痛みしらずのブラックスワン~やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。より~   作:伊勢村誠三

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「無理矢理はいい事がない。
自分からさー、変わらなきゃ…そー思うわけ。
他人から認められたいなら、自分を変える。だろ。」

                  第六部 ストーンオーシャンより


Billie Jean

1

「惚気かい?」

 

「違う!お前のせいで話がややこしくなったって話だよ!

…お前が部室でスタンド出すなんてしたから…。」

 

結衣のスタンドの件から一夜明けた今日。

フーゴは放課後に偶々合流した八幡とドーナツチェーン店でダべって…いや、ダべってはいない。

八幡の愚痴をフーゴが一方的に聞いていた。

 

そんな八幡は腐った眼こそ幾分かマシだが、

いつも以上に疲れ顔で、頬は赤くはれている。

 

何故か。それは時間を昨日の決着までさかのぼる…。

 

 

 

2

フーゴが気を利かせて小町と共にクールに去った後。

結衣はほどなくして目を覚ました。

 

「私…何が?」

 

「……お前の心臓を一回止めて、

お前のスタンドがお前のじゃなくなった瞬間に蘇生させた。

スタンドはギルガが倒した。例ならあいつに言え。」

 

何時も通りひねくれた調子で八幡は答えた。

結衣の表情を見ると、それを聞いてかなり不機嫌そうだ。

無理もない。必要だったとはいえ、自分は一度結衣をこの手で殺したのだ。

スタンドの腕に感じた彼女の脈打つ硬い筋肉の感触は生々しく手に残っている。

 

「ヒッキー。ありがとう。」

 

「………は?」

 

「それってギルガ君の方がスタンド強いからそうなっただけだよね?

ヒッキーはさ。私の心臓、止めたかった?」

 

「必要ならやるべきだと…」

 

「質問の答えになってないよ!

はぐらかさないで!質問を質問で返すみたいなことしないで!

……人の気持ち、本当に分からないんだね?」

 

「…黙れ」

 

「私、ヒッキーに傷ついてほしくないの。もうこれ以上。」

 

「黙れ黙れ!」

 

「最後に頼りすぎちゃった結果が有れだとしたら謝る。」

 

「黙れ黙れ黙れ!!!

修学旅行の時あれしかないかああしただけだ!

俺しか出来ないなら俺だけが判断材料だ!

俺一人でどうにかできるなら!」

 

「ヒッキー、言いたくないけど、今回は偶々うまくいっただけだよ。

あんな都合よくギルガ君みたいにヒッキーが出来ないことが出来る人がそばにいることはないよ。」

 

そう言う由比ヶ浜の口調は、駄々っ子をあやす母親のようだった。

 

「いつだって、ヒッキーは臆病なんだよ。

ぼっちの仮面付けて無理やり付けた鎧で身を守ってさ。

スタンドのまんまじゃん。」

 

八幡は『ブラックスワン』を出した。

生身に無理やり張り付けたような鎧に、ペストマスク。

どこか猫背なそいつは、寂しそうな姿に見えた。

 

「ヒッキー、私、スタンドなくなっちゃったけど見えるの。

ヒッキーの心、しっかり見える。」

 

結衣は『ブラックスワン』を優しく抱きしめた。

こちらから触る意思が無ければ物体がすり抜けるはずのスタンドが結衣を受け止める。

 

「な!?お、おい『ブラックスワン』!」

 

『ブラックスワン』はその両手で結衣を抱きしめた。

 

「『ブラックスワン』は正直だね。いいこいいこ♪」

 

『ブラックスワン』は照れくさそうに結衣から離れ、八幡の中に戻った。

いたずらが成功した子供のような笑顔で振り返る結衣に八幡はバツが悪そうに頭をかく。

 

「頼りなくても頼ってよ。何もできないかもだけど、

ヒッキーがどっか行きそうになったら、絶対止める。」

 

「どうやってだよ?」

 

八幡がちょっと意地悪く言うと、

結衣は一瞬八幡の後ろを見た後、

 

「……鷲掴みにした責任取ってよ……」

 

と、胸に手を当てて処女とは思えない色気でそう言って見せた。

あっけにとられる八幡に急に背後から、両肩に手を置くものがいる。

 

「久しぶりねヒッキー君♪」

 

「ま、ママさん…お久しぶりです…」

 

「晩御飯、食べていくわよね?」

 

「い、いや「食べていくわよね?」はい………。」

 

その日は、夕食と言う名の尋問会となった。

憔悴したまま八幡は帰った後も小町に尋問され、

久しぶりにスタンドエネルギーを酷使した代償か、

大寝坊をかまし、案の定平塚の授業をさぼる形になり、

激憤のシェルブリットを喰らう羽目になったのだった。

 

そして話は、冒頭に戻る。

 

 

 

3

「てっきりそのまま熱い夜でも過ごして帰ってくると思ったけど、

君はユキノシタの方が好みなのかい?」

 

「そうゆう話をしてるんじゃない!

いい加減教えろ。

どこで俺の『ブラックスワン』の事を知った?」

 

やや八つ当たりに近い感情だが、

八幡から見ればフーゴが面倒ごとを運んできたように見えるのだ。

事実、彼が介入しなければ結衣や小町のスタンドのことなど、多分この先知ることはなかっただろうから、間違いではないだろう。

だからこそ、そうなった理由が知りたかった。

 

「……君は、家族に絆を感じたことはあるかい?」

 

「は?」

 

「僕が君の所に来た理由…。

それを知ったらきっと依然と同じようには家族と接せなくなる。

それでも、知りたいかい?僕が、君の能力を知っていた理由を。」

 

フーゴは八幡の腐った眼を見ていった。

八幡は思わず気圧される。

それは間違いなくフーゴのギャングとしての顔だった。

彼がジョジョと敬愛する上司、ジョルノ・ジョバーナの代理人としての顔だった。

 

「おや、珍しい顔だ」

 

そんな顔を全く見ずに話しかけてきたのは勇者、否、魔王だった。

カウンター席にフーゴ、八幡の順で座っていたところを、八幡の横に座ってくる。

 

「……あ、どうも」

 

「ヒキガヤ、この人は?

よく見るとユキノシタに似てないこともないが…」

 

フーゴは不思議そうに魔王…雪ノ下陽乃を見た。

陽乃もフーゴを一瞥し、

 

「もしかして、比企谷君のお友達?

同じ奉仕部だったりするの?」

 

「二年J組のナランチャ・ギルガです。

仕事の都合でイタリアからこっちに来てて、

学校や日本の分からないことに関してはヒキガヤ達奉仕部の世話になってます。」

 

フーゴはあたりさわりのない嘘を吐いた。

ガッツリ奉仕部に関わってるのは事実だが、教える教わるの位置が真逆だ。

 

「じゃあ雪乃ちゃんのクラスメイトか。」

 

「あまり関わりありませんけどね。

彼女、僕を警戒してるみたいですし。」

 

へー。と、猫のような目をしながら陽乃はフーゴをつま先から頭のてっぺんまで値踏みするように見た。

フーゴのこめかみが一瞬ピクリと動く。

 

「外側から見た奉仕部ってどんな感じ?

他の部活とかに比べてどう?」

 

フーゴは一瞬八幡の方を見てからもう一度陽乃を見る。

そして机に置いてあったコーヒーで少し喉を湿らせると

 

「めんどくさい奴らの集まりですよ。

もう狙ってるとしか思えないほどに。

いえ、事実狙ってるんでしょうね。」

 

「狙ってる?誰が?」

 

「例えば顧問のヒラツカのお気に入りのあなたとか。」

 

フーゴは一瞬陽乃の目が丸くなったのを見逃さなかった。

 

「聞けば色々わざとらしいちょっかい出してるそうじゃあないですか。

妹さんに嫉妬してるのか、

それとも虐めたいから虐めてるのかどうか知りませんけど、

ハラハラドキドキの人間模様が見たいならアニメでもいいんじゃないですか?

北斗の拳とか面白いですよ?」

 

八幡は心底驚いた。

雪ノ下陽乃を見下す人間がいるなど、考えてもみなかったのだ。

 

「随分知った風な口を…」

 

「知ってますよ。優秀な仲間がいましてね。

彼は必要な情報をそろえてくれる。

だからなんとなく見えてたんですよ。

誰か後ろにいるなって。

じゃなきゃおかしいでしょ?

同好会スタートじゃないたった三人の部活とか。

しかも顧問は生活指導も担当って…

ようは問題児を体良く利用しながら構成するためのシステムでしょ?

そこにアンタが外部からの刺激として居る。

いや、妹がそうなると知って自分から勝手に絡んで来た。

違いますか?」

 

「ギルガお前…時々知らないこと知ってるふうに感じたのはそうゆう事かよ。」

 

「ああ。彼も僕らと同じだよ。」

 

その言葉に八幡は昨日小町から聞いてかろうじて頭の片隅に残っていたトランプ占いのスタンド使いの事を思い出した。

 

(こいつ…絶対おかしい。

名にしたか知らないけどあんな一瞬で敵を消し飛ばすような能力をちゃんと調べられる環境にいれるって…下手したら雪ノ下家よりやばい所からの回し者だよな?)

 

そして思い当たった一つの仮説にうすら寒い物を感じた。

もしかしたらナランチャ・ギルガと言う名前も偽名かもしれない。

その想像が当たってる当たり八幡は運が悪いだか良いんだが…。

 

「君、なんか詰まんないね。」

 

陽乃がそう言った瞬間、だった。

フーゴの目つきが明確に変わる。

黒く、熱く、そして甘さなんて全くない怒気だけに染まる。

 

「あ゛あ゛!?てめぇ今なんつった!

俺のことつまんねえ人間っつたのかぁ!?」

 

そして怒鳴り声をあげて立ち上がると八幡を押しのけて陽乃の胸倉をつかみ上げた。

 

「な!?お前急にどうし…」

 

「つまんねえのはてめえみてぇな年下僻んでイチイチ温い真似して場を面白おかしくしてくれる薄ぺらで下衆なアマの方だろうが!

大体一方的におしかけてきて相席してる分際でぇえええ!

上座ずかずか上がり込んで踏ん反り返るみたいなまねしといて偉そうに人の価値をはかってるんじゃあねえぞ!

このドぐされがぁああああああああ!」

 

そう言ってプラスチックのティースプーンを左耳に突っ込んでぐりぐりと最奥まで押し込みかき回し始めた。

 

「ギルガよせやり過ぎだ!」

 

「はっ!………す、すいません!

自分でも分からないんタイミングで急に切れてしまうんです!」

 

フーゴの手を借りてなんとか立ち上がった陽乃は半泣きになりながら店を飛び出して行った。

 

「あ、あの…お客様?」

 

話しかけて来た店員にフーゴは財布からぱっと見10万はある札束を取り出し手渡す。

 

「迷惑料と僕と彼の分の会計だ。

釣りはいらないよ。あと、これは口止め料。」

 

と、言って最後に店員の胸ポケットにQUOカードを差し込むと去って行った。

 

「…すいません。残ったドーナツ持って帰るんで紙袋貰えませんか?」

 

八幡もさっさと帰ることにした。

 

 

 

4

同じころ、どこかのエレベーターにて。

きっちりと機械的なまでに3列に3人づつ人が並んでいる。

そこに雪ノ下雪乃の姿もあった。

 

「うっ!」

 

何かが刺さるような音と共に

一人、また一人と、バタリ、バタリと、倒れていく。

そして最後に雪乃にも、床から飛び出した何かが刺さる。

 

「あ……」

 

ズルり、と、彼女の背後からガラス片で作った人型のような物が現れる。

その瞬間、エレベーターのドアが開き、彼女は外に出た。

 

「なるほど。この日本の杜王町にいた『スーパーフライ』と同じタイプのスタンドか。

最後の六本目がここに、六本の矢の半分がこの島国にあったことは驚きだな。」

 

雪乃が振り返るとそこにボルサリーノ帽をかぶった伊達男がいた。

 

「任務上、本名は名乗れなくてでね。

便宜上、レオーネ・アバッキオとでも呼んでもらおうか。」

 

そう言ってムーロロは指を鳴らして自身のスタンド、『オール・アロング・ウォッチタワー』を集合させる。

 

「……」

 

雪乃は無感動にスタンドを繰り出した。

ムーロロも特に感情もなく雪乃に対峙する。

八幡にとって最後の壁が、フーゴにとって日本で最後の任務が近付こうとしていた。




STAND MASTER カンノーロ・ムーロロ

      破壊力   C
      スピード  B
      射程距離  A
      持続力   A
      精密動作性 A
      成長性   E

     STAND NAME オール・アロング・ウォッチタワー
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