どんな世界にも不良っていう部類に属する人間はいて、
その人間たちは大抵が高校生で、
この「東鈴金高等学校」も不良だらけの学校で。
5月某日。
4月に入学した1年生たちは、一ヶ月足らずでいろんな意味で有名になり、
この学校はだんだん評判が落ちていき、
共学校のクセして全生徒を見渡しても女子はひとりとしていなかった。
東鈴金高等学校、1年A組。
教師のいない教室内はいつものようにざわめいていて、
机の上に乗って踊りだすヤツがいれば、
弁当に食いついているおでぶさんがいた。
そこへ飛び込んでくるのは、一人の情報通の男。
童顔+女顔の男「ブルー」。
真っ青な短髪を揺らして、慌てて扉を開けた。
「おい! おめぇら聞いたかよ!!」
その大声に流石の教室内もぴたりと静まり返った。
ざわめく他の教室の声が聞こえてくる。
ブルーって馬鹿じゃねぇ!? なんて声が聞こえてビビッたブルーは振り返るも、
一番奥の席の金髪の男が
「なんだよ」
と急かせば殴り込みをやめたみたいだ。
この金髪のひとつ結びの男の名は「リュウ」。
正面で気だるそうに座っている男とは大の親友。ふたりしてこの高校を1年にして牛耳っている。
「女だ! 女が来るぜ! 金髪の、長ェ髪のやつ!」
「…………は? 何お前、そんなに女に飢えてたの??」
ウソつくならもっとマシなウソつけやー、なんて、恒例のブーイングを受けながら、
ブルーは必死こいて説明する。
「いやいやいや、マジだって! 今先公と外歩いててさ、この学校の女子制服着てやがった! セーラー服だったぜ!」
「とうとう狂ったね、情報通のブル(ブルーの愛称)も。頭だいじょうぶかな」
「……ああ」
黙っていれば完全な女の、長い薄蒼の髪をした男「涼介」が言い放てば、
もしゃもしゃ(?)の茶色ワカメ頭の「ダイキ」が素っ気無く返した。
このクラス内でも一際毒舌の涼介の一撃により精神的なダメージを負いながらブルーは、
「ホントだってば! なあ、お前は信じるよなァ、ハヤト!!」
救いの手を求めた。相手は、銀髪の男「ハヤト」。
リュウと並んでこの学校を牛耳るコイツは、無口無表情の冷徹男とされているが、
その本性を知るのはこのクラスの者たちのみらしい。
本人はそれで構わないそうだが。
「……べつに。どーでもいい」
女に全く興味の無いこいつは頬杖をついたまま短く答えた。
ぇ゛ー、というブルーの抗議を聞きながらハヤトは、ゆっくりと開けられる扉を注視していた。
まだ誰も気づいていなかったようだが、リュウが気づいて其方を向き、「お?」と声を上げた。
再度教室内は静まり返り、皆の視線は教室の扉へと向けられた。
「わ……わわわっ」
なんとも情けない声と共に、
一身に男子生徒の視線を受けながら金髪の少女が入ってきた。
……蒼瞳。に、金髪。
でも、どーみてもその目つきやら態度やら先程の情けない小動物っぽい声やらとか総合してみると、
不良高校に似つかわしくない姿だった。
第一何よりかわいい。のが印象的。
人目を引く金髪青眼は生まれつきだろうか。
カラーコンタクトとか染めたとかではなさそうだ。
珍しい。外人?
「ほらほらほらー! オレってばウソついてねェじゃんよ!」
「えっ……えっ、え?」
途端、歓声。
まだ教室内に一歩くらいしか入ってないのに、
既に引き始めてる。
怖がりもするか、とハヤトは冷静な瞳で教室内を見回した。
金髪、白髪、赤髪、青髪、銀髪。どんな色でも揃えてます、な勢いだ。
カラーコンタクトをしてるヤツも少なくはない。
ハヤトもリュウも、その内の一人である。
「ほぉー? すっげ可愛いじゃん! もっと、そばかすだらけのきッたねェヤツだと思ってた!」
「な!? な!? リュウ好みだろ!? オレ天才!」
(……なんでお前が天才になんだよ……)
内心突っ込みしながらハヤトは、場内の盛り上がりに圧倒されて……は、いなかったかもしれない。
事あるごとにコレだ。
慣れた、というべきか。
……一ヶ月足らずで慣れるとは、なんという順応能力の高さだろうか。
「えっ……あのっ……えっと…… な、名前、リアって呼んでください」
ゆったりした歩みで教壇に上がり、リア、と名乗る少女は、
さながら天使のように微笑んだ。
完璧な美貌。屈託のない笑顔。
どっかのシンデレラ様じゃねえの、なんてリュウが呟いた。
と、ダイキがまじまじとハヤトの顔を見つめた。
涼介に至ってはリアとハヤトとを見比べている。
「……なんだよ」
ギリシャ彫刻のように容姿端麗。
背は高く、筋肉も(ほぼ毎日喧嘩している為か)そこそこについている。
まるで「お似合いだ」と言わんばかりの視線だ。
「っぁあー! ハヤト、お前まさかリアちゃんのことー? 好きンなっちゃったぁあ!? 一目惚れ!? ひゅーひゅーv」
「るせェぞリュウ、興味無ェっつってんだろ」
頬杖をついたまま怪訝そうな顔をするハヤトを見て、
リアは小首を傾げた。
「でもオレだって負けてねェべー?」
そういうリュウも、まあ顔は良い方、だろう。
筋肉質な体系で、引き締まった体が好きな女性にはお勧めの一品!
「リア、だっけ? そっちの方は危ない輩が多いよ。金銀の彼らのそばだったらまず安心」
「は? 何言ってやがる涼介、ふざけ」
「あ、ありがとうございます」
にこ。
微笑みながらこっちに歩いてくるそいつ見てると、
なんとなく、怒る気が削げた。
……なんだこいつ。
この集団の中に、平気でいやがんの。
不審がるハヤトに気づいてないのか、リアはリュウに小さく頭を下げていた。
「どっから来たンだよ、髪とか目とか、ソレ地の色だろ?」
「えと……はい。お母さんが、外国の人なんです。お母さんに似ちゃったみたいなので」
えへへ、なんて笑うそいつは、
なんかもう普通に馴染んでいた。
そいつが笑顔で不思議そうな顔をしながら(どんな顔だろう?)、
扉の方を振り返ったと同時その扉は勢いよく開いた。
「リュウ!! リュウはいるか!!」
殴り込まんばかりに飛び込んできたのは、
筋肉むきむきまっちょの大賀。
体育教師だ。
体臭が酷いのと力があるのとで、この学校の生徒を押さえつけられる唯一の人物だ。
「……あン? 何」
「お前……昨日、お年寄りを、殴ったんだそうだな?」
「……は」
とぼけるな、と大賀が一喝した。
叩かれる机の大きな音に、リアが目を閉じて身を震わせる。
流石にこういう場面には慣れていないのか。とハヤトはやはり冷静に観察していた。
「髪は後ろで一本結び、青眼の金髪。筋肉質な体系で身長は丁度お前くらい。
殴られた場所はこの付近、そして殴ったヤツはこの学校の制服と酷似しているものを着ていたそうだ」
言い逃れしようが無いだろう、とばかりに言葉を突きつけた。
リュウが言い返す隙も与えずに大賀はリュウの手を掴もうとした。
ハヤトは流石に立ち上がりそれを止めかけたが、
あろうことかその大賀の手を止めたのはリアだった。
「あのー……ちょっとだけ、割り込んでもいいですか」
「あ? ……新入生か」
YesともNoとも答えなかった大賀のその返答をYesと取ったのか、
リアはにっこりと笑ったままの表情を崩さなかった。
「染めた髪ならその日のうちに戻せますし、髪の長さは付け毛やカツラをかぶればいいと思うんです。
瞳の色はもちろんカラーコンタクトで……。この付近で殴られたのは偶然かもしれませんし、被害者がお年寄りだったのなら、制服の見間違いだってあるかもですよ」
「!」
力で止めるんじゃない。
しかも、リアは、考えて物を言ったんじゃない。
思ったことを、そのまんま、正直に言っただけ。
それなのに大賀に反論させる隙間は与えなかった。
(何モンだ……こいつ)
「……おい、リアちゃん?」
「数日、お待ち頂けませんか? 心当たりがあります」
「は? ……と言いますと?」
「数日で、私がその方を殴った犯人を探し出し、リュウさんの誤解を解きます」
リアは、天使のような微笑みを、大賀に向けた。
帰り道。
みんなにとっての「いつもの面子」に加わったのは長い金髪ウェーブの少女。
まるで天使のような顔をしながら、得体の知れないやつ。
それを敏感に感じ取っていたハヤト。
「お前。なんで助けたんだよ」
「……え?」
帰り道黙りこくる中唐突に言った言葉。
そりゃぁ、疑問文も返したくなるだろうが。
笑顔で疑問文を返すなんてされたら、ハヤトもちょっとくらいビクる。
……ちょっと不気味だぞ、リアよ。
「……貸し作ろうってんじゃねェだろうな。何が目的だよ」
「え、と…… 貸しとか、そんな大層なものじゃありません。
私が、リュウさんを庇いたかったんです」
「……リア。……ハヤト?」
ちゃん付けが面倒になったのか呼び捨てしながら、
リュウは二人より数歩前で立ち止まった。
リアとハヤトの後ろには、他三人。
「うぜェ……やつ。お人好しにも程があんだよ。 ……あんなハッタリかましやがって」
「えっ!? ウソ、あれハッタリ!?」
「……は。もしや気づいてなかったのブル。本気で頭だいじょぶ? 手術したほうがいいんじゃないの」
口元に手を持ってきて退くやつが役二名。単位は匹でも構わないが。
おまけとばかりにダイキにまで退かれてブルー数千のダメージ。本日第二弾。
「あ、はい、そうです。……えへへ、バレちゃってましたか」
「てめェみてーなのが天国見え始めてる年の人間殴るヤツに当てがあってたまるかっつの」
「ハヤト、おまえってあれだよね、なんか変」
「……あ゛?」
「しっつれーいしましたあっ♪ なんでもねえやっ」
この後はもう、冗談トークしながら6人で並んで帰ったとか。
ぼー……。っとしていた。
家へ帰ってから、リアはしばし呆けていた。
アテもないのに助けると言った。
でも正直なところ、犯人を捕まえる自信なんてない。
……どうしましょう?
答えを求める相手はない。
教えてくれる人もいない。
自分で蒔いた種。当たり前。自業自得。
「……ですよね、やっぱり……」
あはは。
乾いた笑み。
うん、やっぱり、自業自得。
制服から着替える気力もない。
から、そのまんまベットに寝転んだ。
ご飯、食べなきゃな。
でも今はちょっと動きたくないかも。
そうして考え事をしていて。
いつしかどんどん色んなことを後回しにしていて。
着替えも、ご飯も、シャワーも、ぜんぶ後回し。
起きてから、ぜんぶやろう。
そう思いながら、転校初日の疲労がどっと押し寄せてきた気がして、
目を伏せればすぐに闇が訪れた。