転移した場所は駅らしきだった。
はじめての転移だったためつむぎは場所が変わったことに驚き、おっとっとと言いながらつまずきそうになる。
駅はさきほどまでの広場と違い人気がなく静かだった。
しかしわずかながら音が聞こえる。
ギターの音だ。その音の方を向く一人の少女がいる。
間違いない小太刀咲夜だ。
彼女は壁を背後にギターを弾きながら歌っていた。動画と同じ曲だ。
路上ライブだろうか。だが彼女のまわりには人はいない。
ただ一人たんたんと歌い演奏している。
その真剣な表情に引き込まれるようにつむぎは咲夜の目の前にいた。
彼女はつむぎに気付かない。それだけ真剣に歌い続けていた。
つむぎも彼女の曲の虜になっていてそんなことはどうでもよかった。
曲を演奏し終えるとつむぎはすぐさま拍手をする。そしてようやく咲夜もつむぎのことを気がつく。
「すごい!生でみれるなんて!」
「ど、どうも……聞いてくれてありがとう……」
目を輝かせていたつむぎ。咲夜は突然現れたつむぎに戸惑いを隠せず苦笑いをする。
「あっ……! えっとそのいきなりごめんなさい!」
それに気付き慌てて謝るつむぎ。
「わたし、つむぎ。咲夜ちゃんの動画を見て直接感想を伝えたかったんだ! とっても素敵な歌でかっこよくてわたしファンになっちゃった!」
「動画見てここまで来てくれたの……?」
「うん。わたしUnreallyはじめたばかりであの動画、とってもかっこよくて綺麗で……でもどこか寂しそうで応援したいって直接会ってこの気持ちを伝えたかったんだ」
「ふふ……おかしな子……」
ギターをしまい、熱意のこもったつむぎの言葉に思わずくすりと笑う咲夜。
「あぁ!?ご、ごめんね! わたしアンリアルドリーマーのことになるとつい一方的に話しちゃって……。でも今日直接アンリアルドリーマーにあえることができてとても胸がいっぱいになるほど嬉しいんだ」
「へぇ君は……UドリーマーになるためにUnreallyをはじめたの?」
「ま、まさか! わたしはただ新しい世界を見たくて新しい自分になりたくて、キラキラしたなにかになりたくてUnreallyをはじめたんだ」
つむぎは思いきり否定をする。アンリアルドリーマーになるなんて考えてもいなかった。
そりゃアンリアルドリーマーは好きだし、なってみたら楽しそうだなとは思うけれど。
咲夜は少し黙って横に数歩歩く。
「その理由なら尚更Uドリーマーになった方がいいと思うけど……」
「む、無理だよ……わたしにはなにもできない」
自信がなかった。キラキラしたものになりたい。けれど自分がアンリアルドリーマーになるなんて想像できない。
そんな自信のないつむぎの姿を見つめる咲夜。
「その姿は……?」
「この姿は自分で描いたの。Unreallyを買う数週間前からじっくり考えて、こんな風になれたらいいなって」
この姿は理想の姿だ。
実際にUnreallyに来て完成した姿は想像を越えていて自分でも魅力的に感じる。
「立派じゃないか。なりたいものがあるなんて……。Unreallyがなりたいものになれる所なら、Uドリーマーはなりたい自分を輝かせる場所だよ。なにをやるかはこれから決めていけばいい」
「そんなんで応援してくれる人がいるかな……?」
不安はもう一つあった。自分の独りよがりにならないか、それが不安だった。
「いるよ……ここに」
「え? どこに?」
あたりを見回すつむぎ。だがそこには咲夜とつむぎ以外誰もいない。
「私だよ。私が君の、つむぎの一番最初のファンになってあげる」
「どうして!? わたしなにもできないんだよ!?」
咲夜の発言に困惑するつむぎ。
彼女はつむぎのことをよく知らないはずだ。そんな彼女が自分のファンになってくれる理由がわからない。
「なにもできないなら今ここにこれてないよ……。私にとってもつむぎははじめてできたファンなんだ」
咲夜はメニューらしきものを開き空中で指を操作する。
するとピコンという音がつむぎの方からなり視界に人型のアイコンが現れる。
メニューを開くとフレンド申請が送られていた。相手は咲夜だ。
「だからさ、私とフレンドになって一緒にUドリーマーとしての道を歩んでくれない?」
咲夜は微笑みつむぎを見つめ手を差し伸べる。クールだけどその優しい表情はとても素敵だった。
つむぎは考える。つむぎが求めていたキラキラしていたもの。
Unreallyはキラキラしていてでも自分はどうなのか疑問に思っていた。
だけどアンリアルドリーマーになることが輝ける理由になるなら……。
夢で終わらせていたアンリアルドリーマーになれるとしたなら……。
つむぎは決心する。フレンド申請を許可し、つむぎは答える。
「はい! よろこんで!」
◇
スマホから一つの動画が再生される。
麗白つむぎ、アンリアルドリーマーはじめちゃいました! │麗白つむぎ
「はじめましてアンリアルドリーマーの麗白つむぎです」
アホ毛をくるんとさせ、クリーム色をした髪をなびかせて少女は言う。
「えっと趣味はお絵描きとアンリアルドリーマーを見ることが好きな16歳です! これからよろしくお願いします!」
お願いしますといいお辞儀をしたつむぎという少女は、そのままの態勢で数秒いつづける。
「って……さすがに自己紹介でこれだけは短いよね、えへへ」
彼女は顔をあげると笑いながら言う。
そして真剣な顔つきで目を輝かせながら喋りはじめる。
「わたし、新しく何かに挑戦してみたくてUnreallyをはじめたんだ。そしてそのままの勢いで、わたしも好きなアンリアルドリーマーさんみたいになりたいって思っちゃったんだ。
でもわたしまっしろで、まだなにも考えてなくて……他の人みたいに自分の色を持ってないんだ。
でもね。真っ白なわたしはこれから何色にでもなれる、そういう可能性を持っているって言われたの。
だからこれから自分の色を見つけていけたらいいなって思ってるんだ!
まだ真っ白なわたしだけどこれからよろしくね」
最後に笑顔を見せ動画は終了する。
「友達か……」
動画を見ていた一人の少女が動画を見終えると呟く。
「性に合わないことをしたな……」
スマホをスリープモードにしかばんに入れ、姫乃女学園の制服を着た少女はそう思った。