第1話 波乱の幕開け
──九校戦から2日が経った8月18日。
「今年は京都に行かない?」
「わっわたしも達也さんと京都に行きたいですけど……ダメですか?」
テレビ電話越しに、ほのかと雫が達也に訊ねてきた。
「いいですね。お兄様、是非!是非行きましょう!」
隣にいる深雪は満面の笑みを浮かべ、達也をじっと見つめた。達也はチラっと画面を見ると、ほのかも潤んだ瞳で自分を見ていたことに気付いた。
どうやらほのか、雫、深雪は達也を説得する為、事前に打ち合わせをしていたようだ──達也は3人の企みに気付いていたが、それを指摘したところで状況が変わるわけでもないので、渋々承諾することにした。
「解った。エリカ達には俺から連絡しておくよ」
「さすがお兄様、深雪はそう仰ってくれると信じておりました♪」
2日後──達也、深雪、ほのか、雫、エリカ、レオ、美月、幹比古の8人は3泊4日の京都旅行へと出発した。
尚、水波は四葉家から急な呼び出しがあった為、不参加となった。
「で……なんで京都なのよ」
特急リニアで移動中、窓際に座っていたエリカが深雪に問い掛けてきた。
「あら、エリカは聞いてないの? 雫の御父様が、九校戦で疲れただろうからと、京都旅行をプレゼントして下さったのよ」
目の前の席で隣に座る達也の腕にくっつく深雪にエリカはため息しか出なかった。
「はぁ、なるほどね……去年といい、雫のお父さんは娘に溺愛ってわけね」
エリカは冗談半分で言ったのだが、この場にいた一同は思わずそれに納得し、頷いた。雫だけは少し恥ずかしそうに俯せていたが。
──それから2時間が過ぎ、ようやく京都へと辿り着いた一同。
「そういえば達也、この時期の京都といえば毎年、七草家主催の親睦会があるんだよな?確か今日だったような……」
「あぁ、よく知ってるな。と言ってもそれに出るのは七草家と親しい関係にある十師族や魔法協会の関係者くらいだろうがな」
レオがそれを知っていたことに達也は少し驚いたが、表情を崩さず、淡々と答えた。
達也や深雪が四葉の一族であるのは極秘事項である為、この場にそれを知る者はもちろんいない。四葉と七草は同じ十師族である為、招待状は毎年来ているようだが、深雪の話では過去一度も出席したことがないらしい。
「それよりお兄様、せっかく京都に来たのですから御一緒に観光致しませんか?」
深雪はそう言い、達也の右腕にしがみついた。九校戦であまり構ってあげなかったせいか、いつもより過剰なスキンシップに達也は苦笑いを浮かべる。すると──達也は左腕にも柔らかい感触を感じた。
「わたしも……達也さんと一緒に行きたいです」
ほのかが深雪に負けじと腕を掴んできたのだ。顔を真っ赤にし、俯いている。果たして自分の胸が当たっていることにほのか自身気付いているのだろうか、と達也は思ったが口にはしなかった。
すると後ろから『ヒュー』と口笛がなった、振り向くと、雫がいつものポーカーフェイスながら『グッジョブ!』と言いたげに親指を立てていた。エリカとレオは呆れた表情を浮かべ、幹比古は乗り物酔いしたのか地面にぐったり座り込み、美月が心配そうに背中を擦っていた。
とりあえず具合の悪い幹比古を旅館に連れていき、美月は看病をするため残ると言うので達也、深雪、ほのか、雫、レオ、エリカの6人は京都旅行を満喫することにした。
「お兄様、この八ツ橋とてもおいしいですよ!」
「達也さん……こっちのお団子も食べてみてください」
いわゆる『あ~ん』というものだ。先程からこれで5回目。深雪とほのかの熱い?闘いにさすがの達也も限界を迎えようしていた。
他の3人に目を向けると苦笑しながら見て見ぬフリをしている。邪魔しようものなら深雪により凍結される恐れがあるのでどうしようもないのであった。
すると達也の視界に1人の女性が目に入った。向こうも達也に気付いたらしく歩み寄ってきた。
「久しぶりね達也くん。あなたも京都に来てたのね」
「はい、七草先輩もお元気そうでなによりです」
その女性は国立魔法大学付属第一高校の元生徒会長、現在は大学1年生にして七草家の長女でもある七草真由美だった。
「ふふ、達也くんは相変わらずね……深雪さんや皆さんもお久しぶり」
一礼する真由美に深雪達も慌てて頭を下げた。ほのかはバレンタインデーの件があり、思わぬライバルの登場に胸騒ぎを感じていた。
「先輩は今日、親睦会ですよね?」
「ええ、毎年憂鬱になっちゃうわ……いろんな縁談の話とか持ち掛けられて困るもの……それにしても達也くんも相変わらずモテモテね!」
余程ストレスが溜まっているのか、完全な八つ当たりであった。不敵な笑みを浮かべる真由美に、達也は小さくため息を吐いた。
「後半は納得致しかねますが……それだけ七草先輩がとても魅力的で、お美しいということですよ」
「……えっ?」
からかうつもりが達也の言葉で逆に辱しめられてしまった。顔が真っ赤になっているような気がして真由美は慌てて顔を背ける。
一方、達也は後ろから冷たい眼差しが自分に向けられているのを感じた。
「お兄様……」
「達也さん……」
深雪は持っていた八ツ橋が氷の塊に、ほのかはお団子を握り潰していた。
『まずいっ!』
達也はすかさず雫にアイコンタクトをし、理解した雫はほのかを落ち着かせ、達也は深雪に甘い言葉をかけ、その場はなんとか収まった。
「……それよりこんなところにいて宜しいんですか?」
「大丈夫よ、会場はこの近くだし、まだ時間もあるもの……あっそうだ!」
先程までの恥じらいから一転、何か思いついたのか手をポンっと叩き、達也と深雪を交互に見つめてきた。達也は『……イヤな予感がする』と内心思い、ふと横にいる深雪を見ると、同じ気持ちなのか顔が微妙にひきつっていた。
「良かったら親睦会に来ない?」
『やっぱりか……』
達也と深雪が同時にそう心の中で呟いた。何故自分達を連れていきたいのか理由は定かではなかったが、答えは決まっていた。
「あの先輩……七草家主催なのですから部外者を招くのはどうかと思います」
真由美の面目もあるので失礼のないよう丁重に断ろうとしたが当の本人はお構い無しだった。
「あなた達はわたしの大切な後輩よ!部外者だなんて誰にも言わせないわ!」
腰に手をあて胸を突きだし、ドヤ顔まで決めていた。どうあっても連れていきたいらしい。
「あっあの……わたしも行っていいですか?」
断る口実を考える達也を他所にほのかが話に割り込んできた。雫も表情を崩さず、ほのかが行くなら、と言わんばかりに手を小さく挙げていた。──無論、ほのかには理由があった。真由美を恋のライバルだと思い込んでいるほのかにとってここで遅れをとるわけにはいかなかったのだ。
「もちろんよ、みんな大歓迎♪」
意外な人物の加勢に真由美は嬉しそうにほのかの手を握り、上下に激しく揺らしていた。
『深雪……葉山さんに聞いてくるから少しこの場をもたせておいてくれ』
『はい、お兄様』
誰にも聞かれぬよう小声で深雪にこの場を任せ、達也はその場から少し離れ、すぐ四葉家の執事である葉山に電話をした。
「──というわけなんですが、どうしますか?」
「少々お待ち下さい。今奥様に確認致しますので」
幸いすぐに連絡がついたのに達也は安堵した。四葉家としては深雪を七草家に近付ける筈がないと思ったからだ。
だが、その期待はすぐに打ち砕かれた。
「奥様から許可が下りました。深雪様のこともあるので、こちらからすぐに使いの者を向かわせます」
あの四葉真夜が許可したということに達也は驚愕した。一体何を考えているのか想像がつかなかったが──真夜の決定は四葉家の決定である為逆らえず、最早成り行きに任せるしかないと半ば諦めた。
「……解りました。では」
電話を切り、深雪達の元に戻ると真由美が近寄ってきた。最終手段とばかりに下から達也を見上げ、豊かな胸を寄せ、もてる女子力をフルに使い、誘惑してきたのだ。 もちろん達也にその手は通じる筈もないが、そんなことをしなくても答えはすでに決まっていた。
「解りました。お言葉に甘え、参加させていただきます」
「さすが達也くんね!それじゃ皆さん行きましょう♪」
この時、達也達はこれから起こるであろう出来事を知るよしもなかった。
初めまして。この度魔法科高校の劣等生2次小説を始めました。
13巻からの続きの物語になるので読んでいない方は?となるかもしれませんがなるぺく解説を入れていきたいと思います。ご意見やご感想よろしくお願い致します。