今回でかなり終盤に近づいてきてるから初投稿(何も言わないで)
イラ様に大きな任務があるから稽古をつけると告げられ、どんなものかと思っていたが、これがかなりキツい。内容は単純で、イラ様と一対二をするだけ。
ただし、イラ様の攻撃はほとんど飛んでこない。油断した時に強力な一撃を打ってくる。頻繁に攻撃を入れてくるならガードや受け身をとる余地はあるけど、油断した時にだけ来るからずっと気が抜けない。
イラ様との稽古は約一時間続く。その間ほぼずっと全力戦闘を続ける。集中力が続かない俺はもちろん、ルナでさえ疲れて気が抜けてしまう。
「よし、そろそろ休憩だ」
「あぁ〜! キツいー死ぬー!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「だが二人とも、始めた頃に比べればかなり良くなってきているぞ」
「ホ、ホントすか、はぁ、はぁ」
「ああ、ステラは集中力はまだ少し足りてないが、体力はついた。ルナはステラに力で劣る部分を身につけた集中力で補っている。二人の相性はかなりいい。そろそろ任務を任せても大丈夫そうだな」
少し気になっていた。任務は急ぎのものではないのだろうか、と。稽古が始まって、もう二週間経つが、特に急いでいる様子もない。恐らく、出来れば早めがいいということなのだろう。だが、稽古をしっかり受けることが出来たおかげで俺もルナも大分上達した。
任務に向けて、更なる準備をしなければ。
稽古終わりにイラ様に話があると呼び出しをされ、マスターのいる塔へ足を運んだ。
「イラ様、お話とは一体なんでしょうか」
「ああ、今回の任務についてすこし、話をしようと思ったんだ。実は今回の任務、ナイトメアチリシィと黒装束が関わっているのだ」
「えっ……と、それは一体どういう」
「大分前にお前が戦った黒装束、その時はさほど強くなかったと聞いた。だが今回、少し様子がおかしいのだ」
「と、いいますと?」
「黒装束が、街の人々を襲っている。私が少し偵察してきたのだが、数は三体。裏でナイトメアチリシィが操っていると考えられる。それに、物凄く嫌な気配を感じた。私から見てもあれはかなり手強い敵だ」
「なるほど、それで今回稽古を?」
「そうだ。この任務、下手をしたら生きて帰れない可能性がある。恐らくステラ、お前は大丈夫だろうが、ルナには少し厳しい任務になる。だが、二人が組めばあるいは、と思ったのだが」
「そう、ですか」
ルナが死ぬかもしれない。でもその任務、俺が一人で行ってこなすことで、倒すことが出来るのか? イラ様が行くのではダメなのか?
「失礼ですが、それだけ危険な任務なら、なぜイラ様は戦いに参加されないのですか?」
「すまない。私は、別のことでやらなければならない事があるのだ。戦いには参加出来ない」
「そうですか。分かりました」
イラ様にはやるべき事があるのか、それならば仕方ないが。
任務のこと、ルナに伝えて任務には俺一人で行くと言おう。
「それと、最後にステラには一つ、最悪な場合の救済処置を伝える」
昨日は全然眠ることが出来なかった。昨日聞いた、最悪の場合の救済処置。
それは、消えそうな心を自分の心に保存する。もしくは自分のキーブレードに保存する。そうすることで、体が消えた本人の存在は物理的にも消えたことにはならない。
だが、元の体に戻る確証もない。そんな事態にはならないことを願うか。任務は二日後。その前に、ルナに今回の任務に参加しないよう伝えるか。言うこと聞くか分からんが。
そんなことを考えていると、後ろから声がした。
「あれ? ステラこんなとこにいたんだ」
振り返ると、しっかり休んで顔色が良くなったルナがいた。
「おう、ちょうどルナに話があったんだ」
「話って?」
「でもその前に、ちょっと組手やらないか? 任務は二日後だし」
「いいね、じゃあ場所変えようか」
ルナと向かった先は、見通しのいい開けた公園だった。遮るものは何もない、遊具すらない。
「ここなら邪魔するものはなにもないね。それじゃあ、全力でいくよ!」
掛け声を合図に、ルナが全力で突進してきた。いきなり向かって来たもんだから驚いたが、即座に体を動かしルナの攻撃を回避する。
「この程度かルナ。今度はこっちから行くぞ!」
恐らく同じ攻撃なら危なげなく避けられるな。それなら……!
俺はキーブレードの連撃をルナに叩き込む。しかしルナは辛うじてそれをガードした。だが、この攻撃はただの連撃ではない。
そこからの勝負は一瞬だった。
「はい、ここまでだな」
「……! どういうこといつの間に後ろにまわったの。さっきまで目の前に……」
「まあ、ルナも強くなったけど、俺だって強くなってるってこった」
さっき、何をしたか。種明かしをすると、スピードに緩急を付けることでルナを惑わし、一気にトップスピードを出すことで自分の残像を残した。その刹那の一瞬で、ルナの背後を取ったというわけだ。
「全然わからなかった……」
「まあ、俺も少しスイッチ入れてたし。ま、とりあえずその辺のベンチに座って休憩しようぜ。さっき言った話ってのもしたいし」
俺とルナは五分ほど歩いて、やっと見つけた木陰のベンチに座った。
「ここ、ちょうど木の影に入ってて気持ちがいいね。それで、話ってなんなの?」
「二日後の任務のことなんだけど。イラ様の話によれば、相手はかなり強い」
「……それで?」
俺が何を言いたいのか察したのか、ルナの声が少しだけ低くなった気がした。
「だから、その、ルナには任務に参加しないでほしいんだ」
「……」
ルナはずっと押し黙っている。その沈黙が気まずくて、俺は言い訳のような言葉をつらつらと並べた。
「この際だから正直に言うけど、今回の任務は俺はともかく、ルナにとっては物凄く難度が高い。下手すれば、消えてしまう可能性だってあるんだ」
「……だから、危険だから、家にこもってステラが帰ってくるのを一人で待ってろって……? そんなの、嫌に決まってるでしょ」
口を噤んでいたルナが、堰を切ったように話し出す。瞳に涙を溜めて、我慢していた感情を吐き出すかのように語気が強くなる。
「危険だから何? もしステラが一人で行って帰ってこなかったら、私だって後を追う! 私は、ステラのことが好きだから頑張れるのっ! だから……だから、待ってるだけなんて、嫌……」
言葉は尻すぼみになり、最後の方は消え入りそうなくらい弱々しい声だった。俺はそんな、今にも泣き出しそうなルナの姿を見て、ハッとする。
「ルナ……、分かった」
俺は覚悟を決めた。
「俺は、ルナがもし消えてしまったらって考えると、耐えられない。そう思っていたから、きっと弱気になってたんだ。でも、自分勝手にルナを守ることばかり考えて、お前の気持ちを考えていなかった。
俺だって、ルナが好きだ。だから……これだけは約束してくれ。絶対に死なないと」
「うん、約束する」
約束を交わした俺たちは、その後も組手を続け、己を鍛え合った。
「それでは、行ってきます」
「頼んだぞ、ステラ、ルナ」
「「はい!」」
二人で元気に返事をした後、イラ様はキーブレードを使い、ゲートを開いた。
「ここから先の世界は、お前たち二人が行ったことのない世界だ。必ず帰ってこい」
俺たちは頷いて、ゲートに飛び込んだ。
ゲートの先の世界は、縦に長い建物。ビルが沢山並んだ街だった。
「ここは、ほんとに今まで行ったことの無いような世界みたいだ」
「ここ、すごい世界だね。とりあえず探してみよう」
そう言って二人で探索を始めようとすると、背後から声がした。聞き覚えのある、甘ったるい声だ。
「やあ、また来てくれたんだね。僕はね、ステラ、君が来るのをずっと待っていたんだよ。街の人を適当に襲っていれば、来ないわけないからね」
ナイトメアチリシィ……。やはりこいつが。
「やっぱりお前だったのか。俺が来るのなんて待たずにこっちに来れば良かったじゃないか。わざわざ関係ない人を襲う必要ないだろ」
「まあ、それもそうなんだけどね。アレ、君たちの言う黒装束、だっけ? そいつらをちょっと強くして待ってようと思ってね。ステラと戦うに値するくらいの強さに、ね」
「ふざけんな! それが人を襲っていい理由にはならないだろっ!」
「ステラ! 少し落ち着いて。亡くなった人はもう戻らないけど、今いる人たちを守ることは出来るよ。怒りに任せて動けばなにも守れない」
「あ、あぁ。ごめん、そうだな」
そうだ、怒りに身を任せていては何も解決しない。それこそ、闇の力を利用することになってしまう。
「ふーん。こないだよりさらに成長したねぇ。嬉しいよ。それじゃあ、君が前に倒したこの子達が、どのくらい強くなったか、確かめさせてあげるよ」
ナイトメアチリシィが号令をかけると、あちこちにいた三体の黒装束が、一箇所に集まってくる。俺とルナはキーブレードを構えて、真っ直ぐに黒装束を見据えた。
これが、最後の勝負だ――。
さあさあなんか凄いとこで終わっちゃったねぇ。
ステラとルナの会話、ほんとに書きながら筆者にやにやしております(。-∀-)
多分次回で最後くらいになるかなぁ。イラ様との会話とその後のステラの考えで、この後の展開結構予想できちゃうかもしれないけど、次もお楽しみにね。
ちなみに主は暫く書けない状況になってしまうので、すこし投稿期間が空くかもしれません