或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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ありがとう、つば九郎。


scene.113 真面目

 6月10日_午前10時55分_池袋駅東口_

 

 「(・・・本当にここでいいんだよね?)」

 

 昨日送られてきたメールに書かれていた集合時間の5分前。静流と一緒に暮らしている部屋から周りに溶け込みながら地下鉄と山手線を乗り継いで、どうにか一度もバレることなく改札を抜けて集合場所に着いた。

 

 “人多いな・・・”

 

 今日は日曜日。そもそも休日に池袋に来ること自体が初めてだけど、明らかに人通りがいつもより多いんだろうなって言うのを何組か家族連れの人とすれ違って私は感じる。ここまでバレていないのはこの前の休みに静流とお忍びで渋谷に買いに行った私の選んだ変装(コーデ)のチョイスが良かったからか、それともただ単に知名度の問題なのか。まあ、どっちかというと後者なんだと思うけど。ただちょっと心配なのは・・・

 

 「(堀宮さん、本当にここまでバレずに来るつもりなのかな・・・)」

 「だ~れだっ」

 「うわっ!?」

 

 なんて知名度抜群な堀宮さんがこんな目立つ場所にバレずに来れるのかという心配をしながら待っていたらいきなり背後から両手で視界を塞がれて、驚きのあまり不特定多数の人たちが行きかう中で大声を出してしまった。こんなことをしてくる人なんて、“1人”しかいない。

 

 「も~大声出したら目立つでしょリアクションが可愛いから許すけど」

 「いや目立つようなことしてるのはそっちでしょ!?ていうか一瞬マジで不審者に襲われたかと思った」

 「一昨日会ったばっかなのにヒドくない()()?」

 「いや何で役の・・・あーそういうことかややこしい」

 「おっ、察しいいじゃん」

 「ちなみにここまでどうやって来ました?」

 「フツーに目黒から山手線。この程度の服装でも堂々としてたら案外バレないもんだね」

 「雅、()()って目黒なんですね?」

 「うん。そーだよ(いま同級生で行くか後輩でいくかで迷ったなこの子・・・)」

 

 ネイビーブルーのショートワンピースに黒のバケットハット、目元は黒縁の伊達メガネの出で立ちで私の前に現れた普段より少し落ち着いて大人びた雰囲気の堀宮さん。クラスの中で一番可愛い女子のレベルとは一線を画す顔立ちの良さは隠せていないけど、メイクも僅かに変えているおかげで“堀宮杏子に似ている誰か”と思わせるくらいには雰囲気が変わっている。おまけに自然な流れで私のことを役名で呼ぶさり気ない気配りに、プライベートでも揺るがないプロ意識の高さを感じる。

 

 「やっぱり蓮ちゃん(ナギ)は背が高いからこういう服装が似合うね」

 

 無意識に堀宮さんのコーデを見ていたら、何かを察せられたのかこの服装を分かりやすく似合うと褒められた。女子力高めな堀宮さんとは打って変わり、サイルスのロゴが付いた白Tシャツとデニムに黒のキャップという、女子力も変装度合いも最低限な服装。

 

 「ワンピースとかスカートが似合わないってだけですよ」

 「満更でもないくせに?」

 「・・・そりゃ、自分に合う服装くらいは分かりますよ。女子なんで」

 

 もちろん仕方なくとかじゃなくて、私も私でちゃんと選んでいる。と言ってもバトルロワイアルが公開された上にドラマも始まって露出が増えれば、堀宮さんや静流ほどじゃないにしろもう少しプライベートに気を遣わなければいけなくなることになるかもしれない。それが嬉しいような、ちょっとだけ窮屈なような・・・・・・いや、もちろんそうなっていくのが私にとっては理想なのだけど。

 

 「ということで早速いこっか。面子も揃ったことだし」

 「ですね。じゃあ行きましょう水族館」

 「その前にゲーセン行ってプリクラとダンレボやらない?」

 「堀宮さん(先輩)がやりたいだけでしょ?」

 「それもあるっちゃあるけど、せっかくの友達と過ごす休日だから少しでも楽しまないとじゃない?」

 「私はメールで水族館行くとしか言われてな」

 「あれ?ナギってそんなに“お利口さん”だったっけ?」

 「ああもう分かった付き合えばいいんでしょ」

 「よしっ、そうと決まればダンレボのスコア負けたほうがお昼奢りで」

 「臨むところよ。絶対負けない」

 「え?そっちが負けたらマジのマジで奢ることになるけど大丈夫?」

 「私が勝てばいい話じゃん」

 「あははっ、いいねえ」

 

 とにかくこんなにも目立つ駅前(ばしょ)で長居をしている暇なんてないから、私は堀宮さんと共に昼の奢りをかけた“ダンレボ対決”・・・もとい休日を満喫するためにサンシャインまで続くメインストリートへと足を進めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 同日_都内近郊・貸しグラウンド_

 

 「・・・・・・っ」

 

 薄曇りの空の下。自分の中で“6・6・6”のリズムで走り出すタイミングを作り、何度も練習してきた通りに左足で地面を押すように走り出す。第1マークにかけて身体を一気にトップスピードへと持っていき、最初のマークを目印に刻んだ6歩目で加速から維持に切り替えて、一定のペースを刻みながら、第2マークを通過する。

 

 “13・14・15・16・17・・・”

 

 第2マークを通過して、16歩目までに踏み切り動作に入り、17歩目でふっと大きく勢いをつける。大事なのは、“2歩前を大きく、1歩前を小さく”。これを意識して、一気に踏み込みこの身体を空中へと跳ばす・・・

 

 「(・・・とりあえず脚はちゃんと温まったな)」

 

 もちろん、この後にリハと本番があるから実際には跳ばずに空中動作に入るところで役を解いてそのまま砂場に足をついて数歩かけて止まる。

 

 「グレイトだよ夕野くん!陸上に関して僕はそこまで知見があるわけではないけれど、君のフォームは素晴らしい!」

 

 撮影前の最終調整として空中動作までのフォームの確認を終えたばかりの俺を、撮影現場では普段と打って変わり一歩引いた立ち位置で終始静観しているプロデューサーの上地が珍しく出しゃばって褒めちぎる。そりゃあ役が決まってから陸上部にも籍を置いて自主練習までしてきたから、フォームには自分なりの自信がある。ひとまず身体の不調は全くないから、今日の撮影は乗り切れそうだ。

 

 「自分のフォームがどうなのかというより、大事なのはどれだけフォームに純也らしさを出せるかが重要なんですけどね」

 「しかし、リハ前からここまで飛ばして大丈夫かい?」

 「問題ないです。カメラが回っていようが回っていまいが演じるときは本気で演るのは俺にとって当たり前なんで」

 「それは頼もしいね」

 

 リハですらないのに、本番と全く同じ熱量でイメージトレーニングする。そんな俺を上地は純粋に頼もしいと言って褒めまくるが、俺からすれば撮影に向けて仕上げてきたことをやっているだけだから今更何とも思わない。

 

 「役作りに真剣な姿勢を貫くのは大いに結構ですが、くれぐれも怪我だけはしないように」

 

 今日の撮影に向けて演者の士気を高める上地に割って入るように、演出の黛が念を押す。

 

 「はい、もちろんです」

 

 当然こっちもただ無理に身体を動かしているわけではない。どんなに心が役に入り込めていても、身体がついていけなければ何の意味もないことは分かっているからだ。陸上に限らず、スポーツをしている人を演じる上で“心技体”は絶対条件。身体が感情に追いつかなければ、その瞬間に芝居は破綻する。もちろん逆も然りだ。

 

 「リハまであと何分ですか?」

 「あと5分後には始める予定です」

 「分かりました」

 

 リハまでの時間を黛へ確認して、練習着(いしょう)を着たままこの後に撮影が行われる40メートルのピットから離れてリハまでのクールダウンがてらに足を軽くほぐす。正直、俺はいま役者としてこのグラウンドにいるのか陸上選手としているのか、分からなくなりそうだ。

 

 「本当にフォームが綺麗ですね。憬さん」

 

 グラウンドの端にある演者の休憩スペースの近くでスタッフたちの邪魔にならないように本番へ向けた軽いストレッチをしていたところに、薄手のパーカーの下に練習着を着る永瀬が声を掛けてきた。

 

 「そんなことないですよ。こっちはまだ陸上始めて2ヶ月ぐらいなんで」

 「2ヶ月であそこまでちゃんとフォームが作れる人ってなかなかいませんよ。普通に天才の部類です」

 「ホントですか?(王賀美先輩は素人にしてはぐらいの評価だったのに・・・)」

 「ええ。あくまで個人の感想ですが、そう思います」

 「でも確かに、陸上をやってた永瀬さんから言われると自信になります」

 「いえそんな、恐縮すぎます・・・」

 

 陸上歴約2ヶ月の俺のフォームを、かつて陸上部だった永瀬が控えめな表情はそのままに称賛の眼差しで褒める。ちなみに永瀬は弓道をやっている堀宮と同じく演じる役の競技を経験していて、女優業に専念するため卒業と同時にやめてしまったが、中学に通っていたときは陸上部に所属し亜美と同じ800M走を専門にしていた。言うまでもなくこれは亜美役に永瀬が抜擢された理由の1つで、それを知ったときは俺も驚いた。

 

 「・・・永瀬さんはどう思いますか?」

 「どう思うとは?」

 「カメラが回っていなくても、この後の撮影がどんなに過酷でもペース配分とかそんなこと考えないで常に全開で演る役者のこと・・・」

 

 そんな陸上経験者の永瀬に、リハが始まる前に俺はあることを聞いてみる。少なくともこの人は、たまたま同じ競技をやっていたという理由だけでこの役を引き受けたわけじゃない。そんな理由だけで役を引き受けるような人じゃないことを、器用な側の人間ではない俺は知っている。

 

 「俺って、芝居が絡むとつい熱くなって中途半端に体力を温存したりすることが出来なくなるんですよ。だからリハもその前の練習も、全部本番と同じ心意気でやらないと気持ちが入らないんです・・・・・・役者になってからずっと

 

 

 

 

 

 

 “『どうしてさとるは“あたしたち”を見てそう思ったの?』”

 

 

 

 

 

 

 「・・・正直、杏子と似ているところがあるなって、私は思います

 

 自分のような役者のことをどう思っているかを聞いてきた俺に、永瀬はこう返した。聞いた理由はただ1つ、少しでもこの人のことを知るためだ。

 

 「俺が杏子さんと似てる・・・例えば目の形とか?」

 「すみません外見の話ではないです」

 「ハイ、ですよね・・・」

 

 内気なところがある永瀬の気を解そうと根暗なりにらしくもないジョークをかましてもっともすぎる正論を真面目な顔で返され自爆したのはともかく、返ってきた答えは俺と堀宮が似ているというものだった。

 

 「言われてみれば、俺も杏子さんも役に入り込んで芝居を演りますからね」

 「もちろん演技面に関してもそう思っているのですが・・・私が思ったのは()()()()()です」

 

 直接的なことはとてもじゃないが聞けないから答えはあまり期待していなかったが、俺がペース配分も無視して役に入り込んでウォームアップをしていた様子を見ていた永瀬は、今まで言ってこなかった堀宮の一面について話し始めた。

 

 「普段は何でもないって平然とした元気な笑顔(かお)で振舞って、だけどひとたびカメラが回れば役になりきって芝居だけで場の空気を“自分のモノ”にする。それをさも当たり前のようにやるから皆さんは杏子のことを天才だと呼びますし、杏子もきっとそう呼ばれることを望んでいます・・・・・・ですが、杏子が天才と呼ばれるまでになったのは、人知れず全力で芝居に向き合い続けて努力を怠らないで走ってきたからだと、私は思っています」

 

 10年かけて磨いた自前の演技力を“天才”の一言で片付けられ、それでも誇らしげに自分のことを“天才女優”だと自称してきた根っからの努力家である堀宮のことを語る視線は、普段の内気さとは打って変わって自信に満ちている。“誰が何を言おうと、自分はそう信じている”と言いたげなように。

 

 「・・・ってごめんなさい。話が逸れてしまいました」

 

 一通り言い終えて、ハッと気づいた永瀬が頭を軽く下げて謝る。メイン同士の親睦を深めるためにお忍びで行ったお台場を除くとこのドラマの現場でしか会っていないただの共演者に過ぎない関係だけれど、本当にこの人は良い意味で腰が低くていつも謙虚で、それでいて誰にも負けないくらい芝居への情熱を持っているから、素直に応援したくなる。

 

 「いや、俺のほうこそいきなり聞いてごめんなさい」

 

 ただ俺の周りにいる連中が揃って我が強すぎるくらい強い人たちばかりだからか、頭を下げられるとこっちまでつい申し訳なくなって頭を下げてしまう。

 

 「けど・・・永瀬さんはどうして杏子さんのことがここまで分かるんですか?」

 

 価値観は元より人間的に合わない一色はともかく、永瀬とはまだはっきり言って3話より前の純也と亜美ぐらいの距離がある。

 

 「こんなことを言っても説得力はないかもしれませんが、杏子のことをずっと“見てきた”からです・・・・・・まだ子役だったときからずっと・・・

 

 それでもこうして、永瀬のことが1つ分かったことが、今日からの撮影に繋がっていく。これらも全ては、自分が純也をちゃんと演じ切るためだ。

 

 「・・・永瀬さんは本当に杏子さんのことを大事に思っているんですね

 

 こういう何気ない人間関係の構築でさえ、自らの芝居の材料にする。ふとそんな自分が、どうしようもないほどの“芝居バカ”だなと思えてくる。

 

 「はい・・・杏子がどう思っているかは分かりませんが、私にとって杏子は“親友”ですから・・・

 

 謙遜することなく堀宮を“親友”だと言い切る瞳に、永瀬の確たる想いの強さを感じ取る。俺にだってそれに負けないくらい・・・いや、それ以上の想いを親友に対して抱いている。

 

 「・・・親友・・・

 

 そんな親友に対する“感情”さえも、演じる役のためなら使ってしまう俺は・・・本当に頭の中が芝居で支配された()()()()()だなって思う。

 

 

 

 

 

 

 “『_ありがとう。でも芝居バカな君のことだから映画の感想返してくるかと思った_』”

 

 

 

 

 

 

 「夕野さん!まもなくリハ始めます!」

 

 一昨日のメールがフラッシュバックしたのとほぼ同時に、リハの開始を告げるスタッフの声が一瞬で掻き消す。今は本番。そんなことを考えている時間じゃない。

 

 「憬さん。今日も一日頑張りましょう」

 「はい。永瀬さんも」

 

 スタッフの一声を合図に心を切り替え、永瀬からの静かながらも熱い激励に押される恰好で俺は再びカメラが構えるスタートラインの前へと向かった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「いや~水族館とかマジのマジで久しぶりだからテンション上がんない?」

 「気持ちは分かりますけど本来の目的は忘れないでくださいね?」

 「真面目だな~ナギは。もっとこう楽しもうよ休日なんだから」

 

 ゲームセンターでプリクラやダンレボをしてサブウェイでサンドを食べた私は、久しぶりの水族館にテンションが上がっている堀宮さんと一緒に目的地に繋がる専門店街(モール)の通路を歩いていた。

 

 「ついさっきまでダンレボ負けたの引きずって拗ねてたくせに」

 「ねえ帰りにもう一回ダンレボやってかない?

 「まだ普通に引きずってたわこの人

 

 ちなみに堀宮さんからついでで吹っ掛けられたダンレボ対決は、普通に私が勝った。

 

 「でも次はどうなるか分かんなくない?」

 「エアホッケーもレースゲームも惨敗だったくせによく言えますね」

 「だってナギがあんなにゲームが得意だとは思わなかったし!」

 「先輩が“ド下手”なだけですよ(こんなときでもナギ呼びだけは徹底してる・・・)」

 

 更に付け足すと、その後にヤケになった堀宮さんからエアホッケーとレースゲームの対決を半ば強引に勧められて仕方なく付き合ったけど、普通に私が全部勝ってお昼を奢ってもらった。ひとつだけ分かったことは、堀宮さんはゲームがジャンルを問わずに下手だってこと。

 

 「ま、あんなに弱った先輩を見れるのは早々ないと思うんで、今日はゴチでーす」

 「言っとくけど大事なのはお芝居で勝つことだからねナギ?」

 「分かってますよそれぐらい」

 

 お腹を満たして元気を取り戻した負けず嫌いの先輩へ、絶対に負けられない後輩を相手に3連敗して弱っていたことを軽くネタにしたら、普段は隠している真面目さ全開の返してもっともなことを言ってきた。もちろんこれが負け惜しみじゃなくて、本気で言っているのは真っ直ぐに前を見つめる眼で分かった。

 

 「だいたい、自分で人よりゲームが苦手だって分かってるのに何でわざわざ私に勝負を吹っ掛けるような真似(こと)をしたんですか?」

 

 水族館につく前に、堀宮さんへ聞いてみる。

 

 「そんなの単純だよ。あたしは“負けず嫌い”だから」

 

 間髪を入れずに、堀宮さんは笑顔のままこう答えた。帽子の下から覗く碧眼が、嘘じゃないことを私に伝える。

 

 「とにかく得意なことだろうが苦手なことだろうが、小っちゃいときから勝負しないと気が済まないんだよね。あたしって」

 

 たかが水族館に行くついでで立ち寄ったゲームセンターでの、一見すると何一つ役作りになんて生かせないようなただのプライベートの一幕。それでもひとたびどんな理由でも勝ち負けが絡めば遊びだろうと本気で挑んで、自分が負けたら遊びだろうと本気で悔しがる。こういうところに、堀宮さんの本当の人間性を私は感じた。

 

 「蓮ちゃん(キミ)だってそうでしょ?たかが友達のことをかけた二手勝負であそこまで熱くなれる負けず嫌いさん?」

 「あれはお互いの役作りも兼ねてたから」

 「もしかしてあたしが無駄にゲーセンに立ち寄ったって思ってる?」

 

 言い返そうとした私を遮って、隣を歩く堀宮さんは前を向いたままピシャリと言い放つ。

 

 「役者は身の回りにあるもの全てが喰い物だよ?」

 「でもサブウェイつくまで結構マジで落ち込んでましたよね?」

 「うん。悔しかったのはガチ」

 「やっぱりそこはガチなんだ・・・」

 

 もちろん私も最初から分かってここにいるつもりだ。堀宮さんという人は、休日に自由気ままに後輩を巻き込んで遊んでいるときも常に芝居のことを考えながら行動している、(あいつ)と負けず劣らずの芝居バカだ。

 

 「けど・・・ゲームに勝った負けた程度で得られる感情も、いま撮ってるドラマで活かせるかは分からないけど絶対どこかで役に立つときがくる・・・・・・役者を続けていればね

 

 良くも悪くもエゴ全開で手段を択ばないから敵を作ることもあって、現に私もこの人に対して思う部分がいくつもあるけれど、芝居に対するひたむきさは一貫して本物で、そのひたむきさから生まれる演技は悔しいけどいまの私じゃまだまだ敵わない。

 

 「・・・()()()()って、真面目ですよね?

 

 2度の共演を経てこの人の根っこにある真面目さを見てしまっているから、“ピュアガール”と侮辱されようが人のことを平気で利用する悪い面があることを知っていながら、私は堀宮さんのことを心の底から憎み切れずにいる。

 

 

 

 きっと親友のあいつなら、芝居のためなら殺したいほど人を恨むことだって平然とやってしまう・・・・・・私にもそれぐらい思い切る心があれば、すぐに追いつけるはずなのに・・・

 

 

 

 「()()()()には言われたくないかな

 

 隣にだけ聞こえるほどの声量で敢えて役名ではなく本名で聞いた私に、同じくらいの声量で堀宮さんは言い返して、横目をチラッと向けて悪戯に笑う。

 

 「あ、ここからはまた()()ね?お忍びでもバレたら地味に面倒だから」

 「だからそういうところが真面目なんだっつの」

 「あはは、確かに」

 「自覚あるんかい」

 

 そして真面目だと言われて満更でもないかのように、再び互いの役名で呼び合うように促す。気が付くとモールのど真ん中にある噴水広場を通り過ぎ、水族館の入り口が目先に見えるところまで歩いていた。

 

 「・・・今ごろ()()はグラウンドの上で走ってるのかな?」

 

 入り口が目の前まで迫ったタイミングで、隣を歩く堀宮さんがポツリと呟く。親友が誰のことを指しているかなんて、言われなくても分かる。

 

 「・・・そうですね」

 

 同じペースで歩く隣へ視線は向けず、カップルが先を歩く水族館の入り口を見たまま私は答える。堀宮さんの言う通り、私が休日を満喫している間に憬はカメラの前で違う誰かを演じている。別にこれはスケジュールの都合だから悔しい気持ちとかはないけれど、負けていられないという気持ちが心の中で渦巻いていく。

 

 「今ごろ()()になって、カメラの前で走ってますよ

 

 こんなときにもライバルのことを隙あらば意識してしまう私もまた、堀宮さんや憬と同じくらい負けず嫌いで真面目な、ただの芝居バカなのだろうって思う。

 

 「じゃあ、あたしたちも親友になりきって水族館デートしますか」

 「デートじゃなくて()()()()ね」

 「ロケハンなんて言葉よく知ってるねナギ?」

 「それぐらい中1のときから知ってます」

 

 都内の何処かにあるグラウンドで撮影に臨んでいる憬のことを頭の片隅に置きながら、私は堀宮さんと水族館の中へと入った。




カメラがあろうが、なかろうが_



最近、実はアクタージュの後継はあかね噺ではなくメダリストなんじゃないかって思い始めてる。
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