女神寮の敷地の隅っこで居候する男   作:自由の魔弾

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旅行編です。山9割&海1割って感じです。関係ないけど漫画の扉絵のフレイさんの黒ビキニ……良きかな♡


第5話 旅行、そして遭遇。

「ほぉ〜、こりゃまた随分と雰囲気のあるお宿だこと………2、3人は出るかな、きっと」

 

「あぅ〜!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜っ!?私が似た名前の所と間違って予約しちゃったみたいですぅ……」

 

宿に着いて早々、ピンクちゃんがひたすら平謝りしている。移動中は昨夜の不思議ちゃんとの必死の攻防の所為で半分魂抜けてた俺だったが、漸く復活した所でこの騒ぎだ。まぁ、俺としては屋根さえ有れば何処でも寝れるからあまり大差ないんだけどな。

 

「まぁまぁ♪落ち込まないで、あてなちゃん!実質貸切みたいなものだし、それに周りも静かで涼しいし避暑にはもってこいじゃない♪」

 

「うぅ……フレイ先輩〜!!」

 

あらら、ドールちゃんとピンクちゃんが抱き合ってらぁ。このくっそ暑い中よくやるわ〜………んっ?このタイミングで連絡…?誰からだ…。

 

「あ、あはは……とりあえず荷物も先に預けたことだしどうしようか?さっき話してた通りチェックインまで周辺散策する?」

 

「う〜ん、そうだねぇ……確かにあの旅館も“出そう”な雰囲気だったし、この辺を調べとくのもいいかもしれないね〜?どうせ後で肝試しやる予定だし」

 

「えぇ!?そ、そんな話、聞いてないよ……?」

 

「あれ〜、言ってなかったっけ?あっ、フレイちゃんと車の中で盛り上がってただけか!特に苦手じゃなければみんなでやろっかな〜って。孝士くんとかはどぉ?」

 

「俺すか?まぁ、普通にって感じっすかね……すてあの方がそういうの得意かもしれないっす」

 

「あぁ、むしろ好きだ」

 

「そ、そうなんだ……じ、じゃあやっぱり、やるんだね……そっか…」

 

「きりやちゃん、もしかして……怖い?」

 

「そ、そそそそんにゃことにゃいよぉおお!?……うわっ!?」バシャーン!!

 

「き、きりやさんっ!!おわぁああ!?」」バシャーン!!

 

「こ、孝士!!」バシャーン!!

 

「あちゃ〜、やっちゃったねぇ。ずぶ濡れのままだと風邪引いちゃうから、早めにお風呂もらおっか!………あれ、山田くんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……こ、ここまで来れば大丈夫か?それよりさっきのメッセージ、これって冗談だろ?」

 

俺は女神寮の住人たちに悟られないようにその場を離れ、ついさっき届いたメッセージを確認する。そこには俺にとって切っても切れない深い関係にある報告があがっていた。

 

「復活、したのか……しかも日本まで追ってきてると。厄介なことになりそうだな………っ、誰だ!?」

 

不意にどこからか俺を監視するような鋭い視線を感じ、辺りを見渡す。しかし、返答は無く……代わりに別の方向から赤毛ちゃんが姿を現した。何故か全身ずぶ濡れの状態で……何で?

 

「あっ、こんなところにいたんだ!急にいなくなっちゃったから、探してたんだよ。何かあったの?」

 

「……あ〜、いや最近トイレが近くて。旅館まで間に合わなさそうだったから、茂みの陰で小便してた」

 

「なっ……!?も、もぉ〜!だからそういうこと言うのやめてってばっ!?本当にデリカシー無いんだからぁ…」

 

赤毛ちゃん、ごめん……でも、こればかりは本当のこと言うわけにはいかんのよ。幻滅されようが、こういう振る舞い方しか出来ないのは俺の実力不足だね……プロはもっと上手にやるって聞くもんな。

 

「とにかく見つかってよかったよ。みんなも探してるだろうから連絡しておかなきゃだ「おい赤毛ちゃん。そのままじゃ風邪引くから、これ着てろ」へっ…?うわっ!」

 

発見の連絡をしようとスマホを取り出した赤毛ちゃんに、俺は着ていた上着のシャツを頭に掛けてあげる。

 

「何でずぶ濡れなのかは知らんけど、ちゃんと服は着といた方がいいぞ?水に濡れたからなのか、下着が透けたり浮き出たりしてるからさ」

 

「っ!?え、えっち…!」

 

おいおい、そりゃ無理があるでしょ〜よ。そんな薄〜い格好しといて……なるべく直視しないようにはしてたけど、本人的にはもう俺に指摘された時点でアウトなんでしょ?

 

「えっち……って言われてもなぁ。まぁ赤毛ちゃんが俺に視姦されたって訴えたら、まず間違いなく俺勝てないだろうし」

 

「そ、そんなことしないよぉ!……それに上着貸してくれたの、嬉しかったし…」

 

そう呟いて、俺の上着を胸の前でギュッと抱き締める赤毛ちゃん。いや、持ってないで早く着てほしいんだけど…。

 

「あー、はいはい。もう分かったから、さっさと連絡なり何なりしてちょ。旅行中は借りっぱでも全然いいからさ」

 

「む、むぅ……何か釈然としないなぁ。分かったよ……ほら、早く旅館に戻ろっ」

 

「えぇ?おぉ…!?」

 

俺の上着を羽織った赤毛ちゃんは急に俺の手を引いて駆け出した。その表情は一見不満気ながらもどこか嬉しそうで、俺まで釣られて自然と笑みが溢れてしまう。さっき感じたアレはきっと俺の勘違い……なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、いい湯だったなぁ。温泉最高ォ♡……って、お前ら人の布団で何してやがる?」

 

宿の飯を食べて温泉に浸かって部屋に戻ってきたら、既に俺の布団はみねるやドールちゃんたちに占領されていた。布団の隣に孝士くんを盾として常駐させておいたのだけど、その守りは容易く突破されてしまったようだぜ。

 

「ん〜?いやぁ、さっきお風呂入ってる時に孝士くんが“寂しいから夜はみんなと一緒に寝たいですぅ〜”って柵の向こうからか細い声でお願いするからぁ……ねっ?」

 

「ねっ?じゃないですよぉ!俺、ちゃんと断ったじゃないっすかぁ!?それなのに強引に押し掛けてきて…」

 

「……なるほど、孝士くんが必死に何とかしようとしてくれたのは伝わったよ。正直みねるやドールちゃん辺りは予想してたから驚かないけど、まさか赤毛ちゃんやら不思議ちゃんまでそっち側に乗るとは思わなかったよ」

 

俺はそう言って、普段はどちらかと言えばブレーキ役の2人に視線を移す。俺に睨まれて見るからに動揺する赤毛ちゃんと、逆に無を貫いている不思議ちゃん。おかしいなぁ、普段はそういう悪ふざけに参加しない子だと思ってたんだけど……。

そんな俺の考えが伝わったのか、俺の布団の中で芋虫状態だったみねるが俺を手招きして近くに呼び寄せた。一体どんな言い訳をするのやら…?

 

「(本当はね、肝試ししようって話だったんだけど……きりやちゃん、本気で怖がっちゃってさ。だから部屋も一緒にした方が、少しは安心出来るかなって……勝手に決めちゃってごめんねっ)」

 

そう言って、少しバツが悪そうにウインクするみねる。そういうことだったのか……あくまで悪ふざけという形でみんなを巻き込んだのは、誰にも後腐れなくするため。自分が発起人として矢面に立つことで、呵責が発生しないようにしたのか……悪いやつだぜ。

俺はみねるの額を指で小突くと、微笑みながら答えてやる。

 

「バ〜カ、だからってみねるだけが我慢することないだろ?そういうことなら全然構わないよ……だから、自分だけで背負い過ぎるなよ?」

 

「っ!う、うん……ごめん。なはは、ちょっと熱くなってきちゃったかな!よしっ、あたしもう一回お風呂入ってくるよ!その……ありがとね、気に掛けてくれて…」

 

そう言って、そそくさと部屋を出て行くみねる。ほのかに頬が紅潮していたように見えたのは、俺の気のせいだろうか……うおっ!?

 

「山田くんも、中々隅に置けませんわね〜。みねるちゃん相手にあそこまで有利に立ち回るなんて♪」

 

「むぅ……それ、ボクにもやったのにっ。山田くんってば本当に節操ないんだからぁ」

 

「山田……月の話、続き聞かせて」

 

いつの間にかドールちゃん、赤毛ちゃん、そして不思議ちゃんが眼前に迫ってきていた。な、何だお前ら!?孝士くん目当てで部屋占領してたくせによぉ!俺が認めた瞬間に手のひら返しやがって、調子の良い奴らだぜ。

 

「ちょ、お前ら一遍に来るなぁ!?3対1なんて卑怯だぞこの野郎!1人ずつ相手しやがれぇえ!!あっ!こ、孝士くんたち?何で急に俺から距離を取る!?いや、ちょ……離れるなって!」

 

明らかに俺(の周辺)を危険地帯と認識したのか、ピンクちゃんが率先して孝士くんとツン子ちゃんを俺から引き離そうとしていた。いや、このタイミングでそれは困るって!?俺だけじゃ手に負えんのだからせめて見守ってて!あっ!逃げたなこの野郎っ!?

 

 

 

 

 

①ドールちゃんの場合

 

「山田くぅん……折角同じ部屋になったんだから、この際同じ布団で寝ようよぉ?ねっ、お願〜い♡」

 

「お願〜い♡じゃなくて、その前に浴衣を着崩してるの直してくれよ……胸元開け過ぎだから」

 

「や〜ん、えっち〜♡」

 

も、もうやだ……ドールちゃんとじゃ話が一向に進む気配が無い。あと、すっごい赤毛ちゃんが悔しそうな表情でこっちを見てるのってどういう心境なの?あっ、部屋の外に連れて行かれた。グッジョブだぜ、不思議ちゃん。

 

「もう……この前のもそうだけど、ドールちゃんって俺のことどう思ってるのよ?」

 

「え〜?勿論、好きですよぉ♡」

 

何の躊躇いもなくそう口にするドールちゃん。そういうことじゃないんだけどなぁ……分からせなきゃ駄目か。例え嫌われる羽目になっても!

 

「そうじゃなくて……俺のこと、異性として見れるかってこと。その辺どうなの?」

 

「……へっ!?あ、あのそれどういう…」

 

俺が追及すると、ここにきて急に慌て始めるドールちゃん。ようやっと事の重大さを理解し始めたか……だがこのまま終わらせる訳にはいかなねぇな。責任は在るべきところにきっちり還す!

俺は両手で正面からドールちゃんの肩を掴み、真面目なトーンで真摯にドールちゃんだけに聞こえるよう耳打ちして告げた。

 

「(だから、同じ布団で寝るとか俺のこと好きって言ってみるのとかって本気なの?それとも俺のこと揶揄ってるだけ?もし冗談でやってるなら……今すぐ止めてほしい)」

 

「……っ!あ、あの…わ、私は…」

 

今までにないくらい動揺しているドールちゃん。厳しいこと言ってるかもしれないけど、本気で命に関わることだから有耶無耶にする訳にはいかないんだ。ただ、今のでドールちゃんも考え方を改めてくれるきっかけになったはずだと思うことにしたい。理由は言えないけど、俺と関わる以上“普通”の基準は通用しないんだ……。

俺はドールちゃんの動揺ぶりを見かねて、助け舟を出すことにした。せめて教訓と思ってくれれば、俺のことをどれだけ嫌おうと構わないからな。

 

「……ふふふ、な〜んてね。びっくりした?いっつもドールちゃんが俺のこと揶揄うから、仕返ししちゃった♪純粋な孝士くん相手ならまだしも、童貞無職の俺にそのイジりはしちゃ駄目だよ。本気かどうか判断できないんだから……分かった?」

 

俺はついさっきまでの冷淡な表情から一転、戯けた態度でドールちゃんに語りかける。むっ、反応がない……マジ責めし過ぎたか?リカバーせんといかんな。

 

「お〜い、ドールちゃん?ごめん、ごめんって!?そんな本気でビビっちゃうとは思わなかったから……ほら、よ〜しよし怖くないぞー」

 

俺は少し乱暴にドールちゃんの頭を撫で回す。わしゃわしゃわしゃ〜っ!すると俺の猛攻に耐え切れなくなったのか、遂に我慢の限界を超えたかのように噴き出したドールちゃん。

 

「……っ、ふふ、くっ……ぷっ、あはははっ!も、もうわかりましたからやめて下さい〜!?くすぐったいですから〜!」

 

堪えきれず俺に降参の意を示すドールちゃん。その表情はさっきまでの深刻な動揺ぶりは消え、どこか晴れやかな笑顔だった。だが止めんよ?この際ドールちゃんにはその行き過ぎた悪戯精神をしっかり矯正してやるんだっ。

 

「い〜や、駄目だ。こんなのまだまだ序の口だからね………足腰立たなくしてやる」

 

「はふぅ……へっ?いや、ちょっと待って山田くん?その手はどうするつもりなのぉ…?あの…だ、駄目だよ?私、くすぐり弱いんだから……っ!きゃーっ!」

 

ふっふっふ〜、お仕置きの時間だぜぇ。俺特製のくすぐり拷問地獄をお見舞いしてやる……何分で正気を失うか我慢比べといこうかぁ!!

 

 

 

 

 

②不思議ちゃんの場合

 

「フレイ、撃沈してた。山田、お前何をした?」

 

「えぇーっとですね………い、言えませんっ」

 

あっぶねぇ!もう少しで事案になるところだった〜!?俺のくすぐり拷問地獄フルコースを受けものの5分で完堕ちしたドールちゃんの悲鳴を聞きつけ、不思議ちゃんと赤毛ちゃんが駆けつけてきた。孝士くんたちはそもそもこっちに来る気は無いらしい。災難に巻き込まれたくないという強い意志が感じられる……懸命だよ、出来れば俺もそっち側にいたかったさ。とりあえず撃沈したドールちゃんを赤毛ちゃんが背負って元の部屋に運び、不思議ちゃんが俺に尋問してるってのが現在の状況だ。

 

「むっ、何故言えない?やましいことがあるのか?」

 

「いやぁ……本人の尊厳と名誉の為としか」

 

「……そうか、なら後でフレイに直接確認するからいい。それより山田、お前に協力を要請したいことがある」

 

「……協力?それってどんな?」

 

いつにも増して真面目な顔で俺にそう言ってくる不思議ちゃん。不思議ちゃんが俺に何か手伝わせるなんて珍しいねぇ…?

 

「この旅館を中心に時空の歪みを探知した。せれねが到着した際はごく小さなものだったが、刻を追うごとにその歪みが広がっている。今夜、その調査をする予定……だから山田、お前も同行してほしい。月の真実を知る人間の1人として」

 

「…ふ〜ん、そうなんだ。でもそれ俺じゃないと駄目け?どうせ明日海行くんしょ?だったらそれまでに日頃消費し続けた英気を養うのに時間を使いたいんだけど…」

 

「……もし断ったら、山田がフレイに残虐非道の限りを尽くして凌辱したと言いふらす」

 

「ちょ!?それは無いだろ不思議ちゃん!?事実無根だ!話題の摺り替えにも程があるぞっ!!」

 

「勿論、それは分かっている。フレイ、何故かすごく幸せそうな顔をしていたから。でも他の者はせれねの言葉を信じる、それ故山田に選択権は無い」

 

ぐっ……不思議ちゃん、汚ねぇ真似しやがってぇ!実質これ脅迫じゃねぇか!だがしかし、不思議ちゃんの言葉には信憑性があるからなぁ……こういう場合、加害者よりも被害者の証言が信用される傾向があるし……黙って従う他ねぇか…?

 

「……はぁ〜、分かったよ。有る事無い事言いふらされても困るのは俺だけだしな……喜んで協力させて頂きますよ、ご主人様♡」

 

「……そう。なら他の者が寝静まったのを見計らって起こしに行く。それまで待機せよ………ふふっ♪」

 

そう言って、そそくさと部屋を出て行く不思議ちゃん。去り際にちょっとだけ笑っているように見えたのは俺の気のせい、なのか…?分からん、余計に分からんくなったぞ不思議ちゃんという人間が。何はともあれ、俺の今夜の安眠の予定は不思議ちゃんという突然の来訪者によって、無残にも崩壊したという……目的の為ならどんな手段も厭わない。恐るべし、不思議ちゃん…!

 

 

 

 

 

③赤毛ちゃんの場合

 

「ちょっと山田くん!君、一体何をしたのさっ!?2人とも何ていうか……そう、どこかフワフワした感じになっちゃってるじゃないか!詳しい説明を求めるよっ、ボクは!」

 

不思議ちゃんが帰るなり、恐らくすれ違いで俺の所まで走って駆け込んできた赤毛ちゃん。そんなにドタドタ迫って来なくても…。

 

「いやだから不思議ちゃんにも一応説明したけど、本当に何もないんだって。信じてくれんかもしれないけどさ…」

 

「…っ、別に信じてない……訳じゃないけど…で、でも君と話してから2人の様子が変わったのは事実だもん!絶対そこで何かあったと思うんだけど……どうしても、話せないことなの…?」

 

赤毛ちゃんが不安げに確認してくる。そこにはいつもの凛々しい姿はなく、ただ1人の女の子がいるだけだった。そこで俺は自分の中に何か別の思いがあることに気づく。それはいつの日か心の奥底に仕舞い込んでいた根本にある光……本来の優しさとも言えるのかもしれない。その思いが今目の前で不安がっている赤毛ちゃんをこのままにするなと強く警告を出していた。

気づけば俺は自然と口が開いて、2人にしたことの説明を始めていた。

 

「……分かったよ。じゃあ正直に話すけど、本当に大したことじゃないんだ。まずドールちゃんは俺とか孝士くんに対して少し過激な悪戯をしてくるから、本当に好きな人だけにそういうことをするべきだってちょっとキツくお説教じみたことしちゃったの。その時お仕置きとしてくすぐり攻撃しちゃったから、流石に堪えるまでやったのはやり過ぎたかなって反省してるし後でちゃんと謝りに行こうかなって思ってるよ」

 

「…っ!ふ、ふ〜ん……せれねには、どんなことしたの?」

 

「えっと、不思議ちゃんには深夜のデートに誘われ……痛っ!痛い痛い!?ちょ、赤毛ちゃん叩かないで!もう巫山戯ないからっ!」

 

あぅ……ちょっと脚色したくらいでいきなり叩いてきやがって〜。まぁ何の脈絡もなくボケた俺も悪いけど……ちょっとくらい夢見てもいいじゃんかよ!

 

「もぉ!ちゃんと答えてよぉ!山田くんのことを疑ってる訳じゃないんだから、そこで変なボケとかやめてよっ」

 

「わ、悪かったよ。まさかそこまで突っ込まれるとは……本当は何かの調査に同行してくれって頼まれたんだよ。多分だけど霊的なやつだろ」

 

「っ!?ま、まさかじゃないけど……い、いるの?ここに?」

 

俺の言葉を聞いて明らかに顔が青ざめる赤毛ちゃん。もしかして、苦手なのか……霊的なやつ。ちょっとカマかけてみるか。

 

「……あぁ、だってほら……“今も赤毛ちゃんの後ろにいるじゃないかぁ…!”「きゃああああっ!?」うごっ!?」

 

俺が必死に稲川○二ばりの恐怖の顔と声色を作って凄んで見せると、何をとち狂ったのか俺に向かってタックルしてきた赤毛ちゃん。その躊躇いのなさ、良しだぞ…っ!

 

「はぁ、はぁ……あっ!?ご、ごめんっ!だっていきなり怖いこと言うからぁ……君がいけないんだよっ!?」

 

「うぐぅ……へっへっへ〜。そうかそうか、赤毛ちゃんはオバケが怖いのかぁ〜。知らなかったなぁ〜♪」

 

俺がいやらしい笑みを浮かべながらそう言うと、ビクッと肩を震わせながら冷や汗をかく赤毛ちゃん。良いことを聞いちゃったぞ〜。

 

「そ、そそそそんなこと、あるわけないで「あっ、赤毛ちゃんの両肩に血塗れた霊の手が…」うわぁあああっ!?も、もう勘弁してよぉ…」

 

すっかり涙目になってそのまま俺の身体にしがみつく赤毛ちゃん。はっはっは〜!大勝利なり〜!さぁ、お巫山戯もこれくらいにしておこうか。

 

「ほらほら赤毛ちゃん、大丈夫だから顔上げてよ。もう揶揄ったりしないからさ」

 

「本当ぉ…?もう虐めない…?」

 

「…っ!あ、あぁ…勿論だぜ!」

 

「みんなにボクが怖がりなの言いふらしたりしない…?」

 

「そ、そんなことしないっ。や、約束する…」

 

「ボクが幽霊に襲われたら……守ってくれる?」

 

「あ、あぁ……なるべく守ってや「…なるべく?」いや、絶対!どんな状況でも駆けつけて守ってやる!絶対の絶対だっ!」

 

すっかりしおらしくなった赤毛ちゃんが上目遣いで俺に力なく聞いてくる。な、何だこれ……可愛すぎるだろォ!?普段どんな時でもキリッとしてる赤毛ちゃんからは考えられないくらい乙女な表情で、しかも俺の浴衣を放さないようにギュッと握りしめて……これがジャパニーズカルチャー“ギャップ萌え”ってやつか!?

 

「……そっかぁ!じゃあ許してあげるっ!もぉ…女の子を揶揄うなんて、山田くんは本当に子どもだなぁ〜。ふふっ♪」

 

「お、おぉ……そうだな。じゃあ、とりあえずみんなのいる部屋に戻るか?」

 

「そ、そうだね……あっ、ちょっと待って」

 

何となく気まずい雰囲気を感じみんなの所に戻ることを提案すると、それを了承した赤毛ちゃん。そして、そのまま立ち上がると不意に俺の右腕に抱きついてきた。な、何のつもりだ…!?

 

「あ、赤毛ちゃん!?あの、これはどういう…」

 

「…だって、こうしてないとすっごく怖いんだもんっ。みんなのいる部屋までで良いから、それまでこうさせてよっ……山田くんは嫌…なの?」

 

「俺は別に……赤毛ちゃんの気が紛れるなら、そうしてても構わないけど」

 

「……ふふふ、ありがとっ。山田くんって、意外と優しいんだね……じゃあ、行こっか♪」

 

そう言って、部屋から出て廊下を歩き始める俺たち。言えない……右腕に赤毛ちゃんの慎ましいながらも自己主張を忘れてない胸の感触が確かにあるなんてこと、間違っても口にする訳にはいかない!それを口にすれば最後、今まで積み上げてきた信頼関係が一気に崩壊してしまうことに!大丈夫、落ち着け……今思考が定まってないのは赤毛ちゃんの胸の所為なんかじゃないし、妙に近い距離で香ってくる赤毛ちゃんの髪のいい匂いで鼻先が刺激されて動悸がおさまらないわけでもない!俺は普通だ、これで平常運転なんだっ!よ〜し、そう考えれば視界がクリアになってきたな……んっ、赤毛ちゃんの奴。怖くて左腕にも抱きついてきたのか?こりゃ本物の怖がりさんだな……ちょっくら安心させてやるか。

 

「赤毛ちゃん、そんなに怖がらなくても何処にも行かないよ。だから左腕まで掴むのやめてよ」

 

「……えっ?ボク、右腕にしか捕まってないよ?両腕でこうして抱きついてるんだから左腕なんか無理………っ!?」

 

「えっ!?じ、じゃあ……“今、俺の左腕掴んでる”のって……誰?」

 

一瞬の沈黙が俺と赤毛ちゃんを襲う。いや、厳密には頭では理解しているけど、現実を認めたくないだけだった。だってつい今だぞ?俺と赤毛ちゃんが廊下に出たのは。その前後で誰ともすれ違っていないし、俺の左腕を掴んでいるのが赤毛ちゃんではないとすれば……。

俺は赤毛ちゃんにアイコンタクトを送り、そしてゆっくりと決して見てはいけない左側へ視線を移した。すると、そこには……。

 

「………」

 

凡そこの世のものとは思えない、何とも形容し難い“何か”がいた。こういう時、人間ってどういう行動をとるか分かるか?

 

「うわぁああああああっ!!!逃げるぞゴラァアアアアッ!?」

 

赤毛ちゃんを横抱きにした俺は脱兎の如く廊下を光の速度で駆け抜けた。所詮は俺も人の子よ……お化け超怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日こそ………海だぁ〜っ!!』

 

昨日のゴタゴタなんか微塵も感じられないくらい、俺以外の高らかな声が浜辺に響き渡る。あぁ、昨日のことなんか忘れて楽しもうじゃないか……って、やっぱ無理っ!お化け超怖いんだよ〜っ!?俺、あの後結局不思議ちゃんに付き合わされて明け方まで旅館の中徘徊させられたんだぞ!?いつあの化け物と遭遇するかずっとヒヤヒヤしながら、不思議ちゃんの訳わかんない話も聞かされ続けたんだぞ!?お陰で心も身体もヘトヘトだ。今日はとてもじゃないけど、遊ぶ気分にはなれ……うおっ!?

 

「ごみんごみ〜ん!ボールとって〜」

 

「みねる、てめぇ…!」

 

明らかに俺の顔面を狙ったボールの軌道、俺は見逃さなかったぞ?どうやったら波打ち際でバレーボールしてんのに、砂浜のテントの下にいる俺に飛んでくる?

 

「何よぅ、ちょっと手が滑っちゃっただけじゃん〜。それよりさぁ……どうよ?みねるちゃんの水着姿の感想は?」

 

普段白衣ばかり着てるのを見ているだけあって、年相応の健康的な身体が主張している……ぐっ、結構スタイル良いじゃねぇか。素直に認めたくはねぇけど…。

 

「あー、はいはい。良きですねっ」

 

「ちょちょちょ!?何そのテキトーな返事!?あ〜ん!お世辞でもいいからあたしにも可愛いって言ってよぉ〜!?他の子には言ってるんでしょ〜!山田くんの甲斐性無し〜!」

 

「なっ!?人聞きの悪いこと言うなっ!!てか、他の子には言ってるって誰のこと………あっ」

 

俺の脳裏にふと先日のドールちゃん風呂場乱入事件が思い浮かぶ。確かあの時黒ビキニを着てたんだよな……あっ、今日も着てるわ。じゃあ、ドールちゃんがみねるに………あっ!目線逸らしやがった。

 

「ほ〜ら、観念してあたしを褒めなさいよ〜♪」

 

ずいっと俺に顔を近づけるみねる。前屈みになった所為か普段白衣に隠された豊満な胸がより強調されて凄いことに…!ま、負けねぇぞ……俺は欲望に打ち勝つんだ!

 

「……か」

 

「か?」

 

「か……可愛い、と思うぞ……これで文句ねぇだろ!?ほら、さっさとボール持ってけよっ!」

 

あぁ〜、もう!何でこんなにテンパってるんだよ俺は!?みねる相手にたかだか可愛いって言うだけだろうが……って、みねるだけじゃねぇな。この感じじゃ多分ドールちゃんも赤毛ちゃんも不思議ちゃんもピンクちゃんも、果てはツン子ちゃんにですら可愛いなんて言えそうにねぇな……頑張って女慣れしよう。

そんなことを考えていると、俺からボールを受け取ったみねるが他のメンツのところまで走って戻ろうとしたが、不意に立ち止まって俺の方へ振り返った。な、何だ…?

 

「…山田くん、ありがとねっ。君に褒めてもらえたのが、旅行中で1番嬉しいよっ♡」

 

屈託のないみねるの笑顔が俺に向けられる。相変わらずズルい奴だぜ……そんなん言われたら変な意地張ってんのがバカみてぇじゃんか。あ〜辞めだ辞め!悩むのお終い!折角の旅行だ……楽しむ以外選択肢ねぇよな!

 

「ふっふっふ……ノーコンみねる!そんなダメダメアタックじゃ世界は狙えねぇぜ!ドールちゃん、赤毛ちゃん!チーム戦でみねるをボコボコにしてやろうぜ!」

 

「んなっ!勝手にチーム決めた上にルールまで……その挑戦、受けて立〜つ!あてなちゃん、せれねちゃん!山田くんを徹底的に攻撃じゃ〜っ!」

 

今、虎と龍による頂上決戦が始まろうとしていた。あっ、年少組の孝士くんとツン子ちゃんは今回は外れてもらうよ。だって……これは命の危険が伴う戦争だからなぁ?

 

「みねる、分かってんだろうなぁ?お互い大将立てたってことの意味をよぉ?」

 

「えぇ、勿論。負けた方が……今日のお昼全奢りよ!!」

 

ふっ、どうやら考えていることは同じのようだぜぇ……この勝負、お互い同意と見た!!童貞無職の火事場の馬鹿力、見せてやるぜゴラァアアアアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ〜!みねるに負けるなんて屈辱以外何ものでもねぇわ!!オマケにドールちゃんと赤毛ちゃんに借金する羽目になるなんて……2人とも、本当にすんませんっ!!」

 

「あ、あはは……まぁ勝負は時の運って言うし、今回はたまたまだよ。きっと次は勝てるさ。だからそんなに落ち込まないでよ。ねっ?」

 

「あらぁ、きりやちゃんったら随分山田くんに優しいわねぇ。私はちゃ〜んとツケにしておくわよ?ところで山田くん……私、誠意って身体で示すべきだと思うのよねぇ。帰ったら山田くんの身体、貸してもらっても良いわよね〜?」

 

ドールちゃんが妖艶な笑みを浮かべながら、俺の身体にピトッと擦り寄ってくる。いやいや、昨日そういう冗談やめてって言ったじゃん……んっ、どしたんドールちゃん?

 

「(私、本気にしちゃいますからね…?だから、これからは誠心誠意誘惑しちゃいますから、覚悟して下さいね♡)」

 

「……はっ!?ち、ちょっとドールちゃん…?」

 

突然の宣戦布告に困惑する俺に対して、可愛らしくウインクするドールちゃん。耳打ちしてきたので赤毛ちゃんには聞こえなかったみたいだけど、それが俄然興味を惹いてしまったようだ。

 

「フレイ!?今山田くんに何言ったの!?何かすっごい顔赤くなってるけど!?」

 

「んふふ。ひ・み・つ♪ほらほら〜、早く買いに行きましょ〜」

 

「ちょっと待ってってば〜!?山田くん、後でちゃんと教えてよ?絶対だからねっ!」

 

ルンルンでスキップしていくドールちゃんと困惑しながらそれを追いかける赤毛ちゃん。うぅむ………これは、非常に非っ常〜に困ったことになったかもしれない。でも今は、極々ありふれたこの幸せを噛み締めていたいと思うのは贅沢な考えなのかな。偶にはこういうのも有りじゃなんじゃありませんかねぇ?

 

「……見つけた。今度こそ仕留める…!!」

 

何処からか俺を見つめる怪しげな気配に最後まで気づかないまま、女神寮初めての旅行は無事終了したのだった。

そして、それはこれから始まる事件の前触れでしかなかったことを俺はまだ知らない…。

 




八月朔日 せれね
女神寮の中でも最古参の住人で星間女子大学?回生。常々月の力を使った月面テクノロジーなるものの存在を示唆しているが、その実態は誰も把握していない。当初は山田のことは雑用係程度にしか認識していなかったが、夏休み中の旅行の前夜に山田から“月の真実”について少し教えてもらったのをきっかけに事あるごとに山田をつけ狙う或いは調査に連れ出そうと画策している。
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