。

非通知だったが、なんとなく出た。

 

「もしもし?」

 

『ヒキガヤか!?僕だ、ギルガだ!

少々説明が難しいんだが、君は妹がスタンド使いだって知ってたか!?』

 

「はぁ!?オイちょっと待って初耳だぞ!

なんでお前は知ってるんだ!?」

 

『悪いがその説明後でいいか?

今、彼女はユイガハマのスタンドが僕の「パープル・ヘイズ・ディストーション」のように本体にも害を及ぼすものと知って止めに向かってる!

君も来てくれ!僕と彼女のスタンドじゃ最悪ユイガハマを殺しかねない!』

 

この時、比企谷八幡の思考は三つあった。

1つ、正直このナランチャ・ギルガに関わりたくないといういつもの彼らしい感想。

2つはもし本当なら小町を人殺しにするわけにはいかないという兄妹としての心配。

最後の3つ目は、結衣に死んでほしくない。

 

八幡は部室を荷物一つ持たずに飛び出した。

小町は結衣の家を知ってる。なら、そこに行くしかない。

後ろで雪ノ下が何か言っていたが、気にしている余裕はなかった。

何時も通りだ。

なんとかできるのが自分だけだから何とかする。

例えそれが、自分が忌み嫌う『ブラックスワン』を使うとしても。

いつも通り。いつも通りだ。

そう自分に言い聞かせる八幡。

だが、心のどこかでナランチャへの信頼は無いにせよ、

小町と結衣。どちらが重いかと問われて即答できなくなっていることに気づいていない八幡だった。

 

 

 

2

フーゴが由比ヶ浜家に着いた時、もう既にことは起こってしまっていた。

両親は外出しているのかおらず、

リビング中央でスタンドに支えられて立つ結衣と、スタンドを出した小町が対峙している。

 

『ああ?何?アンタも来たのぉ?』

 

結衣に憑いた影、『ディアー・ドッペルゲンガー』がバカにするような口調で言った。

改めてみる奴はスペックはともかく見た目は紙の様に薄っぺらく、凹凸もない操り人形と紙人形の背中のような姿だ。

体を動かすたびに『サーッ!』と、

ノイズ音が聞こえ、体に走る砂嵐の形が変わる。

 

フーゴは虚ろな目で明後日の方を見る結衣と、

そのスタンドを交互に見て静かに言う。

 

「来るだけね。お前をどうしようもない事は知っている。

ユイガハマのスタンドであるお前を下手に攻撃しようものなら、

本体にフィードバックするダメージでユイガハマを殺しかねない。

『見境なしの皆殺し』を本懐とする僕の『パープル・ヘイズ・ディストーション』に出来ることは何もない。」

 

『随分理解が早いわね?

同じタイプのスタンドにでもあったことあるの?』

 

「人から聞いただけだよ。

お前みたいな本体を食い物にする根性まで薄汚れた寄生虫の存在をッ!」

 

それを聞いた『ディアー・ドッペルゲンガー』は顔のあたりのノイズが激しく乱れる。

どうやら、表情筋はないが、挑発に憤る程度の感情はあるようだ。

こんな形でも顔に出やすいのは結衣らしい。

 

『そんなギルガ君にプレゼントでもしようかな!』

 

そう言うと『ディアードッペルゲンガー』は結衣の服のポケットから無数のカッターの刃を取り出す。

 

「まさか!ヒキガヤコマチ迎え撃て!」

 

フーゴが叫ぶのと無数のカッターが投擲されるのは同時だった。

小町は自身のスタンドの翼を羽ばたかせ、飛ばした羽を起爆させる。

それで作った煙に隠れて二人はソファーの陰に隠れた。

 

「どうするんですかアレ!?」

 

「さっきも言ったが僕らにはどうしようもない。

だが二個朗報がある。」

 

「朗報?」

 

「おそらく影に一体化しているお陰か奴は本体であるユイガハマから離れられない。

二つ。態々投擲武器を用意していたってことは特殊能力は飛び道具じゃない。

逃げるだけなら君の能力で十分だ。」

 

「結衣さんをおいて逃げろっていうの!?」

 

「論外だ。恐らくユイガハマに自殺を促す。

あの手のスタンドは死んだという怨念で無限に動き続ける。

そうなったらだれにも止められない。

僕らの出来るベストは本体が死んで独立した瞬間に真の能力を使わせる前に殺す。

僕の『パープル・ヘイズ・ディストーション』はスタンドみたいな生物由来の精神エネルギーも食い尽くせるから脱皮したての蟹を素手で潰すみたいに独立直後なら倒せる。」

 

「それ絶対に結衣さん死んじゃうじゃん!」

 

「ああ。だからやりたくはない。だが…

どんな手段を取るにせよ、

あの影がユイガハマに密接につながってる以上、

彼女が傷つくのは必然だ。

ユイガハマの命を助けるには、彼女を傷付けるほかない!」

 

フーゴは断言した。

スタンドバトルとはむき出しの己同士の戦いだと。

痛みなくして、勝利はないと!

そしてその痛みとは…由比ヶ浜結衣の精神に訴えかける苦痛であると!

 

「さあどうするヒキガヤハチマン!

お得意の泥被りは出来ないぞ!

お前が大好きな自己犠牲は出来ないぞ!

お前が彼女を助けたいなら!お前は彼女に向き合うほかないぞ!

さあ!どうする!」

 

フーゴは玄関の方にわざとらしいまでの大声で言った。

苦しげに顔をゆがめながら、八幡は出て来た。

背後には、ブラックスワンが、拳を握りファイティングスタイルを取っている。

 

「………。」

 

『ふふっ!ヒッキーやっはろー!』

 

「スタンドまでその珍妙な挨拶なのかよ…」

 

憎々しげに呟く八幡。

そんな彼にまーねー。と、『ディアー・ドッペルゲンガー』は朗らかに返した。

 

「由比ヶ浜のスタンド。

お前にたった1つ。たった1つだけ質問がある。」

 

『なあに?』

 

「お前の能力はなんだ?」

 

『私は、ヒッキーやゆきのんみたいになりたいって気持ちから生まれたスタンド。

だから能力もそれを実現させるためだけの力…抜け殻になった身体に入り定着する!

それだけだよ!

正確には本体が死ぬ瞬間の絶望感をスタンドエネルギーに変換して、それを使って私自身を乗っ取る体に合わせた形に変形させる!』

 

「なるほど。それでお前は初めて真の意味でドッペルゲンガーになる訳か。」

 

『そう!今度の結衣は優しいよ?

ヒッキーの気持ちも考えるし汲み取るよ?

一緒に、素敵な時間を過ごそう?』

 

その誘いの答えがわりに八幡は飛び出した。

彼女の豊満な乳房の真ん中に『ブラックスワン』の腕を突っ込む!

 

『これは、心臓を止めてる!?』

 

「ひ、ヒッ…きー?」

 

「由比ヶ浜、、、死んでくれ。」

 

「キ、貴様ァアアア!

本当にっ!本当に堕ちるところまで堕ちたかあーーー!

そこまでお前はっ!

恥知らずになったかぁああ!」

 

本気で激昂する小町。

フーゴは彼女を押し除け前に出る。

だが遅い間に合わない。

 

「ヒッキー……。」

 

そう言って結衣は意識を手放した。

彼女の身体から魂が抜け、天に登り出すのと、『ディアー・ドッペルゲンガー』が彼女の影から離れるのはほぼ同時。

八幡とフーゴは、互いに背中を合わせるように陣取り、

 

「蘇らせろ!『ブラックスワン』!」

 

八幡は止めていた心臓を揉み血流を再開させ、

 

「くらわせろ!『パープル・ヘイズ・ディストーション』ッ!」

 

『うばっしゃあああああああああ!』

 

『UREEEYYYYYYYYYYYY YYY!』

 

「ガッッッ!はぁーっ!はぁーっ!」

 

結衣が息を吹き返す。

『ディアー・ドッペルゲンガー』はなんとかして彼女に戻ればまだ助かる!

形を失った彼女はなんとか手を伸ばす。

 

「無駄だよ。

もうお前は詰んでいる。」

 

怒涛のラッシュを叩き込む。

スタンドの主、フーゴが静かに言う。

まるでもう決着はついたと言わんばかりに。

 

「見てみろ。僕の『パープル・ヘイズ・ディストーション』の拳を!」

 

その拳には1つ、欠けている物があった。

左の親指側の端のカプセルが破けている。

 

『ばっしゃあああああああ!』

 

それに気付いた瞬間、『ディアー・ドッペルゲンガー』は渾身の左ストレートで吹っ飛ばされた。

同時に体が崩れだす。

 

獰猛。それは爆発するかのように増え、消える時は嵐の様に立ち去る。

例外は『パープル・ヘイズ・ディストーション』本体のみ。

見えない破壊の嵐は最も簡単に無敵と思われたスタンドを倒してしまった。

 

「や、やった!」

 

「行こう。後は2人の問題だ。」

 

未だ意識を失い眠る結衣を抱きとめた八幡を置いて2人は由比ヶ浜家を後にした。

 

『ディアー・ドッペルゲンガー』 消滅




STAND MASTER 由比ヶ浜結衣

      破壊力   A
      スピード  A
      射程距離  E
      持続力   B
      精密動作性 A
      成長性   A

     STAND NAME ディアー・ドッペルゲンガー
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