三人称視点
響たちが車を走らせる中、レース会場では不満やブーイングが鳴り響いていた。
『ついにレースは終盤戦!5thステージは未開の惑星です。しかし、残るレーサーはたったの10人!委員長、これどういうこと?』
「いや、私にも何が何だかさっぱり…。」
司会が疑問のもうのも無理はない。
最初50以上いたレーサーも残るはたった10組だけ。
しかもそのほとんどが車の大破によるリタイヤであり、磁気嵐の影響で長い間何が起きているのかすらわからないのだ。
「10組も残っているのならいいではありませんか。」
そういったのは響たちをレースに招待したカレンだ。
彼女は10組も残っているのなら問題はないと自信たっぷりに言い放つ。
「そうは言いましても、この星は今回初めて取り入れられたコース、何が起きるかわかりませんよ。」
10組という状況でそのようなコースを走るのは危険ではないか、と思って位の言葉だが、カレンは堂々と言い放つ。
「何が起こるかわからないのがレースのだいご味じゃないですか。」
その笑みには何やら不敵なものが混ざっていたことに、ここにいる者たちは気付くことができなかった。
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キャロルside
「ふむ、ずいぶん興味深いな。いったいどんな進化をたどればこれほどの巨大化を…。」
やはりこのレース、参加して正解だったな。先ほどの宇宙ステーションといい未知のはらんだ興味深いものを数多く観察することができた。
どうやらこの惑星では虫が主導権を握っているらしく、この車体の数倍という巨躯を誇る虫を多く見かけた。
肉食も交じっているらしく何度か襲われたが問題はないな。
ファウストローブを纏うまでもなく、通常の錬金術で片が付いた。
(それにしても…。)
引っかかるのがここの昆虫の錬金術を見た時の反応だ。
錬金術の術式を発動すると途端に戦意を喪失し、奥へと逃げていくのだ。
まるで錬金術そのものに対して恐怖しているかのように…。
(この虫どもは錬金術を知っている?)
だとすればいったい、この虫どもはいつ、どこで錬金術の存在を知ったのだ?
疑問は尽きないが、今はレースに勝つことが優先事項だ。
レースに勝った暁には俺専用の巨大実験場をもらう予定だ。
S.O.N.G専属の研究員になってからというものの、忌々しいことに大掛かりな実験を行う際には場所を考えたり許可をもらったりとかなり手間のかかる手続きが必要となってしまったからな。
だが、俺専用の実験場があれば話は別だ。
どれほど大規模な実験だろうと俺の意志一つで決行できるようになれる。
フフ、今から胸が躍るというものだ。
「ん?あれは…。」
目の前に見覚えのある車がある。
あのふざけたシルエットは…。
「貴様ら、何をしている?」
「あ、キャロルちゃん。」
目の前にいたのは立花響とドラえもんの駆るアヒル号だった。
車体はかなりがたついているうえ、立花響の様子も少しおかしいように感じる。
何かあったのか?
「いや~、ちょっと足を怪我しちゃいまして…。」
「何をやっているんだお前は…。」
全く、そもそも車ではなく自転車でレースに挑む時点で正気を疑いたくなるな…。
ここでこいつを見捨てても寝ざめが悪い…。仕方がない。
俺は錬金術を使い、立花響の傷を和らげてやった。
「わあ、痛くないや。ありがとうキャロルちゃん。」
「勘違いするな。お前には借りが多くあるというだけのことだ。」
「全く、素直じゃないんだから。」
異様ににやにやする立花響の顔が何やらイラつくな…。
だが、感謝されるのは悪くないかもな…。
そう思いながら俺は車を走らせるのだった。
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弓美side
「虫は苦手だというのに…。」
「仕方ないでしょユミ。早くいくよ。」
創世の言う通りなんだけど、もう少し心の準備が欲しいというか…。
「それにしても、大きな虫ですわね。なんだかとっても強そうですわ。」
全くだよ。
アニメだったらホラーとかサバイバルとかそういうのにいそうな虫ばかりだ。
く、私にも響たちのような日朝の美少女アニメみたいな装備があれば…。
いや、あれは案外深夜向けアニメかな?
そんなこと考えていると、突如として私たちの車に誰かからの通信が入った。
こんな機能があったんだ…。
「誰からだろう?」
「とりあえず、押してみなよ。」
創世の言葉通り、着信ボタンを押すと、そこには必死の形相となったベンガルさんの姿が映っていた。
「べ、ベンガルさん!?どうしたんですか?」
「き、聞いてくれ!今猫耳のロボットに襲われている!猫耳の形からしてデポンだ。今証拠のデータを送るから、これを実行委員に、ぐわあああああ!!」
「ちょ、べ、ベンガルさん!」
そのままベンガルさんからの通信が途絶えた。
そ、そんな…。
それをみた創世もかなり怒っているようだ。
ただ、詩織は何やら難しそうな表情で考え込んでいる。どうしたんだろう?
「こうしちゃいられないよユミ。早く今の映像を実行委員に…。」
「待ってください!」
驚いたことにそれを制止したのは詩織だ。
いったい何が…。
「な、なにを言っているのテラジ?早く送らないと…。」
「今の、本当にベンガルさんは襲われたんでしょうか?」
「え?ど、どういうこと?」
だってこの映像ではベンガルさんが何者かに襲われて…そう思っていると、詩織が口を開き始めた。
「私は最近よく演劇などを見ますし、自分自身の演技にも自信がありますわ。」
そういいながら詩織はベンガルさんの送ってきた映像をもう一度見直す。
「このベンガルさん、映像越しだから定かではありませんが、まるでどこか芝居がかったものを感じましたわ。もしそうだとしたら…。」
確かに詩織の家は裕福だし詩織自身メチャクチャ演技が上手い。それこそハリウッド女優並みともいえるほどに…。そんな詩織が言うんだから間違いないかも…。
もしもそうだとしたら、ベンガルさんは本当は悪者ってこと!?
まだ確定はしてないらしいけど、もしかしたら本当に…。
「…わかった。テラジがそういうのなら、まずはベンガルさんが落っこちた場所に行ってみよう。」
そうして私は一情報を頼りにベンガルさんの車のあったと思われる地点に向かうことにした。
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切歌side
「そんな…ベンガルさん…。」
大変なことになったのデス。
なんと私たちに車を貸してくれたベンガルさんが別のレーサー・・デポンの手によって突き落とされてしまったのデス。な、何たることでしょう…。
「許せない…。」
「調!とっちめに行くデスよ!」
「うん…。」
調の目もまた怒りに燃えているのデス。私たちは車を走らせ、前へと進む。
あ、いたデスよ。
私たちのすぐ目の前にはベンガルさんをやっつけたデポンが車を走らせていたのデス。
「調。」
「うん。」
私たちはそのままデポンの車に突撃をした。
「うわっ!?なんだ!?」
「マストダーイ!」
「よくもベンガルさんを…。」
私たちはデポンをやっつけるために何度も何度も車を激突させる。
デポンは驚いたように私たちに向かって文句を言ってきた。
「何するんだ。走行妨害で失格になってしまうぞ!?」
な…。自分のことを棚に上げて…。
許せないのデス。
「「お前がいうな(デス)!!」」
「はあ!?って前見ろ前!」
「へ?ってうわあ!」
デポンの言葉通り前を見るとそこにはでっかい木が立ちふさがっていたのデス。
「「「ぶつかる────(デス)!!!」」」
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ドラえもんside
ドガ────ンと大きな音が鳴り響く。
なんだろう、爆発音?
「なんだ今のは…?」
「行ってみようドラえもん、キャロルちゃん。」
うなずき合い、僕らは爆発音のする方向へと向かっていった。
そこでは何やら言い争っている一団を見つけることができた。
あれはいったい…。
「あれってデポンさん…、それに、切歌ちゃんと調ちゃん!?」
そこにいたのはデポンと切歌ちゃんと調ちゃんのコンビ。ほかにも何人かのレーサーが集まっている。
「神聖なレースを汚すなアル。」
「刑務所行きアル。」
「勝てそうにないからってベンガルさんを突き飛ばすなんて最低なのデス。」
いったい何を言い合っているんだ?
「やめろ貴様ら!いったい何をごちゃごちゃ言っている。」
キャロルちゃんの言葉に切歌ちゃん隊は僕たちのやってきた方向を見つめる。
そうこうしているうちに翼さんの運転するバイクとシロもやってきたようだ。
「なんだ?」
「こりゃ何の集まりだ?」
「いったい何をやっているのだ?」
翼さんたちの疑問に答えるように、切歌ちゃんはデポンを指さしながらにらみつける。
「こいつがずるをしたのデス。勝てないからってベンガルさんを突き飛ばして…。」
「だから、俺はやっていないって言っているだろ!」
「論より証拠!ベンガルさんが渡してくれた証拠があるのデス!」
そういって切歌ちゃんが出したのはベンガルさんが何者かに突き飛ばされる映像だ。
それを見たみんながデポンのことをにらみつける。
「こいつはさすがにいただけないな…。」
奏さんの言葉にうつむくデポン。確かにこの映像は何よりの証拠になるだろう…。
でも、僕と響ちゃんはコイツがどんな奴なのかを知っている。こいつがそんなことをするはずがない。
「違う!」
思わず僕は大声をあげてしまった。
デポンを含め、ここにいるみんなが僕のことをみつめだす。
「デポンは嫌な奴だ。偉そうで、誰の手も借りようとしない頑固者だ。」
僕自身、最初はデポンのことをただの嫌な奴だとしか思わなかった。
でも違った。意地っ張りでプライドの高い奴だけど、優しい奴でもあるんだ。
「それでも、レースにおいて、こいつは卑怯なことは絶対にしない!そんな奴がこんなことをするわけがない!」
僕の言葉にシンと静まり返る。それでも切歌ちゃんは何処か釈然としないようだ。
「で、でも証拠が…。」
「その証拠ですけど、私たちにも送られてきましたわ。」
そういって現れたのは詩織ちゃんたちだ。
それにしても、詩織ちゃんたちにも証拠が送られてきただって!?
「この二つの証拠映像、どちらも微妙に違う時間に送られてきました。私たちが先でそのあと送られたのが暁さんたちの映像ですわ。」
そして両方とも再生してみると、内容は同じだけど、映像は別物だった。
まるで別々の場所で撮ったかのように…。
「これって…。」
「はい、映像は私たちとの通信したビデオ通話の映像をそのまま録画したもの。おそらく私たちとの通信の後、暁さんと通信をしたのでしょう。そして、それらの映像は突き飛ばされる点も含め、
でも、それはさすがにおかしすぎる。
そもそも一回目の映像と二回目の映像が同じということ自体可笑しいんだ。
それはまさしく、
「それに先程、私たちはベンガルさんが落っこちたと思われる場所へ赴きましたが、そこには何もありませんでしたの。」
な、なんだって!詩織ちゃんの言葉にみんなが驚愕の表情を浮かべる。
「つまり、デポンさんを陥れようとしたものの正体は…。」
詩織ちゃんの言葉が鼻垂れようとしたまさにその時、何やら大きな音が近づいてきた。
『グオオオオオオオオ』
「なっ!?」
突如として表れたのは、ビルほどもある巨大な芋虫だ。
「くそっ…。」
あまりにも突然の出来事のため、シンフォギアを纏う暇も錬金術を使う暇も、道具を出す暇さえない。
「「「「「「うわあああああああああ!!」」」」」」
僕たちはなすすべもなく巨大に飲み込まれてしまったのだった。