もしもヴァーリがドラグソボールのファンで、かつHIPのYOUに欲望を持ったら 作:ベジタブル
諸事情で期間が空くので、予約投稿しました。
堕天使に狙われている状態であり、アーシアは遠慮していたが、町の散策に出かけた。仮にも敵地で、白昼堂々堕天使がうろつくこともないだろう。それに、白龍皇の名にかけて、アーシアは守ってみせるさ。
黒歌の外用の私服を借りたため、いわゆる萌え袖となっている。ロングスカートということで、あまり肌を見せないシスターらしい服装だ。そんなアーシアにも、いつか駒王学園の制服でも着てもらって、ヒップが見えるか見えないかという姿を見せてほしいものだ。いやはや、日本の女子高生というのは奥が深い格好をしている。
『赤いのと、酒とやらに吞まれたい……』
日課のトレーニング以外、最近相棒の元気がない。
なるほど、宿命のライバルと会いたかったのか。
「ヴァーリさん!?」
楽しそうに町をキョロキョロしていたアーシアの手を取って、感じ取った赤の気配に向かって歩く。
「1週間ぶりだな」
「なっ! あんたは!?」
白昼堂々、接触してくるとは思っていなかったらしい。
構えを取ろうとしているところを手で制する。
咄嗟に同行人を庇うように前に出て、戦闘態勢に入ろうとするのは、裏の世界に少しずつ馴染んできた証拠だ。身内を守ろうとするのは彼本来の気質だと思うが、好感が持てるじゃないか。
「君も、相棒からはいろいろ聞いているようだな」
「ああ。まあ……」
同行人を気にしているらしく、言いづらそうにしている。休日ということもあって、ヒューマンの女子と行動を共にしていたようだ。三つ編みで眼鏡をかけた女子は、俺の下半身をじっと見つめた。
「ふふっ、あなたも童貞なのね」
「なにっ! まさかスカウター持ちか!」
「ヴァーリさんって童貞だったんですね!」
「まじか。イケメンでも童貞だったのか」
一瞬だったが、気を探られた感覚だ。しかも男のアレを見られて微笑ましく思う視線は、ラヴィニアと一緒にお風呂に入らされた時に味わったものだ。くっ、この俺がかわいいなどと。
「ねぇ。兵藤、この外人さんたちとはお知り合い?」
「知り合い、なのか?」
「運命(さだめ)のライバルだな」
それはもう、ジョジョとDIOに匹敵するくらいの。
「あー、この人からも兵藤って狙われてるの?」
「いや、もう少し成長してからがいいな」
「ちっげーよ! 俺は木場にもこいつにも狙われてねぇ! それとお前も紛らわしいことを言うなぁ! 美少女シスターが絶望しているじゃねぇか!……ぜぇぜぇ」
アーシアがわなわなと震えているが、どうやら俺は何か失言をしたらしい。イッセーは分かっているようだが、流石は俺のライバルだ。
「なんだ。絶滅危惧種ってわけね」
「確かに。ルシファーの血を引く者はそうはいないな」
「あー、そういう意味じゃなくてだな」
微笑ましく優しい顔を向けてきた眼鏡女子は、アーシアに何か用があるようで、2人で少し離れていった。特に、悪意というものは感じられないし、大丈夫だろう。
「んで。あんたって、なんなんだ。部長に聞いてもどこに所属しているか分からないって言われたぞ?」
部長というのはリアス・グレモリーか。
「俺の名はヴァーリ・ルシファー、魔王ルシファーの血を引き、天体魔法を使いこなす、白龍皇の名を受け継ぎし者だ。神の子を見張る者に所属していることにはなっている」
「えーと。中二病はともかく、悪魔で堕天使の仲間なのか……? じゃあなんであの時、堕天使を……?」
うんうんと頭を悩ませながら、情報を噛み砕いている。
「あいつらははぐれ堕天使でね。おそらく、神器持ちの調査という名目でこの町に来ているのだろうな。本人たちは神器を奪う目的だが」
「神器を……って取られると死ぬのか……」
彼の相棒が補足を入れてくれたようで、表情が青ざめた。といっても、奪ったところで相性がわるければ、それこそ宝の持ち腐れだ。仮に神器が適応しなければ、奪った者自身が死に至るケースすらある。そういえば、アザゼルは趣味で人工神器をいくつか作っているが、その
「いまだ目覚めていないが、あの女子も神器持ちらしい」
「えっ、桐生が?」
龍脈があるこの駒王町が合っているのか、一般家庭の生まれでありながら、身体の魔力の流れがスムーズに行き渡っている。もし師がいれば、ラヴィニアやルフェイのような、いい魔法使いになっていただろう。
「裏の世界のことについては?」
「いや、あいつは普通の幼馴染だよ。今日だって、俺の気分転換に連れ出してくれたみたいで」
転生したとはいえ、1度殺されたばかりだ。はぐれ悪魔討伐の時は気丈に振舞っていたとはいえ、先日の堕天使の光力に怯える姿からすれば、彼の傷は完全には癒えていないのだろう。それさえ乗り越えれば、彼は一皮剥けるのではないか。
「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが、仲間という存在、らしいぞ」
「ヴァーリ、お前って結構いいやつなんだな」
ドラグソボールのベジッタだって、登場当時は冷酷だったが、ヤサイ人を滅ぼした仇敵がいなくなった後は、地球の生活で絆されていった。ただひたすら強くなることを選んできた彼も、穏やかな心を得た。
「自覚はないがな」
俺は、アザゼルや鳶雄たちと出会わなければ、いまだ孤高で
「部長からは白龍皇には気をつけろって言われたけど、ヴァーリとなら仲良くできそうな気がする」
「フッ、君とは悪魔人生で長い付き合いになりそうだな」
イッセーは強くなれる。このエリートの俺に追いつくには何十年かかるか分からないが、面白い進化を見せてくれるだろう。どんどん強くなっていく鳶雄たちを見ているような気分だ。
「ならば。彼女を守れるくらいには、強くなりたまえ」
「おう! お前にもいつか勝ってみせるからな!」
アーシアも、同年代の女子と楽しく話していて、ヒューマンとして普通に暮らせていて、あと100年を生きるかどうかだろう。たった100年だが、責任を取るまでは守ってみせるさ。
****
悪魔で赤龍帝になって、そろそろ1週間だ。
リアス部長に、朱乃さんと小猫ちゃん、ついでに木場という悪魔の仲間ができた。さらに、ヴァーリという今代の白龍皇にも何度か会ったりしたんだが、ていうか、あいつってこの町に住んでいるのか?
そうそう。
ヴァーリから聞いたはぐれ堕天使の目的を夜に伝えると、部長は眷属全員に注意喚起した。特に俺や木場は神器所有者だしな。部長と木場は校舎の守りを固めると言っていて、俺には小猫ちゃんが同行してくれることになった。
仕事とはいえ、デートみたいで嬉しいぜ。
本人はそんな気はないだろうから。トホホ
それにしてもまさか、桐生から依頼が来るなんてな。幼馴染とはいえ、悪魔の仕事に関しては契約の一つも取れていないから、ハーレム王を目指すために今日こそは成功してみせる!
でも、あいつ、俺が悪魔って知ったらどんな反応するだろう。まあ、なんだかんだ、すんなりと受け入れてくれそうなのだが。
「こんにちは~! 悪魔ですけど~」
魔力の問題で転移できないので、小猫ちゃんと自転車2人乗りで家までやってきた。大体の場合はチラシの場所、つまり依頼者の自室に転移するものらしいが、チャイムを押して会うという悪魔稼業だ。
そういや、あいつの家って初めて来るな。
幼馴染の男の子といっしょに、俺の家に来てたし。
「イッセー先輩、血の臭いです」
「は、はぁ!?」
嗅覚の優れている小猫ちゃんがそう言うなら、本当なのだろう。
「イッセー先輩! まずは部長に」
「んな暇あるか!」
小猫ちゃんの静止を振り切って、鍵の開いていたドアを急いで開ける。
「っぶ……」
夜目が効く悪魔の目には鮮明に見えてしまった。
全身をズタズタに切り裂かれ、十字架のように打ち付けられている。おびただしいほどの血液が床を濡らしており、もう1人の死体は天井を見上げていた。たぶん、桐生の両親だ……
「くそっ!」
俺が転移できていれば、もう少し早く来たなら、こんな結末は変わったのではないか?
苛立ちで壁を叩くと、自然と赤龍帝の籠手が発現していた。思ったより大きな音が出てしまい、それに気づいたのか、こちらへ近づいてくる足音と鼻歌が聞こえた。
小猫ちゃんではなく、敵だ。
「んん~? これはこれは、あ~くま君ではあ~りませんか~」
返り血のついた神父服に身を包んだ男が、嗤う。
「お前がっ! この人達をっ!」
「yes! 俺の名はフリード・セルゼン、とある悪魔祓いの組織に所属する末端でございます!」
その悪魔祓いがどうして、一般人を殺害するんだ。
『Boost!!』
「おおっ! 神器持ちとは、怖い怖い。なんか抵抗されたから、殺しちゃったんですよね~?」
桐生に、裏の世界のことが伝わることを躊躇した。
全部全部、俺のせいじゃないか。
『罪の意識に呑まれるな。今お前がすべきことはなんだ。まだあの小娘は生きている可能性が高い』
どこか焦りながら、そう伝えてくれた。
サンキュ、相棒。
「おい、この家にもう1人いたはずだ! そいつはどこだ!」
「受け渡ししてきたぜっ! さすが俺って仕事ができる男だろっ!」
「イッセー先輩、動かないで」
小猫ちゃんの声がすると、目の前の男の姿が消えた。
いや、攻撃したのか。
「いってー! 腕折れちゃったじゃないか!」
咄嗟に、左腕でガードしたのか、致命傷は免れているようだ。
「小猫ちゃん、外に堕天使は!?」
「いました。が、白龍皇と戦闘しています」
ヴァーリも来てくれているのか。
味方になるとこんなに心強いなんてな。
『Boost!!』
「なになに? せっかく俺が頑張ったのにあいつら失敗しちゃってるわけぇ?」
「だから、私たちでこいつを」
「ああ!……なにそれ銃か!」
慌てて先ほどから貯めていた倍化を解放しようとしたら、急に足が焼ける感覚がした。ちくしょう、また光力かよ。どいつもこいつも、悪魔の弱点を突いてきやがる。痛みと涙でぼやけそうになるが、必死に相手を睨む。
『だったら力を解放してみるのだな』
相棒がそう助言してくれたので、従うことにする。
「イッセー先輩!」
「大丈夫、だっ!」
『Explosion!!』
立ち上がったことで、血は噴き出すが、光力による痛みは治まった。なるほど、俺がまだ未熟な悪魔だからこんなに痛いのだ。例えば、外で戦っているヴァーリには、この程度の光力なんて効きもしないのだろう。
「ガッツあるじゃないの! これならどうっ!」
「もう効くか!」
それに、赤龍帝の籠手でガードすれば、その光力の剣では斬ることはできない。
「小猫ちゃん、今だ!」
「えいっ!」
隙だらけの身体に、悪魔の戦車の一撃だ。
並みの人間には耐えられないだろう。
「やったか?」
「……逃げられたようです」
小猫ちゃんのパワーで、身体ごと壁をぶち破ったとはいえ、まさかあそこから立ち上がって逃げたのか。どんだけタフなんだよ。いや、今はそれより桐生の無事を確認することが先か。
『相棒、急いだほうがいい。先ほどから嫌なオーラを感じる』
「いや。確かに感じるけどさ。ヴァーリなんじゃないのか?」
急いで家から出て、見た光景は。
「な、なんで……」
ヴァーリが、膝をついている姿だった。
あんなに強いヴァーリが、どうしてなんだ。