東京都杉並区・阿佐ヶ谷にある住宅街の一角に、32歳の映像作家・
「失礼します」
この日、代表の本郷を含め社員2名にアルバイト1名の小規模な阿佐ヶ谷の映像制作会社に、若手俳優として活躍する1人の少年がやってきた_
2001年5月16日_東京・阿佐ヶ谷_
「(・・・ここか)」
午後4時50分。まともに丸一日学校の授業を受けた俺は、その足で本郷透視という映像作家がつい最近に立ち上げたという制作会社の入る建物の前に来ていた。ここに来た理由としては、『ユースフル・デイズ』とはまた別で水面下で動いている映画への出演に纏わる話し合いのためだ。ちなみにこのオファーの詳細を簡潔に説明すると、3人の若手映画監督がそれぞれ“10代の殺人”を題材にした3つの短編を撮るというオムニバス形式の映画となっていて、そのうち俺が出るのが今から向かう映像制作会社の社長でこのプロジェクトの“発起人”でもある本郷が手掛ける短編というわけだ。
「(1階が銭湯・・・本当にここで合ってるんだよな?)」
俺が生活している芸能コースの男子寮から歩いて5分もかからない住宅街に立つ、閑静な景色にはやや不釣り合いなコンクリートで造られたモダン的なデザインをした5階建てのオフィス。その1階にはこれまたモダンなデザインの建物には不釣り合いな“黒の湯”という銭湯があって、本郷のオフィスはこの横にある階段を上がった先にあるらしい。場所は事前に調べてあるから間違いはないのだけれど、この外見を見ると本当にここで合っているのかが思わず不安になる。
「(それより・・・今日はいつも通りにちゃんと話せてたよな?俺・・・)」
阿佐ヶ谷の一角にある目に飛び込む情報量が多そうなオフィスビルに若干困惑し始めた気持ちを紛らわすように、俺の思考回路は今日を振り返り始める。
“『おはよ、憬。昨日ぶり』”
“『おはよ。昨日ぶり』”
1日ぶりに、またいつもI組の教室で俺より先に隣の席に着いている蓮と、いつもと変わらずにおはようと言って自分の席に座る。今日は各々で男子組と女子組に分かれて1日を過ごしたからあまり話すようなことはなかったが、今日に限れば本当にいつも通りにやれていたと思う。
“『夕野っち、そういや昨日“
とはいえ昼休みにカフェテリアで一緒に昼飯を食べていた新井から昨日のことを言われたときは、さすがに内心ではそれなりに焦った。
“『あ~あれか。何ていうか・・・ちょっと台本に不安なところがあったから相手役で付き合わせてた』”
“『相手役・・・けどそれやるなら堀宮さんにやってもらったほうが良かったんじゃねぇの?向こうはガチで相手役なわけだし』”
“『(そりゃ
“『敢えて?』”
“『相手役でも演出でもない人にいまの自分を視てもらうと、また違った視点で自分の芝居が視れるんだよ』”
“『だったら俺が相手でも良かったんじゃね?』”
“『相手が“新太”だったら新井にしてたよ』”
もちろん読み合わせに参加していた新井のことだからあの後に蓮と2人だけで残ったことを聞かれるのは想定済みだったこともあって、俺にしては素早くそれらしい言い訳を思いついてどうにか回避した。
“『つか夕野っちさ、環さんみたいな超がつくほどの“美人”と一緒にいてよく緊張しないよな』”
“『・・・緊張も何も、小6からの付き合いだからそんなの考えた事もないわ』”
“『でも“可愛い”とは思うだろ?“幼馴染”から見ても?』”
とにかく今日は、昨日とは違って普段通りに振る舞えた。
“『可愛いっていうか・・・女優としてやっていけるだけの“華”はあるよ。あいつには』”
“『華か・・・ははっ、夕野っちってたまに独特な表現するよな?』”
“『・・・そうか?』”
はずだ。
「・・・10分前か」
今日の自分を振り返り、左手にはめている中学の卒業祝いで買ったデジタル式の腕時計で時間を確かめると、時刻は16:50を示していた。
「(ちょっと早いけどここにいても仕方ないし、入るか)」
時間的にはまだ少しだけ早いが、これ以上ここで立ち尽くしていても不審者でしかないから、俺は銭湯の入り口の隣にある階段へと足を進める。
「ここに何か用か?」
建物の敷地内に足を踏み入れる寸前、後ろから唐突に知らない男の呼び止める声がした。もしかしたらこの建物の関係者なのだろうか。
「すいません。ここの関係者・・・ですか?」
と、頭の中で考えを巡らせながら振り返ると、上は黒のスウェットで下は縦に白のラインが入った黒のジャージというほぼ“黒一色”な服装の男の人が右手にハンディカムを持って立っていた。顔のラインを沿うように無造作に伸びた少し癖のある金髪の髪で目元が隠れているため分かりづらいが、恐らく年齢的には20前後のほぼ同じくらいの背丈の男の人。
「いや、ただの通りすがりだ」
「・・・そうですか」
何となく第一印象でそんな予感はしていたが、どうやらこの男の人はただの通りすがりらしい。
「それより、あんたはここに何か用でもあるのか?」
だとしたら不審者か何か・・・と疑う隙を突くように、男は無造作に伸びた前髪の隙間から鋭い眼つきで俺を捉えて問いかける。その雰囲気はもはや不審者でしかなくて、出来ることなら無視して本郷さんの待つ2階のオフィスへと繋がる階段を上がっていきたいところだが、男が右手に持つハンディカムのカメラがどうしても気になった俺は、心の中で疑いつつもその男の問いかけに答えることにした。
「実はこの建物の2階にあるオフィスで本郷さんっていう映像作家と会うことになっていて、それでここにいるんですよ」
「でもどっからどう見ても高校生なあんたが何でここに用があるんだよ?」
「まぁ、この見た目じゃ何でここに用があるんだよって話ですよね・・・ていうか、ここがどこなのか知ってるんですか?」
「全然知らない」
「じゃあ何で聞いたんすか・・・」
とりあえず2階にあるオフィスに用があることを正直に伝えたら、案の定疑われた。そりゃあいまの俺の服装は学校で授業を受けてそのままここに来ているわけだから、パッと見だとただの高校生ということになるから、疑われて当然だ。
「・・・ところで、そのカメラは何ですか?」
にしても、さっきからこの男が右手に持っているカメラがもの凄く気になる。
「これか。こいつは俺が高1のときに小遣い叩いて買ったSONNEYの“CCD-SC555”っつうハンディカムでな」
「いやそうじゃなくて、どうしてカメラを持っているのかって俺は聞いてるんです」
「あ?あぁそっちの意味か。別に深い意味はねぇけど、強いて言えば “シュミ”で普段から持ち歩いてるやつさ」
「趣味?」
時間を気にしつつも男にカメラのことを聞いてみたら、どうやらただ単に“趣味”で持ち歩いているだけらしい。というかこの人、初対面の割にめちゃくちゃフラットに話しかけてくるな。一応言っておくと、俺って芸能人なんだけど。
「つってもまともに話したら日が暮れちまうけど、どうする?」
「やめときます。用事があるんで」
「ハッ、そうだったな。悪いな取り込み中に邪魔して」
“果たして自分は芸能人なのか?”と通りすがりの一般人からあまりにフラットに話しかけられ内心で自問自答していると、男は俺に用事があることを察して自ら立ち話を終わらせてきた。名前も知らない初対面の人にづけづけと話してくる態度や目元まで伸びた前髪から覗く鋭い眼光は普通に怖いが、どうやらそこまで悪い人ではなさそうなのは話していて感じた。
「では、俺はこれから“仕事”があるので失礼します」
とはいえひとまずこれでハンディカム持ちの“不審者”から逃げる口実が出来た俺はその口実をすぐさま実行して、今度こそ2階へ繋がる階段に足を進める。どんなにこの不審者が実は“いい人”であっても、こっちはこっちで外せない“仕事”にいかなければいけないからだ。
「・・・あんた、夕野憬だろ?」
階段の一段目に右足が乗ったその瞬間、ハンディカムの男からフルネームを呼ばれた。
「どおりでどっかで見た顔だなと思ってたんだよずっと・・・やっぱり、『ロストチャイルド』に出てたあの“次男坊”だ」
フルネームを呼ばれて振り返った俺に、男はあの映画を観たことを打ち明ける。
「よく分かりましたね」
「あと、7月のドラマにも出るだろ?」
「はい。ありがたいことにメインキャストです」
「ハハッ、そいつは最高じゃねぇか」
そして俺が誰なのか分かるや否や、男は相手が芸能人だからと怯むどころか分かりやすくテンションが上がった様子で友達のような感覚で俺に話しかける。今ハッキリとわかっていることは、俺が“夕野憬”だとカメラを持っているこの男にバレてしまったということ。考えてみればいまの俺は全く変装なんてしていないから、バレるのも時間の問題だった。
「・・・言っておきますが、そのカメラで“勝手に”俺のことを撮らないでくださいね」
「安心しろ。“肖像権”ってやつだろ?その辺のところはちゃんと頭に入れてるから撮らねぇよ」
「そうですか。分かってくれて何よりです」
とりあえず俺はどうにか右手に持っているカメラで撮られないようになるべく語気を少し強めて“撮るな”と伝えると、男は軽く笑いながら俺からの忠告を受け入れた。もしかしたらこの人、意外と弁えるところは弁えるタイプかもしれない。
「じゃあ、今度こそこれで」
と、この男に興味が出始めてしまうといよいよ大事な仕事をすっぽかしてしまいかねないから、三度目の正直で俺は背を向けて階段を上る。
「最後にあんたへ言っておきたいことがある」
すると男は三度、階段を上がろうとする俺を呼び止めてきた。さすがにこれ以上こんなところで立ち話に付き合わされるわけにはいかないから、俺は背を向けたまま無言で立ち止まる。
「俺は
無言で背を向ける俺に、“クロヤマスミジ”と名乗った男は一方的に約束事のようなものを伝えて、そのまま去って行った。
「・・・何だったんだ・・・いまの人」
ますますあのクロヤマというハンディカムを持った映画監督志望の男のことが気になってしまったが、そんなどうでもいい通りすがりの不審者に構っている暇なんてない俺は、心を切り替えて階段を上がりきりオフィスのドアを開けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いや~会いたかったぜ憬君。マジで超久しぶりっていうかまずオニーサンのこと覚えてる??」
「あの、はい。一番最初に撮ったCMでディレクターをやっていたことだけは覚えています」
2階にある映像制作会社・スタジオ七福神のオフィスに入ると、この会社の社長で映像作家の本郷が訪問してきた俺にいきなり握手を求めてきて、俺もそれに応じる。トレードマークのように被っている黒のハット帽以外はどんな感じの人だったのかはほとんど覚えていないが、革ジャンという社長にしては厳つい服装をしたこの人とは、実を言うと一度だけ仕事をしたことがある。
「じゃあ自己紹介はなくても大丈夫ってとこだけど名刺だけは渡しとくわ。一応社長になったんで」
「あぁ、はい。ありがとうございます(名前はついこの間まで憶えてなかったけど・・・)」
仕事場と隣り合わせの応接間に招かれて、名刺を渡される。スタジオ七福神の社長にして監督として短編映画、CM、有名なアーティストのMV、果ては脚本家として舞台まで手掛けているというマルチクリエイターの一面を持つ映像作家、本郷透視。一般的な知名度は『ロストチャイルド』を世に送り出す前の
「いつもは後ろのほうで普通にみんな仕事してるからなんかごちゃごちゃしてるけど、気にしないで」
「分かりました」
応接間のソファーの後ろでは、そのまま隔てる壁もなく地続きで繋がるかのように資料などが片や少しばかり雑に、もう片方はキッチリ整頓された状態で置かれているデスクがある。パッと見渡した感じだと、ここで働いているスタッフはざっと数人といったところだろうか。
「こんにちは。あのときの少年」
と、2階のフロアを眺めながらソファーに座ろうとしたところで、傍から妙に既視感を感じる声が聞こえて咄嗟に座りかけた姿勢を立て直して俺は振り返る。
「・・・天馬心・・・どうして」
振り返った視線の先には、2人分の紅茶の入ったマグカップを持つ“天馬心”がいた。子役から成長してさてこれからというタイミングで芸能界から引退したこの人とは、本郷と同じく生きてきてたった一度しか会ったことがないが、こっちは今でも鮮明に記憶が残っている。
「そういや憬君は
「はい・・・実は2年くらい前に渋谷で不審者に絡まれてたところを、天馬さんに助けてもらいました」
“『本当はすぐに助けてあげたかったけど、君の“お芝居”が余りにも迫真過ぎてつい見入ってしまったよ。ごめんね、助けるのが遅れて』”
「というか、どうして役者をやめて普通の人になったあの“天馬心”がここに?」
忘れもしない。何故なら俺はこの“天馬心”という人に助けてもらったついでであの“オーディション”の存在を知り、結果的に今に繋がった。ある意味で言うと、一番の恩人に当たるような人だ。
「あー、心一はアルバイトとして俺が雇ってるんだよね」
「アルバイトですか?」
「そう。本当は頭が良くて仕事もめっちゃ出来るから今すぐにでもアシスタントで雇用してやりたいとこだけど彼はまだ現役バリバリの大学生ってわけだからそうもいかなくてさ、それで週4でウチに来てもらって主に会社の経理代行とか
「あの、さっきから本郷さんの言ってる“シンイチ”は天馬心のことでいいんですか?」
「もちろん。天馬心はあくまで僕が芸能界にいたときの
「・・・そういえば前会ったときにも言ってましたね・・・」
元子役・天馬心こと、スタジオ七福神・経理代行(アルバイト)、天知心一。服装こそアクの強い社長とは違いどこにでもいそうな“大学生”といった適度にラフな感じだが、180以上はあるスラっとした高身長の出で立ちと子役時代の“美少年”がそのまま大人になったかのような浮世離れした儚げな顔立ちは健在で、明らかに一般人にしてはオーラが強すぎる。というか、まさかこんなところでまた会うとは思いもしなかった。
「言っとくけど心一は
「赤学に通ってるんですか天馬、いや天知さん?」
「まぁ、この業界は学歴とかほとんどあてにならないのが現実だけどね」
「こういうちょっと生意気なところもまた嫌いじゃないんだよなコイツは」
「もーあんまり褒めないでくださいよ本郷さん」
都内でも有数の名門として知られている大学に通っているという誇るべき経歴を“あてにならない”の一言で生意気に片付ける元子役のアルバイトを、社長の映像作家は内輪ノリで茶化す。この家庭的な光景を見るだけで天馬心、もとい天知がかなり信頼されているのが分かる。
「透視さん、頼まれてたMVの“粗編*1”終わりました」
そんな内輪ノリを微笑ましさ6割と気まずさ4割で見守りながら立ち尽くしていると、2階の玄関のほうから男の人の声がした。
「おう、サンキュー由紀治」
その声を察して下の名前を呼び目線を送った本郷に合わせるように声がしたほうへ振り返ると、若干よれ気味の白いシャツの下にカーキ色のタンクトップと首元にネックレス、ツンと逆立った短髪に顎髭という制作会社のスタッフというよりかは原宿の裏通りあたりで服を売ってそうな出で立ちの20代前半ぐらいの男が立っていた。
「・・・えっと、この人は関係者ですか?」
そのやや厳つくてファンキーな見た目に内心で普通にビビってしまい、思わず本郷へ視線を向けながら関係者なのかを聞いてみる。
「ううん、不審者」
「えっ?」
「ちょっと紛らわしい冗談はやめてくださいって透視さん!キャラ作りっすよキャラ作り!」
すると満面の笑みを浮かべて本郷は不審者だと答え、強面のファンキー男は割と本気で困惑した様子で言い返す。薄々分かってはいたけどこの人は不審者ではなく、関係者のようだ。
「っと、失敬。僕は
「あぁどうも。俺はカイプロダクション所属の夕野憬です。よろしくお願いします(見た目厳つすぎだろこの人・・・)」
俺の存在に気付いた手塚というアシスタントは、言葉遣いこそ少し雑だがファンキーな見た目にそぐわない優しそうな口調と表情で俺に一礼して、名刺を渡す。振る舞いからして強面なのは外見だけで中身は普通に良い人なのは一瞬で伝わったが、見た目が見た目だけに一周回って恐怖を感じる。
「それで本郷の隣にいるノッポの彼が」
「心一のことは俺から説明しといたから大丈夫だよ」
「はい、了解です」
それにしてもさっき入り口で話しかけられた監督志望のクロヤマという通りすがりの男といい、芸能人をやめて一般人になったと思ったら暫く世話になる監督が率いる制作会社にバイトで働いている天知といい、見た目と中身があまりに違いすぎそうなアシスタントの手塚といい、今日は何かと“濃ゆい”人たちとやたら遭遇している気がする。
「ちなみに以上の3人が、スタジオ七福神のメンバーってとこだ」
そんな癖のある3人が揃ったところで、社長の本郷は俺にこの3人がこの制作会社の全社員だということを告げる。本当にこの人数でどうにかなるのか、社会を経験していない俺ですら疑問に思った。
「3人・・・これで回るんですか?」
「ギリッギリよ正直。でも何だかんだでどうにかなってる」
試しに聞いてみたら、本郷はアシスタントの2人を誇らしそうに交互に一瞥しながらクールな笑顔でこう答えた。どうやらギリギリで回せてはいるらしい。もちろん、俺にとって重要なところはそこではないのだけれど。
「つーわけでこれから俺は来客と“ちょっと込み入った”話をここでするから由紀治と心一は一旦3階の編集室にでも上がって適当に編集の続きをするなりしといてくれ」
「一応言っておきますが頼まれてたやつはもう終わってます」
「二度言わなくとも分かっとるよ。後でチェックするわ」
そしてここからは演者と監督の1対1の面談となるため本郷は早々にアシスタントの2人を3階にあるという編集室へ向かわせて、2階のオフィスは俺と本郷の2人きりになる。当たり前のことではあるけれど、ここでは元人気子役であろうとアシスタントに過ぎないから、扱いは“相方”と全く同じみたいだ。
「さてと、じゃあ始めますか」
「そうですね」
2人だけになったところで、天知が置いて行った紅茶の入ったマグカップの置かれた応接間に戻り、ゆっくりとソファーに座る。
「って行きたいとこだが、仕事の話をする前に憬君へ聞いておきたいことがある。いいかい?」
ソファーに座り、水面下で俺が“主演”で出ることになる映画のスケジュールの調整などの話し合いが早速始まるかと思いきや、本郷はテーブルを挟んだ反対側のソファーに座るや俺の眼を睨むように見ながら問いかける。
「はい。大丈夫ですけど」
当然これは“監督命令”だから、演者となる俺には基本的に拒否権はないので普通に首を縦に振る。
「憬君・・・お前さんは何か“悩んでいる”ことはないか?」
「悩み・・・えっ何で?」
一体何を聞いてくるのか身構えつつも首を縦に振ったら、いきなり悩み相談みたいな質問をさせられて思わず困惑した。これじゃあ面談というより、学校の“二者面談”のようだ。
「俺は映画を撮るとき、演者と初めて会うときは必ずこうやって演者の“悩みごと”を聞くって決めていてさ・・・ま、ハッキリ言って“ドクさん”みたいな拘りとかそんなのじゃないんだけど、演者にはなるべく余計なものを背負わず心を“空っぽ”にして演じてほしいっていうオニーサンからのワガママってとこよ・・・ドクさんは誰か分かるよね?」
「はい。『ロストチャイルド』で色々と世話になりましたので」
「あれねぇ俺も見たわ。マジで良かったよ憬君の演技」
「いえそんな、恐縮です」
だけどこの監督が明らかに意図があってわざわざこういうことを俺に聞いているのは、飄々としながらも真剣な眼つきで話をしているので分かる。
「それにさ・・・人を殺すような役を演らせるんだったら、お前さんのようなタイプの役者はなおさら心を“空っぽ”にする必要があるんじゃないの?」
少なくとも最初の仕事となったCMで俺を撮っていて、『ロストチャイルド』も観ている本郷が俺がどういうタイプの役者なのかは把握しているのも当然で、現に俺は“悩みごと”を抱えている。
「確かにそうですね・・・・・・余計な感情が残っていると、それだけで精神的な負担は増すばかりで思うように役は演じ切れないから・・・」
一方はどこにでもいる普通の高校生。もう一方は人殺し。奇しくもふたりの年齢はどちらも16歳。この“ふたつの役”を演じ分けることになる、ここから先の4か月。本郷の言う通り、悩みがあるなら無くしていくに越したことはない・・・けど、俺がいま抱える悩みを全く関係のないこの人に打ち明けることで、解決はするのだろうか?
「・・・何か悩みはあるか?憬君?」
“『私が“いま好きな人がいる”って言ったら、憬はどうする?』”
「・・・この週末から撮影が始まるドラマで俺が演じることになる役の気持ちが、まだ掴めていないままなんです」
心の中では未だに悩んでいたが、“一縷の望み”にかけた俺は本郷に悩みごとを打ち明けることにした。
迷いの根底は、心の悩み_
金髪の墨字、好青年?の天知、尖ってる手塚・・・以上が原作ではお馴染みの“三人衆”の若かりし頃です。果たして彼らがどのようにして現在に至っていくのか、そのあたりも含めてお楽しみください。
と言った手前になりますが、4月から新たに“一次創作”の投稿を始める関係でただでさえ高いとは言えない拙作の投稿頻度が再び落ちる予定です(※詳しくは活動報告にて)。申し訳ござい魔貫光殺砲。