2期製作&来年放送おめ
5/15 追記:今後の展開を考慮し、ストーリーを一部変更しました。
2018年_8月8日_日本橋
「本当はもう少し違う形で会いたかったが、アイツのシナリオで映像を撮れることは俺としても光栄な話だ。お前の推薦している“主演女優”も申し分ない」
「そうですか。“型にはまった”役者が大嫌いなあなたのことですから、この私としても門前払いすら覚悟しましたが、安心しました」
「馬鹿か、あれはまだ俺が青かった頃の話だ。それどころか近頃は寧ろ、そういう“型にはまった奴”を“ぐちゃぐちゃ”にしてやりたいっていう衝動の方が強くなっているくらいだしな」
「あんまり変わっていないような気がするのは私だけでしょうか?」
憬の小説が発売された日の夜、天知は出版社から特別に貰い受けた初版の『hole』を片手に、日本橋にある海鮮料理店の個室で1人の映画監督と『hole』の映画化に向けた話し合いをしていた。
「とはいえ、俺のところに“ソイツ”を託すということは・・・どういう事を意味するのかは分かっているよな、天知?」
「もちろんですよ。私は最初からそのつもりで“彼女”をあなたに紹介しているのですから」
半ば脅しをかけるように凄みを効かせる監督の男に一切怯むことなく、天知はいつもの“笑み”を浮かべたまま言葉を返す。
「ただそれも、“お宅の事務所”が許してくれるかどうかの話だけどな」
「心配は要りませんよ。あなたの言っていた通りにこの映画の公開時期は2年後となると、その頃には“天使”としての需要は廃れ始め、路線変更を余儀なくされる。当然、星アリサはその部分も含めて彼女の将来を徹底的に考えておられる」
そう言いながら天知は1つのA4サイズの資料を監督の男に手渡す。
「・・・何だこれは?」
「その“お宅の事務所”から特別に許可を得て調達してきたものです。もちろん門外不出ですが・・・恐らくこれを見れば彼女に対する見方も変わると思います」
天知の言葉を合図に、監督の男はその資料に目を通す。
「・・・人殺しの女子高生か・・・よくこんなオファーを引き受けたものだな・・・」
資料の内容は、来年の
無論、主人公となる女子高生の役を演じるのは百城千世子である。
「彼女は今まさに、“スターズの天使”としての偶像からの脱却を模索し始め、星アリサも影ながらそのことに理解を示している。さすがにスターズが水面下で企んでいる計画の全容は教えてもらえませんでしたが、この資料だけでもスターズが“天使”としての需要が終わった後のことを考えているという証明にはなります」
真剣な表情で資料を読み漁り続けている監督に、天知は笑みを浮かべ核心的な一言を語りかける。
「・・・國近さん。あなたは選ばれたんですよ・・・“百城千世子改造計画”の最終段階に・・・」
「改造計画・・・ってオイ、それじゃあただのSFじゃねぇか」
「あくまで例えの表現ですよ」
「俺に言わせりゃその例えはセンスがねぇよ」
天知からの言葉に、映画監督の國近は怪訝な表情を浮かべ静かに言い返す。
「人殺しの女子高生。今の彼女にとっては想像すらつかない挑戦的な役柄であることは間違いないでしょうが、これだけではまだ足りません・・・“スターズの天使”を “女優”として完全に羽化させるには、國近さん・・・あなたの映画が必要なのです」
そして國近からの疑心交じりの返しに、天知は再び不敵な笑みを浮かべた。
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早乙女雅臣が記者会見でスターズ退所と渡米を発表してからちょうど一週間後の金曜日、憬は新宿西口の繁華街の外れにあるレンタルスタジオへと向かっていた。
“『2F 映画「ロストチャイルド」オーディション会場』”
「・・・ここか」
オーディション会場となるレンタルスタジオの入る雑居ビルの正面玄関の前に置かれた看板を見て、憬はその場で深く深呼吸をする。
「本当に“こんなところ”でやるのか・・・」
菅生から渡された地図を頼りに西口のロータリーから一直線に大通りを北の方角に歩いて10分。比較的新しめなこの雑居ビルの2階に今回のオーディション会場はあると言うが、前回とは会場のキャパシティが見るからに違い過ぎて俺は戸惑いを隠せない。
“『2F 映画「ロストチャイルド」オーディション会場』”
俺は念のためにもう一度正面玄関に置かれた看板に目をやるが、やはりこの場所で間違いないようだ。
「まぁ、当たり前か」
そんなオーディションのオファーが届いたのは、俺が直樹として出演した第10話がオンエアされた翌日、すなわち俺が校内で“有名人”になったあの日のことだった。
『菅生です。おはようございます。オーディションに関するお知らせがございますので明日、本社まで来てください』
「オーディション?」
星間戦争エピソード5のビデオを受け取った有島が俺の住む部屋から出て行った直後にかかって来た、菅生からの電話。それは“次の仕事”に繋がるオーディションの話だった。
『では明日の朝14時に渋谷駅の東横線改札にてお待ちしています。詳細については明日本社にて改めてお話致します』
そのまた翌日、俺は給食を食べ終えると同時に学校を早退して最寄り駅の東横線へと直行し、渋谷駅の東急東横線の改札で菅生と合流。ロータリーで待機していた事務所の車に乗り込みそのままカイプロへと向かった。
そして事務所に着くなり事務所内の小会議室のような部屋に通された後に海堂と合流し、俺は菅生と共に社長室へと向かった。
「単刀直入に言うと、お前の素質をどうしても見てみたいという男が1人現れた」
「それってつまり、“オファー”ってやつですか?」
「そういうことだ。ただし菅生からの連絡があった通り、オーディション込みのオファーになるがな」
応接間のテーブル越しに目の前で海堂はシリアスそうな口調でオーディションの話を始める。
「菅生、説明を頼む」
「はい」
海堂からの指示で、菅生は憬にオーディションのオファーを持ち込んだ1人の監督の概要を説明する。
國近の手掛ける作品はドキュメンタリーディレクター出身ならではのリアリティーが全面に押し出された斬新かつ革新的な演出が特徴で、特に演技面に関しては“型にはまらない”自然体の芝居をモットーとしておりその場に応じて脚本や演出を変える、演者が台詞を噛んでしまった場面をそのままシーンとして使うなど作品における“リアル”さの部分に対して非常に強い拘りを持っているという。
彼の名前はどちらかというと批評面で取り上げられることが多く、監督としては俗に言う“鬼才”の部類であり一般的な知名度という点ではみんなが知っていると言えるほどではないが、映画通の中では知らない人はいないほど名前は知られており、今や彼は34歳の若さにして業界内では日本映画界の未来を担うホープの1人として期待されている。
そんな監督が手掛ける3作目の長編映画のオーディションのオファーを、俺は直々に貰った。しかも、書類審査と一次審査をパスしていきなり最終審査からという“オマケ”付きだ。
「よく知らねぇって顔してるな、夕野」
「えっ?」
菅生の説明に相槌を打つ俺に向けて、海堂が突然ピシャリとした口調で言い放つ。
「本当のことを言ってみろ。怒らねぇから」
怒らねぇと言われても、オールバックのグラサンに貫録ありまくりのバリトンボイスでは説得力などは皆無だ。
「本当に怒らないですか?」
「当たり前だろ。俺は嘘を吐くような奴が反吐が出るほど嫌いだからな」
嘘吐きが嫌いなのはともかく白状しないとマジで怒られる気がした俺は、素直に白状した。
「・・・これまで俺は映画の内容と演者にばかり注目していて、カメラがどうだとか演出には全く見向きもしてませんでした」
確かに俺はこれまでに母親と共に何度か映画を観に行ったことがあるが、それはあくまで星アリサを観たいが為だった。事実、星アリサが引退してから映画館に足を運んだのは、『1999』の時だけだ。
「だから、それぞれの監督の違いというのが、俺にはまだよくわからないです」
もちろん母親がコレクションとして置いている映画のビデオやドラマを普段から見ていたおかげで、知識自体はそこら辺の連中よりは幾分か持ち合わせているつもりだ。だが俺はその映画の監督が一体誰なのか、撮影や演出をする上でどこに拘りを持っているのかといったところには、全く持って関心がなかった。
「・・・そうか」
海堂は俺に視線を向けたままそう言うと、サングラス越しに物思いに沈み始める。
“・・・ヤバいな・・・完全に怒らせたか?”
隣に座る菅生に聞こうにも、海堂から滲み出る重苦しい空気のせいで言葉が出ない。よくよく考えてみれば、オーディションをしてくれる監督に向けて“「あなたの作品はよく分かりません」”なんて言おうものなら、
“あぁ・・・これは今度こそ蹴り飛ばされる・・・”
脳内で蘇る、上地へ放った渾身の一撃。
「ちょっと待ってろ」
沈黙を始めてから約10秒、海堂が重い口を開くと突如更に奥の方にある部屋へと入って行き、30秒ほどすると片手に無地の白い手持ち袋を持って部屋から戻って来た。
「お前への“プレゼント”だ。この前のドラマの件で少なからず迷惑をかけただろうからな」
そう言うと海堂は俺に“プレゼント”の入っている手持ち袋を渡す。
サングラスをかけているため海堂の目はよく見えないが、どうやら最悪の事態は回避できたらしい。
「中を見てもいいですか?」
そして俺は海堂に許可を得て袋の中身を確認する。
「・・・これは?」
「
袋の中に入っていたのは、一本のある映画のビデオだった。
「夕野。最終審査は来週の金曜に行われる。お前に課されたタイムリミットは10日だ。それまでにお前なりに出来得る限り“映画”というものに触れ、“映画監督”とはどういうものであるのかを自分の中に叩き込んでおけ・・・」
「・・・行くか」
オーディションの看板に目をやり呼吸を整え、憬は2階にあるスタジオへと歩みを進めていった。
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「こういう場に足を踏み入れるのは何年ぶりかい?」
「何年も何も、役者だった頃も含めて一度もないわ」
「あはは、言われてみればそうでしたね」
「全部知ってる癖にぬかしやがって」
虎ノ門の一角にそびえ立つ地上10階地下1階建てのオフィスビル。このビルの9階と10階に、天知がプロデュース業の一環として経営している広告代理店『天空』はオフィスを構えている。
「まさか天知さんがプロデュース業の傍らでこんな会社を立ち上げていたとは」
「どんな芸術作品も“スポンサー”がいなければ“金”にはならないからね」
「言われてみれば、ある意味あんた自体が“歩く広告”みたいなものだからな」
「それはどうも」
「褒めてはいないけどな」
その10階にある程よく冷房の効いた会議室で憬と天知は間に1つ席を空けた隣同士で座り、企画書を長机に置いてある男を含む複数人の面々が扉を開けに来るのを待っていた。
「・・・しかし今回のキャスティング、よくあの“ドクさん”が飲んでくれたな・・・」
「監督がOKを出しただけでまだ確定ではないけどね」
「あぁ、分かってる」
この後に行われる製作委員会を交えた会議を前に現時点で決定していることは、映画『hole』の脚本は原作者でもある憬が自ら担当することになり、憬は監督と共に映画のシナリオに関して絶対的な権限を持っているということと、キャスティングの権限は監督と天知が握っているという2点だ。
もちろんこれらは全て、例の大作映画に向けて憬と天知で考え抜いた物事が有利に進むための配置である。
「一昔前だったらまずあり得なかっただろう」
そして今回の映画で天知が
「あり得ないどころか、『“型にはまった”奴を“ぐちゃぐちゃ”にしてやりたい』と言って快く承諾してくれましたよ」
「フッ、相変わらず言ってることがえげつないな」
“スターズの天使”と称され、もはや“百城千世子”という存在そのものが1つのブランドと化している彼女の芝居は、良い意味ではその場の観客を虜にし、悪い意味ではあまりに綺麗すぎて感情移入が出来ず、余韻が残らない。当然それらを全てひっくるめて“百城千世子”という唯一無二の存在は成立しているのだが。
そんな偶像という名の“虚像”によって塗り固められた“型にはまった”芝居を何よりも嫌うのが、國近独という映画監督である。
「でも本当に承諾したのかドクさんは?まさかここまで来てドタキャンはないだろうな?」
「大丈夫だ問題はない」
「ほんとかよ」
はっきり言って、そんな2人の“相性”は最悪の部類と言っていいだろう。だから俺は天知の言う快く承諾したという言葉が妙に引っかかった。
「ただ当然あの人に“百城千世子をあなたの映画で是非とも使ってみるのはいかがでしょうか”と普通に言ったところで意見が通らないのはとっくに分かり切っていましたから、私なりに“お膳立て”の限りを尽くしました」
そう言うと天知は気疲れしたことをアピールするかのようにわざとらしい溜息を吐くと、ある資料を俺に見せつける。
「これは?」
「この日の為に私がアリサさんの元から調達したサプライズです。ただしこれのせいで1ヶ月分の移動費が一瞬にして塵になりましたけどね」
しかもその資料は1冊だけでなく、この後の会議に参加する面々と同程度の量があるということはケースの中に身を隠すように置かれた段を見ると明らかだった。
「あの“スターズ”からこんだけ調達すれば金は取られるか」
「どっかの
「取りあえずあんたがそれを言う資格はないと思うぞ」
馬鹿みたいなやり取りをしつつ、恐らく本当に結構な額を支払った末に入手したであろう天知の用意した“極秘資料”に俺は目を通す。
「『造花は笑う』・・・宮武先生の小説の実写化か。これがどうかしたのか?」
「キャスティングを見てみろ」
天知の言うがままに、俺は資料に書かれたキャスティングに目をやる。
「・・・まさか百城千世子がこんな役を演じるとは・・・」
原作小説の内容を既に知っている俺にとって、この配役は中々に衝撃的なものだった。人を殺したことを隠して友人と変わらぬ日常を送る女子高生。こんな複雑かつ生々しい心情を抱え込んだ
“アイツがあのまま“ただの天使”として消費されることは間違ってんだよ“
資料を読んで俺が感じたことは、彼女が“スターズの天使”としての“消費期限”を迎えた後の道を模索しているということだ。
「・・・俺たちはまだ、綺麗に彩られた “天使”の表面しか知らないのだろうな」
資料に目を向けたまま思い耽るように呟く憬を横目に、天知は笑う。
「天使と悪魔は呼び名が違うだけという話があるくらいだからね・・・そして稀に、その領域すら軽々しく超えていくような“
「・・・あぁ。確かにいるさ・・・今も昔も変わらず・・・」
1つだけ席を間に挟んで隣同士で目を合わせることなく言葉を交わす2人の元に、複数人の群れの足音が微かに聞こえ始めた。
「すいません。お待たせしまして」
「いえ、お時間を頂きありがとうございます」
「お会いできて光栄です。夕野先生」
「どうも」
開始時刻の約10分前、出版社や商社、映画会社の面々で構成されたスポンサーとなる製作委員会の面々が到着し、各々の席に座る。
「そう言えば國近監督の姿がまだありませんね」
しかしこの映画を撮る張本人の姿はまだ一向に現れない。そんな状況に会議室は少しずつざわめきに包まれ始めていく。
それは打ち合わせの始まる1分前になっても、この状況は全く変わることはない。
「あの?國近監督はまだいらっしゃらないんですか?」
やがて國近のことをよく知らない商社の男がこの状況にしびれを切らして、天知に問いかける。
「ご安心下さい。監督は必ず、“定時”でここへやってきます」
そう言って天知はいつもの不敵な笑みで商社の代表に“真相”を教えるが、当然それは國近のことをよく知っている人間にしか伝わらない内輪話のようなもので、会議室は相変わらずざわめきだしている。
だが彼のことをよく知っている人間からしてみれば、少なくともこれは挨拶と同程度の常識と化している“拘り”だ。
ちなみに國近と天知が共に同じ現場で仕事をするのはこれが初めてあるが、そのことに関しては既に予習済みである。
「本当に変わらないな、今も昔もドクさんは・・・」
そんな男の独特な人間性を懐かしむかのように憬が小さく呟くと、その言葉を合図にするかのように再び閉ざされていた会議室の扉から“最後の1人”が姿を見せる。
「お久しぶりですね。ドクさん」
会議室の扉を開けた少し小柄な男に憬は軽く笑みを浮かべて近づくと、2人はその場で握手をする。
「まさかこんな形で夕野と再会することになるとはなぁ、驚いたぜ」
「俺の方こそ驚きましたよ。まさか『hole』のオファーを引き受けて頂けるとは思わなかったので」
「恩を引き受けるのは俺の性に合わねぇが、お前には世話になったこともあるしな」
そして男は全く悪びれる素振りすら見せず、会議室に入りざまに憬と握手がてら挨拶を交わし天知に無言で軽く会釈をすると、その男は憬と天知が空けていた間の椅子に何食わぬ顔で座る。
國近独。彼は現場に必ず“定時”ぴったりに姿を現す。例えどんなに撮影や映画製作が難航していたとしても、その“拘り”を崩すことはない。そんな私生活のほんの些細な1ページすら“
そんなドキュメンタリー出身の“鬼才映画監督”と初めて会ったのは、19年前のオーディションのことだ。
「さて、これは良い話です」
オフィスビル10階の会議室に “役者”が一堂に揃うと、天知の常套句を合図に製作委員会を交えた会議は始まった。
夜&百「大好きな人へ」
夜&百「ちょっと不器用な私だけど」
夜「いっぱいいっぱいあなたを想って」
百「いっぱいいっぱい心を込めて」
夜&百「バレンタインチョコ、作りました」
さあ、あなたはどっちを受け取る?