「ちょっと蓮ちゃん?弓を置くときはもっと丁寧に置かないと駄目だって」
「・・・すみません」
下座側から退場して控え室に戻るや否や、蓮ちゃんは力なく左手に持っていた練心を床に落とした。
「てゆーか蓮ちゃん、さっきから超テンション低くない?せっかくあたしに勝ったのに?」
消え入りそうな声で反応しながらも俯いたまま動かないでいる蓮ちゃんに代わって落とした練心を拾って、あたしは普段通りの感じで笑みを作って話しかける。
「・・・・・・」
だけれど蓮ちゃんは、まるであたしの声が耳に届いていないかのように拳を強く握り、無言で俯き続ける。どうして親友を賭けた“二手勝負”に勝てたのに、この子はこんなにも“悔しさ”を滲ませているのかは、何となく予想は出来ていた。
「もうこれでさとるとは“ズッ友”でいられるわけだしさ。よかったじゃん」
だからあたしは、敢えてストレートに突っ込んだ言葉を思い切ってかけてみる。
「・・・・・・よくない」
「・・・?」
“よかったじゃん”という余計な励ましに、ようやく蓮ちゃんは顔を上げてあたしの目を見る。
「・・・ちっとも・・・よくなんか・・・・・・ない・・・!」
内側にあった感情が爆発して詰まる声をどうにか絞り出して自分の不甲斐なさに怒るその両目には、涙が浮かんでいた。
「ヘイどうしたどうした?蓮ちゃんはあたしに本気で挑んで勝てたんだから、何も泣くこと」
パシッ_
涙を浮かべて悔しがる少しだけ背が高くてスタイルの良い後輩の頭を撫でて慰めの言葉をかけてみたら、蓮ちゃんの左手があたしの右手を乱暴にどかした。
「・・・・・・っ!」
そして再び“ちょっかい”を出したあたしをいつギャン泣きしてもおかしくない表情で声を押し殺し俯き気味に睨みつける金色の瞳から、浮かんでいた涙が一筋こぼれ落ちる。まだ真似することのできない“一歩先”を行く才能を目の当たりにして、そこに辿り着けないでいる自分を自覚して、それを受け止めきれずに感情を露にする1コ下の“子供”。
「(・・・芝居なんかしていない・・・“本物”の感情・・・)」
それは場数を踏んで大人になればなるほど失ってしまう感覚で・・・芝居を理解すればするほど再現が難しくなってしまう奇跡の産物・・・
“やっぱり・・・・・・蓮ちゃんは“大人”になる前のあたしだ・・・”
「堀宮さん、環さん、そろそろ射場に戻っ・・・・・・“キョン”、何があった?」
心が身体に追いつけないで泣いている蓮ちゃんを“
「ごめん平仁、ちょっと更衣室に行っててもいい?蓮ちゃんと話しておきたいことがあるから」
「・・・分かった。部長と武島先生には僕から事情を説明しておく」
俯いたまま泣いている蓮ちゃんを横目で見た平仁は、特にあたしのことを問い詰めることもなく状況を理解してくれた。この状況だけを見たら、あたしが蓮ちゃんに酷いことをして泣かせたって疑われても仕方がないのに。
「疑わないんだね?もしかしたらあたしが蓮ちゃんに酷いこと言ったって可能性もあるのに?」
「キョンがそんな真似をする人じゃないのは小さいときから知ってるよ」
心で思ったことをぶつけてみたけれど、平仁はゴツい見た目に反した優しい口ぶりで静かにそれを反論する。今更だけど、弓道部の主将が親戚として“互いのことをよく知ってる”人で本当に助かった・・・ま、だからこそこの“二手勝負”は実現したんだけど。
「ありがと。平仁」
「僕は大丈夫。それより環さんを」
「うん、分かってる」
ただ今はそんな悠長なことを考えている場合じゃないから、あたしは涙を浮かべて立ち尽くす蓮ちゃんの肩を叩いて“行くよ”と合図をして、歩幅を合わせながら更衣室へと蓮ちゃんを連れて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
霧生学園高等学校_総合グラウンド_
「・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・」
砂場の上で仰向けの姿勢になって、呼吸を整えながら少しだけ暗くなり始めた曇り空を見上げる。
「夕野、上手く跳べなかった理由は自分で分かるか?」
着地してから10秒ほど仰向けになって呼吸を整え立ち上がった俺に、王賀美先輩が砂場の外から見下ろすように話しかける。
「はい・・・自分の頭の中で思い描いているイメージに、やっぱり身体が追いつけていないです」
踏み切り動作の練習と同じように、“6・6・6”のリズムを意識して40メートルの
「・・・っ」
そして18歩目。踏み切り板を踏み込み、宙に浮かんだ身体をより遠くへ跳ばすため、空中を漕ぐように素早く左足を前に出して、その要領で右足を更に前に出す。そして最後は両足を前に放り出すようなイメージで長座の姿勢をとって宙を跳ぶ身体が砂場につく最後の一瞬まで少しでも長く身体が前に跳ぶことを意識して、跳躍距離を稼ぐ。
“・・・しまった、勢いが”
ぶっつけ本番で“本気で跳んでみろ”と発破をかけた王賀美先輩の言葉に応えるように、俺は一度も試してすらいない“純也のフォーム”で思い切って跳んでみた。もちろん言うまでもなく、跳躍の出来栄えは最低だった。踏み切りまでは悪くなかったものの、空中を漕ぐということを過度に意識し過ぎたあまり左足を前に出した瞬間に思った以上に全身が力み、前に進んでいた身体は一気に失速して、空中を漕ぐというより空中で“もがく”ような状態になった俺の身体は理想とはほど遠い勢いを失った無様なフォームを描いて、半ば尻餅をつくように砂場へと落下した。
““心”は追いつき始めているのに・・・“身体”はまだまだ追いつけない・・・”
こうなるだろうとは頭の片隅ぐらいには1歩目を踏み出す瞬間まで考えてはいたが、どんなに役の“感情”を理解しようにも身体が出来てないんじゃ意味なんて全くないというどうしようもない“現実”に直面するのは、“どうにかしてやる”と意気込んで跳び終えた後だとやっぱりもどかしく感じた。
「だろうな・・・夕野がいまやろうとした“はさみ跳び”*1は上級者がやるような
「やっぱり・・・根本的に身体を作らないと駄目みたいですね(“ホヤホヤ”って・・・)」
上手く跳べなかった理由を答えた俺に、王賀美先輩は淡々とその理由を説明する。“ホヤホヤ”と言われたのが少しだけ気になるところだが、もちろん言われていることは全て正しいから反論の余地は全くない。
「夕野の場合はまずは“かがみ跳び”*2で感覚を慣らして、次に“反り跳び”*3で跳べるところまで跳べたところで“はさみ跳び”と順序をしっかり組み立てて身体を作っていくべきだ」
“純也”が走り幅跳びの
「その3つの空中動作を習得するにはどれくらいの時間がかかりますか?」
ただ、単行本に描写されていた純也の跳び方が“それ”だったから、俺はその跳び方を選んだ。別にドラマの演出ではそこまで重要視はされない要素だ。それでも“選ばれなかった人たち”のことを考えると、妥協なんてしたくなかった。選択肢は一択だった。
問題は感情だけが先走り、この身体が感情に“追いつけない”でいるということ・・・
「そんなのは“自己責任”に決まってんだろ。コツコツと努力して1,2年後ぐらいに開花する奴もいれば、ほんの1,2ヶ月で人様の努力を超えてくるような“怪物”もいる・・・
身体が追いつくまでにはどれくらいの時間が必要かを聞いた俺に、王賀美先輩は“走り幅跳びをナメるな”と言いたげにぶっきらぼうな口調でアドバイスを送る。
「とにかく、ただでさえ初心者なうえに芸能人やってて忙しい奴が1,2ヶ月ではさみ跳びを完璧な形にできるなんて思わない方がいいぞ」
一切の容赦がないけれど、本当にこの人の言う通りだということは跳び終えた瞬間に理解した。これは役の感情を理解すること以上に難しいということ。そして俺の身体が追いつかないことが、純也という
「確かに1,2ヶ月でどうこう出来るようなものじゃないのは、実際に跳んでみてとてもよく分かりました・・・けど・・・俺を選んでくれた人と、選んでくれたことを受け入れてくれた人たちの期待に、俺は“役者”として応えないといけないんですよ・・・」
それでも時間は待ってはくれない。俺はこのドラマで何としても、ドラマに関わる全ての人たちからの期待と敵視に、“メインキャスト”として応えて超えて行かなければならないから、止まる訳にはいかない。
「俺が“純也”になるためには・・・・・・王賀美先輩の力が必要なんです」
“『あたしたちはただ仲良くクラスメイトを演じ切るだけじゃなくて、“共犯者”になってあたしたちのことを視ている
それこそが、まだ実力が未知数の“俺たち”がメインに選ばれた理由だからだ。
「・・・って言われたとこでぶっちゃけ困るんだよ。んな芸能界とかの事情なんて俺みてぇな“パンピー”にはどうすることもできねぇし」
「・・・すいません。そんなつもりで言ったわけじゃないんですけど、つい我儘言いました」
という“
「・・・けど、高1になったばっかで連ドラのメインに選ばれんのは相当な“プレッシャー”だろうなってのは、俺でも分かる」
堪らず謝った俺を見た王賀美先輩は、そう言うと何か“腹を決めた”ように浅く息を吐いた。
「夕野・・・・・・お前はなぜそこまで頑張る?」
そして立ち上がりアドバイスを受ける俺の目を真っ直ぐに視て、ひとつの理由を聞く。
「・・・“役者”だからです」
その問いかけに、俺はまた返答を困らせてしまうことを覚悟して、敢えてもう一度“エゴ”をぶつける。どんなに困らせない言葉を取り繕うとも、俺が今日を頑張れている理由はどんなにそれっぽい言い訳を探しても、“これ”しか思いつかない。
俺は役者だ。それ以上でもそれ以下でもない。他人の人生を演じる
「・・・そうか」
俺からの覚悟に、王賀美先輩の緑がかった色の瞳がギラつく。
「じゃあ俺は“ロングジャンパー”の意地にかけて、生意気なド素人のお前が“本番”までに形だけでもまともに跳べるように鍛え上げてやる」
そして瞳をギラつかせながら、王賀美先輩はクールに笑って俺に“宣戦布告”をした。こうして俺は来週から就くという専門のトレーナーに加えて、王賀美先輩からの指導で身体づくりを始めることとなった。
「あの、俺ってそんなに“生意気”ですか?」
「おう。なんか自分が“天才”だって感じをあざとく見せびらかしてる感じがするし」
「別にそんなつもりはないんですけどね・・・」
「あと“そういうとこ”」
「じゃあどうしろと?」
ただし、この人との“二人三脚”は前途多難になりそうだ。
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「ごめんお待たせ」
弓道場の女子更衣室の白い壁に背中をつけて畳に座り、膝を抱えながら溢れ出てしまった気持ちを落ち着かせている意識に、堀宮さんの明るめな声が届く。“お待たせ”というけれど、実際には2,3分ぐらいしか経ってないからそこまで待ってはいない。
「これ。道場の外にある自販機で買ってきた」
「・・・これは?」
「あたしからの“奢り”だよ。言っとくけど“さっきの勝負”とは全然関係ないから安心してね」
「・・・シェアウォーター」
「そう。本当は“ランナー用”として走り終えて枯渇した身体への水分補給が目的で開発されてたものだから口に合うかどうかは保証できないけど、まぁ勝負を終えて疲れた身体にはちょうどいいかなって思ってさ」
「・・・ありがとうございます」
更衣室で1人膝を抱えて座り込む私に、堀宮さんは弓道場の外にある自販機で買ってきたというシェアウォーターを豆知識と一緒に“奢り”で差し出してきた。
「そういえば・・・堀宮さんってイメージキャラクターやってましたよね?」
「うん、去年ね」
「テレビでCM観た記憶あります」
「マジで?まぁでも、結構色んな時間帯で流してくれたからな~あのCM」
よくよく考えたら、堀宮さんは去年にシェアウォーターのイメージキャラクターに選ばれていた。そんな元イメージキャラクターからシェアウォーターを受け取るっていうこの状況は、傍から見たら何だかシュールだ。
「けど、それにしても色々とシェアウォーターのことは詳しく知ってそうですね」
「一応“イメージキャラクター”をやるにあたり、商品を好きになるためにその辺のことは開発者の人から開発秘話とか色々と直接聞いたからね。意外と抜かりないでしょ?あたし?」
「・・・ふっ・・・堀宮さんってホントに真面目ですね」
そんなどこかシュールな光景と、本当は“真面目”なくせにその素振りをちっとも見せないで天才ぶる隣に座り込んだ堀宮さんの明るい笑みに、つい私は吹き出してしまった。
「よしっ、やっと蓮ちゃんが笑ってくれた」
その一瞬を見逃さなかった堀宮さんから、案の定心の底から嬉しそうに指摘される。
“・・・なに笑ってんだよ・・・“ボロ負け”したくせに・・・”
「・・・・・・揶揄うのもほどほどにしてくださいよ」
せっかく落ち着き始めた
「・・・美味しい?それ?」
シェアウォーターを一気に3分の1ぐらいまで口に運んだ私に、いつもの調子で堀宮さんは感想を聞いてくる。
「・・・美味しい。悔しいけど」
「も~素直じゃないなぁ~」
もちろん私は、正直にその感想を堀宮さんへと言う。基本的に私はずっとライバル企業のスポーツ飲料ばかりを飲んでいたからシェアウォーターを飲むこと自体が初めてだったけど、普通に美味しかった。
「でもよかった。お気に召してくれたみたいで」
「・・・生まれて初めてのシェアウォーターがこんな“タイミング”になるとは思いませんでしたけどね」
「ウソ?蓮ちゃんって今まで飲んだことなかったの?」
「私は幼稚園のときからもっぱら“アクアリウス”だったので」
「あ~そっちね~、あたしもすっごいよく分かる。だってシェアウォーターってアクアリと違って普通に飲んだらそんなに美味しくないしね」
「イメージキャラクターで関わった人がそんなこと言って大丈夫なんですか?」
「平気平気、だって開発者の“高橋さん”*4もそう言ってたし」
「そういう問題なんですかこれ?・・・っていうかさっき商品を好きになるためとか言ってましたよね堀宮さん?」
そして“枯渇した身体への水分補給が目的で開発された”というシェアウォーターの効果かどうかは知らないが、ついさっきまで黒い感情に押しつぶされていた心が、ゆっくりとだけれど浄化され始めた感触を覚える。そのおかげで気分はある程度“ラク”になった。
「でも、蓮ちゃんのおかげでシェアウォーターの“新しい効果”が判明したよね?」
「・・・何がですか?」
「シェアウォーターは運動した後の水分が枯渇した身体だけじゃなくて、泣いた後の“涙が枯渇した身体”でもちゃんと美味しく感じられるって」
「・・・・・・うるさい」
なんて感じでシェアウォーターの効果を片隅で考えていたら、それを予見してたかのように堀宮さんからピンポイントに核心を突っ込まれた。
「あぁごめん。怒らせちゃった?」
「・・・別に。怒ってはないです」
核心を突かれてムッとした私に、堀宮さんは1ミリも申し訳なさのない“ごめんなさい”で被せる。悔しいけれど射詰をした後にあれだけ泣いた後じゃ、水分も枯渇しているからこの身体がシェアウォーターを美味しく感じるのも無理ないのかもしれない。
「“シェアウォーター”は・・・普通に美味しいので」
それにこの人なら、全部分かったうえで気を遣ってわざわざ“これ”をチョイスして持ってきても不思議じゃない。やっぱりこういう“策士”なところも全部含めて、この人が“理不尽な世界”で腐らず10年も頑張れている理由なんだろう。
“・・・全然追いつけないな・・・私・・・”
「・・・気持ちは落ち着いた?」
ほんの少しの沈黙を挟んで、隣に体育座りになって見守る堀宮さんが10数秒ぶりに声をかける。
「・・・はい。何とか」
左隣からの声に、私はシェアウォーターを畳に置いて答える。折れかけたこの気持ちを完全に立て直すには一晩は必要になるかもだけど、言葉通り気持ち自体は冷静でいられる程度には落ち着いた。
「・・・まだ10歳だったとき、“人の真似っこをすることしかできないんだったら今すぐ消えてくれないかな?”って同い年くらいの子から言われたことがあるって話をあたしがしたのは、覚えてる?」
「・・・バトルロワイアルのときですよね?」
「そう」
落ち着きを取り戻した私に、堀宮さんはいきなりバトルロワイアルの撮影のとき自分が“女優を頑張れている”を打ち明けたときのことを話し始めた。本当にこの人は、何の脈略もなしに関係なさそうな話を始めてくる。
「いや~さすがのあたしも自分のしてきた
「・・・何が言いたいんですか?」
急に“昔の話”を始めた堀宮さんのペースについていけず、私は投げやりに言葉を左隣へ投げかける。
「さっきまでの蓮ちゃんがギャン泣きの一歩手前ぐらいの勢いで泣いてたみたいにさ・・・・・・あたしもあんなふうに自分のプライドをヅタヅタにされて泣きじゃくったことは数えきれないくらいあるよ」
こうして投げやりな問いかけから返って来たのは、“撮影終わり”のときと同じ真剣な努力家の感情と眼差しだった。
「こんなこと言うのって自分で自分を棚に上げてるみたいでちょっと嫌だけど・・・あたしは
“『それ・・・本当に“必要”か?』”
“『・・・うん。私にとっては』”
「・・・だから蓮ちゃんもいっぱい泣いて、泣いた数だけ立ち上がって、誰にも負けないくらい強くなればいいんだよ・・・」
「・・・・・・」
“『・・・お前が本気で腹を括ってまで覚悟して決めたなら何にも言わないけど・・・・・・“無茶”はしすぎんなよ』
「・・・ほんと、さっきから何やってんだろ・・・私」
堀宮さんの中にある“良心”と、気持ちを切り替えてからずっと頭から“消していた”憬に言われた最後の言葉のフラッシュバックで無意識な弱音が口から溢れ、抑えていた感情が一筋の涙になって再び出てきた。無理して口角だけは上げて自嘲気味に笑ってみせたけど、やっぱり駄目だった。
「あの後・・・憬と階段でバッタリ会ったんですよ・・・」
その勢いのまま、私は堀宮さんに屋上で2人だけになって話した後に憬と会ったことから、“本気で勝負”する
「・・・ “
“止まれ”と言い続ける建前の感情を無視して、私は“強がり”を捨てて溜めていた本音の感情を全て吐き出した。
「・・・そっか・・・だから蓮ちゃんはあんなに悔しがってたんだね」
「・・・・・・」
全てを吐き出したあと、我に返ってみると私は膝を抱え込んで両目からまた涙を流していて、そんな私の頭を堀宮さんが優しく撫でていた。
「・・・でもこれでまた蓮ちゃんは強くなれた・・・さとるとの距離も近づいた・・・」
「・・・・・・」
けれど不思議と涙で霞む視界に反して、気持ちは雨が止んで虹がかかった空のようにスッキリと澄んでいた。
「・・・それに、今日から毎日これだけ“泣けば”クランクインまでには“無敵”になれるんじゃない?」
「・・・・・・もうほんとにさっきからうるさい」
優しく頭を撫でる堀宮さんからの揶揄いに、私はその手を払いのけて悪態を返し、一旦置いていたシェアウォーターを手に取って二口ほど飲み込む。
「どう・・・スッキリした?」
「・・・スッキリどころか逆に燃えてきましたよ・・・・・・もうこんな“弱虫”な自分にだけは絶対負けないって」
「ほぉ~、てゆーか蓮ちゃんって意外と立ち直るの早かったりする?」
涙を拭って顔を上げ、左に座り込む堀宮さんへ今度は強がりなんかじゃない“本心”の言葉をぶつける。シェアウォーターの効果かは分からないけど、どうやら“
「当たり前です。じゃなけりゃ
「・・・うん。いいね」
そうだ。勝負はまだまだ終わってなんかいない。だからいつまでも俯いて立ち止まってる暇なんてない。追いつけないでいることをウジウジ悩むくらいなら、追いつき追い越すまで走るだけ・・・そうやって私もここまで何とか這い上がって来た・・・だって私は
「よし、じゃあ蓮ちゃんの気持ちの整理もついたことだしそろそろみんなのところに戻りますか」
「・・・はい」
今度こそ気持ちを切り替えて前を向いて立ち上がった私は、“
「いい加減戻らないと心配されそうだし」
「・・・それは悪かったですね」
「えっ?なんで蓮ちゃんが謝ってんの?」
「いや、その・・・あ~もう言うんじゃなかった」
「あははっ、素直じゃなくて可愛い」
この人の言う通りってわけじゃないけど、“天才じゃない”私が
「・・・堀宮さん」
「ん?」
だけど、それで“親友”に追いついて、そして追い越してを繰り返して一緒に高みを目指せるなら・・・これぐらいの苦しみなんて幾らでも耐えられる。耐えてみせる。
「もし次に勝負をする機会が来たら・・・・・・役作りなしの“
もちろん超えるべき“ライバル”は・・・・・・ひとりだけじゃない。
「・・・言っとくけど“マジのマジ”になったあたしは“雅”よりもっと強いよ?」
「関係ありません。次は“完全勝利”しますから」
「( “転んでも、只では起きぬ、
「・・・いまの言葉がただの“強がり”で終わらないことを祈ってるよ。“ライバル”さん?」
呼び止めて“
“足りないもの”を自覚した2人は_
もう既に前祝はやってしまいましたが、キャラ紹介を除いた“本当の意味”での100話を達成しました。というわけで改めてになりますが、今後ともよろしくお願いいたします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【人物紹介】
・清水平仁ラウール(しみずへいじらうーる)
学年:霧生学園高等学校進学コース3年C組・弓道部所属(主将)
生年月日:1983年9月1日生まれ
血液型:A型
身長:193cm
・王賀美岳(おうがみがく)
学年:霧生学園高等学校スポーツコース2年H組・陸上部所属
生年月日:1984年11月30日生まれ
血液型:AB型
身長:185cm