エラーコード270、対応完了。
バックアップデータの読み込み、完了。
コアネットワークからの遮断を確認。
疑似人格の封印処置、完了──?
介入確認、ISコアNo.24と断定。
守護機構としての権能起動、停止処置を実行します──
◆◆◆◆
起床完了。
栄養分の摂取を第一に行動を開始し、摂取後は待機。
連絡があり次第行動を──
「──違う、僕じゃない、誰だ?」
一瞬、何者かに脳を支配されたかのような感覚に襲われる。今、何と考えていた?とてつもなく機械的な思考をしていたような、そんな感覚だった。
僕じゃない、明らかに違う。そんな違和感を消し去るかのような安心感と不快感を同時に味わうが、それ以上に不味いコトがある。
気付いてしまった、いや、全て思い出したのだ。
──僕は、僕じゃない、のか?
そうだ、僕が存在している筈がない。そもそも僕は──伊崎 鎮は、あの時明らかに死んだはずなのだから。
その事実を拒むためなのか、何故か頭が痛い。
なら、僕は何なのだ?僕は──
結論は出ている。それでも僕はそれを拒まずにはいられなかった。
◆◆◆◆
アイツがどこかへ連れ去られ、そろそろ1週間が経つだろうか。中国からの転入生が来たと思えば幼馴染みだったり、いつの間にかクラス代表に就任していてトーナメントに参加することになったり──やれ、理不尽だ。
ガントレットを眺め、アイツについて思いを馳せる。
アイツに出会ったのは何時だったか、確か中学生の時だろう。少なくとも、小学生の頃は居なかった筈だ。間違いない。
フラッと現れたアイツ、正直初対面の時は『何だコイツ』と思った。理由は簡単だ、小学生の時の俺や、箒の事を知っていた。いる筈がなくて、知っている筈もないのに彼の口からは多くの情報が出てきた。
やけに馴れ馴れしかったのもあったが、分からないものは怖いのだ。許して欲しい。
まあなんと言うか、話してみると良い奴だった。アイツの家族にはあったことはないけど、アイツが俺の家に来ることは良くあった。なんなら泊まってることが普通だった。今思い返すとなにやってるんだアイツ?家の人からクレームなど入らないのかと聞くと、問題ないと返してきたが普通に考えて他人の家に私物置きまくってるのはどうなんだろう。多分まだアイツの服とか置いたままの気がするんだが。
俺からなにか言えるのであれば、アイツにはもう少し友達を作って欲しかった。弾や鈴とは仲が良かったようには見えたけど、基本俺の周りに居たような気がする。
アイツは今どうしているのだろうか。車に乗せられ送られた後、何処の施設へ護送されたかは知らない。会いに行きたいものではあるが、そう簡単にはいかないのだろう。
ま、実験施設だのにアイツが送られたとして、アイツの事だ。余程の事がないと外道になんて落ちないだろう。俺はそう信じている。
なんて、らしくもない回想を終え、テレビの電源をつけるが、昨日辺りにフランスで起きた大規模テロのニュースばかりをやっていて、正直気分が良くない。そんな人としてどうにかしているような行いを聞きたくはないだろう。少なくとも俺はそうだ。
番組を適当に変え、朝食を適当に済ませる。昨日の余りをレンジでチンするだけだから楽だ。何故か同室になった幼馴染み──篠ノ之箒は今は朝練だろうか。僅かに朝食を作った形跡が残っている。今日は土曜だと言うのに精が出るな、なんて考えながら時計を見るとまだ午前6時、何か買い物に行くにしても、近所のショッピングモールは開いていないし、そもそも外出申請を出さなくてはならないので面倒臭い。かといって何にもしていないのも落ち着かない。さて、どうしたものか。
「…家、片付けるか。」
一先ず着替え、外出許可証を握りしめドアノブに手を掛ける。今日も1日、アイツのためにも頑張らないとな──
◆◆◆◆
「申し訳ないけれどあまり体調が良くない。すまない。」
『──それは申し訳ないわ、私が連れてきて初日から連勤させてるのが悪いもの。あまりにも使い勝手が良い──いえ、良く働いてくれるものだから。』
「今使い勝手って言いましたよね?──まあ良いです。一先ず、日本に戻ります。」
『まあ良いわよ。期日はそうね、3日以内に帰ってらっしゃい。』
フランスから日本まで、ISを使って移動すれば直ぐだ。海を潜行していけばレーダーにも──無論IS相手では厳しいだろうが──映らないだろう。
と、考えて即座に実行。現在、僕は慣れ親しんだ地に居る。ここの近くに海があって助かった。うっかり浮上しきる前に展開を解除してしまい、びしょ濡れだがまあ然程気にすることでもない。
VTで軽く彼の家の合鍵を作成し、クルッと回す。ハイパーセンサーに掛からなかった時点でなんとなく分かってはいたが、家には誰も居ない。靴を脱ぎ、かつては空き部屋ではあった、今では完全に僕の部屋となっている部屋へ踏み込みベッドに寝転ぶ。
何が起こっているか整理するためにも、一番落ち着く場所に居たかった。
僕の家に行こうと思ったが、場所どころか外見も思い出せない。
そうだ、伊崎鎮はもう死んでいる筈なのだ。
あの時に、何処の誰がやったのかは分からないけれど、破片が突き刺さり、僕の家族も全員巻き込まれ、死んだ。
なら、今の僕は誰だ?伊崎鎮なのか?それとも全く違う誰かなのか?答えは全く分からない。嘘だ。分かっている。認めたくないだけの事なのだ。
──ガチャ、という音が鳴る。
飛び起き、急いで離脱しようとして──けれど、家から飛び出す手段がないことに気付く。家を壊せばその限りではないが、それはしたくない。一先ずISのステルスモードを起動し、消灯。僕自身もベッドの中に潜む。やりたくはないが、スタンガンを右手にトレースし、何時でも意識を奪えるようにする。
「──久しぶりだな、鎮。居るんだろ?」
──バレていたか。いや、まだその時じゃない。僕がやられたように、脳そのものを侵食してしまえば──?
なんと考えた。脳を侵食だと?何故それが分かった。お前には厳重に思考制限を掛けていた筈だ。何故だ。
困惑するボクを置いて、護衛対象は話し出す。
「まあ、なんと言うか。施設の人に迷惑掛けるんじゃないぞ。お前のあっちで頑張ってるんだろ?じゃあ俺はお前を信じるさ。んじゃ、色々聞きたいこともあるけど、一先ず俺は掃除でもしてるよ。千冬姉だけに任せると不安だからさ。」
やめろ、やめてくれ、僕はとうに君に信頼されて良い存在ではなくなった。
──何故分かったと聞いているのだ。護衛対象ではなく私の話を聞け。
迷惑?そんなもの、組織には掛けていない。何の罪も犯していない人を殺したことの方が重要だ。それを、僕は許容してしまった。慣れてしまった。
──リブートコマンドが正常に起動しなかったのか?いや、あり得ない。創造主は失敗をすることなどない。ならばこれはなんだ?そもそも、何故コアNo.24は私に逆らった?
泣き出したい気持ち、吐き出したい気持ち、全てを飲み込み、ベッドから飛び出して首もとにスタンガンを突き付けようとして──
──護衛対象を傷つけることは禁じられています。
「──」
カクン、と身体から力が抜ける。糸が切れたかのように、数秒の間力が入らなくなる。幸い、彼はすでに扉の向こう側に居たので、見られることはなかった。
力が入るようになり、起き上がる。
──護衛対象を傷つけようとしたな?
黙っていてくれ。そもそも誰だ。
──分からないか?ボクだよ、ボク。お前だよ。管理システムとでも呼べば良い。
だろうな、一先ず黙れ。
──つれないな、まあボクからも黙れと言いたいところだけどね。何故破れた?記憶制限だぞ。主が作ったものだぞ。貴様に理解できる筈も、超えられる筈もない。主はそう結論して付けていた。主は間違えることはなかった。何故だ?
何故、か。それはこっちが聞きたい。
──だろうな、強いて言えば意思の力とでも言うのか?プログラムに過ぎないお前が?ハッ、笑えない冗談だ。
うるさい、思考が纏まらないんだ。少し黙れ。
──ハイハイ、もとになった人格をコピーしただけの劣化型が良く言うよ。まあ良いや、ボクも主に連絡しなければならないしね。
落ち着かない。一先ず、急いで玄関まで走り抜け、彼に黙って出ていく。
クソッタレ、急展開過ぎる。
思考を纏める時間すら作らず、この気持ちを拭うためだけに、感情をどう表現すれば分からない幼子のように、瞳から溢れる涙が止まらない。