ハイスクールin神殺し 竜王の逆鱗   作:ノムリ

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始めまして異世界

「なんでこうなるかな」

 地平線を見渡せるほどの上空からパラシュートなしのスカイダイビングを『竜王』の異名で呼ばれる神殺し大宮(おおみや)蒼燕(そうえん)は、同じカンピオーネのアイーシャ夫人による権能で生み出されて通路によって強制させられていた。

 

 肌を凄まじい速度で風が過ぎ去っていくのを感じながら、自身の権能。

 自身の異名『竜王』にもなったゾロアスター教の悪神アンリマユが生み出した三つの頭三つの口六つの目、あらゆる悪の根源を成すものと恐れられた有翼の龍蛇“アジ・ダカーハ”から簒奪した権能『終末の邪竜(カタストロフ・ドラゴン)』を発動させた。背中から蝙蝠の翼に似ながら鋭利な爪と鱗、皮膜のある黒い翼を出し羽ばたき空中で静止。

 視界に映る限りでは、街はなく下には山と森ばかり。

 

 こりゃー、人がいる場所で情報収集は難しいか。

 

 ゆっくり降下して地面に足をつける。

 必要であれば飛んで移動も可能だけど、人に見られると色々と誤魔化すのも面倒だ。

 ポケットに入っていたスマホを取り出し電源を入れる画面右端に映った文字は圏外の二文字。つまりスマホは役に立たず。

 ここはあれだ。カンピオーネの直感に任せて動こう。

 東西南北すら確認せず、歩くこと十五分ほど。

 静かな森の奥から聞こえてくる微かな声をカンピオーネの五感は拾い取った。

 

『急いで、白音!』

『分かってる、黒歌姉様!』

 

『逃がすな!逃がせば主に殺されるぞ!』

『分かっている、猫魈とはいえ足手まといの妹を連れて状態で逃げ切れるものか』

『いいから足を動かせ!魔力はなくても仙術は危険だ注意しろよ!』

 

 声からして二人が逃げ、それを三人の男が追っている。聞こえてきた方向からこっちに向かってきているようだけど、数少ない情報源。

 男たちは態度が悪そうだから、逃亡者二人を助けて恩返し代わりに聞き出すとしよう。

 

 木々の向こう側から逃亡者の姿が視界に入るなり心底、疑った。

 耳だ。

 それだ頭部に生えた三角形に似た形をした猫の耳に腰からはひょろりとした長い尻尾もある。

 

 これは、あれだ、俺は最近流行りの異世界転移をしたらしい。

 それか、先祖返りの二人という僅かな可能性もなくはないけど、異世界転移の方がまだ可能性があるか。

 なんだっていいや。助けた後に聞き出せばいいだけのことだ。

 

「人間!?こんな森の奥で!?と、兎に角お前も逃げるにゃ!あいつらは人間もお構いなしに殺すにゃ!」

 語尾がゲームキャラさながらの濃さだが、焦り具合からして人間()と出会ったのは想定外の事らしい。手を握っている後ろの白い方も、俺を見るなり驚いていた。

 そんなやり取りをしている間に二人を追っていた三人の男たちが追いついてしまった。

 

「追いついたぞ、黒歌め!」

「おい、人間がいるぞ、どうすんだ?」

「殺せばいいいだろ、目撃者がいちゃ困る」

 追いついてきた三人も三人で驚きの姿だ。

 背中から羽が生えている。それも俺が使ったドラゴンの翼よりは蝙蝠の羽が肉厚になったような羽が生えている。

 うん、異世界転移確定だわ。

 あんな人間いないもんな。

 

 とりあえず、バカにされているし攻撃しようとしてくるから潰すか。

 

 翼を出した時とは違う。

 本格的に権能を発動する為に聖句を口にする。

「我は悪の根源にして悪を成す者。世界の無限の闇へと沈めよ、善性を飲み込みすべてを悪へ誘うは我は邪竜なり」

 流れるように唱えられた聖句によって本来の力を発揮したアジ・ダカーハの権能『終末の邪竜(カタストロフ・ドラゴン)』。

 それは蒼燕の肉体をアジ・ダカーハの肉体へと変化させる権能だ。

 悪の根源たる邪竜の肉体。

 言葉にすれば簡単だが、その特大な肉体からなる膂力と質量、体の大きさ。アジ・ダカーハが有したいくつかの能力。すべてとはいかないし条件など存在するがその大半を行使できる、というのはそれだけで十分強い。

 

「まずは力試しに片腕からで…」

 体は無意識に戦うためのベストコンディションとなっていく。

 呼吸は整えられ、鼓動は遅すぎず、早すぎず。

 軽く拳を握った右手は指先から人の肉体から竜の肉体へと変化をした。

 爪は敵を切り裂く為に僅かな刃物のように形を変えて長さを増し、皮膚は指から手の甲、肘へ黒い鱗で覆われていく。鱗の下では筋肉が、本来ある巨体を支える為により高密度に筋肉繊維の一本一本が丈夫にそしてしなやかになっていく。

 

「先手必勝!」

 

 グシャ!

 一言で表現するなら殴った男の頭部が潰れたトマトのようになった。

 

「くそ!神器使いか!」

「近接系の神器だ!距離を取って戦え!」

 

 一人が殴り殺された事を見て、素早く距離を取り。手に平をこちらに向けるとそこにゲームに出てくる魔法陣が出現。球体状の魔力の弾が飛んでくるがそんなものでカンピオーネの肉体が傷つくわけもない。

 

 そもそも『終末の邪竜(カタストロフ・ドラゴン)』が発動している時点で、身体能力も耐久値も多少なりあがっている。右腕に至っては竜の腕そのものだ。人間の耐久値とは比べるまでもない。

 

「そんな弱さじゃ効かないね」

 飛んでくる魔法弾を防ぐ事もせず、残りの二人を殺す為に真っすぐに突っ込み。

 一人、二人と続けざまに先の男と同じように殴ると潰れたトマトというか、潰れたカエルのようになった。

 

「す、凄いにゃ…中級悪魔を一撃だにゃんて」

「…黒歌姉様…」

 

 敵が居なくなった事で戦うという行為の意味もなくなった。体から熱が引き、冷めていく。

 竜に変化していた腕も人の物へと元に戻った。

 

「さて、助けてやった代わりにいくつか聞きたいことがある!」

 

「な、なんにゃ…」

 黒髪に所々破れた和服の少女、黒歌は怯えながらもしっかりと返答を返す。

「んじゃ。まず最初に…此処ってどこ?」

 

「…へ?…」

 

 

 

 

 

 

 現在地が二人からしても不明、ということ。

 そのままいくつか質問を繰り返す。

 

 黒髪の方が黒歌。

 その隣でべったりくっついているのが、妹の白音。

 日本の妖怪の一種で猫又の上位種、猫魈という種族らしいが、今は転生悪魔になっているそうだ。

 種族なんて、そんな簡単に変わるものなのかと聞いてみると、悪魔たちはチェスの駒になぞらえて作られた『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』という上級悪魔のみが持つことを許される特別な道具を消費する事で魂を変質させて種族を変えるだけに留まらず、死体があれば死んで直ぐであっても蘇る、そうだ。

 ……この世界の悪魔はなかなか凄い事をやっている。

 種族を変えるというのは、まだ理解できる。死んだ存在を蘇らせて悪魔にするなんて自然の摂理に逆らうにもほどがあるだろ。

 まるでヴォバン侯爵の権能みたいだな。

 

 他にも二人から悪魔、天使、堕天使の三つの種族をまとめて聖書の三大勢力と呼ぶ。

 

 この三大勢力は過去に大きな戦争を行い、二天龍という強力な二匹の龍を倒す為に協力。

 そのまま戦争は停戦になったが、どの勢力も負った被害は甚大。

 どの陣営も現状の維持と回復で手一杯となり、小競り合いはあれど大きな戦いは長年行われたという話は聞かないそうだ。

 

「どうも俺の居た世界は『まつろわぬ神』がメインで厄介事だったけど、こっちはちっちゃい厄介事が転がってそうだ」

 

 帰る手段がないとは言わない。

 護堂やドニ、アレクが権能を使って自らの力で並行世界を飛び越えて移動する術次元間移動(プレーン・ウォーキング)を会得しているように、俺にも同じことができる。

 出来るが、すぐに出来るわけじゃない。並行世界と並行世界の間は大海原と表現してもいいほど広大だ。一度迷い込めば出られず、何処か別の世界に辿り着けるだけでも御の字だ。

 それを目的地に進むには、目的地の座標、距離、消費する呪力など多くの計算と準備をする。短い距離ならいいが、元の世界と俺がいるこの世界はどれだけ離れているのかも分かっていない現状で行えば本当に空間の狭間を漂うハメになる。

 

「二人はどうする?俺はとりあえず日本を目指そうと思うけど、案内人として同行してくると助かるけど…」

「日本…裏京都に逃げ込めればなんとかなるかもしれないにゃ」

「私も帰りたいです…」

 

 二人のこれからを聞くと一緒に日本に付いてきてくれるそうだ。

 人間としての常識は一緒でも裏の情報は疎い以上、多種なり知っている人物から離れるのは危険がある。

 権能は強く便利ではあるが、万能ではない。

 カンピオーネも強者であっても無敵でも不死でもない。

 

 どんな手を使っても生き残る。

 どんな手段を持って勝ち残る。

 カンピオーネは意地汚いからな。

 

 

 

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