もしもヴァーリがドラグソボールのファンで、かつHIPのYOUに欲望を持ったら 作:ベジタブル
イッセーにああ言った手前、残りのはぐれ堕天使を掃討しておこうかと思い、どこかへ飛んでいく堕天使を追いかけた。
町外れの教会を根城にしていたようだが、急に動きを見せたのだ。
「結局、後手に回ってしまったな。まさか教会勢力のはぐれまでいたとは」
住宅街で何かを探しながら、悪意を持ってうろうろしている神父たちを魔力で消し飛ばしていく。慌てて光力の剣や小銃を取り出したが、空中でも戦える悪魔を相手にするには少々不十分な武装だと思うのだが。
アーサーのように、飛ぶ斬撃というものを身につけてから、悪魔に剣で立ち向かってほしい。
『この時代に、そうそう英雄クラスは生まれないさ』
もし仮に強さランキングをつけるとしたら、1000位までは相変わらずなのだが、それに満たない者たちが全体的に弱くなっている。まあ、それが今の世の中が比較的平和だという証拠だろう。主神はともかく、神たちがいる限り、飽きさせてはくれないだろうがな。
慢心はしないが、このはぐれ堕天使たちはやはり大した戦闘力でもない。その光力も、アザゼルの何千分の一かどうか。
「やっと追いついたぞ」
「げっ、もう来たっすか!」
「悪魔か! ここはどうにか抑えておく。そのうちに神器を!」
ゴスロリの堕天使、それに赤コートの堕天使、あともう1人は教会にいるらしい。2人がかりでも負けるつもりはないが、この俺相手に時間稼ぎとは、一体何秒持つことだろうか。
「ほう、勝ち目があるとでも?」
「ええ、そうね」
だが相手の余裕はいまだ崩れない。
何か隠し玉でもあるのだろうか。
「だからこれを使うわ」
おっぱいに挟んでいたらしいお札から黒い蛇が飛び出し、自分自身の全身に絡みつく。なんだこのパワーは、一体どれほど上昇していくか分からない。
これはまさしく無限!
『
生前の相棒すらも超えるドラゴンのことか。俺も知識としては知っているが、確かほとんど次元の狭間から出てこなかったはずだ。
「なにこれ! すごい! 力が溢れる!」
『いかんな。不完全な術式によって、完全に暴走している。このままでは周囲を巻き込んで自爆するぞ!』
結界を貼っているが、ラヴィニアやルフェイほど強固とは言えない。ここは住宅街で、一体どれほどのヒューマンを巻き込んだ爆発になるかどうか分からない。
やれやれ、俺も随分と甘くなったものだ。
『ああ。夢幻に立ち向かう以上、いずれは無限も超えねばならんな!』
「いくぞ、アルビオン」
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』
これが禁手化した状態、
『それ以上はメタいぞ、ヴァーリ』
ともかく、カッコいい姿だ。
『Divide! Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!』
堕天使の腹に拳を打ち込み、そのパワーを半減していく。
幼少期には神器を使いこなせていたからか、半減だけを行使するトレーニングをしていなかったのが大失態だ。ある程度の吸収を行ってしまっている。余剰な力を翼から排出しているが、それ以上のパワーが入り込んでくる。
相棒にも負担をかけてしまっているだろう。
『ヴァーリ、もう少しだ!』
部分的とはいえ、さすがに神格の力だ。
抑え込むのには時間がかかる。
先に、絡みついた蛇が耐えきれなくなり、砕けて塵になっていった。堕天使は飛ぶ力すら失って地面に落ちていく。
根比べだったが、なんとか勝ったか。
「ぐぅ……」
『くっ、あの能力のほうだったなら...』
禁手化は解けて、白龍皇の光翼だけが残ったが、その光は弱々しい。あとめっちゃ気持ち悪い。あれだ、ラーメンとチャーハンと餃子に加え、チャーシュー丼を食べた時くらいの満腹感だ。
仙術で、あり余った気を龍脈に放出していく。
無限の龍神の気、まさかここまで身体を蝕むとは。
「カラワーナ、無事っすか!」
「あ、ああ。なんとかな」
ゴスロリ堕天使が誰かを抱えてきたが、昼間に会った眼鏡女子か。アーシアに代わる神器として、選ばれてしまったようだ。彼女の家族はもう恐らく。
「そのヒューマンは置いていけ」
後手に回ってしまった責任だ。
死ぬ気で取り返すとしよう。
「うっ!グレモリーたちまで来たし。逃げるっすよ!」
「行くなら私は置いていって。動けそうにない」
ああもうと悪態をつきながら眼鏡女子を地面に寝かせて、堕天使のほうを抱え直す。神器より、仲間のほうを優先したらしい。
急いで走ってくるのは、イッセーと白音か。
「おい! ヴァーリ、桐生、大丈夫か!
なんか相棒は無限だとかなんとか...」
「気を失っているだけさ。俺は吐きそうなだけ……」
『オーフィスの力の一端に触れて、よく無事だったな。白いの』
『白龍皇にとって。このくらい、どうということはない』
イッセーは心底安心したようで、地面にへたり込んだ。フッ、この俺がこの程度で、あっ、やっぱきつい。
「大丈夫! 2人共!」
「ええ。私たちは……」
「部長、こいつは俺や桐生の恩人なんです!」
いまだ俺に警戒しつつ、リアス・グレモリーたちは降り立った。
一触即発な雰囲気に、イッセーは俺を擁護してくれたようだ。この状態でも俺は負けるつもりもないが、戦う必要性もないだろう。
「とりあえず、付いてきてもらいましょうか」
「ああ。だがまずトイレに行かせてほしい」
同情するような、優しい目に変わった。
腹痛の痛みは誰もが分かってくれるようだ。
****
黒猫を抱えたアーシアが校門の前で待ってくれていた。
リアス・グレモリーたちに案内された先は、彼女たちの部室らしいが、豪華な調度品が並んでおり、悪魔の貴族なのだということを感じさせてくる。
ソファの1つに、桐生という眼鏡女子が寝かせられている。
「まずは自己紹介といきましょうか。リアス・グレモリーよ。グレモリー公爵の次期当主で、この土地の管理を任せられているわ」
何度か見かけたが、なかなかいいヒップだ。
それに、おっぱいもイッセー好みだろう。
「聞いていると思うが、ヴァーリ・ルシファーだ。ヒューマンの母と、前魔王の血を引く父との間に生まれたハーフで、今代の白龍皇でもある」
姫島の女王が出してくれた、たぶん、高価なのだろう紅茶で喉を潤す。
「はぁ。お兄様に調査を頼んでいなければ、信じられないくらいの生い立ちね」
「えっ、お前ってマジでそうだったの!?」
彼女の兄と言えば、現ルシファーか。
超越者に名を連ねる彼とも、手合わせしたいものだ。
「といっても、白龍皇に誇りはあれど、ルシファーであることにこだわりはないさ。あの頃は周りが敵ばかりだったのでね」
「ヴァーリさん……」
アーシアをはじめ、気にしてくれているようだが、もう過ぎた過去のことだ。母もどこかで幸せに暮らしているとは風の噂で聞いた。その母の安寧のためにも、リゼヴィムは滅ぼすつもりだ。
しかし、姫島は、バラキエルといまだやり直せると思う。迷いがあるというのは、完全に割りきってはいない証拠だ。
「運よくアザゼルに拾われてね。今は
「堕天使総督、ですわね」
「そっちの
「アーシア・アルジェントって言います。私は教会を追放された身でして……」
「教会を、か……」
そちらの騎士君も思い詰めた表情をしたし、実力は確かなのだが、何か訳アリの眷属が揃っているようだ。女王の姫島や、戦車の白音に関しては、それぞれ事情は分かっているがな。
「さっきから気になっていたのだけれど、アーシアさんも神器持ちなのね」
アーシアには先程から、白龍皇の光翼自体に回復をかけてもらっている。そして、神器が直接触れたことによってか、その形は少し変化していた。
『ああ。
『なるほど。ユーフェミアか。彼女が表に出てこれるほどの所有者は初めてなのではないか?』
二天龍の会話に、アーシアの神器である指輪に誰もが注目した。
『アルビオン様とドライグ様、なのですね』
「ユーフェミア、さん?」
ピンクの小さな宝石から、女性の声が聞こえた。
やはりドラゴン系神器か。
「メスのドラゴンらしいな」
「おい、なんか怯えてないか?」
『生前はよく喧嘩していたからな』
『その余波に巻き込んだこともあるかもしれん』
昔話を語り合う友のようだが、封印されるほどには、はた迷惑な存在だった。まあ、それもドラゴンらしい生き方なのだろう。
「邪龍でもなさそうだが、どうして封印されたんだ?」
『ドラゴンでありながら、回復系に秀でていましたので。その、争い事から逃げるべく、と言えばいいでしょうか』
『確かに。特に悪魔には狙われていたな』
『悪魔をも癒す力は貴重だからな』
いつの時代も、一筋縄ではいかないらしい。
「ユーフェミアさん。いまだ過酷溢れる世界ですが、共に生きていきましょう」
『ええ。ユフィと呼んでください、アーシア』
どうやら、2人も相棒になれたらしい。
ドラゴン系神器は相棒との会話が重要だからな。
「そんで、桐生のほうはなんなんだ?」
『おそらく、
「フッ、回復系神器のバーゲンセールだな」
『またヴァーリは...』
苦笑いされたところで、さて、そろそろ行くか。
アーシアのおかげで身体も神器も調子がいい。
「イッセー、そろそろ落とし前をつけにいこうか」
「……落とし前か。確かにそうだな」
この白龍皇が、借り物の力とはいえ膝をつかせられた。
いや、それよりも、イッセーは初めてのデートで騙され、一度殺され、トラウマを持った。さらには、幼馴染みの日常を守れなかった。それによる憤りを自分にぶつけてしまうくらいには、優しいやつだ。
やつらは、ドラゴンの逆鱗に触れたのだ。これはどこに所属しているか等は関係ない。我ら二天龍を甘く見た報いを受けてもらおうか。