目が、覚めた。
ベッドに倒れ込んだ後、すぐ寝ることは出来たのだが、現在の時刻は午前2時。早朝である。
もう一度寝たいところだが寝れそうにはない。何故か意識がはっきりとしているせいだ。
しょうがなく、重い体を起こしてシャワーを浴びに行こうとする。変な夢でも見ていたのか、寝汗で身体中がベトベトしているのだ。また、変な予知夢のようなものでも見ていたのだろうか?
あれ以降、予知夢(暫定)は見ていない。見たくて見れるものではないし、もう十分視た。
あれが変えられない未来だとしたら今僕のやっていることは滑稽で無意味だろう。だけれど、僕が視てしまった以上何とかしようとしなければならない──いっそ、彼の姉さんが視てくれれば良かったのに──
まだ、スタート地点にも立ててない。取り敢えず、成せることを成すだけだ──
◆◆◆◆
「お疲れさま!ほんっとうに頑張ったわね。」
一週間の座学期間を経て、更識さん作の簡易テストで82点をとれる程の知識は得ることが出来た。
「本当に、ありがとうございました。」
「いいのよ、私の仕事なんだし。それよりもこの後は休むの?まだ時間はあるし、
「僕の、IS?…まさかとは思いますが、僕に専用機が?」
「そのまさかよ。私も驚いたんだけどね。」
専用機。
それは数の限られているISを個人用に完全にカスタムした機体。
支給されるのは代表生や代表候補の中の一握り、もしくはIS製作企業などのテストパイロットが当てはまる。
そんな専用機をこんな新米という言葉すら生温い初心者に渡していいのか?という意味で問い掛けたのだが、更識さんも意外だったようだ。
何故だろうか?と考えたとき、最初に思い至ったのは僕のデータ採りだろう。超希少な男性操縦者のデータはいくら有っても足りないだろうから、その点専用機があればいつでもデータ採りができる。
第二の理由としては、彼と違い後ろだてが一切無く、男性操縦者という称号をもつ人物とラインを繋ぎたいから、だろうか。
企業にとって、広告塔というのは大切だ。
それと同時に、例え小さいものでも企業という後ろだてを得られるというメリットが僕にもある。
「…成る程。何となく分かりました。」
「理解が早くて助かるわ。…はぁ、なーんで私たちに回してくる仕事は早さも情報の精度もガバガバなのにこう言うところだけ迅速なのかしら…」
ため息をつく更識さん。回してくる仕事、と言うことは彼女は政府直属の何かだったりするのだろうか?
国家代表だとも言っていたし、政府とのラインは分厚いのだろう。
「まあいいわ。貴方に愚痴を言っても仕方がないものね。それでどうするの?今行くなら私もついていくけど。」
「着いてきて貰えるのであれば来てほしいですね…僕一人だと、どうしてと色々不安なところがあるので。」
元より何も出来ない部屋なので、久々に外に出れるとなれば喜んでISでも何でも見に行く。それほどアウトドア派ではないが、人間である以上日光を浴びたいのだ。
「そうと決まれば早速行くわよ。大丈夫、車の手配はしてあるわ」
◆◆◆◆
「やっと着いたわね…長かったぁ。さて、ここが日本最大のIS制作企業──倉持技研」
目の前にあるザ・研究所といった風貌の建築物、それが僕のISを製作した企業、倉持技研の本社らしい。
「えーと、君のISは…総合開発室だって。さ、行きましょ!」
更識さんにエスコートして貰いながら自動ドアを通り、よく整備されている白い廊下を歩く。
更識さんは何回かここに来たことがあるのか、社員さんたちに挨拶されながら歩いていく。歩いていく途中、チラッと『プログラム構築』と札の掛かった部屋をみていたが、何かあったのだろうか?
歩くこと5分ほど。ようやく僕のISが置いてある場所に辿り着いた。ここ最近全く運動をしていなかったので少し喘ぎながらだが、不格好ではなかろうか。
「更識楯無です。あの子を連れてきましたー。」
ドアの前でそう更識さんが言うと、少し遅れて「入りなー」と、ドアの向こう側から声がした。
「失礼しまーす!お久しぶりですね、先生!」
更識さんが満面の笑みで部屋に入っていった。ちょっと引く位のテンションだったがそこには触れないほうがいいのだろう。
それよりも気になったのが《先生》という単語だ。更識さんは今現在も学生の筈。まさかIS学園に勤務している方なのだろうか。
と、考えていてドアの前から一歩も動いていなかったことに気づいた。慌てて駆け足で更識さんを追いかける。
「君が例の?…成る程、面白そうだね。おっと、自己紹介をしてなかったかな。私の名前は亀田優真。よろしく。」
そう自己紹介をした白衣の男性、亀田さんは手を差し出してきた。僕も右手を出してその手を握る。彼が自己紹介をしたのだから僕もするのが道理だ、と思い口を開こうとする。が、それより先に
「さあ、早速で悪いけど君のISを見に行こう。私たちも最近忙しくてね。代表候補のIS製作に男性操縦者二人分も追加と来た。全く、私たち以外にも優秀なところはあるだろうに。」
そんな話をしながら、色々な機材が置かれている部屋を進む。ドアも大きかったが、部屋もかなり広い。僕が軟禁されていたホテルの一室ぐらいはありそうだ。
そんなこんなで少し歩いた先に、甲冑のような物が置いてあることに気づいた。
「お、気づいたのかい?そう、あれが君の専用機。
無骨な黒塗りの機体、正直言って僕の好みにドストライクだった。ロボットアニメでは量産機が好きなタイプ、と言えば分かりやすいだろうか。──これから命を預けるのだから好みだのなんだの言っていてはならないのだが──自分でも興奮しているのが分かった。
「ふふ、そうなるのも仕方ないわよね。私も受け取るときはそうだったもの。」
「気に入って貰えたのなら何よりさ。そんなに喜んで貰えるのなら、こっちも苦労したかいがあったってもんだ。」
そう二人に言われる程には露骨に出ていたらしい。今すぐ触れたい、という衝動を抑え込みまずはじっくりと観察する──が、新米の僕には何も分からず項垂れる。
「んー、乗ってみるかい?私たちにとっても
何やら早口で言われて理解が追い付いていない僕のことを見て、亀田さんは虚空からホワイトボードを取り出した…いや、どこから取り出したの?
そんな事を気にしないようにホワイトボードに文字を書いていく亀田さん。そして、ホワイトボード一面が埋まるほどの文字を書いた後、こちらを振り返った。
「まずはフィッティングから説明しようか。
フィッテングは操縦者に合わせてISの中身、外見の両方を一斉に書き換え、表面装甲を変化、成形──つまり、ISのアーマーを作ることを指すのさ。今回は外見──ハードウェアの方は割と作ってあるから、外見は殆ど変わらないだろうね。
次にフォーマット。これは既にフィッテングで書き換えられている状態から初期状態に戻すことを指す。と言っても、完全にゼロになる訳じゃないんだ。ほら、あの黒鎧もフィッテングをしてないけれどちゃんと鎧として成り立っているだろう?今回はさっきも言ったようにハードウェアは大分作ってたけど、大体のISはある程度の初期設定がしてあるのさ。フォーマットはそこまでISを戻すんだ。
あ、後
っと、こんな感じかな。分からないところがあったらまた聞くといい。」
長文の筈なのにストンと頭の中に入ってきた。何故かはすぐ分かった。彼の教え方が上手いのだ。概要のみを教えるのではなく、こちらが何故だろう?と思うようなポイントの補足も欠かさない。これは、更識さんの教え方にも当てはまったことだった。以上のことから、亀田さんは更識さんに何らかのことを教えていた可能性がある、と考えられる。まあ、本人も先生、と呼んでいたし、これで確定ということでOKだろう。
「ほい、それじゃあ触ってみて。大丈夫、何かあったら直ぐに停止させるさ。」
そう言われ鎧に恐る恐る触れようとする──が、持ち前の臆病な性格をフルで発揮し数センチ前で指が止まる。
一度深呼吸、その直後、思いきって手を伸ばす。
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「──────────ッッ!?」
思わず膝をついてしまう。頭の中に流れてくる情報。これは適性検査の時も何となく感じたものだった。だが、今のは明らかに違う。情報のナカに、断片的だが何か異物が流れ込んでいる。
「IS停止!急いで!」
何らかの言葉が発せられていることは分かるが、それに割いているリソースはない。ただただ送り込まれている情報を認識し、保存するという行程だけで精一杯だ。
──しかし、こればかりはマズいかも──
そう考えたところで僕の意識はプツリと途切れた。
◆◆◆◆
「聞こえるか」
誰なんだ、貴方は
「うるさい、今は此方の質問にのみ答えろ…と、聞こえていないのか。」
「あー、あ、あ a あ、よし、届くようになったか。」
「手間取ってる余裕はない。手短に話そう。」
「僕は君だ。何となく分かってると思うが。」
「君がこいつを使えるのも、当然理由がある。織斑一夏みたいに奴は関連してないがな。」
「取り敢えず、待っていろ。必ず僕が何とかしてやるさ──君も、一夏も」
◆◆◆◆
目を開ける。最初に写り込んだのは、更識さんの顔。初めてあった時もこんな感じだったなと思いながら目を擦ろうとすると、自らの左手に十字のロザリオのようなものが握られていることに気がついた。
「大丈夫!?何か違和感はない?」
更識さんにそう心配されているが、特に異常はない。──何となく、記憶が飛んでいるが──それも仕方の無いことなのだろう。何しろ気絶していたようだから。
「一様、君が意識を失った後に何が起こったかだけ説明するよ。私たちが停止コマンドを送信したんだが、何故かISが停止コマンドを受け付けなかった。取り敢えず、強制解除も受け付けなかった以上、無理矢理にファーストシフトさせて解除しようとした。ファーストシフトを終わらせて、ISを待機形態に移行させたところで君が起きた、と言うわけだ。君が気絶していたのは5分弱といったところかな。」
どうやら、そこそこの間気を失っていたらしい。このロザリオになったISは、一応僕に適合してくれたようだ。
「今日は取り敢えず受け渡しのみになるけど、明日からはここの施設でトレーニングして貰うことになるんだよね?」
「そうですね。先生、施設をお借りします。」
「いいよ、こっちもデータ採りしたかったし。あ、そうだ、ここの寮貸そうか?国とはこっちでも話つけとくけど。」
と、亀田さんが提案してきた。ここに泊まれるということは、あの軟禁状態から脱することが出来る…と思う。ならば、乗らないてはない。パソコンとか貸して貰えるだろうか?
「僕的にはお願いしたいんですけど…更識さん、大丈夫なんですかね?」
「ん、OKよ。あらかじめ許可は取ってるわ。」
「なら、今日はもう休みな。空き部屋があるから、そこを貸すよ。着いてきて。」
亀田さんに着いていきながら、左手に握りしめたままのロザリオを見る。
やっと、スタート地点。この鎧が、僕を助けてくれることを願おう──
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