「私がバンドの助っ人?」
「そう、ことねちゃんがさ最高のライブにしたいって言ってて助っ人でいいから出れたりしないかな?」
つむぎはお昼休み、さやと屋上でお昼ご飯を食べながら話した。
ことねの出した条件。ギターと歌ができる即戦力になる人材。
それができるのはアンリアルドリーマーとしてオリジナル楽曲を出してる小太刀咲夜。つまりさやだけだった。
「ことねちゃんさ、一年の頃からバンドやりたいって自分で部を作ってメンバーを集めてたの。とっても音楽に対して真剣でわたしも部員募集手伝ったりしたんだ。だからさやちゃんがよかったら助っ人頼まれてくれないかな?」
ことねのバンドに対する想いはつむぎは一番知っていた。一年の時、友達になったばかりからことねとは一緒にいることが多くて彼女は自分の高校生活の目標を語っていた。
それはバンドを結成して青春を謳歌すること。そう熱く語っていた。彼女の熱い想いにつむぎは協力したいと思い部員募集のチラシやポスターを作るのを手伝ったりした。
その結果、未経験者ではあるが二人バンドをやってみたいという子が現れて今の軽音部が成り立っている。
だからこそさやのような人物は貴重だ。
けれど正直人見知りのさやがすんなり参加してくれるとは思えない。リアルでの人との関わりを嫌う彼女がそう簡単にOKを出してくれるのだろうか。
さやはお弁当をシートに置いたまましばらく悩んでいた。そうして少し経ち彼女は口を開く。
「……明日軽音部に行って考えて見る」
「そっか……やっぱりだめだよね……ってほんと!?」
つむぎは思わず目を見開いた。思ってたより前向きで驚いていた。
「私が肯定的だと不安?」
首を傾げジト目でみてくるさや。
「いやひなたちゃんとは距離をとってすんなりいかなかったし。他の人と関わるのは難しいかなと思って」
「あれはひなたがうざ……騒がしいから」
「それあまり意味変わってないよね……」
苦笑いをするつむぎ。たしかに元気なひなたにはさやとは相性が悪かったのかもしれない。
「でもさやちゃんが前向きに考えてくれてよかった! これでことねちゃんたちも喜ぶよ!」
ほんとうによかった。すんなりいかないと思ってたのでどうすればいいか迷っていた。
「まだ決定してないから……実際の曲を聴いて最終確認するってだけ。……でも」
ペットボトルのジュースを一口のみさやは言った。
「少しは成長したい……リアルも案外捨てたもんじゃないって思ったから……つむぎのおかげで。誰かが寄り添ってくれないとなにもできない自分を変えたい……」
「さやちゃん……!」
はじめて会話をした頃からは想像がつかないくらいさやの心は変わっていた。そんなさやを見てつむぎは嬉しく思う。
「でも軽音部に行くなら今日の放課後でもいいんじゃない? 今日も部活やるみたいだよ?」
つむぎは食べ終わった弁当をしまい言う。
軽音部は基本週三回以上部活動をしているらしいが文化祭が近い今は毎日のように練習をしている。
「それじゃダメ……こっちにも用意するものがある」
「用意するもの?」
一体なにを用意するのだろうか。
少し疑問に思いながらお昼休みが終了する鐘が鳴った。
◇
その翌日の放課後。つむぎとさやは軽音部が練習場所として使ってる教室へと向かっていた。
「用意するものってこれだったんだね。しかもUnreallyのと一緒なんだ」
つむぎはさやの手に持っているギターを見て言う。さやが昨日来れないと言ったのはギターを持ってくるためだったらしい。
そしてそのギターはUnreallyで咲夜が使ってるのとほぼ同一のデザインだった。
「デザインは自分でしたやつだから気に入ってる……」
通りで独特なデザインをしたギターだと思った。その白と黒でデザインされたギターはとてもおしゃれでかっこいい。
軽音部の教室の扉の前に来る。
もう先にことねたちはいるはずだ。
つむぎはお邪魔しまーすと扉を開けた。
中ではことねたちが楽器を持ちながら話し合っていた。
つむぎたちが入ってくるのを見るとことねが近寄ってくる。
「やぁ、つむから聞いてたけどさやさんがギターをやってたんだね。助っ人をしてくれるって聞いて嬉しいよ」
ことねは嬉しそうに優しい笑みを浮かべる。
「今日はどんなバンドだか見に来ただけ。まだやるとは言ってない……」
さやは目をそらし少しだけ冷たく、でも彼女らしい言い方で言う。
「なら聴いてよ今度やる文化祭で演奏する曲。ことたちのバンド、ブルーシルの曲を。二人ともいい?」
「はいよー」
「やる気バリ増しでいくわよ!」
ベースのかなではゆるい感じに、ドラムのひびきは元気に言った。
そして演奏する準備を三人はした。
そのあとひびきがドラムスティックで合図を取り演奏がはじまった。
演奏がはじまるとイントロのあとことねがボーカルとして歌を歌いはじめる。
つむぎもことねたちのバンド、ブルーシルのオリジナル曲を聞くのははじめてだった。
とてもエモい、感情を揺さぶるような音楽が演奏された。
「どうかな?」
演奏が終わりこちらを見つめてくることね。
「凄いよかったよ! エモくて青春!って感じの曲で!」
つむぎは大きな拍手をした。ブルーシルのオリジナル曲はとても素晴らしかった。前より格段に演奏の腕前が上がってるしことねの歌も良い。
それでいて彼女たちらしさがオリジナル曲でより強調されていた。
普通にこのままでも申し分ない出来だと思うが。
さやはというと顎に手を当て考え事をしていた。そしてしばらくして口を開く。
「曲は悪くない……でも確かにギター一本だと物足りない。私だったらサイドギターでこう入れる」
そう言ってさやは自分のギターを手に持ち演奏をしはじめる。
その演奏は一瞬で周りを圧巻させた。
さっきことねたちが演奏した曲をほぼ完全にコピーしたかのようにアレンジを加えてさやは演奏して見せたのだ。
一度聴いただけでここまでできるのはもはや才能以外のなにものでもない。
そうして演奏が終了する。
「すごい! 一回聴いただけでここまでできるとかすごすぎるし! 天才ギタリストキタコレ!」
かなではテンションが上がったようで目を輝かせて言った。
「これは思った以上の人材だよ……もし出来ることならずっとメンバーとしていてほしいくらいだ。それで、組んでくれるかな?」
ことねは言う。ことねは演奏を聞いててずっと口を開けたまま黙っていた。ある意味聞き惚れていたのかもしれない。
そしてさやは真剣な目付きでことねの方を向いた。
「今回だけ特別に……親友の頼みだから」
口元を少しだけさやは緩ませた。
「やったー、これでライブ大成功まちがいないし! わたしベース担当のかなで! さやっちよろしくねー」
かなではことねの隣に並びぐいぐいと来た。
「かなで少し落ち着きなさいな! 私はドラム担当のひびきよ。よろしくさや」
後ろからひびきが自己紹介をする。
「あらためてようこそブルーシルに。ことたちはさやを歓迎するよ」
ことねはさやに手を差し出す。
「まぁ、よろしく……」
さやはゆっくりとことねと握手をした。