前回までのあらすじ!白昼堂々公園にテント貼って警察に捕まった俺は、その後無事に解放されるも謎の奇病により意識を失ってしまう。そして再び目を覚ました時、そこはまるで別世界へと誘われていた……とか思ってた瞬間もあったわな。蓋を開ければ出て来たのはやれ悪魔の様な女どもだ。おまけに俺の人生の苦楽を共に過ごしてきたテンちゃん(愛用の折りたたみ式テント)まで人質にとりやがって……許すまじ!
「今回のミッションはあの悪魔どもの巣窟からテンちゃんを救出することか。1番の難所はテンちゃんが何処に捕まってるかが分からないってことくらいだな……昼間に忍び込めば心置きなく探せるだろ」
思い返すだけで身体に悪寒が走るのが分かる。だが大丈夫、俺は昨日の時点でちゃんと言い残していたからな。こんな場所二度と来るか〜!ってね、そりゃ普通は来ないと思うでしょ?人間の思い込みって怖いよね〜。それに話を聞いた限りじゃあの女どもは全員大学生の筈、なら少なくとも平日の昼間は誰も居ないだろうさ!ふっふっふ……我ながら策士だぜ、俺。
「……って、何でお前ら居るんだァアアアッ!!!縄解けコラァアアアアッ!!!」
なんてなことを思ってた時期もありました。くっそ、こいつらまともに大学通ってんじゃねぇのかよ!?何で揃いも揃って寮に屯してんだよ……学校はちゃんと毎日通わなきゃ駄目なんだぞ!ちゃんと通えるうちが華なのに…。
「みねるちゃんの言ったとおりだったわね〜。ホシは必ず現場に戻ってくるって」
「はぁ…まさか昨日の今日で蜻蛉返りするなんて。しかもご丁寧に真っ昼間から施錠してた正面玄関の鍵をピッキングでこじ開けるなんて……君ってば予想以上にクレイジーだねぇ♪」
「誰がクレイジーゴナクレイジーだ!!ってか、玄関入って一歩踏み入れたら捕縛トラップが発動して俺逆さまで宙吊りなんだが!?昨日こんなの無かったろうが!?」
「ふっふ〜ん♪負け犬の遠吠え……最高ォ♡」
あ、悪魔だ…!この女、悪魔だ…!それにさっきから俺の顔とか身体とかを指でなぞってるフレイとかいう女……それって何の意図があるの!?
「うふふ、みねるちゃんったらそんなに虐めちゃ可哀想だよ〜。ねぇ、君……やっぱり私専属のモデル、やってみない?改めて近くで見てみると、すっごく男らしい身体してるの分かるわぁ♪」
「おっ、本当かね?どれどれ……ほほぅ、これは中々……んっ、この背中の傷は?随分と深いようだけど…」
「…っ!?な、何でもない!何でもないぞ、それっ!!」
みねる達が俺の背中にある古傷に触れようとしたことに気づき、慌てて取り繕うように隠す。あ、危ねぇ……油断せずに行こうって決めたばっかじゃんか、俺!早速ボロを出してどうすんだ全く!
兎に角、この隙に話題を変えないといけねぇな。
「そ、そうだ!俺がこんなことしたのにはちゃんと理由があるんだ!昨日、ここにテント置き忘れただろ?それを返して欲しかっただけなんだよ。な、頼むよこの通りっ」
俺は精一杯の思いを込めて頭を下げる。あっ、俺宙吊りだから下げるっていうか上げるのほうが説明的には正しいのか?あっ、やべ……ずっと宙吊り状態で流石に頭に血ィ上ってきた……。
「ただいま〜……って、何この状況!?何で宙吊り!?」
「おっ、きりやちゃんお帰り〜。丁度いいや、きりやちゃんも尋問手伝ってよ」
「へっ?……いやいやいや、この人昨日の人でしょ!?何で今日も……って、もう既に行き着く所まで行っちゃってるような気がするんだけど!?白目むいて口から泡が…と、兎に角下ろしてあげないとっ。ボクは頭を持つから2人は足を持って」
うっ、うぐぅ………はっ!や、やべぇ…今完全に意識飛んでた。俺、どこまで話したっけ……そもそも俺、何しに来たんだっけ……あ、あれ?何か頭の辺りに柔らかい感触が……これは枕?いや違うな。それにいい匂いもする……んっ?
「君、大丈夫?多分ずっと宙吊りの状態で頭に血が上ったんだろうから、楽な体勢を維持するために少しの間“膝枕”をさせてもらうよ?ボクのじゃあまり気持ちの良いものじゃないかもしれないけど、血行が良くなるまで我慢できるよね?」
虚ろな意識の中、優しくそう語りかける声が聞こえてきた気がする。これは、この包まれる様な感覚……なんだかすごく心地が良い。それに……どこか懐かしい気がしてならない。その証拠に俺の心は今、こんなにも幸せな気持ちで溢れているんだから。
「あっ、ねぇ君!しっかりして……って何だ、眠ってしまっただけか。ふふっ、よく見たら可愛い寝顔じゃないか…♪」
「うふふっ、きりやちゃんってばお姉さんみたい〜♪お姉ちゃ〜ん♡」
「いや、どちらかと言えばお母さんって感じでしょ。ほれほれママ〜、ミルク〜♡」
「うわぁ!?ふ、2人とも押さないで……きゃっ!?あまり騒ぐとこの人起きちゃうからっ!?」
「本っ当〜にご迷惑をお掛けしました!!」
開口一番でそう口走ったのは俺だ。暫く“ぐーすやぴー”してしまったこともあり、だいぶ日が落ちてしまったようだ。あと、俺が意識を失っている間に、あの場に居なかった筈のきりや、せれね、あてな、あと噂の孝士くんが集結していた。まぁこの状況は完全に俺のアウェーなわけで、正直なところちゃんと話せる機会を設けることが出来て心底よかったと思ってる。この際、色々とはっきりさせておきたいことがあるようだし。
「むぅ……急に態度を軟化させるなんて、今度は何を企んでいるんですかっ」
あてなが否応無しに俺の言葉を全否定してくる……5mくらい先から。どうでもいいことだけど、そんなに離れられると普通に話しづらい。そんなことを考えていると、不意に近づいてきたみねるが俺にだけ聞こえるように耳打ちをしてきた。
「(あてなちゃん、極度の男嫌いだから触れるのはおろか視界に入れるのもやっとなの。だからそこは理解してあげて♪)」
そうだったのか……それはまた難儀な性格だこと。要するに近づかなきゃいいって話だな?だったら手っ取り早い、俺もそういう話をしようと思っていたところだ。
「別に何も企んでなんかないし、それに俺も同じことを言おうと思っていたところだ。確かに俺は昨日の一件で責められても文句は言えない立場であることは事実!だがこうも考えられないか?そもそも何故公園で倒れたはずの俺が目を覚ました時には既にここにいたのかと。君たちだって女子寮に男がいるのは不思議だったんじゃないか?」
俺の疑問提言にピクッと反応する一同。そうだ、考えてもみてくれ。意識を失っているはずの俺が一人でに勝手に動き回れる訳がない。だとすれば、俺を移動させた第三者……或いはその事実を知る者が必ずいるはずだ。特に俺の顔の横で妙な笑みを浮かべているこいつとかなぁ!!
「いだだだだだっ!?ぼ、暴力反対!暴力反対!?」
「おらっ、みねる。お前なんか知ってんだろ?この際こいつらにちゃんと洗いざらいゲロっちまえよ」
みねるの首根っこを掴み上げて糾弾の場に引き摺り出すことに成功する。どうやら唯一真相を知ってるのはこいつだけのようだぜぇ…。
「みねる先輩!どうなんですか?」
やけに圧が強いあてなに急かされて、もはや逃げ道を封じられたみねる。さぁ観念しやがれ。あと俺のテント返しやがれ。
そんな呪いの言葉を内心連ねていると、本当に観念したのかみねるが若干頰を染めながら答えを返した。
「だってぇ……実験用のモルモット、欲しかったんだもん〜♡」
このマッドサイエンティスト、漸く本性現しやがったな。どうだお前ら、これで誰が諸悪の根源かハッキリしただろうに。
「みねる先輩!?なんでそんな捨て犬拾ってきたみたいな軽いノリで誘拐してくるんですかぁ!!ま、まさか孝士くんで味を占めたんじゃ……だ、駄目ですよ!これ以上男の人が寮内に溢れるなんて…」
「そぉ?あてなちゃん以外は結構前向きみたいだけど?」
みねるの言葉を受けて残りのメンバーの方へバッと振り返るあてな。その反応は個人によってまちまちだったが、概ね同じような意見であった。
「私は別に構わないわぁ。ちょ〜っとだけ趣味のコスプレに付き合ってくれるなら♪」
「ボクも反対しないよ。初めは少し怖い人なのかなって思ったけど、今は全然感じてないし」
「……夜食と雑用、出来るなら誰でもいい」
「お、俺も全然オッケーっすよ!寧ろ男仲間が増えて心強いっす「ちっがーう!!」ひ、ひぃ!?」
あらら、折角孝士くん発言したのにあてなに封殺されちゃってら。可哀想可哀想なのだ。
「皆さん、忘れてませんか!?ここ女子寮なんですよ!孝士くんが寮母さんになるのもかなり無理矢理誤魔化したのに、この人なんてもっと置いておける理由無いじゃないですか!」
「…そうは言ってもねぇ、これってもう殆ど決定事項みたいなもんなんだよね〜」
「ど、どうしてですかっ!?この人にそこまでのことをしなきゃいけない理由なんか無いでしょう!?みねる先輩、もしかして何か弱みを握られているんじゃ…!」
あてなの飛躍した想像が雲行きを怪しくしていく。いや、俺だって早くテント返してくれれば速攻で退散するつもりだぞ?
「おい、みねる。あてなの言う通りだ……俺の都合だけで勝手に決めるのは良くない。それに男性嫌いなんて難儀な性格のあてなだけが被害受けるのは不公平じゃんか。俺はテントさえ返してもらえればすぐに消えてやるよ。あてなもそれで良いだろーっ?」
俺は5m先のあてなに向かって確認をとる。こう言うことは多数決で決めちゃ絶対に駄目だ。一人でも反対意見があるならその意見を優先するべきだ。特に目覚ましい答えは返ってこなかったが、心のうちは嫌でも理解させられる。さぁ、俺も旅立ちの時だ…。
「うしっ、じゃあこれで決まりだ。俺はここを出てくってことで……色々と世話になったな。短い間だったけど、久々に楽しかったぜ!」
俺はこの2日間で抱いた嘘偽りのない思いの丈をぶつける。これは本当なんだぜ?自分でも驚いてるけどな……なんかすっげ〜久しぶりに人の温かさって奴に触れた気がするぜ。でも、それも今日までの付き合いだ……明日からはまた1人、当てのない旅が始まるんだ!だからって全然心細くはないんだぜ?だって俺にはいつも苦楽を共にしてきた頼れる相棒がいるんだからな!
「…分かったよ、今回はあたしの負け。君のテントは玄関出てすぐの所に置いておいたから、持っていっていいよ……でも、もし気が変わったらいつでも戻ってきて良いからね♪」
みねるが柄にもなく口元を手で押さえながらそう口にする。ふっ…何だかんだ言っても、こいつも人の子じゃんか。いいや、俺は責めないぞ。最後の最後までカッコ良くキザに決めてやるんだ!
「…ふっ、そんな恥ずかしい真似出来るかよ。男に二言はねぇ……じゃあな」
ふっ、ふふふ……決まった。完全に今のはビシッと決まったな。おっと振り返ることなんかしねぇぞ?イカした男は後腐れなく去っていくのがヒップなんだぜ。
さぁ、役者は揃ったところで俺の新たな旅路へと急ごうじゃ…
「ぐぎゃぁああああああああっ!!!???お、俺のテンちゃんがァアアアアアっ!?」
俺は今自分の目に映っているものが信じられねぇ…!つい昨日まで俺を守り続けてくれたテンちゃんが今はもう骨組みだけの無残な姿に変貌を遂げてしまっていたのだから……だ、誰だ!?誰がこんな酷いことを…!?
俺の悲鳴を聞いてか、女神寮の連中がぞろぞろと外に出てきてテンちゃんの惨状を目の当たりにする。みんなテンちゃんの死を悼んでなのか特に言葉を発することもなく佇んでい……いや、約1名小刻みに震えてる奴がいた。そいつの名は…
「テメェの仕業かぁああああっ!!みねるのババァアアアアッ!!!」
「アッハッハハハッ!ごめんねぇ〜!実験してたら引火しちゃって、気づいた時にはもう灰の山だったよ!!」
俺の必死の剣幕にも怯むことなく、みねるは俺を嘲笑うような高笑いを続ける。やはりこの女とはソリが合わないようだぜぇ…!
「それで、これからどーすんのぉ?実質的に帰る家を失っちゃった訳だしぃ〜、当然泊まるところも決まってないよねー。あたし、見てみたいなぁ……成人男性の本気の土・下・座♡」
くっ、こいつ……最初からこうなることを予測してやがったな!?思い返せばさっき手で口元押さえてたのも必死に込み上げてくる笑いを堪えてたからじゃねぇかよ!!くっ、憎い……こいつの強かさを見抜けなかった自分が憎い!
「でもさぁ、男に二言はないって宣言しちゃったからさぁ〜。そんな中で地面に頭擦り付けて誠意を見せるのって、やっぱ恥よね〜?だからね、土下座なんてしなくて良いの。もう一言だけお願いしてくれれば良いのよ♡」
こ、こいつ……俺が土下座の1つも出来ないと踏んでやがるな?ふっ…だがそいつは見込み違いだぜ。俺は侍でも武士でもねぇ……現代に生きる住所不定無職20歳の成人男性だぜ?自分の言葉に重圧を感じることもなければ、責任を負う覚悟もねぇ!ただ1つ、譲れないものがあるとするならば……そいつはなぁ!!
「先程のみねる様の申し出、現時点でもまだ有効でしょうか!?しからばこの豚を貴方様の元で奴隷として扱って下さいましィ!!」
俺は地面に頭を打ち付け、額から血が出るほどに擦り合わせ地べたを這う。どうだ……これが本気の土下座である!言葉や見せかけの姿勢だけの薄っぺらい誠意とはわけが違う、自らの命を賭した一世一代の大博打……それが土下座だ!!土下座はなぁいわば切り札なんだよ。切ったら最後、通用しませんでしたじゃ話にならんのさ。だからこそ信憑性を帯びさせるために最後の最後までプライドをかけて鞘に納めておくんだ。そして、これ以上は不味いと悟ったその瞬間にグワァアアッと振り抜く……それが現代に生きる侍の流儀であるのさ。あとこんな長々と喋っててもう大体みんな見当ついてると思うけど、俺もうそろそろ貧血で限界………!
「……ってなことがあったわけですよ。んで、暫くそこの寮でお世話になることになったので、せめてオッさんと高田さんには知らせておこうと思いまして。ほら、俺が何かポカやらかした時に連絡先知っておけば、何かと便利でしょう?だから」
《だからこんなド深夜にわざわざ俺に鬼電仕掛けてきやがったわけか……おい、今度うちに顔出した時は遺書も持ってこいよ。手が滑って発砲しちまうかもしれねぇからなぁ?》
「…や、やだなぁ。日本の警察大好きよ、あたし?ジャパニーズポリス、ワッショイワッショイ!」
《……どうもおちょくってんな?やっぱお前死刑。俺の警察人生賭けてもお前を地獄に送り込んでやる》
ノーッ!?何でそうなるの!?俺、オッさんには結構感謝してんのになぁ……しゃーない、とっておきの情報あげちゃお。
「それより、明日2丁目の連続窃盗事件の容疑者宅のガサ入れですよね?そいつ、自分の名義を他人に売ってるだけの白なんで交友関係徹底的に洗って下さい。最近妙に小分けで現金振り込まれた形跡とかあれば、その取引相手がホンボシだと思います。これオフレコで頼みますよ?」
《……毎度毎度どこから仕入れてくるんだか。お前を生かしておいて得だと思ったのはこういう時くらいなもんだ。情報提供、感謝する》
「はいはい、ではでは〜……ふぅ、警察も楽じゃないねぇ」
俺はオッさんへの不定期連絡を終え、寮内に戻る。因みにこれは俺の本業とはな〜んも関係ない謂わばアルバイトみたいなものだ。簡単に言うなら元警視庁捜査一課の刑事だったオッさんとはエスの関係だ。エスの意味は自分で調べてくれよな?あんだけ無職無職言ってて心苦しいところもあるけど、別に嘘は言ってねぇし。確かに“日本では”無職だし……って、俺誰に向けて言い訳してんだ?
「…あれ、偶然だね。もしかして君もこれからお風呂?」
割り当てられた部屋に戻ろうとしたら、背後から声を掛けられる。やべっ、今話してた内容とか書かれてねぇだろうな?
「んぁ?あぁ、赤毛ちゃんか。いんや、これから部屋に戻って同室の孝士くんとでも親睦を深めよっかな〜って考えてただけだ……って、何顏真っ赤にして想像してんだよ。やらぴ〜♡」
「んなっ!?そ、そんなことないよぉ!君の考えすぎだっ」
本当かなぁ〜?当てにならんぞ、あの顔は。ともあれここで言ってこないってことはさっきのは聞かれずに済んだってことよな。えがったえがった。さっさと退散しよう。
「なっはっは!ほうかほうか、じゃあわてくしこれから純朴な少年といたいけなせめぎ合い(トランプのババ抜き)を繰り広げるので……五月蝿かったらごめんねぇ!」
そう言って踵を返す俺だったが、何故か俺の身体はそれ以上前に進まない。な、何故!?と勝手にパニクってたら知らず知らずのうちに、俺の手を掴んで離さない野郎がいることに気がついた。わざわざ言うまでもなく、赤毛ちゃんだ。
「お、男の子同士とはいえそういうことはしちゃ駄目だよ?なんか不純な君を孝士くんの近くに置いておいたら駄目な気がしてきた……今日はボクと清純さについて語り明かそう!ほら、行くよっ」
「へっ?おわぁあああっ!!!ふ、ふざけんな!俺は孝士くんとデュエルすんだよぉああ!?」
俺の必死の抵抗を無視して二階の赤毛ちゃんの部屋まで引き摺り回される。ぐぅ…こ、こいつ意味わかんない。俺になんか恨みでもあんの?
「ぐべっ!?痛っ……お、おい赤毛ちゃんよぉ!流石に奴隷に成り下がった俺でも今のは怒っても文句ねぇと思うんだが!?」
「シャラップ!君には人間として圧倒的に足りないものがある!それが何か分かるかい?」
赤毛ちゃんが妙にうずうずした様子で俺に問いかける。え、何これ答えないと駄目な感じ?ってか、今改めて思ったけど……赤毛ちゃんの部屋、めっちゃ乙女チックじゃん。特に本棚ね……恋愛という名のフィクションの嵐が半端ない漫画がズラーりと並んだらぁ。はぁ〜、人って分からんもんだねぇ。って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。俺に足りないものだったか?うーん、そうだなぁ…。
「強いて言うなら……“愛”?うわぁ!恥ずかし〜!?20にもなって愛が足りないとか口走ってる自分が恥ずかし〜!!」
これもう軽く拷問だよね?何なの愛が足りないって……こちとら中学生じゃねぇんだよ!もう20歳のおじさんなの!いちいち辱めないでよ、ぷんぷん!
「そう、そうだよ!君に足りないのは愛だ!何だ、ちゃんと分かっているじゃないか♪」
「……はぁ?」
いや、これマジで正解が分からん。この赤毛ちゃんは何を言っているのだい?
「昨日今日と君の言動を見ていたが、何だいあの全く心にも思っていない言葉の羅列は!?死んだ魚の様な目で死んだ魚の様な口から死んだ魚の様な言葉を言い放っていたじゃないか!」
「それほぼ死んだ魚じゃねぇか。え、何俺死んだ魚みたいに認識されてるの?半魚人かよ」
この赤毛ちゃん、さっきの俺と孝士くんのいたいけ妄想から頭パンクしっぱなしなんだよ絶対。だって何言ってるか訳わかんねぇもん。俺絶対悪くないもん!
「と、兎に角君には言葉で言っても分からないだろうから実践あるのみだ!この参考書のとおりにやってみれば、自然と心も付いてくるはずさ!さぁ、立って立って」
うわぁ…やっぱ出てきちゃったよ、あの恋愛少女漫画。めっちゃグイグイ勧めてくるやん……うわっ、何これ。俺こんな小っ恥ずかしいことせなあかんの?壁ドン?顎クイ?頭ポンポン?ギャハハハハハハッ!!に、似合わねぇ〜!?こんなん現実でやったら通報されて捕まりますから〜!おいおい、やべぇもん売ってんなぁ日本は。こんなん読んでたらそりゃ変な知識ばっかつくわけだぜ。
「ほら、まずは導入編の壁ドンからだよ!ボクをこの漫画の主人公の女の子だと思ってこの台詞の通りに……この壁に背を向けてやってみようっ」
何でそんなワクワクしてんのよ、赤毛ちゃん。ってか、これ終わらせないと返してもらえない系のやつかぁ?しゃーなしだなぁ、気は進まねぇがちゃっちゃと終わらせるか。
「え〜っと、何々?“おい、お前どこ行くつもりだよ?ふふっ、駄〜目。俺以外によそ見すんの、禁止♡”………ぷっ、ぷくくっ、くふっ……ぷはぁ!!も、もう駄目だ…は、腹痛い……ひぃひぃ…うははははっ!?」
「にゃ!?バ、バカにしないでよぉ!?これは主人公の女の子とツンデレの彼が初めて急接近する胸キュン必至の名シーンなんだからぁ!ほら、やるよ!」
ぷくく、あーやば。こんなに笑ったの久しぶり。まぁ台詞は何となく覚えたわ。問題は壁ドンとかいうやつか…要するにドーン!って感じだよな?よしっ、やってみよう。
「はぁ〜、なんかすっげ〜アホらしいけど、俺今女神寮の住人の奴隷だからなぁ。従いますよ、ご主人様……んんっ!オイオマエ、ドコイクツモリダヨ?壁……ドーン!!!」
俺は渾身の棒演技と壁に向かって指を差し、ドーン!と叫んだ。うん、ポカンとする赤毛ちゃん。思ってたんと違ったか?
「な、何それ?もぉ!ちゃんとやってよっ!」
ずいっと身を乗り出して抗議してくる赤毛ちゃん。おま、喪○福造知らんけ?そんなにぷりぷりしなくてもいーじゃんかよ、ったくよぉ。
「はいはい、んじゃ真面目にやりますよ〜………おいお前、どこ行くつもりだよ?」
「っ!?」
俺はさっきまでの気怠げな態度を改めて、赤毛ちゃんへ一気に肉迫する。赤毛ちゃんの顔の横に左手を突き出し、壁に押し当てることで退路を封じ距離を詰める。突然の豹変ぶりに驚いているのか口をパクパクさせて呆けている赤毛ちゃんに対して追撃を仕掛ける。
「…ふふっ、駄〜目♪」
「ひゃっ!?」
慌てて視線を逸らそうとする赤毛ちゃんの顎を空いている右手で持ち、強引に視線を交わす。第2ステップの顎クイが成功したようだぜ。さぁ、最後の追い込みだ……御所望通り、こいつで赤毛ちゃんを陥落させる!
「俺以外によそ見すんの……き・ん・し♡」
「〜〜〜っ!!?は、はぅ…///」
最終ステップの頭ポンポンからの予定になかった耳打ちのコンボを決める。すると、あれまあれまと顔を紅潮させる赤毛ちゃん。おっ、意外と初心…?そして、見るからに恍惚の表情をしていた。ほうかほうか、赤毛ちゃんはこういうのが好きなんかぁ。乙女だねぇ…。
「んじゃ、俺は孝士くんとデュエルしに行くから。赤毛ちゃんも早く寝るんだぞ〜」
未だにフリーズする赤毛ちゃんを放っておいて、俺は赤毛ちゃんの部屋を立ち去る。暫くして雄叫びの様な声と何かの衝撃音が聞こえてきたが、多分これとは関係ないだろうさ。それにしても変な趣味だなぁ……昨日今日知り合ったばかりの俺に少女漫画の再現させるの。孝士くんとか大変だろうな、見るからに流され体質だもんね彼って。
「ふあ〜……とりあえず孝士くんと遊んでから、お仕事するかぁ。何にしても時差ボケはどうにかせんとなぁ……眠っ」
そんな上辺だけの奮起を自分に言い聞かせると、俺は孝士くんの待つ一階の和室へと足を運ぶ。ってか、同室だから終わったらそのまま寝るし……そしたら時間見計らって活動するかぁ。
俺は密かに溜め息を吐いていた。居住用テントが焼失したのは誤算だったが図らずして住まいを手に入れたのは好都合なことに違いはない。ただこれからは周りの人の目に注意しながら生活する必要があるということくらいか……色々とやり辛いだろうさ。女神寮の住人のことを思い浮かべながら複雑な感情に襲われる俺。事情があるとはいえ、自分がやったことが本当に正しかったのか……とてもじゃないが判別なんかつかなかった。まぁ、その時に判断してもらえばいいことか。俺は気を紛らわすように伸びをする。信念だけは曲げちゃいけねぇ、俺は何者でもないただの20歳住所不定無職だ。そう自分に言い聞かせ、軽い足取りで孝士くんの待つ和室へと向かうのだった。
「……?」
とある一室から俺を見つめる怪しい視線に気づくことなく…。
和知 みねる
星間女子大学4回生。自他共に認める研究者(マッドな方)。日々怪しげな研究に没頭している為、自室が魔の巣窟と化している。居候男を拉致誘拐し半ば強制的に女神寮に住まわせた張本人。この状況をどこか楽しんでいる節がある。