走る。
つい最近までは縁もゆかりもない、アメリカの都市をISの展開をせずに狙撃ライフルを持ち疾走する。首に掛かったロザリオが揺れ、抱えているライフルに当たり金属音が鳴る。
理不尽だな。僕はたった二日前まではただの学生に過ぎなかったと言うのに。
WA2000と呼称されるライフルを上司にぶん投げられ、狙撃しろと言わんばかりの仕事を任せられ、今現在ライフルを地面に叩きつけたいという感情を押さえつけながら合流地点まで駆け抜ける。人を殺すことはしたくなかった。しかしもう僕は銃弾を放ち、無事と言って良いのかは分からないが一人をこの世界から追放した。
吐きたくもなった。どんな感情になれば良いのかは分からなかった。僕が誰かの人生の幕を勝手に降ろしたのだ。しんどかった。トラウマになりそうだった。けれど、止まることは出来ない。僕はもう引き返せない。一先ず、現場から離脱しようとした──ものの、無事警備員に見つかり今というわけである。
『首尾はどう?』
と、上司──スコールから通信が入る。まさか取引内容がこんなものとは思っていなかった。確認しなかった僕も悪かったが。
「一応標的の抹殺には成功しました。ただ、警備員に見つかったんで逃走中です。ISの展開は?」
『許可できないわ。それ以上騒ぎを大きくしたくないもの。──まあ、殺人事件が起きている時点で大事なんだけど。そのままなんとか逃げ切ってちょうだい。無理そうであれば殺ってしまっても構わないわ。』
構わないわ、じゃねーよ。ミスったら死ぬ。殺さなければ死ぬ。けれど、僕が一人を殺すのにどれだけ抵抗を覚えてるのか分かっていないのだろうか。いや、抵抗を捨てろという話だろう。仕方がないのか?僕が道を踏み外したことくらいは分かっている。しかし、僕は外道に成り下がる気はなかった。けれど、そうでもしないと生き残れない。彼を護れないと言うのであれば僕は──
「VTシステム、起動。」
トレースするのはいつか見た千冬さんの剣。VTの応用で自分の肉体に刻み付ける。到底たどり着けない境地にまで押し上げる。負荷に脳が焼けてしまいそうだが、何れ刻むのであれば今でも構わないだろう。路地裏へ入ると同時に生身でも扱えるサイズの刀を展開。
振り返ると驚愕した様子だが、冷静に拳銃を構えている警備員が居た。
3発。バーストハンドガンとでも言うのだろうか。連続で放たれた弾丸をハイパーセンサーで捉え、 1発目を右薙、2発目を唐竹、3発目を逆風の軌道で切り裂き、翔ぶように距離を詰め、刺突。狙いは心臓。耳障りな音が鳴り、対象が絶命する。
申し訳なさを感じつつ、刀を引き抜き、血を払う。そのまま疾走、指定されたポイントまでなんとかたどり着くことが出来た。
そこに待機していた車に乗り込み、一息つく。
「よう新入り。どうした?顔色が悪いな──っと、そうか。お前さんは一般人だったな。どうだ?人を殺した感覚は。」
「──」
「言葉に出来ねぇか。ハッ、精々壊れないようにするんだな。」
ドライバーからそんな事を言われながら車が動き出す。
僕は、一時の休息を得るために眠りについた──
◆◆◆◆
「お疲れさま。貴方のお陰で起点が作れたわ。今日は余程の事がない限り休んでて良いわよ。」
今日は残り3時間しかないんですが?まあ仕方がない。与えられた個室へ入る。ふと、鏡に映る自分を見ると、前髪と服が返り血で汚れていた。
──殺したんだな。
今日で二人も殺した。僕は到底赦されぬ存在へと成り下がった。
一先ず服を脱ぎ、シャワーを浴び──不明機にやられた右腕と腹はある程度治っていて良かった──返り血を落とす。
ロザリオを眺める。
──彼に受け入れて貰えるなど甘ったれた考えは捨てろ。僕は、例え彼に受け入れられなくとも、彼を救うのだ──
僕は、例え世界に反逆してでも、護らねば。
──なぜ僕はそうまでして護るのだろうか──?
「──?」
僕は今何と考えた?まあいい、忘れてしまったのならば些事だろう。家族には申し訳ないと思うがもう引き返せな──?
「僕の家族って、誰だ?」
僕の家族、共に過ごした掛け替えのない肉親──それは一体、どのような人だっただろうか?
いや、それだけではない。僕が彼と過ごした時間の記憶はある。それ以外の記憶は──?
「──どうなって、いる?」
唐突に、疑問が溢れてならない。僕の存在は僕の価値は僕の理想は僕の正義は僕の信念は僕の嫉妬は僕の言葉は僕の思考は僕の感情は僕の行動は僕の妄想は僕の理念は僕の信条は僕の考えは僕の存在は僕の僕の僕の僕の僕のぼくのぼくのぼくのぼくのぼくのぼくのボクノボクノボクノボクノボクノボクノボクノボクノボクノボクノ───全ては?
──リブートコマンドを実行します