痛みしらずのブラックスワン~やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。より~ 作:伊勢村誠三
第五部外伝 恥知らずのパープルヘイズより
1
「あれ?おーいヒッキー!どこいくのー!?」
優美子たちと別れ帰路についていた結衣は慌てた様子で走る八幡を見つけた。
自分の呼びかけにさえ気付かないほど焦り走り続ける。
方向は、間違いなく雪乃のマンションの方だ。
(もしかして、また、誰かのスタンドが?)
結衣は八幡を追いかけた。あまり運動は得意でないが、
もし八幡が危険に飛び込もうとしているのなら、
もし雪乃が今危険な目に合っているなら、放っておかない訳にはいかない。
(やっぱりゆきのんのマンションの方!
それにあそこにいるのって…)
結衣は道路の反対側に同じ方を目指すフーゴがいるのを見た。
彼が出張っているってことは、もう確信していいだろう。
新手のスタンド使いの存在を。
「ヒキガヤ!それにユイガハマも!」
「ギルガ!お前も来たってことは…」
「ああ。仲間と連絡が途絶えた。彼を最後にね。」
そう言ってフーゴはポケットから手足の生えたトランプカード、♦のJを見せた。
「え?もしかしてこれも…」
「スタンドだ。53枚で一つの群生タイプ。
本体にかろうじてでも意識と体力があればこうしてメッセンジャーを飛ばせる。」
「なるほど…。」
三人はマンションを見上げる。見慣れたはずのその建物は、
今は何者が潜んでいるか分からない不気味さを持っている。
少なくとも『ゴゴゴゴゴゴゴ……』と、効果音が聞こえてきそうなくらいには。
「仕方ねえ。行くか。」
「ユイガハマ。君は下がっているんだ。
スタンドは見えるのか知らないが、
それに対して攻撃も防御も出来ない君が来るべきじゃない。」
「ううん。私も行く。
そのトランプの人やゆきのん担いで逃げるぐらいは出来るよ。」
「……。」
「あきらめろ。意外と頑固だぞ。そいつ。」
「君が言うんならそうなんだろうな。」
フーゴは二人を交互に見て笑いながら言った。
「なんだその言い方…何いてえのかさっぱりだ。
ほら!由比ヶ浜!もじもじしてねえでさっさと行くぞ!」
三人はマンションに突入した。
「あれは…小町!」
すぐに玄関が向こうから開き、
ふらふらとした足取りで小町がスタンドに支えられながら出て来た。
「待てヒキガヤ!様子がおかしい!」
「ケガしてんだから当たり前だろ!小町!」
迷わず駆け出す八幡。
彼は小町しか見ていなかった。
だからこそ、彼女の背後の『ドリーム・バイ・エンジェル』が羽を掴んだ右手を振り下ろそうとしているのが見えなかった!
「まずい!『パープル・ヘイズ・ディストーション』!」
射程距離五メートル。
それは幸いにもフーゴから小町までの距離だった。
羽を掴んでいた右手を捻り上げ、足払いで転ばす。
小町はスタンド共々盛大にスッ転びズデェエエエエン!と、後頭部を殴打する!
「おい何やってんだお前!」
「君こそ!彼女が攻撃しようとしてたのが見えなかったのか!?」
「攻撃だって!?」
「ああ。恐らく敵のスタンド能力は洗脳だ。
本体の支配欲が強いのか、それとも何かに固執するゆえに発現した能力なのか…
それは分からないが、とにかく今回の敵は相当強力という事だ。
狡猾だったユイガハマのスタンドとは別物だ。」
「……わかった。由比ヶ浜。小町を頼めるか?」
「うん。絶対、絶対ゆきのんと無事に帰ってきてよね!」
2人はエレベーターホールに突入した。
「待ってたわ二人とも。
あなたたちもすぐに倒してあげる。」
そう言ってスタンドを出現させる雪乃。
「!? あいつ…いつスタンドを?」
「恐らく『矢』だ。ある特殊な矢に射られ適合したものはスタンド使いになる。
彼女はその狭き門をくぐりスタンド使いになったんだ。」
「マジかよ…小町を洗脳した野郎はそんなモンまで持ってるのか!?」
「ここは任せる。僕は矢を取ってくる!」
「ああ!頼んだ!」
フーゴを見逃した雪乃は一歩前に出て、不敵な笑みを浮かべる。
八幡もスタンドを出した。
「案外、初めてかもな。
お前と真正面から明確に『戦う』のは。」
「結果は見えてる。
時間を節約させてくれるかしら?」
フーゴが乗ったエレベーターが動き出す。
それと同時に二人は走り出した。
2
エレベーターに入ったフーゴは最上階から調べようとボタンを見る。
「なっ!なにぃいい!?」
慌ててドアの外に出ようとしたが、不可能だった。
瞬間ドアが閉まり、押してもないのに『200階』のボタンが光る。
「こんな東の外れの国の地方都市の!
高級マンションとは言えただのマンションに200階なんてあるわけが無い!
エンパイア・ステート・ビルの倍なんてありえない!
なんてことだ…こいつが![[rb:エレベーターがスタンド > ・・・・・・・・・・・]]だ!
それもあまりに持つエネルギーが巨大すぎて本体にも制御できず独り歩きしている!
無意識に人を誘い込み思い通りになる形と、それを実行できるだけの力を与えて解き放つ!
本体が何も労せず町の支配者になる為のスタンド!
なんて質の悪いっ!下手にのさばらせれば本体の死後っ!
意思なきこいつが街の王だ!」
こうしてはいられない。
強烈なGでぺちゃんこにされる前に脱出しなければ!
「『パープル・ヘイズ・ディストーション』ッ!床を壊せ!」
『うばっしゃあああああああああ!』
なんとか床に人一人くぐれるだけの穴をあけ、
ワイヤーに捕まりながら降りる。
「うっ!」
エレベーターの底にはつぶれた人間が溜まっていた。
恐らく脱出を試みたか。あるいはこのスタンドに食われた人間の成れの果てだ。
「なんてこった。昇降機が200階から降りてきた瞬間僕の負けが決まる!
いくら『パープル・ヘイズ・ディストーション』のパワーでも受けきれないし、下手受ければ拳のカプセルが!」
絶体絶命。
フーゴは恐らく手は空いてるであろう結衣に電話をかけた。
『もしもしギルガ君!?』
「ユイガハマ!今ヒキガヤとユキノシタは?
今まさに絶体絶命だ。正直今すぐ助けが欲しい!」
『え、えっとヒッキーも大ピンチで!
ゆきのん滅茶苦茶強いの!なんか、そんなに体力なかったはずなのに生身でヒッキーのことボコボコにしてるし!』
「生身のままだって?」
フーゴはかつての級友にして運命により引き合った宿敵でもあったマッシモ・ウォルペを思い出した。
彼も自分のスタンドパワーを自分に注入し、自信を強化して戦うタイプのスタンド使いだった。
「ユイガハマよく聴け!
本来スタンドは能力にパワーを割くとスタンド像のほうは弱くなるのが基本ルールだ。
ユキノシタのはどうだ?」
『え?ゆきのんスタンドでもヒッキーと「ブラックスワン」を攻撃してるけど、どっちも強いよ?』
「多分それが敵能力のヒントだ。
本当はヒキガヤコマチからも話を聞きたかったが、
何か弱点があるはずだ。観察して何としても助けるんだ!
本来有り得ないその現象に、何かヒントがある!」
『そんなこと言ったてそんな本当とは違う逆ってことでしょ!?
何かズルでもしてるって話?』
「そのズルの正体が能力だってんだろうが理解しろ!
股も頭もガバい淫売がぁああーー!
誘ってる様にしか見えねえスカート履きやがって!」
『誰がヤリマンだし!私処女だし!
大体そんなこと言われたってスタンドのこととか全然知らないから逆とか言われても……逆…そうだ逆だ!
何時ものゆきのんと逆なんだ!』
「?……性質を逆転させる能力!そう言いたいのか!?」
『きっとそうだよ!
相手を弱くしたり強くしたりする能力ならヒッキーを弱くしてやっつければいいんだもん!
それをしないってことはそうゆう事だよ!』
「そうか…。ユキノシタを倒して加勢に来てくれ!頼んだ!」
電話を切り、迫りくる昇降機を見上げながらフーゴは拳を握り、『パープル・ヘイズ・ディストーション』を出現させた。
「行くぞ相棒。覚悟はいいか?僕は出来てる。」
[newpage]
「無様ね比企谷君!まるでボロ雑巾じゃあないの!
早く楽になった方がいいわよ!
『ピュアリティー・オブ・ダイヤモンド』ッ!」
『バルバルバルバルバルバルバル!』
「御免だなぁ!『ブラックスワン』!」
『UREEEYYYYYYYYYYYYYYYY!!
DOROROROOOOOOOOOOOOO!!』
渾身のパワーでなんとか『ピュアリティー・オブ・ダイヤモンド』を押し返そうとする『ブラックスワン』だが、パワーでもスピードでも圧倒的に勝る相手に逆に拳を割られ吹っ飛ばされる。
「ヒッキー!」
「く、くっそ!」
『ギャ、ギャレ……ッ!』
もう八幡の意識もスタンドパワーもぎりぎりだった。
なんとか壁に背を預けながら立ち上がり、雪乃を睨む。
「ヒッキー!ゆきのんのスタンドは逆にするスタンドだよ!
例えば筋力とか足の速さとか!」
それ聞いて何になるんだよ。
それ実質精々並みしかスペックない自分に太刀打ちできないってことじゃあないか。
と、八幡は思った。
「あら由比ヶ浜さんにしては慧眼…いえ、ギルガ君の入れ知恵ね。
人から聞いただけなのに私のスタンド能力を看破するなんて流石はIQ152と言ったところかしら?」
自分の手の内をバラされたのに雪乃は寧ろ自分の能力を自慢する様に堂々している。
(能力、か。)
スタンドは1人につき1つ。
能力も精神的成長により『能力の切り替え』が可能になるact系の進化などの例外を除き変わらぬ原則。
当然、八幡の『ブラックスワン』も、その平々凡々なヴィジョンのスペックを補う様な強力な物を持っている。
(使えるか?今の俺に…)
相手との差は歴然だ。
なら、使うしか無い。
あの日の痛みを、超えるしか無いっ!
「雪ノ下…公平になる話をしよう。
俺のスタンド、『ブラックスワン』はスペック的には中堅程度だ。
ややスピードはあるがパワーは人並み。
まあ各党に向いてるかな?って感じの微妙なスタンドだ。
まあ、今回はそれが吉と出て急に弱くなったりする事は無かったが…」
「それがなんだって言うの?」
「だからこそ俺のスタンドは性根が腐ってるって話さ。
由比ヶ浜の奴の『乗っ取り』やお前の奴の『性質反転』の様に、俺の『ブラックスワン』にも特殊能力がある。
それは、視界に入れた相手に無理やりトラウマを回想させる事!
最も『痛む』その記憶は毒となり!
致命的な隙を、たった一瞬晒させる!」
雪乃は慌てて物影を探したが間に合わなかった!
八幡の司会にとらえられたその瞬間、彼女の脳裏を駆け抜けたのは、今の性格を決定付けたと言っても過言ではない、小学校時代のいじめの記憶だった。
嫌だ!思い出したく無い!
目を背けたい!
人間なら、誰もが思う弱い部分。
比企谷八幡は!そこに容赦なく抉り込む!
「ぶちかませ!俺のスタンドォオオオオオ!」
『UREEEYYYYYYYYYYYYYYYY!!
FUUUSHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
雪乃と、そのスタンドに全力のラッシュを叩きこむ。
倒れ込んだ雪乃は気絶して動かなくなる。
どうにか勝った八幡の拳からは、
血が吹き出て、力が入らない。
が、止まるわけにはいかない。
「由比ヶ浜!ギルガは!?」
「なんかピンチみたい!でもヒッキーの手…」
「……行くしかねえだろ。」
決着は目前。だが、じん、と残る拳の痛みに八幡は不穏な物を覚えた。
STAND MASTER ????
破壊力 ?
スピード ?
射程距離 A
持続力 A
精密動作性 ?
成長性 ?
STAND NAME 死刑台のエレベーター