或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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7/29追記:今後の展開を配慮しストーリーの一部を変更しました


scene.19 集結

 8月9日_東京都町田市立南町田中学校_

 

 美沙子の転校が告げられてから3日後、週明けの学校は普段と変わりなく生徒たちが登校している。

 

 「なぁおい、屋上に誰かいなくね?」

 「えっ?いや気のせいでしょ」

 

 そんないつも通りの日常を、美沙子は屋上の柵の外に立って眺めていた。

 

 「おい!そんなところで何やってんだ危ないぞ!」

 

 異変に気付いた学年主任の先生が下から呼びかけ、その叱咤を合図にするように生徒たちは野次馬のように群がり始めるが、美沙子には野次馬の姿も声も何も届いていない。

 

 “・・・ごめんね・・・直樹・・・”

 

 「美沙子っ!!」

 

 直樹の声が耳元に入ると、美沙子は静かに足を一歩踏み出す。

 

 “・・・さよなら・・・”

 

 そして美沙子の身体は、無情にも15メートル下の地面に向かって一気に落ちて行く。

 

 

 

 「カット」

 「・・・私のシーンはこれで終わり?」

 「はい。美沙子のシーンはこれで以上になります」

 

 カットをかけた黛からの言葉に、牧はホッと胸をなでおろすとスタッフに半分抱えられるような状態で柵の内側へ戻る。

 

 「ハァ・・・本気で死ぬかと思った」

 「それは本当にお疲れ様です」

 

 撮影場所は学校の屋上で、美沙子はここから柵の向こう側にあるパラペットの上に立って飛び降りるのだが、流石に万が一のことがあってはならないのでしっかりと命綱をつけた状態で撮影している。

 

 そんな“恐怖の撮影”を終えた牧は腰が抜けたかのようにその場にへたり込む。

 

 「・・・ほんと、こんなところに立てる人の気が知れないわ」

 「こんなところに立てる人は本当に命知らずですよ」

 

 業界内では割と知られている話だが、牧は高所恐怖症である。しかしそんな素振りを微塵も感じさせない芝居のおかげで、美沙子のシーンは予定よりも20分以上早く取り終えることができた。

 

 「さて・・・残すは直樹だけか・・・」

 

 午前9時07分_屋上カット_撮影終了。

 

 

 

 「今日も来たんだ」

 「うん。だって今日で憬の出番は最後だからね」

 

 ラストシーンのカメリハに入る前の隙間時間、俺は今日も見学に来たという環と共に話していた。

 

 「にしてもすげぇよな牧さん。あんなところに立てるなんて」

 

 高さ約15メートルの屋上の端。命綱が付いていているとはいえ、よくあんなところに立っても平然としていられるものだ。俺の言葉に、環も頷く。

 

 「ホントに凄いよ、静流は。高いところが苦手って言ってたのに」

 「マジか」

 

 しかも環曰く、牧は高所恐怖症らしい。

 

 「高いところが駄目なら断りゃいいのに」

 「私も一回だけ静流にそう言ったんだけどね」

 

 『そんな下らない理由で仕事は選びたくないんだよね、私』

 

 「って結構真面目(マジ)なトーンで言い返された」

 「・・・へぇ」

 

 ある意味、いかにもプライドの高そうな牧らしい返答だ。

 

 「やっぱり“プロ”だよなぁ、静流は」

 「・・・だな」

 

 そう言い終えると環は屋上を見上げる。ただでさえあんなところに立つと言うのは身の毛がよだつほどに恐ろしいことだろうが、恐怖症持ちにとっては尚更地獄なことだろう。それでも役を演じる為にここまで体当たりで()り切る牧は、間違いなく“プロ根性”の塊だ。

 

 「それより台本は大丈夫か?」

 「大丈夫。早乙女さんには負けるけどこう見えて台詞覚えは早いほうだから」

 

 そんな誰もが知っているような子役上がりの実力派と同じ部屋で生活しているとなると、同じ役者としてはとても刺激的なことだろう。

 

 「なんかいいな。蓮のように役者のライバルと一緒の部屋で生活するって」

 「私が静流のライバルだなんてまだまだ恐れ多いよ」

 「じゃあ、先輩後輩って感じ?」

 

 すると環は少しだけ間を空けて、

 

 「何だろう・・・先輩後輩のような、女友達のような」

 

 と、曖昧な返事をした。いくら親友と言えど、言いたくないことのひとつやふたつはあるだろう。事実、俺だってそういうところは無きにしも非ずだ。

 

 「悪い。変なこと聞いたな」

 「ううん、全然いいよ。静流といると女優として勉強になることも多いし、そもそも一緒にいて普通に楽しいし」

 「まさに一石二鳥って感じだな」

 「一石二鳥に出来ればいいんだけどねぇ・・・」

 

 そう言うと環はどこか自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

 「蓮なら大丈夫でしょ」

 「・・・そう?」

 

 俺は環の感じている負い目を見逃さなかった。無理はない、比較対象が牧静流となると嫌でも自分の実力というものを良くも悪くも突きつけられるからだ。

 

 「まだまだ伸びしろがあるし」

 「それは静流もでしょ」

 「いや、牧さん以上にあるんだよ蓮には。経験なんて関係ない、俺たちは新人だ。可能性は無限大だよ」

 

 そんな環を、俺は自分なりに励ます。肝心な時にロクな言葉が出てこない俺にしては、今回は悪くないだろう。

 ここからどれくらい伸びていくのかは俺も知らないが、少なくとも牧や早乙女たちに比べて経験の少ない俺たちの方が役者として学べる機会も多い。それは、成長するチャンスがより一層転がっているということになる。

 

 「・・・何か早乙女さんみたいなこと言うね、今日の憬」

 「俺が早乙女さん?」

 

 だが、この返答はさすがに予想していなかった。もしかしたら、早乙女の芝居を盗んだ影響がこんなところにまで現れてしまったのだろうか・・・流石にそれはないとは思うが・・・

 

 俺はひとまず、早乙女の存在を一旦脳内から消した。

 

 「でも憬の言う通り、確かに私たちにはまだまだ伸びしろがあるからね」

 「あぁ・・・当たり前だ」

 

 そんな俺たちに今できるのは、とにかく技術を盗むこと。そして芝居で答え続けること。

 

 「おとといの憬とはまるで別人だね」

 「別人?どういうことだよそれ?」

 「なんか、迷いがなくなった」

 「・・・そっか」

 

 ただ迷いがないだとか言って強がって見せるが、内心ではまだ少し恐怖心に似たものがある。これから使う感情は、これまでに使ったことのないようなシリアスなものだからだ。

 

 だが、時間は待ってはくれない。限られたリミットの中で、とにかく今できる最善を尽くすしかない。

 

 「夕野さん、この後すぐにリハを始めますのでそろそろ校門の前に向かってください」

 

 撮影スタッフの1人がリハの開始を俺に告げる。

 

 「じゃあ、行ってくるわ」

 

 学校の校門に向かおうと足を踏み出そうとした瞬間、環が俺の背中をポンっと軽く叩く。

 

 「私のことは気にしないで。恐れず思い切って()ってこい」

 「おう・・・・・・ありがとう」

 

 そして環からの激励に憬は静かに感謝の言葉を返すと、そのままエキストラ達が既に待機し始めた校門へ歩みを進めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「今日は夜まで何もないって月島さんから聞いてるけど早乙女さんはリフレッシュしなくていいの?」

 

 美沙子のシーンの撮影が終わり、制服の衣装から私服に着替え終えた牧が現場を訪れた早乙女のもとに向かい揶揄いつつ気遣う。

 

 「どうしても中学生の “直樹”を最後まで見届けたくなっちゃってさ。今日も来ちゃったよ」

 

 牧からの申し訳程度の心配の声に早乙女はいつもの飄々とした態度で返すと、牧は“相変わらずね”と言わんばかりに心の中で溜息を漏らす。

 

 「・・・そんなに憬くんのことが気になるの?」

 「そりゃあ気になるさ。あのような新人なんて10年に1回拝められるか拝められないかくらいだし」

 「へぇ・・・随分と“ライバル視”してるのね、彼のこと」

 「ライバルか・・・なるほど」

 

 そう言うと早乙女は同じく見学に来た環と何かを話している憬に目を向ける。

 

 恐らく数年後には絶対に無視することのできない大きな存在になっていることだろう原石によるオーディションの映像を見た衝撃を、あの日から僕は何度も思い返していた。

 

 自分より下の存在に脅威を感じたのは、初めてだった。

 

 「もちろん憬の芝居は中々に興味深いからね・・・“盗みがい”があるよ」

 

 僕には役者として0から1を生み出せるような才能はない。だが、後輩の為に一肌脱ぐのが道標となる先輩の役目というものだ。

 

 「そうだよね。それが早乙女さんのやり方だもんね」

 

 自分が持ち合わせていない武器(モノ)を、自分にしかない武器(モノ)で補って技術(テクニック)として昇華させる。例え0から1は作れなくとも、そうして1から100のものを1から120ぐらいにすることはできる。

 

 「あぁ、その通りだよ。先輩だろうと新人だろうと、参考になる芝居(モノ)は盗みまくるのがボクだからね」

 

 “憬の芝居(直樹)が良ければ良いほど、僕の演じる主人公(直樹)はさらに良くなる”

 

 「だから憬には実力を思う存分に発揮してもらって、最後にボクがその上を歩いて全てを掻っ攫い、めでたしめでたしってわけさ」

 「仮に“分身”がまたやらかしたら?」

 「その時は有り余る力を使って補えばいいだけのことさ。どちらに転ぼうが、ボクにとっては“美味しいご馳走”なのは変わらないからね」

 

 これが今できる、僕なりの戦い方だ。

 

 「・・・久しぶりに会えたよ・・・面白そうな存在に・・・」

 

 どこか誇らしげな表情で空を見上げている早乙女に、牧は独り言を吐いて笑みを浮かべる。

 

 「それは良かったじゃないか、静流さん」

 

 牧の言った独り言の意味をすぐに理解した早乙女が、クールな笑みで答える。

 

 同期や下に脅威と言えるライバルがいるということ。それは時に自分自身が喰われるかもしれないというリスクを背負うことになるのだが、そんな実力者と同じ舞台で芝居ができるということは、頂上を目指す役者にとっては冥利に尽きることだ。

 

 「もちろん蓮のことだって期待してるけどまだまだ可愛い後輩止まりだし・・・天くんが役者を辞めちゃってから、私ずっと寂しかったからさ・・・」

 

 だからそう言ってボヤく牧の気持ちも、早乙女は分かっている。同世代で唯一、自分に対抗することができた天才子役・天馬心のことを彼女はライバルとして意識し、これからも彼と共に互いに切磋琢磨して子役から俳優へと成長していく、はずだった。

 

 だが肝心のライバルは星アリサの引退とほぼ同時に芸能界を去り、“天馬心”は天知心一に戻った。そして牧の心には唯一のライバルと言える存在が突然いなくなるというやり場のない気持ちだけが残っていた。

 

 「・・・敦士くんでは不満かい?」

 「・・・不満じゃないけど・・・なんか違うんだよねブッキーは。私にとっては友達だけどあくまでライバルじゃないから」

 

 早乙女の問いかけに、牧は悩みながらも苦笑いを浮かべて答える。ライバル不在という環境は、それはそれで安泰なのだが互いを刺激し合える相手がいないというのも、これはまた味気ないものだ。

 

 「そのことって敦士くんは知ってるのかい?」

 「私からは話してないけど、ブッキーのことだから気付いていると思う」

 「じゃあいっそのことカミングアウトでもすればどう?」

 「それは駄目だよ。言ったところで何も解決しないし、絶対にブッキーも傷つくから」

 

 だからといってこのことをそのまま口にできるほど、友人という関係は割り切ることが出来ない。牧にとって山吹はライバルではないが、心を開ける数少ない存在の1人であるからだ。

 

 「・・・おっ、噂をすれば」

 

 遠くに目を向けると、噂の張本人が撮影現場に姿を見せた。

 

 「しかもよりによってもう一人の“大物新人”を引き連れてくるとはねぇ・・・」

 

 ただ、周囲の人間の視線はどういう訳か山吹ではなく、その右斜め後ろを歩く1人の“美少年”に向けられている。

 

 「なんだか面白いことになっていきそうだね、早乙女さん?」

 「・・・だね」

 

 透き通るような白銀の髪とパッチリとした琥珀の眼に、色白で透明感のある肌色に女子顔負けの小顔。そして“絶世の美少年”と称される少女漫画から飛び出してきたかのような爽やかかつ中性的なルックスから醸し出される、王子様のように高貴で唯一無二な存在感。

 

 ただ歩いているだけなのにまるで映画やドラマのワンシーンを観るかのように、スタッフ達の目線のピントが彼のほうに持っていかれ、彼が通り過ぎるとそこにはどよめきに似た声が上がる。しかも斜め前を歩いているのがマネージャーでも無名の役者でもなく、若手イケメン俳優としてある程度名の知れている山吹であるにも関わらずだ。

 

 「稀にいるんだよね。芝居とか関係なしに己の存在だけで全てを蹴散らすようなマジの天才ってさ。俗にいうチートってやつ?

 「早乙女さんがそれ言っちゃう?」

 「ボクは“彼”とは違って天才じゃないからね」

 

 牧からの言葉を早乙女は即座に否定する。勝手に姉から応募される形で何の伝手もないまま美男子コンテストに参加した早乙女と、出来レースと周囲から罵られるリスクを冒してまで事務所が総出で獲得に動いた彼とでは、期待値も潜在能力(ポテンシャル)も全く異なる。

 

 “盗ることを生業にしている僕にとっては憬よりも君のような役者(人間)の方がよっぽど厄介だよ・・・”

 

 その少年の名前は、一色十夜(いっしきとおや)。スターズが誇る、早乙女雅臣の後継者として大抜擢された新たな広告塔(スター)である。

 

 

 

 「おざます」

 

 早乙女たちの近くまで来ると開口一番、山吹がぶっきらぼうに挨拶をする。

 

 「おぉ、敦士くんまで撮影の見学にくるなんて頑張り屋だね」

 「ちげぇよ、俺はただ社長に頼まれてここに来ただけだ」

 

 早乙女の茶化しに山吹はいつになく不機嫌そうな態度で返す。もちろん早乙女は、山吹の機嫌が悪い理由を知っている。

 

 「なぁ静流?ちょっとだけ早乙女借りていいか?」

 「えっ?別にいいけど」

 

 そして目の前にいる牧も、内心ではそれに勘づいている。

 

 「いくら敦士くんのほうが先輩だとは言えこの扱いは雑過ぎないか」

 「いいから来い。アンタと話しておきたいことがあんだよ」

 

 すると山吹は早々に十夜と静流を2人きりにして早乙女と共に彼らと距離を置くようにして離れる。現場に来てからここまで、山吹と十夜は一度も目を合わせていない。

 

 

 

 「・・・どうして敦士くんは十夜のことがそんなに嫌いなんだい?」

 「別に。深い意味はねぇよ」

 

 同じ事務所(スターズ)にいる人間や山吹のことをよく知っている人には周知のことだが、山吹と十夜の仲は良好とは言えない関係である。

 

 「だったらここまで嫌う必要はないじゃん。理由とか背景はどうであれ同じ事務所の戦友同士な訳だからさ、まぁ張り詰めずに仲良くやろうよ」

 「弁えるところは弁えてやるから安心しろ。俺だって伊達にこの世界に10年も居座ってるわけじゃねぇからな」

 「そうだよ敦士くん。どんなに嫌いな相手でも時には協力しなければならないこともあるのが、芸能界(社会)ってやつだからね」

 

 別に嫌う理由にはこれといって深い意味はなく、十夜(アイツ)に向けた個人的な恨み自体もない。ただ・・・

 

 「俺は認めねぇよ・・・・・・あんな役者(ヤツ)・・・」

 

 俺はとにかく、十夜のことが嫌いだ。

 

 「敦士くん」

 

 山吹の心情を察した早乙女が真っ直ぐ前を見据えたまま山吹の肩に手を乗せると、山吹は肩に乗った早乙女の手をやや乱雑に払いのける。行き場のない嫉妬と自己嫌悪の感情が、己の中で停滞する。

 

 「・・・今のその感情・・・・・・絶対に忘れんなよ

 

 それは、早乙女が初めて山吹へぶつけた“本心”の言葉だった。その言葉に山吹は一瞬だけ動揺する。

 

 「そうすれば、はもう誰にも負けない」

 

 目線を合わせることはしないまま、早乙女は山吹に向けて言葉を続ける。

 

 「・・・チッ、これだから主演俳優はいいよな。何言ってもサマになるし」

 

 そして早乙女からの本当の本心に、山吹は称賛と嫌味の込めた本心でもう一度返す。

 

 「でも、ありがとよ」

 

 言い終えると山吹はノールックで早乙女の上腕にグータッチをする。それに対し早乙女も同じように山吹へグータッチを返した。

 

 

 

 「山吹さん。おはようございます」

 

 早乙女と山吹が互いの拳を合わせ終えたタイミングで、これから最後の撮影に臨む憬と話し込んでいた環が早乙女たちの元へ戻って来た。

 

 「環も来てたのか」

 「はい。せっかくの撮休だし憬の出番も今日で最後だから、勉強も込みで来ました」

 「蓮は真面目だなぁ。社長に言わされて嫌々現場に来た隣の誰かさんとは違って」

 「ぶっ飛ばしてやろうかクソノッポ」

 

 スターズ組2名による男子学生のようなやり取りを横目に、環は少しだけ離れた場所から十夜と一緒に撮影を見学している牧の姿を見つける。

 

 「・・・静流の隣にいる人ってもしかして一色十夜ですか?」

 「うん、そうだよ」

 「・・・あの2人って知り合いなんですか?」

 「知り合いも何も、アイツらは“従兄弟(いとこ)”同士だよ。つってもたまにしか会えてないらしいけどな」

 「えっ!?」

 

 デビューした瞬間からたちまちメディアがこぞって十夜のことを取り上げているとはいえ、2か月前に芸能界に入ったばかりの十夜の知名度はまだ大衆に知れ渡っているとは言い難いが、業界内では彼の存在は無視できないほど有名である。

 環も当然ながら十夜の存在自体はとっくに知っていたが、牧から彼のことを何も聞かされていなかった環は山吹からさりげなく告げられた衝撃の事実に驚きを隠せない。

 

 「つーか静流から何も聞かされてねぇのかよ?」

 「はい・・・一色さんのことは何も・・・」

 「・・・マジで自分のことになると何も喋んねぇからな静流は・・・まぁ、いくら近い親戚って言えど3年も会ってなけりゃ疎遠にもなるってか」

 

 溜息を交えながら、山吹がどこか気怠そうに答える。

 

 「そんなに会ってないんですか?」

 「そもそも十夜(アイツ)は中学に上がるまで日本とアメリカを行ったり来たりする生活をしてたからな。それでそんな生活に飽きて日本に留まりだしたら、今度は静流の方がメディアに引っ張りだこになって会いたくても会えねぇってとこよ」

 「・・・ちょっと待って・・・何で日本とアメリカを行ったり来たりする生活をしてたんですか?」

 

 いまいち山吹の言っている意味を理解しきれずにいる環に、早乙女が助け舟を渡す。

 

 「両親がそれぞれ世界的に有名な芸術家と写真家でさ、夫婦揃って日本とNY(ニューヨーク)を拠点に活動しているから家族と共に行動するとなるとどうしてもあのような生活になってしまうんだよ。ちなみに今は都内で演奏家(ヴァイオリニスト)の姉と2人暮らしをしてるらしい」

 「いずれにしろ、俺たちには縁もゆかりもない次元の話だけどな」

 「・・・へぇ・・・それはすごいですね・・・(びっくりするくらい話が入ってこない・・・)」

 「環、無理すんな」

 

 正直言ってあまりに規格外で現実感のない一色ファミリーの話を聞いた環はさらに困惑し、それっぽい雰囲気で誤魔化すことしかできなかった。

 

 「しかし、十夜まで見に来るなんて蓮の幼馴染くんは人気者だね。ボクですら新人の頃はここまで注目されなかったのに」

 

 牧の話をする2人を横目にしながら、早乙女は見学している十夜と月島たちと演出の確認をしている憬の姿を交互に目で追う。

 

 「でもなんで一色さんまで現場(ここ)に?」

 「社長からの指名だ。芝居を勉強するには良い機会だから同行させろってよ」

 

 環からの問いに被せるように山吹が半ば投げやりに答える。山吹の言っている社長とは言うまでもなく、あの星アリサのことだ。

 

 「・・・それにしても中々にえげつない面子がこの現場に集結したものだね」

 

 カメリハ前に位置を確認する憬に視線を向けながら、早乙女が環と山吹へ呟く。ただ幼馴染2人が並んで談笑しているだけなのに、どっちがメインなのかが分からなくなるくらいその出で立ちは様になっている。

 

 「でもこの世界は才能だとか素質が全てじゃない。とにかく、ボクたち努力家は努力家らしく最後までしぶとく食い下がってひたすら盗みまくろうじゃないか。それが彼らのような天才に追いつき追い越すための一番の近道なんだから」

 

 そんな2人を遮る早乙女の言葉を合図にするように、山吹と環は本番前のカメリハに臨む憬に視線を向けた。

 




タイトルの通り、集結しました。第二章もいよいよ、というかようやく終盤に差し掛かって参りました。いやぁ、思った以上に長引いてしまった・・・

気がつけばあと2週間足らずで、2021年も終わってしまいます。早い・・・早すぎる・・・

ちなみにこのペースで順調に行くと来週が年内最後の投稿ということになります。

ということで来週は勝手ながら2本立てで投稿する予定です。多分。


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