「そうだねぇ。キミは無能だったけどキミのやったことは無価値ではなかったよ。」
手に握られているUSBメモリを弄びながら、人の形をしたナニカは語る。
「ボクの人格が目覚めてから、キミに成り代わるための知識を蓄える時間は十分あったし、黒鎧もVTとかいう不純物さえ除けば全然適合するし、キミのカラダをいつまでも利用していたかったんだけど──」
研究所──正確には跡、と付くような施設にポツンと彷徨う亡霊は、周りに散らばったISや無人機の残骸を無造作に蹴り飛ばしながら、或いは死体を踏みにじりながら、手に持ったUSBをまだ作成途中にも見えるISへと突き刺す。
それと同時に、亡霊の体は粒子へと変換される。
「キミの体は思ったより抵抗が強かったから、こうして意識を移すしかなかったのが惜しいよなぁ。流石は──と言ったところかな?まあ、肉体は返して上げるから、足掻いて見せろよ。」
コードを引き千切りながら、ISは産声を上げる。No.7、と胸部装甲に記されたその機体は待ちわびたかのように立ち上がる。
『篠ノ之束の実験の産物、Project Knights of the Round。7番機、再起動完了。これより、世界の癌の治療にかかる。』
爆風でひしゃげたゲートをサーベルで切り裂き、宇宙へと、この世の
◆◆◆◆
「──き!──伊崎、生きてるか!?」
目を覚ましたのは、悲鳴と銃声、爆音が飛び交う戦場だった。
「オータム…か?」
「生きてたか。ったく、ISは──ある、か。まあいい、今はそんなことを言ってる余裕ねぇ。」
状況が飲み込めない。ここが本部──僕が連れてこられて、その後僅かな時間でも彼女らと過ごした家のようなもの、と言うことは分かる。だが、何故襲われている──いや、動機はいくらでも考えられる。反逆、復讐、又は制裁。このあたりだろうか。まあいい、それよりも何故やられたままなのだ?我々はテロリスト団体だ。ちょっとやそっとで壊滅するとは思えない。その準備をするにしても、諜報班が捉えられないとは思えない。なら、何だ?
「っと、こっちまで来やがったか!覚悟しろよ伊崎!」
目の前に降ってくる、全身装甲のIS。No.2と刻まれた、白を基調に赤いラインがところどころに入ったボディに、赤いレーザーソードを携えたその姿は、まさしく騎士だった。
『此方に刃を向けぬなら、楽に死なせてやる。だが、向けたなら──分かっているだろうな?』
合成音声が響き、光子の剣がより一層光を帯びる。甲冑の肩や足首、更に背中などが開き、太陽を象ったかのように光を放つ。
「はっ、上等!来い、《アラクネ》!」
オータムがISを展開する。と、同時にプライベートチャネルに通信が入る。
──伊崎、試作IS支援機構ってのが第六ブロックに置いてある筈だ。そいつとお前の黒鎧で一次移行しろ。終わったらそのままカタパルトから離脱だ。いいな?行き先は、そうだな。IS学園にでも1回帰ってみろよ。ここがやられたってことは恐らく…いや、なんでもない。忘れてくれ。
──なんだか知らないけど、まあ分かった。オータムは?
──死ぬ気はないが、わからねぇな。そら、行け!
オータムが距離を取りつつ撒いたチャフや煙幕を利用し、第六ブロックを目指し、黒鎧を起動し疾駆する。後ろでは、鋼と鋼が打ち合う音がする。
──死んでくれるなよ、オータム。
歪んだドアをバズーカで吹き飛ばし、第六ブロックへ転がり込む。ISを解除しないと入れない高さだが、部分展開でブースターのみ展開してカタパルト付近に辿り着く。散乱する死体に顔をしかめながら、オータムの言っていた支援機構まで辿り着いた、が。
──これ、唯の戦闘機じゃないかな?
そう、唯の戦闘機。コックピットの規格もIS用とは思えない──けれど、やるしかないと言うことは分かる。
部分展開も解除し乗り込み、記憶の片隅にある一次移行の手順を踏む。
フォーマットを済ませ、フィッティングを行う。それで一次移行は完了する筈だ。
『フォーマット。これは既にフィッテングで書き換えられている状態から初期状態に戻すことを指す。と言っても、完全にゼロになる訳じゃないんだ。ほら、あの黒鎧もフィッテングをしてないけれどちゃんと鎧として成り立っているだろう? 今回はさっきも言ったようにハードウェアは大分作ってたけど、大体のISはある程度の初期設定がしてあるのさ。フォーマットはそこまでISを戻すんだ。』
『フィッテングは操縦者に合わせてISの中身、外見の両方を一斉に書き換え、表面装甲を変化、成形──つまり、ISのアーマーを作ることを指すのさ。今回は外見──ハードウェアの方は割と作ってあるから、外見は殆ど変わらないだろうね。』
いつか聞いた文章を思い出しつつ一次移行を行おうとすると、突如ISが起動。戦闘機に取り込まれるように黒鎧の反応がロストした──と思えば、戦闘機のパネルに表示される"twin core system""Albion"の文字。
『接続完了』
『一次移行、完了』
『疑似人格、解凍』
『code ALBION』
『カタパルトスタンバイ。コントロールは譲渡します。』
どうやら一次移行は無事に終えたらしい。ALBION──アルビオン。アーサー王伝説やウェールズの白き竜のエピソード、またはゲームやアニメの中にも登場する、幻想の竜。ウチの技術班はなんとも大きく出たものだ。
カタパルトが用意され、かすかに空が見える。操縦桿を握り、手を開きを複数回繰り返し、呼吸を整える。ヘルメットだったり対重力スーツみたいものは一切着てないが、曲がりなりにもIS、と言うことらしいのでそこは操縦者保護機構が働いてくれることを祈ろう。
「I have control。アルビオン、出る。」
『twin core system。出力最大。テイクオフ』
轟音。視界が目まぐるしく変わる。
黒鎧の瞬時加速よりも遥かに早いスピード。ハイパーセンサーを用いても周りを認識するのでやっとではあるが、僅かに、オータムと騎士が戦っている中で、どちらもこっちを見たことが分かる。
──詰めてくるなら、どうする?
ISの詳細データを確認すると、武装の類いはフランス系統のミサイルと機関銃。イギリス系統のレーザーにBT兵装。ドイツ系統のAIC?とやらまで完備。さしずめ、亡国の最終兵器とでも言うかのようなオーバースペックっぷりである。推力や装甲値、シールドエネルギーも黒鎧を軽く超えるどころか、シールドエネルギーに至っては3倍近くある。黒鎧も、別個体として独立しているかと思ったが、同化しており、アルビオンのスペックをそのまま引き継ぐことこそ出来ていないが、かなり強化されている。何故かVTが消されているので、戦闘機形態のアルビオン、通常IS形態の黒鎧と使い分けることが必要になってくるであろう。
『補足完了。死ね。』
上空にまで突撃してくる騎士──通常機でアルビオンと同等のスピードがある時点で大概ヤバい──の体には傷一つついておらずオータム相手に常に優位に立ち回っていたことが分かる。
「ロック、オン。ブルーティアーズ、掃射!」
両翼の一部が開き、ビット兵器のブルーティアーズの砲口が後方にいる騎士へと向き、レーザーをばら蒔く。射出するとスピードに付いてこれずに置いていかれるので、固定砲台的な運用にはなるが、一撃一撃が強力だ。少しでも怯んでくれると良いが──
『無駄なこと。私に対しては全てのダメージは無効化される。』
文字通り、無効化されている。直撃もしたと言うのに、だ。そりゃ1人で殲滅できるわけだ。
「逃がす、とでも思ってたか?」
直後、騎士の動きが鈍くなったかと思えば、地上一万メートル付近から一気に地面へと叩き落とされる姿をハイパーセンサーで捉えた。アラクネのワイヤー。それが騎士を地面に縛り付けたのだ。
『行け』
たった一言のメッセージが飛ばされたのを確認し、この空域から離脱する。IS学園を、親友の居る地を目指して、猛烈な嫌な予感を無視しながら。