或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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scene.15 一触即発

 六本木の一等地にそびえ立つ高級マンションの最上階にある一室。この部屋に、日本で最も“視聴率”を稼ぐ主演俳優として名を馳せる早乙女は住んでいる。

 

 「珍しいね。同業者(役者)以外は滅多に自分の部屋に人を入れない君が“スタッフ”を招待するなんて」

 「事務所だとアリサ(社長)が色々とうるさいから仕方なくですよ」

 「でも何でアッキーじゃなくてこの僕を呼んだのかい?別にいいけど

 「“アッキー”から言われたんですよ・・・『今のタイミングでこれ以上、 “揉め事”は起さないでくれ』、と」

 「・・・なるほどね」

 

 7月某日、午前1時。早乙女は上地と共に自室のリビングに鎮座する36型のブラウン管で俳優発掘オーディションのビデオ映像を見ていた。

 

 『夕野君。君が今感じている “悲しみ”に、”怒り“を落とし込んで見て』

 

 月島の言葉を合図に、79番の少年が怒りの感情を自らに落とし込んだその瞬間、少年の“悲しみ”はブラウン管を飛び出して部屋中を支配する。

 

 「へぇ・・・」

 

 月島という男は脚本家としてのみならず、演出家としても非常に優れた感覚(センス)を持ち合わせている。そんな彼が美沙子(静流)の相手役として目を付けたのは、演技経験の全くない素人の中学生。

 最初にそれを耳にした時は“目にゴミでも入っているのか?”と月島のことを思わず問いただしてやりたいと思ったが、そんな考えは一瞬にして愚かなものであったことを思い知った。

 

「あの後に一度だけCMの仕事をやらせてみたんだけど、現場の空気が一気にこの少年に引っ張られていってそれはもう凄まじかったよ。海堂さんは全然納得していなかったみたいだけどね」

 

 芸能界では毎年のようにどこぞのワインの如く天才や逸材、何年に1人と呼ばれる連中が湧いてくるが、その多くは過剰なメディアやプロダクションの間違ったゴリ押しで消費され続け、旬が過ぎれば掌を返すように自分より若い才能に乗り換えられ、ポイ捨てされていく。

 

 “蓋を開ければ所詮はその程度の才能”

 

 そんな役者やタレントを、この世界に入った7年の間だけで何人も見てきた。

 

 「いいねぇ・・・」

 

 だから、少年の芝居はかつてないほどの衝撃だった。少なくとも直感で何年に1人と言えるような才能があると感じた新人は、この少年が初めてだった。いや、下手したら彼はその程度で収まる(タマ)ですらないのかもしれない。そんな予感すら感じた。

 

 「 “スターズ”には勿体ないくらいだ・・・」

 

 それと同時に、アリサが何故この少年をオーディションで落としたのかも、間接的に理解ができた。こんな予測不能な怪物は、幸せだけを追求する世界にはあまりに不釣り合いだからだ。

 

 「おっ、久々に“熱く”なってるねぇ、早乙女くん」

 

 熱心にブラウン管に映る少年の“悲しみ”を何度も鑑賞する早乙女を微笑ましく見つめる上地に、早乙女は狂気じみた笑みを浮かべて答える。

 

 「上地さん。“21世紀の俳優”が日本の芸能界を支配する日は、そう遠くないかもしれない・・・」

 

 「・・・今の早乙女くんの顔・・・アリサちゃんにも見せてあげたいよ・・・」

 

 

 

 

 

 “さて・・・ボクを楽しませてくれよ・・・少年”

 

 本番直前。早乙女の目つきが次第に“子供を見守る”ような優しい目から、“獲物(ターゲット)に狙いを定める”ような好戦的で鋭い(ギラついた)眼に変わり、定位置につく憬を期待と興奮が入れ交じったような感情で凝視する。

 

 「それでは本番行きます。ヨーイ、ハイ」

 

 

 

『HOME -ボクラのいえ-』第10話過去パート、本番。撮影開始。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「・・・何だよこれ・・・」

 

 俺と美沙子の目の前に飛び込んで来たのは、目を覆いたくなるような無数の悪口で埋め尽くされた美沙子の机と椅子だった。

 

 「オイ・・・悪口書いた奴・・・全員手ェ挙げろ」

 

 このクラスにいる誰か、あるいは全員が落書きしたのは明らかだが、周りにいる奴らは誰も手を挙げようとしない。

 

 「・・・お前ら・・・!」

 

 “ふざけんなよ・・・美沙子は何も悪くねぇのに・・・何でこんな目に遭わなければいけないんだ・・・”

 

 俺は美沙子に嘲笑うかのような視線を送る周りの奴らを睨みつける。

 

 「直樹、いいよもう」

 

 そんな俺を、美沙子は気丈に振舞いながら止めようとする。無理やり笑顔を作っているが、今にも泣きだしそうな目を見た瞬間、俺は怒りを抑えられなくなった。

 

 「いい訳ねぇだろっ!!」

 「・・・直樹」

 「・・・お前らホントにダセェよ・・・寄ってたかってこんなくだらねぇことしやがって」

 「直樹もうやめて」

 

 美沙子が俺に何か声をかけているが、その声は俺には届かない。

 

 「フッ」

 

 その時、同じクラスの伊藤が俺たちを見て堪えきれずに笑ったのが目に映った。

 

 「何笑ってんだよテメェ!」

 

 俺は怒りに任せて、伊藤の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

 

 「もういいって言ってるでしょ!!」

 

 伊藤の胸ぐらに掴みかかろうとした俺の手が、美沙子の声に反応して寸でで止まる。

 

 「あたしは大丈夫。だから、これ以上余計な事しないで」

 「・・・日島」

 「・・・全部・・・あたしが悪いんだから」

 

 俺を睨みつけながら言い終えると、美沙子は周りの視線を避けるように俯きながら悪口で埋め尽くされた席に座る。

 そんな美沙子を前にして、何一つ幼馴染を守れずにいる自分の無力さに俺は茫然と立ち尽くす。

 

 「・・・別に俺たちは悪口なんて1つも書いてないよ。ただそこに本当のことを書いただけ。ただ、ずっと前から調子こいてて鬱陶しいとは思ってたけどな」

 

 美沙子と俺を嘲笑った伊藤が悪びれもなく放った言葉が、容赦なく俺の心に深く突き刺さる。

 

 「・・・オイ・・・」

 

 俺は我を忘れ、怒りに任せて勢いそのままに伊藤の顔面を殴りつける。右手の拳に鈍い衝撃が走ると同時に、伊藤は吹き飛ばされ机をなぎ倒すようにして倒れ込む。

 

 “それにしても、やけに右手の拳が“熱い”な・・・”

 

 拳の違和感を感じ取った俺は咄嗟に “伊藤”を演じている新井の顔に目線をやる。すると新井は伊藤と同じように切れた口元を抑えながら目で俺を睨みつけている。

 ただ口元から滲み出ている血は、紛れもなく本物だ。

 

 “・・・ってあれ?もしかして俺・・・マジで殴ってた?”

 

 「・・・ごめん」

 

 憬のごめんの一言を合図に月島がカットをかけ、撮影は再び中断した。

 

 

 

 この時の状況を端的に説明するとこうなる。

 

 まず直樹を演じる憬は月島の演出通りに睨みつけ、そのまま勢い任せに伊藤を殴った。

 一見するとそれはただのOKテイクのようにも見えた。だが、直樹が伊藤を殴った瞬間、本来の撮影であればあり得ない鈍い音が現場全体に微かに響いた。

 この時点で共演者や月島を始め現場にいた大半のスタッフは、唇に血を滲じませる新井を見て憬が本当に殴ってしまったことに気付いたが、月島が一向にカットをかけようとせず当事者2人も演技を続行していたため、撮影現場は今起きていることはアクシデントなのか判断がつかない状況に陥っていた。

 しかし、直樹を演じる憬の表情が少しだけ強張りはじめ、憬が「ごめん」と一言呟いたのを合図に月島はようやくカットをかけ、これにより目の前で巻き起こっていることがアクシデントであるということが確定した。

 

 そして月島のカットを合図に、スタッフは一斉に新井に駆け寄り、応急処置にあたった。

 

 

 

 “やってしまった・・・”

 

 本当にこうして人を殴ってしまっては、それはもはや演技ではなくただの暴力行為だ。役に入り込み過ぎたという“言い訳”では到底済まされない。

 菅生の元で行われたトレーニングでは問題なく出来ていたはずの俯瞰も、直樹の感情が入ったことによって思うようにコントロールが出来なくなっていた。だから俺は殴ってしまった。

 

 「殴ってしまって・・・すいませんでした」

 

 とにかく俺は真っ先にその場に座り込む新井に謝罪する。もう、煮るなり焼くなりどうにでもなればいいという心境だ。

 

 「あぁ、俺は大丈夫だから。これぐらいヘーキヘーキ」

 

 それでも伊藤を演じる新井遊大(あらいゆうだい)は気丈に振舞い、俺の愚行を笑いながら許してくれた。

 罪悪感は尋常ではないが、こうして現場に蔓延る一触即発な空気はどうにか落ち着いた・・・かに見えた。

 

 「オイ夕野!」

 

 声のする方へ目線を向けると、山吹がスタッフの制止を振り切り物凄い剣幕で俺のところに向かってきた。

 

 「お前さ・・・ナメてんの?」

 

 和やかになり始めた現場の空気が一瞬にして再び修羅場と化す。

 

 「・・・確かにナメてたかもしれないです。本当に人を殴ったら、それはもう演技でも何でも」

 

  “演技でも何でもない”と言い切る前に、山吹は俺の胸ぐらを思い切り掴んで来た。

 

 「山吹

 

 掴みかかった山吹に月島が語気を強めて “鶴の一声”をかけると、山吹は掴んで来た勢いと同じぐらいの強さで俺の胸ぐらから手を放す。

 

 「・・・まだ分からねぇのか?お前」

 

 山吹の言っている意味が、この時の俺には全く見当がつかなかった。そして俺が真意を理解していないことを察した山吹は呆れたように静かな溜息をつく。

 

 「分かった・・・今回だけは特別大サービスってことで教えてやる。はっきり言って俺は、お前が共演者を本気で殴ったことは何とも思ってねぇ」

 

 この一言に、周りは一瞬だけどよめく。事実、俺も山吹から発せられた言葉を聞いた瞬間だけは、この男が何を言っているのかがますます分からなくなった。

 

 「ただ、お前はその後に月島さんがまだカットをかけていないにも関わらず手前の独断で勝手に芝居を終わらせた・・・もう意味は分かるよな?」

 

 あの瞬間、俺が新井のことを殴っても月島はカットをかけず、新井もそのまま演技を続けようとしていた。

 それにも関わらず、俺は自分の判断で演技を止めてしまった。それが何を意味するのかをようやく理解した。

 

 “予期せぬ状況でも寸分違わず自分の芝居が出来るか?それが一流の役者という奴だ”

 

 早乙女の言っていた月島の言葉が、脳裏によぎる。

 

 「監督や演出家がOK(オーケー)を出すまでは何が何でも芝居を続ける。それが役者を名乗るための第一歩だろうが」

 

 すると山吹は、俺の目の前に顔を近づける。

 

 「(しま)いまで()り切る覚悟がねぇなら、端から役者なんて名乗ってんじゃねぇよ

 

 山吹から告げられた言葉に、俺は何も言い返せずただその場に立ち尽くすだけだった。

 

 結局このシーンの撮影は直樹が伊藤を殴った後に馬乗りの体勢になって伊藤を殴りつけるという場面があったが、月島の判断で直樹が伊藤を殴ったところで次の回想に移るという演出に変更され、午前の撮影はこのまま終了となった。

 

 そして山吹は「すんませんでした」と月島に軽く平謝りをして教室から出ていき、そのまま早乙女と共に現場を後にした。

 

 

 

 「えっ?伊藤を殴るところだけ撮り直して欲しい?」

 「はい。人を殴った上、月島さんがOKを出す前に演技を止めてしまったので」

 

 休憩時間、俺は無謀にも月島のところに向かいシーンの撮り直しを直談判していた。

 

 「そう言われてもね、実際作品によっては撮影でも演者がビンタしたりされたり蹴られたりすることは無きにしも非ずだからさ。それに殴りかかる寸前でシーンを変えるなりすればどうにかなる話だし」

 「それで月島さんが大丈夫だとしても、俺は最後までちゃんと直樹を演じ切りたいんです」

 「じゃあ聞くけど、夕野君はあくまで“直樹”として“伊藤”のことを殴ったんだよね?」

 

 俺の言葉に無理矢理被せるように、月島が会話の主導権を奪う。

 

 「・・・俺は、そのつもりでいました」

 

 もしも俺が当事者だったら絶対にあんな真似はしなかっただろう。ただ直樹だったら伊藤のことを間違いなく殴っていた。

 それは台本にそう書いてあったからと言うことではなく、直樹なら必ずそうすると分かっていたから。

 

 「だったらそれで良いんだよ。事実、夕野君が演じている直樹は文句なしで“完璧”だったからね。心配しなくとも君はちゃんと最後まで直樹だったよ」

 「でも山吹さんは」

 「注文の多い新人は監督(みんな)から嫌われますよ」

 

 今度は後ろの方から別の誰かにまたしても言葉を遮られる。

 

 「どんなに夕野くんの中で腑に落ちないところがあっても、監督がOKと決めたことはOK、NGと決めたことはNG。撮影現場において、これは絶対です」

 

 助監督の黛美和(まゆずみみわ)が冷徹な口調で俺を諭す。女性でありながらも170センチ(ジャスト)の自分よりも5センチほど背丈があろうモデル体型の彼女から睨まれると、威圧感が半端ではない。

 

 「いい加減、これ以上私たちに迷惑をかけないでください」

 「黛君。それぐらいにしておけ」

 「・・・すいません。言い過ぎました」

 

 まだ何か言いたげな表情を浮かべながらも黛は“監督”の指示を律義に守り、口を慎む。

 

 「・・・とにかく夕野君がこの後何を言おうと、午前に撮ったシーンの撮り直し(リテイク)はできない。君1人のために周りの共演者やスタッフに余計な負担をかけてしまっては、現場の士気も下がる。ここは時間の取れる稽古場じゃない、連続ドラマの撮影現場なんだよ」

 

 一旦言い終えると月島は一呼吸ほど置いて、

 

 「頼む・・・分かってくれないか?」

 

 と穏やかだが恐ろしいくらいに冷めたような口調で説得する。そんな“監督”の “指示”に、俺は従わざるを得なかった。

 

 「・・・はい。すいませんでした」

 

 ここには、自分の芝居を追求する時間は存在しない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「中々に見応えのある“授業”だったよ、敦士くん」

 「うるせーよ。あんなの授業でもなんでもねぇっつの」

 

 昼下がりの東名高速上り線を、早乙女の運転するFDが走り抜ける。その助手席には午前中の撮影が終わると同時に早乙女と共に現場から引き上げた山吹が座る。

 

 「おっ、そろそろ午後の撮影が始まる頃だな」

 「知るか」

 

 早乙女は左腕にはめている高級ブランドの腕時計をチラ見して呟くと、ぶっきらぼうに窓の外に顔を背けながら山吹が言葉を返す。

 

 「にしても午後の撮影を見ずに帰っちゃって本当に良かったの?スケジュールを考えたら15時ぐらいまでは居れたと思うけど」

 「良いんだよこれで・・・それに、夕野が一体どんな役者(ヤツ)なのか大体分かったしな」

 

 あどけなさは少し残るも端正な顔立ちとスラッとした体格からか見栄えは良いが、かといって早乙女のような飛び抜けた華やかさを持っているわけではなく、普段は周りより少しだけ容姿に恵まれている程度のどこにでもいそうな中2のガキだ。

 だが、ひとたび芝居に入れば周りのもの全てを飲み込むかのような独特かつ強烈な存在感と、その屋台骨となる役に対する異常なまでの入り込みでカメラを支配する。

 

 「アンタの言ってた通りだ。初めて見たよ・・・新人であんなすげぇ芝居する奴」

 

 凄まじい芝居だった。本番になっても夕野は一気に芝居のギアを上げた静流に全く臆することなく、決して負けることなく渡り合っていた。

直後に起こったアクシデントはともかく、そんな新人をこの目で見たのは本当に生まれて初めてのことだ。

 

 「だけどちょっとボクは心配なんだよな」

 「何が?」

 「敦士くんが胸ぐらを掴んだせいで戦意喪失してないかとかさ」

 「アンタは俺のことを何だと思ってやがる」

 「グレイテストティーチャー」

 「それはアンタだろ」

 

 確かにアレは自分でも流石にやり過ぎたと少し反省している。下手な真似をして暴力沙汰みたいに騒がれたら、それこそ事務所(スターズ)の看板に泥を塗ることになる。それだけはごめんだ。

 

 「けどまさか敦士くんが、“終いまで演り切る覚悟がねぇなら、端から役者なんて名乗ってんじゃねぇよ”って言うようになるとは」

 「馬鹿にしてんなら今すぐサイドブレーキ引いてアンタの愛車(FD)お釈迦にすんぞコラ」

 

 物真似をしながら早乙女が俺のことを茶化す。ただでさえイラつくのに、その物真似が悔しいことに滅茶苦茶“巧い”せいで余計に腹が立つ。

 

 「つーか怖がりなアンタのことだからロクに俺たちの騒ぎなんか見れてねぇと思ってたぜ」

 「確かに怖くてまともに見れなかったけど、“聴覚(ここ)”でちゃんと視ていたからね」

 「・・・相変わらずバカウゼェなその“特殊能力”はよ」

 

 当然、早乙女はそんな超人的な特殊能力の持ち主なんかではない。ただ役者として生きていく上で必要不可欠な技術(ワザ)が、周りの役者より少し飛び抜けているだけの話だ。

 

 「でも“先輩”として最高にカッコよかったよ、今日の敦士くん」

 「・・・別に大したことは言ってねぇよ。俺は役者として守って当たり前のことを夕野(アイツ)に教えてやっただけだ」

 

 俺には嫌いな役者(タイプ)が2つある。まずひとつ目が大した実力もないのに威張り散らして自分の価値観を押し付けてくるような傲慢な奴。

 

 「その割には随分と熱くなっていたじゃないか」

 「主演(アンタ)の“分身”を引き受けた以上、生半可な覚悟で演じて欲しくねぇんだよ夕野(アイツ)には。それだけの話だ」

 

 そしてふたつ目が、他の誰よりも才能や実力を持っていながら自分の芝居に自信を持てずにいる臆病な奴だ。

 

 「敦士くんは失望したかい?あの少年に?」

 

 もちろん早乙女は、俺がどんな奴が嫌いなのかを知っている。

 

 「失望してたら、あんなこと言わねぇよ」

 

 そっぽを向きながら答える山吹に、早乙女は前を向いたまま静かに微笑みながら静かに呟く。

 

 「・・・これで未来は安泰だな」

 

 早乙女の言った独り言の意味を、山吹はすぐに理解した。

 

 「・・・本気なんだな・・・アンタ?」

 

 山吹の一言を合図にするように、東京料金所が近づいた高速道路はさらに混雑し始め、流れに合わせるように早乙女は1速ずつ丁寧にシフトダウンする。そして料金所が目の前に見え始めたところで、車の流れが完全に止まる。

 

 「ほんといつも詰まるんだよなぁ料金所って」

 「話そらしてんじゃねぇよ」

 

 前を向いてポケットに手を突っ込みながら山吹が目を合わせずに問いただす。

 

 「らしくねぇだろが」

 

 山吹が言った“らしくねぇ”の一言は、どこか寂しげな雰囲気の漂うものだった。

 

 「別に関係ないことだよ。今の場所にいようがいまいが、相変わらずボクは役者で在り続ける訳だしさ」

 

 当たり障りがないと言われればそれまでだが、これが今の自分が言える本心だ。

 

 「だから敦士くんも今よりもっと強くなってくれよ。“ライバルたち”と共に」

 「・・・ったく、主演俳優は何言ってもサマになるからズリぃよな」

 

 

 

 早乙女からの本心の言葉に、山吹は称賛と嫌味を込めた本心で返した。

 

 

~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~

 

 

 「早乙女さんは止めないんですか?」

 

 山吹が憬を叱る為に教室へ殴り込みしていたちょうどその時、環と早乙女は傍観者として教室の外から緊迫した撮影現場を見届けていた。

 

 「うん。ボクはパス」

 「何でですか?こういう時こそ年長者が割って入って止めるのが普通じゃないですか?」

 

 環は密かに期待していた。早乙女は敢えて喧嘩を止めずに互いに思いの丈をぶつけ合わせ、どうしようもなくなったところでそっと手を差し伸べるようなクールな兄貴肌であると。

 

 「だって喧嘩とか超が付くほど苦手だし」

 「えっ!?・・・そうなんですか?(何かすごい意外・・・)」

 「何なら今すぐここから逃げ出したいくらい怖い」

 「・・・その性格でよく不良上がりの高校教師(ティーチャー)を演じられましたね」

 「あれはあくまでフィクションだからね」

 

 そして山吹が憬の胸ぐらを掴み始めると、早乙女は環の後ろに後ずさる。もうそこには、“主演俳優”の威厳というものは存在しなかった。

 

 「・・・何で私の後ろにつくんですか?早乙女さん?」

 「駄目だ・・・胸ぐらとかマジで無理・・・ていうかキレた敦士くん超怖えぇ・・・」

 「・・・嘘でしょ・・・」

 

 

 

 この日、私は尊敬する先輩のことを心の底からダサいと思ってしまった。

 

 

 




ア●パンチ
からの胸ぐら
山吹(ブキ)帰る          

後書きについてどう思いますか?

  • 作者の自由
  • 少なめがいい
  • 別になくてもいい
  • んなことよりチヨコエル出せやゴルァ
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