女神寮の敷地の隅っこで居候する男   作:自由の魔弾

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今回から所謂“日常回”です。なるべくぶっ飛んでいきたい所存です。ブオォン、ブオオオオン!!


第3話 奴隷、そして奉公。

ちゅんちゅん。ぴーちくぱーちく。小鳥の囀りが小気味の良い朝の目覚めを告げる。寝ぼけ眼で周りを見渡すと、以前までの環境とは全てが転換していることを思い出させる。バチバチとテンちゃん(折りたたみ式テント)を打ちつける雨音だったり、僅かな食料を奪い合い宇宙しているホームレスのオッちゃん達の罵詈雑言を聞くこともない。まさに快適過ぎる空間……楽園はここにあったんだね♡

 

「…お〜い孝士くん、どうやら俺たち寝過ごしたらしいぞ〜。昨日はお楽しみだったもんな〜」

 

俺は隣で寝ているであろう孝士くんを起こすため、布団の中から腕を伸ばしてこんもり山になっているところを揺する。だが、返ってきた反応は俺が想像していたものとは全く別物だった。

 

「んっ……う〜んっ、あれぇ…?あっ、おはよ〜♡」

 

「こ、ここっ……ここここ孝士くんが、女の子になってりゅぅうううっ!?」

 

な、何だこれ!?ど、どうなってやがる!?確かに昨日寝る時までは俺の知る孝士くんそのものだったはずだ!なのに何で朝チュンした結果、女の子になっちゃってるんだぁ!?あれか!ら○ま1/2的なことなのか!?いや、あれは確か水をかぶると女になって、お湯をかぶると男に戻るとかだったような……ってか、この色素の薄い金髪娘俺知ってるぞ!

 

「ちょいちょい、朝から何やってんのよ“ドールちゃん”?」

 

ドールちゃんと俺が呼んだ偽孝士くんの正体はこの女神寮の住人であり、星間女子大3回生のフレイだった。因みにこのフレイという名前は源氏名らしいので、本名は知らん。コスプレが趣味らしく見かけるたびに違う衣装を着ていることから人形(ドール)の愛称をとって、ドールちゃんと命名した。因みに因みに昨日変な嫌がらせをしてきたきりやは赤毛ちゃん、超弩級に男が駄目なあてなはピンクちゃん、掴み所の無いせれねは不思議ちゃん、そして俺の天敵であるみねるはマッド或いはババァアアッ!!と呼ぶことにしている。まともに名前で呼んでるの孝士くんぐらいだな。だってあの子ぐらいだぜ?俺に危害加えてこないの。

 

「ん〜?えっとねぇ……そうだっ。私、君のこと起こしに来てあげたんだよ〜?なのに全然起きてくれないしぃ、寝顔見てたらなんだか私も眠たくなっちゃってぇ……そしたら、一緒にぐ〜すやぴ〜しちゃったのぉ♪」

 

「えっ、何で?今日なんか早起きしなきゃいかんこと、あったっけ?」

 

俺が目をぱちくりさせていると、隣で寝ていたドールちゃんが布団の中から伸びた健康的な腕を俺の首にぐいっと回してきた。うわっ、何だこいつ。

 

「もぉ〜……今日は君が女神寮に来てから初めてみんな揃って食べる朝ごはんでしょ〜?だから、君が来ないとみんな朝ごはん食べられないのっ!分かったら、すぐに私を背負ってみんなのところに面白い感じで連れて行くっ」

 

「いやいや、ドールちゃん今の今まで人の布団で寝てたよね!?寧ろ遅くなって叱られるべきはドールちゃんの方だと」

 

俺がそう言いかけると、ドールちゃんが回していた腕に込める力が明らかに増した。ぐっ、苦しい…!?

 

「…あれぇ?君って私たちの“奴隷”じゃありませんでしたぁ?確か私たちの入っているお風呂に無理矢理侵入したり、裸で寮の中を駆け回ったり、扉をピッキングしてこじ開けたりもしましたよねぇ?これって凶悪犯罪って言っても良いわよね〜。お巡りさんに教えてあげた方が良いのかしら〜?」

 

「喜んで背負わせて頂きます、ご主人様♡」

 

俺は僅かながらの抵抗すら放棄し、勢いよく立ち上がる。プライドなんて安いもんですよ、こんなの必死で守っててもね人生何も良いこと無いですから!本当に理解ある主様達で俺は幸せ者ですわ!じゃなければ今頃オッさんの射撃訓練の的になってたところですものね!わっしょいわっしょい☆

 

「うふふ、やったぁ〜♪んしょ…じゃあ、みんなの所までお願いね♡」

 

「初乗り、540円になりま〜す。5秒で到着致しますが、念のためシートベルトをお付け下さいまし〜」

 

了承を得た(半ば強制的に)ドールちゃんは俺の背中によじよじと登ってくるので、誤って倒れないように若干身構える。しかし、想像していたよりも軽かったため、その心配は杞憂に終わりそうだ。懸念があるとすればドールちゃんが俺の肩に顔を乗せているので若干距離が近いことと、あと胸が背中にだいぶな感じで押し当てられてるので心臓に悪いことくらいだ。あとはもう発進するのみだ……さぁ、派手に決めてやろうか!

 

「キュカカカッ!ブオォンッ!!ブオォンッ!!!パシーッ!テュルルルルル…!ブオォ……ガチャッ!ブオオオオォン!!バゥン、ブオオオォンッ!!ブンボボボ、ブゥンブボボボッ!!キュルルルル!パシューッ、ブオオオォンッ!!」

 

俺のRB26DETT型エンジンが唸りをあげるぜ!このおよそ10m弱の距離の廊下をドールちゃんを背負いながら、光の速さで超ダッシュで駆け抜けていく。

 

「や〜ん、速すぎ〜♪」

 

背中で背負われているドールちゃんが振り落とされまいと必死に抱きついてくる。だがそんなこと気にする余裕は今の俺にはねぇ!今の俺は奴隷でありマシンであり兵器だ。任務を遂行することだけを考えるんだ!

その思いを胸に女神寮を全力で駆け抜けていた俺は自分でも気付かないうちに臨界点を突破していたのだ!その結果……

 

「ブオオオオンッ!!テュルルル…!ブオォン!ブオオオオォンッ!!「あぁああっ!!もう!何朝から暴走してるんですかっ!?」っ!キュルルルル……パシュー……ガチャン。お待たせ致しました、ご主人様♡目的地の談話室に到着しました♪」

 

朝から遠巻きにピンクちゃんから本気のお説教を受ける羽目に。なんてこった……この土地じゃ俺の衝動を受け止めるには足りなかったようだな。しゃーなしだ、チラっとドールちゃんの方を見てみると、そこには何故か俺に向けて満面の笑顔を見せる彼女の姿があった。どういう意図があったにせよ、そんな顔見せられたら例え諸悪の根源である彼女でも売るなんてこと出来ねぇよな。ピンクちゃんのガチ説教、甘んじて受けるぞ……一向に視線合わせないで、壁に向かって叫んでるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ〜、暇だっ!この時間ってマジで誰もいないのか?」

 

朝の騒動が収まったと思ったら女神寮の住人は大学へと向かい、孝士くんも通ってる中学とついでに買い出しに出かけてしまった。その為、現在女神寮にいるのは俺1人……人ん家とはいえ開放感が溢れてくるな。って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。今のうちに仕事を済ましておこうか。

俺はズボンのポケットから小型の電子機器を取り出し、その中から新着メッセージを確認する。

 

「……おっ、来た来た。えぇ〜っと……ほぉ〜、この付近のコンビナートで麻薬の取引か。専門外だけど、これなら今出てっても夕方までには帰ってこれるな……うしっ、行くか!」

 

俺は手近にあったメモ用紙に走り書きをして書き置きを残すと、すぐに女神寮を飛び出した。そして、人通りの多い街まで出たところで不意に一台の車が俺の前で急停止した。どうやら応援が到着したらしいぜ。

 

「本部より応援の命令を受け参上した。取引現場までは連れて行ってやる、分かっていると思うが貴様の任務は取引の主犯及びそれに関係するメンバー全てを鎮圧することだ。そのための装備は揃っているから好きに選んでくれ」

 

「銃でドンパチするのは柄じゃないんだよね、ここ日本だし。とりあえずそうだなぁ……この黒のレザースーツと青のレザーパンツ貰ってくよ、趣味良いね」

 

車に乗り込むと車内の後部座席に並べられた装備一式の中から、衣装だけを選んで着替える。お生憎様、ライフルやらショットガンやらを真っ昼間からブッ放せるほど時は世紀末じゃないんでね。それに、俺は1番頼りになる武器を常に持ち歩いている。この身一つで今の今まで娑婆を歩いてきたんだ。今更、弾きなんか使えるかよ…!

 

「……見えてきたぞ。侵入ルートは予め端末に送信済みだ、後で確認しろ。尚、これにて我々は貴様の支援を終了するが、合図が送られ次第拘束部隊を送り込む……良い結果が聞けることを願う」

 

応援隊の隊長と思われる人が、ぶっきらぼうに俺に賛辞をくれる。まぁ毎度のことながら助けてもらえるのはここまでだからな……しゃっ!気合い入れるかっ。

 

「色々助けてくれて、サンキューね。ギャラはちゃんと払ってくれよ?遅れたら利子がつくからな。ばいちゃ〜☆」

 

俺は隊員達の熱い眼差しを背に受け、停車した車の外へ足を踏み出す。さぁ、タイムリミットは晩飯の時間までか……なら、速攻でケリをつける他ねぇな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さ〜ん!もうすぐ晩ごはん出来ますよ〜!そろそろ降りてきて下さ〜い」

 

俺は慣れた手つきで晩ごはんを用意すると、2階の自室で各々過ごしている女神寮の人たちに声を掛ける。家が焼失して父親が失踪するアクシデントを経てこの女神寮に寮母として住まわせてもらってからもうすぐ1ヶ月、漸く学校にも通えるようになったけどだからこそ寮母としての仕事を疎かにする訳にはいかないっすから!

 

「おりょ?う〜ん、美味しそうな匂い♪いや〜、孝士くんがいてくれてほんと助かったわ〜♡」

 

いの一番に降りてきたのはみねるさんだ。いつも何かの研究をしているらしいけど、その……いつも白衣の下が裸っていうが目の毒というか、非常に目のやり場に困るんだよなぁ……よかった、今日はちゃんと服着てくれてるっすね。

 

「あっ、ごめんね孝士くん。手伝ってあげられなくて」

 

「ほら、せれね。晩ごはんだから頑張って歩こうよ?」

 

「……無理〜」

 

「あら〜?私が最後かしらぁ……あれ、あの人は…?」

 

次いであてなさん達も続々と降りてきた。最後に降りてきたフレイさんが何かを気にするように辺りを見回しているけど……?

 

「フレイさん、どうかしました?」

 

「ん〜?あの人はどこかな〜って思って。孝士くん、知らな〜い?」

 

フレイさんが昨日から女神寮に住むことになった男の人のことを探しているみたいだ。そういえば、俺が帰ってきた時には誰もいなかったけど……あっ、そうだ書き置きみたいなのがテーブルの上に置いてあったんだ!

 

「忘れてました!俺が帰ってきたらもう書き置きがあったんですよっ。晩ごはんまでには帰りますって……何処に行ったかはわからないですけど」

 

「そぉ?う〜ん……そっかぁ〜」

 

何だろう?一応納得したみたいだけど、フレイさんはどこか物悲しそうな表情だ。何か用があったのかな…?

 

「何処に行ったのか分からないなんて……何か事件に巻き込まれたりしてなきゃいいんだけど…」

 

「…おんや〜?きりやちゃん、もしかして心配してるのぉ?あの子のこと、気になってるんだぁ〜?」

 

ふとあの男の人の身を案じる言葉を呟いたきりやさんに対して、すぐさま揶揄うような発言をするみねるさん。それを受けてなのか、妙に慌てた態度で弁明を始めるきりやさんだった。

 

「んなっ…!?そ、そんなんじゃないよぉ!?ボ、ボクは単純にあの子のだらしなさを憂いてるだけで、別に深い意味は…」

 

「ふ〜ん?そうなんだぁ〜。まぁ、今はそういうことにしといてあげるよ……ふっふっふ〜♪」

 

何か意味ありげな発言をするみねるさんと顔を真っ赤にしてそれを否定するきりやさん。俺には何のことやらさっぱりだ……そうだ、皆さんが揃ったこの機会にちゃんと聞いておこうかな?

 

「あの、皆さんに聞いておきたいんすけど……どうしてあの人のこと、ここに住まわせてあげようと思ったんですか?ほら俺は男だから全然構わないし、てっきり流れに任せて心強いっす〜とか言っちゃいましたけど、あの人のことよく知らないで承諾しちゃったところもあるので」

 

席についたところを見計らって唐突だけど質問してみた。俺が初めて会ったのは恐らく2回目の時だったけど、あの時には既にあの人を迎え入れようっていう空気が何となく出来上がってたように思えてならない。だからその前に何かあったのかと踏んでいるんだけど…。

最初に口を開いたのは当事者であるみねるさんだ。

 

「そうだなぁ〜。まぁ、1番の理由は“面白そうだったから”かな?なんかよくわかんないんだけど、こうビビビッと来たんだよねぇ。みんなはどうだったの?」

 

みねるさんが他の人たちにも話題を振る。どうやらそれぞれ思うところがあるみたいで少し黙っていたけど、1番早く考えがまとまったのかきりやさんが次いで発言をした。

 

「ボクは……初めて見た時からそこまで悪い印象は抱いてなかったよ。いや、勿論だけど裸で走り回ったりお風呂に乱入してきたり朝みたいに変なテンションで暴走してたり困ったところは沢山あるけど……それでも、なんかこう……“変にマジメなのかな”って…」

 

きりやさんが言い終わるのとほぼ同じタイミングで、フレイさんがゆっくり手を挙げる。その表情はどこか晴々としていたっす。

 

「私は“とても楽しい人”だと思いますよぉ。見ていて飽きないですし、孝士くんとは違う意味で揶揄い甲斐のある反応をしてくれますし〜。それにどんな無理難題を言ってもちゃんとこなしてくれそうですからぁ♪」

 

う、うむぅ……俺と違う揶揄い甲斐?俺相手でさえスキンシップが激しい人たちなのに、あの人はもっと違うことをさせられているのか?な、なんかどんどんあの人が可哀想に思えてきたっす…。

そんなことを考えていると、せれねさんがボソッと意見を述べた。

 

「……アレからは“月の力を感じる”、だから近くに置いて観察し謎を解明する必要がある。それだけ」

 

つ、月の力?そういえば、せれねさんってこういうこと言う人だったっけ……俺にはあの人は普通に見えたけどなぁ。最後はあてなさんか……この人は全く納得してなさそうだけどなぁ。俺ですらかなり我慢してくれてるだろうし。

 

「わ、私は……まだ全然納得してないよっ。当然だけど顔見て話なんかできないし、朝みたいに奇行が目立つし何考えてるかわかんないし……みねる先輩があの人のテント燃やしちゃったから仕方なく住んでもらってるけど、目処が立ったら出てってもらうつもりだもん!孝士くんとは、事情が違うんだから…」

 

あてなさんはそう言って、少し気まずそうにしていた。俺とは事情が違う、か……本当にそうなのかなぁ?上手く言えないけど、あの人の目って俺と同じ……いやそれ以上に深い闇みたいなものを抱えてる様な気がするんだよな。それを悟られないようにわざと戯けて見せたり素っ気ない態度をとったりしている……のかな?昨日の夜、話してみてそう感じた俺の感想だ。確かなことは何一つ分からないけど、それでもあの人が悪い人って思えないんだよな…。

 

「あはは……でも、本当はすっごく人のこと見てるんだよ。ほら最初にここに来た時、みんなの名前をフルネームで呼んでたでしょ?当然あたしは教えてないし、多分風呂場にいくまでの数秒で寮内を隅々まで見た結果なんだろうさ。誰よりも他人との接触を嫌っているはずなのに、誰よりも他人を観察している……不思議だけど、疑ったりしないであげて。時間は掛かると思うけど、いつかきっと話してくれると思うからさ♪」

 

みねるさんがどこか温かい視線を向けて、優しく語りかける。不思議とその意見には同意せざるを得ないような気がしてきた。だって俺もあの人を信じてみたいっすから!

 

「そうですか……すいませんっした!こんな暗い空気にしちゃって。さぁ、気を取り直して食べましょう!あの人の分はちゃんと取り置きしてあるので、もうバンバン食べちゃって下さいっす!」

 

場の空気を変えるために俺が仕切り直しの合図を出す。変な空気にしちゃった責任っす。せめて皆さんには寮母としてこれくらいのことはさせて下さい!それに信じてますから。皆さんならいつかきっと、あの人ともやっていけるって。だって、俺を受け入れてくれた優しい皆さんですから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま〜……あぁ〜、ちかれたちかれた」

 

俺はお仕事を終えて、女神寮に無事帰還した。だが、時刻は既に23時を回っており、とてもじゃないが夕飯の時間には間に合わなかったようだ。くっそ〜、あいつら帰りの車くらい用意しとけよ。何で行きは車で帰りは徒歩なんだよ。おかげでめっちゃ時間かかったじゃねぇか。

流石にこの時間だと誰も起きてないだろうとたかを括っていた俺だったが、不意に明かりがつき誰かに声をかけられた。

 

「あっ……お、お帰りっ。遅かったね」

 

俺に声をかけたのは赤毛ちゃんだった。どういうわけか玄関入ってすぐのところにいたようだ。俺に用……な訳ないか。

 

「おっす、赤毛ちゃん。どうしたこんな遅くまで起きてて……小便か?」

 

「ち、違うよっ!喉が渇いたから何か飲もうと思って降りてきただけだよ!もぉ、女の子に向かってそういうデリカシーの無いこと言わないでよっ!全く…」

 

あらら、随分むくれちゃって……まぁ、そういうことなら早く寝るに越したことはないだろうさ。俺のせいで目覚めが悪いなんて言われた日にゃ、ピンクちゃん辺りにマジで追い出されちまいそうだからな。

 

「あぁ、そうかい。なら早く部屋戻って寝ちまいな。夜更かしは早死の元だぞー?なっはっは〜」

 

俺はすれ違い際に赤毛ちゃんのでこを小突くように指で軽く押す。すると、また後ろの方で声にならない声を上げながら俺の横をダッシュで通り過ぎて階段を駆け上がって部屋に戻る赤毛ちゃんの姿が……早死ってそこまで即効性ねぇって。自分の将来心配し過ぎだろ…。

 

「単純だねぇ……あっ、いけね。孝士くんに夕飯作らせてそのままだった……痛まねぇうちに頂かねぇとだな」

 

俺はすぐさま談話室に向かい、テーブルの上にラップしてあった晩ごはんをレンジでチンする。温めている間に白米をよそうことも忘れずに。こうして1人寂しく支度を終えた俺は、遅めの晩ごはんへと漸くありつけたのだった。

 

「………」

 

「頂きま〜す。はふっ、はぐっ……んぐっ、んんっ!うわぁ……孝士くんの料理、美味ァ…♡」

 

あまりの美味さに涙すら出てきそうになる。ってか、これ本当に孝士くんが作ったんか!?今時の中学生、レベル高すぎだろ……って、んん?背後に人の気配……この感じは、確か…。

 

「……あれ、不思議ちゃん?どーしたこんな遅い時間に……不思議ちゃんもメシかぁ?」

 

視線すら合わせないまま、俺は背後に佇んでいる不思議ちゃんに声をかける。すると、何するわけでもなく階段を駆け上がってしまった。俺、なんか嫌われるようなことしたっけ?ともかく気にせず食事を済ませると、それからすれ違うようにみねるが降りてきた。

 

「あれぇ?帰ってたんだ。今せれねとすれ違ったけど、なんか随分と焦ってたよ……もしかして、君何かしたんじゃなかろうねぇ?」

 

「ば、馬鹿言うなって……メシでも食いに来たんか〜って聞いただけだよ。そしたら何にも言わずに階段駆け上がってっちゃったんだろ。まぁ、最初が最初なだけに好かれてないんだろうなぁ……そういうあんたはこんな夜中にどうしたんだ?」

 

在らぬ疑いをかけてくるみねるに対して、すぐに弁解を試みる。全く、少し油断するとすぐこれだ……おかげでどんどん俺の立場が悪くなる一方だぜ。

 

「ん〜?いやぁ、いつまで経っても帰ってこない誰かさんを待ってたんだよぉ。これでも一応当事者だからね」

 

「それは……悪かった。連絡のひとつくらい寄越すべきだったな」

 

そうか、俺のせいでこんな時間まで起きて待ってたのか……今まで1人行動が基本だったとはいえ、そこも視野に入れておくべきだった。かなり不本意ではあるが、みねるが手を回してくれたから俺は野垂れ死ぬことは回避できた節もある。今回は、俺の負けかな…。

 

「んふふ、別に気にしてないよ〜♪それに研究も手詰まり気味でどうしようか考えてたところだし……ねぇ君、一杯付き合ってよ」

 

「はぁ?酒か?おい、明日も大学あるんだろ?なのに飲んだくれてて良いのかよ?」

 

「大丈夫大丈夫〜。小っちゃいやつ一本だけだから……ほいっ」

 

そう言って、みねるは冷蔵庫から缶チューハイ(350mℓ)を2本取り出し、そのうちの一本を俺に投げ渡してきた。どうやら俺に晩酌の拒否権はないらしい……まぁ、今回のことは完全に俺の方に非があるので黙って従うけど。

 

「ほ〜ら、早くこっちに来なさいな。乾杯するよ〜」

 

みねるは談話室のソファにどっかりと座り込み、空いている隣のスペースを手でバンバン叩いている。なるほど、席の指定もするのね……しゃーなしだからとことん付き合いますよっと。

俺はもはや抵抗することもなく、みねるの指示に従い隣に座る。するとみねるは急に無防備なくらいに俺との距離を詰め始め、それこそ肩が触れ合うくらいの距離まで迫ってきた。な、何のつもりだ…?

 

「んふふ、緊張しないのっ。あたしだって、いっつもこうじゃないんだよ?偶には飲んで全部忘れたい〜ってこともあるんだから。ほら、缶開けて乾杯しよっ?せ〜の、乾杯〜♡」

 

「…か、乾杯」

 

お互いの缶を突き合わせ乾杯の音頭をとると、みねるはプルタブを開けその中身を一気に飲み干すように煽る。喉が鳴る様子は豪快ながらどこか儚げな心証を抱かせる。いつものみねるとは違う、どこか別の一面を垣間見ているような気がして謎の背徳感に似た何かに襲われた。

 

「んくっ、んくっ……ぷはぁ〜!やっぱこれだよね〜♪疲れた脳に沁み渡る極上の癒し……それに今日は付き合ってくれる君もいるし♪」

 

「……普段は、1人なのか?」

 

「ん〜?まぁね……あてなちゃんときりやちゃんはまだ未成年だし、せれねちゃんは普段お酒飲まないし、大体付き合ってくれるのはフレイちゃんかな。それでも気が乗った時だけだけどね……だから今、すっごい嬉しいんだぁ♡」

 

そう言って俺に笑いかけるみねる。その顔は普段の常に何か画策してる悪人顔とは違って、年相応の少女の笑顔そのものだった。俺はそんなみねるの笑顔に一抹のときめきを覚えさせられるような気がして、慌てて近くの窓を開けて誤魔化す。お、落ち着け……相手はみねるだぞ!?俺をここに縛りつけた奴に浮いた感情なんか持ってどうする!?冷静なれ、自分を強く持つんだ…!

すると、そんな俺の行動に不満を抱いたのか突然背後から俺の身体に腕を回すみねる。顔には出さないが内心慌てふためく俺に対して追い討ちを仕掛けてきた

 

「んふふ〜、逃がさないよぉ?いつも飲めない分は〜、今日で精算しちゃうんだからぁ……ほらほら、早く続き飲もうよぉ〜♡」

 

「ぐっ、みねる待て……!?そんなに身体押し当てるなって!?危ねぇから!」

 

どうやら酔ったみねるは俺をソファまで連れ戻そうとしているらしく、おぼつかない足取りで必死に引っ張ろうとしてくる。だが、またさっきのようなことになりかねないため俺もそれを了承する訳にはいかず、互いに攻防を続けていた矢先……。

 

「きゃっ!?」

 

「ぐっ…!かはっ…!?痛〜ッ……頭打った……お、おいみねる?大丈夫か…?」

 

一瞬みねるが引っ張ることを止めたことで俺の力が勝り、身体ごと床に叩きつけられてしまった。幸いにも俺が下敷きになることでみねるに怪我は無さそうだったが、俺に覆い被さる形で受け身をとったみねるの表情が次第に普通じゃないことに気づいた。

 

「………」

 

「み、みねる…?お前、どうした…?」

 

俺の呼びかけに対して反応を見せないみねるだったが、次第にその顔を紅潮させていく。赤みを帯びた頬や潤んだ瞳、倒れた際に着崩れた服、月光に照らされた艶やかな唇、そして荒くなる吐息……だ、大丈夫か?

 

「……あたし、君のこと……」

 

「えっ……それって、どういう……おい?おい、みねる?」

 

俺の胸に項垂れるように倒れるみねる。まさか卒倒してしまったのかと焦ったが、どうやら酔いが回って眠ってしまっただけらしい。たくっ、人騒がせな奴だぜ……このままにする訳にもいかねぇし、孝士くんには悪いけど俺の布団でみねるを寝かせる他ないか。当然、俺は……ソファだよなぁ。

 

「おら、身体動かすぞ?1日で2人も背負う羽目になるとは思わなかったぞ…!」

 

俺は身体の上に覆い被さっているみねるを退かして、そのまま背負い込んで孝士くんとの共用の和室へ移動する。和室に入ると流石に孝士くんも寝てしまっているのが確認できたので、起こさないように俺の布団にみねるを寝かしつける。

その際に着崩した衣服もちゃんと戻してやった。別に他意はないし、起きた時にせめて孝士くんがパニックにならないようにしてやらんとな。

 

「…あっ、一応寝てる時は眼鏡も外してやらなきゃ駄目か。間違って壊したりしたらヤバいもんな」

 

布団に寝かしつける際、みねるが寝返りをうっても大丈夫なように寝ているみねるから眼鏡を外してやる。よしっ、棚の上に置いておけば大丈夫だな………なっ!?

 

「Zzz…むにゃ…」

 

……はっ!お、落ち着け俺!?こいつはあのみねるだぞ!?たかだか眼鏡外したくらいで、何勝手にドギマギしてるんだよ!?そ、そうだ!不意を突かれただけでみねるのことなんて何とも………くっそ、黙ってりゃ結構可愛いじゃねぇか。あーもう、こんなの損な役回りだ!俺も酒が回って考えがバグってやがるんだ。そうだ、そうに違いねぇ!こんな時はさっさと寝て忘れちまうに越したことねぇ!

 

「…頼むから、明日にゃ綺麗さっぱり忘れといてくれよ?俺の脳」

 

俺は足早に和室を立ち去り、談話室のソファに雪崩れ込む。こんなぐちゃぐちゃな気持ちのままじゃ、まともに顔も見れなくなっちまう。心を落ち着かせて、邪心を捨てるんだ。そうだ、そうすればきっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああああっ!!!み、みねるさん!?な、何で俺の布団に潜り込んでるんですかぁ!!やっ、ちょそこ……触らないでぇええっ!?」

 

翌朝、和室から孝士くんの悲鳴がこの談話室にまで響き渡ってくる。くっ、やはり惨劇は回避出来なかったか…!

その悲痛な叫びを聞きつけてなのか2階からピンクちゃん・赤毛ちゃん・ドールちゃん・不思議ちゃんが、和室からは半分身ぐるみ剥がされた孝士くんとみねるが談話室に逃げ込んできた。図らずして女神寮の住人が揃ってしまったらしい。だが、普段と違う光景に誰もが目を見張るようだぜ。何故なら俺が、誰よりも早く起きて朝食の準備をしていたからだ。

 

「皆さん、おはようございます。もうすぐ朝メシの準備が出来るので、それまで座って待っててちょ」

 

「これ、全部あなたが…?」

 

女神寮の住人が揃って驚いている中、ピンクちゃんがおずおずと俺に質問してくる。あっ、これってやっぱ勝手にやっちゃマズかったか?

 

「あー、一応そうなんだけど……やっぱ俺が作ったメシなんか気持ち悪くて食えない、よな…?」

 

ピンクちゃんの言わんとすることは理解出来るつもりだ。男が苦手で視認することすら辛い彼女に男の俺が作った料理を食べさせることは拷問に等しいはずだからだ。しかし、返ってきた言葉は俺が予想していたものとは全く別のものだった。

 

「あっ……いえ、そんなことありませんっ。寧ろ、ちょっと見直したっていうか……みんなが言うように悪いところばかりじゃないのかなって」

 

「ピンクちゃん……ありがとっ。何かよくわかんないけど、すっごい嬉しい♡」

 

正直言って、意外だった。まさかピンクちゃんが俺のことを見直してくれたなんて……俺とピンクちゃんの間になんとも言えない空気が流れる。が、それもすぐに横から乱入してきた赤毛ちゃんとドールちゃんによって打ち砕かれた。

 

「あ、あぁ〜!ボク、お腹空いちゃったなぁ!?ほらっ、早く準備しようよっ。ボクも手伝うからさ!」

 

「あらぁ〜♪なら逆にここはきりやちゃんに甘えて、君は私と一緒にソファでまったりしましょ〜♡」

 

「ぐはっ…!!ちょ、2人とも〜!?孝士くんの前でみだりに抱きついたりしないで下さいよぉ!!教育に悪いじゃないですかぁ!!こっちに来て下さいっ!お説教します!あなたもボケボケしてないで、すぐに料理の続きに取り掛かる!」

 

ピンクちゃんがえらい勢いで鼻血を噴射させながら鬼のような剣幕で赤毛ちゃんとドールちゃんを叱責して、談話室の隅っこに正座させる。立場は完全に逆転してるな……って、あれぇ!?さっき焼いたはずのウインナーが消えてる!?ど、どこいった……あっ!

 

「………っ」←つまみ食いしている犯行現場を俺に目撃されて、ちょっとびっくりしてる不思議ちゃん。

 

ひょいぱく、ひょいぱくと焼き上がったウインナーを皿から一つずつ摘んで口に運ぶ不思議ちゃんとガッツリ目が合ってしまった。そして、最後のひとつを口に運ぼうとした不思議ちゃんとそれを阻止しようとする俺の必死に攻防が始まった。

 

「ちょちょちょ!?見られた上で食べようとするなんて、鋼のメンタル持ちか不思議ちゃん!?これ以上は駄目だって!」

 

「……その申し出、断る。どうしても止めたいなら、秘密を暴露せよ」

 

ひ、秘密?まさか……俺のことバレてるとかないだろうな!?だとしたらマズい…マズいぞ!

 

「どうして……“月の力”、感じる?理解不能、詳しい説明を求める」

 

「……へっ?月の力?一体何のこと?」

 

本気で理解できないのだけれども、そんな俺の姿が誤魔化しているように思えたのか突然俺の背中にぴょんっと飛び乗ってそのままチョークスリーパーを決めてくる。うぐぐっ……け、頸動脈がプッチンすりゅううううっ!?あっ、もう駄目……。

 

「ど、どうしたんすか……って、白目むいて気絶してるっす〜!?せ、せれねさん何やったんすかぁ!?」

 

「安心して、峰打ちで済ませた」

 

「いやいやいや!?ガッツリ泡吹いて倒れてますけど!呼吸も……だんだんなくなってるっす!!うわぁああんっ!帰ってきて下さ〜い!!!」

 

今日も今日とて変人だらけの女神寮の住人たち。そこに加わった新たな住人と共にこれまでより一層騒がしく、そしてより濃密な毎日を送ることになるとは当然誰一人として思いもよらない。




戦咲 きりや
星間女子大学2回生。“キャンパスの王子”の異名を持つほど性格容姿共に高い女生徒人気を誇る。実家が武道教室で彼女自身も門下生で、その実力も非常に高い。ずっと男兄弟に囲まれて育った反動か大学生になってから初めて買った少女漫画にどハマりし、照れた瞬間に咄嗟に手当たり次第手が出るという生粋の武道系女子。前回、居候を開始した男にいの一番に話しかけて話の流れから清純さを教え込むという名目で部屋に連れ込み少女漫画の再現をさせたが、その際にあまりの再現度と本気度に圧倒され何となく気になり始めた模様。(孝士を弟のように思っているため、居候男に対しても同様或いは年の近い友達のようなものだと自覚している)
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