或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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5/15 追記:今後の展開を考慮し、ストーリーを一部変更しました。


scene.14 AWAY

 「墨字はさ、これからどうすんの?」

 「旅に出る。カメラ1つで」

 

 高円寺にある居酒屋の酒の席で、いつかの俺と黒山はこれからのことを語り合っていた。

 

 「期間は?」

 「さぁな、取りあえず撮れるもんが撮れるか軍資金(有り金)がなくなったら日本(こっち)に戻るつもりだ」

 「金欠になって俺に借金するような真似だけはやめてくれよ」

 「安心しろ。こう見えて俺は金の貸し借りはしない主義だからな」

 「ほんとかよ」

 「そんで世界を回れるだけ回ったら日本(ここ)に戻って、大作の1つでも撮ってやろうってとこだ」

 「それはまた野心的なことで」

 

 もしかするとこの時から既に、“あの映画”へのカウントダウンは始まっていたのかもしれない。

 

 「・・・墨字、もし日本(こっち)に戻ってきて大作映画を撮るときが来たらさ・・・」

 

 

 

 午前5時30分。手探りでスマートフォンのアラームを止めて、憬は眠気眼の身体を無理やり起こす。

 

 「・・・はぁ・・・」

 

 ベッドに座り込んだまま、憬は深く溜息をつく。芝居が全てだった世界から離れて10年が経っても、こうして度々“昔の夢”を見ることがある。

 

 「・・・いてぇ・・・」

 

 こんな夢を見た朝は必ずと言っていいほど頭痛に襲われる。耐えられない程の痛みではないが、この状態では朝の日課にしているランニングをする気力は削がれ、嗜好品(セッター)も吸えやしない。

 

 “・・・朝っぱらから気分悪ぃ・・・”

 

 そして今日は14時から週明けに発売される『hole(最新作)』の独占取材が入っていて、その様子は特集として来週末の“ブランチ”で放送されることになっている。

 ここ10年の間は文芸雑誌の取材(インタビュー)しか引き受けてこなかったから、“あんな風に”カメラを向けられるというのは本当に久しぶりのことだ。

 だから今日ばかりはなるべく平常な精神で一日をスタートしたかったが、そんな願望は最悪な目覚めで一気に崩れ去ってしまった。

 

 “よりによって、何でこんな時に”

 

 と嘆いても、何もかも遅い。

 

 それでも芸能界という舞台を降りてからメディアを極力避けてきた俺が、なぜ今になってこんな仕事を引き受けたのか、“その理由”はたった1つだ。

 

 “もちろん、その理由を明かすつもりは毛頭ない”

 

 ひとまず気分転換をするため憬は頭痛薬(タブレット)の入った箱を手に取ってリビングに向かう。

 

「・・・そう言えば今日って・・・」

 

 ふと何かを思いついた憬は、リビングに飾られたカレンダーを見て今日の日付を確認する。

 

 2018年___8月7日___

 

 どうりで心当たりがあったわけだ。ちょうど19年前のこの日、俺は演者としてあるドラマの撮影に臨んでいた。

 

 『HOME-ボクラのいえ-』

 

 ドラマのタイトルも内容もしっかりと覚えている。なにせこれは俺にとって事実上の“俳優デビュー”となったドラマだからだ。あの日の撮影のことは嫌でも忘れられない。

 

 “もうそんなに経つのか・・・”

 

 今日は何かと、昔の思い出が脳裏に浮かんでくる。これはある意味、“因果関係”のようなものなのだろうか。

 

 「・・・今日は踏んだり蹴ったりになりそうだな」

 

 独り言を呟いた憬はリビングに向かい冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出して頭痛薬(タブレット)を流し込むと、バルコニーへ出て早朝の景色を眺めながら気分を落ち着かせた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 8月7日_午前8時05分。東京都町田市立南町田中学校___

 

 「おはようございます」

 

 電車と最寄り駅から現場までを輸送するロケバスを乗り継いで合計1時間と少し。俺は民放ドラマ枠の中でもトップクラスのブランド力を誇る月9の撮影現場に足を踏み入れた。

 

 “HOME(ホーム)というより“AWAY(アウェー)”だな・・・”

 

 出番が1話限りとは言えパッと出のような中学生に、いきなり主人公の少年時代という大役が務まるはずがないというのが、大方の予想だ。

 ましてや主演は“視聴率男”として数多くのドラマに華を添えてきたカリスマ・早乙女雅臣。下手な芝居でもされたらそれこそドラマとしてのブランド力はもとより、脚本・演出の月島の株も落としかねない。

 

 そんな撮影現場となる中学校では海堂のお気に入りである“大物新人”に対する期待と不信感が複雑に混ざり合って不穏に似た空気が渦巻いていた。

 

 “ていうか、また学校かよ・・・”

 

 という具合にどうでもいいことを無理やりにでも思い起こさないと、“ホーム”の空気に押しつぶされそうな予感がした。

 

 どうか次の現場こそはアウェーではなくホームであって欲しいものだ。

 

 

 

 「憬」

 

 不意に背後から肩を叩かれ声のする方へ振り向くと、左の頬に誰かの指が当たる感触がした。

 

 「よっ」

 「・・・蓮!?」

 

 振り返ると牧が無邪気そうな笑顔で俺を見ていた。

 

 「どう?これで少しはリラックス出来た?」

 「・・・ていうかなんで蓮がここにいるんだよ?確か今日は出番がないはずじゃ」

 「憬くんのお芝居をどうしても観たいんだってさ」

 

 すると環の後ろから聞き覚えのある声がした。

 

 「おはよー憬くん」

 

 このドラマで直樹の幼馴染であった日島美沙子(ひしまみさこ)の役を演じる牧と、その隣にはどういう訳か今日の出番はないはずの山吹の姿もある。

 

 「誤解招くような言い方すんじゃねぇよ。俺と環はただ夕野(コイツ)が何かやらかさないか心配で見に来ただけだ」

 「へぇ~、さり気なく蓮のことも庇うなんて、ブッキーかっこいいね」

 「・・・は?別に庇ってねぇし馬鹿じゃねぇのお前?」

 「(こういうのってあまり言わない方が良いんじゃね・・・)」

 

 からかわれた山吹は牧のことを突っぱねるが、図星を突かれたせいで心なしかキレが悪くなっている。

 言葉遣いも見た目も尖っているが、こうしてさり気なく仲間をフォローしたりするところを見ると、本当はとても仲間思いの心優しい人なんだなと感じる。

 

 「つーか少しでも足引っ張るような真似したらぶっ飛ばすからな、新人」

 「・・・うす」

 

 ただし、その伝え方はちょっとばかり不器用なのだが。

 

 「私は静流の言う通り興味があったから来ただけだよ。一応、芸能界に入る前からの仲だったし。心配だけど」

 

 『お前もかよ』と言い返したいところだが、客観的に今の俺が置かれている状況を考えれば、心配されて当然だ。

 

 第10話の過去パートのうち、学校で撮影するシーンは今日と明後日で全て撮り終える予定だ。しかもラストシーン以外は校内での撮影を今日中に済ませるらしい。

 さらに主演である早乙女のスケジュールの都合で読み合わせ込みでリハーサルを行い、そのままぶっつけで本番を行うという中々に新人殺しのスケジュールである。

 

 こういう“イレギュラー”なスケジュールは既に一回だけ経験しているが、これは前のCMとは訳が違う。

 

 「まぁ、なんか演じていて困ったことがあったら私が全部フォローするからさ」

 「気を付けろ。そういって静流(コイツ)夕野(お前)のことを跡形もなく喰うつもりだからな」

 「ほんっと人聞きの悪いこと言うよねブッキーは」

 

 しかも相手は “牧静流”だ。話題性の獲得という意味合いもあるのだろうが、直樹の回想シーンのみに登場する美沙子という役に牧をキャスティングすることは、一視聴者からみても“贅沢”な使い方である。

 

 更に最初に撮影するシーンはいきなりターニングポイントとなるいじめのシーンからである。ドラマというものは、ストーリーの順序ごとに撮影を進めていくという訳ではなく、ロケーションや出演者のスケジュールの都合次第で撮影する順番が決まっていくようなものだ。

 

 特に、こうした民放のゴールデンタイム枠の連ドラともなるとそれが顕著になって現れる。

 

 「でもいきなりあのシーンから始まるけど大丈夫なの?憬」

 

 環が少しだけ心配そうに聞いてきた。確かに声を大にして大丈夫だと言える程ではないが、だからといって万事休すという訳でもない。

 

 「それはやってみないと分からないけど、俺の前には“美沙子(お手本)”がいる」

 

 “だが、自分なりに自信はある”

 

 「・・・お手本ね・・・」

 

 そんな憬の言葉に、牧はどこか意味深な笑みを浮かべる。

 

 「じゃあ憬くんはたった“2話”で美沙子()感情(こと)が分かったの?」

 

 実際にドラマ自体は既に第5話まで放送されていて、既に直樹の回想で美沙子は2度、このドラマに登場している。

 出番はたったの2話で2つを足してもせいぜい数分といったところだが、そこに10話で明かされる過去と照らし合わせれば、完璧とまでは行かないが十分な材料だった。

 

 「全部って訳じゃないけど、大体は分かったつもりだよ」

 

 放送された回想シーンで牧の演じる美沙子の感情に入り込み、10話の台詞と共に美沙子の感情を自分の身体に取り入れることで気持ちを理解し、一旦その感情をリセットした上で直樹の視点で美沙子の感情を受け止める。

 

 ここに来て、俺は幼少の頃に身についていた追体験(メソッド)を遂に正しい意味で有効活用できる機会を得ることができた。

 

 

 

 「へぇ~」

 

 興味深そうに牧は憬を吟味するかのように凝視する。

 

 ”やっぱり、あなたはそういう“タイプ”の役者か”

 

 牧は既に分かっていた。憬の中にある感情が微妙に変化していることを。憬の目が少しずつ“直樹”の感情に近づいているということを。

 

 “さて、お手並み拝見と行きますか・・・期待の新人さん・・・”

 

 

 

 エキストラを含む10話の過去パートに出演する役者全員が現場入りしてから約1時間後、撮影現場の中学校に一台のスポーツカー(FD)が颯爽と乗り込んで来た。

 

 「あのすいません、今日はドラマの撮影でこの学校を使っていますので関係者以外・・・は・・・」

 

 敷地内に入ったFDに気付いた新人のスタッフが制止に向かったが、中に乗っている1人の男を見た瞬間に思わず絶句する。

 

 「ボク、一応関係者ですけど?」

 「あぁ早乙女さんですか!失礼しました!」

 「いやいいよいいよ謝らなくて、本来だったらボクは今日来る必要はないからね」

 「・・・あの、一応月島からはなるべく目立たないようにということなのでってちょっと早乙女さん!?」

 

 スタッフが月島からの伝言を言い切る前に早乙女の操るFDは独特な快音を響かせながら、一気に校内の駐車場へと向かって行った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 中学時代、直樹には美沙子という小学校からの幼馴染がいた。

 

 いつも底抜けに明るいクラスの人気者と喧嘩っ早いが根は優しく友達思いの2人は、学校ではクラスメイト達と共に遊んだり、ほぼ毎日のように2人で並んで登下校するなどいつも一緒のような仲だった。

 

 中学に上がるとそれぞれが違う部活に入ったことにより2人でいる時間は少しだけ減るようになったが部活動のない日は一緒に帰ったり、少しでも互いに時間が取れれば他愛もない話で盛り上がったりと、相変わらず仲の良い日々が続いていた。

 

 だがそんな日常は、“ある1つ”の事件をきっかけに一変してしまう。

 

 高校教師である美沙子の父親が、担当するクラスの女子生徒に“手を出して”逮捕された。

 この事件は瞬く間に全国ネットで取り上げられて父親が実名報道されたばかりか、目のくらんだマスコミによって美沙子自身も父親から性的な虐待を受けていたことも明るみにされた。

 

 それは、幼馴染である直樹ですら知らなかった事実であった。

 

 「・・・何だよこれ・・・」

 

 事件から一週間後、“もう大丈夫”と気丈に振舞う美沙子と共にクラスに入って飛び込んで来たのは、目を覆いたくなるような無数の悪口で埋め尽くされた美沙子の机と椅子だった。

 

 「オイ・・・悪口書いた奴・・・全員手ェ挙げろ」

 

 そう言ってもその場にいたクラスメイトは全員、手を挙げることはない。

 

 「・・・お前ら・・・」

 

 直樹は拳を握りしめて、1人1人を睨みつけていく。

 

 「直樹、いいよもう」

 

 そんな直樹の姿にいたたまれなくなった美沙子が、直樹を止めようとする。

 

 「いい訳ねぇだろ!!・・・お前らホントにダセェよ・・・寄ってたかってこんなくだらねぇことしやがって」

 「直樹・・・」

 

 その時、1人の同じクラスの男子が笑っているのが目に入った。

 

 「何笑ってんだよテメェ!」

 「もういいって言ってるでしょ!!」

 

 笑ったクラスメイトの胸ぐらを掴もうとした直樹を、美沙子が止める。

 

 「あたしは大丈夫。だから、これ以上余計な事しないで」

 「・・・日島」

 「・・・全部、あたしが悪いんだから」

 

 そう言うと美沙子は、周りの視線を避けるように俯きながら自分の席に座る。

 

 「・・・別に俺たちは悪口なんて1つも書いてないよ。ただそこに本当のことを書いただけ。ただ、ずっと前から調子こいてて鬱陶しいとは思ってたけどな」

 

 直樹と美沙子のことを笑ったクラスメイトの放ったその言葉に、直樹は人を殺すような視線を送る。

 

 「・・・・・・・」

 

 

 

 「“オイ”はどうした?」

 「あっ」

 

 月島からの合いの手で、憬は台詞が飛んでいたことに気付いた。

 

 「すいません。思いっきり台詞ド忘れしてました」

 「まだリハーサルだ。本番で決めてくれればそれでいい」

 

 憬がNGを出すと同時に、それまで緊張感に包まれていた撮影現場にちょっとした笑いが起こるが、その笑いは新人のNGを茶化すような笑いというよりは、どこか安堵に近いようなものだった。

 

 “大物新人”ともっぱらの噂だった中学生の少年。あの“海堂正三”に才能を見出されただけあって、只者ではないという期待はあったが如何せん演技経験は無いに等しいという不安材料を抱えて迎えたリハーサル。

 

 「もしかしてカメラとかを向けられると緊張するタイプ?」

 「いや、そういう訳じゃないけど、なんか・・・役に入り過ぎて台詞が飛んでたんだと思うわ俺」

 「そう。じゃあ、本番までにどうにかしないとだね」

 

 だがそこで展開された光景は、現場にいた人間の想像を遥かに超えるものだったことがこの2人のやり取りに凝縮されていた。

 

 「おい聞いたか今の?役に入り過ぎて台詞飛んだらしいぞ」

 「嘘だろ?だって芝居経験ゼロだぜあり得ないって」

 

 案の定、それは堰を切るように驚きとなって周囲のスタッフやエキストラを巻き込んでいった。

 

 “リハ(ここ)まではおおよそ想定の範囲内ってとこか”

 

 だが、オーディションで憬が持つ潜在能力の高さを既に目撃していた月島は1ミリも驚いてなどいなかった。

 

 

 

 「嘘・・・」

 

 もちろん、教室(カメラ)の外からスタッフに紛れて山吹と共にリハーサルを見学していた環も、憬の芝居に驚きを隠せずにいる1人だ。

 

 「環?夕野って本当に今まで芝居やったことないのか?」

 「ないですよ。ただ、普通の人より映画やドラマが好きってだけで」

 「・・・そうか」

 

 だが山吹は、環とは違った角度で2人の芝居を見つめていた。

 

 「環って、リハの静流を見るのは初めてか?」

 「はい」

 

 環の相槌を合図にするように、山吹は憬と共に月島と話し合う牧の方に視線を向ける。

 

 「・・・じゃあ予習として1つだけ教えてやる。静流(コイツ)、基本的にリハは “相手の実力”を確かめる為に3,4割ぐらいの力で()ってんだよ。まぁ、本気を出してないってだけで手を抜いてるわけじゃねぇけどな」

 

 静流は本番以外では本気を出さない。だから彼女のことをよく知らない新人や若手はリハで上手くいったと意図せずに勘違いして、本番で必ず痛い目を見るのがオチである。

 そして彼女との共演がきっかけで奮起した役者(やつ)もいれば、自分を見失って最終的に芸能界を去った役者(やつ)もいる。

 

 「だから、静流のリハと本番の芝居は全くの別モンだ。はっきり言ってどうなるかは俺でも分からねぇ」

 

 世間やマスコミは静流のことをあたかも星アリサの後継者のように持ち上げているが、俺からしてみれば静流はアリサの後継者はおろか、寧ろ真逆の存在だと思っている。

 

 「それでも同じカメラの前に立った以上、実力も芸歴も関係ねぇ。皆等しく役者だ。だから俺たち傍観者はその当事者を信じ切るしかない」

 

 少なくとも静流はあの人(アリサ)のような“天然”の役者ではないし、彼女のように優しくないからだ。

 

 「環はどう思う?」

 「・・・私は、憬を信じてます」

 

 山吹からの問いかけに、少し間をあけて環が答える。

 

 「それは“親友”だからか?」

 「多分、役者と親友の半分です」

 「・・・そうだよな」

 

 そう言いながら環は憬に視線を向けるが、そんな環の姿を山吹は複雑な気持ちで見つめていた。

 

 リハとは言え、いきなり静流とここまで渡り合える新人を見たのは初めてだ。リハを見る限り、夕野の芝居の“自然(リアル)”さには目を見張るものがある。どおりで静流が“新人相手”にあそこまで興味を持っていた訳だ。当然、そんな精度の深い芝居を最初から出来るというコイツの才能は類まれなものだが・・・

 

 “・・・俺は、まだ・・・”

 

 夕野の芝居を見届けようとする俺の心の中が “ある感情”でかき乱され、拳に思わず力が入る。

 

 “何で俺まで新人如きに“熱く”なってんだよ・・・”

 

 高ぶる気持ちを鎮めようと山吹は拳に力を入れながら口を閉じたまま深呼吸をして、平常心を取り戻した。

 

 

 

 「おぉ、やってるやってる」

 

 背後から聞き覚えのある声が耳に入り、環と山吹は思わず声のする方へ振り返る。

 

 「おい早乙女(アンタ)、今日は16時から赤坂じゃねぇのかよ?」

 「昼までなら大丈夫でしょ。それにどうしてもあそこの少年のことが気になってさ、納品まで待ちきれなくて来ちゃった」

 「なにいきなり彼氏の家にアポなしで訪ねてきた彼女みたいな台詞言ってんだよアンタ」

 

 突然の主演俳優の訪問に、現場のスタッフや演者たちは驚きと混乱に包まれる。

 

 「おいアレ早乙女雅臣じゃね?」

 「すごい本物だ!」

 「早乙女さんサイン下さい!」

 

 そして主演俳優に気付いたエキストラたちは一瞬にして野次馬と化し、撮影現場はすぐさまイベント会場の如き盛り上がりを見せパニック状態となり、台詞のないエキストラたちは一旦別室に移され、撮影は一時中断となった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「中途半端に時間が空いたから“お忍び”で見学に来るとは聞いていたが、“堂々と登場”しろとは一言も言ってないぞ?早乙女君」

 

 普段は冷静沈着に振舞う月島も、この時ばかりはスケジュールを乱されたのか流石に苛立っていた。そりゃあ、目の前に天下の“早乙女雅臣(スーパースター)”が不意に現れればパニックになるのは当然だ。俺たちのようなキャスト陣はともかく、エキストラの多くは寄ってたかって野次馬と化すミーハーみたいな連中だからだ。

 

 「“予期せぬ状況でも寸分違わず自分の芝居が出来るか?それが一流の役者という奴だ”って月島さんも言っていたじゃないですか」

 「だからってこんなやり方はないだろ、リハを中断させやがって。これはどこぞのドッキリ番組の撮影じゃないんだよ」

 

 これは彼によるちょっとした悪ふざけ、もといサプライズだというがやられた側は場の空気を乱されて溜まったものではない。

 

 「それに明日から10話の撮影が始まるというのに、呑気にノコノコと出番のない現場に来て大丈夫なのか?特にこのところはドラマ関連に加えこの間公開された映画の舞台挨拶と番宣を兼ねたバラエティの収録と、ロクに台本を読む時間も取れていないと聞いているが」

 「大丈夫ですよ。台本はト書きも含めて一字一句全て、“海馬(ここ)”に記憶してきましたから」

 

 月島の言葉を瞬時に理解した早乙女は、こめかみに人差し指を当てながら得意げに答えて見せる。もちろん台本などというものは、現場に持ち込んでなどいない。

 

 「本当に覚えたんですか?」

 

 既に早乙女と共演している役者やスタッフにとってこの光景は慣れたようなものだが、彼のことを噂伝いでしか聞いていなかった俺は冗談半分で聞いてみた。

 

 「静流さん」

 「・・・あの?ここってどこですか」

 

 早乙女から名前を呼ばれた牧は適当に台本をめくると、唐突に10話の1シーンの中にある美優紀の台詞を読み始める。

 

 「見りゃ分かんだろ?墓だよ」

 

 その台詞に間髪入れず早乙女が反応する。もちろん、一字一句間違ってなどいない。

 

 「せっかく連れて行きたい場所があるって聞いてたのに、初っ端から墓って」

 「じゃあ帰るか?」

 「別に帰りませんけど、なんで墓なんですか?」

 「ちょっとさ、挨拶しておきたい昔のダチがいんだよ」

 「・・・昔の友達、ですか?」

 「あぁ・・・結局ここまで来るのに10年もかかっちまった」

 

 牧が読み上げる美優紀の台詞に、早乙女は直樹として一字一句間違えることなく台詞を返す。そればかりか表情の乗せ方や所作はもちろん、間の取り方に至るまで完璧と言える程に仕上がっている。

 

 まさに、“演出家要らず”というのはこういう事であるとでも言いたげな説得力がそこにはあった。

 

 「今日も完璧だね。早乙女さん」

 

 シーンを読み終えると牧が分かりやすく早乙女を煽てる。

 

 いつ寝ているのかすら分からないと言われるほど多忙なスケジュールの中で、一体どうやってこの短期間でここまで役を作り上げて来たのだろうか。

 月島を始めとした早乙女のプロフェッショナルぶりを知る共演者にはあまり驚いた様子はないが、その光景を初めて目撃した俺は驚きを隠せずにいた。

 

 「早乙女君、あんまり新人の前で変な真似はしないでくれないか」

 

 1人だけ置いてけぼりにされている俺を気遣ってか、月島が咄嗟にフォローする。

 

 「えっ?何がですか?ボクはただ台詞合わせをしただけですよ。何か間違ったことしました?」

 

 そんな月島に、早乙女は全く悪びれる様子もなくあっけらかんと言い返す。

 

 「まぁ気にしないでくれ、少年。ボクは人より少しだけ“暗記”が得意なだけだからさ」

 

 早乙女の言った暗記の意味が物凄く不気味に思えて、感情が揺さぶられる。恐らく当の本人には何一つ悪意はないのだろうが、かえってそれが役者としての怖さを倍増させる。

 

 「だからキミは何も気にせず、自分の思うままに“直樹”を演じればいい」

 

 そう言いながら早乙女はまた顔合わせの時と同じように、俺はまたしても“飲み込まれそう”になる。

 

 “駄目だ、惑わされるな”

 

 

 

 「早乙女

 

 月島が諭すように早乙女を呼び捨てる。月島の言葉で何かを察した早乙女は、すぐさま憬から距離を置くと、つかさず憬に詫びを入れる。

 

 「ごめんよ少年。別にプレッシャーをかけているつもりは全くないんだ。ただほんの少し“熱く”なっているだけでさ」

 

 そう言われると余計にプレッシャーがかかって来る。上地と同様、もしかしたら俺は早乙女(この人)のことが苦手なのかもしれない。

 

 「ボクたちは2人で1人を演じるわけだ。共に頑張ろう」

 「・・・はい」

 

 そう言って早乙女は俺に向けて握手を求め、俺はひとまずそれに応じる。

 

 「勝手に場を仕切るな早乙女」

 「だってこうでもしないと撮影を再開できないでしょうが」

 「だったら黙って見学していろ」

 

 主演と監督によるどうしようもないやり取りのおかげで、俺は早乙女からの余分な感情をどうにか排除(シャットアウト)することが出来た。

 

 「全く、こういう悪意のない正直さが一番(タチ)悪いんだよねブッキー」

 「お前が言うな」

 

 牧の言う通り、早乙女の言っている言葉に悪意は何一つないのは分かっている。だから彼の言葉に惑わされる必要もないことだって、分かっている。

 

 「俺のことは心配しなくても大丈夫です。俺は、自分なりに直樹を演じるだけだから」

 

 俺は少しずつ、自分の感情の中に直樹の感情を落とし込んでいく。

 リハの時は無意識に最後の台詞が飛んでしまったが、そこを分岐点に気を付ければもう大丈夫だろう。

 

 「憬」

 

 役に入り始めた俺に、環が声をかける。

 

 「ファイト」

 「・・・おう」

 

 それは、あまりにも何の捻りもないシンプルな一言だった。でも環がひねり出したたった一言に、思いの全てが詰まっていた気がする。

 

 「良いですね。仲間同士の絆って言うのは」

 

 独り言を呟くかのように、早乙女が憬の方に視線を向けたまま月島に話しかける。

 

 「(まゆずみ)君。エキストラとスタッフを全員ここに集合させて」

 『分かりました』

 

 月島はトランシーバー(無線)での黛に指示を仰ぎ、程なくして20数名のエキストラと撮影に携わるスタッフが教室内に集結する。

 

 

 

 「今から5分後にカメリハを再開し、そのまま本番を撮ります。学校のシーンはラストシーンを除き今日1日で撮り終える予定なので、キャスト並びにスタッフの皆さんは円滑に撮影が進められるよう、ご協力お願いします」

 

 

 




先日、アクタージュに次ぐ推しのジャンプ漫画と最推しの4人組ロックバンドによる百鬼夜行が来たる12月24日に行われることが発表されました。




とんだ作業妨害です。(※もちろんこれは褒め言葉です)




いやぁまさかですよ。(さとる)(さとる)のタッグが実現するなんて・・・これは天変地異の1つでも起こるんちゃいますか??


あとこれは余談ですがこの小説の主人公も(さとる)なんですよね・・・




すいません何でもないです。


ただ予告編を見た感じだと今回は珍しく常田さんがメインっぽいんですよね。でも、常田さんの低音ボイスがあるからこそ井口さんのハイトーンが際立ち、この2人の独特なハーモニーに特級レベルのリズム隊が合わさることで唯一無二のエモいサウンドを生み出していると僕は思っています。まさに鬼に金棒、乙骨憂太に祈本里香って感じの最強の組み合わせです。


ちなみに予告編で流れていた箇所はサビではないらしいんですよね。エモすぎますって常田さん・・・おかげでこっちは執筆が捗らないんですよ・・・貴方の作る曲があまりにも良すぎるから・・・





ともかくこれは今まで生きてきた中で史上最高のクリスマスプレゼントだと思っていますが、それでもアクタージュに対する“一途で純愛”なる想いは、特級呪術師と牛魔王が領域展開で襲い掛かろうが何一つ変わることはありません。












※補足ですが本編に登場したブランチはあくまで王●のブランチではありません
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