或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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赤坂アカ先生&横槍メンゴ先生、約4年半に渡る【推しの子】連載お疲れ様でした!


scene.109 舞台挨拶②

 『先ずは映画・殺戮教室、監督兼脚本の深澤作間(ふかざわさくま)監督の登壇です!』

 

 開演を告げるブザーがシアターに鳴り響いて照明が暗転して暫しの間を置き、『殺戮教室』のメインテーマが流れると同時に再びシアターの照明が明転し、スクリーンの舞台袖から司会進行の元気のいい合図と共にこの映画でメガホンを取った深澤監督が先頭を切って登壇するのを見て、満員の観客が一斉に拍手を送る。

 

 「憬くんは知ってる?この映画を撮った深澤作間って監督(ひと)?」

 

 監督とキャスト陣を迎い入れる拍手の中で、隣に座る牧が俺に聞いてきた。

 

 「さすがに知ってるよ。ここまで有名な映画監督だったら」

 

 もちろん映画監督として既に40年近くに渡って活躍している深澤作間という監督(ひと)の名前は母ちゃんのコレクション中にもあったから、仕事こそまだ一緒にしていないものの小学生のときにはこの人のことを俺は知っていた。

 

 「そうだよね。憬くんは“映画通”だもんね」

 「“映画通”って言っても、世間一般的な映画通とはちょっと違うんだけどな」

 「確か役者の芝居にばかり注目しててあんまり映画監督には拘らないって感じだったよね?」

 「どこ情報それ?」

 「あなたの“親友”」

 「だと思いました

 

 だけど目の前の壇上に立つベテラン映画監督がどんな映画を撮っていたのかまでは、ブラウン管の中で誰かを演じている役者にばかり注目する観方をしていた俺はすぐには思い出せない。前から名前を知っているということはこの人の撮った映画は俺の中で印象に残っているほうのはずなのに、中々出てこない。

 

 “そういえばこの監督、バトルロワイアルのようなアクションだけでなく学園モノから時代劇と手掛ける作品のジャンルがかなり幅広いんだよな・・・”

 

 『続きまして、殺戮教室に出演したキャストの皆様です!』

 

 どうにかして頭の中で駆け巡る記憶の断片から深澤作間の映画を鑑賞したときの景色を引っ張り出そうとしていると、司会がキャスト陣のコールを告げる声が聞こえて意識が強制的に現実へと引き戻される。

 

 「(もう少しで出てきそうだったけど・・・まあいいか)」

 

 その手前で作品が何なのかが分かりそうになったものの、司会の一言でそれが彼方へと消えて行った俺は早々に思い出すのを諦めてなあなあになっていた拍手する手に少しだけ力を込める。

 

 『レンコ役、堀宮杏子さん!』

 

 舞台挨拶に登壇するキャストの1人目にして、この映画で主人公(ヒロイン)を演じた堀宮が舞台に上がると監督の登壇から少しだけ落ち着き始めた拍手のボルテージがまた一段階跳ね上がる。

 

 「(観客の前にいるときはマジで“清純派”だなこの人・・・)」

 

 アイボリーホワイトのドレスを身に纏いシアターを埋め尽くす観客に手を振りながら颯爽と登壇する、我が事務所で1,2を争うほど勢いのある清純派の主演女優。観客に魅せる煌びやかな笑顔はまさに清純派そのもので、眩しいくらいに華がある。後輩として1年以上の付き合いになるけれど、本気で“清純派女優”の自分を演じているときの堀宮の風格(オーラ)は只者ではない。

 

 「(この人のことを俺は、“好き”にならなければならないんだよな・・・)」

 

 堀宮のことは、初めて会ったときから可愛くて華があると思っていた。きらきらと光るように艶やかな亜麻色のセミロングの髪。青空のように透き通る碧い瞳に美しさと可愛らしさが合わさった天使のような顔立ち。それを引き立てる中ぐらいの背丈の割にスタイルが良く映える華奢な体型。清純派という言葉がこれ以上ないくらいに似合う外見とギャップのある批評家をも唸らせる没入度の高い演技派な芝居と、“マジのマジ”が口癖の清純派の“せ”の字も感じられない言動と振る舞い。面倒見が良くてよく飲み物を奢ってくれるけど、顔を合わせば高確率でウザ絡みをしてくる自分勝手さ。だけれどたまに俺へとくれるアドバイスはいつも的確で、芸能人としてモラルや礼儀を弁えていてオンオフの切り替えも器用で、無礼があればちゃんと後輩を叱ってくれる真面目さ。

 

 

 

 “『素直でよろしい。この天才女優・堀宮杏子がさとるを褒めて遣わそう』”

 

 

 

 自分のことを自信満々に“天才女優”だと言い切れる尊大さで後輩を前に余裕ぶるフリをして、裏では血が滲むほど努力しているということが分かる子役時代からの演技の成長ぶり。子役だったときに自分の居場所を奪っていった“ライバル”を常に目の敵にし続けて主演女優にまで這い上がって来たが故の時折垣間見る危うさと、芝居のためなら手段を厭わない狡猾さ。普段の振る舞いのせいで中々それを言葉にする気は起きないけれど、こんなふうに清純派という三文字の裏側に隠されている色々な一面を併せ持つこの人のことを、俺は人間性も含め役者として尊敬している。

 

 

 

 “『さとるのそういうちょっと“冷めてる”ところ、あたしは“らしく”て割と好きだよ』”

 

 

 

 “好き”という感情が何かを知ってしまった今なら、事務所で堀宮と指切りげんまんをしたときに感じていた自分の感情が分かる。あの瞬間は理解出来ていなかったが、あのときに俺はこの人に一目惚れをした。それは顔が好みだとか言うことではなく、尊敬している先輩から“本当の自分”のことを褒められたことが嬉しかったからだ。

 

 

 

 “『目、閉じて』”

 

 

 

 堀宮に対する気持ちが最高潮に達したのは、間違いなくお台場の観覧車の頂上付近でいきなりキスされたときだ。結局あれはキスされたときの人の表情を確かめたかった堀宮による捨て身のひと芝居に過ぎなかったのだけれど、キスをされたせいで俺は暫く堀宮と平常心を保って話すのがギリギリな状態になるほどダメージを食らった。だけどこのダメージは純也という役を演じるために必要なものだと心を切り替えると、自ずと身体も心も役柄へと近づいていく手応えを感じ始め、役作りも順調に進んでいた。キスにより決定的になったこの気持ちこそが“好き”という感情だと、純也(おれ)にとっての本当の気持ちだと信じ切っていた。

 

 

 

 “『杏子さんの言う通り、雅と純也の関係性は原作と何ら変わってないのは分かるんですよ。分かるんですけど、何というか・・・・・・俺には雅との距離感が原作と微妙に違うように感じるんですよ』”

 

 

 

 だが本番まで1週間をとっくに切っていたタイミングでようやく届いた第一話の台本を読んだ瞬間、それが勘違いだったことに気づいてしまい、途端に純也の感情が分からなくなってしまった。それに比例するかのように、分からなくなった感情を考えれば考えるほど俺の中にある堀宮への“好き”という気持ちは尊敬だけを残して凄いスピードで薄れていった。

 

 

 

 “『サトルがレンちゃんに抱いてる感情(それ)は、“友情”なんかじゃない』”

 

 

 

 そして入れ替わるように俺が堀宮へ持っていた“好き”の感情は、4年という年月の重さを付け足してそのまま親友へと移った。それが雅に抱えている感情と同じものだと知った瞬間、俺は本当の意味で“恋”というものを自覚した。

 

 

 

 『カスミ役、環蓮さん!』

 

 親友の名前を告げる司会の声が耳に届いて、拍手をしつつずっと堀宮へ向けていた意識が5人のキャスト陣で4人目の登壇となる蓮へと無意識に移る。いつの間にか、キャストの登壇は4人目まで来ていた。

 

 「ふふっ、さすがに緊張してるね~蓮ったら」

 

 颯爽と観客の前に現れた堀宮とは対照的に、平然をどうにか保ちながらも分かりやすく肩の辺りに力が入った力む足どりで登壇して自分の立ち位置につくや観客へ一礼するいつもより緊張気味の蓮を、隣に座り変わらず拍手を送り続ける牧が微笑ましい様子で呟く。

 

 「スカウトキャラバン以来だろうからな。蓮がこんなに大勢の人の前に立つのは」

 

 赤いドレスと普段より大人びたメイクとヘアセットのおかげもあるが、170ぐらいはあるモデルのように恵まれた体格も相まって、ドレスアップした蓮の姿はまだ15とは思えないほど大人びていて、存在感も堀宮を始めとした他の主要キャストに負けていない。小6の時点で俺はポテンシャルを感じていたけれど、ただでさえ華があったこいつは高1になって本当に垢抜けて綺麗になった。

 

 『そして最後に_』

 

 

 

 “『あれ?もしかして照れてる?』”

 

 

 

 「・・・なわけねえだろ」

 「?何か言った憬くん?」

 「ん?いや・・・なんか“変な気分”だなって」

 

 ただでさえ華があったのに更に垢抜けて綺麗になった親友の垢抜けても中身は小6からほとんど変わらない可愛さを思い出して、ちょうど拍手が鳴り止むタイミングでつい独り言が零れて、それを隣の知り合いに突っ込まれて咄嗟の言い訳で乗り切る自分の惨めさ。

 

 「“変”って?」

 「何ていうか・・・蓮のことは役者になる前から知ってるからさ、普段(いつも)と違う(あいつ)を見てると・・・ちょっと調子が狂うんだよ」

 

 持ち合わせているものの良さが最大限に生かされたドレスアップと、こういう場所にまだ立ち慣れていない若干のたどたどしさが、いつも以上に大人びたクールな外見とあまりにギャップがあって見ている俺の調子が狂ってくる。こいつが世間の中だとトップレベルで美少女だって言うのは、小6の時点で分かり切っているはずなのに。

 

 「それってどういう?」

 「どういう・・・」

 

 

 

 “けど・・・にしても・・・(こいつ)ってこんなに可愛かったんだな・・・

 

 

 

 「・・・こいつってこんなに可愛かったんだな・・・って

 

 牧からの“誘導尋問”にまんまと乗せられた俺は、気が付くと心の中の声をそのまま口にしていた。気が付いたときには、もう時すでに遅しだ。

 

 「ははっ、幼馴染の親友なのに今更気付くんかい」

 

 俺の独り言を聞いた牧は、今更ながらに蓮の魅力に気付いたことを俺にだけ聞こえるくらいの声量でツッコむ。

 

 「普段から見てると目が慣れて感覚がバグってくるんだよ。牧さんもそうならない?」

 「ううん全然。“レンレン”は毎日可愛いし」

 「レンレン?」

 「私がたまにそう呼んでる。呼ぶたびに怒られるけど」

 「怒られるんかい(レンレン・・・確かに呼んでそう)」

 「ていうか憬くん蓮と1年くらい会ってない時期あったでしょ?」

 「まあ、言われてみれば・・・」

 

 もちろん蓮が可愛いこと自体は初対面から気付いていたけど、下手に弁明すると墓穴を掘る予感しかしないので本心を交えた言い訳で乗り切る。大丈夫、恐らく顔には出てはいないはずだ。

 

 『えー本日は還暦を過ぎたジジイが撮ったバトルロワイアルの上映初日に起こしくださり、誠にありがとうございます』

 

 俺の心を読もうとしている同い年の“大先輩”からの無自覚な圧から逃れるように舞台挨拶へと意識を向けると、マイクを持った深澤監督がとりあえず笑っておいたほうが良い感じの何とも言えない自虐に満ちた挨拶をして観客の笑いを誘っていた。

 

 「変わってるでしょ作間さん。私も作間さんの映画に1回出させてもらったことあるけど、現場でもいつもこんな感じなんだよ」

 「それはまた癖が強いことで・・・」

 

 ちなみに牧曰く、どうやらこれが平常運転らしい。何気なくで見てしまったけど、さては変わり者が多いと言われるこの業界の中でもキャラが濃い部類だなこの映画監督。

 

 「映画監督なんて癖強くて一筋縄じゃいかない人ばかりだよ。ましてや作間さんみたいに“撮影所の時代”から映画に携わってきた人は、ベクトルは違えどみんな突き抜けて尖ってるからね・・・」

 

 役者になって3年とはいえまだまだ経験が浅い俺に、牧は芸能界の先輩という視点からのアドバイスを送る。映画監督を生業にしている人たちの多くが一般的な常識からズレていることは、國近(ドクさん)や現在進行形で新作に向けた準備をしている本郷から教わっているから何ら驚きはないけれど、やっぱり子役のときから様々な映画に出ていて、ベテランと呼ばれる映画監督の撮る映画に何本も出演してきたこの人の言葉は、紛れもない実体験だからこそ説得力と深みがある。

 

 「だけどそんな大ベテランであろうと、初めて監督になってカメラを回すような新人さんでも、自己表現のために“やっている”ことは全員同じ・・・・・・そしてそれは私たち“役者”にも当てはまる

 

 そういえば、月9の撮影のときもこんなふうに牧はまだ右も左も何も分からなかった俺に隙あらば助言じみたを送っていた。あれから2年、芸歴3年目になっても相変わらず俺はアドバイス“される”側のままだ。もちろん所詮は3年目だからまだまだ若手の若手で人にアドバイスを送れるような偉い立場に俺がなるのは、身も心も大人になってからになるだろう。

 

 

 

 “『“俯瞰型だろうと憑依型だろうと“やるべきこと”は同じ” ・・・これ、“超重要”だから』”

 

 

 

 「同期の共演者がこんなこと言っててさ・・・“俯瞰型だろうと憑依型だろうと“やるべきこと”は同じ”だって

 

 牧からの助言であまりいけ好かない共演者から投げかけられた言葉を思い出して、それを伝える。

 

 「いま撮ってるドラマで初めて俺と“対等”の役者と真正面から芝居をしていると・・・それが本当なんだって思い知らされるよ

 

 俺はまだ人にアドバイスを送れるほど偉くはないけれど、送られてきた質問に対して根拠のない自信ではなく“根拠のある事実”で返せるくらいには芸能界という世界で役者として経験を積んできたつもりだ。

 

 『皆さんこんにちは!ヒロインのレンコを演じさせていただきました、堀宮杏子です。えー、涙あり、血しぶきありのバトルロワイアル『殺戮教室』を今日は是非ともお楽しみください、よろしくお願いします!』

 『おいおいそれワシが最後に言おうとしてたやつやんけ』

 『えっ!?ホントですかごめんなさい』

 『ってな感じでこんなふうにちょっと抜けてるところが可愛いんだよ堀宮(コイツ)は』

 『あははっ、やめてくださいよカントク~』

 

 牧へ言葉を返しながらスクリーンのほうへとまた意識を向けると、堀宮が観客に向けて元気よく挨拶を始めて、どうやら挨拶の掴みで監督が締めで言おうとしていたことを言ってしまったらしく、ちょっとした茶番じみたやり取りをして場を盛り上げていた。こういうときにちゃんと場の空気を作れるあたりが、さすがは主演女優と言ったところか。

 

 「(あからさまに“作って”んな、この人)」

 

 ちなみに言うまでもなく、いま観客の目の前にいるのは表舞台に立っているときの“清純派の堀宮杏子”であって、俺の良く知る“たまにウザい先輩”ではない。

 

 「・・・牧さんって、杏子さんとはどんな関係なの?」

 

 そんな平常運転の堀宮に目を向けつつ、俺は開演のブザーで一度聞きそびれていたことを思い切って聞いた。

 

 「あれ?憬くんって“()()()”と下の名前で呼ぶくらいの関係だっけ?」

 「同じ事務所になったんで」

 「・・・あー、そういうことね」

 

 いきなり堀宮の名前を下で呼んだことに違和感を覚えつつ、すぐに先輩後輩の関係性を察した牧は小さく頷いて最初の挨拶を終えた堀宮に視線を向ける。堀宮のことを“あの子”と呼んだこの人は、一体どんな感情で隣の観客席に座っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 “『人の真似っこをすることしかできないんだったら今すぐ消えてくれないかな?杏子ちゃんみたいに私の演技を真似て芝居する人と一緒にいると、視界に入るだけでイライラするから・・・』”

 

 

 

 

 

 

 「んー・・・特に意識したことはないかな」

 

 隣に立つ共演者の挨拶を笑顔で見つめる壇上の堀宮へ視線を向けたまま、牧はどこかうわの空な表情を浮かべてそう答える。自分のことを“一番いけ好かない”と言っていた人を見つめるその横顔からは、心の内が全く視えてこない。

 

 「確かに()()()とは共演したこともあったけど、これと言って印象には残らなかったからそのときのことはあんまり覚えてないし、ライバルとも思ってない・・・これでOK?」

 

 堀宮のことを“あの子”と呼び、牧は心底どうでもいいと言いたげな口ぶりで話題を終わらせる。片や自らの居場所を奪った敵として本気で嫌うほどに相手を意識しているというのに、肝心の相手は眼中にすら捉えておらず全く相手にしていない。果たしてこれが、牧の本心なのだろうか。

 

 

 

 “『芸能界はね・・・嫌われてなんぼの世界なんだよ。女優だろうと男優だろうとね』”

 

 

 

 「・・・もし俺が駄目だって言ったらどうする?

 

 まだ芸能界に入ったばかりの俺に“芸能界は嫌われてなんぼの世界だ”と隣に座る女優から教わっている俺は、牧が堀宮へと向けている表情が紛れもない本心だとは思えなかった。なぜならこの人は、“天才子役”と謳われていたときから付きまとう重圧という十字架を背負いながら生きる、同い年の女子だからだ。

 

 「じゃあ、“本当のことを教える”代わりに私からの質問に答えてくれる?」

 

 話題を終わらせようとした最後の一言に対して首を横に振ると、“本当のことを教える”と言って堀宮へ向けていた視線が右に座る俺へスッと移る。1秒前まで舞台挨拶の賑やかな雰囲気そのままの和やかだった周囲の空気が、一瞬にして重くなり酸素が減る錯覚が感触となって身体を襲う。凝視されると身体に入り込む空気が変わってしまうほどの感情(それ)に、牧が背負い続けている“もの”がどれだけ想像を絶するような重さを伴うものであるのかが伝わってくる。

 

 「憬くんはさ・・・・・・蓮のこと好き?

 

 何が来るかと、俺は全身の神経を尖らせて待ち構えていた。

 

 「・・・は?

 

 だけれど飛んできた質問があまりにも突飛すぎて、俺は言葉を失った。

 

 『おは、こんにちは。カスミ役を演らせて頂きました環蓮です。本日は短い時間ですがよろしくお願いします』

 『いま“おはよう”って言いかけたよね蓮ちゃん?』

 『ああ今のはだから、私たちって現場入りするときは朝だろうと夜だろうと“おはようございます”って言うのがルールみたいなところがあるから・・・その癖が出ちゃいました』

 『あははっ、“あるある”だね』

 

 真っ白になった頭を、ちょうど挨拶に臨む蓮の姿と声が上書きする。緊張からか他のキャストが“こんにちは”というところを間違えて“おはようございます”と言いかけて、それを清純派モードの堀宮から優しくツッコまれて咄嗟に思いついたにしては上出来な言い訳(アドリブ)で乗り切る親友に、思わず“何やってんだよこいつ(笑)”という微笑ましい感情が浮かび上がって、気分が癒されていく。

 

 「ふっ、あんまりやらかさないでよね」

 

 挨拶で軽くやらかした蓮に、視線を俺から外した牧は先輩としてチクリとしたエールを呟く。普段から可愛がっている後輩に目を向ける横顔はさながら“娘の授業参観に来たお母さん”のようで、堀宮のときの無機質さとは正反対に暖かいのが横目で見ているだけで分かる。こういうところを視ると、この人の心は俺たちと何ら変わらないんだなと思う。

 

 “ていうか俺、いまはちゃんと蓮のことを親友として視れて・・・

 

 「で、答えは?

 

 と、完全に油断し始めたタイミングを図って、牧は蓮へと向けていた視線を再び俺へと移す。ほんの一瞬の“安らぎ”が終わり、一気にストンと現実に突き落とされる感覚に襲われる。

 

 「・・・・・・分からない

 

 ほんの少しだけどうするかを考えて、俺は答えを言い求める牧へ本当の気持ちを打ち明ける。やはり些細な視線や仕草だけで人の嘘が見抜けるほどに繊細なこの人の前では嘘を吐くこと自体が無駄な話だ。というか、俺はそうまでして誤魔化そうとするほど、嘘を吐くことが好きでもなければ得意でもない。そんな俺に出来ることは、等身大の心を覆い隠す“ベール”で自分を飾る()()()に真っ向から正直な気持ちで向き合うことだ。

 

 「でも・・・“この感情”を芝居に昇華しないと俺は先に進めないのだけは分かってる・・・

 

 

 

 “『私が“いま好きな人がいる”って言ったら、憬はどうする?』”

 

 

 

 「・・・“純情”なこと

 

 嘘のない本心の気持ちで蓮への気持ちを打ち明けると、牧は意味深な一言を呟いた。

 

 「分かった。憬くんとの約束通り、本当のことを教えてあげる」

 

 そして一呼吸を挟んで、横目で悪戯っぽく笑いながら俺からの我儘を受け入れた。

 

 「・・・ありがとう」

 「ただし、教えるのはこれから観る映画が終わってからでいいかな?

 

 我儘を受け入れてくれたことに素直な感謝で返すと、悪戯な笑みでじらされた。この人なりに何かしらの考えがあるのか、はたまた後輩の俺をじらしたいだけなのか、“本当の答え”はバトルロワイアルが終わってから教えると言う。

 

 「分かった。それでいいよ

 

 ただ横目で視る牧の感情に今度は“嘘がない”ことを直感で察した俺は、この人の我儘をそのまま受け入れた。

 

 「ふふっ、どうもありがと」

 

 俺へと向けられていた視線が再びスクリーンの壇上へと戻り、重さを纏っていた周りの空気が軽くなって緊張が解ける。まだ映画本編どころか舞台挨拶の途中だというのに、もう既に一本の映画を観終えた後ぐらい気力を使ってしまった気がする。これで本当に最後まで気力が持つのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 “『ありがとう・・・憬のおかげで色々と“気付けた”』”

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・

 

 本当に、最後まで持つのだろうか?




持ってくれ、平常心_



先週のダンダダン。観ましたか?もうね、メンタルがダン!ダ!ダン!って感じでですね、胸が痛すぎて危うく悪霊になりかけるくらい最高の神回でしたよ。あははっ、ははっ、あはははっ…は……駄目だ。3日経ってもまだ辛えっすわ。しかもよりによってリアルタイムで観てしまったせいで金曜はショックのあまり一睡も出来ずに出社する羽目になりましたわ。あ、神回だったのはマジな話です。

しかしながら、悲しいことにメンタルがやられているときが実は一番執筆が捗るんですよね。ハーメルンで活動している作者様方はどうなんでしょうかね?何でもしますのでどなたか教えてください。
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