「はい皆さん、席についてください」
1学期の始業式を終えて気が緩んで少しばかり騒がしくなっていた2年1組の教室に、担任の佐伯が入って来るとそれを合図にするかのように教室は少しずつ静まり返る。
「今日からこのクラスの担任になる
「なぁ、マジで転校生来んのこのクラス?」
「しかも女子らしいぜ」
担任の佐伯が黒板に自分の名前を書いて自己紹介をする中、後ろのほうで男子生徒の2人が転校生の話で静かに盛り上がっている。
「そこ静かに」
それに気づいた佐伯が仲良く転校生の話をしていた2人を優しく一喝し、クラスは一瞬だけちょっとした笑いに包まれる。もう噂で知れ渡っているが、2年1組の話題は今日からこのクラスに編入する転校生の話題で持ち切りであった。
「えーっと、もう既に知ってる人も多いと思いますが、今日からこの2年1組に転校生が編入することになりました。では半井さん。どうぞ」
担任の佐伯がこのクラスに転校生が編入してくることを1組の生徒に伝えると、教室の外で待機していた転校生に中に入るよう促して1組に編入する転校生が教室へと入る。それを目視で確認した佐伯は、黒板に転校生のフルネームを書く。
「仙台の高校からこの実丘学園に編入した、半井亜美さんです」
佐伯が本人に代わって軽く転校生のことを紹介するのに合わせて、転校生の亜美は視線を1組の生徒たちに向ける。
「(亜美・・・本当に転校して来たんだ・・・)」
佐伯と共に黒板の前に立つ亜美を見つめる新太の眼が、思わず見開く。
“昇降口に貼られていたクラス分けの表の中に亜美の名前が書かれていたときは、あまりに突然すぎて何かの間違いなんじゃないかと自分の目を疑った。そして今、小学校を卒業するのと同時に仙台から
「では、半井さんからも一言」
佐伯から自己紹介を促され、半井は意識を今日からクラスメイトになる1組の生徒へと向ける。
「(・・・新太くん?)」
そのとき、ちょうど隣の席が空いている場所に座る新太の姿が亜美の目にとまる。
「・・・!?」
「カット」
永瀬が演じる亜美が自己紹介を始めるというところで、カメラの外で撮影を見守っていた演出の黛がシーンの途中で冷静にカットをかけた。パッと見た感じでは、誰かが台詞を“トチった”わけでも雑音を鳴らしたわけでも指示されていた動きとは違う動きをしたわけでもない。そんな一見すると誰かがNGを出したわけでもないのにいきなりカメラを止めた黛に、周りのキャストは“えっ?”という具合に表にこそ出さないが心の中でざわついているのを空気で感じる。
“・・・“固くなって”いるな・・・永瀬のやつ・・・”
もちろんみんなの前に立つ転校生の亜美のがただの永瀬に戻った瞬間を感じ取った俺は、黛がカットを掛けた理由にはとっくに気付いていた。黒板の前に立って亜美として1組のクラスメイトと対面しているとき、新太と目が合ったタイミングで一瞬とはいえ永瀬の芝居が崩れたのが俺には目に見えて分かった。この前の読み合わせのときと比べて、明らかにいまの永瀬は力んでいる。結果的にそれが“緊張しい”な性格の亜美と上手い具合にリンクしているおかげで教室に入る場面の永瀬の芝居はかなり良く纏まったのだけれど、明らかに本人は納得がいってない様子だ。
「永瀬さん。新太がいることに気づいて目を逸らすところの目の動きや表情があからさまに台本通りに動いている感じになっているので、もう少し自然に新太がそこに座っていることに気がついて目を逸らしてください」
「はい」
カットをかけた黛が、カメラの外から永瀬へ指示出しする。緊張なのか気負い過ぎなのかは分からないが、明らかに肩に力が入って演技が固くなっている永瀬に対して黛は冷静に演出として一切妥協のない指示を出し、永瀬もそれにしっかりと視線を向けて力強く答える。決して感情を表に出すようなことはせず常に冷静だが、こと演出に対しては一切妥協がなく言うときはハッキリと言う、このドラマで初めて演出を任された黛。
“『どんなに夕野くんの中で腑に落ちないところがあっても、監督がOKと決めたことはOK、NGと決めたことはNG。撮影現場において、これは絶対です』”
そんなモデル体型のドラマ演出家がまだアシスタントだったときに演出だった人へ“芝居に納得できない”と我儘を言って叱られた2年前の
「(いや、思い上がり過ぎだろ)」
と、変な妄想で暴走しかけた頭の中を、我に返って冷やす。そもそも本人がそれを覚えていたり気に掛けていたりする可能性を考えてしまうこと自体、思い上がりも良いところだ。現にギリギリ本番までに役を形にしてきたいまの俺には、永瀬のことをどうこう言える余裕なんてない。
「頑張れ~あずさ~」
俺から見て右隣に座る雅役の堀宮が、隣に座る俺にだけ聞こえるくらいの声量で両手を口に当てながら小さく永瀬へエールを送る。さすが、台本が出来上がっていない段階から役を作り込んでいたメインの中でただ一人の“ベテラン”なだけあって、余裕さが伺える。
「あずさ。いつも通りに演れば一発OKで行けるから」
それとほぼ同時に、新太のいる席に座る一色が優しい笑みを浮かべアドバイスを送り、永瀬の緊張を解きほぐす。それに応えるように永瀬は一色のほうを見て一度頷くと、黛の指示で自己紹介のときの立ち位置へと戻る。
「先輩に“ああいう一面”があるなんて、ちょっと意外じゃない?」
それを横目で見ていた堀宮が、隣にしか聞こえないほどの声量で俺に声をかける。確かに普段の“オレ様”的な振る舞いの一色を見ていると、意外なことは意外かもしれない。
「意外というか、割とこっちのほうが“本性”なんじゃないかって俺は思います」
だけどリハの前に永瀬のところに行って話をしてきたりするところとか、芝居に関しては“理論派”な考えを持っていたりとか、リハも本番も演出からの指示にも的確に応えてみせるなど、もしかしたら一色は俺が思っている以上にプロフェッショナルで、“大人”なのかもしれない。
“『やっぱりサトルは、オレの“想像通り”だ』”
「と、思ってるだけですけど」
「そこは自信持てやい」
念のための“予防線”を張ったら、案の定同じ事務所の先輩は突っ込んできた。まぁ、そういう確信を持てるほど
「それでは、亜美の自己紹介のシーンからもう一回行きます」
一瞬の休息はあっという間に終わりを告げて、準備が整ったことを確認した黛がTAKE2をかけるのと同時に俺は純也の
「仙台の高校からこの実丘学園に編入した、半井亜美さんです」
佐伯が本人に代わって軽く転校生のことを紹介するのに合わせて、転校生の亜美は視線を1組の生徒たちに向ける。
「(亜美・・・本当にこの学校に来たんだ・・・)」
佐伯と共に黒板の前に立つ亜美を見つめる新太の眼が、思わず見開く。
“昇降口に貼られていたクラス分けの表の中に亜美の名前が書かれていたときは、あまりに突然すぎて何かの間違いなんじゃないかと自分の目を疑った。そして今、小6で仙台から
「では、半井さんからも一言」
佐伯から自己紹介を促され、半井は意識を今日からクラスメイトになる1組の生徒へと向ける。
「(・・・新太くん?)」
そのとき、ちょうど隣の席が空いている場所に座る新太の姿が亜美の目にとまる。
「・・・!?」
その瞬間、新太と亜美の2人の目が合い、目が合ってしまった亜美は気恥ずかしそうに視線をちょうど真ん中あたりの席に座る純也と雅の辺りに移して、自己紹介を始める。
「半井亜美です。前まで通ってた高校では陸上をやっていました。もちろんここでも続けようかなって思ってます。よろしくお願いします」
「カット。OKです」
TAKE2を無事に終えると、永瀬は小さく息をはく仕草をする。
「良かったですよ。永瀬さん」
「・・・ありがとうございます」
それを真横で見守っていた佐伯役の白石が優しく声をかけると、永瀬は謙遜した態度で感謝を告げて、どこに視線を向けるでもなくその場に立ち落ち着いた表情で次の指示を待つ。しかし、同期である一色からの励ましこそあったものの演出からの指示を一回で飲み込み、見事にOKにしてしまう器用さはさすがスターズ所属といったところか。
“やっぱり。納得はしてないよな・・・”
だけど落ち着いた表情で平然を装う永瀬の眼に映る感情からして、明らかに自分の演技の出来栄えに納得していないというのは一瞬で分かった。突出して上手いとは思わないが、別に芝居は全然悪くなかった。もし俺が演出の立場だったら、黛と同じように普通にOKを出していた。だけど“それだけ”じゃ駄目だってことを、永瀬は誰よりも理解している。
“『どうしてあずさのやつはあそこまで頑張るんだろうな?』”
「(いやいや、先ずは自分の芝居に集中しろ)」
人の心配をし始めた頭の中を、俺は再度冷静にする。誰よりも自分が理解しているが、俺も俺で本番までに純也の気持ちを理解してどうにか芝居に落とし込めているだけであって、人の心配をするほどの余裕はない。少しでも気を抜くと“好き”という感情が純也ではなく自分自身の
“飼い慣らさないと、この“感情”を”
「では次、亜美が新太の隣の席に座るシーンの撮影に入ります」
もう一度気を引き締めて、俺はメインキャストの3人と共に午前の撮影に臨んだ。
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「佐伯役・白石宗さん。亜美役・永瀬あずささん入ります」
自分と佐伯先生の役を演じる白石さんの名前を告げるスタッフさんの声と共に、私は“他の3人”の掛け合いが先に行われている2年1組の教室という設定でカメラが入っている講義室へと向かっていた。
「(あの人は・・・)」
第1話の撮影が行われている講義室の前まで来たところで、ちょうど隣の講義室とのドアの間にある壁のあたりで見学として現場を訪ねていた脚本家の草見さんの隣に立ち、撮影が行われてる講義室の様子を見学している同じ制服を着た人がいるのが見えた。もちろんその人がこのドラマで大村凪子を演じる環蓮さんだってことは、すぐに分かった。
「(・・・あっ)」
環さんの存在を認識した瞬間、合わせるつもりのなかった視線が合った。ほんの一瞬の気まずさを感じた後に、私は環さんに無言で軽く会釈をした。声を掛けようかどうか悩んだけれど、咄嗟のこともあってそれぐらいしか出来なかった。
「・・・・・・」
そして私が軽く会釈をすると、環さんは同じように軽く会釈をしてそのまま背中を向けて奥の方へと歩いて行った。私と目が合ったときの環さんの表情は、心なしかどこか苛立っているように私には視えた。
「次の撮影は13時30分よりカフェテリアで行いますので、該当する演者の皆さんは各自でお昼を済ませるように」
12時15分。午前中に組まれていた“亜美が2年1組に編入するシーン”の撮影は無事に5分巻きで終わり、午後の撮影に向けての休憩時間になった。
「あずさ」
午前の撮影が終わり、他のキャストが一足早く出ていくのに続いて2年1組として使われている講義室から出ようとしたところで、十夜さんから上機嫌な声色で名前を呼ばれた
「オレたち今からカフェテリアで昼食べるつもりでいるんだけど、あずさもどうよ?」
振り返ると十夜さんと憬さんと杏子の3人が、ひとつの席に屯するように集まっていた。当たり前なのだけど、この3人が教室のひとつの机に揃うと本当に“原作の3人”に見えてくるから、自分だけが本当にまだ新太のこと以外は全く知らない転校生の亜美そのものになった気分になる。
「ねえ一応確認だけどあたしたちってタダでカフェテリアのメニュー食べれるんだっけ?」
「タダで食えるのは弁当だけねホリミィ。カフェテリアのメニューは普通に金払って食うパターン」
「マジか。じゃあ奢って先輩」
「こんなときだけ後輩ヅラするのはどうかとオレは思うんだけどサトルはどう思う?」
「これに関しては同意せざるを得ないな」
「うわ先輩の味方するなんてさとるの人でなし」
「たったこれだけで人でなし呼ばわりされるのは理不尽すぎるだろ杏子さん・・・」
十夜さんは同じ事務所なのと役柄的に接点があったから会えば話していたけれど、憬さんと杏子に至ってはこの1ヶ月の間ずっと距離を置いてきた。もちろんそれは自分なりに亜美という役を理解しようとして選んだ選択で、自分は正しいことをしてきたと信じてきた。
“『あたしとこれからも“友達”でいたいんだったら、もっと自分の立ち位置を弁えたほうがいいよ』”
「で、あずさはどうするの?」
十夜さんと憬さんの2人に向けていた杏子の視線が、ひとりぼっちの私のほうに向けられる。私に声をかける杏子の表情には喧嘩を売ったときにみせた感情はなく、“普段通りの杏子”そのもの。本当に杏子は、人に嘘を吐いて“心の中の自分”を隠すのが更に上手くなった。そんな幼稚園からの幼馴染の姿を見ていると、“私たち”の距離が遠ざかってしまっていることを実感する。
「私は一旦外の空気を吸ってからカフェテリアに行くから、みなさんは先に行っててくれて大丈夫です」
一緒にカフェテリアに行くかどうかを聞いてきた杏子へ、私は外の空気を吸ってからそっちへ行くと告げる。
「そっか。でも早めに戻らないとお昼食べる時間なくなっちゃうから気を付けてね」
私がそう言うと、杏子はいつもと変わらない明るい様子で気に掛けた。果たしていまの杏子が本心で話しているように、十夜さんと憬さんの2人には視えているのだろうか。なんて、自分のことで手一杯な私には分からない。
「うん。ありがとう」
そんな私は、何とか3人の前で平然を演じ切って、講義室の外に出る。
“『十夜、あずさ。あなたたち2人に今度の夏に放送が予定されているプライム帯のドラマで“メインキャスト”をやってもらうことになるわよ』”
私が演じる半井亜美というキャラクターは、仙台の高校からこの実丘学園に転校してきた走り高跳びが専門種目の女の子で、主人公の1人である新太とは小学6年生のときに転校によって離れ離れになった幼馴染という関係。
“『そういやあずさって陸上の経験ってあったりするの?』”
“『はい・・・中学の3年間だけですけど、走り高跳びをやっていました』”
“『マジで?じゃあもろに亜美じゃん』”
ちなみに私も中学の3年間だけとはいえ陸上をやっていて、奇しくも亜美と同じ種目を専門にしていた。最初は本当にただの運命じみた偶然かと思っていたけれど、後でアリサさんの口から“経験者”だということを理由に抜擢されたことを明かされた。これは雅と同じく弓道の経験者の杏子も同じだったけれど、キャスティングで重要なのはそこだけじゃないことは最初から分かっていた。
“『心して聞いてください・・・』”
そして明かされた、私たちの知らないところで行われていた出来レースも同然のオーディション。どうしてこんな理不尽な仕掛けをプロデューサーの上地さんは仕組んだのか。その理由は“大人の事情”という魔法の言葉で誤魔化されて、結局私を含めたメインキャストの4人は知らないままだ。そもそも“あれ”は、私たち演者が簡単に首を突っ込んでいいものじゃないのは、直感で感じていた。
“『“俺たち”には“俺たちの意地”があるということも、忘れないでください』”
それでも憬さんが初顔合わせで上地さんに向けて言っていたように、私たちメインキャストは“私たちの意地”で期待に応えて、このドラマを成功させないといけない。
“『負けたくないのは、私も一緒だから』”
何よりも、同じ
“『本番ヨーイ』”
だけどその先に待ち受けていたのは、想像していた以上に“恐い”光景だった。
“【えーっと、もう既に知ってる人も多いと思いますが、今日からこの2年1組に転校生が編入することになりました】”
教室の外で自分の出番を待っていたとき、これまでに感じた事のない強い緊張感を私は感じた。実際に違う学校へ転校したっていう経験がないから正確に言うと憶測になってしまうのだけれど、あのときに感じた緊張感は転校してきた人やクラス替え最初の日に感じる“馴染めるかな?”という不安からくる緊張とは全く違うものだった。
“【では半井さん。どうぞ】”
普通に考えて、緊張の正体が全く違うのは明らかだった。なぜならここにいるのは学校に行けば必ずクラスで顔を見る同じクラスの人ではなくて、クラスメイトを演じる同じドラマの共演者で、メインに選ばれた4人以外の生徒役は、残酷な言い方をするとしたら全員大人に騙された人たち。その人たちからすれば、私たちメインキャストは“敵”のような存在なのかもしれない。
“『(余計なことは考えちゃ駄目だ・・・)』”
本番の空気に飲まれそうになりかけた心を奮い立たせて、私は亜美となって1組の教室へと入って、初めての学校とクラスを前に少しだけいつもより重くなった足どりで黒板の前まで歩いて、“クラスメイト”のみんなの前に立つ。ここまでは自分の中でも亜美を演じ切れていた。
“【仙台にある高校からこの実丘学園に編入した、半井亜美さんです】”
だけれど黒板の前に立って席に座る1組の生徒役のキャスト陣へ視線と意識を向けた瞬間、転校生の
“『カット』”
その綻びは見逃されることなく、黛さんの一声で撮影は止められた。あり得ないことだけど、もしあのままカットが出されずOKテイクになろうとしていたら自分で撮影を止めていた。それぐらい、新太を演じる十夜さんと目が合ったときの私の芝居は酷かった。
こうして私は、“3人”に全くついて行けていない現実を思い知った。
「(・・・また来てしまった)」
ちょっと1人になりたくて今日初めて来た大学内のキャンパス内を歩いていたら、気が付くと数時間前までいた中庭に辿り着いていた。どこに行くにしても、こういう周りに誰もいない空間で何をするでもなく1人でいるときが、私にとっては一番落ち着く・・・なんていう理由を付けられたらどれだけ楽なんだろうと思う。本当はただ、あの3人といると心が落ち着かないから、ここに来てしまっただけ。
“こういうところから変えていかないと駄目なのは分かっているんだけど・・・でも・・・”
こういうところを変えていかないと駄目なのは、自分が一番分かってる。そのつもりでいても、どうしても心は現実を前に甘えてしまう。せっかく3人と肩を並べられるようにこの1ヶ月間を費やしたはずなのに、いざ本番を迎えたときにそこにいたのはまるで駄目な自分だった。終わってみればNGを出したのは“あの一回”だけで済んだものの、午前中の出来栄えのままじゃ私は3人どころか
「・・・・・・」
なのに私は、何も変われないまま・・・
“『やっぱりあずさは、あたしがいないとダメね』”
「・・・はぁ」
結局いつもみたいに現実から逃げて自らの意思で“ひとりぼっち”になっている自分がもの凄く惨めに思えて、堪らず溜息が零れる。こうでもしないと心を落ち着かせられない自分が、本当に嫌だ。
“・・・みんなのところに行こう。こんなところで1人で悩んでいたって、何も変わらない”
相も変わらずな弱虫に戻っていることに気づいて、無意識にベンチに向かおうとしていた足をカフェテリアのほうへと進ませようと振り返ろうとする。
「とっくにカフェテリアにでも行ってるのかと思ったら、“こんなところ”で何してるの?」
振り返ろうとしたタイミングで、私は背後から誰かに声をかけられた。
「永瀬さん。だよね?」
「・・・はい。環さん」
声のした方角へと振り返ると、そこには同じ制服を着た環さんが立っていた。
「私の名前、ちゃんと覚えてくれてたんだ」
「えっ、はい・・・共演者の名前くらいは覚えておかないと失礼だと思ったので」
「へぇ~、永瀬さんは真面目なのね」
名前を覚えていたことを褒めるような言葉に反して、私のことを視ている環さんの表情や口ぶりは本番直前に軽く会釈をしたときのように冷たく、怒っているように私には視えた。
「・・・あの、環さんは私に何かご用でしょうか?」
その表情からして何か言いたいことがあって
「うん。午後の撮影が始まる前にどうしても直接言っておきたいことがあったから・・・」
そして前置きのあとに真正面に立つ環さんから返ってきた言葉は、私の想像していた以上に残酷な一言だった。
「永瀬さん・・・・・・もし亜美を演じる自信がないんだったら、私に役を譲って」
問われる自信と覚悟_
大変長らくお待たせしました。およそ2か月ほど勝手ながら“夏休み”を満喫させていただいてましたが、今日から再開です。ただ夏休みの間ずっと離れていたせいでブランクが思った以上にエグいので暫くは更新頻度がめっちゃ不安定になると思いますが、2か月に及ぶ自分探しを経てこの物語の続きを書くというモチベーションを何とか取り戻しましたので、今後ともマイペースに書いていきたいと思います。
もしかしたら、というかほぼ確実にまたどこかで今回みたいに“夏休み”を取るようなこともあるかもしれませんが、この作品は完結まで絶対に書き切りますので今後ともよろしくお願いします。