或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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レッドブル・・・日本GP1-2フィニッシュおめでとう。

そしてつのっち・・・・・・日本GP初入賞おめでとう!!


scene.99 恋

 “『ねぇ、さとるはどうやったらあたしたちが演じる役と同じような気持ちになれると思う?』”

 “『・・・確認ですけどそれはあくまで“芝居”としてってことですよね?』”

 “『もちのろんのすけ』”

 “『何すか“もちのろんのすけ”って・・・』”

 

 メインキャストの4人でお台場に行った日からちょうど一週間後、俺は堀宮から事務所で会って話す機会を設けられた。もちろんその理由は、“役作り”関係のことだった。

 

 “『で?さとるだったらどうやってあたしのことを好きになる?』”

 “『・・・もう一回確認しますけどマジで役作りってことで言ってるんですよねさっきから?』”

 “『マジのマジ。この何一つ嘘をついてないあたしの眼を見ても分からない?』”

 “『はぁ・・・分かりましたよ』”

 

 まだ頭の中に観覧車でのキスの余韻が僅かに残る中で、堀宮はどうやって自分のことを雅として好きになっていくのかを聞いてきた。

 

 “『そもそもさとるってさ、恋愛どころか人を本気で好きになったことないでしょ?』”

 “『はい』”

 “『清々しいくらいの即答なのは置いとくとして、とにかく今のさとるは演じることになる役を理解するために陸上部に入って、先ずは身体を純也に近づけてるという解釈でOK?』”

 “『えぇ、まぁ』”

 “『だけど恋愛をしたことのないさとるにとって、“心”を近づける方法は原作の受け売りでしかないってわけか』”

 “『・・・そうですね』”

 

 堀宮から“本気で好きになってよ”と本気の感情で告げられてから、俺は今までのやり方に限界を感じ始めるようになった。身体のほうはただ鍛えていけば近づけるが、心はただただ原作の漫画に書かれている純也の感情(こと)を理解したとしてもそれはあくまで原作のコピー&ペイストに過ぎず、本当の意味で堀宮の演じる雅のことを好きにはなれない。1つだけ分かっているのは、俺は今まで生きてきて一度も“恋愛”というものをしたことがなくて、それがどういう感情なのかも理解出来ないでいないということ。

 

 “『もちろん、このままでは俺は雅のことを完全には好きになれないのは、漫画と現実は全く違うので分かります・・・』”

 

 そして観覧車の中で堀宮から雅のフィルター越しに“好き”の感情を向けられたことでそれがどんな気持ちなのかが分かり始めたが、逆にどのようにして自分は相手を好きになればいいのかが分からなかった。

 

 “『だから・・・・・・先ずは堀宮さん自身を好きになってみようと思いました』”

 

 いま振り返ると、俺はとんでもなく馬鹿な事を言ったと思う。もしかしなくても、堀宮は優しく見つめる碧眼の内側(ウラ)で爆笑していたと思う。それぐらい純也(オレ)が雅を好きになるために辿り着いた結論はあまりに非効率なやり方だった。それでも、人を好きになるという感情がどういうものかを“分かっていなかった”あの時の俺は、これが最善だと信じていた。

 

 “『あははっ、なんかさとるらしいね。それ』”

 

 実際に瞳の奥で大爆笑していたかは分からないが、堀宮はそんな1つの“答え”に辿り着いた俺に温かい目で微笑ましく頷いた。

 

 “『だったら、後はここからどうやってさとるがあたしのことを好きになるか・・・だね?』”

 

 堀宮は、生まれて初めて恋愛感情というものに向き合うことになったこの俺に、ひとつの“秘策”を提案した。

 

 “『ということで・・・“忙しい”あたしからさとるに提案があります』”

 

 もちろん恋愛の“”の字も知らない俺は、堀宮の考えた“秘策”の本当の狙いが何なのかを全く知らないまま、知らないことを良いことに都合のいいように利用されたまま、 “あの日”を迎えた。

 

 

 

 “『それは純也の役作りをしているサトルが一番よく知ってる“感情”だろ?』”

 

 

 

 そして都合のいいように利用されたことで、俺は既に“純也の感情”を持っていたことを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 「_この気持ちを受け入れることさえ出来れば、俺はもっと純也に近づけるんです・・・・・・でも、それ以上にこの気持ちを受け入れたくないんです

 

 悩みを聞いてきた本郷に、俺は蓮の名前(こと)を伏せた上で純也の役を掴めないでいる理由をこれまでの経緯を踏まえて“悩みごと”として打ち明ける。純也のことをもっと知るには絶対に必要な感情を、どうしても受け入れることが出来ない自分のことを。

 

 「・・・憬君にとって、それだけ親友の子は大事な存在なんだな?」

 「はい・・・“あいつ”は俺にとって、誰よりも大事にしたい親友っていう存在なので」

 

 俺が純也になるための方法はたった1つで、蓮への感情を受け入れて、役者として利用すること。それは他人の感情と実体験を躊躇なく利用してきた俺からすれば、決して難しいことなんかじゃない。

 

 「だから恐いんです・・・・・・俺のせいで、“あいつ”が泣くようなことになるのが・・・」

 

 それでも俺は、親友を失いたくない。俺がこの感情を受け入れたせいで親友が傷つくような光景(みらい)なんて、見たくない。

 

 「憬君・・・もしこの俺が“そんなものはただの甘えだ”と言ったら、どう答える?」

 

 悩みを打ち明けた俺に、テーブルを挟んだ反対側に座り天知の淹れた紅茶を一口運んだ本郷は眼光を鋭くして心の内と覚悟を試すかのように問いかける。

 

 「・・・それは・・・」

 

 

 

 “『私たちもいつかは経験したことのない感情で芝居をしないといけないときが来る・・・・・・憬にとってそれが“今”なんだよ。きっと』”

 

 

 

 「・・・もしこれが役者で生き続けるための“甘え”だと言われたら、本当にその通りだと思います・・・・・・でも、自分に嘘をついてまでそれを受け入れられるほどの強さは・・・いまの俺にはありません・・・・・・そして、そんな弱い自分にも嘘はつきたくありません・・・

 

 頭の中で蓮の言葉を思い返しながら、呼吸を整えて自分なりの答えを出す。はっきり言っていまの俺は、純也になるという覚悟を未だに持てないでいる弱虫だ。弱い自分にすら嘘をつけない不器用な臆病者だ。(あいつ)のように、強がりで自分を奮い立たせることもできない小心者だ。

 

 「“これ”がいまの俺です・・・初めての感情に戸惑い、どう扱ったらいいのか分からない。本当にどこにでもいる、普通の男です・・・

 

 

 

 そんな弱さも、全て俺だ。だけど、こんな俺を捨ててしまったら、俺の中にある弱さすら否定してしまったら、それはもう俺じゃない・・・

 

 

 

 「・・・それでいい

 

 強がりも全て捨て去り、まだ一度しか会っていない映像作家の男に(あいつ)にさえ明かしたことのなかった弱音という名の本音を思い切ってぶつけてみると、本郷は鋭くしていた眼つきを幾分か和らげて、呟くように静かに言った。

 

 「たかが恋愛如きやクラスメイトとの些細な諍い如きで人生の全てを左右されるくらいに心が翻弄される不安定さ。大人になりたがって強がる癖して心ん中じゃ常に誰かしらに助けを求める素直になれない矛盾さ・・・人間性が未完成でチグハグで身勝手で不器用で、傍から見ている大人達が羨ましがるほどに感受性が高くて青臭い・・・・・・10代の少年少女っつーのは、それでいいんじゃないか?」

 

 打ち明けた弱さに対する返答はやや遠回しな言い方だったが、本郷は俺の“弱さ”というものを監督(おとな)として受け入れてくれた。

 

 「既にそこら辺にいる同じくらいの年頃の子よりも色んな世界を見てる憬君もそうかは知らないけど、俺ら大人からすれば中高生なんて悪い言い方をすりゃ“学校の中”だけで成立する狭いコミュニティが世界の全てだと思い込んでる大人ぶったガキみたいなもんだ・・・まぁ、学校が全てじゃねぇってことだけは分かってる奴も多いとは思うけど、結局そのうち大半の連中は“外の世界”を知ろうとも触れようとさえもせず、“青春”っつう形のない不確かなものにすがり続けて、“教室”の中だけで完結するような狭い世界を無意識に守ろうとする・・・・・・・故にそいつらは外の世界を見たときに、ただ見上げた空が晴れているぐらいのことでも感動できるほどの純粋さがあって、それは“外の世界”の何ぞやを知った俺たち大人にはないもんさ・・・

 

 

 

 “『“受け入れろ”っていうのはあくまでオレ1人の意見であって、みんながみんなサトルをどんな目で視てるかなんて誰も分かんないし、誰が何と言おうとどうするか決めるのは“自分自身”の勝手じゃん』”

 

 “『もしも今日の読み合わせでさとるが純也の気持ちをちゃんと掴めたとして、それで週末の本番で完璧に演じ切れるとしても、それが作品にとっての正解だとは限らない・・・逆にもし今日がダメで、週末になっても自分の中でまだ掴みきれていない部分が残っていてダメなままだとしても、ダメだからこそ見つけられるものもあって・・・ダメだったときの自分の演技がむしろ作品にとっての正解だったなんてことも起こりうる・・・・・・それが芝居の本質だって、あたしは思ってる』”

 

 

 

 「そして憬君・・・“お前”も今はそれでいい。受け入れたくないままでいいんだ・・・・・・結末に近づくことが役作りの全てじゃない。憬君がこれから演じる純也は絵の中にいる少年なんかじゃなくて、お前にしか演じることの出来ない純也だ・・・そしてお前が演じる2人の少年は、性格も境遇もまるで真逆だが、どっちも自分が一番大好きだって本心で思ってるだけのただの“弱い奴”なんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 ヴゥゥ_ヴゥゥ_

 

 「はい」

 『おつかれ~さとる~』

 「お疲れ様です。杏子さん」

 

 スタジオ七福神での本郷との打ち合わせを終えて寮にある戻ったタイミングを図るかのように、自分の部屋に入ってすぐ携帯に堀宮からの電話が届く。

 

 「なんか今日は随分と機嫌が良さそうですね?」

 『そーかな?』

 「心なしかいつもより声のテンションが高い感じがするので」

 『ちょうど撮影が終わったところで解放感半端ない』

 「それはテンション上がりますね」

 『しっかし声だけであたしの機嫌が良いのが分かるなんて、さすがはあたしの“彼氏”だね♪』

 「誤解が生まれるようなことは言わないでください

 

 何となく声の感じからして機嫌が良さそうだったので聞いてみたら、堀宮はちょうど撮影を終えたところだった。まぁこの人は機嫌が良いか悪いかが割と分かりやすいほうだから、先輩後輩の関係で1年以上付き合っていると彼氏どうこう以前に当てる自信はあるけれど。

 

 『相変わらず冷たいな~。そんなんじゃあたしの心は掴めないゾ?』

 「心配しなくとも、そもそも杏子さんの心を掴む気は全くないんで」

 『そんなこったろうと思ったけどここまではっきり言うかね

 

 一応ついでに言っておくと、俺と堀宮が付き合っているというのは神に誓って“そういう意味”ではない。

 

 『ところでさ、役作りのほうは順調?

 

 なんて挨拶ついでの雑談はここまでと言わんばかりに、撮影終わりで高めなテンションはそのままに堀宮はいきなり本題を切り出す。

 

 「・・・正直、全然順調じゃないです」

 『あらま』

 

 もちろん順調か順調ではないかと聞かれたら、包み隠さず言ってしまえば圧倒的に後者だろう。何故ならいまの俺は(あいつ)へ向けて抱えている“この感情”を受け入れることが出来ないままで、往生際悪く親友で居続けようとしているままだ。結局それは、本郷に悩みとして全てを心から吐き出したところで、何も変わらなかった。

 

 『でも、その割には冷静じゃない?』

 

 吐き出しても何も変わらなかった。もしかして第三者(だれか)に全部を打ち明けたら向き合う覚悟を持てるかもしれないと一縷の望みにかけてみたけれど、何も変わらなかった。何も変わらなかったというのが、俺にとっての純也を演じるための“答え”だった。

 

 「はい・・・これが“正解”だとかは分からないし保証も出来ないんですけど・・・・・・順調じゃないなりに純也を演じるための“答え”は出ました

 

 

 

 【雅ってさ・・・・・・新太のことどう思ってる?

 

 

 

 『・・・そっか。分かった

 

 自分なりに辿り着いたひとつの答えを聞くと、堀宮はいつものように誘導尋問の如く掘り下げていくようなことはせず、理由も聞かずに優しく納得した。

 

 「理由は聞かないんですか?」

 『うん。だってさとるの声を聞けば大体分かるから』

 「本当ですかそれ?」

 『あたしは“ジュンの幼馴染”だよ?これぐらいは当然でしょ?』

 「・・・そうですか」

 

 理由はさっきの俺のオウム返しみたいなものだけど、声色を聞いてそれが本気だっていうのは分かった。

 

 『ねぇ・・・さとるはこのこと聞いたら、怒る?』

 「今度は何の話ですか?」

 『実はあたしが一色先輩と“グル”でさとるのことを利用してたってこと

 

 その流れで、堀宮は今まで俺に隠していたことをサラッと打ち明けた。

 

 「・・・何となく、台本を読んで自分のイメージと純也がかけ離れていた時点で何かがおかしいとは思ってました」

 

 読み合わせに行く途中の車内で図星を突かれた時点で頭の片隅で薄々予感はしていたけれど、俺と蓮が親友同士だということを知っている堀宮なら、こうなることを予想した上で仕組んでも不思議じゃない。

 

 「じゃあ・・・杏子さんの言ってた“秘策”の狙いもそのためだったってことですね?」

 『ぶっちゃけちゃえばそゆこと。まぁ、いくらあたしのことを知ってるさとるでもやっぱり怒るよね?』

 「・・・怒るかどうか聞かれたら、そりゃ怒りますよ。俺はともかく、親友の(あいつ)まで巻き込むような真似をされたら」

 

 もちろん、一色が“発破”をかけることで俺と蓮の関係が一気に“純也と雅”に近づいてしまうことも、勘が鋭く役作りのためなら手段すら択ばないこの人なら、十分に分かっていたであろうことも。

 

 「ただ・・・おかげでようやく純也の気持ちを理解することが出来たので、杏子さんには感謝しています

 

 けれども手段を択ばない堀宮と一色(この2人)がいなければ、俺は本当の意味で純也の感情を理解することは出来なかった。純也が雅へ想っている“好き”という気持ちと、俺が雅を演じる堀宮へ想いかけていた“好き”という気持ちは似ているようで全く違っていたことに、気付くことは出来なかった。

 

 

 

 “『無理なのは“受け入れたくない”からか?』”

 

 

 

 当然気付けて良かったことだけじゃなくて、気付かないままのほうが良かったこともあった。知らないままでいられたら、これからもただの親友兼ライバルとして互いに何の痛みも伴わずに同じ世界で戦っていられた。その代わりに、変わらないといけない自分にも気付くことすら出来ず、また蓮に置いていかれるところだった。

 

 「自分が感じた感情の全てを受け入れることだけが芝居じゃないってことに・・・杏子さんのおかげで気が付きました

 

 だからもっと、俺は(あいつ)に近づきたい。あいつの隣に立つのに相応しい人間になりたい。だけど近づきたい気持ちと同じくらい、俺はこの感情を受け入れたくなんかない。受け入れたせいであいつが泣くようなことになったら、俺はきっと耐えられない。だから、“”のままの関係を壊したくなんかない。だけど、それと同じくらい“その先”に進んで、蓮のことをもっと知りたい。蓮の心にもっと触れたい。蓮にとっての“特別”でいたい・・・

 

 

 

 どっちの心を信じればいいのか、自分でも分からず胸が痛む。この気持ちこそが、純也が雅に対してずっと抱えている“好き”という感情の正体だった。

 

 

 

 「これでようやく・・・・・・心置きなく純也を演じられます

 

 

 

 これが・・・“恋”という感情だった。

 

 

 

 それを知ることが出来たおかげで、俺はようやく本当の意味で純也を演じる覚悟を持つことが出来た。

 

 『・・・さとるはこれからも“秘策”を続けたい?

 

 純也の感情を理解したことへの感謝を携帯電話越しに伝えると、堀宮は優し気な口調で“秘策”をこれからも続けていくかどうかを聞いてくる。

 

 「はい・・・お願いします

 

 もちろん、純也として雅と向き合うと決めている俺の選択肢は、“続ける”の一択だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【俺は・・・2人とはこれからもずっと、何でも話せる関係のままでいたい・・・・・・だから、約束してほしい・・・

 

 「カット!では一旦チェック入ります」

 

 5月21日。ドラマ『ユースフル・デイズ』の撮影は3日目に入り、ロケ地となっている廃校の屋上で快晴の空の下、新太、雅、純也の回想シーンの撮影が行われていた。

 

 「中々やるじゃん。サトル」

 

 回想シーンの撮影がひと段落して小休止(インターバル)が取れたタイミングで、俺は屋上の真ん中に立って空を見上げるような姿勢で集中力を高めている憬に声をかける。

 

 「何か言ったか?」

 「いや、聞こえてなかったんならいいよ」

 

 せっかく褒めてあげたというのに、このお芝居に全ステータスを振ったかのような不器用な共演者は清々しいくらいに聞き逃しやがった。まぁ、こういうところもらしいっちゃらしいし、見ているだけで面白いから俺的には全くイラっとは来ないけど。

 

 「・・・俺はずっと、芝居のために利用することは受け入れることが全てだって思ってた」

 

 半ば勝手に諦めかけて俺が徐に隣の位置に立つと、憬は視線を前に向けたまま前触れもなく俺に話し始める。屋上の柵へと向けられているその紅色の瞳には、(こいつ)なりの覚悟が見え隠れしている。

 

 「だけど・・・受け入れないまま自分を貫く演り方もあったんだって、純也の役作りをしていく中で気付くことができた・・・」

 

 読み合わせの前日というタイミングで、憬は今まで築き上げてきた演技プランを俺と杏子によってぶち壊された。一度は壊すような真似をしなければ本当の恋愛感情を知らない当の本人には伝わらなかったはずのもので、それを自覚させることで“間違った方角”へと進んでしまう危険も秘めていた。

 

 「サトル。オレのことはいいけど、ホリミィのことだけは」

 「別に俺は杏子さんも一色も誰も悪いとは思ってないよ。ただあんたらは役者として自分なりに正しいことをした・・・それだけのことだろ?」

 

 全てはこのドラマで俺たちキャスト陣の実力を周りでカメラやマイクを構えて指示を送るスタッフ陣と、たった4ヶ月しかない“青春”を高みの見物で見守るPたちお偉いさん、そして無数の傍観者(視聴者)に知らしめるため、もといこのドラマを作品としてより良くするための俺たちなりのやり方だった。

 

 「あぁ、その通りさ・・・でもオレが一番嬉しいのは、何やかんやでサトルがちゃんと腹を決めてくれたことかな?」

 「正直、誰かさんのおかげで気持ちの整理はまだ出来てないけどな」

 「悪いと思ってなかったんじゃないのか?」

 「(あいつ)とのことはまだ別だろ」

 「なるほどね。まーそう簡単に親友ちゃんは割り切れないかー」

 「チッ、他人事みたいに言いやがって」

 「でも良かったじゃん。最高の“モデル”が近くにいてさ」

 「・・・ある意味、本当にそうだったな。こんな形で気付きたくはなかったけど」

 「ホントだよなサトル?」

 「次は“マジビンタ”だからな一色?

 

 罪悪感みたいなものが全くなかったかと聞かれたら多少は嘘になるけれど、俺が信じていた通り、このどこにでもいる男の皮を被った“怪物”は本番までに正解に辿り着いてきた。園崎純也という役に限らず俺たちメインの4人に求められている芝居は、“ただの完璧さ”ではなく“10代にしか表現出来ない“青さ”を完璧に演る”というもの。そして憬がこの問いに対して叩き出した答えは、“好き”という気持ちを受け入れ切れない自分を“受け入れる”というものだ。

 

 「だから言ったろ?“受け入れたくないなら別に受け入れなくても良い”って」

 「・・・・・・」

 

 これが芝居という意味で正解なのか不正解なのかは、まだ誰にも分からない。それでも“”を知った憬がクランクインまでに行き着いた純也の“完璧すぎない”演じ方が、このドラマにおいて今のところ最適解だというのは、間近で対峙すれば分かる。信じてはいたし心の底からこうなることを望んでいたけれど、こうも容易く役を掴んで来るとは俺にとっては少しだけ予想外だった。

 

 

 

 “・・・本当に(こいつ)は、周りのみんなの予想を超えるスピードで化けていくから油断ならない・・・

 

 

 

 「・・・一色

 

 ずっと前に広がる屋上に向いていた憬の視線が、俺のほうを向く。

 

 「ありがとう

 

 その横顔は控えめながらも喜んでいて、“ありがとう”という形で嘘のない気持ちを俺に告げる。本当に、ここまで嘘が全くない本心からくる感情を向けられると・・・“王子様”の仮面を被って生きている俺の存在意義を真っ向から否定されたような気分になる。

 

 

 

 “・・・だからこそ・・・・・・お前の愚直なその心の中にまだ隠れている“引き出し”の中を・・・もっと引っ張り出したくなる・・・・・・お前が見ている世界を、もっともっと知りたくなる・・・

 

 

 

 「・・・何気に初めてみたよ。サトルが笑ってるところ」

 「そうか?まぁ、あんまり会って話してないから初めてっていうのもあるかもしれないけど」

 「ハハッ、確かにそうとも言える」

 「さっきからこのあたしを仲間外れにして何を2人で楽しんでるのかな男共?」

 

 愚直に自分の気持ちを伝えた憬と屋上の真ん中あたりで2人きりで話していたところに、背後から“あと1人”がわざとらしい口調でおちょくる。

 

 「ハイこれ。まだ撮影は終わってないから今のうちに水分補給ってことで受け取り給え」

 「っと、サンクス」

 「ありがとうございます」

 

 振り返ったところで両手にシェアウォーターを持っていた杏子が振り返ったタイミングを図ってシェアウォーターをこっちへと軽く投げてきて、俺たちは仲良くそれを受け取る。

 

 「ほんとに杏子さんって好きですよねシェアウォーター(それ)?」

 「だってシェアウォーターは思い入れがあるから」

 「どうせ“スポンサード”の都合でしょ?案外ホリミィって根が真面目だからね」

 「ちょっと先輩それ営業妨害」

 「いや、一応清純派で売ってるなら真面目でも全然問題ないんじゃないですか?」

 「“一応”ってどういうことさとる?」

 「そのまんまの意味ですよ」

 「んだと“チェリー”このヤロウ

 「清楚どころか思いっきり武闘派(ヤンキー)が出ちゃってけどいいのかホリミィ?

 

 そして俺たち共演者は、ちょっとした隙間の時間で本当に友達同士のような距離感で清涼飲料水の入ったペットボトルを片手に学校の屋上で語らう。この瞬間だけは、自分が役者だとか芸能人だってことを忘れられて、どこにでもいる高校生になった気分になれる。だけども俺たちは“役者”であって“芸能人”でもあるから、撮影が終われば基本は“ハイさよなら”の関係だ。普通の奴らにとっては3年もある“ありふれた学校生活”は、俺たちにはたった4ヶ月しか残されていない。

 

 「(・・・あーあ、この青春(じかん)が“本物”だったらな)」

 「ん?なに空を見上げてるの先輩?」

 

 独り言で愚痴るまでもない心の声を快晴の空へと無言で吐き出していたら、杏子がさっきの俺みたいに聞いてきた。

 

 「いや、よく見たらめっちゃ空が綺麗だなって」

 「急になにウケるんだけど」

 「でもちゃんと見てみろよ。こんな空、滅多に見れないぜ?」

 「知ってるよ。こんな雲一つない快晴(そら)は、マジのマジで超レアだから」

 「・・・ですね」

 

 ここからの4ヶ月。きっと色んな思惑が複雑に混ざり合っていく中で、俺たちの青春は夏の終わりに向かって進んでいくことだろう。そんな期間限定の学校生活の中で、俺は他の3人と共にメインキャストに選ばれた・・・って、当然ながら他の3人はどんな思いでこのドラマに臨んでいるかなんて、知ったこっちゃないけど。

 

 「お待たせしました。今から雅と新太のリアクションと返しのシーンを撮るので、3人とも定位置にスタンバイしてください

 

 

 

 ただ選ばれたからには・・・・・・“オレ”は誰よりもこの“青春”を楽しんでやるよ。

 

 

 

 「では本番行きまーす。ヨーイ

 

 

 

 5月21日_ドラマ『ユースフル・デイズ』第一話・回想シーン_予定通り撮影終了_




芸能人だって、青春したい_



しれっと最後のほうでクランクインを通り越して撮影3日目に突入しましたが、これは本編の今後の展開と劇中のドラマの展開の両方を考慮した結果です。

ちなみに今回の話は本来であれば2話ぐらいに分ける予定で書いていましたが、1回マジで詰んだ関係でやや強引ではありますが約2話分を1話に詰め込む形になりました。一応底辺作者なりにストーリーを成立させるための最善は尽くしましたので、どうかお許しください。

というわけで最後は駆け足な感じになってしまいましたが、chapter4-2はこれで一旦2018年に戻って終わりとなり、いよいよ本格的にドラマ撮影が進んでいくchapter4-3に突入します。




やったぜ、つのっち☆
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