もしもヴァーリがドラグソボールのファンで、かつHIPのYOUに欲望を持ったら   作:ベジタブル

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 お二方、高評価ありがとうございます。
 諸事情で期間が空くので、予約投稿しました。


第4話

 堕天使に狙われている状態であり、アーシアは遠慮していたが、町の散策に出かけた。仮にも敵地で、白昼堂々堕天使がうろつくこともないだろう。それに、白龍皇の名にかけて、アーシアは守ってみせるさ。

 

 黒歌の外用の私服を借りたため、いわゆる萌え袖となっている。ロングスカートということで、あまり肌を見せないシスターらしい服装だ。そんなアーシアにも、いつか駒王学園の制服でも着てもらって、ヒップが見えるか見えないかという姿を見せてほしいものだ。いやはや、日本の女子高生というのは奥が深い格好をしている。

 

『赤いのと、酒とやらに吞まれたい……』

 

 日課のトレーニング以外、最近相棒の元気がない。

 なるほど、宿命のライバルと会いたかったのか。

 

「ヴァーリさん!?」

 

 楽しそうに町をキョロキョロしていたアーシアの手を取って、感じ取った赤の気配に向かって歩く。

 

「1週間ぶりだな」

「なっ! あんたは!?」

 

 白昼堂々、接触してくるとは思っていなかったらしい。

 構えを取ろうとしているところを手で制する。

 

 咄嗟に同行人を庇うように前に出て、戦闘態勢に入ろうとするのは、裏の世界に少しずつ馴染んできた証拠だ。身内を守ろうとするのは彼本来の気質だと思うが、好感が持てるじゃないか。

 

「君も、相棒からはいろいろ聞いているようだな」

「ああ。まあ……」

 

 同行人を気にしているらしく、言いづらそうにしている。休日ということもあって、ヒューマンの女子と行動を共にしていたようだ。三つ編みで眼鏡をかけた女子は、俺の下半身をじっと見つめた。

 

「ふふっ、あなたも童貞なのね」

「なにっ! まさかスカウター持ちか!」

「ヴァーリさんって童貞だったんですね!」

「まじか。イケメンでも童貞だったのか」

 

 一瞬だったが、気を探られた感覚だ。しかも男のアレを見られて微笑ましく思う視線は、ラヴィニアと一緒にお風呂に入らされた時に味わったものだ。くっ、この俺がかわいいなどと。

 

「ねぇ。兵藤、この外人さんたちとはお知り合い?」

「知り合い、なのか?」

「運命(さだめ)のライバルだな」

 

 それはもう、ジョジョとDIOに匹敵するくらいの。

 

「あー、この人からも兵藤って狙われてるの?」

「いや、もう少し成長してからがいいな」

「ちっげーよ! 俺は木場にもこいつにも狙われてねぇ! それとお前も紛らわしいことを言うなぁ! 美少女シスターが絶望しているじゃねぇか!……ぜぇぜぇ」

 

 アーシアがわなわなと震えているが、どうやら俺は何か失言をしたらしい。イッセーは分かっているようだが、流石は俺のライバルだ。

 

「なんだ。絶滅危惧種ってわけね」

「確かに。ルシファーの血を引く者はそうはいないな」

「あー、そういう意味じゃなくてだな」

 

 微笑ましく優しい顔を向けてきた眼鏡女子は、アーシアに何か用があるようで、2人で少し離れていった。特に、悪意というものは感じられないし、大丈夫だろう。

 

「んで。あんたって、なんなんだ。部長に聞いてもどこに所属しているか分からないって言われたぞ?」

 

 部長というのはリアス・グレモリーか。

 神の子を見張る者(グリゴリ)の中でも俺の存在は噂程度に留まっているからな。

 

「俺の名はヴァーリ・ルシファー、魔王ルシファーの血を引き、天体魔法を使いこなす、白龍皇の名を受け継ぎし者だ。神の子を見張る者に所属していることにはなっている」

「えーと。中二病はともかく、悪魔で堕天使の仲間なのか……? じゃあなんであの時、堕天使を……?」

 

 うんうんと頭を悩ませながら、情報を噛み砕いている。

 

「あいつらははぐれ堕天使でね。おそらく、神器持ちの調査という名目でこの町に来ているのだろうな。本人たちは神器を奪う目的だが」

「神器を……って取られると死ぬのか……」

 

 彼の相棒が補足を入れてくれたようで、表情が青ざめた。といっても、奪ったところで相性がわるければ、それこそ宝の持ち腐れだ。仮に神器が適応しなければ、奪った者自身が死に至るケースすらある。そういえば、アザゼルは趣味で人工神器をいくつか作っているが、その候補者(じっけんたい)は決まったのだろうか。

 

「いまだ目覚めていないが、あの女子も神器持ちらしい」

「えっ、桐生が?」

 

 龍脈があるこの駒王町が合っているのか、一般家庭の生まれでありながら、身体の魔力の流れがスムーズに行き渡っている。もし師がいれば、ラヴィニアやルフェイのような、いい魔法使いになっていただろう。

 

「裏の世界のことについては?」

「いや、あいつは普通の幼馴染だよ。今日だって、俺の気分転換に連れ出してくれたみたいで」

 

 転生したとはいえ、1度殺されたばかりだ。はぐれ悪魔討伐の時は気丈に振舞っていたとはいえ、先日の堕天使の光力に怯える姿からすれば、彼の傷は完全には癒えていないのだろう。それさえ乗り越えれば、彼は一皮剥けるのではないか。

 

「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが、仲間という存在、らしいぞ」

「ヴァーリ、お前って結構いいやつなんだな」

 

 ドラグソボールのベジッタだって、登場当時は冷酷だったが、ヤサイ人を滅ぼした仇敵がいなくなった後は、地球の生活で絆されていった。ただひたすら強くなることを選んできた彼も、穏やかな心を得た。

 

「自覚はないがな」

 

 俺は、アザゼルや鳶雄たちと出会わなければ、いまだ孤高で復讐者(リベンジャー)だったかもしれない。もちろん、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーとの決着は付けなければいけないとは思っている。

 

「部長からは白龍皇には気をつけろって言われたけど、ヴァーリとなら仲良くできそうな気がする」

「フッ、君とは悪魔人生で長い付き合いになりそうだな」

 

 イッセーは強くなれる。このエリートの俺に追いつくには何十年かかるか分からないが、面白い進化を見せてくれるだろう。どんどん強くなっていく鳶雄たちを見ているような気分だ。

 

「ならば。彼女を守れるくらいには、強くなりたまえ」

「おう! お前にもいつか勝ってみせるからな!」

 

 アーシアも、同年代の女子と楽しく話していて、ヒューマンとして普通に暮らせていて、あと100年を生きるかどうかだろう。たった100年だが、責任を取るまでは守ってみせるさ。

 

 

 

****

 

 悪魔で赤龍帝になって、そろそろ1週間だ。

 

 リアス部長に、朱乃さんと小猫ちゃん、ついでに木場という悪魔の仲間ができた。さらに、ヴァーリという今代の白龍皇にも何度か会ったりしたんだが、ていうか、あいつってこの町に住んでいるのか?

 

 そうそう。

 

 ヴァーリから聞いたはぐれ堕天使の目的を夜に伝えると、部長は眷属全員に注意喚起した。特に俺や木場は神器所有者だしな。部長と木場は校舎の守りを固めると言っていて、俺には小猫ちゃんが同行してくれることになった。

 

 仕事とはいえ、デートみたいで嬉しいぜ。

 本人はそんな気はないだろうから。トホホ

 

 それにしてもまさか、桐生から依頼が来るなんてな。幼馴染とはいえ、悪魔の仕事に関しては契約の一つも取れていないから、ハーレム王を目指すために今日こそは成功してみせる!

 

 でも、あいつ、俺が悪魔って知ったらどんな反応するだろう。まあ、なんだかんだ、すんなりと受け入れてくれそうなのだが。

 

「こんにちは~! 悪魔ですけど~」

 

 魔力の問題で転移できないので、小猫ちゃんと自転車2人乗りで家までやってきた。大体の場合はチラシの場所、つまり依頼者の自室に転移するものらしいが、チャイムを押して会うという悪魔稼業だ。

 

 そういや、あいつの家って初めて来るな。

 幼馴染の男の子といっしょに、俺の家に来てたし。

 

「イッセー先輩、血の臭いです」

「は、はぁ!?」

 

 嗅覚の優れている小猫ちゃんがそう言うなら、本当なのだろう。

 

「イッセー先輩! まずは部長に」

「んな暇あるか!」

 

 小猫ちゃんの静止を振り切って、鍵の開いていたドアを急いで開ける。

 

「っぶ……」

 

 夜目が効く悪魔の目には鮮明に見えてしまった。

 

 全身をズタズタに切り裂かれ、十字架のように打ち付けられている。おびただしいほどの血液が床を濡らしており、もう1人の死体は天井を見上げていた。たぶん、桐生の両親だ……

 

「くそっ!」

 

 俺が転移できていれば、もう少し早く来たなら、こんな結末は変わったのではないか?

 

 苛立ちで壁を叩くと、自然と赤龍帝の籠手が発現していた。思ったより大きな音が出てしまい、それに気づいたのか、こちらへ近づいてくる足音と鼻歌が聞こえた。

 

 小猫ちゃんではなく、敵だ。

 

「んん~? これはこれは、あ~くま君ではあ~りませんか~」

 

 返り血のついた神父服に身を包んだ男が、嗤う。

 

「お前がっ! この人達をっ!」

「yes! 俺の名はフリード・セルゼン、とある悪魔祓いの組織に所属する末端でございます!」

 

 その悪魔祓いがどうして、一般人を殺害するんだ。

『Boost!!』

 

「おおっ! 神器持ちとは、怖い怖い。なんか抵抗されたから、殺しちゃったんですよね~?」

 

 桐生に、裏の世界のことが伝わることを躊躇した。

 全部全部、俺のせいじゃないか。

『罪の意識に呑まれるな。今お前がすべきことはなんだ。まだあの小娘は生きている可能性が高い』

 

 どこか焦りながら、そう伝えてくれた。

 サンキュ、相棒。

 

「おい、この家にもう1人いたはずだ! そいつはどこだ!」

「受け渡ししてきたぜっ! さすが俺って仕事ができる男だろっ!」

 

「イッセー先輩、動かないで」

 

 小猫ちゃんの声がすると、目の前の男の姿が消えた。

 いや、攻撃したのか。

 

「いってー! 腕折れちゃったじゃないか!」

 

 咄嗟に、左腕でガードしたのか、致命傷は免れているようだ。

 

「小猫ちゃん、外に堕天使は!?」

「いました。が、白龍皇と戦闘しています」

 

 ヴァーリも来てくれているのか。

 味方になるとこんなに心強いなんてな。

『Boost!!』

 

「なになに? せっかく俺が頑張ったのにあいつら失敗しちゃってるわけぇ?」

 

「だから、私たちでこいつを」

「ああ!……なにそれ銃か!」

 

 慌てて先ほどから貯めていた倍化を解放しようとしたら、急に足が焼ける感覚がした。ちくしょう、また光力かよ。どいつもこいつも、悪魔の弱点を突いてきやがる。痛みと涙でぼやけそうになるが、必死に相手を睨む。

 

『だったら力を解放してみるのだな』

 

 相棒がそう助言してくれたので、従うことにする。

 

「イッセー先輩!」

「大丈夫、だっ!」

『Explosion!!』

 

 立ち上がったことで、血は噴き出すが、光力による痛みは治まった。なるほど、俺がまだ未熟な悪魔だからこんなに痛いのだ。例えば、外で戦っているヴァーリには、この程度の光力なんて効きもしないのだろう。

 

「ガッツあるじゃないの! これならどうっ!」

「もう効くか!」

 

 それに、赤龍帝の籠手でガードすれば、その光力の剣では斬ることはできない。

 

「小猫ちゃん、今だ!」

「えいっ!」

 

 隙だらけの身体に、悪魔の戦車の一撃だ。

 並みの人間には耐えられないだろう。

 

「やったか?」

「……逃げられたようです」

 

 小猫ちゃんのパワーで、身体ごと壁をぶち破ったとはいえ、まさかあそこから立ち上がって逃げたのか。どんだけタフなんだよ。いや、今はそれより桐生の無事を確認することが先か。

 

 

『相棒、急いだほうがいい。先ほどから嫌なオーラを感じる』

「いや。確かに感じるけどさ。ヴァーリなんじゃないのか?」

 

 

 急いで家から出て、見た光景は。

 

「な、なんで……」

 

 ヴァーリが、膝をついている姿だった。

 あんなに強いヴァーリが、どうしてなんだ。

 

 


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