たとえ、この命に代えても   作:刹那木ヤクモ

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思い描いていた、ちっぽけな理想

目が覚める。ギシギシと軋むソファーから起き上がり、電気をつける。学園の独房の中に叩き込まれているためろくな設備はないが、眠れるだけでもありがたい。システムからの小言がここ最近ないことも安心感に拍車を掛けている。

 

僕は、千冬さんに叩き落とされ、彼と漸く再会した。けれども、正面から彼と話す勇気はないし、する資格もない。僕は手を染めた。戻るべきではないと叫ぶけれど、心の奥底では、また彼と他愛ないことを話して笑いたい。

 

そんな穢れきった理想は頭の中で完結させる。

僕が今やるべきはあの番号持ちの無人機──千冬さん曰く、仮称をナンバーズとするらしい──への対策を行うことだ。正直、奴を相手するには僕のアルビオンではギリギリだった。技量が足りていないのだろう。もう少し亡国もとい、スコール、オータムの立ち回りを学習できていれば、そんな後悔もあるが所詮利用し利用される関係であっただけだ。思い返せば、壊滅していたのも前線基地のみ、暫く介入は出来ないだろうがそれでもしぶとく生き延びるだろう。

 

しばし介入は無いものとして話を進める。今やるべきはナンバーズへの対応である。表向きには僕はまだ失踪中のため僕の所在を知っているのは一夏、鈴、千冬さん、その他教職員複数のみである。よって、僕の扱いについては今のところ保留、となっている。勿論尋問は受けるが、それはそれ。

 

まあ、多分僕はまた彼を裏切るのだろう。その時はまあ、その時だ──

 

◆◆◆◆

 

「ISコア、接続完了。アルビオン、起動します。」

 

深夜、皆が寝静まった頃。そう呟き僕はアルビオンを起動させる。アルビオンはもともと亡国が所有していた決戦ユニットであることが判明している。オータムが何故僕が持って出るように指示したのか分からないが、一先ずは有り難く使わせて貰うことにしよう。

 

接続されているユニット、決戦用支援ISと言う枠組みにあるらしいアルビオン。黒鎧と接続した際には黒鎧特有の手数ではなく大火力による制圧がメインとなる。が、それでも手数は多い。変形時はミサイルと機関銃、レーザー兵器にBT兵装が主な武装。通常時は手甲から生えているような大型の爪とその奥に格納されているビームサーベル。背部から展開するような形となるレールガン、初期の黒鎧によく似たサブアーム。バイザーから放たれるレーザー。大盾とマシンガンに、変形時と共有の一部武装、そして黒鎧に搭載されている多種多様な近接武装とコンテンダー、といったような武装構成だ。

 

「……来たか」

 

「……来ましたよ」

 

千冬さんと軽く言葉を紡ぐ。千冬さんもIS──打鉄に乗っており、今から何が起こるのか、容易に想像できる。

 

「お前の現状は、生徒たちには施設での労働に従事していると言う方便で誤魔化されていた。しかし、裏では輸送中に襲撃を受けて、死亡した、と伝えられていた。だから、一夏がお前に会ったと言った時には、耳を疑ったのだがな……まさか、生きていたとは」

 

「……少なくない程度には、外道に堕ちましたけどね」

 

「知っている。亡国とはそう言う組織だ。お前も生き残るためだったのだろう? 」

 

「……そうですね」

 

そうやって誤魔化してしまう自分が嫌いだ。伊崎 鎮。お前はいつもそうだ。本当は取引として親友の安全と引き換えに、自ら望んでのような形で行った事であったろうに。

 

「さて、そろそろいいか? 」

 

「ええ、始めましょうか」

 

『試合開始5秒前』

 

さて、どうしたものか。

 

『4』

 

千冬さんとの一対一。性能試験と言えば良いのだろうか。スローモーションにすら感じるこの時間で、少し思考を回す。

 

『3』

 

アルビオンと言う強大な力をポンと手に入れた僕だが、それを本当に制御しきれるのか、と言う疑問の解消のための試験だ。

 

『2』

 

勝ち負けは関係ない。重要なのは、僕の能力だ。アルビオンの力を引き出し続ければ、千冬さんに勝つことも不可能ではない。

 

『1』

 

まあ、アルビオンは今後学園が管理することになり、僕が常に乗るようにはならないのだが──っと、そろそろ始まるかな。

 

『試合開始』

 

「──行くぞ!! 」

 

試合開始直後、僕も千冬さんも同時に瞬時加速。だが、推力の差で僕の方が圧倒的に速い。右手でビームサーベルを抜刀。AIのサポートの元、BT兵器も展開。僕の技量では縦横無尽に動き回る、と言うことは出来ず、完全な固定砲台としての運用だが、火線が増えるだけでもやりようはある。

 

「ハアッ!! 」

 

千冬さんは刀でビームサーベルと鍔迫り合いをする──訳もなく、個別連続瞬時加速で歪な線を描くようにブースターを吹かし、死角から一撃を繰り出す。

 

それに対し、ビームサーベルを格納しながら瞬時加速で急上昇し変形することで回避する。そのまま急旋回、ミサイルとレーザーを射ち、再び変形。爪を振り下ろし、BT兵器、そして今射った射撃と同時攻撃を仕掛ける。

 

──手数はこちらの方が上。ならそれで圧倒するに限る──

 

「──甘いな」

 

千冬さんはミサイルとレーザーをただの刀で打ち払い、瞬時加速でBT兵器を避けながら返す刀で爪を弾き、そのまま一太刀、胴体を切り裂いてくるものの、頑強な装甲に阻まれ致命的なダメージを負うことはない。

 

「甘いのは、どっちでしょうね! 」

 

刀を左手で掴み、右手の爪で装甲のない部分を切り裂こうと振り下ろす──が、肩の装甲を動かし防御される。しかし、少なくないダメージは入った筈だ。

マシンのパワーを全開にし、刀を振り飛ばしながらビームサーベルを再度抜刀。今度こそ装甲のない部分を切り裂く。

 

「チィ──! 」

 

「ここで──!! 」

 

レールガンを展開。AICを起動し千冬さんの右手を捕らえると同時に発射。ガキィン、と装甲を打つ音が鳴り、右手を中心に回転する──いや、受け流したのか──? そのまま左手にアサルトライフルを展開し、射撃を繰り出してくる。

 

おそらく、円状制御飛翔(サークル・ロンド)と呼ばれる訓練の応用だろう。円形に飛翔しながら射撃をするその様は、まるで踊っているようだ。

 

しかし、アサルトライフルも装甲に阻まれ届かない。右手は固定されたまま。これが性能差だ。抜刀状態にあるビームサーベルを掲げ、一刀両断。

 

《打鉄のシールドエネルギー全損を確認 試合終了》

 

「……それが、お前の得た力か。すべてを焼き尽くすような暴力で、お前は何を為す? 」

 

「それでも僕は、これであいつを──一夏を守りたい」

 

「⋯⋯そうか」

 

千冬さんは溜め息を一つつくと、シールドエネルギーがゼロになった打鉄の展開を終了し、歩き出す。

 

「なら、お前の信じるものが善であることを祈っているさ」

 

去っていく千冬さんの背中を見ながら、展開を終える。アルビオンを切り離して地下に格納、そしてまた僕はロザリオに目を向ける。

 

「⋯⋯親友」

 

濁った祈り。届かぬ願い。剣はまだ彼の手に──

 

「君を、守ろう」

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