大変な状況が続いておりますが、2024年もよろしくお願いいたします。
“『難航していたユースフル・デイズの台本がようやく完成したそうだ。時間の猶予は余裕があるとは言えないが顔合わせまでには自分の台詞を暗記できる程度には頭に叩き込んでおけ』”
事務所で“おやっさん”こと海堂から直接手渡された、『ユースフル・デイズ』第一話の台本。その脚本を手掛けたのは高円寺と阿佐ヶ谷の小劇場を拠点に活動している“エニグマの
“『さとるはどう思う?このシナリオ?』”
“『はい。本業は舞台演劇の脚本家で連続ドラマは初めてと聞いていたので不安でしたけど・・・シナリオ自体は原作を準拠しつつも映像に落とし込むためのオリジナルな要素が随所に散りばめられていて、恋愛に重きを置きつつもあくまで“人間ドラマ”として4人の生い立ちや人間関係を重点的に掘り下げるところとかは原作と同様にいい塩梅でバランスが取れていると思います・・・とにかくひとつ言えるのは、シナリオ自体はドラマとして観る分には普通に面白いです』”
“『割とどーでもいいけどさとるってたまに“オタク”っぽくなるよね?』”
“『思ったことは全部言わないと基本気が済まないタイプってだけです』”
ただし残念ながら舞台演劇に疎い俺は脚本家のこともその人が所属している劇団のことも全く存じ上げていないおかげで凄さはイマイチ分からなかったが、事務所に居合わせていた堀宮と早速2人でやった予習の本読みを通じて、とても連続ドラマ初挑戦とは思えないほど完璧な仕上がりのシナリオにこの脚本家は本当に厳正な審査を経て選ばれたんだろうなと感じた。
“『ただ・・・“シナリオ自体は”って言うのはどういう意味?』”
もちろん“シナリオ”が完璧なのは台本を読んだだけで感じた。ドラマ化するにあたって脚色されている部分もあるが、原作漫画の特徴である学園モノならではの爽やかさがありながらもリアルでどこか生々しさのある独特な雰囲気もちゃんと反映されていた。
“『読んでみて思ったんですけど・・・・・・
だけど脚本家の書いた純也の人物像は、俺が作り上げてきた純也の人物像とは少し違っているように感じた。別に純也の性格が変わったというわけではなく、このドラマのなかでの純也が雅のことを表には出さないが心の中で“異性”として認識している点も変わらない。それどころか、雅と純也の距離感も原作とほとんど変わっていない。
“『あたしは原作の純也とこの
“『確かに杏子さんの言う通り、雅と純也の関係性は原作と何ら変わってないのは分かるんですよ。分かるんですけど、何というか・・・・・・俺には雅との距離感が原作と微妙に違うように感じるんですよ』”
“『まあドラマ化するにあたって多少オリジナルな要素は組まれてるとは感じたけどね・・・・・・でも、さとるにとっては“そーいう問題”じゃないっぽいみたいね?』”
“『はい・・・何だかここにきて振り出しに戻ってしまった気分です・・・』”
「では“感覚派”のサトルに最後のクイズだ・・・・・・いまのサトルにとって、“役作りの足枷”になっている人はいったい誰でしょう?」
黒板の前に立ち、最後の問題を書いた一色が、目の前に立つ俺を見てどこか不敵に笑う。
「“知らないフリ”なんてらしくないことすんなよ。ホントはもうとっくにサトルは自分でその原因が分かっているはずだぜ?」
何を言っているのか本当に何も分からず聞き返した俺に、一色は“お前なら分かっているはずだ”と言って琥珀色の瞳をギラつかせるように言い返す。“役作りの足枷”は何なのか、それは単純に俺が間違った人物像を作り上げてしまったことに他ならない・・・・・・と決めつけることが出来たら、この問題の答えは即答できたはずだ。
「・・・その“誰か”が原因で俺は純也の感情がまた分からなくなっている・・・ってあんたは言いたいのか?」
「あぁ、その通り」
足枷になっている原因を探る俺の言い分に、一色は感情の視えない不気味な笑みでクールに頷く。
「って言っても、オレから見て確信が持てるのは“これ”ひとつだけどな?」
一色からのさり気ないヒントに、俺は脳をフル回転させて原因を探る。俺が純也の感情に同調できない理由は何か?堀宮の演じる雅への感情移入が足りない?いや、別に原作の雅もドラマのシナリオに書かれていた雅も俺の“よく知っている”雅だった・・・・・・じゃあやっぱり、単純に原作とドラマの純也と雅の距離感に僅かな違いがあるからなのか・・・?でも、あれは・・・
「実は結構近くにあるんだけどなぁ・・・サトルにとって障害物になってる人って・・・」
「・・・・・・」
考えを幾ら巡らせても答えの欠片にすら辿りつけない察しの悪い俺に、一色はまたひとつ誘導尋問という名の“ヒント”を与える。
「じゃあさ・・・芝居とか関係なしにサトルにとって一番“近しい”存在って、誰?」
「“近しい存在”?」
「そう・・・さすがにこれ以上は何も言えないけどね・・・」
“俺にとって・・・・・・一番近しい存在・・・”
“『でもぶっちゃけ助かった。ありがとう』”
「・・・・・・蓮」
誘導尋問に導かれる形で目の前の王子に支配された恰好の思考回路で考え抜いて出てきた答えが、口から独り言となってこぼれる。
「やっぱ分かってんじゃん。サトル」
芝居とかそういうものを抜きにして、いまの自分にとって一番“近しい存在”でもある親友の名前を口にした俺に、一色は“やれやれ”と言いたげに不気味さの漂う笑みを止めてクスっと笑いながら優しく褒める。
「・・・本気で言ってんのか?それ?」
「逆にそれ以外の理由があるのか?って言いたいぐらいだよ」
だけど、なぜ
「ここまで来たら逆に聞くけど、サトルはオレがレンちゃんに“ちょっかい”だしてたとき・・・“どんな気持ち”だった?」
“『なんだ。まだ教室に戻ってなかったのか』”
「・・・・・・腹が立った」
ただ、
「それはどうして?」
「・・・これが正しいかは分からないけど・・・・・・蓮が雑に扱われてる気がしたから」
自分にとっての大切な存在が目の前で雑にされているのが、どうしても俺の中では許せなかった。
「・・・それよりあれ、“わざと”だったのかよ?」
「ほんとのことを言えば“そういうこと”になるね・・・サトルのスケジュールとサトルが役作りで苦労している話とサトルとレンちゃんの関係はホリミィから聞かせてもらっているから、それを踏まえてレンちゃんのところに“ご挨拶”をしたっていうのが事の顛末ってところかな・・・・・・ま、サトルがまだ教室に戻っていなかったのが唯一の誤算だったけど、却って効果が抜群に効いてるみたいで何よりだったよ・・・」
そしていま、俺は一色からあの騒ぎが王子の“天然”によるものではなくて全部が仕組まれた芝居だったということをネタバラシされて、落ち着いていた一色への怒りの感情が再び沸き上がり始めている。
「・・・ったく、知らないところでごちゃごちゃと・・・」
正直、知らないところで秘密裏に一色と堀宮が連絡を取り合って俺のスケジュールや事情を把握していたことは“いい加減にしろ”とは思うが、不思議と俺はそこまで気に留めてはいない。
「もしかして怒ってる?」
「当たり前だろ。メインキャストの俺はともかく蓮まで巻き込みやがって・・・・・・マジで何がしたいんだよ、アンタは?」
そんなことより、蓮のことをただの役作りの“肥やし”みたいに利用していることを知らされて、それに対する怒りで俺の頭の中はいっぱいだ。
「さっきから言ってんじゃん。これは全て役作りで苦労してるサトルの手助けのためだって」
「だからって気安く蓮に触れていい理由にはならねぇだろが」
「理由にはなるさ・・・だってオレたちは“役者”だ」
あれ・・・なんで俺はさっきから“正しいこと”を言っている一色にここまで怒っているんだ・・・?
「自分の芝居に利用できるものは何だって“利用”する。それがオレたち役者という生き物がこの世界で生きるために課されている摂理・・・・・・違うか?」
感情的な相手にも語気ひとつ強めるようなこともせず、ただ静かにほくそ笑んで冷静に言い放つ一色の言葉で、俺はふと我に返る。一色が芝居のために容赦なく蓮のことを利用した事実は変わらない。その事実が俺たちの間で植え付けられた時点で、ただでさえ芝居の性質を含めて相性が良いとは言えない
「・・・そうだ・・・あんたの言う通り、俺もその生き方で役者をやってきた・・・」
だけど、一色の言っていることは少なくとも役者としては至極当然とも言える正論でしかなく、俺だって同じことをずっとしてきた。それはいま
“「(憬・・・やっぱりお前は、どこまで行っても糸なんかに囚われない“ホンモノ”だよ・・・)」”
「さて、余分な熱が冷めたところで話の続きだ」
我に返って冷静になった俺を目視で察した一色が、再び飄々とした様子で最後の問題の真下にチョークで何かを書き始める。
もしも相手がレンちゃんじゃなかったらサトルはここまで怒らなかった?_
「役者だったら嘘偽りなく正直に答えろよ?サトル」
白のチョークで指をさしながら、一色は俺に正しい答えを求める。
「・・・あんたのことを止めるのは変わらないけど、きっとあそこまでは怒らなかったと思う」
もちろん嘘を吐かずに芝居をしてきた俺は、頭に浮かんだ答えを一色と黒板に書かれた答えに向けて馬鹿正直に話す。性格が悪いと言われたらそれまでだけど、相手によって怒りの度合いが変わるのは人間だったら当然のことだ・・・と、これまでごく普通な人間関係を築かずに生きてきた俺は思っている。
「どうして?」
「どうしてというより、俺だったら別に特別親しくない奴が蓮と同じ目に合っていたところを見ても、あれほど頭には来ないってことだよ」
「へぇ~、誠実に見えて意外と性格悪いんだな?」
「少なくともアンタほどじゃねぇとはここで断言しとく」
思った傍から案の定、“悪い部分”を指摘された。だからと言ってこの部分は生まれつきなところがあるから今更気にはしないが、相手が相手なせいでムッと来たから軽く言い返した。
「でもさ・・・何だかんだでちゃんと分かってんじゃん。自分のこと」
そしてここにきてようやく、一色の言っていることの“本当の意味”が分かり始めた。
「あぁ・・・やっと分かったよ・・・・・・一色が俺に言いたいことの意味が・・・」
“『もしも“親友”っていう存在がこれからもずっと女優を続けていく私にとって邪魔な“障害物”だとしたら・・・・・・私は親友なんていらない』”
「関係は違うけど・・・俺にとって蓮が、“雅”と同じくらい大切な存在だから」
「それはあくまで“親友”、ってことで良いんだね?」
「当然だ。俺たちは“純也と雅”みたいな関係にはならねぇよ」
俺なりに辿り着いた問題の答えに、一色は再び不敵な笑みを浮かべながら問いかける。そうだ。確かに蓮は純也にとっての雅と同じくらいには大切な存在と言えるかもしれない。恋愛だとかそういうのとは違う次元にいる、たった1人の“親友”として。
「親友ね~、じゃあレンちゃんとは分け隔てなく何でも言い合える?」
「おう」
「ただ一緒にいるだけで楽しくてしょうがない?」
「おう」
「嫌なところも全部ひっくるめて受け入れられてる?」
「あのさ、こんなこと俺に聞く意味ある?」
「大アリだよ。オレの“授業”はまだ終わってないからね」
「これのどこが授業なんだよ・・・」
あくまで“俺たち”は一貫してただの親友だと伝えたはずが、妙に引っかかるところがあるのか一色はなおも掘り下げてくる。どれだけ深堀りしようと意味ないだろうと内心では思い始めているが、こいつの言う“本当の意味”にはまだ辿り着けていないから結局は付き合わなければいけない悪循環。
“・・・入るときに時間見ときゃよかったな・・・”
もうそろそろタイムリミットも近いだろうと一瞬だけ黒板の上に飾られている時計に目をやると、時計は午後4時22分を指していた。今更になって、音楽室に入るときに時間を見るのを忘れるという本末転倒のミスを犯した事に気付く。
「よし、続きを話そう」
「・・・ハイハイ」
だが今は下らない自業自得は一旦捨てて、俺は仕方なく一色の“授業”に集中する。
「ところでサトルはレンちゃんと“手を繋ぎたい”と思ったことはない?」
「手・・・」
“『ここからスタバに着くまで私と手でも繋いでみる?・・・・・・できれば“恋人繋ぎ”で』”
「・・・思ったことはないけど、手を繋ぐのは嫌じゃない」
そういえば『ロストチャイルド』を鑑賞した後に、蓮のやつから“いつか彼氏とデートする役を演ることになったときのためにシミュレーションしたい”と言われて、 “恋人繋ぎ”をしながらセンター街を歩いたことがあった。
「まーそれくらいなら“親友”だし、当たり前か」
「さっきからマジで何なんだ・・・」
あくまで演技だったけれど、即興で彼女役を演じた蓮の芝居があまりにも上手すぎて、俺は不覚にも“勘違い”しそうになった・・・あれから俺は役者として、そして“親友”として隣に立てるように、もっとあいつに近づきたいと思うようになった。
「だったら、2人だけでいる時間が1秒でも長く続いたらって思ったことは?」
“『では俳優の夕野憬さん。初めて学校の屋上に立った感想は?』”
「まぁ、あるよ。
「レンちゃんのことを本気で大切にしてるんだろうなってのは、オレに本気で怒るサトルを見てよく伝わったよ」
「・・・そうかよ」
もう二度と、置いていかれたくない。出来ることなら、蓮が初めてヒロインを演じるときは俺が相手役になって隣で芝居をしたい。
「そんなレンちゃんが自分以外の違う男に取られたりしたら、サトルは嫌か?」
俺にとって蓮は、かけがえのない一番の親友。それは余程のことがあったとしても変わらない。例えどんな理不尽がこの先で待ち受けるとしても、それだけは変わらないでいてほしい。
「・・・嫌・・・」
・・・だから・・・気付きたくなかった・・・
「嫌・・・ていうか」
「じゃあそうなる前にいっそのことキスの1つでもして、もっと色んなことをしたいとか」
「はぁ?何言って」
「サトルさ、いま完全に“レンちゃん”のこと意識してるでしょ?」
「いや、はぁ?」
「だったら何でそんな動揺してんの?」
「アンタがわけ分かんねぇこと言う」
「実は“ラブ”でしょ?ぶっちゃけた話」
「アンタマジで」
「このまま下手にしらばっくれてるとオレがレンちゃんの“初めて”を奪っちゃうけど、それでもサトルは」
ガシッ_
「いい加減にしろよ・・・・・・一色」
言いたいことを何度も途中で潰された俺は、気が付くと一色の胸倉を強く掴んでいた。
「・・・・・・はぁ」
それと同時に自分が“思う壺”に嵌ったことを理解して、俺は息を吐くのと同時に一色の胸倉から手を放す。
「やっと自覚したみたいだな。もうサトルにとってレンちゃんの存在は“ただの親友”では収まらないところまで大きくなってしまったことに・・・」
限りなく誘導尋問に近い質問攻めでようやく“本当の意味”に辿り着いた俺を、一色が誇らしげな表情でニヒルに微笑む。
“パッと出のアンタに何が分かる?”
「・・・“パッと出”のアンタに何が分かる?」
「その前に否定はしないんだね?」
「・・・・・・」
その“何でもお見通し”と言わんばかりの鋭い視線と感情に本心をそのままぶつけて、俺はまたしても墓穴を掘る。
「つっても仮にサトルが
そんな俺に一色は胸倉を掴まれた仕返しとばかりに俺の制服のネクタイを引っ張り、初対面のときと同じように眼前まで顔を近づける。
「サトルこそいい加減受け入れろ・・・・・・じゃないと“お前”はただ一人置いてかれるぞ?」
一歩間違えればキスをしてしまいそうなほどの至近距離で普段よりも低く冷たいトーンで、王子はこの期に及んで往生際悪く現実から目を背けようとする俺を鋭い感情で凝視する。
「“オレたち”にも・・・“親友”のレンちゃんにも・・・」
この感情が芝居ではないのは、“スターズの王子様”とは思えないほど剥き出しになった感情で分かった。
「・・・ってオレが言って解決するような
そして次の瞬間には再び王子に戻って俺から顔を遠ざけ引っ張ったネクタイを直し、何事もなかったかのように一色は黒板の前へと戻り、“もしも相手がレンちゃんじゃなかったらサトルはここまで怒らなかった?”とチョークで書いた箇条書きの下に、“YES”の3文字を書いて俺に見せびらかす。
「でもこれだけは言える・・・・・・サトルがレンちゃんに抱いてる
分かっている・・・いや、もしかしたら“差異”を感じた
「だったら・・・何だよ?」
「それは純也の役作りをしているサトルが一番よく知ってる“感情”だろ?」
「・・・・・・」
どこにぶつけたら良いのか、どうやってぶつけたら良いのか、そもそもこの感情は“本当”なのか、それさえも分からない混沌とした気持ちの悪い感触と、高鳴る心音。“
「にしてもここまで嘘吐くのが下手な奴に会ったのは、マジで18年生きてきて初めてだよ・・・」
“だとしても・・・・・・いま湧いたこの感情を受け入れてしまったら・・・”
「・・・・・・それだけは無理だ」
色んな感情がごちゃごちゃになった挙句、心の奥から絞り出てきた今の心境。もうこれ以外の何物でもなかった。
「無理なのは“受け入れたくない”からか?」
「あぁ・・・自分に嘘を吐いてまで芝居はしたくない」
そんな気持ちの整理が全く追いつかないでいる俺のことなどお構いなしに、一色は黒板を前に容赦なく話を進める。
「・・・けど、それでも“受け入れない”とダメなんだろ?俺は?」
混乱する気持ちの中で、どうにかして俺は一色に答えをすがる。もう役作り云々じゃなく、一刻も早くこの“制御不能の半歩前”な感情をどうにかして落ち着かせたかった。誰でもいいから目を背ける俺のことを肯定して欲しかった。
「いや・・・そうまでして“受け入れたくない”なら別に受け入れなくても良いんじゃね?」
「・・・・・・は?」
そんな無意識に“ラク”になろうとした魂胆を見抜いたのか、一色は情け容赦なく再び心に揺さぶりをかける。おかげでこっちはとうとう追いつけなくなって、ただ困惑をぶつけるしか術がなくなった。
というか、今はもう何も考えたくない・・・
「だってさ、 “受け入れろ”っていうのはあくまでオレ1人の意見であって、みんながみんなサトルをどんな目で視てるかなんて誰も分かんないし、誰が何と言おうとどうするか決めるのは“自分自身”の勝手じゃん・・・」
“『異性とかの壁を超えた“何でも話せる親友”がいるってことはさ・・・・・・どんな理不尽があっても自分を保っていくためのすっごく大事な“財産”になるんだよね』”
「ぶっちゃけ芸能界の先輩でもないオレが言うのもアレだけどさ、少なくともつい2年前まではただの一般人だったサトルよりは“
・・・
「たかが同期の芸能人その1の“戯言”に惑わされてんじゃねーよバーカ」
「・・・・・・」
もう何もかも投げ出してしまおうかと本気で考え出そうとしていた思考回路と心に、王子のクールな笑みと共に“受け入れたくない”気持ちを肯定する
ピピピピッ_ピピピピッ_
「おっと、もう時間だ」
俺の目の前から一定のリズムを刻む甲高い電子音が聴こえてくると、徐に一色は自分の制服の左袖をめくり上げ、ブレザーとワイシャツの死角になっていた腕時計のタイマーを止める。
「てなわけで今日はこれにてタイムリミットだ。サトル」
「・・・一応ちゃんと律義に時間計ってたんだな?」
「だって“20分”って約束だろ?大丈夫。サトルがこの音楽室に入った瞬間に合わせてちゃんとタイマーはセットしておいたから」
「・・・それはどうも」
ここまでの感情の反動からか、袖に隠すようにしてはめている腕時計を得意げに見せびらかす一色に、俺は惰性で言葉を返すだけで手一杯だ。
「言っとくけどこう見えてオレはキッチリ時間を守る主義だからね」
「はぁ・・・そういやティザーのときも何だかんだギリギリ顔合わせに間に合ってたの思い出したわ・・・」
どうやら時間のほうは俺が心配なんかしなくとも、一色がちゃんと時間を見てくれていたらしい。さすがは中身が“理論派”なだけある・・・とでも言ったところか。
「ただオレの言ったことを真に受けるにしろ、タチの悪いジョークで受け取るにしろ・・・サトルが“ピンチ”なのは変わらないってことだけは覚えておけよ?」
なんて具合に少しだけ気を楽にした俺に、一色は“念を入れて”警告する。
「あぁ・・・分かってる」
もちろんそんなことは、言われなくても俺が一番知っている。
「・・・そう言い返すと思ったよ」
王子からの警告にどうにか心を切り替えて返した最低限の覚悟を俺の眼を凝視する琥珀色の瞳で受け取ると、そのまま一色は音楽室の扉へ颯爽とした足取りで歩いて、扉の前で立ち止まる。
「言おうかどうか迷ったけど、やっぱりオレ的にサトルには最初から最後まで純也を完璧に演じ切ってもらいたいからひとつだけ“ピース”をやる・・・・・・“俯瞰型だろうと憑依型だろうと“やるべきこと”は同じ”・・・これ、“超重要”だから・・・」
そして最後に俺が純也の感情に再び近づけるための“ピース”を与えて、一色は第二音楽室を後にする。俺がこの音楽室に入ってちょうど20分、“授業”はお開きになって教室は文字通り俺1人になった。
「・・・・・・はぁぁ」
1人になった瞬間、一気に気が抜けたのか勢いよく溜息がこぼれた。一周回って冷静になった今なら、この溜息が意味するものは考えなくとも分かる。というより、それを考えた瞬間にまた冷静さを失うだろうから、どうにかして心が受け止められるくらいになるまではその“感情”のことは考えたくない。
出来ることなら、目の前に広がっているこの景色と感情が、ただの“夢”であってほしい・・・とさえ、思ってしまう。
「・・・・・・最悪だ」
だがどれだけ“夢であれ”と願おうと覚めるわけがない現実が広がる今の状況と心境は・・・ただただ“最悪”だ。
“それでも、“やるべきこと”をやらないと・・・・・・ここで逃げたら、俺は“役者”じゃない・・・”
「・・・行かないと」
十夜が黒板に書いたフローチャートに目をやり強引に己の意識へと焼き付けた憬は、黒板のフローチャートを消して得体の知れない何かに駆られるように駆け足で陸上部の練習拠点となっているグラウンドへと走った。
この気持ち、まさしく_
ここから先は個人的なことではありますが、1月1日に発生した能登半島地震に関係する話になります。読みたくないという方、もしくは読んでいる最中に少しでもストレスを感じた方は、速やかにブラウザバックをしてください。
個人的なことですが、僕には金沢に住んでいるはとこがいます。1月1日、石川県能登地方を震源とする最大震度7を観測する地震が起きてしまいました。震度7や6強を観測した能登地方から少し離れたところとはいえ、はとこの住む金沢でも震度5強を観測し、民家の崩落や神社の鳥居が崩れるなどの被害が出たと聞いています。幸いなことにはとこは家と家族もろとも無事でしたが、今回の地震によって家が倒壊するなどの被害に遭われてしまった方や、大切な人を亡くしてしまった方、亡くなられた方のことを考えると、はとこの無事を素直に喜んで良いのだろうかという複雑な思いがあり、同時に甚大な被害を受けた珠洲市、輪島市などの現状に心を痛めております。
遠くにいる一般市民の僕に出来ることは現地の被害状況を考えると何の足しにもならないほど微々たるものですが、とにかく復興のために今自分が出来る精一杯の手助けをしていきたいと考えています。誰が何と言おうと、地震が起きて良いことなんて何一つとして絶対にありません。
最後に、亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災した現地の1日でも早い復興を強くお祈りいたします。