或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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scene.92.5B 《幕間》 正しい向き合い方

 2001年_4月某日_東京都目黒区_桜羽高校_

 

 「なんかさぁ、永瀬さんって最近調子乗ってる気がしない?」

 「どうして?」

 「ほら、例えばこの間も仕事あるからとか言ってカラオケ断って帰ったときとか、別に元から芸能人やってるから忙しいのは分かるから行けないのは仕方ないにしてもなんか断り方が“芸能人ぶってて”ぶっちゃけウザかったっていうかさ」

 「あー、分かるっちゃ分かるかも。ずっとウチらには敬語だしリアクションも基本素っ気ないし」

 「学校じゃ優等生みたいに装ってるけど実は裏だと絶対見下してそう」

 「ありそーそれ。同じ芸能人でも3年の狩生先輩は気さくでめちゃくちゃ人付き合い良いのに」

 「・・・ねぇ、ひょっとして永瀬さんって1組の一ノ瀬さんに憧れてるのかな?」

 「いち・・・あぁ“牧さん”ね。あの人本名と芸名が違うから一ノ瀬って聞くと誰だか分かんなくなるんだよね」

 「あるあるだね」

 「永瀬さんが牧さんを・・・確かにそれ言われると妙に納得できるわ。あのミステリアスで誰も近寄れない感じとかリスペクトしてそう」

 「もしかして永瀬さん、ウチらが思ってるより狡猾で性格悪かったりして」

 「えーあの永瀬さんが・・・いや、女優だから意外とそのパターンもあり得るかも・・・」

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・」

 

 1か月ぶりにスケジュールが丸一日空いた日の、授業終わりの下校時間。自分の机に置き忘れてしまった筆箱を取りに戻ろうと2年5組の教室に入ろうとしたところで教室の中からクラスメイトの陰口が耳に入ってしまった私は、聞こえなかったフリをして入るかどうか数秒ほど悩んだ挙句に、忘れ物を取らずにそのまま引き返して急ぎ足で“ある場所”へと足を進める。

 

 “みんなに悪気はないんだ・・・悪いのは誤解される自分だから・・・”

 

 私が通っている桜羽(おうわ)高校は杏子や十夜さん、そして憬さんが通っている霧生学園とは違って芸能コースが存在しないため、芸能界で仕事をしている人とそうでない人が同じクラスで同じ勉強をするから、自ずと芸能人じゃない人たちと一緒にいる時間は多い。もちろん芸能活動をしている生徒はわたしも含めて特別なカリキュラムを組まされた上で勉強しているわけだけれども、はっきり言って学校に行けば隔たりはないから比較的ごく普通な高校生活が送れると思っていたけど、現実はそんなには上手くいってない。

 

 

 

 “『永瀬あずさ。15歳です。小さい頃からずっと憧れていた女優になるという夢が叶って本当に嬉しいです』”

 

 

 

 スターズの新人発掘オーディションを勝ち抜いて晴れて女優になって、受験と並行してアリサさんの伝手で紹介された講師たちのもとで高校進学のタイミングまでひたすら役者にとって必要なスキルを身に付けるためのレッスン漬けの日々を過ごして、この学校に推薦で合格したタイミングで表舞台に出て1年の間に朝ドラをはじめ色んな作品に出させてもらって、杏子がやっていたシェアウォーターのイメージガールにも選ばれて・・・という具合にあっという間に2年間が過ぎて、気が付いたら私は既に人気女優の地位にいる幼馴染の杏子と比較されるところまで辿り着いた。もちろんそうするためにはクラスメイトと過ごす時間を犠牲にしないといけなかったけれど、女優は小さいときからずっと憧れていた“将来の夢”でもあったからちっとも苦じゃなかったし、仕事を優先することでクラスメイトの遊びの誘いを断り続けることになるから、必然的に距離を置かれていくだろうなっていう覚悟はあった。

 

 “・・・真面目に仕事してるだけなのに・・・”

 

 悪いのは自分。みんなはただ女優として有名になって“チヤホヤ”されているように見えるわたしのことが羨ましいって思っているだけで、誰も悪くない。“嫉妬”のようなものは芸能界でもそれ以外でもきっと人はみんな抱えているから、もし私が正反対の立場だったとしたら、周りに流されて同じようなことを口走ってしまうかもしれない。だから悪いのは、芸能界(この世界)に足を踏み入れながらも気にしなくても良いことを気にしてしまう、“弱虫”な自分。

 

 

 

 けど、ただ真面目に自分の仕事を頑張っているだけなのに“何も知らない人”から陰で色々言われるのを耳にしてしまうと・・・・・・誰だって嫌な気分になる。

 

 

 

 「・・・また来てしまった」

 

 昇降口に向かって歩いていたつもりが、私は図書室と一部の授業でしか使われていない木造建築の旧校舎の廊下を歩いていた。真っ直ぐ家に帰ろうと思ったけれど教室に忘れた筆箱を“忘れたフリ”をしてそのまま帰るのが何だか気分的にモヤモヤして、かといって戻ってクラスメイトと鉢合わせもしたくないから、こうやってわたしは放課後になるとほとんど誰もいなくなる旧校舎に来て時間が過ぎるのを待つ。

 

 “・・・さっきから何してるんだろ・・・私”

 

 自分でも思う。さっきから私は何をしているのかと。でもこうやって考えることを放棄して人通りのないところでじっとしていると無性に心が落ち着いてくるから、学校で嫌なことがあるとわたしは放課後に決まってほとんど誰もいなくなる旧校舎に行って、こんなふうに気のすむまで時間を潰す。本当のことを言うと、こんなことをしたって時間が無駄に過ぎるだけだから何の意味もないかもしれない。だけどこうやって時間を無駄に使うことで余計な感情を一旦リセットさせることが出来るから、私にとってはとても重要なことだ。

 

 “・・・ピアノ?”

 

 奇跡的に東京大空襲の戦火を免れたことで大正末期に建てられた当時のレトロかつ独特な雰囲気をそのまま残す旧校舎の廊下を歩いていると、上の階のほうからピアノの音色が聴こえてきた。もしかしなくても2階の第3音楽室で、誰かがピアノを弾いている。今日は珍しく私以外の誰かがいるのだろうか。少なくとも私が放課後に旧校舎へ足を運んだときは、この校舎の音楽室でピアノの音が聴こえるなんてことは、一度もなかった。

 

 “・・・これは・・・“月の光”・・・”

 

 “先客”がいることにほんの微かな不安を感じながらも、素人の耳でも“上手い”と分かる“月の光”の丁寧で繊細な音色に導かれるように、私は旧校舎の木目調の階段を上がって階段の先にある音楽室へと足を運ぶ。

 

 ガラガラガラ_

 

 「・・・誰?」

 

 古びた音楽室の扉を開けて中に入ると、ピアノを弾いていた人は月の光を奏でていた両手を止めて扉の前に立つわたしのほうへ座ったまま振り向いてこっちへと近づいてくる。もちろん1組に在籍しているこの人のことはこの学校に入学したときから知っているけど、面と向かって会うのは初めてだ。

 

 「って、誰かと思ったら5組の永瀬さん」

 「あぁ、はい・・・あの、もしかして邪魔してしましたか?」

 「いやいや邪魔だなんてとんでもない」

 

 “どっちの名前”で呼ぼうか惑った一瞬のタイミングで逆に話しかけられた私は、頭が真っ白になってつい頓珍漢な返答で返して何を言っているんだと我に返って人知れずに後悔する。

 

 「ところで永瀬さんはどうしてここに来たのかな?」

 「はい・・・何というか、たまたま旧校舎に来てみたら音楽室のほうから月の光が聴こえてきて、それで誰が弾いているのか気になったので・・・」

 「もしかして耳障りだった?」

 「いえそんな、むしろ外から聴いていても引き込まれるくらい、素晴らしい演奏でした」

 

 そんな私に目の前まで近づいた彼女は、何も気にしていない素振りで軽く揶揄いながらも優しく微笑みかける。

 

 「あははっ、ピアノはあくまで息抜きでやってる“趣味”程度だから人様に聴かせられるほどの演奏じゃないけど、そう言って貰えると私も嬉しいよ」

 「そうですか・・・こんなことを私が言うのも難ですけど、ありがとうございます・・・」

 

 2年1組に在籍する彼女の名前は、一ノ瀬静流。と言ってもこの名前を知っている人はこの人の家族とこの学校にいる人と“芸能界にいる人”くらいで、世の中では牧静流という“もう一つの名前”で知られている天才女優。子役時代からずっと第一線で活躍し続けている彼女の才能と実績は私たちの世代の中でも群を抜いていて、“暗黙の了解”で口にすることが禁じられているけれど祖母にあたるお方が日本一の女優として知られている“薬師寺真波”だということもあり業界全体からも一目置かれている“雲の上の存在”。そしてたまに学校に来て授業を受けることもあるけれど、彼女を纏うミステリアスなオーラがあまりにも強すぎて周りのクラスメイトが全く話しかけられないせいで、学校でも“孤高の美少女”と化して雲の上の存在みたいになっている。

 

 「も~、さっきから肩に力が入って固いよ永瀬さん。女優なんだから切り替えないと」

 「そうですよね。すいません切り替えていきます」

 

 補足を付け足すと私はこの人とは一度も共演したことないどころか思いっきり今が初対面だから、10年以上も芸歴が上の同級生(先輩)を前にしてやや緊張している。

 

 「あの・・・あなたのことは本名か芸名のどちらで呼べばいいですか?」

 「ん?どういうこと?」

 

 緊張しているせいかは分からないけど、私はまたしてもよく分からないことを口走る。案の定、彼女は何を言ってるのか分からないと言わんばかりに首をかしげる。

 

 「私にとっては女優としての先輩にあたるので牧さんと呼ぶべきかなと思うし、でも学校だと本名の一ノ瀬さんで通っているわけなので・・・こういうときはどちらの名前で呼べばいいのか」

 「永瀬さんの好きな呼び方でいいよ」

 

 そして困らせてしまったからと何とかして弁明する私に、彼女は言葉を遮り再び優しい笑みを浮かべる。

 

 「・・・では・・・“静流さん”で」

 

 芸能界の先輩から向けられる微笑みに、少しだけ頭の中で考えを巡らせた末に自分の中で最もしっくりきた呼び名を目の前の“静流さん”に伝える。

 

 「下の名前にしたのには理由はあるのかな?」

 「はい。静流さんだったら、呼び方で迷うことはないと思いましたし・・・私の中でも一番しっくりきましたので」

 

 スッ_

 

 次の瞬間、静流さんはわたしに抱きつくように私の肩に両腕を乗せ、眼前に顔を近づけてきた。

 

 「ふ~ん

 

 肩上ほどの長さに揃えたワンレングスの赤い髪。宝石みたいに綺麗な青紫色の瞳と右目の下にあるトレードマークの泣き黒子(ぼくろ)。子役だった頃の面影がありつつも相応に大人びた可愛さと凛々しさを兼ね備える美少女の顔立ち。

 

 「ごめんなさい・・・やっぱり生意気ですよね?

 

 映画を中心にメディアでよく見る慣れた顔のはずなのに、こうやって眼前で自分の感情を凝視されると得体のしれない強烈な“何か”があるような緊張感に襲われて、身動きが出来なくなる。

 

 「ううん。何となく永瀬さんぽいなって思っただけ」

 「ぽい?」

 「ちょっと話して分かったけど、永瀬さんって嘘つけないタイプの人間でしょ?」

 「はい・・・基本、嘘は苦手ですね」

 

 同時に私は静流さんの“初めまして”とは言えない近すぎる距離に、既視感を覚える。

 

 

 

 “『あずさはショートケーキの上に乗っている苺をどのタイミングで食べる?』”

 

 

 

 「・・・やっぱりね」

 

 頭の中で不意に既視感を感じながら立ち尽くしているうちに、静流さんはそう言うとわたしの肩から手を放し軽やかな足取りで離れる。その何気ない一挙手一投足でさえ、まるで映画のワンカットを観ているかのように錯覚しそうになる。

 

 「じゃあ、今日から私と“友達”になろうよ。永瀬さん?」

 「友達・・・ですか?」

 

 静流さんの独特な距離感に圧倒されているうちに、私は静流さんから友達になろうと言われた。正直、頭の中はこの音楽室に入ってから混乱しっぱなしだ。

 

 「嫌?」

 「いえいえ断じてそんなことは・・・・・・でも、本当に私なんかでいいんですか?」

 「永瀬さんだから友達になりたいんだよ・・・だって永瀬さんのことは、“同じ女優”としてこの学校にいる誰よりも私は理解できる自信があるから・・・」

 

 そんなふうに混乱している私のことをよそに、静流さんは私のことを“同じ女優だから理解できる”と付け足して優し気な表情を魅せ続ける。私に向けているその表情に嘘がないのは、真っ直ぐに私を見つめる眼を視たらすぐに分かった。

 

 「・・・あの・・・もし私と“友達”になってくれるのであれば・・・・・・どうしても静流さんにお聞きしたいことがあります

 

 その眼を視た瞬間、私はつい静流さんのことを女優ではなく“友達”として頼ってしまった。

 

 「友達だったらもっとフレンドリーに行っていいんだよ永瀬さん?ほら、ここは撮影現場なんかじゃないんだからもっと肩の力を抜いて」

 「・・・はい」

 

 

 

 “『あずさはどうするつもり?これから撮影までの1ヶ月?』”

 

 

 

 「では、難しい話になりますけど・・・」

 

 それはきっと、今の自分が置かれている誰にも頼ることができない状況に、少しだけ疲れてしまったからなのかもしれない。女優(やくしゃ)という道を選び芸能界という世界に足を踏み入れた以上、生き残るためには1人でも生きて行けるほどの心を持たないといけなくて、最後(ほんばん)は自分の力で乗り越えないといけないのは杏子も十夜さんも憬さんもみんな同じことで、私にだってそれぐらいの覚悟を持っているつもりで今日まで頑張ってきた。

 

 

 

 “『本気のつもり言ってんの?それ?』”

 “『うん・・・負けたくないのは、私も一緒だから』”

 

 

 

 「友達との“正しい向き合い方”って、何ですか?

 

 自分で蒔いた種で私は生まれて初めて杏子のことを、『ユースフル・デイズ』の撮影を機会に幼馴染ではなく主演(ヒロイン)を争う“ライバル”として向き合おうと心に決めていた。だけどそのことをまだ受け入れ切れていない自分もいて、でもそれを話せるほど心を許している相手は杏子以外だと周りには誰も居なくて、そんなときにさっき教室で耳に入ってしまった陰口と静流さんの嘘のない優しさに立て続けで触れたことで、出さないと決めていたはずの弱い自分が心の奥から傷口を開くように出てきてしまった。

 

 「おぉ、思ってた以上に難しい質問がきたね」

 「ごめんなさい。いきなりこんな悩み相談みたいなことを聞いてしまって・・・」

 

 こんなことを今回のドラマとは関係のない静流さんに聞いたところで、せいぜい誰かに悩みを打ち明けたことで自分の心が少しだけ軽くなる以外は何も解決なんてしないのは分かっている。

 

 「・・・それってさ、役作りに関係してたりする?」

 「えっ、どうしてですか?」

 「だって仮に永瀬さんの聞きたいことがただ友達と喧嘩したとか自分の好きな人と友達の好きな人が同じだったみたいな“ありふれた”話だったら、こんなふうにわざわざ女優の私に打ち明ける必要はなくない?」

 

 それでも静流さんに頼ってしまったのは、彼女が私と同じ“女優(やくしゃ)”だから人知れず抱えているこの気持ちを少しは分かってくれると思ったから・・・なんて心から言えるほどのものじゃなくて、私の場合はただ初対面の先輩に悩みを相談しようとしているだけの“甘え”。杏子みたいに抱え込んでいいものとそうでないものを白黒ハッキリ分けられるほど、私は器用でもなければ強くもないから。

 

 「ねぇ、もし私が役者としてって意味での“正しい向き合い方”ならアドバイスはできるって言ったら・・・聞きたい?

 

 

 

 こんなどうしようもなく弱い自分を変えたかったから・・・・・・私は女優になったのに・・・

 

 

 

 「・・・はい。お願いします

 

 “お願いします”と助けを乞うた瞬間、不意に悔しさにも似た感情が心の中で渦巻く。こんなふうにすぐ人に頼ってしまうから、私は杏子の“ライバル”になれないままでいる。このままじゃ、わたしは“3人”の足を引っ張ってしまう。それが分かっているのに他人に頼ってしまう、子どものときから心がまるで成長しない自分の情けなさ・・・

 

 

 

 

 

 

 “『あずさはいいよね?だってあたしがいるんだから』”

 

 

 

 

 

 

 「言っておくけど、自分の力だけじゃどうしようもないようなことを頼れる人に話すことは恥ずかしいことじゃないし、人に頼れるのも“強さ”だよ・・・

 

 自己嫌悪になるたびに思い出す小学6年生のときの“出来事”が頭の中を掻き回し始めた私に、静流さんは優しい口ぶりで慰めるように語りかけ、軽やかな足取りで真横について私の背中をポンと一回叩く。

 

 「いたっ」

 「あ、ごめん強すぎた?」

 「いえ、全然大丈夫です」

 

 優しい口調に反して、全身に力を入れないと少し痛みを伴うくらいの強めな一発に、“女優だったらしっかりしなさい”という静流さんなりの叱咤激励を感じた。そのおかげか分からないけど、背中を突いた衝撃のおかげで自己嫌悪に苛まれかけていた意識は一瞬で元に戻った。

 

 「えーっと何だっけ?永瀬さんは友達との“正しい向き合い方”について知りたいんだよね?」

 「はい・・・もし静流さんがよろしければ」

 

 私の背中を叩いた静流さんは、ややわざとらしい口調でアドバイスの続きを話し始めながらゆっくりとした足取りで先ほどまで弾いていたピアノのほうへと歩き出して、静流さんの後を追うように私もピアノのほうへと足を進める。それにしてもこの人は、まるで私の思っていることが全て分かっているのでは?というぐらいに、一言が芯を突いてくる。

 

 「じゃあ悩める永瀬さんに1コだけ大事なことを教えてあげる・・・・・・・・・友達との“正しい向き合い方”なんてないよ

 

 そして静流さんはピアノの側板に手を置いて振り向いて、私に“ひとつの答え”を教える。

 

 「“みんな違ってみんないい”って言葉があるみたいに、全く同じ思考回路を持っている人間なんてこの世界には誰もいない・・・同じ役者でも、人によって演じ方が全然違うのと同じようにね・・・

 

 それは、友達との向き合い方に“正しい答え”はないというもの。

 

 「どうして永瀬さんが悩んでいるかは敢えて聞かないでおくけど、きっといまの永瀬さんは役者云々というより生きることに必死過ぎて全部の物事を難しく考えちゃってるところがあるって、私と話していて余計なくらい緊張してるところを見て私は感じたから・・・だから多少それで思い悩むことがあったとしても、もっと自分の好きなように振る舞っていいと思う・・・

 

 結局のところ、中途半端な私のどうしようもない弱虫な悩みに対する“正解”は分からないままだ。いや、そもそも道徳の教科書に書かれていることだとか先生から教わったようなやり方なんてちっとも通用しないのが現実だから、この問いに正しい答えなんてないのは少し頭を(ひね)って考えればすぐに分かるようなこと。

 

 「せっかく“女優になる”夢を叶えたんだから、永瀬さんだけの“自由”を楽しまないと・・・ね?

 

 けれど、静流さんが私に教えてくれた“アドバイス”は本当に的を得ていて、今まで教わってきたどの助言よりも胸に刺さった。

 

 

 

 “・・・どうして私は・・・それでも女優を続けてるのか・・・

 

 

 

 「・・・私、その友達とドラマで初めて共演することになって・・・・・・あんまり詳しいことは言えないんですけど、自分の役作りを兼ねてその子と意図的に距離を置くことにしたんです・・・だけどそのやり方が本当に正しかったのかなって悩み続けてる自分もいて、どうしたらいいのか分からなくなったところでこうして静流さんと会ってずっと今まで抱えてた思いを打ち明けて、だけどこんな大したことない悩みを打ち明けてどうすんだって後悔してる自分もいて・・・・・・でも、静流さんのアドバイスを聞いて1つだけ覚悟が決まりました

 

 アドバイスを伝え終えて泣き黒子のある右目で小さくウインクをした静流さんに、私はいま感じた“本音(思い)”をありったけ打ち明けた。

 

 「もう逃げたりなんかません・・・・・・同業者(ライバル)になった友達からも、その友達に甘えっぱなしの弱い自分からも

 

 

 

 

 

 

 “『あたしがどんな思いして子役やってるか何も知らないくせに慰めるくらいならほっといてよ!友達だったらさぁ!!』”

 

 

 

 

 

 

 私がそれでも女優を続けている理由はただ夢に憧れているだけじゃなくて・・・・・・もうあんな“後悔”はしたくないから。

 

 

 

 「そっか・・・だったら私は永瀬さんのその覚悟を全力で応援するよ・・・・・・“友達”として

 

 覚悟を決めた私の眼を真っ直ぐ真摯に見つめる静流さんは、一瞬だけクスっと得意げに笑いかけると徐にピアノ椅子に座る。そういえば、月の光の演奏を途中で中断させてしまっていた。

 

 「そうだ永瀬さん、何か私に弾いて欲しい曲ある?」

 「えっと弾いて欲しい曲・・・あの本当にお願いなんかしていいんですか?」

 「いいよいいよ。だって私たちはもう“友達”なんだから」

 「・・・では、月の光でお願いします」

 「あ~、さっきまで私が弾いてた曲ね。っていうか永瀬さん月の光知ってたんだ?」

 「はい。実は小学生のときにピアノを習っていたことがあって、実際に弾いたことはないんですけどこの曲自体は前から知ってました」

 「じゃあ永瀬さんもピアノ弾いてみる?」

 「いえそんな、ただでさえ習ってたときも飛び抜けて弾けてたほうではないですし、中学に上がったタイミングでキッパリと止めてしまったので今はもう静流さんと比べると“ミジンコレベル”かと・・・」

 「ふふっ、永瀬さんはほんとに自分に正直だから話してるだけで面白いよ」

 「あの、それは“良い意味”でってことですよね?」

 「もちろん。私は人に悪口は口が裂けても絶対言わない主義だから」

 「そうですか・・・安心しました」

 

 こうして私は、“ひょんなこと”から静流さんと友達になった。




向き合い方に、“正解”なんてなくて_



こんな時代だからこそ、ブレイバーンのような作品は必要だと思う・・・・・・イサミ、どうか強く生きて
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