女神寮の敷地の隅っこで居候する男   作:自由の魔弾

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星間祭編でっす。安定の別行動で物語は進んだり戻ったりします。


第6話 袋小路、そして強襲。

「……“星間祭”?何だそれ?」

 

「あたしたちの大学の学祭だよ。この日は一般のお客さんも大学に入れるんだ。みんなに聞いたら孝士くんたちにもぜひ来てもらいたいって。2人ともどうかな?」

 

夏休み中の旅行から戻ってきて暫く経ったある日、みねるから1枚のチラシが俺と孝士くんに手渡される。学祭ねぇ……そういえば忘れてたけどここって大学の寮だったんだよな。

 

「うわぁ〜!俺、行きたいっす!そうだ、すてあも誘ってもいいですか?」

 

「おぉ〜、ウェルカムウェルカムだよっ。それはいいんだけど………もう傷は癒えたのかい、孝士くん?」

 

んっ…?みねるが何やら意味深な発言をしているな……えぇ!?こ、孝士くん……何だその滝のような汗は!?まさか、こいつらに何かされたんじゃなかろうか?

 

「傷?孝士くん、なんかされたんか?」

 

「えっ!?い、いやそのぉ……少し前にあてなさんたちがお弁当を忘れたことがありまして……それでその、大学に届けに行くにあたってフレイさんに女装させられて……で、でも俺やっぱ皆さんの色んな姿見たいっすから!」

 

そ、それは……難儀なことで。心中お察しします案件だな、男にとっては。俺ももう少し若ければ……いや、若くても絶対しないしさせないだろうよ!

 

「わかった、それで山田くんはどうする?特に予定とか無ければ孝士くんたちに付いていてもらいたいんだけど。保護者的な意味で」

 

「そうだな……何もなけりゃ行けるとは思うんだが、もしかしたら当日は少し遅れるかもしれん。少し寄るところが出来るかもしれないんでな」

 

「寄るところ?コンビニとか?」

 

「……まぁ、そんなとこだ。なるべく行けるようにするけど、時間になっても居なかったら先に見て回ってていいぞ?」

 

俺は一応間に合わなかった場合の予防線を張っておく。俺に合わせて孝士くんたちが見て回れなくなるのは良くないからな……それに、俺にはあの“復活の報告”が不穏な気配を醸し出しているように思えてならない。無駄足かもしれないが、調査の必要があると判断するぞ俺は。

 

「わかりましたっ。じゃあ明日、すてあにも伝えおきます!楽しみっすね〜♪」

 

孝士くんはすっかり乗り気みたいだな。多分この調子ならツン子ちゃんもきっと同行してくれるだろうさ。なら、俺も気兼ねなく調査に専念できるな。俺の感が間違っていなければ、この学祭までに必ず何かが起こる……ような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孝士く〜ん、あてなちゃ〜ん!いらっしゃ〜い♪……って、あれぇ?山田くんは〜?」

 

星間祭当日、私は服飾サークルで衣装提供をしてる傍ら学祭実行委員ボランティアとしても活動しています。こう見えても何処に何があるかバッチリ頭に入ってるの、えっへん!でも、孝士くんとすてあちゃんの姿は見えたけど山田くんは……折角頑張ってオシャレしたんだから、見てもらいたかったなぁ…。

 

「山田さんなら少し遅れるかもって言ってました。何かすごい急いで出て行きましたけど、どこに行ったかまではちょっと……」

 

「いや、あれは多分……“女”だなっ」

 

「そうなんだぁ………はいっ!?すてあちゃん!い、今なんて言ったぁ!?」

 

い、今すてあちゃんが聞き捨てならないことを言った気がする〜!?何なのよ、女の子って〜!!そんなの聞いてないんだけどぉ!?

私はすてあちゃんの肩を掴んで、ブンブン揺らします。

 

「うわぁ!?さ、触るなっ!おれは暑いんだっ!!」

 

「ねぇ、知ってるんでしょ!?そんなこと言って本当は山田くんがどこに行ったのか知ってて誤魔化してるんでしょ!?隠してないで教えてよぉ!」

 

「フ、フレイさん!?お、落ち着いて下さいよ!ハイライト消えかかってますからっ!?」

 

うぅ〜!?絶対誤魔化してるよねぇ!だって山田くんは童貞無職なんだよ?それなのに女の子と知り合える訳ないじゃんっ。そりゃまぁコスプレの趣味に理解あるし、意外と身体も筋肉質でガッシリしてるし……顔もどちらかといえば、かっこいい方だけれども……でもでも、そんな社会的地位が底辺の山田くんを誘惑してあげようなんて思う超絶優しい女の子なんて、私くらいだもんっ!絶対絶対そうだもんっ!………はっ!あ、あれ?私……今何してたんだっけ?何か急に意識が遠のいて、すっごい変な夢を見てたような気が……あれっ!?す、すてあちゃんが気絶寸前に〜!?どうして〜っ!?

 

「お、おれ……もう駄目……がくっ」

 

「す、すてあちゃ〜ん!!ご、ごめんねぇ〜!?わ、私ったら本当どうしちゃったのかしらぁ…?」

 

「だ、大丈夫っすよ!!体質的な奴なんで、冷やしてやれば多分回復するっす!ほら、対策用に持ってきたこの保冷剤で!」

 

咄嗟に孝士くんがバッグから保冷剤を2つ取り出して、すてあちゃんのほっぺたに当ててあげる。すると、みるみる元気を取り戻していくすてあちゃん。良かったぁ……!

 

「……はぁ、はぁ……も、もう少しで溶けるかと思ったぞ…!」

 

「あぅ〜!本当にごめんねぇ!?私も何であんなことしたのか、自分でも分からなくて〜っ!?」

 

「だぁああーっ!!そう言いながらまたくっつこうとするなっ!!」

 

違うのよ?本当に申し訳なく思ってるだけで、あわよくばすてあちゃんから山田くんの情報を聞き出そうだなんて1つも考えてないのよぉ?

 

「……あれっ?フレイさん、ポケットから何か落ちましたよ……この小瓶は?」

 

「あっ、それはさっきみねるちゃんから預かったの。甘い匂いがしてリラックス効果があるとか」

 

「……おい、この瓶のラベルに“みねる印のマル秘薬”って書いてあるぞ。これ何かヤバい液体じゃないのか…?」

 

あら〜?そういえばさっきちょっとだけ匂いを嗅いでみて、なんかふわふわした気分になったけどぉ……あれ、何だったのかしらぁ?その後急に山田くんのことが頭から離れなくなってぇ……最近ずっと寝ずに衣装作ってたから疲れてるのかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか。じゃあ目撃証言は無いと?」

 

孝士くんたちが学祭で女神寮の住人たちと会っているのとほぼ同時刻、俺はオッさんに旅行後から頼んでいたとある人物の照会結果を確認していた。その調査結果をオッさんは気怠げに教えてくれる……でも、その表情はどこか怪訝なものだった。

 

「あぁ、そもそも入国の記録すらねぇってよ。そいつ本当に生きてんのか?」

 

「……そのはずなんですけどね、確証は無いですけど」

 

「大体どういう関係なんだぁ?こんなヒゲゴリラと……見るからに悪人面だろ」

 

俺が事前に手渡していた写真を眺めながら、依頼者である俺に写真の人物との関係性を尋ねるオッさん。本当はあまり詳しいことは言いたくないんだけど、警察のつてで調べられたらすぐに分かることだし……素性だけでも言っておくか。

 

「その写真の男、実は海外マフィアのボスなんです。と言っても、もう何年も前に組織ごと壊滅しちゃってるんですけどね」

 

「……全くよぉ、毎度毎度どっからそういう情報仕入れてくるんだか。俺はもう一々驚かねぇぞ」

 

半分呆れながら俺に写真を押し付けてくるオッさん。順応性高いですね、出世しますよ。

というどうでもいい話は置いといて、まぁこれで分かったことがある。まずこの写真の老人は確かに死亡しているということ。そしてその情報を秘匿したままであえて“組織の復活”という状況を作り出した人物がいるということ。それが誰かは不明だけど…。

 

「とにかくこれ以上は調べてもらうのも時間と労力の無駄になりそうなので、後は自分でやります。休日なのにわざわざありがとうございました」

 

「……おい、お前何隠してやがるんだ?」

 

写真を受け取った俺は根掘り葉掘り聞かれる前に立ち去ろうとするも、すぐに呼び止められてしまう。う〜、やっぱそれ突っ込まれるよなぁ……あまり触れてほしくない話題なんだよねぇ。ちょっと誤魔化すか?

 

「……別に何も。俺が世話になってる大学の学祭があるんですよ。俺、そこの住人たちに誘われてて……もう始まってる時間なんで急がなきゃいかんのですよっ」

 

「ほ〜ん………“女”か?」

 

「はぁ……まぁ、確かに女性に誘われましたけど。でもそれが何か…?」

 

「………いや、別にいいんだけどな。引き止めて悪かったな、さっさと行けよ……二度と俺の貴重な休日を邪魔すんじゃねぇぞ」

 

何かすっごい小馬鹿にした顔してるんだけど……まぁ、あんまり突っ込んでこなかったから良かったか。とりあえずこっちの用事は済んだし、少し遅れたけど今から向かうか。

あと、何でかわからないけどすっげぇ嫌な予感がする。さっきから寒気が治らんのよ。多分だけど、ドールちゃんかみねる辺りに超嫌味言われそうなんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………むっ」

 

「ん〜?どうかしたのせれねちゃん?」

 

「……今、山田の気配を感じた。恐らく、近くまで来ている」

 

えっ!?そ、それ本当かしらぁ!じゃあすぐに迎えに行ってあげなくちゃ………迷ってないかを確認するためであって心配してる訳じゃないんですからねっ?

 

「でもぉ、私は孝士くんとすてあちゃんを案内しないといけないし……山田くんも迷ってるかもしれないのよねぇ。どうしようかしらぁ?」

 

ふっふっふ、敢えてここは困っているふりをしておくわぁ。優しい孝士くんなら“それなら俺たちのことは気にしないで迎えに行ってあげて下さいっす!”って、言ってくれるはずだもん。そしたら仕方なく仕方な〜く私が迎えに行く口実が出来るものねぇ〜。そして、あわよくば2人っきりで学祭を回れるし……ぐふふ♪

そんなことを考えていると、私の肩にポンっと手が置かれたわ。んっ?どうしたのせれねちゃん?

 

「その任務、任された。フレイは他の者の案内、よろ」

 

その言葉を最後にぴゅ〜っと走って行っちゃったわ。あぅ……私が迎えに行くはずだったのに〜!真っ先に迎えに行ってこの服も見てもらいたかったにぃ……んふふ♪胸元が強調されてるこの服を見て焦っちゃう童貞の山田くん……可愛いんだろうなぁ♡しょうがないから寮に帰った後、みんなが寝静まった頃に山田くんの布団の中に潜り込んじゃおうかな?

 

「じゃあ山田くんはせれねちゃんに任せて、私たちはあてなちゃんがいるカフェに行きましょっか♪」

 

「えっ、それってもしかしてさっき見た…」

 

「あぁ、あのやけに本格的なメイドカフェだな」

 

あら〜?もう見ちゃったのぉ……ネタバレ厳禁なのにぃ。でも、あてなちゃんのメイドさん姿はきっとうっとりしちゃうんじゃないかしらぁ……きゃっ!

 

「あっ、ごめんなさい!私、うっかりしてて…」

 

少し考え事をしていたら、すれ違い様に女の子と肩が当たってしまったわぁ。私ったら駄目駄目よね!ちゃんと謝らないとっ!

 

「………あっ、もしかして今ぶつかった?いいよ、こっちも気づかなかったから」

 

あ、あれ?何かすっごいクールな女の子なのねぇ。折角可愛い顔してるのにムスッとしてるのもったいないなぁ………あっ、行っちゃった。

でも、何かあの女の子から知ってる香りがしたような気がするんだけど……私の気のせいなのかなぁ?

えっ、それって誰かですって?それは、その……えっとぉ………や、山……い、言わせないでよぉ〜っ!

 

「フレイさん……どうしたんだろう?」

 

「あんま気にするなよ。いつもの百面相だろ」

 

もぉ〜!?それもこれもみんな山田くんが悪いんですっ!帰ったら絶対責任とってもらうからねっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、ようやっと着いたかぁ。意外と時間掛かっちまったな……ってかこの大学、ちょいと広すぎやしねぇか?これ普通なんかねぇ…」

 

オッさんとの会合を終えた俺はそのまま女神寮の住人たちが通っている大学に足を運んだ。学祭ということもあって辺り一面に広がるのは華やかな女子大生、煌びやかな女子大生、愛愛しい女子大生……そして偶に一般客。言葉では言い表せないけど、何かこうグッと込み上げてくるものがあるなぁ……スッゲーいい匂いしそう♡

 

「山田、ニヤニヤするな。気持ち悪い」

 

「えぇ?んなこと言っても、こんだけキャピキャピされちゃあよぉ。パッと見だけど顔良し性格良しスタイル良しと来た!これぞまさしく選り取り見取りってやつだぜ………って!?ふ、不思議ちゃん!?いつからそこに!?」

 

俺は何の気無しに聞こえてきた声に答えてしまった。だが、数秒後にその相手を視認してしまい、俺は事の重大さを痛感させられてしまう。

 

「“この大学、ちょいと広すぎやしねぇか?”辺りから。バッチリ全部聞いた」

 

「いやぁ……たはは、それは気がつかなかったなぁ〜。不思議ちゃんってば忍者にでもなるつもり?」

 

「……さっき言ってたこと、他の者にも共有する」

 

「ちょちょちょい待ち!?タンマ、タンマ!!」

 

無表情のまますぐに報告しに行こうとする不思議ちゃんを俺は必死で止める。あ、危ねえ……在らぬ噂を立てられる所だったぜ。というか、不思議ちゃんってこんな悪戯っぽいことするような子だったか?そういうのってみねるとかドールちゃん辺りがするもんだとばかり思っていたが……?

 

「山田、注文が多い。でも、もし山田さえ良ければ……」

 

「えっ!?それってどういう…」

 

初め俺に文句を言っていた不思議ちゃんだったが、急にしおらしくなり身体をくねらせて頬を赤く染め始める。えっ、何これ……もしかして誘ってる?いやいや何きっかけで!?今までの話のどの辺りでそのスイッチ入ったのぉ!?わ、分からない……分からないこと尽くめだっ!?

 

「月の話、まだ話してないこと教えてくれたら許す」

 

……あっ、そういう感じ?もしかして急にしおらしくなったのもほっぺた赤く染め始めたのも知的好奇心からくる興奮ってこと?うわぁ……俺がっつり勘違いしてたんかぁ。いやそうだよなぁ。確かに不思議ちゃんって無表情だし偶に何言ってんのか分かんねぇ時もあるけど、小柄な割にはスタイル良いしいつも着てる体操服も年季入ってるのか胸元ユルッユルだしブルマもパッツパツだし……あれ、何か無性に不思議ちゃんがエロく見えてきた。これヤバくね?末期か?

 

「……ぜ、是非お話しさせて頂きますわ♡」

 

「ふふふ、ならば即実行しよう。他の者に聞かれるとまずい、せれねが普段隠れ家に使っている"秘密の場所”に案内する」

 

ごめん、俺耐えられなかった。理性とかって頑張っても結構一瞬で崩壊するもんなんだねぇ……無理無理、1回意識し出したらずっと可愛く見えるのが童貞の掟だろ?現に今、不思議ちゃんが可愛くて可愛くて仕方がないもん……多分一過性のものだけど、思い込みって怖いよねぇ。

 

「見つけたわよ〜っ!八月朔日せれね!今日こそ解剖させなさ〜いっ!!」

 

「…何だあれ?」

 

不思議ちゃんに手を引っ張られて連行される直前、遥か遠くから白衣を着た女子大生が不思議ちゃんを目掛けて何か叫んでいた……おっ、可愛こちゃんだフゴォ!?

 

「山田、下心丸見え。反省すべし」

 

うぐぅ……不思議ちゃんに脇腹つねられた。痛ぇ……ちょっと本気でやってない?そんなムスッとした顔しないでよ……折角可愛い顔してるんだからさ。

 

「それにしてもあの子って誰?不思議ちゃんの知り合い?」

 

「むぅ……しつこい奴。山田、予定変更だ。せれねはこのまま逃走を図る。山田はきりやが居る講堂に退避するのが1番近くて最善策。じゃ、よろ」

 

不思議ちゃんはそれだけ言い残して風のように去って行った。心なしか逃げ慣れてるように見えたのは気のせいなのか…?もしかしなくても普段から追いかけ回されてたりするのか。まぁいいか、とりあえずこれで俺も自由に動き回れるな。よしっ、じゃあ不思議ちゃんの要望通り講堂に行ってみるーーー

 

「そうやって事なかれ主義だから、こういう目に遭うんだよ」

 

背中からサクッという小気味の良い音と共にブチブチと肉を引き裂く感触と焼けつくような激痛が走った……いや、地に倒れ伏すまでそのことすら認識出来なかった。それほどまでに鮮やかな手口だったのか……まだだ、せめて自分を刺した犯人の顔だけでも……何か情報を落とさないと……凶器は恐らく、小型ナイフで……くっそ……駄目だ………意識が、遠のいてきやがった……だ、誰なんだよ……この野郎ぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。いやぁ、今年の星間祭も色々あったねぇ…」

 

学祭が終わってボクはみんなと少し遅れて寮に帰ってきた。結局山田くんは来なかったみたいだけど……もしかして何かあったのかな?そんなことを考えながら談話室に入ると、その話題の人物がボクに話しかけてきた。

 

「……おう、おかえりんさい。随分盛況だったらしいじゃんか?」

 

「や、山田くん!もう!どうして来てくれなかったのさ!?何の連絡も無かったから何かあったんじゃないかって、心配したんだよ?」

 

「…はははっ、赤毛ちゃんは心配性だな。確かに学祭に行けなかったのは悪かったし、その件でついさっきまで他の住人たちから糾弾された所だよ。だからこれ以上責めないでくれよ…」

 

そう言って、申し訳無さそうにする山田くん。うぅ……いつもみたいに軽口で返してくれないと調子狂うなぁ!?それに何でかわからないけど、弱々しい山田くん……守ってあげたくなるな〜!

 

「べ、別に責めてるわけじゃ……見に来てくれるって言ってたから、ちょっとだけ楽しみにしてたっていうか……」

 

「……あぁ、何だっけ。確か“男装コンテスト”だったか?そりゃまぁ見なくても結果は分かりきってるもんなぁ……赤毛ちゃん以上にかっこいい女子なんて居ないってさ」

 

「……へぇ〜、そうなんだぁ。ボクは“かっこいい”んだ?ふ〜ん…」

 

「……えっ?あ、あぁ……そう、だけど…あれ、俺何かまずいこと言ったか?」

 

何の気無しにボクをかっこいいと褒める山田くん。くぅ……そりゃそう言うだろうとは思ったけどさ。でも、ボクだって一応女の子なんだから……そこは気を利かせて可愛いって言ってくれても良いじゃんか…。そう感じた時、気づけばボクは少し怒って部屋に戻り始めていた。

 

「あっそ。じゃあそう思ってれば良いんじゃないかなっ!おやすみっ!」

 

「あっ、ちょ…赤毛ちゃん!?待っ……!?」

 

ボクは山田くんの制止も振り切って彼を突き飛ばすと階段を駆け上がって部屋に戻る。山田くんの馬鹿!鈍感!甲斐性無し!女の子に対してかっこいいって何だよっ!?それってあまり褒めてないんだからねっ!?ボクが少女漫画好きなの知ってるくせに気の利いた言葉の1つくらい言ってくれてもいいのに……悔しいなぁ。一度でいいから“かっこいい”じゃなくて“可愛い”って言われてみたいのに……山田くんの馬鹿っ!

 

「……きりや、何故怒ってる?」

 

「せ、せれね……別に、ボクはいつも通りだよっ。うん、いつも通りさ」

 

2階に上がった時に丁度部屋から出てきたせれねと鉢合わせになった。ボクの顔を見るなり突然そう言ってくるせれねに驚いて、慌てて取り繕ったけど……ご飯以外で自分から話しかけてくるなんて珍しいなぁ。

 

「そうは思えない。明らかに怒ってる……山田が何かやらかした?」

 

「なっ……!どうして、山田くんが出てくるのかな?」

 

まさかせれね……気づいてるのかな!?いやいや、ボクは何も言ってないしきっと当てずっぽうだよねっ!?

 

「山田はトラブルメーカー。山田の行く所、常に一悶着あり」

 

「……それは、よく分かる気がする。おまけにデリカシーも無いし、偶に挙動不審になるし……それにこっちの都合なんか全然お構いなしな所も…」

 

「OK、それ以上はやめよう。多分、止まらなくなる」

 

ボクが山田くんへの愚痴をこぼし始めたところで、せれねに止められてしまった。あぅ……もっと話したいこといっぱいあるのにぃ!こんなの生殺しだよぉ!

 

「だが、山田も罪作りな男だ。結局のところ、学祭中は何処にも顔を出さなかったみたい……午後には既に到着してたというのに」

 

「そうなんだ………へっ!?せれね、それ本当!?」

 

ボクはあまりの動揺ぶりを抑えきれず、せれねの肩を掴んでその言葉の真意を問いただす。ブンブン、ブンブン……あっ、せれねが気絶寸前に!?

 

「ぐふっ……脳波に異常発生……行動に支障をきたす恐れあり……がくっ」

 

「うわぁーっ!?せれね、ごめんよ〜っ!!頼むから起きてくれ〜!?」

 

あわわ、あわわわ……!?どうしよ、どうしよぉ!?とりあえずせれねを部屋に運ばないと!山田くんを問い詰めるのはそのあとだよね!

でも、どうして山田くんは学祭に来れなかったって嘘ついたんだろう…?それに、何処にも顔を出さなかったってどういうことなんだろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ〜♪そろそろみんな寝静まった頃かしら?時間は深夜1時、寝込みを襲うには丁度いいわよね〜。それじゃあ、早速山田くんの布団に潜り込も〜っと♡」

 

学祭の最中からずっと計画を練ってたんだもんね〜。来てくれるって約束したのに破った山田くんがいけないんだよ?お仕置きとして“明日の朝まで一緒の布団で寝ちゃうの刑”を執行しなくちゃ!ふふふ、明日の朝起きてびっくりしちゃう山田くんの顔が目に浮かぶなぁ♪

私は他のみんなに気づかれないようにこそこそ部屋を抜け出して、そのまま静かに階段を降りる。孝士くんに悪戯した前科があるから、あてなちゃんに警戒されてるのよね〜。まぁ、山田くん相手ならそれも大丈夫みたいだし……そういえば最近きりやちゃんとせれねちゃんが山田くんのことをよく話してるみたいだけど……もしかして、2人とも山田くんのこと好きなのかしらぁ?

 

「…なんて言ってたら、いつの間にか山田くんの部屋の前に着いちゃった。今更だけど今日の下着……ちょっと派手だったかしら?孝士くんは勿論だけど、童貞の山田くんにも刺激が強すぎるかなぁ?一応ネグリジェなんだけど、これ露出度高めだから透けそうなのよねぇ……よしっ、それじゃあお邪魔しま〜す」

 

意を決して恐る恐る扉を開ける。室内は電気が消えてるから暗くて殆ど見えないけど、前にも入ってるし配置も変わってないはず。確か右側に孝士くんで、左側に山田くんだったわよね?音を立てないように四つん這いで移動するわよ〜。あっ、孝士くんすっかり寝込んじゃってるわね……寝顔も可愛い♡それじゃあ隣の山田くんのだらしない寝顔でも拝見しようかしら……んっ、あれ?

 

「……山田くんの布団、濡れてる?何かしらこれ……汗じゃないわよね?まさかおねしょ!?……なわけないか。でも、ちょっとあったかいわね」

 

結論から言うと、布団の中に山田くんはいなかったわ。でもシーツや布団に染み込むほどの“何か”が残されていたの。私は暗闇の中、指先でそれを拭って匂いを嗅いでみる……すると、すぐにそれの正体が判明したわ。

 

「これって……もしかして“血”!?えっ、どういうことなの…?それより山田くんはどこに!?」

 

頭の中に最悪のケースが過った。血塗れの布団、もぬけの殻、行方不明の山田くん……何か事件に巻き込まれてるの?その時、部屋の外で何かが倒れるような物音がほんの一瞬だけ聞こえた。

 

「今のって……もしかして山田くん?」

 

私は焦る気持ちを抑えて廊下に出る。すると、さっきは閉まっていたはずの玄関の扉が少しだけ開いているのを確認したわ。そして、そこに至るまでの床に点々と血痕が残されているのも……玄関に近づくにつれて血痕の量がどんどん増えていくことも。

 

「あ、あぁ……そんな、山田くん……お巫山戯が過ぎるよぉ……もう悪戯しないから、だから全部嘘だよって言ってよぉ…!」

 

私は自分に言い聞かせるように希望的な言葉を呟く。でも現実は非情で玄関を開けて外にある景色を見た瞬間、私の中の全ての希望は絶望へと姿を変えたわ…。

 

「…っ!?や、山田……くん?こんな所で寝てちゃ、ダメだよ…?ほら、私が布団まで運んであげる、から……ねぇ、起きてよぉ…!」

 

私の目に飛び込んできたのは、玄関を出てすぐのところで地面に倒れ伏している山田くんの姿……声を掛けてもぴくりとも動かない、身体の下にはさっき見た液体が溢れ出ていて……大きな血溜まりが出来上がっていた。呼吸がどんどん浅くなっていく山田くん……このままだと本当に死んじゃう…!

 

「山田くん………ごめんねっ!んんっ…!」

 

私は山田くんを玄関の明かりの下まで引き摺って移動させると、そのまま服を脱がせて出血してる箇所を探すわ。本当はすぐに呼吸を安定させないといけないんだけど、先に出血を止めないと危険だもんね。

 

「えっと……胸とお腹、には傷が無いかしら?じゃあ背中に……山田くん、ちょっと苦しいかもしれないけど身体動かすよ?」

 

私は山田くんの身体をうつ伏せにして背中が見えるように上半身だけ完全に服を脱がせる。すると、前に見た背中の古傷とは別に新しく刺された傷があるのを発見したわ。包帯が巻いてあるから一度手当てしたみたいだけど、血が滲んでるってことは傷口がまた開いちゃったのね……早く止血しないと!

 

「落ち着け、私……そうだ、部屋にタオルがあったはず!あと替えの包帯も……ちょっとだけ待っててねっ!」

 

私は部屋に戻ってタオル、談話室に置いてある救急箱の中から包帯を取り出すと急いで山田くんのもとへ戻るわ。あぁ、今にも消えてしまいそうなくらい虚ろな目をしてる……絶対、助けるからっ!

 

「止血のやり方って……傷口に布を当てて、上から強く押して圧迫するのね。山田くん、痛いけど我慢してねっ」

 

私は素人ながらも必死に傷口を押さえつけて止血を試みる。でも…全然上手くいかない………えっ、これ…手?

 

「……ド、ドールちゃん……そのまま、押さえて……」

 

「や、山田くん…!?大丈夫なの!?」

 

「……い、今のところはね。でも、ちゃんと止血、しなかったから……ぐぅ!?」

 

よ、良かった……ちゃんと、生きててくれたんだ……!うぅ……死んじゃうかと思ったよぉ〜!?

 

「ぐすっ……そうなんだぁ、でも心配かけたから許さないっ」

 

「……いや、今それどころじゃ」

 

力無く抵抗してくる山田くん。でもそれじゃ私の気が収まらないもの……だから、こうしちゃうもんねっ!

 

「ダ〜メ♪みんなが起きてくるまでずっと一緒だからっ。絶対離さないからね♡」

 

「……せめて完全に止血してからにしてくれよ、そのテンション」

 

んふふ、軽口で返せるってことはだいぶ元気になったみたいね♪いいよ……山田くんとならいつまでも一緒にいられる気がするよ♡

動けるようになったら廊下の血痕と血塗れの布団、綺麗にしないとね?

 

「なぁ、ドールちゃん。詳しくは言えないんだけど……気づいてくれてありがとな。多分、あのままだと誰にも気づかれないで、息絶えてたと思うからさ…」

 

「……良いですよ、山田くんの秘密主義は今に始まったことじゃないですから。話す気になるまで気長に待つわ」

 

「……そうか。悪いな…」

 

そう言って、再び意識を失ってしまった山田くん………あっ、今度は普通に寝ちゃったんだね。さっきまであんなに緊迫した状況だったのに、呑気だなぁ……それは私も一緒かな。

私は寝ている山田くんの髪を撫でる。男の子なのに意外とサラサラしてるんだね。でも、ちょっと伸び過ぎだよ。前髪とか目に掛かってるし、襟足も外にはねてるもん。後で切ってあげようかな?あぁ、何か色々なことしてあげたくなっちゃうの……これってどういうことなのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早乙女 あてな
星間女子大学1回生。家政学部児童科に専攻している。女神寮に入寮したのは住人の中でも割と直近で、唯一の良心とも言えるほどの良識人。しかし、これまでの人生の中で男性と関わることが殆ど無かった為か男性に対して極度の苦手意識を持っており、触れることはおろか視界に入れることすら困難だった(孝士との触れ合いによって何となく改善されてきているが、山田の存在も相まってそれすら時々疑いたくなるレベル)。興奮が極度に達すると鼻血を噴射する癖があるが、本人はこれを酷く悩んでいる。

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