始まりは海の向こうから   作:天凪。

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各話タイトル修正しました。
更新が遅くて申し訳ありません。評価バーが赤になってとても嬉しいです。

アレックスのイメージ絵描いてみたので興味のある方はどうぞ……
【挿絵表示】



X=3 君は何者?

 ゼノ、スタンリー一行がアレックスと合流して数日が経ち、食糧や物資を調達してくる狩猟採集組、服や道具を作る内職組、食糧の加工や食事の用意をする調理組などが決められ、各々仕事に従事するようになった。備蓄不足で蔦と葉っぱの装備だった面子にも革の服が行き渡った。替えまではないが、一先ず生活する上での尊厳は保たれるようになった。

 

 当初アレックスは狩りのしやすい場所や、人間の食べられる果実の生っている場所、その他ゼノが求める素材の場所を実地で教えるために狩猟採集組についていくことが多かった。が、エリート揃いの特殊部隊は物覚えがいいため段々と出番が減り、内職組に混ざりがちになっていった。

 

「石鹸って作るの結構危ないんだな」

「強アルカリを使うからね。目に入ったら失明するし皮膚に触れたら溶けてしまう。僕としては、材料が綺麗に揃っているのに作れていなかったことが不思議でならないが……」

「なんかの漫画で見たことあって材料は覚えてたけど作り方は忘れてたんだ。試行錯誤したんだけど妙に弱いのしか作れなくて……でもこれ見て思った、覚えてなくて正解だ。私一人だったら絶対怪我してた」

 

 今日のアレックスは最初から内職組で生活必需品の製作の手伝いをしていた。

 ゼノとアレックスが撹拌する土器の中身は、水酸化カリウムと油を混ぜて反応させている最中のもの--まあ、所謂石鹸だ。

 材料は大したものではない。貝殻と灰と水と油の四種類があればいい。アレックスの倉庫には貝殻を焼いて作った炭酸カルシウムと、灰を水に溶かした上澄み液である炭酸カリウムがあった。炭酸カルシウムを更に焼いて--これはかなり高温で焼かなければならないため、窯を作る必要があり、ゼノらが到着してすぐには作ることができなかったのだ--酸化カルシウムを作り、それを水に溶かした水酸化カルシウムと炭酸カリウムを混ぜれば水酸化カリウムが作れるのである。

 要は貝殻を二回焼いて水に混ぜた液体と、灰の上澄み液を合体させれば強アルカリが作れるのである。この知識があれば現代でも簡単に死体の処理もとい石鹸作りができるわけだが、アレックスはその辺りをとんと覚えていなかった。

 

「だからって芋から酒作って蒸留してアルコール消毒しようって発想になんの意味分かんねーけどね」

 

 そんな二人の会話に、採集から戻ってきたスタンリーが呆れた声を挟む。

 彼は二人の傍に腰を下ろし、煮沸消毒済みの水を入れた水筒に口をつける。背中に背負った籠には、果実に始まりキノコや繊維の強そうな草などが雑多に詰め込まれていた。

 

「おお、スタン! お帰り、良い収穫はあったかい?」

「いんや、特別なもんはねえよ。大体はもうアレックスの倉庫にあんだろうな」

「まあこの辺で私が行ってないところはもう洞窟の奥くらいのものだからな。一人で洞窟探検するほど命知らずではないんでね」

「洞窟探索は危険がつきものだ、装備が整わない内に手を出して死傷者が出てはたまらない。さてアレックス、良い固さになってきたからケースに詰めよう」

「分かった」

 

 撹拌していた石鹸を平たく四角い木箱に詰める。これが固まったら無添加の素朴な固形石鹸の完成だ。

 その作業を眺めながら籠を下ろしたスタンリーが口を開く。

 

「話戻すけど、なんでアレックスは酒の作り方知ってんだ? 子供だろ?」

「アマゾンの原住民のドキュメンタリーとかで見たのを真似した。噛んで容器に戻すやつ」

「おお、口噛み酒だね! 唾液でデンプンを糖化させて放置することで醸造させるものだ。人為的に作る酒の発祥とも言われる。原始の世界にピッタリで実にエレガントだ」

「うん、原理は知らなかったけどね」

 

 キラキラと目を輝かせるゼノに、至ってクールにアレックスは返した。

 

「へえ、昔ながらの製法ってやつ? 流石に飲んだことねえな。どんな味すんだ?」

「……絶っ対に飲むなよ、スタンリー」

 

 アレックスは痴漢を見る目でスタンリーをじとりと見た。これまで憧憬や嫉妬といった様々な視線を浴びてきたが、こんな目を向けられたのは初めてでスタンリーは頬をひくつかせた。

 しかしはたと気付く。鮮やかなアースアイの下にうっすらと青い隈が出ていることに。

 

「分かった分かった、飲まねえよ。飲みたがってた酒飲み連中にも言い聞かせとく。

 んなことよりアレックス、お前寝れてねえの? 隈できてんぞ」

「え、ほんと? 鏡ないから気付かなかった……まあ、ずっと一人だったからな。いきなり大人数の共同生活になってまだ慣れてないだけだよ」

「ふむ、確かに急な環境変化に体が追いつかないことはままあることだ。眠れない日が続くようであれば僕に相談するといい、睡眠導入剤でも作るとしよう」

「そう言って麻酔とかじゃないよね?」

 

 石鹸を綺麗に均しながらアレックスが茶化す。瞬間、ゼノの目がきらりと光った。

 

「この文明レベルでできる麻酔はエーテル麻酔が最も適していると思うがジエチルエーテルの合成に必要な硫酸がない。イエローストーンに行ければ硫酸が手に入るからそれまでお預けだね。あと亜酸化窒素作りに必要な材料が現段階で入手可能だから笑気麻酔が可能といえば可能なんだが使える器具が土器では心許ない。ガラス加工が可能なレベルでなければ難しいね」

「マジレスじゃん、半分以上何言ってるか分からないんだけど」

「ゼノだかんね」

 

 オタク特有の早口だと笑うアレックスと慣れた様子で聞き流すスタンリーを余所にゼノはどんどん自分の世界に入っていく。その手はすっかり止まっていたので、アレックスは一通り笑うとゼノの手から土器と木箱を奪ってさくっと作業を終わらせた。

 

「じゃ、私はこれ仕舞ってくる。あ、スタンリー。籠寄越せ、それも持ってく」

「お、サンキュ」

 

 スタンリーから受け取った籠を背負い、石鹸の木箱を重ねて持ってアレックスは倉庫に向かった。

 

 アレックスが倉庫に入っていったのを確認してから、スタンリーはゼノに声をかける。するとそれまでブツブツと思考を垂れ流していたゼノが途端にそれをやめて代わりに少々難しい顔をする。

 

「どした? なんか引っかかるとこでもあったか」

「いや……やはりこちらの考えすぎなのではないかと思い始めててね。彼は科学好きでもないのに年齢に見合わず知識の幅が広い。だがその元を辿るとほとんどがテレビや漫画といった子供が触れるようなものばかりなんだ。人並み以上に記憶力があった、と考える方がしっくり来る」

「ふーん……」

 

 ゼノの言葉にスタンリーは冷たく目を細めアレックスのいる倉庫を見遣った。

 

「スタン、君はどう思うんだい?」

「……俺は、やっぱまだ信じきれねえな。テレビだの漫画だのからっつっても限度があんだろ、何千年も経っててなんでそこだけピンポイントで覚えてんだっつの。……それに」

「それに?」

 

 スタンリーは口角を下げ、面白くなさそうな顔で続ける。

 

「他の奴ら……俺と同じようにアレックスを疑ってた面子からな、『やっぱり彼の言ってることは本当なんじゃないか』『アレックスはただの子供、それもすごく良い子だ』なーんて意見が段々増えてきてんだよ。おかしくねえか、軍の中でも警戒心の強え奴らだぜ? それがあっさり懐柔されてってんだ。これを疑うなっつーのは、ちっと無理があんだろ」

「ふむ、それは確かに……」

 

 特殊部隊は気のいい人間も勿論いるが、それ以前に軍人なのだ。たとえ力を貸してくれた恩人であろうと、怪しければ真実心を開くことはない。……はずであった。

 アレックスを疑う声は日毎に消え、代わりに擁護する声が大きくなっていった。今ではアレックスを疑う方が少数派になっている。

 このままではアレックス擁護派と否定派で内部分裂が起きかねない。服も食糧も寝床も彼の助力があって極短期間で入手できたが、こうなってくるとやはり話は別だ。

 

「あいつには絶対何か秘密がある。それを暴くまでは、俺はあいつを仲間だとは思えねえ」

 

 ついさっきまで当のアレックスと和やかに会話していたとは思えないほどの凍えるような目でスタンリーは宣言するのであった。

 

* * *

 

--寝れねえ……。

 

 スタンリーは周りを起こさないようにごろりと寝返りを打った。昼間アレックスに寝不足を指摘した癖に、その自分が眠れない状態になってどうする。密かに溜息を吐いた。

 原因に心当たりはある。しかし解決するのは難しいものだった。

 何もアレックスが怪しくて不安で眠れないなんて繊細な理由ではない。そんな理由だったらアレックスと合流した日から寝不足になっている。

 スタンリーの内面に起因しているのだ。そしてそれはきっと、相当時間をかけねば治ることはない。

 

 再び小さく溜息を吐き、薄く目を開く。

 寝床の場所は初日と変わっていない。しかし葉っぱの屋根だけだったものが今は風避けのカーテンが設けられたため初日に比べればずっとマシになった。……とはいえ、男共全員詰め込んで雑魚寝という形なので、むさ苦しすぎて正直寝心地は良くない。

 人数の少ない女性陣は今もアレックスの善意で彼のツリーハウスを使っている。どんな住居か覗いてみたことがあるが、まあ、この石の世界では高級住宅に該当するだろうということは分かった。女贔屓だと不満をこっそり漏らす男もいたが、アレックス当人が土剥き出しの狭い倉庫で寝泊まりしているためか直接文句を言う者はいなかった。

 

 ぼう、と天井を眺めていると、カーテンの隙間から月明かりでも星明りでもない光が差し込んでいることに気がついた。位置的に焚火の明かりだろうが、寝る前に火事にならないよう消すことになっている。

 消し忘れか、それとも誰か起きているのか。まだ眠れそうにないスタンリーは、周りを起こさないように音を殺して寝床の外に出た。

 

 自分で切ったことが窺える、ざんばらの金髪の少年が焚火に薪を焚べていた。普段より火力の小さい焚火の上には鍋がかけられており、少年が時折木製のレードルで中身を混ぜていた。

 その様子を見ていると、気の強そうな猫目がきろっとスタンリーを見つける。

 

「へえ、今日はスタンリーか」

「……()()()?」

「まあ、座ってゆっくり話そう」

 

 焚火の四方を囲う、切り倒して枝を払っただけの丸太のベンチを勧められる。訝しむが、どの道戦闘技能のない子供のアレックス一人制圧するのは容易だ。素直に勧められた丸太に腰掛ける。

 アレックスは常に身に纏っていたマントを脱いでいた。マントの下は皆が着ているのと同じ貫頭衣で、幅が広く固そうな革のベルトを腹部に巻き、下はズボンを穿いていた。革の手甲は前腕のみで、二の腕が晒されている。細い腕には擦り傷や切り傷の他に何かに噛まれた痕や痣といった傷跡が肉の代わりに無数についていた。

 

「他の皆には秘密にしてくれよ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべてアレックスは声を潜める。鍋には白い液体が入っており、そこから芳醇な匂いが漂っていた。

 

「これ……牛乳か? それにしちゃ匂いが違えな……」

「山羊のミルクだよ。ハゲ山の方にちょっと仲良くしてる群れがいるんだ。これは若い子に分けてもらったミルクだから、初めてでも飲みやすいよ」

 

 で、ここに……と取り出したのは小瓶だ。栓を抜いて、木の匙を差し込み、中身を掬って取り出す。柔らかな甘い香りと共に、とろりとした液体が火に照らされて現れる。

 

「蜂蜜まであんのか」

「採取するのほんっとうに大変だから内緒だぞ」

 

 純白のミルクに黄金の線が何度か垂らされた。よく混ざるようにレードルでくるくると回し続け、頃合いを見てアレックスは木のコップに少しミルクを取って味を見る。

 

「ん、いい感じ。スタンリー、コップ貸して」

 

 細い手がスタンリーに差し出される。断るという選択肢が頭を過ぎったが、今正に味見でアレックスが口をつけたものだ。自分の管理するコップであれば、毒を盛られる心配もないだろう。

 逡巡はほんの一瞬で、分からない程度のものだった。スタンリーは自分の荷からコップを出し、アレックスに渡す。

 アレックスはそこにミルクを注ぎ、スタンリーに返してから自分のコップにもミルクを注いだ。

 

 鍋に残ったミルクが焦げつかないように、焚火の薪を崩し軽く砂をかけて火を弱めるアレックスを見ながら、スタンリーはそっとミルクに口をつけた。

 山羊のミルクと聞いて臭みがあるだろうと思っていたが、想像以上にすっきりとした味で驚く。山羊の食料だろう草の風味はわずかに感じられるが、牛乳よりも口当たりはさっぱりしていた。蜂蜜の優しい甘さの裏に爽やかな辛味があり、体の芯からじんわりと温かくなる心地がした。

 

「うまいな……」

「だろ? ハゲ山の辺りに生えてる草は水気が少ないからか、山羊ミルクなのに草の匂いがきつくなくて飲みやすいんだ」

「蜂蜜以外にもなんか入れてるだろ。ジンジャーか?」

「そう。ハニージンジャーのホットミルクは、母さんがよく作ってくれたんだ。本当はここにシナモンも入れるんだが、シナモンってこの辺にはないんだな。ゼノに聞いたんだが、もっと温かいところじゃないと自生してないらしい」

 

 母親のレシピで作ったホットミルク。それを褒められたアレックスは、本当に嬉しそうだった。

 大人びた表情をすることの多いアレックスの子供っぽい笑顔に瞠目した。

 

「眠れない時はホットミルクが一番いい。安心するから」

 

 母の影を追う子供の顔で、ひとの心を柔らかく包み込む声音を吐き。爪が欠けて骨ばった両手で持ったコップから、ちびちびとホットミルクを舐める。

 スタンリーには大人にも子供にも見えるのにそのどちらでもないちぐはぐさが奇妙に感じられて仕方なかった。いっそどちらかに振り切ってくれればよかったのに。

 そんな考えを隠すようにホットミルクをぐっと呷った。

 

「……あんた、もしかして俺達がここに来てから毎晩こうしてんの?」

「あ、バレた?」

「そりゃな。『今日は俺』っつーことは、その前に何人も来てんだろ」

「うん。きっと眠れない人もいるだろうなって思ったから」

「なんでんなことが分かる?」

 

 アレックスはスタンリーから目を逸らし、弱くなった火をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。

 

「……眠りに落ちるその瞬間。自分の意思とは関係なしに、飛び起きる」

「!」

 

 スタンリーは目を見開いてアレックスを凝視した。それは先程スタンリーを襲った現象だったからだ。

 

「石化していた数千年の間、私達にとって“眠り”とは“死”を意味していた。意識が遠のく度に全力で抵抗した……だから今、頭では『もう眠っても大丈夫だ』と理解していても、反射的に起きてしまうんだ」

 

 かつて意識的に行っていた覚醒は、やがて無意識の抵抗に変わり、いつしか当たり前の日常となっていた。眠りを避けることが常態化した結果、石化が解けたというのに、どんなに疲れていようと、どんなに眠ろうとしようと、条件反射で体が強制的に意識を覚醒させるのだ。

 染み付いた習慣というものは、そう簡単には消えてくれない。理解と納得は別物なのだ。

 

「私も復活したばかりの頃はそうだった。だからきっと、君達の中にも同じように“眠れない”人が出てくると思って……こうして待つことにしたんだ。……ひとりの夜は、長いから」

「アレックス……」

 

 炎が揺らめく瞳が瞼に隠される。

 

 職業柄、一人で夜を明かすことには慣れていた。一言も喋らず、植物にでもなったかのようにじっとして待つことは、仕事でよくやることであった。だから夜は長いだのなんだのという感傷を、スタンリーは持ち合わせていなかった。

 しかし、スタンリーの経験した孤独な夜と、アレックスの経験した孤独な夜は性質が全く異なる。

 アレックスの過ごした夜は、真実“孤独”だった。己以外に、生きた人間はいないからだ。石像に触れたとて、そこには温もりも鼓動もない。気配さえ無である。

 一寸先の闇の中に息づく死を感じながら、疲れた体を引きずり、息を潜めて夜明けを待つ。大人の庇護下にあっただろう子供が、たった一人で。

 

--ああ、歪に育つわけだ。

 

「……あんたの時と俺達じゃ状況が違う。動けねえやついても代わりのやつがいんだから、放っときゃよかったろ」

「や、まあ、うん。皆私より年上でしかも軍人ばっかりだから、余計なお世話かな〜とも思ったさ。でも何もしなかったらそれはそれで気になって寝れなくなってただろうし、ま、結局私の自己満足ってことだよ」

 

 おかわりいる? と差し出された手に空になったコップを乗せる。レードルでミルクを掬うアレックスを横目にスタンリーは頭をがりがり掻いた。

 

 眠れない大人を気遣って、毎晩こうして母のレシピのホットミルクを作って待つ子供。絆されるやつが出ても何もおかしくない。

 

 スタンリーがいまいちアレックスを信用しきれていないのは、原始回帰したカリフォルニアに素っ裸で放り込まれた子供が一人で生き延びて大人数十人を受け入れられるほど備蓄のある拠点を築いたという点があまりにも怪しすぎるからだ。

 大人でさえゼロスタートのサバイバルは困難を極めるというのに、目の前の少年は乗り越えた。乗り越えた上で、スタンリー達をほんの数日とはいえほぼ備蓄のみで養った。

 

――有り得ねえな。

 スタンリーはそう切り捨てた。

 

 仮に、アレックスの言葉が真実だとして。どれだけの時間をかければ、ここまでの拠点を作れるというのか。

 アレックスは見たところ十代半ばだ。童顔だとしても精々十八、九といったところだろう。

 この年齢でスタートなら、まだ分かる。だがこの年齢が現在だ。そうなるとアレックスは、ローティーンの頃に、下手すれば一桁の年齢でサバイバルを始めたことになってしまう。

 そんなことが、可能なのか?

 

 無理に決まっている。無理な、はずなのだ。

 

「……アレックス」

「なに?」

 

 ホットミルクを波々と注いだコップを受け取りながら特徴的なアースアイを見つめ返す。

 

「あんた、今いくつだ?」

 

 不思議そうにする彼に、スタンリーはずっと口にできなかった問いを紡いだ。

 

「えーと、日を数えてないから正確な数字は分からないけど……今年で十、六? かな」

 

 指折り数えて答える少年に絶句する。

 十六歳。やはり、若すぎる。

 

「も一つ聞いていいか?」

「どうぞ?」

「石化したのは、何歳ん時だ」

 

 スタンリーは虚偽は許さないと言わんばかりに視線を鋭くさせるが、それに気づいていないのか気づいてて無視しているのか、あっけらかんとアレックスは即答した。

 

「十一の時だよ。もう五年はここで暮らしてる」

 

 五回冬越えたから合ってるはず、……具体的に数字にするとやばいな……と呟くアレックスを他所に一層頭を抱える。

 

「……待て。待て、待て。十一? 有り得ねえだろ、なんで生き残れてんだ」

「ああ、うん、そうなるよなあ」

 

 アレックスは苦笑しながら自分のコップにホットミルクを注ぎ直した。

 

「話すとまた長くなるし嘘臭くなるんだけど」

「いい、もう十分嘘臭えし。一旦全部吐け」

「ひど……まあいいや」

 

 ますます苦笑を深めると、アレックスは居住まいを少し正してゆっくり口を開いた。




石鹸作りに使う灰は海藻を焼いたものでも代用できます(そのレシピの場合できる強アルカリは水酸化ナトリウム)。原作で千空が作った石鹸は海藻版ですね。

感想にあった質問
Q.万能型だけど本職には及ばない器用貧乏という感じでしょうか?冒険者?
そんな感じです。強メンタルと強運と地道な努力でなんとかする人です。一回死んで転生してる分特にメンタルは強い方です。なおストレスを感じていないわけではないので抱え込んだそれがどこに響いているかは……。
アレックスは日本組でいうクロムポジションに該当しますが、クロムほど優秀じゃないです。現代でいうと早慶ギリギリ合格できるか落ちて滑り止めのGMARCH行くかってくらいです。

ドクスト世界の人類はフィジカル中心にメンタルもインフレが激しいのでアレックスはまだまだ一般人だと思います。普通の人間はそもそも三七〇〇年も起きてられませんよ……。ミジンコ並だと言われてる千空ですら一人全裸で原始の森に放り込まれて半年以内にツリーハウス建ててちゃんと生活しつつ復活液研究までしてる時点で相当逞しいです。あれでミジンコ扱いならアレックスは……?
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