或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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MFゴースト、開幕。


scene.86 勝負②

 “『お疲れ様です。堀宮さん』”

 

 時刻は共演者のみんなが夕食のバイキングを済ませて各々自分たちの部屋へと戻って行った夜の8時過ぎぐらいのこと。“バトルロワイアル”の2日目の撮影が終わった日の夜、私は堀宮さんから“1対1でどうしても会って話したい”とロケ先の宿泊施設にあるテラスへと呼び出された。

 

 “『おっ、マジのマジで来たじゃん』”

 “『いや、そっちが“会って話したい”って言うから来たんですよ(ていうか“マジのマジ”って何?』”

 

 開口一番に“マジのマジ”という口癖と共にテラスの柵に寄りかかるようにして私を待っていた堀宮さんは、“デスゲーム”を通じてのクラスメイト同士の殺し合いの中でも最後まで“殺し合い”を止めるために奔走する友達思いの誠実なヒロインとはまるで真逆な態度と振る舞いで私を出迎えた。

 

 “『あの、わざわざ私を呼び出した理由はなんですか?』”

 “『まぁそう焦らない。先ずは好きな食べ物からでも話そうよ?だって蓮ちゃんとはお互い初対面だし』”

 

 それで何を話すかと思ったら、先ずはそれぞれで自己紹介ときた。正直言って自分の時間を割かれた形になっていた私は早く理由を知りたかったけど、相手が自分より芸歴的に10年近くも離れている先輩であるが故、ひとまずは後輩として堀宮さんの話に付き合うことにした。

 

 “『10歳のときかな・・・ドラマで共演してた同い年くらいの子から撮影の休憩時間にこんなふうにスタジオの裏に呼ばれて、 “人の真似っこをすることしかできないんだったら今すぐ消えてくれないかな?”って言われたことがあってさ・・・・・・それを聞いていつか絶対“その子”を助演で従えてヒロインになってやるって決意したときの思いが今でもずっと心の中にあって・・・だからあたしはこの芸能界っていう“ヘンテコ”な世界で頑張れてる』”

 

 そして何度かの“寄り道”を経たのち、会話はどうして“女優”を頑張れているかという話題になった。自分が女優を頑張れている理由を私に打ち明けた堀宮さんの表情は飄々と笑みを浮かべていながらも普段とは打って変わって本当に真剣で、私はこの人が“根っからの努力家”だということを知った。

 

 “『蓮ちゃんはどうして“女優”を頑張れてるの?』”

 “『私・・・ですか・・・』”

 

 理由を打ち明けた堀宮さんから続けて“理由”を聞かれたが、話そうとした瞬間に私は何とも言えない“恥ずかしさ”に襲われて言葉が出て来なくなったしまった。それはいつもの自分だったら恥ずかし気なく言えるはずのことだけど、会話の流れに乗ってさり気なく打ち明けようとしたら何故か言葉が詰まった

 

 “『蓮ちゃんがそこまでして頑張ってる理由はなに?もしかして演じてる役が途中で退場しちゃうから張り切ってるとか?』”

 “『そんな安っぽい理由なんかじゃないですよ』”

 “『じゃあどうして?』”

 “『それは・・・・・・どうして堀宮さんに言わなきゃいけないんですか?』”

 “『だって気になるから。蓮ちゃんがそこまで“マジのマジ”になれる原動力が・・・ね?』”

 “『・・・先輩からのお願いだからって教えませんからね。だって堀宮さんには関係ないことだし』”

 

 謎の恥ずかしさで言葉を詰まらせた私を見た堀宮さんから勝手に“雑な理由”を決めつけられてムカッときた私は、せめてもの抵抗としてだんまりを決め込もうとした。

 

 “『ねぇ・・・じゃんけんしよ?』”

 “『・・・じゃんけん?』”

 

 そんな“だんまり”を決めた私に、堀宮さんは唐突にじゃんけんを持ちかけた。どうしてじゃんけんをいきなりしようとしてきたのか、この人の会話のペースに理解が追い付かなかった。

 

 “『うん。今からあたしと蓮ちゃんでじゃんけんして、勝ったら特別に蓮ちゃんの役作りにマンツーマンで付き合ってあげる』”

 “『・・・もし私が負けたら?』”

 “『蓮ちゃんが女優を頑張れる秘密をあたしに教えてよ。誰にも言わないから』”

 “『・・・いや、だからじゃんけんをする意味がわからない』”

 

 ただ、じゃんけんだったら誰にも負けない自信はあった。幼稚園に通っていた頃にお母さんから絶対に勝てる“おまじない”を教えてもらってからは、冗談抜きでずっとじゃんけんは無敗だったから。

 

 “『そんなに悩む必要なんてあるのかな?だって蓮ちゃんってじゃんけんめっちゃ強いから絶対に有利じゃん・・・・・・それとも、あたしに“じゃんけん”で負けちゃったら勝てる“モノ”が何もなくなっちゃうのが怖いから?』”

 “『・・・・・・は?・・・なわけないでしょ?』”

 

 だから私は、堀宮さんからの挑発にムキになって乗った。

 

 “『あ、なんかごめんフツーに勝っちゃった』”

 “『・・・・・・うそ』”

 

 その結果、私は普通に呆気なくほぼ10年ぶりくらいにじゃんけんで負けた。敗因はもちろん、ムキになるあまり“おまじない”を忘れたことで堀宮さんに差し出す手を見抜かれてしまったこと。そして、堀宮さんもまた私と同じ“おまじない”を使っていたこと。

 

 “『じゃ、そんなわけで教えてもらいましょうか?蓮ちゃんが“頑張れる”理由・・・』”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンッ_

 

 堀宮さんの馬手(めて)*1から、乾いた音と共に三本目の矢が放たれる。矢番えから“十文字”の姿勢を取り、矢を放つまでの全ての所作が丁寧で無駄なくおしとやかでまるで“大和撫子”のように美しいから、勝負のことをつい忘れて私は見惚れそうになる。

 

 「おぉー」

 「真ん中いった?

 

 堀宮さんのまさしく“お手本”と言える美しい所作から放たれた矢は、鋭く綺麗な一直線に軌道を描いて的のど真ん中に吸い込まれるようにあわや中白に当たったんじゃないかと思えるほどスレスレの“一の黒”に的中して、上座が思わずざわめく。

 

 “・・・やっぱり、強い”

 

 そんな周囲のざわめきなど全く聞こえていないかのように、堀宮さんは表情一つ変えずに残心をとり、私の待つ本座の位置に戻る。ちなみに三本目までを終えた時点の成績は、私が二の黒・三の白・二の黒で、堀宮さんが二の白・一の黒・一の黒(※あわや中白)。やっぱり所詮は“やってみたら普通に出来た人”と“都大会3位の実力者”なだけあって、軌道の安定感だと堀宮さんにはまだまだ及ばない。ひとつだけ言えることは、弓道の的が“得点制”だったら私の勝ち目は限りなく少なかった。

 

 “これは遠近競射まで行ったら相当集中力上げないとキツイかもしれない・・・”

 

 とはいえ、四本全てを的中させても“遠近競射”が残っているから油断できない状況が続いているのは相変わらずだ。きっとここまでの流れだったら、堀宮さんは危なげなく四本目も決めてしまうだろう。そう考えると、射詰で四本を全て的中させたところで全く安心はできない。そもそも“安心”なんてしたらその瞬間に武道は“終わり”なんだろうけれど。

 

 

 

 “『蓮ちゃんごときに黒星なんて付けられたくないからね』”

 

 

 

 だけれどこれはただの“勝負”じゃなくて、お互いの“役作り”も掛かっている。ならば原作の展開通りに勝負が進んでいくとしたら、凪子(わたし)が勝って(堀宮さん)が負けなければいけない・・・もしもこの思惑が本当だったとしたら、次の四本目で私が外せば堀宮さんも外して遠近競射へ・・・あるいは私が四本目を決めることが出来たら・・・

 

 スッ_

 

 上座にいた先輩の部員から最後の一本となる四本目の矢を受け取り、目を合わせず僅かな“”を頼りに堀宮さんとタイミングを合わせて、射法八節に取り掛かる。もちろん堀宮さんが最初から“負ける”前提でこの勝負を仕掛けてきているとしても、私は“本気”でこの人に勝ちに行くだけだ。

 

 “だって凪子は、雅と本気で争って主将になったんだから

 

 「・・・ふぅ」

 

 ゆっくりと息を吐き、二手勝負最後の一射を放つ所作に入る。相手が何を考え、何を企んでいようとも、惑いなんてしない。私は“凪子”・・・隣のクラスの雅とは何でも話せる友達で、同じ部活で主将の座を争うライバルだ・・・

 

 「・・・っ」

 

 自分自身に言い聞かせ、雑念を完全に捨てて、弓と矢を引き分ける。気を休めることなく同じ所作を連続で繰り返してきたことにプラスして“堀宮さんとの勝負”という緊張からか、身体全体にほんの僅かな“熱さ”が駆け巡り、綺麗な縦横十文字を保とうとする両腕を余分に動かそうとする。

 

 “耐えろ。あと少しだから”

 

 アドレナリンが回りだして必要以上の力を無意識に引き出そうとする両腕を理性で抑え込みながら、的に狙いを定める。矢尻*2が的へと突き刺さるまでの軌道を頭の中でイメージするように描き、中白へと意識を集中させる。全く同じところを全く同じ所作で狙ったにも関わらず、一度も同じところに矢が飛んで行かないのが弓道の難しさ。

 

 “ブレるな・・・”

 

 とはいえ、さすがに四本目となると“労力”を使わないと矢を射れなくなり始めた。体力は有り余っているのに、思うように自分の身体をコントロールできない僅かなイライラで、集中力がついていけないもどかしさ。悔しいけれど、純粋な実力勝負じゃいまの私は相手(ライバル)になれていない。もちろん弓道だけじゃなくて、芝居でもそうだから堀宮さんはメインに選ばれて、私はまた選ばれなかった。“勝負”すらさせてもらえなかった。

 

 

 

 “・・・またバトルロワイアルのときと一緒じゃん・・・

 

 

 

 ・・・・・・ふざけんなよ。

 

 

 

 キャンッ_

 

 矢尻の軌道と狙う場所が一致する寸前、私の馬手から矢が離れた。明らかに自分の意図していないタイミングで、四本目の矢が放たれてしまった。

 

 “あっ・・・

 

 弦音(つるおと)*3が聞こえた瞬間、狙いが定まる前に矢を離してしまったことに気付いたが、時は既に遅し。放たれた矢は中白からやや外れたところへと空を切り飛んでいく。その光景が目の前に映り、残心の構えをとる身体の感覚が一気に冷めていく。

 

 “・・・終わった

 

 ポッ_

 

 心の底で勝負を諦めかけたが、私が放った四本目の矢は安土(あづち)*4に刺さるギリギリのところで踏み止まって、外円に突き刺さった。結果として、これで私は二手全てで矢を的中させることが出来て、最低限の目標だった“二手ノーミス”はクリアした。後はすぐに控える堀宮さんの四本目に“明暗”が託されるのを、見守るだけ・・・

 

 “・・・何やってんだ、私

 

 四本目を上手く放てなかった締まりのなさが、“悔い”となって心を埋め尽くす。それを表に出さないように、“カメラが回っている途中だ”と一瞬だけ思い込むことでどうにか気持ちを切り替えて残心の所作を済ませ、本座に戻り構えながら堀宮さんの四本目を見届ける。

 

 “・・・綺麗

 

 射位に立ち、礼射系の作法に習い矢番え、打ち越こし、引き分けの所作を経て矢を構える堀宮さんの姿を、身体と顔を的と安土のほうへ向けたまま私は構えの姿勢を保ち横目で見届け続ける。本当にこの人の所作はひとつひとつがあまりにも凛々しくて綺麗すぎるから、嫉妬すらも湧いてこない。

 

 

 

 その姿があまりにも“雅”と被って視えるから、目の前で本当に“雅”が矢を構えているみたいに思えて・・・・・・“がんばれ”とつい応援しそうになってしまう・・・

 

 

 

 

 

 

 “『じゃ、そんなわけで教えてもらいましょうか?蓮ちゃんが“頑張れる”理由・・・』”

 

 堀宮さんとのじゃんけんに呆気なく負けた私は、じゃんけん前の“約束”の通り女優を頑張れている理由(ひみつ)を打ち明けることになった。

 

 “『“役者になれたらお前の気持ちとちゃんと向き合える”みたいなこと言って、たったそれだけの理由で本当に“芸能界(私たちの世界)”に入った“親友(バカ)”がいるんですよ・・・』”

 

 

 

 初めて会ったのは、小学校の6年に上がるのと同時に親の仕事の都合で引っ越した横浜の転校先のクラス。そのクラスで1人、誰とも遊んだり話したりすることもせずに窓際の席に座って、自分の世界に耽るように外を眺めていた男子がいた。名前は、夕野憬。

 

 “『“向日葵の揺れる丘”が好きかな・・・』”

 “『あーあれでしょ、星アリサが主演のやつ』”

 “『そうそう。ストーリー自体はありきたりで普通なんだけど主演の星アリサの演技がすごくてさ_』”

 

 “独りぼっちで寂しそう”だと思って何気なく話しかけてみたら、たまたま“好きなもの”が同じだったこともあってもの凄く話が盛り上がって、あっという間に休み時間が過ぎていった。好きな映画、そして尊敬している俳優(やくしゃ)の話になると教室の隅でだんまりしてたのが嘘みたいに饒舌になる様子が、見ていて本当に面白くて、話していて本当に楽しかった。

 

 “『良いと思うよ。蓮は“華”があるし』”

 

 でもそれ以上に、憬は私のことを“マドンナ”みたいに特別扱いしてくるみんなとは違って、気に食わないことがあったら平気で文句も言ってきたりとただの“友達”として接してくれたことが、何よりも嬉しかった。そうやって時々ちょっとした喧嘩をしながら毎日のように学校で会って話しては一緒に登下校するような時間を過ごしていたら、私にとって憬は友達から“親友”になっていた。

 

 “『蓮と同じように俺も役者になる』”

 

 ある日、私は初めて出演した映画で自信を粉々に砕かれて、自分から映画を観に誘ったくせに卑屈なままに酷いことを言って当たってしまったことがあった。それでも憬は私の目を真っ直ぐに見て、“自分も役者になる”と啖呵を切るように堂々とそう言ってのけた。

 

 “『俺は芸能界についてはまだ何も知らない。でも、オーディションに受かって蓮と同じ世界に立てば、今の蓮の気持ちに向き合える自信はある・・・もちろん、役者として』”

 

 全ては“初めての挫折”を味わった私の気持ちに、“親友”として向き合うため。“役者になりたい”とか、“星アリサに憧れて”とか、探せば目指す理由なんて幾らでも転がっていたはずなのに、よりにもよってあいつは一番“バカ”な選択肢を迷うことなく本気で選んだ。

 

 “『他の誰かを演じるって・・・やっぱり最高ですね』”

 

 そしてあの“バカ”は、本当にそれを有言実行して“俳優(やくしゃ)”になった。おまけに芝居も荒削りだけど私なんかより最初から全然上手くて、冗談と本気が半々ぐらいの気持ちで“ふざけんな”って思ったりもした。

 

 “『蓮も女優を続けてくれて・・・・・・ありがとう』”

 

 けどそんなことがどうでもよくなるくらい、憬が役者になってくれたことが本当に嬉しくて・・・私は“役者”として憬の隣に立ちたいって、“親友”として憬ともっと向き合いたいって・・・本気で思った。

 

 

 

 “『そっか・・・じゃあその“親友ちゃん”がいるから、蓮ちゃんは女優をここまで頑張れているんだね?』”

 

 私が頑張れる理由を、堀宮さんは親身になって本当に優しく聞いてくれた。普段は軽口を叩いては小悪魔みたいに人を揶揄ったり欺くようなことも平気でするけれど、本来の堀宮さんはバトルロワイアルで演じていたヒロインのように友達思いで、誰かが困っていたら躊躇うことなく手を差し伸べるような誠実な人だ・・・と、私はじゃんけんに負けた“あの日”から心の中でずっと思っている。

 

 “『はい・・・“親友()”にだけは負けてられないので』”

 “『・・・・・・えっ待って?親友ってさとるのことなの!?』”

 

 そんな堀宮さんの優しいところについ油断をした私は、伏せておくつもりだった親友の名前をつい口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっ?

 「堀宮さんが負けた?

 

 堀宮さんの馬手から放たれた矢の行き先を見届けた上座から、驚きと少しの困惑が交じったようなざわめきが聞こえた。

 

 “・・・・・・うそ

 

 そして私も、最後の矢が飛んだ軌道に理解が追い付かない感覚を一瞬だけ感じた。堀宮さんの四本目(さいご)の矢は、放たれた瞬間に中白から次第に右に逸れ始めて、外円まで数ミリほどの安土に突き刺さった。この瞬間、私は堀宮さんとの射詰競射(しょうぶ)に勝った。

 

 「勝者・・・1年I組、環蓮

 

 堀宮さんが残心を終えて本座の位置に戻るのと同時に、上座でこの勝負を取り仕切るスミス先輩が勝者の名前を告げて、それに合わせて私と堀宮さんは的のほうを向いたままお辞儀をする。もちろん堀宮さん(この人)が最初から“こうする”つもりで私との二手勝負を引き受けていたことは、入場前に雅と“全く同じ”感情で“凪子(わたし)”を視ていた時点で察しはついていて、実際にその予想は当たった・・・のはきっと間違いじゃない。

 

 “でも・・・“あれ”はどう見ても・・・

 

 だけど、四本目を射る堀宮さんは的を外してやるかなんて一切思わないで、“本気”で中白を狙って失中した。獲物を狩るように鋭く的の中心に狙いを定めて、これまでの三本とは比べ物にならないほどの“気迫”を込めて・・・最後の矢を射っていた。

 

 

 

 『うん。ダメだった・・・最後の最後で力んじゃった・・・』

 

 

 

 的に向かってお辞儀をして、左手に持つ弓を床に付けないように腰の位置で保ちながら足音を立てずに歩を進めて、下座側に退場する。私は最後の最後で力んで、外円に的中。堀宮さんは最後の最後で力んで、失中。確かに結果だけを見れば、私の勝ちだ。

 

 

 

 『完敗だわ・・・やっぱりナギは強かった』

 

 

 

 けど堀宮さんは、最初から最後まで“”のままこの二手勝負に“挑戦者(チャレンジャー)”になって挑んでいた。それを私は、“凪子(ナギ)”として迎い入れなければいけなかった。

 

 

 

 『・・・ねぇ・・・ジュン』

 

 

 

 なのに、私はずっと“挑戦者”のまま堀宮さんとの二手勝負に挑んでいた。そもそも“天才”と周りから一目置かれている凪子を演じなければいけないにも関わらず、“本気で勝つ”意味を最初から最後まで間違えていた。だから最後に、私は自分に“負けた”。

 

 凪子だったら・・・最後まで絶対に負けなかったのに・・・

 

 

 

 『ううん、なんでもない』

 

 

 

 また・・・“あのとき”と同じだ・・・

 

 

 

 「マジか~、何であそこで力んじゃったかなぁ~あたし?我ながらしっぱいしっぱい」

 

 

 

 “『堀宮さん(アンタ)に勝って・・・“奪い返し”たいんで』”

 

 

 

 あんなに意気込んでいたのに、全然勝負になってないじゃん・・・・・・全然追いついてないじゃん・・・

 

 

 

 “『それ・・・本当に“必要”か?』”

 

 

 

 何が“必要”だよ・・・何が“スイッチが入らない”だよ・・・

 

 

 

 “『・・・うん。私にとっては』”

 

 

 

 誰にも勝ってないくせに・・・・・・偉そうに“言い訳”なんかしてんじゃねぇよ・・・

 

 

 

 ガタン_

 

 「?・・・ちょっと蓮ちゃん?弓を置くときはもっと丁寧に置かないと駄目だって」

 「・・・すみません」

 

 控え室に戻った瞬間、一気に全身の力が抜けた私はその反動のまま左手で持っていた弓を床に落としてしまった。背後から堀宮さんに優しく注意されて落とした弓を拾おうと身体を動かそうにも、気力が起きないせいでこの身体は立ったまま動かない。

 

 「てゆーか蓮ちゃん超テンション低くない?せっかくこのあたしに勝ったのに?」

 「・・・・・・」

 

 そんな私に、気迫を解いていつも通りの調子に戻った堀宮さんが代わりに落とした弓を拾って目の前で微笑む。その輝かしいくらいに爽やかなヒロインの表情(かお)を直視できずに、私は俯き続ける。

 

 「もうこれでさとるとは“ズッ友”でいられるわけだしさ。よかったじゃん

 

 

 

 “・・・よかった・・・?

 

 

 

 「・・・・・・よくない

 「・・・?」

 

 “よかった”という言葉が聞こえてきて、私は目の前の堀宮さんに向けて顔を上げる。

 

 「・・・ちっとも・・・よくなんか・・・・・・ない・・・!

 

 二手勝負に勝ったことを素直に褒めて称える堀宮さんへ自分の気持ちをぶつけた瞬間、堪えていた感情(モノ)が一気に両目から溢れた。

*1
矢を持つ右手のこと。ちなみに弓を持つ左手は弓手(ゆんで)という

*2
矢の先端

*3
矢を放ったときに弓の弦から鳴る音

*4
的を設置するために作られた盛り土




その悔しさは、同じ“役者”だからこそ_



だいたい半年おきの周期で新しい物語を無性に書きたくなる衝動に駆られるのは、どうしてだろうか・・・
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